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「これからの医業経営の在り方に関する検討会」
最終報告書


〜 国民に信頼される、医療提供体制の担い手として
     効率的で透明な医業経営の確立に向けて 〜




平成15年3月26日


目次

I はじめに

II 今後の医療の担い手としての医療法人を中心とする医業経営の在り方

 質の高い効率的な医療提供体制の整備

 変革期における医療の担い手としての医療法人を中心とする医業経営のあるべき姿

III 医療法人を中心とする医業経営改革の具体的方向

1 非営利性・公益性の徹底による国民の信頼の確保

(1)特別医療法人制度・特定医療法人制度の普及

  (1) 特別医療法人制度について

   ア 特別医療法人の要件の緩和
   イ 収益業務規制の大幅な緩和

  (2) 特定医療法人制度について

(2)社団医療法人の持分について

(3)非営利性の徹底

2 変革期における医療の担い手としての活力の増進

(1)効率性を高める方策

  (1) 経営管理機能の強化

   ア 経営管理体制の強化
   イ 経営に係る客観的データ・情報の収集、整理及び共有
   ウ 人事管理機能の強化等
   エ コスト管理の徹底と利益管理体制の強化

  (2) 外部委託の活用・共同化の推進

  (3) 附帯業務規制の緩和

(2)透明性を高める方策

  (1) 病院会計準則の見直し等

   ア 病院会計準則の現状と課題
   イ 見直しの方向

  (2) 経理情報の公開推進

  (3) 医療に関する情報提供の推進

(3)安定性を高める方策

  (1) 資金調達手段の多様化

   ア 資金調達の現状
   イ 改革の方向
     (a) 間接金融型調達手段の充実
     (b) 直接金融の一手法としての医療機関債の発行等

  (2) 国庫補助・政策融資などの公的支援の在り方

  (3) 経営安定化のための支援策

   ア 社会福祉・医療事業団による経営指導の推進
   イ 中小病院の経営改善事例の研究等

IV おわりに


I はじめに

 ○ 我が国の医療を取り巻く状況は、大きく変化している。戦後、国民皆保険制度の実現をはじめ、飛躍的に進んだ我が国の医療制度は、世界保健機構(World Health Organization;WHO)が発表した「2000年版世界保健報告(The World Health Report 2000)」においても、保健医療システムを総合的に評価して世界第1位とされるまでに至ったものの、高齢化、医療技術の進歩、国民の意識の変化などに適切に対応した医療提供体制の構築が求められている。
 ○ 医業経営に関しては、高齢化に伴い、疾病構造が変化するとともに、医療費が高騰し、社会経済状況の低迷が続くなか、医療保険財政が厳しくなるなど、その取り巻く環境は厳しさを増している。
 ○ こうした中、「市場競争を推進することで消費者・利用者の多様な選択肢が保障された豊かな経済社会を構築する」といった規制改革の観点から医療、特に病院経営に株式会社の参入を認めるべきとの主張がなされるなど、様々な問題点の指摘もなされているところである。
 ○ 厚生労働省としては、これまでも、質の高い医療を効率的に提供できる医療提供体制の構築を目指し、「21世紀の医療提供体制の姿」等によりそのあるべき将来像を示してきているところであるが、その基盤となる医業経営についても、これらの動向を踏まえた上で、その在り方について検討することが喫緊の課題となっている。
 ○ 本報告書は、こうした医療をめぐる現状を踏まえながら、これからの医業経営の在り方について、14回にわたり検討した結果を
(1) 今後の医療提供体制の有力な担い手としての医療法人を中心とする医業経営に求められる将来像
(2) (1)を実現するための、医療法人制度を中心とする医業経営についての改革の方向と、これを支える政策、制度の在り方
を中心的課題として、取りまとめたものである。


II 今後の医療の担い手としての医療法人を中心とする医業経営の在り方

1 質の高い効率的な医療提供体制の整備

 ○ 厚生労働省が公表した「21世紀の医療提供の姿」においては、今後の我が国の医療の目指すべき姿として、「将来像のイメージ」を提示している。
 ○ そこでは、「質の高い効率的な医療提供体制」の整備に向けて、
 病院病床の機能分化は、公的病院と民間医療機関との役割分担・連携の在り方を踏まえつつ、各医療機関自身の選択により進められていくこと、急性期医療の効率化・重点化と質の向上、急性期病床以外の病床は、リハビリテーションや長期療養のための病床となるなどにより機能分化が進むこと、
 病院の外来については、専門外来・特殊外来等への特化、他の病院・診療所との連携が普及していくこと、
 診療所等については、他の病院等との連携の下、住民に最も身近な医療機関として、それぞれの特性に応じ患者に綿密な医療の提供拠点となること
等が挙げられているほか、患者の立場を尊重した医療を提供し、医療の質の向上を図り国民が安心できる医療提供の確保など基盤づくりを進めていくこととされている。

2 変革期における医療の担い手としての医療法人を中心とする医業経営のあるべき姿

 ○ 我が国の医療提供体制は、国民皆保険制度の下で、医療法人が開設するものを中心とする民間医療機関等、数多くの開設者に支えられていることは、言うまでもない。
 ○ 今後、質の高い効率的な医療提供体制の整備に向け、改革を進めるに当たって、前述のとおり病院や診療所の開設者としての医療法人に期待される役割は極めて大きい。その際、医療法人に改めて求められる使命としては、次の2つがあると考えられる。
 国民皆保険制度の下での医療提供の主体として、非営利性及び公益性を徹底するとともに、地域において政策的に必要性の高い医療を積極的に担うなどにより公益性を高め国民の信頼を高めること
 医療を安定的に提供するための効率的で透明な経営を実現し、自ら改革を担うための活力を高めること
 ○ 本来、医療法人制度は医業の経営主体が、医業経営と家計を明確に分離し、医業の非営利性を損なうことなく、法人格を取得する途を開くことにより、(1)資金集積を容易にするとともに、(2)医療機関の経営に継続性を付与し、もって私人による医療機関の経営困難を緩和するための特別の法人制度として、昭和25年の医療法改正で設けられたものである。
 ○ 当検討会では、今日の医療を取り巻く状況の下で、こうした医療法人制度について再点検し、新たな時代の医療法人制度を構築すべく、その改善のための方策について検討した。
 さらに、こうした検討に関連し、医業の経営主体の幅を広げる観点から、病院経営に株式会社が参入すること自体を認めるべきかについて議論が及んだものの、積極的に参入を認めるべきとの論拠(エビデンス)は論証・確認するに至らず、病院経営に株式会社参入を認めるべきではないという意見がほとんどであった一方、まず、我が国内で、地域医療体制に影響の及ばない範囲で、限定的に株式会社参入について試行を行うべきとの意見も一部あった。
 ○ このように、当検討会としては、現段階において病院経営に株式会社参入を認めるべきとの結論には至らなかった。この点に関しては、政府の構造改革特区推進本部において決定がなされたところであり、これを受けて政府が更に検討を深めるものと考えるが、医療法人制度の改善を図るに当たっては、非営利性の原則を維持し、配当禁止の徹底等を図りつつ、株式会社参入論において議論されている論点、すなわち資金調達の多様化、徹底した顧客ニーズの把握による顧客サービスの向上等の顧客満足度の向上、消費者の選択肢の拡大、必要な人材の投入、経営マインドを発揮した効率的経営と優れた法人統治(ガバナンス)の確立、経営情報の開示などについて積極的に取り入れるべきことについて見解の一致をみた。こうした観点から、医療法人を中心とした医業経営改革の具体的方向として、IIIのとおり提言する。


III 医療法人を中心とする医業経営改革の具体的方向

1 非営利性・公益性の徹底による国民の信頼の確保

 ○ 医療法人については、昭和25年の制度創設時から、剰余金の配当禁止が罰則を伴い法定されている。国民皆保険制度が定着した今日において、この規定が一層遵守されなければならない。
 ○ この点に関し、様々な手段を通じて事実上の配当は行いうること、病院の内部留保を通じた個人財産の蓄積や解散時の残余財産の分配は可能であること、さらには、営利法人によって事実上、医療法人の経営が支配されている事例が存在することなどをもって、医療法人制度における「非営利性」が形骸化しているとする意見がある。
 ○ 医療法人制度は、前述のとおり、非営利性を担保しながら、医療の永続性・継続性を確保することを目的とした制度である。これらの問題点は、主に社団医療法人における「持分」に起因するものであることから、特に病院を開設する医療法人を念頭に、持分の定めのない法人へ移行し、「非営利性」を徹底しつつ、「医療の永続性・継続性」の確保を図ることを将来的方向とし、以下のような非営利性・公益性の徹底を図るための改革に着手するべきである。

(1)特別医療法人制度・特定医療法人制度の普及

 ○ 医療法人のうち、公的な運営を確保するための一定の要件を満たす法人類型として、租税特別措置法に基づき、法人税の軽減税率が適用されている特定医療法人制度のほか、医療法に基づき、経営安定化の観点から、その収益を医業経営に充てることを目的とした収益業務を実施できる特別医療法人制度がある。特別医療法人制度は、平成10年の第3次医療法改正時に創設されたものの、公益性の高い病床に係る規制、理事長等との同族関係者である職員に関する給与規制等によりその要件の達成が困難との指摘もあり、現在のところあまり普及していない。
 ○ 今後は、医療の非営利性を徹底する趣旨から、特別医療法人や特定医療法人について、既存の持分の定めのある社団医療法人が持分のない医療法人に移行するための機能を併せ有しているという観点を踏まえ、これらを普及していくことが必要であり、具体的には、次のような措置を講ずるべきである。

  (1) 特別医療法人制度について
 医療法人全般の公益性を高めるため、病院を経営する医療法人のみならず診療所であっても公益性の高い政策的な医療を提供しているものを経営する医療法人についても評価できるようにするという観点も踏まえながら、例えば関連税制上、特別医療法人としての評価を受けるために必要な公益性を損なわない範囲で、次に掲げるような措置を行う必要がある。
 特別医療法人の要件の緩和
 公益性の判断に際して緩和ケア病床など9種の特定の病床を含まなければならないこととされているが、これ以外にも、例えば、地域の救急医療体制に係る輪番制に参加しているもの、離島を始めとする過疎地域において診療所を経営するもの等、行政が政策として推進すべき医療として運営費補助金の対象となりうるものを参考に特別医療法人の対象となりうるものの範囲を広げること。
 社会保険診療報酬の収入に占める割合が8割を超えなければならないこととされているが、健康増進法の成立など予防医療等の重要性が増しており、健康づくり・疾病予防の推進が図られていることを踏まえ、一定の公的な枠組みの下で行われる健康診査に係る収入についても社会保険診療報酬に準じた取扱とすること。
 役職員の給与について、定額の上限規制に加えて、同種の職務内容及び年齢の役職員との比較した階層的な規制がなされているが、医療機関が柔軟な給与体系を構築し、優秀な医師や職員を採用できるよう、階層的な給与規制を廃止すること。

 収益業務規制の大幅な緩和
 収益業務としては、病院等の安定的運営等の観点から告示で定められている特定の業務に限定して認められているところであるが、特別医療法人については、公益性や安定性等の観点から厳格な規制がなされていることを踏まえ、医療機関として不適切な一定範囲の業務は格別として、極力幅広く認めることとすること

  (2) 特定医療法人制度について

 法人税について軽減税率が適用されている税制上の制度であることから、大幅な要件緩和は困難であるが、近年の療養環境改善のニーズ等を踏まえ、差額ベッドに関しては、一定の要件緩和を図る必要がある。

(2)社団医療法人の持分について

 ○ 永続性を旨とする医療法人制度にとって例外ともいうべき解散などの場合において、持分の定めのある社団医療法人については、内部留保金が出資額に応じて分配されることがあることを事実上の利益配当と評価しうるかは、なお、議論の余地がある。他方、現実に、医療法人制度の創設以来50余年を経て、その出資持分に含まれる払戻請求権が高齢化した社員や、死亡した社員の相続人により行使されるようになったため、社員の世代交代に際して医療法人の存続そのものが脅かされる事態を招いていることは事実である。こうした問題に対処し、将来の医療法人のあるべき姿である持分がなく公益性の高い特定医療法人又は特別医療法人への円滑な移行を促進するための1つの方策として、出資額限度法人(社員の払戻請求権を出資額にのみ制限した定款を有する社団医療法人)の制度化が必要であるとする意見があった。
 ○ こうした主張については、特定医療法人、特別医療法人、一般の医療法人との相互関係(それぞれの法人類型の公益性の評価)や、「出資額のみに限定された払戻請求権」の意味・その及ぶ範囲、さらには、持分の払戻しに係る取扱を改める際、法人・社員双方について税制面の措置を講ずることとしたときに、特別・特定医療法人との対比から、公益性の確保のため、どのような要件を設けるべきかといった論点を踏まえながら、財務、税務、会計を含めた関係者の理解を得るよう、その在り方について検討する必要がある。

(3)非営利性の徹底

 ○ 適切な医療提供を確保する趣旨からすれば、非営利性の原則に照らし、一部の不適切な実態は速やかに是正し、非営利性を徹底するための方策を講じることによって、国民に信頼される医療提供体制を確保するべきである。
 ○ こうした観点から、これまでも、
(1) さまざまな名目による事実上の剰余金配当の実施
(2) 役員の派遣などの人的関係、出資などの資金関係などを通じた営利法人による医業経営支配
等による営利的な医業経営の防止に向けて、通知等により考え方が示されるとともに、必要な指導が行われてきたところであるが、これを一層強化するため、具体的には、
(1) 事実上の配当と見られる行為、営利法人による医療支配の排除に向けての指導状況の点検
(2) こうした点検の結果を踏まえた営利性を排除するための医療法人に対する指導指針の策定
(3) 監事等を活用した医療法人等による内部点検
(4) 非営利性の観点から見て不適当な医療法人に対し、医療法に基づいて行う法人検査等の在り方の見直し
等の措置を講じるべきである。
 ○ なお、社団医療法人について、社員資格の喪失時の持分払戻及び解散時の残余財産の処分を払込済出資額に応じて行う点については事実上の配当に当たり、非営利性の観点から問題ではないかという意見があることを踏まえ、運用面を含めたモデル定款の見直しなど、出資額に応じた内部留保金の配分が行われないようにするための自主的な対応を促す方策を講ずるべきとの意見があった。

2 変革期における医療の担い手としての活力の増進

 ○ 1のとおり「非営利性」の徹底を図りつつ、医療経営を取り巻く状況が厳しい中で、医療法人が自ら経営管理機能を向上させること等により、「効率性」を高め、情報を積極的に開示することにより「透明性」を確保する。また、提供されるサービスの公益性を高めることや、患者ニーズの把握に基づき、医療の質、サービスの向上を図ることなどが求められている。このような、「効率性」、「透明性」を強化する取組により、更に厳しさを増すものと見込まれる医療の質に基づく医療機関相互の競争において、患者の信頼を獲得するとともに、資金調達手段の実質的な利用可能性が高まり、経営の「安定性」が確保されるものと考えられる。
 ○ 医療法人において、「非営利性」の確保を大前提に「効率性」、「透明性」、「安定性」といった諸要素を高めるよう努めることにより、これらの要素が好影響を及ぼし合い、連続的な「正(プラス)の循環」を生み出し、変革期における医療の担い手としての医療法人の活力の増進につながるものと期待される。

(1)効率性を高める方策

  (1) 経営管理機能の強化

 今後の医療機関経営は、将来的に向け、経営活動の原点となる明確な理念を組織の内外に浸透させ、その理念に基づき、自らの医療機関の地域における機能や役割を明確化した上で、合理的な意思決定を行うことが必要となる。
 こうした点を踏まえつつ、患者のニーズに応じた質の高い医療を効率的に提供していくためには、限られた資源を最も有効に活用できる体制を構築し、医療機関の経営管理者が合理的かつ効率的な取組を行うことができるよう経営管理機能の強化を図る必要がある。
 こうした観点から、本検討会は昨年3月の中間報告書において、医療法人の理事長要件の緩和を図るべきことを指摘した。これを受けて、昨年4月、適正かつ安定的な法人運営を損なうおそれがない場合については、医師以外の人材を理事長とする都道府県知事の認可を行う途が開かれたところである。
 経営マインドの発揮、運営ガバナンスの確立など経営を推進していくためには、民間経営方式をも参考に、次に掲げる事項について、医療法人において自らの発意と創意工夫により取り組むことが期待される。
 なお、医療法人を始めとする医業経営主体がこれらの経営課題に取り組むに当たっては、医療法等による法令、制度面の制約は存在しないと考えられるが、医療機関の規模や能力に応じ、対応が円滑に進むよう、行政において、具体的な取組方策について研究・検討し、その結果をマニュアル化するとともに、例えば、国立保健医療科学院におけるものを含め、事務職員の教育、研修の実施を推進するなど医療法人の取組を支援するべきである。

   ア 経営管理体制の強化
 経営管理機能の強化のためには、客観的なデータに基づき、根拠に基づく経営が行えるよう、理事会及びこれを支える事務体制を整備する必要がある。
 事務体制に関しては、外部の人材の登用を含め、経営の専門的知識を有するスタッフの充実を図るとともに、診療部門とは別に、組織横断的な経営管理部門を設置し、経営管理の観点から組織全体を統括する役割を担わせることが望ましい。
 比較的規模が大きく、経営管理体制が整備されている法人については、理事会及び理事機能を充実し、責任分担制を導入することも、経営管理機能強化に資するものと考えられる。具体的には、現在、医療法人においては、3名以上置くこととされている各理事の業務分担の範囲を明確化することにより、理事会が意思決定機関として、各部門の執行責任者の調整機能を実質的に果たすようにすることが望ましい。
 また、法人統治(ガバナンス)という観点からも、地域における医療機関の役割について利害関係を有する地域住民の意見や、今後、ますます困難になることが予想される医業経営に貢献すると考えられる外部の専門家の知識や経験を医療機関経営に反映させる方策について研究・検討すべきである。

   イ 経営に係る客観的データ・情報の収集、整理及び共有
 今後の医療機関経営においては、地域社会において当該医療機関に求められている機能や役割の明確化、短期・中長期の需要予測に基づく戦略の策定などについて、客観的なデータに基づき、的確な判断が厳しく求められることとなる。
 そのため、平均在院日数や患者の疾病データなど医療内容に関するデータ、損益計算書や貸借対照表などの会計データといった客観的な情報に基づき、経営管理者が常に経営状況を把握するとともに、これらの情報を院内で共有することにより、他の医療機関との比較から、自らの医療機関の置かれた状況を的確に把握した上で経営方針の決定をすることが望ましい。
 また、電子カルテの導入などの医療機関におけるIT化の推進は、診療活動の効率化、経営情報をはじめとした院内情報の共有化、外部の医療機関との連携の強化などに資する経営管理機能の強化を図る手段の一つであるばかりか、今後の医療機関に係る情報提供や医療の質の向上のための基盤ともなるものであるため、中長期的な視野に立って、検討することが望ましい。

   ウ 人事管理機能の強化等
 労働集約的な医療サービスにおいて、診療や事務に携わる人材を量的のみならず質的に充実させることが必要不可欠となるが、医療職種以外の人材も含めて、質の高いスタッフを医療機関に集めるためには、経営管理者の明確かつ統一的な経営方針のもと、経営資源としての人材の業績を適正に評価するシステムを機能させるなど、常に満足感をもって職務に従事できる環境を整えることが望ましい。
 その際、今後の賃金制度の在り方について、賃金の決定に当たって能力主義・成果主義を徹底することについて大多数の企業が重視するに至っていることをも参考に、医療の質や経営への成果、貢献度といった点を視野に入れた処遇、賃金制度(業績給)の導入について検討する必要がある。

   エ コスト管理の徹底と利益管理体制の強化
 効率的な医療サービスの提供に向けて、最適のパフォーマンスを達成するためには、コスト管理を徹底することが重要となる。特に、疾病別、診療科目別、部門別という観点からコストと収益の分析を行い、経営効率を測定すること、また、こうしたコスト管理の結果が、適切に診療部門にフィードバックされ、その後の診療活動に反映される経営管理システムを構築することが望ましい。
 更に、良質な医療サービスを提供するための投資の原資となる利益については、経営管理者の明確な経営方針に基づく経営計画により、確保されることが必要となる。そのため、経営計画について、経営管理者とこれを補助する者によって、確実に進捗管理がなされるとともに、組織横断的に経営計画に関する問題を共有化するようにすることが望ましい。

  (2) 外部委託の活用・共同化の推進

 多くの医療機関が、経営の効率化やサービスの質の向上を図るため、医療以外の業務について、外部委託を活用しており、外部委託が活用されている業務としては、検体検査、患者給食、院内清掃、寝具類洗濯、滅菌消毒、税務申告、院内情報コンピュータシステム、警備保障業務、一般経理、医療事務などがある。
 業務委託の効果としては、今後の効率的な医業経営の観点からは、経費の削減といった経済的な効果も重要であるが、これ以外にも、職員が本来の業務に集中できること、専門的な業者に委託することによる業務の質の向上、業務の迅速化といった効果も認められるところであり、今後はこうした視点も勘案しながら、医業経営の効率化方策の一環として、外部委託を活用することが望まれる。
 外部委託以外でも、材料等の共同購入などの業務の共同化や高額医療機器等の共同利用なども効率的な経営のために有効である。
 外部委託・共同利用等の活用に当たっては、経営管理機能の強化の観点から経営目的に照らして外部委託のメリット、デメリットを検討し、委託業務の評価、改善を行う組織体制を整備することが、その効果的な実施に資するものと考えられる。
 このほか、外部委託については、医療機関の業務の効率化と質の向上という観点から自らの業務を外部に委託するのみではなく、他の医療機関の業務を受注することで経営安定化と質の高いサービス提供の両立を図るという視点も重要である。具体的には、従前より特別医療法人については、配食サービス、医業経営相談その他の医療関連サービス、患者搬送業などを収益事業として実施することが可能であるが、こうした制度を活用し、他の医療機関の業務を受注することによって、自らの医療機関の経営ノウハウを活用した外部委託業務の受注を行うことによる積極的な経営の安定化を図ることが期待される。なお、特別医療法人制度について、1(1)(1)に掲げる措置を具体化するに当たっては、こうした点についても配慮した対応が必要である。

  (3) 附帯業務規制の緩和

 医療法人は、法人の本来の業務である病院、診療所及び介護老人保健施設の運営に支障を生じさせないため、附帯業務の範囲について医療法上制約を行っている。
 一方、医療法人の業務は、介護サービスの充実等の観点から、これまでも、ケアハウス、ホームヘルプ事業等の在宅福祉事業等の実施について順次拡大されてきた。
 今後とも、本来業務の安定的な実施に支障が生じないよう配慮しながら、業務の安定性の向上や医療法人の本来業務の持つ人材、施設、設備やノウハウ等の活用といった視点で、在宅医療や在宅介護の推進といった政策目的に資する一定のものを附帯業務として行えることとするべきであり、その際、併せて、本来業務の安定的な実施を確保する方策や政策目的に合った附帯業務を展開する場合の支援策についても検討すべきである。

(2)透明性を高める方策

  (1) 病院会計準則の見直し等

 病院会計準則の現状と課題
 病院会計準則は、開設主体の異なる各種の病院の損益及び財政の状態を体系的、統一的にとらえるために施設会計としての統一的な処理基準を定めたものであり、病院の経営成績と財政状態を適正に把握し、病院経営の改善向上に資することを目的として昭和40年10月に制定され、昭和58年の全面改正を経て現在に至っている。
 前回の改正から20年が経過し、医療施設機能の類型化、介護保険制度創設による医療サービスの変化など病院を取り巻く環境が大きく変化しているとともに、企業会計をはじめ、公会計や非営利会計の分野においても、会計基準が変更されている。病院会計準則についても、現下の厳しい経済情勢の下での直近の動向も含め、こうした様々な状況の変化を踏まえた見直しが必要となっている。
 また、医療機関が、特に施設の建替え等に際し、円滑に資金調達を行うためには、金融機関に対して経営情報を適切に提供する必要があるが、新たな企業会計の動向を踏まえた病院会計準則を作成すれば、こうしたニーズにも対応することが可能となる。

 見直しの方向
 本検討会は、中間報告において病院会計準則の見直しと医療法人会計基準の制定に向けて、専門的な検討の必要性を指摘した。昨年7月に学識経験者や医療関係者から成る「病院会計準則及び医療法人の会計基準の在り方に関する研究班」が設置され、
 会計準則(会計基準)の基本的スタンスとして、病院経営に役立つこと、異なる開設主体間での比較可能性を重視すること
 財務諸表の体系としてキャッシュフロー計算書の導入、付属明細表の充実等
 経営指標としての活用を前提とした表示区分、表示科目の集約化
 我が国の企業会計における最近の動向(退職給付会計等)の反映
 異なる開設主体間における会計情報の比較可能性を確保するための「開設主体別病院会計準則適用ガイドライン」の必要性の検討
などを基本的な方針及び検討項目としつつ、研究、検討が重ねられているところである。
 病院会計準則については、こうした検討結果を踏まえながら、(1)(1)の経営管理機能の強化を図るに当たり、経営に係る客観的データ情報を病院単位で適切に把握することに役立つものとすることが望ましい。なお、見直しに当たっては、適用される病院の規模や能力にばらつきがあることについて、十分に配慮する必要がある。
 病院会計準則の普及については、導入後の普及状況の動向を見た上で必要があれば、従来の指導に加えて、国庫補助金の交付条件や社会福祉・医療事業団による政策融資の条件に位置付けるなどの方策をあわせ検討するべきである。
 また、新たな医療法人会計基準については、医療法に基づき医療法人が都道府県又は国に決算を届け出る場合の財務諸表の様式として、これが確実に用いられるよう指導を行うべきである。

  (2) 経理情報の公開推進

 本検討会は、中間報告において、公益性の高い特定医療法人や特別医療法人、国、都道府県から運営費補助を受けている医療法人に対しては、積極的開示を要請すべきであるとし、その余については、行政としては自主的開示が促進されるための環境整備を行うにとどめることが適当とした。
 これを受けて、通知において「特定医療法人・特別医療法人については、決算の概要の広報、関係者の求めに応じた決算書の閲覧などを行うことが望ましい」旨が明らかにされたが、まず、この積極的開示が望まれる法人における取組状況について、フォローアップを行う必要がある。

  (3) 医療に関する情報提供の推

 より質が高く効率的な医療サービスの提供を目指して、患者の視点を尊重した医療の提供を推進するため、国民が容易に医療に関する情報にアクセスし、医療機関等を自ら選択することができる環境整備を進めることが重要になっている。
 医業経営の観点からも、こうした動向に積極的に応えていく必要がある。すでに、平成14年4月に医療に関する広告の規制が大幅に緩和されたところであり、これを契機として、医療機関は、広告可能な事項をできる限り幅広く患者に提供していくことが望まれる。
 また、同年9月からは、財団法人日本医療機能評価機構の医療機能評価を受審し、認定を受け、同機構のホームページにおいて評価結果を公表することが可能となった。その際、こうした仕組みを活用し、自らの病院のホームページにリンクさせることも一案として考えられる。厚生労働省医政局の「インターネット等による医療情報に関する検討会報告書」(平成14年12月26日)を踏まえて、インターネットを通じて患者・国民に医療情報を提供するに当たっては、民間の医療機関にあっては、サービス向上に向けた自らの医療機関における独自の取組など多様な情報も提供していくことを進めていくべきである。
 このほか、例えば、広告や広報の充実を図ることや、今後の提供情報の充実度を考慮しながら、社会福祉・医療事業団のWAM NETを活用することを含め、民間の医療機関が医療情報をきめ細かに提供していくことも検討すべきである。

(3)安定性を高める方策

  (1) 資金調達手段の多様化

 資金調達の現状
 医療法人における資金調達については、社員等による出資のほか、銀行等の金融機関からの借入、補助金や政策融資などの公的資金などの制度等の活用が可能である。
 平成13年度厚生労働科学研究による調査によれば、経営課題として資金調達不足を挙げる病院は16%程度であるが、長期資金は約6割が必要とし、そのうち約4割が不足としている。また、その資金需要の中身としては、病院の整備・建替が大宗を占める。銀行の融資態度についての医療施設側の受け止めは、以前より借りやすくなったとするものが約2割、変わらないとするものが約5割を占めるが、厳しくなったとするものが約2割存在すると言われている。
 また、銀行側は、顧客としての重要性をかんがみ、病院の整備・建替資金の調達に協力したいと考えるものの、現在の金融情勢、病院の経営状態及び将来性の不透明さにより、積極的に取り組めない状況がみられる。
 このように、現在の医療機関の資金調達に関しては、数十年に一度の施設の建替に関する資金需要にどう対応するかが主たる問題となっており、特に現下の厳しい経済情勢の下で資金需要への対応が円滑に進むようにすることが必要である。

 改革の方向

(a)間接金融型調達手段の充実
 医業経営における資金調達については、医業が中小企業、個人企業的色彩が強く、また、医療サービスのニーズは安定しており急成長産業ではないといった特徴を踏まえれば、今後とも、基本的には、現在の医療機関の資金調達の大部分を占める間接金融型調達手段を充実させる方向で対応するべきである。その際、間接金融手段を充実させる観点から、通常の融資に加え、プロジェクトファイナンス、金融機関が医療機関に対して融資した債権を証券化、小口化する手法等について速やかに研究を開始することにより、間接金融による資金調達手段の多様化を図る具体的方策について検討を進めるべきである。
 また、金融機関が融資をしやすい環境の整備を図るために、医療機関の経営内容を適切に評価する指標や評価のための方策の研究等により、医療機関の経営情報を提供するための基盤を整備する必要がある。
 このほか、こうした間接金融を補完する手段として、病院についての信用保証の在り方についても、上記の医療機関の経営内容の評価に係る指標、方策の整備状況を踏まえ、研究・検討を深めるべきである。

(b)直接金融の一手法としての医療機関債の発行等
 医療機関債は、病院や診療所が債券を発行することで資金を調達する、直接金融の一手法であるが、株式とは異なり、経営内容への介入が原則生じないことから、現在でも、禁止されていない。こうした点が必ずしも明らかにされていないこともあって、これまでは発行の事例は限られていたが、今後は医療機関の資金調達手段の多様化を図り、銀行との交渉力の向上といったメリットにつなげる方策として、その積極的な利用が期待される。
 医療機関による医療機関債発行を円滑化するとともに、自己責任の下での適正な発行を可能とする観点から、次に掲げる点を踏まえた医療機関債発行のためのルール等を明確化するガイドライン等を制定する必要がある。
 債権者による経営介入の排除
 債券の流通制限
 債権保全の観点から運転資金としての調達禁止と募集時の調達資金の使用目的の明確化
 債券購入の有無等による診療差別の排除等応募の任意性の確保
 債権者保護のための発行医療機関による一定の情報開示その他
 債券発行による医療法人の役員及び当該役員の同族関係者に対する特別の利益付与の禁止

  (2) 国庫補助・政策融資などの公的支援の在り方

 医療機関の施設整備に当たり、近代化補助金や社会福祉・医療事業団融資などの公的な支援については、安定的な医業経営のための重要な資金調達手段であり、民間金融機関による融資等とも協調しながら、引き続き、充実を図る必要がある。また、今後、その在り方を検討するに際し、今後の医療提供体制のビジョンに沿って展開される政策との関連性をより深めるなど、重点化を図ることが必要である。
 社会福祉・医療事業団においては、独立法人化に向けて準備が進められているところであるが、今後とも、政策融資機関として、融資による政策誘導や緊急措置が必要な場合については、随時、適切な対応をすることが望まれる。

  (3) 経営安定化のための支援策

 医療機関の経営安定化を支援する方策としては、すでに触れた、経営評価指標の研究や附帯事業規制の緩和のほか、次の取組を行うべきである。

 社会福祉・医療事業団による経営指導の推進
 現在、社会福祉・医療事業団は、融資事業のほかに、個別経営診断・指導事業を行っているが、公的機関によるこうした事業については、その積極的に活用が期待されるとともに、こうした事業の活用が民間資金調達のために資することにもつながるものと考えられる。
 また、将来的には、社会福祉・医療事業団のこれらの事業のノウハウを活用しながら、公的な立場から病院の経営評価(ベンチマーク)事業を実施することを検討するべきである。

 中小病院の経営改善事例の研究等
 いわゆる第4次医療法改正による病床区分の届出期限を間近に控え、厳しい医療を取り巻く環境の中、地域医療のニーズに適切に応え、病院経営を安定化し、質の高い医療サービスを安定的に提供し続けるためにも、とりわけ中小病院の経営改善の方向性を検討することが必要である。
 そのため、今後の医療制度改革の動向も踏まえながら、地域の医療ニーズへの対応、収益性・事業性の確保、医療サービスの質の向上といった視点から、全国における中小病院の経営改善に係る好事例を広く収集・分析し、参考として活用しやすい形で情報提供する必要がある。


IV おわりに

 ○ 以上、質の高い医療提供の基盤となる医業経営の近代化、効率化に向け、医療法人制度を中心とする医業経営についての改革の方向と、これを支える政策、制度の在り方について総括した。
 ○ 厚生労働省においては、今後、これらを実施するために、医業経営において、患者の選択に資する情報開示や医療分野におけるIT化をはじめとした、質を競い合えるための基盤整備を行うとともに、規制の見直し、税制、予算上における取り組みを行い、必要な対策を講じることを強く望みたい。


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