第1 はじめに
本研究会は、平成13年10月から、不当労働行為審査制度に関して、審査手続の迅速化、司法審査や地方分権との関係について、関係者に対するヒアリングも実施しつつ、専門的見地から検討を行ってきたところであるが、検討の対象となっている論点は多岐に渡り、しかもそれらについて多様な観点から議論が行われている。 このため、本研究会として検討結果の取りまとめに向けて、不当労働行為審査制度の現状、問題点及び見直しの方向について共通の認識を形成すべく、これまでの検討結果を踏まえた中間整理を行うものである。 |
第2 不当労働行為審査制度の現状
1 | 労働委員会における事件の処理状況
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2 | 裁判所における労働委員会による命令取消訴訟の処理状況
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第3 問題点
1 | 事件処理
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2 | 和解による解決 和解については、不当労働行為審査制度が設けられた当初から労働組合法上何ら位置づけられておらず、むしろ不当労働行為審査事件については労働者の団結権侵害であるという性質から和解による解決は認められないとの見解もあったところである。しかしながら、不当労働行為審査制度は、労働組合活動に対する使用者からの侵害を防止し、もって労働組合又は労働者の利益を保護する制度であることを考慮すれば、申立人である労働組合又は労働者の納得による自主的解決は許容されるべきものと考えられる。 実際には、不当労働行為審査事件の大多数が和解(取下げを含む。)により解決しており、和解は、公労使それぞれの利益を代表する3種類の委員から構成されるという特徴をいかして労働委員会が果たしている重要な機能となっている。また、この点についてはヒアリングを通じて、ほぼ共通して長期的な労使関係の安定への寄与の点から評価されている。 しかしながら、現行の不当労働行為審査制度は、法律上は救済命令により団結権が侵害された状態を迅速かつ直接是正を行うことを目的とした制度として設けられており、現実の機能が法律に反映されていない。 また、和解については、争点や証拠の整理を十分行わないまま期日を積み重ねるケースが多く、そのことが和解が不調に終わった場合に迅速に審問を終結し、的確な命令書を作成する上で困難を来していることも否定できないし、また、結果的に審査の遅延につながることにもなっている。 | ||||||||||||||||||||||
3 | 地労委に対する規制 地労委は都道府県の組織であるが、委員定数や事務局組織については国が法律や政令で具体的に規定していることから、不当労働行為審査事件数の多寡や増減といった地域の実情に応じて弾力的、機動的な体制整備ができない等の問題が生じている。 なお、この点に関しては、ヒアリング等において、地労委等から、その規制を緩和する方向の意見が多数出されたところである。 |
第4 見直しの方向
1 | 今後の不当労働行為審査制度の役割 現行の不当労働行為審査制度は、労働者の労働組合活動の自由を保障するための制度として昭和24年に設けられて以来、長期的な労使関係の安定に大きく寄与してきた。その後、昭和40年代に入ると労使協議制度を中心として自主的に問題を協議し解決する労使自治が進み、労使関係が成熟してきたこともあって、不当労働行為審査事件の新規申立件数は近年増加しつつあるものの水準としてはピーク時に比べかなり低下している。 また、最近の経済構造の変化や企業間競争の激化、就業意識や働き方の多様化、労働組合の組織率の低下等を背景として、個別的労使紛争が増加するとともに、本来集団的な労使関係において生ずる不当労働行為の申立てについて、駆け込み訴えなど実質上個別的労使紛争とも考えられるものも1割程度見受けられるようになってきている。 しかしながら、大多数の労働者については、引き続き使用者との間に労働条件に関する交渉力の格差が存在することは否定できないので、それに対応するための集団的労使関係の役割はなお重要性を持ち続けている。また、近年においては経済情勢が厳しいことから、前述のように不当労働行為審査事件は増加しつつあることに加え、活発化する企業組織再編の際に、基本的な労働条件の枠組みが変更されるケースが目立つようになってきており、紛争解決システムとしての不当労働行為審査制度が適切に機能することが期待されている。 その一方で、審査が大幅に遅延したために、やむなく取下げ・和解に応じたり、そのような状況を目にして不当労働行為の申立てをすること自体をあきらめてしまう傾向も見られたりするなど、現行制度は十分に機能しているとは言い難い。 これらのことを考慮すると、今後とも、労働者がその労働条件の維持・改善を図るため、団結して集団的に労働条件を決定するシステムを保障する不当労働行為審査制度がその本来の機能を十分発揮し得るようにしていくことが求められる。 |
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2 | 現状の問題点解決のための基本的考え方 1で述べたように、不当労働行為審査制度の意義が今後とも重要であり続ける以上、審査の遅延や命令に対する不服率・取消率の高さといった問題を放置することは、今後ますます裁判の迅速化が図られる中においては、制度に対する労使を始めとする国民の信頼を損ね、ひいては制度そのものの存在意義を失わせしめかねない。 特に、審査の遅延の問題については、昭和57年に労使関係法研究会による「労働委員会における不当労働行為事件の審査の迅速化等に関する報告」で、詳細な分析に基づき様々な迅速化のための改善策が運用面を中心に提言されたところであるが、結果として、今日に至るまで審査の迅速化は実現されなかった。 したがって、審査の遅延問題等を解消するためには、もはや運用面にとどまらず、制度の在り方について法的整備を含む抜本的な見直しを行い、「平均審理期間を半減すること」を目標とした、迅速化のための総合的な取組を強力に進めていく必要があると考える。また、その際には労働委員会関係者はもとより、当事者の理解と協力を得つつ施策を進めていくことが不可欠である。 | ||||||||
3 | 見直しの基本的な方向 不当労働行為審査制度の在り方については、上記2の基本的な考え方に沿って、次のような方向で法的整備も含めた制度の具体的な見直し策について更に検討を深めるべきである。 この場合、初審命令に対する不服申立ての状況や労働委員会として不当労働行為に関する法解釈の統一を図る必要性を考慮すると、再審査制度は維持することを前提に検討すべきであると考えられる。
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照会先 厚生労働省政策統括官付労政担当参事官室 法規第二係 荒牧補佐、村瀬 TEL 03(5253)1111(内7751、7752) |
(五十音順)
参集者氏名 | 役職名 | |
伊藤 眞 | 東京大学大学院法学政治学研究科教授 | |
岩村正彦 | 東京大学大学院法学政治学研究科教授 | |
小幡純子 | 上智大学法学部教授 | |
菊池信男 | 帝京大学法学部教授 | |
毛塚勝利 | 専修大学法学部教授 | |
○ | 諏訪康雄 | 法政大学社会学部教授 |
村中孝史 | 京都大学大学院法学研究科教授 | |
山川隆一 | 筑波大学社会科学系教授 |
(○印 座長)