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生殖補助医療による多胎について
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生殖補助医療技術による多胎は、排卵誘発法(排卵誘発剤の使用)を原因とするものと、体外受精を原因とするものがある。排卵誘発法による多胎は、排卵障害による不妊症の治療として、卵胞の成熟・排卵を促すホルモン(ゴナドトロビン等)を投与することにより、多数の卵胞が同時に成熟・排卵し、複数組の精子と卵子が受精することによって生じる。一方、体外受精による多胎は、妊娠率を高めることを目的として、複数個の受精卵を子宮に移植することにより、それらが複数個着床することによって生じる。
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平成8年度厚生省心身障害研究「不妊治療のあり方に関する研究」(矢内原巧)によると、三胎については、体外受精を原因とするものが46.7%、排卵誘発法を原因とするものが43.2%、自然が8.5%、四胎については、体外受精を原因とするものが52.9%、排卵誘発法を原因とするものが41.2%、自然が3.9%、五胎については、体外受精を原因とするものが33.3%、排卵誘発法を原因とするものが66.7%、自然が0%となっている。
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多胎妊娠は近年、増加傾向にあり、平成8年度厚生省心身障害研究「多胎妊娠の疫学」(今泉洋子)によると、平成7年の多胎児の出産率を昭和43年と比較すると、双子は1.3倍、三つ子は4.7倍、四つ子は26.3倍と上昇している。これは、生殖補助医療技術の普及によることが大きいと思われる。 |
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多胎妊娠の危険性
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多胎妊娠については、平成7年の日本産科婦人科学会周産期委員会報告によれば、胎児数が増加するにしたがって、出生体重が減少しており、双胎は2,153±703g、三胎は1,673±485g、四胎は1,203±359g、五胎は993±249g(平均±標準偏差)となっている。一方、流産率は胎児数が増加するにしたがって上昇し、双胎は1.7%、三胎は2.4%、四胎は15.0%、五胎は15.0%となっており、四胎以上が特に高くなっている。
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22週以降の周産期死亡率(対出産1,000)は、胎児数が増加するにしたがって上昇し、双胎は75.0、三胎は75.3、四胎は102.9、五胎は125.0となっている。後遺症害については、出生1年以上経過したものをみると、双子は4.7%、三つ子は3.6%、四つ子は10.2%、五つ子は30.8%となっており、特に四つ子以上が大きくなっている。後遺障害の内訳としては、脳性麻痺、精神発育障害、未熟児網膜症が多くなっている。
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また、母体の合併症のり患率については、胎児数が増加するにしたがって上昇し、双胎は78.1%、三胎は84.1%、四胎は95.0%、5胎は100.0%となっている。
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このように四胎以上の多胎妊娠については、母の合併症が増加し、児の予後が不良であるといえる。 |
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減数手術
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減数手術は、多胎による妊娠・出産のリスクを回避するためや多胎児を育てることに対する負担の回避等を目的としてはじめられたものであって、多胎妊娠に際して、一部の胎児を子宮内において死滅させる手術のことである。一般的には、胎児の心臓に塩化カリウムを注入することなどによって行われる。
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減数手術の実施状況については、前出の「不妊治療のあり方に関する研究」の調査によれば、アンケート調査結果を得た195施設中、減数手術は87例行われている。実施施設数は15施設となっており、その多くは診療所である。
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減数手術は、母体内において胎児を死滅させる手術であるが、母体保護法の人工妊娠中絶の定義規定は、「人工妊娠中絶手術とは、胎児が、母体外において、生命を保続することのできない時期に、人工的に、胎児及びその附属物を母体外に排出することをいう」と定めていることから、母体保護法の定める術式に合致しない手術であるとの指摘がされている。
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減数される胎児の選び方について、障害の有無や男女により選別する例が諸外国でみられたことから倫理的な面での議論がなされるようになっている。 |
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多胎・減数手術に対するこれまでの対応
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多胎・減数手術に対するこれまでの関係学会等の対応については、日本母性保護産婦人科医会は、平成5年、減数手術については、優生保護法(現母体保護法)上の人工妊娠中絶手術に該当せず、堕胎罪の適用を受ける可能性があるとの見解を公表している。
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日本産科婦人科学会は、平成8年2月に「多胎妊娠」に関する見解を公表し、生殖補助医療技術による多胎妊娠については、その防止を図ることでこの問題を根元から解決することを志向すべきとし、体外受精・胚移植においては移植胚数を原則として3個以内とし、また、排卵誘発に際してはゴナドトロピン製剤の周期あたりの使用量を可能な限り減量することを求めている。 |
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生殖補助医療技術による多胎減数手術に関する基本的考え方
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胎児は人ではないが人の萌芽であり、その生命は尊重されなければならないことは言うまでもない。刑法の堕胎罪、母体保護法も胎児の生命の保護をその保護法益の一つとしている。
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生殖補助医療技術による多胎はある程度、防止することが可能である。体外受精による多胎は、通常、子宮に移植する受精卵の数以上にはならず、3個以上の胚移植については、移植する受精卵の数を増やしても妊娠率はそれほど上がらないことが分かっている。また、受精卵2個の移植でも相当の妊娠率が得られるという指摘もある。
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排卵誘発法による多胎についても、ゴナドトロピン製剤の使用法や周期あたりの使用量を可能な限り減量するなどの単一排卵率が高い排卵誘発法が開発されている。
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こうしたことを踏まえると、生殖補助医療技術による多胎妊娠への対応は、多胎妊娠の防止により行われるべきであって、こうした防止の努力なくして多胎になった場合に減数手術により胎児の数を調整することは、胎児の生命の軽視といえ、認められるべきではない。
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しかしながら、以下に述べるような多胎防止の措置を十分講じたとしても、現在の技術では、多胎を完全に防止することはできない。4胎以上の多胎妊娠は母の合併症が増加し、児の予後が不良であることを踏まえると、減数手術が許容される場合があると考えられる。 |
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