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労働基準法施行規則第35条専門検討会
報告書


目次

 検討会設置の趣旨

 検討事項

 検討に当たっての基本的考え方
(1) ILO勧告と現行労基則第35条の規定との関連について
(2) 例示列挙に係る考え方

 検討事項1に係る検討の考え方及び検討結果
(1) 検討の考え方
(2) 検討結果

 検討事項2の検討結果

 まとめ

労働基準法施行規則第35条専門検討会資料


 検討会設置の趣旨

 業務上疾病の範囲を定めている労働基準法施行規則(以下「労基則」という。)第35条の規定は、保険給付の請求の容易化及び業務上疾病に対する迅速かつ公正な補償を図る目的で、昭和53年に抜本的な改正がなされた。
 昭和53年の改正に当たり、中央労働基準審議会及び労働者災害補償保険審議会に対し諮問したところ、両審議会から改正規則の運用について配慮すべき事項の一つとして、新しい疾病の発生等に対処し得るような医学専門家による定期的な検討を行うべきである旨が答申に付記された。
 厚生労働省は、この答申を踏まえ、医学専門家により構成される検討会を定期的に開催するとともに、その検討結果に基づき、労基則第35条の規定について所要の整備を行ってきている。
 その結果、現在の労働基準法に基づく業務上疾病の範囲は、労基則別表第1の2及び同表に基づく告示(以下「労基則別表第1の2等」という。)により示されているところである。

2 検討事項

(1) 平成14年6月に開催された国際労働機関(International Labour Organization。以下「ILO」という。)第90回総会において採択された「職業病一覧表並びに業務災害及び職業病の記録及び報告に関する勧告」(Recommendation Concerning the List of Occupational Diseases and the Recording and Notification of Occupational Accidents and Diseases。以下「第194号勧告」という。)の職業病一覧表に示されている疾病を踏まえて、労基則別表第1の2等に追加すべきものの有無の検討(以下「検討事項1」という。)
(2) 平成12年度及び平成13年度に労災認定された事案のうち、労基則別表第1の2等に具体的に示されていない疾病を踏まえて、労基則別表第1の2等に追加すべきものの有無の検討(以下「検討事項2」という。)

3 検討に当たっての基本的考え方

(1) ILO勧告と現行労基則第35条の規定との関連について
 我が国は、1964年にILOにおいて採択された「労働災害の場合における給付に関する条約」(以下「第121号条約」という。)を昭和49年に批准している。
 第121号条約の第8条においては、付表Iに掲げる疾病を含み得る程度に十分に包括的な職業病の一般的定義を法令に含めること等を要請しており、付表Iには29種類の疾病について具体的に示されている。
 この条約に対し、労働基準法に基づく業務上疾病の範囲については、同法第75条第2項の規定を根拠として、労基則別表第1の2等(これらは、疾病の具体的列挙規定、将来列挙疾病として追加することを想定した追加規定及び包括規定により構成されている。)をもって定められているものであり、これらの規定は第121号条約の要請を満たしているところである。
 さらに、ILOは、2002年6月の第90回総会において、第194号勧告を採択している。この勧告では、第121号条約の付表Iに具体的に示されている29種類の疾病よりも多く、66種類の疾病が示されている。今般、第194号勧告は、業務上災害及び業務上疾病の原因を特定し、予防策を講じ、記録及び報告制度の調和を促進し、業務上災害及び業務上疾病であった場合の補償手続きを向上させるために、その記録及び報告制度を強化する必要性を考慮し、職業病一覧表を改訂するための簡素な仕組みの必要性に鑑み、採択されたものであり、予防の観点を含めた勧告となっている。また、第121号条約の付表Iにおいては、業務災害を補償することを念頭においているため、業務及び疾病の対となって示されているが、本勧告においては、疾病が発生した際の報告を念頭においていると考えられることから、第121号条約の付表Iに示されるそれとは構成が異なっていると考えられる。
 また、第194号勧告において、権限ある機関は、予防・記録・届出そして適切な場合には補償を目的として、当該国における職業病一覧表を作成することを要請している。このことから、労基則別表第1の2等は第194号勧告に示された疾病全てを含む必要はない。

 しかしながら、第194号勧告に示されている疾病でありながら、労基則別表第1の2等に示されていない疾病について、新たに労基則別表第1の2等に追加すべきか否かを検討する必要がある。

(2) 例示列挙に係る考え方
 症例報告、専門機関による化学物質等に関する評価(発がん分類、許容濃度等)等を踏まえて、業務と疾病との間に因果関係が確立していると認められる場合には、例示列挙することが適当であると判断する。
 ただし、労基則別表第1の2には、包括規定が設けられていることから症例報告等があるものでも、「職業病として発生することが極めて少ないもの」等以下に示す要件に該当するものは除くこととする。
(1) 過去において相当数の発症例がみられたが、労働衛生管理の充実等により今日、発症例が極めて少ないもの
(2) 諸外国において症例報告があるが、国内においては、当該疾病の発生に係る化学物質等が製造及び輸入の禁止等により、使用される見込みがない又は研究機関等特定の機関においてのみ使用される等のため、当該疾病の発症例が極めて少ないと認められるもの
(3) ばく露から発症までの期間が短いもの以外で因果関係が明らかになっていないもの(ばく露から発症までの期間が短いものについては、業務との因果関係を立証することが容易であることから当該影響のみ明らかになっているものは、必ずしも例示列挙する必要はないと考えられる。)

4 検討事項1に係る検討の考え方及び検討結果

(1) 検討の考え方
 資料3は、第194号勧告に示されている疾病について、第121号条約及び労基則別表第1の2等に示されているか否かについて表している。「労基則別表第1の2等の規定状況」欄において、○印を付している疾病に関しては、既に労基則別表第1の2等に示されており、今般検討する必要がない疾病であることを、また、×印を付している疾病に関しては、示されていない疾病であることをそれぞれ表している。さらに、△印を付している疾病に関しては、第194号勧告に示されている疾病の全てを労基則別表第1の2等に示されていない可能性があることを表している。
 この表のうち、×印及び△印を付している疾病について、検討対象とすることが適当であるが、このうち、職業性白斑については、既に因果関係が明らかなものは「皮膚障害」として労基則別表別表第1の2等に示されていること及びその他労基則別表第1の2等に示されていない全ての作業、有害因子はその範囲が広く、これらを絞り込むことが困難であることから、また、坑夫眼振については、昭和53年の改正以前の労基則第35条に「地下作業に因る眼球振盪症」として掲げられていたが、発生例が減少し、将来的に発生することが想定されなかったこと等の理由から昭和53年に具体的列挙規定から削除されたものであると考えられること及び、その後、当該疾病が発生していないため、現時点において再度追加する必要はないと考えられることからそれぞれ検討対象から除外した。
 従って、検討事項1では、以下に示す11の疾病について、医学専門家による文献レビュー(資料4)をもとに検討することとした。
(1) 薬剤による疾病
(2) タリウム又はその化合物による疾病
(3) オスミウム又はその化合物による疾病
(4) 銅又はその化合物による疾病
(5) スズ又はその化合物による疾病
(6) 亜鉛又はその化合物による疾病
(7) オゾン、ホスゲンによる疾病
(8) 刺激性物質(ベンゾキノン及びその他の角膜刺激物)による疾病
(9) シデローシス(鉄沈着症)
(10) 慢性閉塞性肺疾患(COPD)
(11) 木材の塵埃によるがん

(2) 検討結果
(1) 薬剤による疾病
 薬剤として使用される対象化学物質の種類は極めて多く、国内において、同一の医薬品で多数の職業性の健康影響が報告されたものはなかった。
 また、抗生物質にさらされる業務による呼吸器疾患に関しては、既に労基則別表第1の2等に示されており、これ以外の薬剤による疾病に関しては、新たに追加する必要はないと考えられる。

(2) タリウム又はその化合物による疾病
 脱毛はタリウム中毒に係るものであれば従来から因果関係は明確になっている。慢性の神経系障害が生じるようだが、その因果関係は明確になっていない。従って、慢性の障害に係る因果関係は明らかになっていないことから、現時点において、新たに追加する必要はないと考えられる。

(3) オスミウム又はその化合物による疾病
 オスミウムに関して、刺激性が強く、事故等による短期高濃度ばく露による影響は明らかである。しかしながら、長期ばく露による慢性影響については明確になっていないため、現時点において、新たに追加する必要はないと考えられる。

(4) 銅又はその化合物による疾病
 第194号勧告において「銅又はその化合物による疾病」が入っているのは、予防のための統計を取るためと考えられる。ILOにおいて第194号勧告が最新の補償のための職業病一覧表として採択されたのであれば、当該物質による疾病を取り入れなければならないが、近年の医学文献を精査した限りにおいて注目に値するものはなかった。また、過去10年間の医学文献等のうち、症例対象研究においてパーキンソン病と慢性腎不全で銅ばく露のオッズ比が高いとの報告があったが、各々1編にすぎないこと、さらに、症例対象研究においては、因果関係についての情報に限界があることから、新たな健康影響の知見とは言えないため、現時点において、新たに追加する必要はないと考えられる。

(5) スズ又はその化合物による疾病
 無機スズのうち、金属ヒュームに係るものについては、既に「金属熱」を発症することがあるとして労基則別表第1の2等に示されている。
 有機スズ化合物(トリメチルスズ、トリフェニルスズ及びトリブチルスズ)に関しては、ばく露により精神・神経障害等が認められるが、そのうち、トリメチルスズに関しては、近年、職業ばく露による症例報告がないこと、また、トリフェニルスズ及びトリブチルスズに関しては、平成9年に日本塗料工業会が自主的に製造を中止し、現在はほぼ使用されていないと考えられることから、現時点において、新たに追加する必要はないと考えられる。

(6) 亜鉛又はその化合物による疾病
 亜鉛又はその化合物のうち、金属ヒュームに係るものについては、既に「金属熱」を発症することがあるとして労基則別表第1の2等において示されている。
 なお、金属熱以外の着目すべき職業性疾病として、金属熱に続発する職業性喘息が挙げられるが、一般に業務上疾病に付随して発症する疾病のうち、その原因が当初の業務上疾病であると認められる疾病については業務上疾病として取り扱われるため、金属熱に続発する職業性喘息に関しては、新たに追加する必要はないと考えられる。

(7) オゾン、ホスゲンによる疾病
 ホスゲンに関しては、既に「頭痛、めまい、嘔吐等の自覚症状、皮膚障害、前眼部障害又は気道障害」を発症することがあるとして労基則別表第1の2等に示されている。
 オゾンに関しては、当該物質に対して、感受性の高い人がいるが、これにより呈する症状は、一過性の機能低下である。現時点において、新たに追加する必要はないと考えられる。

(8) 刺激性物質(ベンゾキノン及びその他の角膜刺激物)による疾病
 眼障害に関しては、オスミウムと同様に、事故等により発生した急性影響は明らかであるが、長期ばく露との因果関係は明確ではないことから、現時点において、新たに追加する必要はないと考えられる。

(9) シデローシス(鉄沈着症)
 シデローシスに関するこれまでの報告は、鉱山労働者や粉じんばく露労働者に関するものであり、対象者の大部分は既にじん肺その他既知の有害物質ばく露により発症した疾病として労災補償の対象となっていると考えられ、これら以外の疾病はほとんどないと推定されることから、新たに追加する必要はないと考えられる。

(10) 慢性閉塞性肺疾患(COPD)
 今回の文献レビューで注目された、慢性閉塞性肺疾患(COPD)の原因となりうる職業やばく露物質は、古典的に知られているカドミウム、塩化ビニルや穀物粉じん以外では、ポップコーン袋詰め作業、ファーストフード店のコック、ドライクリーニング、教師のチョーク粉、受動喫煙によるたばこの煙、シリコンカーバイド等であった。しかしながら、いずれも未だ因果関係について確立されたものとはいえない。特に、ポップコーン、コック、チョークについては、該当作業者の数に比して報告例が少なく、因果関係については疑問が残る。
 従って、特定の業務と慢性閉塞性肺疾患(COPD)との因果関係は明確になっていないため、現時点において、新たに追加する必要はないと考えられる。

(11) 木材の塵埃によるがん
 諸外国における調査等では有意なリスク上昇等が見られるが、日本における木材の塵埃によるがん発生リスクが上昇したとの疫学報告は見当たらない。従って、因果関係が明確になっていないことから、現時点において、新たに追加する必要はないと考えられる。
 しかしながら、今後、国内における木材の種類別にみたばく露の程度、人数等の調査、より詳細な疫学調査等の実施が望まれる。

 検討事項2の検討結果

 昭和53年以降、包括規定により業務上疾病として認定された事案について、定期的に労基則別表第1の2等に追加すべきか否か医学専門家による検討が行われ、その結論を踏まえて所要の措置が講じられてきたところである。これまで、包括規定により業務上疾病として認定された事案の中では「亜鉛黄又は黄鉛を製造する工程における業務による肺がん」及び「ジアニシジンにさらされる業務による尿路系腫瘍」について、追加すべきとの結論に至り、所要の措置が講じられてきた。
 今般、包括規定により業務上疾病として認定されたもののうち、新たに追加すべきものがあるか否か検討するに当たって、理美容の業務におけるシャンプー液の使用等による接触性皮膚炎、次亜塩素酸ナトリウムによる障害及びフロンガスによる肝障害について、近年、継続的に認定事例があったため、着目していたところである。しかしながら、理美容の業務におけるシャンプー液の使用等による接触性皮膚炎については、当該物質が混合物であり製品により有害性が異なること並びに次亜塩素酸ナトリウムによる障害及びフロンガスによる肝障害については、平成12年度及び平成13年度における認定件数がこれまでの件数に比して減少しており新たに取り上げる必要がないこと等により、現時点において、新たに追加する必要はないと考えられる。

 まとめ

 本検討会では、第194号勧告に示されている疾病並びに平成12年度及び平成13年度に包括規定により業務上疾病として認定された疾病を踏まえて、新たに追加すべき疾病の有無について検討を行った。今回の検討では、現時点において新たに追加する必要はないとの結論に達した。
 なお、木材粉じんによるがん(副鼻腔癌)については、国内における木材粉じんの種類別に見たばく露の程度、人数等の実態調査、疫学調査等の実施が望まれる。


照会先
厚生労働省労働基準局労災補償部補償課
職業病認定対策室職業病認定業務第二係
(宇野・井野場)
〒100-8916東京都千代田区霞ヶ関1-2-2
 電話  03-5253-1111(内線5571)
 FAX 03-3502-6488


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