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(参考)

睡眠障害について

 睡眠障害とは、睡眠と覚醒に関連する多様な疾患を指す。最も多いものは、不眠症であるが、このほか、過眠症、概日リズム睡眠障害、睡眠時無呼吸症候群をはじめとした睡眠呼吸障害、周期性四肢運動障害・むずむず脚症候群、ねぼけなどがある。下記に睡眠障害について示した。

1.不眠症

 不眠症とは、その人の健康を維持するために必要な睡眠時間が量的にあるいは質的に不足し、そのために社会生活に支障をきたしたり、自覚的にも悩んでいる状態をいう。ここで注意すべきことは、睡眠時間がたとえ4〜5時間でも本人が満足し昼間に正常に活動できるならば不眠症とは呼ばない。
 症状としては、なかなか寝つけないという「入眠障害」、あるいは夜中に何度も目覚めてしまう「中途覚醒」、眠りが浅くて熟睡できない「熟睡障害」、朝早く目覚めてまだ睡眠が足りないにもかかわらず眠れないというような「早朝覚醒」などがあげられる。症状がどのくらい続いているかによって、数日の場合には「一過性不眠」、1〜3週間の場合には「短期不眠」、1ヶ月以上続く場合には長期不眠と呼ぶ。一過性不眠は普段は睡眠が正常な人が旅行で海外旅行など時差のある土地に出かけたときなど、試験の前日など特別な緊張を伴う出来事があったとき数日間みられる不眠である。短期睡眠は、やや長く続くストレスで、近親者の死や仕事や家庭のトラブルや身体の病気のときなどにも見られる。長期不眠は、本格的な不眠で以下に示すような種々の原因により起こる。

(1)不眠症(一次性不眠症、精神生理性不眠、神経症性不眠症)
 不眠を呈する睡眠障害で、最も多いのは精神的緊張や不安によって引き起こされる不眠で、一次性不眠症、精神生理学性不眠、神経症性不眠などと呼ばれている。これは慢性の精神的緊張・不安と条件づけ(条件反射)という二つの要因によって起こると考えられている。不眠の原因となる条件づけとは、今晩は眠らなくてはと努力すればするほど眠れなくなることがあるように、毎晩眠れるかどうかを心配することが不眠の要因になる。すなわち眠ろうと意識的に努力することで神経が興奮して中枢神経系に覚醒状態がおこり、かえって眠れなくなるという悪循環を繰り返し、ますます眠れなくなる。しかしこのような人もテレビを見たり、読書をしていると自然に眠くなることがある。このような精神生理性不眠の人の中には、実際以上に不眠に対してこだわりが強く、不眠を強く意識して悩み訴える場合が多い。生活指導や睡眠薬を用いた治療が行われる。

(2)薬原性不眠
 身体疾患治療のための薬剤の中には副作用として、不眠をもたらすものがある。服薬開始時期と不眠の発症の時間的関係について良く聞くことが重要である。抗結核薬のイソニアジド、降圧薬のレセルピンやメチルドパ、抗パーキンソン病薬のレボドパ、プロプラノノールなどのベータ遮断薬、インターフェロンなどが良く知られている。

(3)身体疾患による不眠
 かゆみや痛みがあると睡眠が妨害される。慢性の痛みでは頚椎症や腰痛が最も不眠の原因となる。かゆみでは、入眠過程で末梢血幹が拡張する際にかゆみが増悪するため、入眠障害が出現しやすい。前立腺肥大や膀胱炎などによる尿路系の刺激が不眠、特に中途覚醒をもたらす。

(4)精神疾患による不眠
 不眠などの睡眠障害は精神疾患で必発症状である。精神疾患の初期に、患者は不眠のみを訴えることがあるので注意が必要である。特にうつ病では、初期に不眠のみを訴える場合が多いため注意が必要である。この場合、早朝覚醒、熟睡感欠如、休息感欠如、朝の離床困難が比較的特徴的である。この場合、うつ病の診断と適切な精神科的治療がなされないと睡眠薬のみの投与では改善しない。うつ病が疑われた場合には、速やかに専門医による診断・治療が必要である。

(5)脳器質性疾患による不眠(痴呆を含む)
 アルツハイマー病、パーキンソン病などの神経変性疾患、脳血管障害、脳腫瘍や頭部外傷で急性にあるいは慢性に不眠が起こることがある。これらの中には、脳障害が直接に睡眠機構を障害して不眠が起こる場合と、神経疾患による身体症状のために不眠が生じている場合がある。脳器質性疾患による不眠のうち、痴呆症状を伴うものでは、夜間の問題行動を示すことがある。

2.過眠症

 夜間に十分な時間眠っているのに、昼間の眠気が強く仕事や学習などの日常生活に支障をきたす場合には過眠症が疑われる。過眠症には、ナルコレプシー、特発性過眠症などのように睡眠覚醒機構の機能的変調により日中に眠気が出現してしまう一次性の過眠症と、薬剤の副作用としてあるいは睡眠時無呼吸症候群や周期性四肢運動障害のように夜間睡眠の質的悪化により十分な休息がとれない結果として日中の眠気症状が出現するものがある。いずれの場合も、眠気により周囲から怠け者とみなされたり、仕事上のミスにもつながるものなので早期診断・治療が必要である。

(1)薬剤による過眠
 よく使われる薬剤の中に、副作用として眠気をきたすものがあるため、注意が必要である。抗ヒスタミン作用のある風邪薬や抗アレルギー薬は、日中の眠気をもたらすものが多いため注意が必要である。抗不安薬、抗うつ薬や抗精神病薬服用中に日中の過眠が出現することがある。睡眠薬の持ち越し効果(効果が日中まで続く効果)で日中に眠気が出現することがあるため注意が必要である。特に、高齢者では代謝が遅延するため、作用時間の短い睡眠薬でも持ち越し効果による日中の強い眠気が出現することがある。

(2)ナルコレプシー
 ナルコレプシーは、体質性の病気で特定の白血球の血液型(HLADR15)と関連しており、脳内のオレキシンという物質の低下が病態に関係していることがわかってきた。ナルコレプシーでは、急に睡魔におそわれて眠ってしまう睡眠発作と呼ばれる症状に加えて、笑ったり、驚いたりすると身体の力が抜ける情動脱力発作、眠りぎわの金縛りや怖い夢などが一緒に起こる。

(3)その他の過眠症
 一次性過眠症には、ナルコレプシーのような特徴的症状がなく、だらだらと一日中眠気が続く特発性過眠症がある。髄膜炎や頭部外傷が契機となって、こうした過眠が起こることがある。

3.概日リズム睡眠障害

(1)交代勤務による睡眠障害
 生体リズムにより1日の中で夜は眠りやすく、昼間は眠りにくくできている。交代勤務では一般の人達が眠る夜の時間帯に仕事に従事し、夜間の仕事を終え翌朝から昼にかけて睡眠をとることになり、生体リズムとあわない時間帯に眠らなければならないため、種々の睡眠障害が起こる。何日も夜勤が連続する固定シフトの場合は、夜間に太陽光に匹敵する人工的高照度光を用い、日中は太陽光が目から入らぬように光環境を完全に昼夜逆転させることで日中の睡眠が安定することが知られている。一方、病院などでよく行われている1〜2週に1回の深夜勤、準夜勤などのようなローテートシフトをとる場合、通常の日勤を中心とする生活リズムを重視しつつ、夜勤後の休息を効果的にとるという対処法が必要になるが、この点についての本質的解決法はない。朝からの入眠を助ける上可能な対処法としては、深夜勤後の帰宅時に、サングラスなどで太陽光が目から入らないようにして、帰宅したらできる限り早い時刻に就寝することである。

(2)睡眠相後退症候群と非24時間睡眠覚醒症候群
 睡眠相後退症候群は、いったん夜型の生活をすると通常の時刻に眠り、望まれる時刻に起床するというリズムに戻すことが困難な症候群である。概日リズム睡眠障害の中で最も頻度が高いものである。患者は日中の行動や心理状態とかかわりなく朝方まで入眠できない。いったん入眠すると比較的安定した睡眠が得られ、遅い時刻まで起きられない。深部体温リズムやホルモンを測定して生体リズムを調べると、通常の生活ができる人と比べて3〜4時間遅れている。非24時間睡眠・覚醒症候群では、本人の意思とは関わりなく、睡眠時間帯が毎日およそ1時間ずつ遅れていく。深部体温リズムやホルモンを測定して生体リズムを調べると、睡眠と同じように毎日少しずつ生体リズムが遅れていくのが観察される。いずれも、10-20代に発症することが多い。夏休みなどの長い休暇や受験勉強などによる昼夜逆転生活が発症の契機となる。起床直後の高照度光療法などを用いて生体リズムを早めることで、症状が改善する。

(3)睡眠相前進症候群
 睡眠相前進症候群は睡眠相が慢性的に進んだ状態である。高齢者に多く、患者は夕方になると強い眠気を覚え起きていられず、20時前には入眠する。そして、早朝2-3時頃には覚醒してしまい、その後再入眠することができない。就業時間中は覚醒していることができるので、深刻な社会適応の問題が起こることは少ないが、夕方からの社会生活に支障が生じる。生体リズムの過剰な前進による病態であり、就寝前に高照度光を用いて生体リズムを遅らせることで症状が改善する。朝の一定時刻までサングラスなどを用いて太陽光を避けるのも有用である。

4.睡眠呼吸障害

(1)閉塞性睡眠時無呼吸症候群
 睡眠中の舌の沈下により気道が塞がれ、大きないびきをかき、呼吸が停止する。呼吸が停止すると血液中酸素濃度の低下により覚醒反応が起こる。熟睡感の欠如や中途覚醒、さらにこうした睡眠の質的低下のため、昼間の強い眠気(過眠)、気力や集中力の低下をもたらす。高血圧、不整脈などの循環器系疾患の発症・悪化要因ともなる。治療として、体重減少、歯科装具による舌沈下防止、経鼻的持続気道陽圧法などがある。アルコールや通常不眠に頻用される睡眠薬は、筋弛緩作用や呼吸抑制作用を持つため、これらを用いることでかえって無呼吸を促進し、睡眠障害を悪化させる。

(2)中枢性睡眠時無呼吸症候群
 中枢性は脳幹部呼吸中枢の障害、呼吸筋の障害、血中酸素分圧の制御にかかわる化学受容体の障害など、脳器質性疾患や心循環器疾患を背景におこる。チェーン・ストークス呼吸も中枢性の一種である。中枢性では呼吸運動自体が停止するため特徴的ないびきはみられない。起床時の頭痛、日中の眠気などがみられる。

5.周期性四肢運動障害とむずむず脚症候群

(1)周期性四肢運動障害
(2)むずむず脚症候群
 周期性四肢運動障害は、睡眠時ミオクローヌス症候群とも呼ばれ、睡眠中の下肢の不随意運動が原因となって睡眠の質的低下や中途覚醒を引き起こす。睡眠中の不随意運動が刺激となり覚醒反応をもたらす。睡眠中の不随意運動がひどくなると、就床と同時に下肢にむずむずとほてったような異常な感覚が生じて寝つくことができないと訴える人もいる。これがむずむず脚症候群である。眠れないため下肢に異常感覚が生じると思い込んでいる場合が多い。不随意運動もむずむず感も通常の睡眠薬はあまり有効でなく、不随意運動を治療する薬物が有効である。

6.ねぼけ

(1)睡眠時遊行症と夜驚症
 睡眠時遊行症(夢遊病)と夜驚症は学童期に多い睡眠時随伴症である。睡眠時遊行症では、眠っていた患者に体動が出現し、そこから起き上がりぼんやりした表情で歩き回る。これに、悲鳴や叫声を上げたり、強い恐怖の行動的表出と自律神経症状が出現する夜驚症が合併することがある。睡眠前半部の深いノンレム睡眠期(徐波睡眠)から寝返りとともに起こる。通常小児期(5歳〜12歳)に始まり、青年期までには消失するとされてきた。行動を止めようとした場合や覚醒させようとした場合に、完全に覚醒できず錯乱に陥り、覚醒させようとした人間に対して暴力的行動をとることがある。通常夢体験は伴わず、速やかに覚醒させることが困難である。異常行動中の記憶はほとんどの場合はない。経過観察で自然治癒するが、長期化する場合は、抗不安薬などを投与する場合がある。

(2)レム睡眠行動障害
 レム睡眠行動障害は、日中覚醒時には行動や認知に問題がないが、レム睡眠になるたびに粗大な四肢や体幹の運動、複雑な行動を始める。上肢を挙上してまさぐるような動き、叫ぶ、泣く、笑うなどの寝言、殴る、蹴るなどの攻撃的運動、立ち上がって動きまわるなどがある。これら異常行動は20〜30分経過してREM睡眠が終わると再び安らかな睡眠に戻る。異常行動の最中や直後に、大声で呼びかけたり揺すったりして刺激を与えると、完全に目覚めさせることができる。自覚的には、人や動物に追いかけられるなどの悪夢が多くみられ、夢見内容と異常行動は概ね一致する。レム睡眠行動障害では、素早い暴力的動作が多くみられ、このために同室者を殴る、室内のドアや障子などを壊す場合が少なくない。こうした行動中であっても、大声で呼びかけ、体を揺するなどすると完全に覚醒させることができる。多くは、特発性で50〜60歳代以上に多くみられる。レム睡眠行動障害と診断された場合には、速やかに薬物治療を行う。

平成11―13年度厚生労働省精神・神経疾患委託研究費
「睡眠障害の診断・治療ガイドライン作成とその実証的研究」
(主任研究者 国立精神・神経センター精神保健研究所内山 真)をもとに整理


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