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多様な働き方に対応できる中立的な年金制度を目指して(案)
(雇用と年金に関する研究会報告)


1.はじめに

   近年、就労形態の多様化等が進む中で、個人の就労を抑制することのない、働き方の選択に対して中立的な年金制度を目指すことが求められている。
 また、働き方の選択に対して中立的な制度を目指すことが、被用者自身の年金保障の充実に結び付くとともに、年金制度の支え手を増やす取組にも資するものと考えられる。
 「雇用と年金に関する研究会」(座長:神代和俊放送大学教授)においては、このような観点から、これまで5回にわたり検討を重ねてきたところであり、今般その成果を以下の通りとりまとめて報告するものである。


2.最近における雇用の動向と年金制度

(1)  現下の経済状況の中、完全失業率が5%を超える状態が続くなど、雇用失業情勢は厳しさを増している。
 他方、平成13年の短時間雇用者(週間就業時間が35時間未満の雇用者)は1,200万人を超え、雇用者総数に占める割合も2割強となっている。また派遣労働者の数も近年増加し、平成13年度には総数が175万人に達するなど、就業形態の多様化等が一層進展している。
 かつてのように男性が若年、壮年期に集中的に働いて産業社会や家計を支えた時代から、女性や高齢者も含め、幅広い社会構成員がライフステージに応じてゆとりを持って働く時代に変化しつつある。

(2)  このような状況の中で、雇用者全体に占める厚生年金被保険者の割合が減少してきており、特に女性においてその割合が低くなっている。また、年齢階級別に雇用者割合と厚生年金被保険者割合の推移を見ると、男女とも20歳台を中心とする若年層で両者の乖離が大きくなっているとともに、女性では40歳以降でその乖離が大きい状況がうかがわれる。
 これは、短時間労働や不安定就労など、厚生年金制度が適用されない形での多様な働き方が、近年増加していることによるものと考えられる。

(3)  他方、今後、厚生年金の支給開始年齢が段階的に65歳まで引き上げられる中で、高齢者、特に60歳台前半の雇用の確保が重要な課題となっている。現状においては、処遇の変更や職域の開発の難しさもあって、定年引上げや継続雇用がなかなか進まず、原則として希望者全員が65歳まで働ける企業は全体の約3割にとどまっている。
 しかしながら、今後、急速な少子・高齢化等の進行が見込まれる中で、わが国経済社会を活力あるものとしていくためには、働く意欲のある高齢者が能力を発揮していくことが必要である。例えば、60歳台前半の不就業者(男性で33.5%、女性で58.5%)のうち就業を希望する者の割合は男性で55.0%、女性で34.6%となっており、依然として高齢者の高い就労意欲がうかがわれるところである。

(4)  これらの状況を踏まえれば、短時間労働など多様な働き方が増加する実態に的確に対応できる、中立的な年金制度を目指すことが重要である。また、60歳台前半で就労した場合に支給される在職老齢年金については、高齢者の就労に与える影響を見極めつつ、できる限り就労に中立的な仕組みとなるよう必要な見直しを検討することが考えられる。
 特に、自営業者等とは稼得の態様が異なり、一般に退職すれば収入の途を失うこととなる被用者にとっては、このように働き方に対して中立的な年金制度を目指すことが、年金保障の充実に結び付くととともに、さらには年金制度の支え手を増やす取組にも資するものと考えられる。


3.短時間労働者に対する厚生年金の適用拡大

(1)  厚生年金制度においては、適用事業所に使用される70歳未満の者のうち、常用的な雇用関係にあって「1日又は週の所定労働時間及び1月の所定労働日数が通常の就労者の概ね4分の3以上の者」を被保険者としている。他方、この適用基準を満たさない短時間労働者等については、20歳以上60歳未満であれば国民年金の第1号被保険者または第3号被保険者(被用者の配偶者で年収130万円未満の場合)となる。

(2)  本研究会において、このような厚生年金の適用の在り方について議論を行ったところ、個人の働き方の選択にかかわらず、できる限り被用者としての年金を保障していく方向が求められるとの考え方で一致した。現在、厚生年金が適用されていない短時間労働者について、次に掲げる理由から、その適用を拡大する方向で検討を進めることが必要である。

(1)  今後は、ライフスタイルに応じた多様な働き方が選べ、自らの能力が発揮できるとともに、年金制度の支え手にもなり得る仕組みが求められる。厚生年金の適用基準については、常用フルタイム労働を基本とした従来の考え方をあらため、個人の働き方の選択に中立的な方向を目指すことが必要。

(2)  短時間労働者の割合は業種等によって異っており、その割合が低い事業所については、厚生年金の保険料負担が高くなる結果となっている。多様な就業形態が今後さらに増加することが見込まれる中で、現在の適用基準を見直すことにより、このような不均衡を是正する方向が必要である。

(3)  また、実際に厚生年金の適用基準を見直す場合には、次のような観点から、例えば「週の所定労働時間が20時間以上、または年収65万円以上の者に厚生年金を適用する」という基準が考えられるのではないかとの方向であった。

(1)  まず、現在のパート労働者の就労実態を見た場合、「週の所定労働時間が20時間以上」という基準に見直せば、厚生年金の被保険者としてカバーされる範囲が相当程度拡がると見込まれ、被用者であるにもかかわらず、現在厚生年金の適用対象となっていない短時間労働者に対しても、被用者としての年金保障を充実させることとなる。
 また、既にこれまで雇用保険の適用が拡大されてきており、現在、週の所定労働時間20時間以上という基準で運用されていることとも整合的である。

(2)  次に、例えば短日数勤務などのように、週の所定労働時間が短くても比較的高い賃金を得るケースも想定されることから、最低賃金で週20時間就労した場合に相当する「年収65万円」を上回る者については、その労働時間にかかわらず厚生年金を適用することが考えられる。

(4)  なお、このような適用基準にあらためた場合には、従来、厚生年金の適用をめぐって指摘されてきたいわゆる「就業調整」の行動は、事業主側及び労働者側双方の立場から見ても、相当限られたものに抑えられるのではないかとの意見が多かった。またその結果として、短時間労働者の就労意欲の高まりが期待され、勤務ローテーションが組み易くなるなど、労務管理コストの低下にも資するとの指摘もあった(本研究会において8社を対象に実施した企業ヒアリングの結果でも、新たな適用基準の下での調整行動は考えにくい等の回答がみられたところである(本研究会における議論、企業ヒアリングの結果については別添2及び別添3を参照))。

 さらに、「週の所定労働時間が20時間以上」という基準については、従来の「通常の労働者の概ね4分の3以上」という相対的な基準よりも明確であり、実際に制度を適用する場合にも理解がされ易いのではないかとの意見があった。

(5)  他方、技術的な問題として、短時間労働者に対する厚生年金の適用を決定した後に、結果として労働時間や年間収入に変更が生じた場合の対応を検討すべきとの指摘があった。
 また、多様な就労実態が近年一層拡がり、労働者性の判断が難しいケースが増加しつつある中で、厚生年金保険法にいう「適用事業所に使用される者」をどのように判断していくのか、十分な議論が必要である。
 さらに、週の所定労働時間が20時間未満であっても、「年収65万円以上」であれば厚生年金を適用するという取扱いについては、例えば、適用事業所から65万円を超える賃金を得る一方でそれ以外の自営業収入等が大半を占めるケースや、適用事業所における勤務実態が極めて少ないにも関わらず年収で65万円を超えるケースなど、さらに検討すべき課題がある。

(6)  本研究会としては、今後、実際に制度を運用する段階での課題も十分に踏まえた上で、平成16年の年金制度改正に向けて、短時間労働者に厚生年金の適用を拡大する方向で、具体的な制度設計の検討が進められることを期待するものである。
 なお、その際には、短時間労働者に対する年金給付と保険料負担とのバランスや標準報酬月額下限の取扱い(※)、第3号被保険者制度との関係、さらには医療保険制度における取扱いとの均衡にも留意することが必要である。

 仮に、現行制度における標準報酬月額の下限(98,000円)のままで、現在、第1号被保険者または第3号被保険者である短時間労働者に厚生年金の適用を拡大する場合、年金給付は老齢基礎年金に加えて報酬比例年金を受給することとなる一方、保険料は短時間労働者の賃金ではなく、現行の標準報酬月額の下限に応じた負担となることに留意が必要である。
 また、標準報酬月額の下限を引き下げる場合には、第1号被保険者である短時間労働者について、現在より低い保険料の負担で、老齢基礎年金に加えて報酬比例年金を受給するケースが生じることをどのように考えるのか議論が必要である。

【参考】新たな基準による被保険者数の増加見込みについて

 仮に「週の所定労働時間が20時間以上の者」に着目して、厚生年金の適用がどの程度拡がるかを、一定の前提を置いて粗く試算すれば、被保険者数は最大で300万人程度増加する見込みである。また「週の所定労働時間が20時間以上、または年収65万円以上の者」に着目して、同様に一定の前提を置いた粗い試算をすれば、被保険者数の増加はさらに最大で90万人程度大きくなる見込みである。
 なお、これらの試算は所定労働時間及び年収の分布に基づく機械的な試算であり、「適用事業所に使用される者」をどのように判断するかという議論の整理等によっては、より少ない試算数字となり得る(試算の詳細については別添1を参照)。
 今後は、具体的な制度設計等の議論も踏まえながら、短時間労働者への適用拡大が年金財政に与える影響など、定量的な分析についてさらに検討を深めることが必要である。


4.在職老齢年金制度の見直し等

(1)  年金支給と就労との関係は、一般的には「退職年金構成(退職すれば年金を全額支給するが在職中は支給しない)」とすれば退職促進の方向に作用する一方、「老齢年金構成(在職中も年金を全額支給する)」では就労に対して中立的な方向に作用する。
 高齢者の就労に着目すれば「老齢年金構成」が望ましいと考えられるが、他方で勤労収入等のみで生活している現役世代とのバランスや、年金財政の健全化・安定化という観点も踏まえた総合的な検討が必要である。

(2)  現在の在職老齢年金制度は、在職中は年金を支給しつつ、年金や賃金の額に応じてその一部を支給停止するという仕組みであり、いわば「退職年金構成」と「老齢年金構成」との中間的な手法となっている。
 このような仕組みの下で、在職老齢年金受給者の賃金や労働時間について、一定の調整行動を行っている企業も見られ、高齢者の就労に影響を与えていることが指摘されている(本研究会において8社を対象に実施した企業ヒアリングの結果でも、在職老齢年金を考慮して賃金設定を行う事例などが見られる(企業ヒアリング結果については別添4を参照))。

(3)  本研究会では、在職老齢年金制度について、60歳台前半の就労に対してできるだけ中立的な仕組みとするという観点から、
(1)  在職老齢年金に「繰下げ受給」の新たな仕組みを導入する
(2)  現行の在職老齢年金制度の仕組みを改善する
という2つの方法について議論を行った。

(4)  まず、在職老齢年金の「繰下げ受給」という新たな仕組みの導入については、就労に対する中立性が前面に出ている、シンプルなわかり易い仕組みであるなどの意見があった。
 その一方で、この「繰下げ受給」の考え方については、
(1)  繰下げを選択した場合の増額率など、制度をどのように設計するかによって受給者の行動は変わるので、制度設計の具体的検討を行った上で議論を見極めることが必要ではないか
(2)  たとえ繰下げを選択した場合であっても、その高齢者を企業側が雇用し続けるかどうかは全く別の問題ではないか
などの指摘も見られたところである。
 在職老齢年金の「繰下げ受給」という新たな仕組みを導入するかどうかについては、今後、具体的な制度として設計する上での課題(※)や制度運用上の問題なども十分に踏まえた上で、さらにその適否について検討を深めることが必要である。

 在職老齢年金の「繰下げ受給」を考える場合、例えば従来のルールに基いて、60歳台前半の年金や賃金の額に応じて一部を支給停止された年金を、そのまま65歳以降に繰り下げて支給するような方式では、現在指摘されている高齢者の就労に与える影響は変わらないものと考えられる。
 他方、例えば60歳台前半における働き方や賃金等にかかわらず、「繰下げ受給」を選択すれば、60歳台前半の年金の一定割合に相当する額を、65歳以降の老齢厚生年金に上乗せして支給する方式も考えられる。この方式の場合には、就労に対する中立性がより高まる一方で、60歳台前半に高い所得を得て働いている者に対してより有利に作用し、低い所得を得て働いている者に対してはメリットのない仕組みとなることに留意が必要である。

(5)  次に、現行の在職老齢年金制度を改善することについては、本研究会において、例えば次のような方法を例示して議論を行ったが、高齢者の就労に対する影響という観点からは問題が残るのではないか、見直しを行うことによって制度がより複雑になるのではないかなどの意見があった。
(1)  在職中は一律に年金支給を2割停止する方式を廃止する
(2)  年金(8割支給)と賃金の合計が22万円を超える場合に、賃金が2増えれば年金を1停止するという調整方法(「2対1調整」)を緩和する(例えば「3対1調整」とする)
(3)  「2対1調整」を始める22万円のラインを引き上げる(例えば25万円にまで引き上げる)

(6)  今後、特別支給の老齢厚生年金の定額部分に係る支給開始年齢が段階的に引き上げられる中で、比較的低い額の年金を受ける60歳台前半層が出てくることが見込まれる。
 また、60歳台前半層の短時間労働者に厚生年金の適用を拡大した場合には、新たに在職老齢年金の対象となって年金の一部が支給停止されるケースが出てくることが考えられる。
 在職老齢年金制度の改善等については、このような新しい状況変化にも留意した上で、「制度をより複雑にしない形での対応」ができないか、引き続き検討を深めることが考えられる。


5.派遣労働者の取扱い及び失業への対応

(1)  派遣労働者に対する厚生年金の適用については、現行制度上特別の定めはなく、通常の労働者と同様に就労の実態に応じた適用がなされている。特に、いわゆる登録型の派遣労働者については、派遣期間中は派遣元において厚生年金が適用され、派遣期間が終了した後、次の派遣就労までの期間(以下「待機期間」という)は、20歳以上60歳未満であれば国民年金の第1号被保険者または第3号被保険者(被用者の配偶者で年収130万円未満の場合)に移る取扱いとなっている。

(2)  このような現行制度の取扱いをめぐり、例えば「待機期間」の度に国民年金の被保険者に移るため、届出事務が煩雑となることなどが指摘されていた。
 なお本件については、平成14年4月に新たな通知が出され、「待機期間」が1か月を超えない場合であって、同一の派遣元からの次の派遣就労が確実に見込まれる場合には、厚生年金等の適用を継続することができるような措置が講じられている。

(3)  本研究会では、登録型の派遣労働者の「待機期間」が1か月を超える場合など、平成14年4月の通知に基づく措置の対象とならないケースの取扱いに関して、例えば(「待機期間」であっても)任意で厚生年金に継続加入できる仕組みを導入することについて議論を行った。

(4)  まず、このようなケースについては、派遣元に登録しているという点を除けば、求職中の他の失業者と実質的には変わらないのではないかとの指摘があった。
 したがって、仮に任意継続加入の仕組みを検討するとしても、登録のみ行い再度派遣就労する見込みのない者との区分けができるのか、「待機期間」が長引く場合にどこまでの期間を対象とすべきか、事業主負担分を含めた保険料をどのように負担すべきかなど、制度的な整理が難しい課題がある。
 いずれにしても、これらの問題点も含めて、次の(5)に掲げる失業への対応に係る議論との間で、バランスの取れた検討が必要との意見が多かった。
 併せて、登録型の派遣労働者の取扱いについては、平成14年4月の通知に基づく措置で既に一定の成果が得られており、当面はその枠組みで対応してはどうかとの指摘もあった。

(5)  他方、厳しい雇用失業情勢の下で、構造的失業の度合いが次第に高まっており、労働者がその職業生活の中で失業を経験する可能性も少なくない。このような観点から、本研究会においては、失業への年金制度としての対応について、例えば失業期間中の保険料を免除する方法や、失業給付を賃金とみなして年金保険料を賦課する方法、失業期間中も任意加入できる仕組とする方法などを例示して議論を行った。

(6)  このような失業期間中の取扱いについては、まず「適用事業所に使用される者」を対象とする厚生年金について、報酬の支払関係や労務提供等が存在しない失業者を一律に適用することができるのか、慎重な議論が必要である。
 なお、現行制度においては、失業期間中は20歳以上60歳未満であれば、国民年金の第1号被保険者または第3号被保険者(被用者の配偶者で年収130万円未満の場合)に移る取扱いとなっており、申請により免除を受けることができる仕組みである。

(7)  他方、上記の登録型の派遣労働に係る「待機期間」の取扱いの場合と同様に、仮に任意継続加入の仕組みを検討するとしても、再就職せずに非労働力化する者との区分けができるのか、失業後どの程度までの期間を対象とすべきか、事業主負担分も含めた失業期間中の保険料をどのように負担すべきかなど、制度的な整理が難しい課題があるとの意見が多かった。

(8)  登録型の派遣労働者に係る「待機期間」の取扱いと、失業への対応というこれら二つの論点については、本研究会において提起された問題点等を踏まえ、両者に対する施策の整合性にも留意しつつ、今後の検討課題として引き続き議論を深めることが期待される。


6.おわりに

(1)  昨年7月の「パート労働の課題と対応の方向性(パートタイム労働研究会最終報告)」では、短時間労働など柔軟で多様な働き方が増加するのは時代の流れであるとした上で、今後こうした多様な働き方が「望ましい」形で広がるような政策の方向性が必要であると指摘している。また、昨年12月の「多様な働き方とワークシェアリングに関する政労使合意」においては、多様就業型ワークシェアリングによる多様な働き方の実現に向けて、政府としても更なる取組が求められている。
 他方、本年1月の「誰もが年齢にかかわりなく能力を発揮して働くことができる社会の実現に向けて(年齢にかかわりなく働ける社会に関する有識者会議)」では、高齢者の働き方によって不合理な取扱いが生じないよう、より公正な社会保障制度に見直すことが求められている。

(2)  本研究会において議論した「多様な働き方に対応できる中立的な年金制度」を目指すことは、こうした近年の雇用労働施策の大きな方向性とも合致するものであり、いわばその条件整備を担う重要課題の一つとして位置付けられる。
 他方、個人の働き方の選択に対して中立的な年金制度とすることを通じて、今後期待される就労意欲の高まりに的確に対応するためには、短時間労働など多様な働き方に応じた公正な処遇の実現に向けた取組や、高齢者雇用の推進が求められるところであり、いわば雇用と年金が一体となった対応が重要となっている。

(3)  一方、年金制度の在り方という観点からも、平成12年10月の「21世紀に向けての社会保障(社会保障構造の在り方に関する有識者会議)」や平成13年3月の「社会保障改革大綱(政府・与党社会保障改革協議会)」、同年6月の「今後の経済財政運営及び経済社会の構造改革に関する基本方針(閣議決定)」等において、個人の選択に中立的な制度を構築する必要性などが指摘されてきたところである。

(4)  このような動向の中で、平成16年の年金制度改革に向けた議論も本格的にスタートしている。
 昨年12月の「年金制度改革の骨格に関する方向性と論点」では、改革の基本的な視点の一つとして、年金制度を「少子化、女性の社会進出、就業形態の多様化等の社会経済の変化に的確に対応できるものとすること」を掲げている。
 また、給付と負担の在り方について、保険料負担の水準を固定した上で年金給付の水準を調整する新たな方式を選択肢の一つとして掲げており、いわば社会全体としての負担能力に応じた年金給付を行う考え方を提起している。
 いずれにしても、今後の労働力人口の推移等を展望すれば、女性や高齢者をはじめとして、柔軟で多様な働き方を如何に望ましい形で広げていけるかが、わが国経済社会の活力を維持していく上で重要であるとともに、年金制度の安定的な運営を確保する上でも分岐点となっている。

(5)  本研究会としては、「多様な働き方に対応できる中立的な年金制度」を目指してこれまで議論を重ねてきたところであり、国民にわかり易い制度とすることを念頭に置きつつ、実際に制度を設計をする際に留意すべき点などについても、現段階におけるできる限りの指摘を試みた。
 今回の報告に際して整理したそれぞれの内容が、平成16年の年金制度改正はもとより、雇用と年金をめぐる各般の施策において、総合的な観点から的確に活かされることを期待するものである。


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