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資料2

過マンガン酸カリウム消費量と全有機炭素の関係について

平成14年度厚生科学研究・分担研究報告書「WHO飲料水水質ガイドライン改訂等に
対応する水道における化学物質等に関する研究」より抜粋


研究要旨
(略)
4.有機物指標
 過マンガン酸カリウム(KMnO4)消費量は、水中に存在する有機炭素化合物個々の化学的性質によって変動した。水中の有機物の指標には、全有機炭素(TOC)が精度・感度のいずれにおいても最も有効であった。KMnO4消費量とTOCとの相関性は、同一水源では良好な相関関係が認められた。
 限定した水域や水系におけるKMnO4消費量とTOCは相関性があるものの、それぞれの水域間における回帰直線は異なる値を示し、相関性も低かった。
 水道原水および浄水における2200検体に及ぶ全国調査からY=0.31X+0.57 (R2=0.735)、原水のみではY=0.3X+0.35 (R2=0.632)、浄水のみではY=0.47X+0.35 (R2=0.588)と極めて良好な回帰直線と相関関係が認められた。これらの回帰直線と相関関係から、KMnO消費量10mg/lに対してTOCを5mg/lとすることが妥当であると考えられた。
(略)

A.研究目的
 厚生労働省では新たな水道水質基準の設定に関わる行政的行動をほぼ終了させた。一般有機物分科会では、水質基準にかかわる直接的課題が多く、膨大なデータの蓄積を行ってきた。
 本分科会では、1.有機汚染物質、2.多環芳香族炭化水素(PAHs)、3.臭気の閾値、4.有機物指標、5.同化性有機炭素(AOC)の5項目について検討した。
(略)
 有機物指標の班では、全国における水道原水および浄水における過マンガン酸カリウム(KMnO4)消費量とその他の有機物指標について検討し、有機物の代替指標の可能性を研究した。


B.研究方法
 各研究項目は、それぞれ以下の方法によって各水道事業体の原水、浄水、処理過程水について実施した。
(略)
4.有機物指標
 水中有機物の指標化の検討としては、従来の指標であるKMnO4消費量に対する代替指標として、全有機炭素(TOC)、溶存有機炭素(DOC)、紫外線吸光度(E260)、トリハロメタン生成能(THMFP)、全有機ハロゲン化合物(TOX)、生物化学的的酸素要求量(BOD)、濁度、色度との比較を水道原水および浄水について、6ヶ月間にわたりできる限り多く測定した。測定の頻度、測定項目、測定対象の浄水場については、各事業体の業務にあわせて計画した。KMnO4消費量とTOCの関係を中心に検討を行うため、KMnO4消費量の測定日に他の有機物指標の測定日も出来るだけあわせた。
 モデル有機物の試験では、各水道事業体に対しモデル化合物12種(デンプン溶液・フミン酸ナトリウム・メチオニン・フェニルアラニン・トリプトファン・ペプトン・ラウリル 硫酸ナトリウム・ノニルフェノール・安息香酸ナトリウム・サリチル酸・ラクトース・フタル酸水素カリウム)および2種類の河川水を送付し、KMnO消費量とTOCを各試料1回測定した。
(略)


C.研究結果
(略)
4.有機物指標
 有機物指標として従来からKMnO4消費量が用いられてきたが、KMnO4消費量は水中有機物を正しく評価していないことが古くから指摘されてきた。そのため、KMnO4消費量に代わる有機物指標の検討を行った。

4.1.モデル有機物による種々の有機物指標による測定
 モデル化合物12種の有機物濃度試料について各水道事業体で種々の有機物指標を測定した(表3)。TOCの測定結果では、フェニルアラニンが2倍、ラウリル硫酸ナトリウムが約1/2倍であった以外は、ほぼ理論値と同様なTOC値を示した。また、これに対して、KMnO4消費量では理論値の100%を示したのはラクトースのみで、その他の有機化合物では全く理論値と異なる結果を示した。河川水2種は、KMnO4消費量が事業体平均7mg/lであるのに対してTOC値は事業体平均2〜3mg/lであった。

4.2.水道原水および水道水の全国調査結果
1)原水および浄水における有機物指標の全国調査結果
 各水道事業体の原水、浄水および処理過程水を夏、秋、冬の季節に分けて約2200検体を採取し、KMnO4消費量、TOC、DOC、E260、THMFP、TOX、BOD、濁度、色度等の有機物指標を同一検体について測定した(表4)。その結果、水道原水ではKMnO4消費量が最大27mg/lであったのに対して、TOCでは11.7mg/l、DOCでは4.4mg/lであった。また平均値では、KMnO4消費量6.8mg/lに対し、TOCでは2.4mg/l、DOCでは1.9mg/l、中央値ではKMnO4消費量5.2mg/lに対し、TOCおよびDOCでは1.9mg/lと同程度であった。
 一方、浄水では、KMnO4消費量が最大3.3mg/lであったのに対して、TOCでは2.3mg/l、DOCでは2.3mg/lと同程度であった。また平均値では、KMnO4消費量1.4mg/lに対して、TOC 1.0mg/l、DOC 1.1mg/l、中央値ではKMnO4消費量1.3mg/lに対して、TOCが0.9mg/l、DOCは1.0mg/lであった。

2)KMnO4消費量とその他の有機物指標の原水および浄水の相関性の検討
 全国における水道原水、および浄水についてKMnO4消費量、TOC、DOC、E260、THMFP、TOX、BOD、濁度、色度との相関性を検討したところ、KMnO4消費量、TOC、DOC、E260の有機物指標では、それぞれの指標で、全検体、原水及び浄水で高い相関関係が統計的に証明された。
 さらに、KMnO4消費量、TOC、DOC、E260の有機物指標についてそれぞれで散布図をみると特徴的な分布が観察された。まずKMnO4消費量とTOCとでは、全検体ではY=0.31X+0.57 (R2=0.735)、原水のみではY=0.3X+0.35 (R2=0.632)、浄水のみではY=0.47X+0.35 (R2=0.588)と極めて良好な回帰直線と相関関係が認められた(図11)。
 また、KMnO4消費量とDOCの関連性は、TOCの場合と同様な関係が観察された。ただし、低濃度においてKMnO4消費量が低い値であってもDOCがこれに比例しない場合があることがみられた。また、TOCとDOCの関係は極めて高い相関性がみられた(図12,13)。
 また、有機物指標として広く用いられているE260とKMnO4消費量、TOC、DOCとの関係は、相関係数は高いものの、散布図では明らかに2つのグループに類別されていることが観察された(図14)。すなわち、E260が値を示さない場合でもKMnO4消費量、TOC、DOCが高いことがあることがみられ、特にDOCにおいては顕著であった。
 KMnO4消費量とその他の指標の関連性については、THMFP、TOX、BOD濁度、色度などと種々の有機物指標との相関性は認められなかった。

4.3.KMnO4消費量とTOCからの換算
 以上のことから、水道水の有機物指標としてTOCを採用することには大きな問題は生じないものと考えられるが、検査方法は明らかにその原理を異にすることから、水道原水や水道水の調査結果あるいは既往の文献によって、基準値設定を以下のように考えた。

1)自然水域におけるKMnO4消費量とTOCの関連性からの算定
 我が国における18の水域の化学的酸素要求量(CODMn)とTOC比率(CODMn /TOC)で見ると、全データの平均を求めると、CODMn /TOC=1.29になった。
 CODMnのKMnO4消費量の概略の換算式CODMn(mg/l)=0.25×KMnO4消費量(mg/l)を適用した場合、
TOC=(0.25/1.29)×KMnO4消費量(mg/l)≒0.2×10=2mg/lとなった。

2)限局された水域におけるKMnO4とTOCの回帰式からの算定
 また、地域的水道水源および環境水におけるKMnO4消費量(あるいはCOD)とTOCの相関性を検討した結果、TOCはKMnO4消費量の1/2〜1/5で約1/3であると推定され、TOCとして3〜4mg/lとなるものと考えられた(表6)。

表6 各種の水域におけるKMnO4消費量(COD)とTOCの相関性
水道原水 環境水
地点 回帰式 R2 地点 回帰式 R2
A y=2.07x -1.18 0.2156 G y=4.36x +1.36 0.93
B y=3.608x -3.052 0.3054 H y=4.40x +3.20 0.933
C y=3.690x -1.371 0.7067 I y=2.60x +21.20 0.796
D y=5.230x -2.667 0.4801 J y=3.24x +22.2 0.686
E y=2..122x-0.271 0.5751 K y=3.56x +0.56 0.956
F y=3.342x +0.272 0.5074 L y=3.44x +1.12 0.676
y:過マンガン酸カリウム消費量 x:TOC

3)薬局方で利用された過マンガン酸カリウム消費量とTOCからの換算
 薬局方の規格値であるTOC限度値の関係を水道水基準のKMnO4試験限度値にあてはめると、水道水基準10mg/lはTOCで1.58mg/l、快適水質項目3mg/lは0.47mg/lとなった。

4)水道原水および浄水における全国調査からの回帰直線と相関性
 水道原水および浄水における全国調査から全検体ではY=0.31X+0.57 (R2=0.735)、原水のみではY=0.3X+0.35 (R2=0.632)、浄水のみではY=0.47X+0.35 (R2=0.588)と極めて良好な回帰直線と相関関係が認められ、KMnO4消費量に対してTOCを5mg/lとすることが妥当であると考えられた。
(略)


E.結論
(略)
4.有機物指標
・KMnO4消費量は、水中に存在する有機炭素化合物の被酸化性によって変動した。
・水中の有機物の指標には、TOCが精度・感度のいずれにおいても最も有効であった。
・KMnO4消費量とTOCとの相関性は、同一水源では良好な相関関係が認められた。
・水域や水系が異なった場合の水域間におけるKMnO4消費量とTOCとの相関性は、相関性は良好ではなかった。
・環境水におけるCODMn からTOCの概略を換算すると約2mg/lであった。
・実施した調査および既往の文献におけるKMnO4消費量とTOCとの回帰式の調査から、TOCはKMnO4消費量の約1/3程度の3〜4mg/lであった。
・水道原水および浄水における全国調査の回帰直線と相関関係から、KMnO消費量10mg/lに対してTOCを5mg/lとすることが妥当であると考えられた。

表3 標準液を用いたkMn04消費量とTOCの比較
(略)


表4 有機物測定結果一覧表


表5 有機物指標における相関性


図11 KMnO4消費量とTOCの相関図


図12 KMnO4消費量とDOCの相関図


図13 TOCとDOCの相関図


図14 E260とKMnO4,TOC,DOCとの相関図



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