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別紙4

報告書


添加物名リパーゼ(NOVOZYM677)
性質生産性向上
申請者ノボザイムズ ジャパン株式会社
開発者ノボザイムズA/S

 ノボザイムズ ジャパン株式会社から申請されたリパーゼ(商品名「NOVOZYM677」、以下「NOVOZYM677」という。)について、「組換えDNA技術応用食品及び添加物の安全性審査基準」(以下、「審査基準」という。)に適合した安全性評価がなされているか否かについて検討し、以下のような結果を得た。

申請された食品添加物の概要

 NOVOZYM677は食品添加物の酵素の一つとして、脂質のエステル結合の加水分解を触媒し、その物性を変えるため、食用油脂加工分野などで加工助剤として使用される。
 Aspergillus oryzae A1560を宿主とし、一般的なベクターであるpUC19をもとに作成されたプラスミドpBoel960を発現ベクターとして、Thermomyces lanuginosus(旧Humicola lanuginosus)のリパーゼ遺伝子を染色体上に導入した組換え体を培養し、効率的にリパーゼを生産するものである。

 生産物の既存のものとの同等性に関する事項
 NOVOZYM677については、リパーゼとしての特性(分子量、酵素活性、アミノ酸配列)に関する資料の検討を行い、既存の食品添加物であるリパーゼと同等であると考えられた。また、NOVOZYM677については、製造方法、製品の規格及び使用方法についても既存のリパーゼと同一である。さらに、NOVOZYM677については、食品中に含有されない使用方法が想定されている。以上の点から、NOVOZYM677については、既存のリパーゼと同等とみなし得ると考えられ、したがって審査基準に沿って以下の審査が可能であると判断できる。

2 組換え体等に関する事項

(1)GILSP(Good Industrial Large-Scale Practice)又はカテゴリー1による製造に用い得る非病原性の組換え体であることに関する事項
 宿主(Aspergillus oryzae)は非病原性の微生物であり、挿入遺伝子及びベクターについても機能や構造が明らかにされており、既知の有害物質を発現することはなく、生産菌はGILSP基準をみたすと考えられる。

(2)組換え体の利用目的及び利用方法に関する事項
 Thermomyces lanuginosus由来のリパーゼ遺伝子をAspergillus oryzaeに導入することにより、リパーゼの生産性が高い組換え体を得た。本組換え体はNOVOZYM677の生産菌として閉鎖系で使用される。得られたリパーゼは、油脂のエステル合成やエステル交換の過程で使用される。

(3)宿主
 宿主は分類学上、Blastodeteromycetes Phialidales Aspergillus oryzaeに属し、自然界に広く分布し、食品中にも通常的に存在する微生物であり、古くから発酵食品の製造に使用されてきたものである。また、宿主は、国立感染症研究所の「病原体等安全管理規程」(平成11年)のバイオセーフティレベル1(ヒトに疾病を起こし、あるいは動物に獣医学的に重要な疾患を起こす可能性のないもの。)に該当する微生物である。さらに、米国国立衛生研究所の「Guidelines for Research Involving Recombinant DNA Molecules」(以下、「米国NIHガイドライン」という。)においてもリスクグループ1に該当する微生物とされている。また、米国環境庁において、Aspergillus oryzaeは、安全な微生物であると評価されている。申請資料からも寄生性、定着性等において問題は認められていない。我が国においてもAspergillus oryzaeは酒や味噌の製造において数百年以上にわたり用いられており、安全性上問題はないものと考えられる。

(4)ベクターに関する事項
 リパーゼ合成遺伝子は、pBoel960を発現ベクターとして宿主に導入されている。pBoel960は、Escherichia coli K-12株に由来するpUC19にAspergillus oryzaeに由来するTAKAアミラーゼのプロモーター配列、Thermomyces lanuginosusに由来するリパーゼ遺伝子(876bp)、Aspergillus niger由来のグルコアミラーゼ遺伝子のターミネーター配列を組込んで構築されたものであり、制限酵素による切断地図は明らかにされている。また、pBoel960の構築過程は明らかにされており安全性上問題はないものと考えられる。
 アセトアミダーゼ遺伝子(amdS)は選択プラスミドp3SR2をベクターとして組換え体の選択のために宿主へ導入されている。p3SR2は、Escherichia coli K-12株に由来する選択プラスミドpBR322にAspergillus nidulans由来のアセトアミダーゼ遺伝子を組込んで構築されたものであり、制限酵素による切断地図は明らかにされている。
 pUC19及びpBR322の由来であるEscherichia coli K-12株は、国立感染症研究所の「病原体等安全管理規程」(平成11年)におけるバイオセーフティレベル1に該当する微生物である。また、米国NIHガイドラインにおいてもリスクグループ1に該当する微生物とされている。
 なお、発現ベクターpBoel960及び選択プラスミドp3SR2は、ともにアンピシリン耐性マーカー遺伝子を含んでいる。

(5)挿入遺伝子に関する事項
 リパーゼ合成遺伝子を発現するために挿入される遺伝子は、Aspergillus oryzaeに由来するTAKAアミラーゼのプロモーター配列、Thermomyces lanuginosusに由来するリパーゼ遺伝子(876bp)、Aspergillus niger由来のグルコアミラーゼ遺伝子のターミネーター配列であり、これらを含むpBoel960として宿主の染色体上に導入されている。選択マーカーとして挿入される遺伝子は、Aspergillus nidulansに由来するアセトアミダーゼ遺伝子(amdS)であり、これを含むp3SR2として宿主の染色体上に導入されている。
 挿入される遺伝子の構造、塩基配列、性質は明らかにされており、有害塩基配列は含まれておらず、安全性上問題はないものと考えられる。
 また、選択マーカーとして用いられているアセトアミダーゼは、食経験のあるAspergillus oryzaeのアセトアミダーゼと相同性が高く、データベース検索を行ったところ、既知の有害物質または既知のアレルゲン物質の配列との相同性は認められない。
 さらに、生産菌の染色体上には、Escherichia coliに由来するアンピシリン耐性マーカー遺伝子(bla遺伝子)が導入されているが、発現に必要な部位やシグナルを持たないことから生産菌においては発現しないと考えられる。なお、アンピシリン耐性マーカー遺伝子産物(β−ラクタマーゼ)についてデータベース検索を行ったところ、既知の毒性物質、既知のアレルゲン物質の配列との相同性は認められない。
 なお、p3SR2は、既に安全性審査の終了したリパーゼSP388においても用いられており、安全性は確認されている。

(6)組換え体に関する事項
 組換え体は、リパーゼ産生性以外にアセトアミダーゼ発現性を獲得している。これら挿入遺伝子の導入方法、性質、機能等は(5)で記載したように明らかであり、宿主が非病原性であることから、組換え体が病原性を獲得することはないものと考えられる。
 組換え体は、宿主や野生種に比較して、生存・増殖性等において問題は認められない。また、組換え体はpH11、温度90℃で1時間処理することにより滅菌されるほか、4%硝酸と4%水酸化ナトリウムで処理することにより死滅されることが示されている。

 組換え体以外の製造原料及び製造器材
 NOVOZYM677は、通常の非組換え微生物から酵素を製造する場合に用いられる製造原料及び製造器材と同様のものを使用しGMPに基づき製造される。発酵原料についても全て食品グレードのものが用いられていることが示されている。従ってNOVOZYM677の製造において安全性上問題はないものと考えられる。
 また、NOVOZYM677の製造に用いるマスターセルバンク及びワーキングセルバンクは、グリセロール培地にて−80℃に保存され、培養にあたり、微生物汚染の無いこと、生菌数が適切であること、酵素生産性が適切であることの確認を行っていることが示されている。

4 生産物に関する事項

(1)組換え体の混入を否定する事項
 製品の規格項目として「生産菌の混入のないこと」を定め、製品中に生産菌の混入がないことを確認している。また、このことはドットブロットハイブリダイゼーション法によっても確認されている。

(2)製造に由来する不純物の安全性に関する事項
 NOVOZYM677は、精製される酵素タンパク質であり、培養等に用いられるものも食品グレードであることから、生産物に有害物質が混入する可能性はないものと考えられる。

(3)生産物の精製方法及びその効果に関する事項
 NOVOZYM677は、適正な条件下で組換え体を培養後、限外濾過、除菌濾過等の精製・濃縮工程を経て製品化される。製造過程は明らかにされており、最終製品であるNOVOZYM677は、JECFAやFCC(米国食品添加物規格)の酵素規格に適合していることが示されている。

(4)含有量の変動により有害性が示唆される常成分の変動に関する事項
 生産物はJECFA及びFCCの食品用酵素剤の純度規格を満たしており、生産物の含有量は既存のものと同等であると判断できる。

(5)組換え体によって製造された生産物の諸外国における認可及び使用等の状況に関する事項
 生産物NOVOZYM677は、2001年にデンマークにおいて食品に使用することが許可されている。また、米国ではGRASの届出が2000年に受理されている。

 安全性試験に関する事項
 NOVOZYM677については、in vitroでの変異原性試験及びラットを用いた13週間の反復投与試験が行われている。ラットを用いた混餌投与試験(0〜5,000mg/kg体重)においては、5,000mg/kg体重の最大用量においても、毒性学的に意義のある所見は認められていない。また、復帰突然変異試験及びヒト培養リンパ球での染色体異常試験の結果は陰性であることが示されている。

 基準適合性に関する結論
 ノボザイムズ ジャパン株式会社から申請されたリパーゼ(NOVOZYM677)については、申請に際して提出された資料を審査基準に基づき審査した結果、人の健康を損なうおそれがあると認められないと判断される。


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