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資料2

水質検査における精度と信頼性保証のあり方

(担当主査:安藤委員)


1.水質検査の意義

 水質検査という言葉で表されるものには、原水の取水から浄水処理、配水に至るまでの一連の水質管理の状況を確認するための検査と水質基準に適合しているかどうかを判断するための検査という2種類の検査があると考えられる。これらが相俟って、水道水質管理の徹底、ひいては、安全な水の供給という水道の使命に寄与するものであるが、その精度や信頼性保証の問題を考える場合、これらを混同すると、議論が混乱する恐れがある。このため、これら二つの水質検査について整理しておく必要がある。

1.1 システム管理のための水質検査

 原水の取水から浄水処理、配水までの一連の水質管理の状況を確認するための水質検査は、原水の変動、浄水プラントの運転状況などを把握し、これを水質管理システムに反映させるために行われるものである。

 従って、検査項目は、リアルタイム、あるいは準リアルタイムで取得することできる項目が選ばれる必要があり、水質基準項目のように、多段階にわたる操作が必要で、その結果の取得のために時間を要するような項目は、この目的に適さないことが多い。これらに該当する検査項目としては、例えば、色や濁り、水温、pH、アルカリ度、電気伝導度などがあげられるよう。いずれにしろ、目視や自動監視装置により瞬時にデータを取得できるような項目である必要がある。

 このような特質を考えるとき、この種の検査で重要なのは、μg/lのオーダーでの検査の正確さではなく、迅速性と継続性の観点である。迅速性により急な水質等の変動が検知され、継続性によりシステムの管理状況の可否が判断されるからである。

 この観点からすると、この種の検査は、水道事業者自らによって行われるべきであり、水道法20条のただし書きに基づき、地方公共団体の機関や指定検査機関(注:指定制度については平成15年度に登録制度に変更されることとなっている。以下同じ。)に委託して行う場合であっても、この点を踏まえて委託すべきである。

1.2 水質基準への適合を確認するための水質検査

 水質基準への適合を確認するための水質検査は、配水される水の安全性を確認するための検査であり、当該水道事業者等による水質管理を総体として評価する検査である。

 水質基準の項目については、微生物から化学物質まで多種多様にわたっており、その検査レベルもμg/lといった極微量レベルでの測定が求められる。当然のことながら、その測定には、高度の施設や機器を要し、検査者についても相当の熟練した技術が要求される。さらには、この検査が、需要者が直に口にする水の安全性を確認することであることを考えれば、正確、かつ、精度の高いものである必要がある。

 このような特質を考えるとき、この種の検査にあっては、高い信頼性の保証が求められて当然である。このため、これまでも水質検査の精度の管理については、十分な留意が払われてきたところであるが、厚生労働省が実施している水道水質検査の精度管理に係る調査の結果を見ると、必ずしも満足できる状態とは言えない状況にある。

 一方、水道水質検査以外の分野においては、検査の信頼性の確保策として、優良試験所基準(Good Laboratory Practice, GLP)の考え方の導入が進んでいる。具体的には、食品衛生の分野では既に導入されており、環境測定の分野でもISO9000シリーズやISO17025などといった形で、その導入が図られている。

 このようなことから、水道水質検査の分野においても、今回の水質基準の見直しを機に、その精度と信頼性保証のあり方について見直しを行うこととした。

 なお、上述のとおり、ここで検討する「精度と信頼性保証のあり方」については、あくまで水質基準への適合を確認するための水質検査に適用するものであり、水質管理システムの運転のために行われる水質検査に適用するものではない。当該検査については、別の観点から検討されるべきものである。


2.水道水質の検査方法

2.1 検査方法
 水質基準項目の測定に当たっては、mg/lからng/lまで広範囲の濃度レベルにわたり、正確な測定が要求される。その測定方法は、項目に応じて12の方法に分類されるが(表1)、その特質を上げれば次のとおりである。
1) 目視法と官能法は人の感覚による方法である。
2) 機器を使用しないものには、滴定法、重量法及び培養法などがあり、操作は簡便であるが、人の感覚によるため、熟練を要し、個人差や誤差が大きいなど精度に課題がある。
3) 健康に関連する項目は、定量下限値としてμg〜ng/lのレベルが要求されるものが多く、論理的に設計された新しい装置を用いているが、複雑なマトリックスの実試料に対しては極めて無力であり、かつ、低濃度が要求されることから、人による誤差を生じやすい。
表1 検査方法と対象項目(現行46項目)
検査方法 処理法 対象項目 求める定量下限
原子吸光光度法 フレームレス法 Cd,Pb,Cr,Zn,Fe,Cu,Na,Mn,As,Se 0.00x-0.x mg/l
水素化物発生法 ひ素、セレン 0.00x mg/l
還元気化法 水銀 0.0000x-0.00x mg/l
ICP,ICP/MS法   ひ素、セレン、水銀を除く金属 0.0000x-0.00x mg/l
ガスクロマトグラフ法 P&T,H/S-GC-MS法 揮発性有機化合物・農薬 0.000x-0.x mg/l
固相抽出-GC-MS法 シマジン、チオベンカルブ
HPLC法 固相抽出-HPLC法 チウラム 0.000x mg/l
イオンクロマトグラフ法   NO2, NO3-N, F-, Cl- 0.000x mg/l
吸光光度法   ABS, Phenol, NO2,NO3-N, F- 0.0x-x mg/l
透過光測定法   色度,濁度,pH値 0.0x-x mg/l
滴定法   カルシウム,マグネシウム等、有機物等  
重量法   蒸発残留物 x
目視法、官能法   色度,濁度、味,臭気  
培養法   一般細菌,大腸菌群  
2.2 検査の感度・精度
 水質検査法の検討の際に示したところであるが、水道水質の検査法としては、感度及び精度に関し、以下の条件を設定している。
1) 原則として基準値の1/10の定量下限が得られること。
2) 基準値の1/10付近の測定において、金属類では標準偏差(CV)が10%以内であること、また、有機物ではCVが20%以内であること。

3.精度と信頼性保証の観点から見た水道水質検査の現状

3.1 水質検査の実施機関

 水道法に基づく定期及び臨時の水質検査は、水道事業者等が自ら保有する検査施設、水道事業者等の共同検査施設、保健所等の地方公共団体の検査機関又は厚生労働大臣が指定した検査機関により行われている。現行の水質基準46項目全項目を検査できる施設を有する機関数は、表2のとおりである。

表2 全項目検査実施できる施設数
水質検査の実施主体 平成14年度 平成4年度
水道事業者等の自己検査施設 175 96
水道事業者等の共同検査施設 20 16
保健所等の地方公共団体の検査機関 76 39
指定検査機関 157 69

 我が国には約15,000の水道事業者等が存在しているが、この表から、大部分の水道事業者等が、必ずしも全項目でないとしても、何らかの形で保健所等の地方公共団体検査機関や指定検査機関など外部の機関へ水質検査を委託していることがわかる。

3.2 水道事業体等の水質検査機関

3.2.1 水質検査機関が担う業務

 現在の水道事業体等における水質検査機関に求められているものは、単に水質検査を実施するというよりも、原水の変動等を常に把握し、その結果に基づいて最良の浄水処理条件を設定するなど水質管理に関する工程管理的な業務が求められている。また、検査担当者についても、水道水質危機に対応可能な人材育成を目的として、水質検査に関する専門性の獲得よりも、原水から給水栓に至るまでの水道全体を経験させる人事が行われている。

 このことは高度な専門技術を必要とする検査部門としては矛盾した体制であり、検査データの精度向上の観点からすると大きなマイナス要因となっている。従って、水道事業体等の検査機関では、人材が恒常的に不足し、検査技術の向上が進展しないばかりか、維持していくことさえ困難となっている。

3.2.2 水道事業体の規模の考慮

 大から小まで種々の規模の水道事業体があること、原水水質の状況がまったく異なること、人員、人材の質と規模がまったく異なること等のため、精度や信頼性保証に係わる問題を同一レベルで議論することが難しい。

 例えば、精度と信頼性保証のシステムを導入するとした場合、大規模の水道事業体では、検査機関の規模も比較的大きいと考えられ、精度管理や信頼性保証の体制を構築できる可能性は高い。

 一方、中規模水道事業体の検査機関(水道事業者等の検査機関の80%が水質検査担当者5名以下)では精度管理や信頼性保証の業務が増加することになるため、全体の検査業務に大きな負担が発生する。なお、中小水道事業体の検査機関では、信頼性保証ばかりでなく、精度管理あるいは水道水質危機管理についても実施が不可能な事業体が多い。

 いずれにしろ、精度と信頼性保証については、検査担当者はもとより、管理責任者まで多くの人員を動員し、かつ、長時間を要するため、時間と人数、人件費を多く費やすことになり、業務量が増大し、人材の確保が極めて困難な状況になることが予想される。特に、全項目の検査を実施している中規模水道事業体への影響は深刻である。

3.3 指定検査機関

 公益法人の検査機関のほとんどは、食品衛生法をはじめ、多くの法律に基づく指定検査機関の資格を取得している。また、浄水処理の工程管理や突発汚染事故時での対応などに対して経験を踏まえた相談や水道水質危機管理に貢献できる。

 食品衛生法では既に精度管理と信頼性保証のGLP体制がスタートしている。これらの状況から、水道法に基づく検査についても、精度管理や信頼性保証の体制を構築することは可能であると思われ、ISO9000あるいはISO17025の認可申請の方向で検討している機関も多いものと思われる。

 民間の検査機関には、単に分析機器と人材の面から参入した機関と、分析機器と人材の面に加え技術上の経験が豊富であることをもって参入した機関の2つのタイプがある。従って、精度管理あるいは信頼性保証体制等への移行には十分対応が可能な機関と対応できない機関に分かれる。

 特に、工程管理や水質変動あるいは突発水質汚染等への対応には、全く経験がない機関が多いことに留意すべきであり、水道水質の危機管理に対応できない可能性が高い。従って、特に水道水質危機管理が弱体な中小水道事業体がこれら機関に委託するに当たっては、浄水処理から危機管理に至るまでの経験と知識の保持の体制を求めるべきである。

3.4 地方公共団体の検査機関

 地方公共団体の検査機関は、食品衛生法の指定機関をはじめとして多くの法律に基づく試験検査を行っている。 食品衛生法では既に精度管理と信頼性保証のGLP体制がスタートしている。従って、水道水質の検査についても、精度管理や信頼性保証の体制を構築することは可能であり、ISO9000あるいはISO17025の認可申請の方向で検討できる機関も多いと思われる。

 しかし、地方公共団体の検査機関のほとんどは、工程管理における検査等には対応できないことが多い。ただし、長年の経験から水質異常に対しての相談はできる。

3.5 精度と信頼性の保証の確保策

 精度管理については、厚生労働省が平成12年度より指定検査機関を対象として「水道水質検査の精度管理に係る調査」を実施してきており、平成14年度からは同省の呼びかけに応じた150余の水道事業体等の検査機関もこれに参加している。その結果によれば、指定検査機関及び水道事業体の検査機関のいずれについても、約1/3が不満足とされるZ値の絶対値が3を超えている現状にある。

 一方、信頼性の保証については、いずれの機関に対しても調査しておらず、検査データの信頼性に関する保証がない現状にある。

 水道水質については安全性の担保が前提条件となっているが、このような状況は、水道水質危機管理上からも重大な問題である。


4.流通機構の中の医薬品や食品の分野におけるデータの精度と信頼性保証

4.1 食品分野における信頼性保証

 食品分野では、輸入食品の増加、食品の安全性に関する問題の複雑化等による行政ニーズの高まりから、食品衛生検査機関における検査業務は、質的に高度な内容が求められ、また、食品分野における貿易摩擦に伴い国際的な問題にも発展したことから、FAO/WHO合同食品規格委員会、国際標準化機関(ISO)、AOAC(Association of Analytical Communities) Internationalにおいて、内部精度管理、検査業務管理などの標準的手法がとりまとめられた。

 これらの動きを受け、厚生省(当時)では、食品における検査結果の数値に対する信頼性確保として、平成8年5月に食品衛生法施行規則を改正し、実質的な信頼性保証体制を起動させた。

4.2 医薬品分野における信頼性保証

 医薬品分野では、国際的調和の必要性が叫ばれ、検査データとその保証について検討を重ね、検査結果の保証体制として優良試験所基準(GLP)が構築された。我が国でも、国際調和の観点から、OECDや米国の考え方を踏まえてGLP体制が確立され、1980年代の早い時期からスタートしている。


5.水道水のデータの質に関する特異性

5.1 社会での流通機構を伴わない水道

 水道水は消費者にとって商品であり、その品質は担保されるべきである。しかしながら、流通機構の中でデータの質が極めて厳格に求められる医薬品や食品分野と異なり、水道水の検査データが商品としての信頼性に直接的に影響することは少なかった。

5.2 水質のデータの質が問われる特殊な状況

 水道事業体以外の他機関との整合性が問われる例としては、原水での事故等に際して、他機関とのクロス検査や水質データの検査請求がなされる場合などである。外国船への水道水の供給等、流通に関与する対象となる事例は極めて少ない。

5.3 データの質の保証の必要性

 水道水質検査データの質は、現在の体制では、その精度と信頼性の保証が担保されていない。情報公開や他の分野での精度保証体制が確立している状況では、精度に係わる問題が発生した場合、精度とその保証の手段を持たないことは検査機関や水道事業体にとって無防備であると言わざるを得ないことを自覚すべきである。

 このことから、受益者に対して、安全性の保証を確保しないまま自身の情報のみで評価してよいか、あるいは第三者機関による保証体制を組み込んでおくべきかについて考えておく必要がある。消費者に対する安全性を保証する方策として、データの精度と信頼性の保証(GLP)を考えていく必要がある。

 前述のとおり、必要な場合、水道事業者等は水質検査を地方公共団体の機関又は指定検査機関に委託することができるが、精度管理や信頼性保証に関する考え方を確認した上で委託していくことが重要である。

6.水道水質検査における精度と信頼性の保証のあり方

6.1 品質保証体制(GLP)の導入

 上述のとおり、水道水質検査においても、その精度と信頼性の保証は、極めて重要、かつ、喫緊の課題であり、その解決のためには、客観的な技術評価の精度管理とその保証として水道水質検査分野にもGLPの考え方を取り入れた品質保証の体制を導入する必要がある。具体的には、信頼性保証部門と水質検査部門(理化学的検査、細菌学的検査)に各責任者を配置した組織体制を整備し、標準作業書による作業のマニュアル化を行うなど、統一的に正確な検査結果を得るための体制の構築が必要である。

 検査に関するGLPとしては、ISO17025やISO9000が定められている。このうち、ISO17025では個別の検査項目毎に品質保証の体制の構築が求められている。当然のことながら、水道水質検査独自のシステムを構築することも論理的には可能であるが、現にISO17000シリーズやISO9000シリーズが実質的な国際標準として機能している以上、将来の国際的な調和を考慮すれば、これらを参考にしつつ、これらと互換性のあるシステムを導入することが適当と考えられる。

 そのレベルとしては、ISO17025レベルとすることが望ましいが、直ちにこのレベルを求めることは我が国の現状からみて多くの困難が予想される。このため、本専門委員会としては、まずISO9000シリーズのように試験所全体としての品質保証体制の導入を図り、その後、さらに上級のISO17025レベルにステップ・アップさせることを提言する。

 なお、ISOの制度に見られるように、品質保証体制の導入に当たっては、外部機関による査察・認証が不可欠であり、水質検査における品質保証体制の整備に当たっても、これらのシステムを参考にしつつ、査察・認証のあり方について検討することが必要である。

6.2 登録水質検査機関

 公益法人改革に関連して、平成15年度に水質検査機関の指定制度が登録制度に改められることになっている。その目的は、指定制度を、行政の裁量の余地を極力狭める形の登録制度に改めることにより、水質検査分野への民間参入を促進させようとするものである。

 しかしながら、水質検査は、水の安全性を最終的に確認するための機会であり、その質の確保はおろそかにはできない。また、精度管理調査の結果を見る限り、指定検査機関における精度と信頼性保証のレベルは必ずしも満足できるものとは言えない現状にある。このようなことを踏まえれば、登録制度の移行に当たっては、上記の品質保証体制の確立を是非とも登録の要件とすべきである。さらに、その実効性を担保するための査察・認証についても十分な考慮がなされるべきである。

6.3 水道事業体等及び地方公共団体の水質検査機関

 GLPを核とする品質保証体制の導入については、登録水質検査機関への適用が必要である以上、当然、水道事業体等の水質検査機関に対しても同様に適用されるべきことは論を待たない。需要者、一般国民にとって、供給される水の安全性の検査の質が検査者によって異なることは受け入れがたいからである。

 しかしながら、水道事業体等の水質検査機関の現状を見る限り、これを直ちに適用した場合、特に、中小規模の水道事業体では業務量増大・人員不足などにより自主検査から委託検査に切り替える事業体が増加することが予想され、これまで自主検査によって確保されてきた水質管理への対応体制が不十分になるおそれがあり、水質検査本来の目的である水道水質管理自体に問題を生じかねない。

 従って、水道事業体等の水質検査機関については、一定の猶予期間をもってこれを適用させることとし、その間、水道事業者等による自主的な取り組みを求めていくことが適当であると考えられる。

7.精度と信頼性保証の制度を導入する場合の留意点

 上記6において、水質検査における精度と信頼性保証の制度の導入を提言したところであるが、その導入に当たっては、以下の諸点に留意することが必要である。

7.1 水道事業体等の水質検査機関

 大規模な水道事業体等では精度と信頼性の保証体制の確立は可能と考えられるが、中小規模の水質検査機関では4〜5名の担当者で運用しているのが現状であり、精度と信頼性の保証体制が導入された場合、業務量の増大は明らかで、人員及び人材不足の状況が生まれると考えられる。

 特に、人員確保による経費増大ばかりでなく、高度な人材確保の困難さから、自主検査を放棄して民間検査機関等へ委託する事業体が増加することが予想される。この場合、工程検査等のきめ細かな水質管理の不徹底等が起こる水道事業体が増加する可能性がある。このことは、これまで自主検査によって確保されてきた水質管理への対応体制が不十分になるおそれを惹起する。

 従って、これらの水道事業体等に対しては、必要最小限の精度管理は行うがそれ以外の一部または全部の信頼性保証に係わる業務は切り離して外部機関への委託等を検討するか、あるいは近隣事業体との共同運営を検討するなど、水道水質検査体制の整備と整理について時間的猶予を与えて検討させる必要がある。

7.2 指定検査機関(今後登録検査機関に移行)

 現在の指定検査機関については、食品分野等では既に確立されているように、検査体制はもちろんのこと国内の信頼性保証体制は品質保証の観点から不可欠であり、両体制の整備が要求される。既に、ISO9000やISO/IEC17025を取得している機関もあることから、業務量は増加するものの、信頼性保証体制の整備はスムーズに移行が可能であると考える。

 指定検査機関の一部には、浄水処理での相談や突発汚染事故時での対応などにおける経験が豊富であることから、水道水質危機管理にある程度貢献できると考えられる。

 しかしながら、水道の維持管理上不可欠な原水水質管理や工程管理に必要な検査への貢献という点では改善されることは少なく、水道水質に起因する危機管理に貢献できない可能性が高い。従って、水道水質危機管理や、一般的水質管理に迅速な対応が可能な体制の構築設定が必要である。

 公益法人でない民間の検査機関が新たに参入した場合、これらの機関では、分析機器、人材が豊富であることから、精度管理あるいは信頼性保証体制への移行は十分対応可能であると考えられる。

 しかしながら、工程管理や水質変動や突発水質汚染等に対する水道事業体に対する対応や全く経験がないことから水道水質の危機管理には対応できないと考えて良い。従って、中小水道事業体にあっては民間検査機関における浄水処理から危機管理に至るまでの経験と知識の保持を要求することなどが必要であると共に、相互の信頼関係を確立する必要がある。

 また、中小水道事業体と民間検査機関との間で水道水質危機管理マニュアルを明確に設定しておく必要がある。以上、民間検査機関について考慮しておくべき点としては、精度管理・信頼性保証はもちろんのこと水質検査結果の迅速な報告、水道水質危機管理に対する知識と浄水処理技術の知識等に対応できる人材の確保等が挙げられる。

7.3 地方公共団体の検査機関

 地方公共団体の検査機関では、既に食品分野でGLP体制の整備が完了し、機能している状況である。従って、水道水質検査にもこの体制を組み入れていくことは比較的容易である。

7.4 統一精度管理調査の実施

 これまで、水質検査の分野におけるGLPを核とする精度と信頼性の保証体制の導入につき提言してきたところであるが、これはあくまで各検査機関が最低限満たすべき要件であり、標準試料を用いた統一精度管理の実施により検査機関間における水質検査技術の格差是正、向上に努めていくべきである。


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