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資料

平成15年3月○日

看護基礎教育における技術教育のあり方に関する検討会報告書(案)


はじめに

 当検討会は、平成14年11月11日に第1回の会合を開催し、5回にわたる検討を行い、看護基礎教育における技術教育の現状と課題、臨地実習において学生が行う看護技術についての基本的な考え方、身体的侵襲を伴う看護技術の実習指導のあり方、患者の同意を得る方法など実習環境の整備について取りまとめたので報告する。


 看護基礎教育における技術教育の現状と課題

 近年の臨床看護の場では、医療の高度化、患者の高齢化・重症化、平均在院日数の短縮等により、看護業務が多様化・複雑化し、密度が高くなってきている。また、患者の人権への配慮や、医療安全確保のための取り組みが強化される中で、看護師になるための学習途上にある学生が行う看護技術実習の範囲や機会が限定されてきている。

 特に、採血など患者の身体への侵襲性の高い看護技術については、臨地実習の際に、学生が実施できる機会が少なくなってきている。

 このような状況の中、看護師学校養成所における看護技術に関する教育の内容や卒業時点での到達目標は、個々の看護師学校養成所ごとにかなり異なってきており、卒業直後の看護師の技術能力にも格差が生じている実情にある。

 さらに、卒業直後の看護師の技術能力と臨床現場が期待している能力との間の乖離が大きくなってきており、安全で適切な看護・医療の提供への影響も懸念されてきている。


 臨地実習において学生が行う基本的な看護技術の考え方

 当検討会では、看護基礎教育における技術教育の改善を図るため、臨地実習において学生に実施させてもよい技術項目とその水準を分類し、教育指導の指針とすることとしたが、その作成に当たっての考え方は次のとおりである。

 技術の実施に当たっては患者の権利の保障と安全性の確保を最優先に考えて臨ませることとし、また、事前に患者・家族に十分かつ分かりやすい説明を行い、同意を得て行わせること。

 学生による技術の実施に当たっては、実施する援助内容についての説明能力を十分につけさせるとともに、事前に実践可能なレベルにまで技術を修得させておくこと。

 患者の状態や学生の学習状況によっては、必ずしも予め定めた水準での実施が適当でない場合がある。そのような場合には、以下の事項を考慮して教員や看護師の判断のもとに水準を変更して行うこととする。
学生が実施しても看護師等の実施に比較して患者へ大きな身体侵襲を来すものでないかどうか
学生の技術の修得状況や援助の根拠となる知識修得の程度が十分であるか否か
学生と患者・家族との人間関係に問題はないか

 技術項目については、学生の臨地実習において最終学年までに経験させてもよい項目を示すものであり、実習効果を考慮した上で、看護行為の実施によって予測される患者の身体侵襲の程度を目安として水準分類した。

 学生の看護技術の実施に関しては、以下の3つの水準をもうけ、各看護技術項目をそれぞれ分類した(資料1)。各看護技術項目とその具体的な技術内容は、「看護学教育の在り方に関する検討会報告(平成14年3月26日、文部科学省)」を基本とし、一部項目を追加、修正したものである。

水準1
  教員や看護師の助言・指導により学生が単独で実施できるもの
実施しようとする技術が特定の患者の状態に適していると教員や看護師により認められたものであれば、患者・家族の承諾を得て、学生が主体となり単独で実施できるもの。

水準2
  教員や看護師の指導・監視のもとで実施できるもの
患者・家族の承諾を得て教員や看護師の指導・監視のもとで学生が実施できるもの。

水準3
  原則として看護師や医師の実施を見学するもの
 原則として学生には実施させない。ただし、看護師や教員又は医師の指導・監視のもとで患者の身体に直接触れない範囲で介助を行うことは差し支えない。


学生の臨地実習に係る保健師助産師看護師法の適用の考え方

 看護師等の資格を有しない学生の看護行為も、その目的・手段・方法が、社会通念から見て相当であり、看護師等が行う看護行為と同程度の安全性が確保される範囲内であれば、違法性はないと解することができる。
 すなわち、(1)患者・家族の同意のもとに実施されること、(2)看護教育としての正当な目的を有するものであること、(3)相当な手段、方法をもって行われることを条件にするならば、その違法性が阻却されると考えられる。
 ただし、(4)法益侵害性が当該目的から見て相対的に小さいこと(法益の権衡)、(5)当該目的から見て、そのような行為の必要性が高いこと(必要性)が認められなければならないが、正当な看護教育目的でなされたものであり、また、手段の相当性が確保されていれば、これらの要件は満たされるものと考えられる。

(1)臨地実習における患者の同意等

 国民の権利意識及び医療安全への関心が高まっている今日、患者の権利を保障し、安全性の確保を最優先に実習を進めることは最も重要なことであり、臨地実習の開始に当たっては、患者の同意を得ることは必須の事項である。従って、学生の実習に際しては、患者・家族に対して、事前に十分かつ分かりやすい説明を行い、患者が納得した上で、協力の同意を得る必要がある。

 患者・家族の同意は、教員及び看護師等が実習の必要性や実習内容等について十分説明を行った上で、看護師学校養成所及び実習施設双方が連名で患者・家族と文書で取り交わすことが望ましい。また、口頭で同意を得た場合であっても、その旨を記録として残すことが必要である。

 説明、同意に関する文書には、患者・家族は同意を拒否できること、また、既に同意した内容についてもいつでも拒否できること、また、拒否したことを理由に看護及び診療上の不利益な扱いを受けないことを明記することが必要である。

 学生は、臨地実習を通して知り得た患者・家族に関する情報については、学習目的以外でこれを他者に漏らすことがないようにプライバシーの保護に十分留意すべきである。

 臨地実習説明書及び臨地実習同意書の例を資料2に示した。

(2)目的の正当性

 臨地実習は、学生が学内で学んだ知識、技術、態度の統合を図り、看護実践能力の基本を身につけるために不可欠な学習過程であり、また、実習は看護に必要なコミュニケーションを基盤とした人間関係能力を育成する重要な機会である。

 臨地実習における学生の学習のほとんどは、患者を受け持ち、必要な看護援助の過程を通じて行われるものであり、見学実習のみでは達成できない。そのため、看護教育、特に臨地実習に対する患者・家族の理解と協力が不可欠である。

 すなわち、臨地実習は看護師を目指す学生が必要な技術を修得する上で必須の学習であることから、看護教育として正当な目的を有するものと解される。

(3)手段の相当性

 学生に看護行為を行わせる場合には、以下の条件を整え、患者及び学生の安全の確保に努めなければならない。

(1) 実施する看護行為による身体的な侵襲性が相対的に小さいこと。

 この条件は、資料1の「臨地実習において学生が行う基本的な看護技術の水準」に準じて実施させることにより確保されるものと考えられる。

 なお、学生に看護行為を行わせるに当たっては、患者の安全確保のための方策が十分にとられることが重要であり、そのためには、援助内容についての説明能力をはじめ、事前に実践可能なレベルにまで技術を修得させてから臨ませるなどの準備を整える必要がある。

(2) 指導体制の確立について

 臨地実習における指導体制については、保健師助産師看護師学校養成所指定規則、看護師等養成所の運営に関する指導要領及び手引きに規定されている実習施設、実習指導者に関する内容を遵守することにより、物的、人的な実習環境の質を一定に保つことができると考えられる。大学及び高等学校においても、同様の指導体制の確立が図られる必要がある。

 学生の臨地実習に際しては、個々の患者に適切な看護援助が行われるよう、看護教員、実習指導者及び看護師の助言・指導を受けた上で内容を充実させ、水準に従って実施させることが求められる。

 また、学生の実習を受け入れる実習施設においては、学生の実習施設として認可されていることを院内に掲示するなど、患者・家族へ周知を促すことで実習への協力が得られ易くなるような環境の整備を行うことが望ましい。

(3) 学生が当事者となる医療事故の予防及び発生時の対応の確立について

 臨地実習が安全に実施できるよう、看護師学校養成所においては、カリキュラムの中で安全教育を徹底させることが必要である。また、実習施設においても、例えば、医療に係る安全管理のための指針の整備や職員研修の実施等、安全管理のための体制の確保を図ることが重要である。

 学内実習及び臨地実習では、学生及び患者の安全の確保を最優先に考え、可能な限り事前の準備を徹底することをはじめ、技術の実施に当たっては教員、実習指導者及び看護師による適切な指導・助言のもとに行わせることが必要である。

 また、看護師学校養成所及び実習施設においては、学生が当事者となる医療事故について予め連絡体制や対応方法、任意保険への加入等の対応など危機管理体制を整えるべきである。

 さらに、医療事故発生時の責任の所在については、「実習委託契約書」等で、予め明確にしておくことが望ましい。患者に対する第一義的責任は病院等の施設側にあるが、事故の形態や過失の程度によって責任の所在は変わり得ることを念頭に置いておく必要がある。


4 看護技術の学内実習について

 学生にとっての学内実習は看護技術を学習する上では不可欠のものであり、中でも学生がお互いに患者役と看護師役となって行う学内実習は臨場感をもたらし、体験により発展的に学習が深められる良い機会となる。

 また、学内でお互いの身体を使って技術を実施することは、臨地で患者に対して実施する際のよい模擬体験となり、患者の立場に立った看護技術の実施につながるものである。また、臨地実習の場における患者への実施の事前準備としても重要である。

 身体侵襲性の高い技術、プライバシーを損なう技術などの学内実習を行わせる場合は、学生にその必要性が分かるように十分説明し、同意を得ることが必要である。その際、学生が拒否することによって教育を受ける権利を損なわれることがないように、当該学生にはシミュレーターを使うなどして配慮しなければならない。

 学内実習で身体侵襲性の高い技術を学生相互に実施させる場合、個々の同意を得る必要性がある。ただし患者とは異なり、診療行為ではない一方、必要不可欠な学習であることから、必ずしも同意書を取り交わすことまでは必要ないと考える。

 なお、学内実習において採血等を実施する場合にあっては診療行為でないことから、処方は必要ないと考えられる。また、指導体制の強化及び学校医等との連絡体制を整えることは必要である。


おわりに

 学生が臨地実習において、看護の基礎技術が確実に修得できるよう、看護師学校養成所においては、学生の教育内容・方法を充実させるとともに、臨地実習の指導体制を更に強化するなど、より一層の努力が期待される。
 また、実習を受け入れる臨床側においては、看護教育への理解を深め、看護師学校養成所との連携を密にし、教育環境充実のための積極的な支援を行うことが望まれる。


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