03/01/27 第6回医療安全対策検討会議医療に係る事故事例情報の取扱いに関する 検討部会議事録                医療安全対策検討会議         医療に係る事故事例情報の取扱いに関する検討部会                    第6回                        日時 平成15年1月27日(月)                                  17:00〜                             場所 厚生労働省省議室 ○堺部会長  定刻になりましたので、第6回「医療に係る事故事例情報の取扱いに関する検討部会 」を開会させていただきます。本日は13名の委員の方々によって開催されます。お忙し い中を御参集いただき、誠にありがとうございます。  本日は岡谷委員と、樋口(範)委員が御欠席、また一部の委員の方が少し遅れてお見 えになるという御連絡を頂戴しております。また、篠崎医政局長が本日は海外に御出張 中のため欠席です。  本日の議事は、「報告書とりまとめに向けてさらに議論を要する事項」についてで す。第1回から第4回までの会議では、被害者の御家族、被害者支援団体の方々、医療 関係団体の方々、弁護士の方々、それぞれのお立場からの御意見を伺って質疑を行いま した。また第5回の会議では、他産業の立場から御意見を賜るとともに、諸外国の状況 について委員の方から研究結果の御報告をいただき、質疑を行いました。  また、これらの検討状況については、1月15日に、この部会の親会である「医療安全 対策検討会議」において、起草委員会委員長である前田委員から御報告をいただいて、 御議論をいただいたところです。  これらを踏まえて起草委員会を2回開催しました。起草委員の皆様方に御検討いただ いた結果をさらに議論を要する事項として取りまとめたとのことですので、本日はそれ を中心に検討を進めたいと存じます。  それではまず資料の確認をお願いします。 ○宮本専門官  資料1が「報告書とりまとめに向けてさらに議論を要する事項について」になりま す。次に参考資料ですが、参考資料1が、「第1回から第5回までの主な意見」です。 参考資料2は、「第14回医療安全対策検討会議における主な意見」です。参考資料3 は、「医療事故頻度調査(諸外国における医療事故カルテレビュー調査等)」で、長谷 川敏彦委員から厚生労働科学研究の中間まとめの資料として御提出いただいたものにな ります。  次に参考資料4は、「ヒヤリ・ハット事例収集・分析・提供システムについて(医療 安全対策ネットワーク整備事業の概要)」であり、概要及び参考資料として、ヒヤリ・ ハット事例収集等事業の全事例集計結果を付けています。参考資料5は、「患者の苦情 や相談に対応するための体制整備について」です。参考資料6は、「医師及び歯科医師 に対する行政処分の考え方について」です。参考資料7は、「診療に関する情報提供の 在り方に関する検討会について」です。以上です。 ○堺部会長  本日の議事の進め方ですが、まず1月15日の親会である検討会議での御議論について 簡単に御報告をいただいて、その後、起草委員会委員長である前田委員から、資料1の 「報告書とりまとめに向けてさらに議論を要する事項」の御説明をいただいて、その後 に質疑応答を行うことにします。  なお、今回と次回は、できるだけ論議を尽くさせていただきたいと考えていますの で、資料1についても、1つの項目ごとに御報告をいただき、その議論した後、次の項 目に移るというふうに本日は進めさせていただきます。次回も残りの部分を同様に行っ た後で、さらに総括的なものが必要でしたら御議論をいただくというように進めたいと 存じます。  それでは前田起草委員長から資料1について御報告をお願いしますが、参考資料2に ついては、実は参考資料2をご覧いただくと、この内容が資料1の内容とかなり重複し ているので、資料1について前田起草委員長から御報告いただき、それに並行して参考 資料2の内容をご覧いただきながら、両方併せて御議論いただくようにお願いいたしま す。 ○前田委員  資料1をご覧ください。先程経緯は詳しく説明いただいたわけですが、2回の起草委 員会と親委員会の議論は非常に重なり合うのでまとめてお話したほうがわかりやすいと 思いますので、まず1の「事故事例情報の活用目的について」というところから御説明 させていただきます。  いろいろな議論が膨大な量になって、ヒアリングの内容も含めて情報量は非常に多い わけですが、切り口としては活用目的をどうするか、というところをきちんと決めてお かないと、結局他のところがズルズル動いてしまうという御指摘があって、そのとおり だと思うので、まずいちばん重要な事故事例情報の活用目的について、ということを御 議論いただきたいと思います。  まず1ですが、医療安全を推進する観点から医療事故事例情報を活用する主な目的は 以下の2点になるのではないかとして、(1)事故の再発防止、発生予防という点です。 (2)医療事故の発生状況の把握。要するに「状況把握がきちんとなされていないではな いか」という批判に応えていくということです。  この2点について情報を集めて、活用していくということに関しては、それを進める べきだという御意見が多々出されたわけですが、それ自体を否定する議論はなかったと 起草委員会ではまとめています。もちろん御異論があれば御指摘いただきたいと思いま す。  ただ問題は、この再発防止、発生予防、状況把握だけで、その目的のために特化して 情報収集を行うことがよいかどうかというのが、いちばん悩ましいところです。このほ か、個々の事故事例の円満迅速な解決等という視点からも何らかの対応を考える必要が あるのではないかという問題です。  いかに再発を防いでいくかという一方の柱というのは動かないものとして、これは共 通の願いとしてあるわけですが、被害に遭われた患者の皆様のヒアリングなどを踏まえ て、そこに出された意を汲んだ、何らかの事故事例の活用の仕方も、一定の範囲で考え る必要があるのではないかと思います。  ただ、(1)、(2)として示した柱となるものと、それが完全に同じ方向を向いて調和す るわけではありません。ただ、いずれかを100%採るか採らないかという問題でもあり ません。その組合せが非常に微妙になっています、それを踏まえて具体的にどういう制 度を設計していくかという議論になってくるかと思います。ただ、それに関していろい ろな御意見が完全にはこの委員会でも尽くされておりませんので、是非忌憚のないとこ ろをお聞かせいただきたいと思うのです。  それと付加部に関係する項目として、収集の具体的な方法や収集の範囲というもの は、上に挙げた目的のウエイトの置き方によって異なるのではないか。再発防止に特化 した収集方法をすべきなのかどうかということです。それとある意味でつながります が、一応分けて考えていただきたいのは、情報収集することによって医療全体が萎縮す るとか、個別の医療が萎縮する、また防衛医療というのも類似の概念だと思いますが、 こういう危険が生じることが考えられるので、適切な収集が期待できない場合があり、 その対応を含んだ制度でなくてはならないのではないかという意見は強かったと思いま す。  これらの点を踏まえて、まず事故事例情報を集めていく、いちばん基本的な狙いを御 議論していただきたいと思います。 ○堺部会長  いま御報告いただいたように、まず事故事例情報の活用目的について御議論を頂戴し たいと思います。ただいま御紹介がありましたように、目的が定まっていないと今後の 議論がブレるおそれがあります。まず目的について皆様の御意見を頂戴し、それから目 的の柱として、1つは事故の再発防止、発生予防及び医療事故の発生状況の把握という 柱があります。  もう1つは、個々の事故事例の取扱いということですが、後者については資料1のい ちばん最後の頁で、「個々の事故事例の対応について」という部分がありますので、さ らに後ほど御議論をいただきます。  それから参考資料2の1月15日の検討会議での御討議のいちばん最初にも、「事故情 報の活用目的について」というのがありますが、そこもご覧いただきながら議論を進め ていただきたいと存じます。いま前田委員が御紹介になった起草委員会での御議論と、 この検討会議での目的に関する御議論は特に相違するところはないように存じます。  まずいちばん中心となると思われる柱の、「事故の再発防止、発生予防及び発生状況 の把握」ということを主な活用目的としてはいかがかという点について、御意見を頂戴 したいと思います。もし前田起草委員長から補足をいただくことがあれば、お願いいた します。 ○前田委員  参考資料2について、もう少し親会議のほうの内容についてコメントさせていただき たいと思います。基本的には部会長の御説明のとおりなのですが、いちばん上に書いて あるように、ここの議論の中でいちばん強かったのは、再発防止、状況の把握を重視す べきで、個々の医師の処分の問題と混ぜると議論が複雑になりすぎるのではないかと。  それから、ヒヤリ・ハットの情報をいま十分に集めているが、それだけでは足りなく て、事故事例を社会全体として活用する段階にきていると。それから、これはまったく 別の角度なのかもしれませんが、医の世界の事故というのは他の事故ともちょっと違っ ていて、起こるべくして起こるような面もないわけではないと。後の議論につながるの ですが、どこまでを事故と呼ぶかは非常に難しい問題があるというような御指摘があり ました。2本の柱については、被害者側の皆様も、やはりまずはそれを望んでおられる だろうという御指摘が親委員会でありました。補足としては以上です。 ○堺部会長  目的の柱については、起草委員会で御議論を重ねていただいたわけですが、起草委員 の方々で何か追加の御意見はございますか。                  (異議なし)  起草委員の方々はいまの前田委員長の御説明でよろしいということですので、いまの 話を聞かれた起草委員以外の委員の御意見を伺いたいと思います。もちろん御質疑ある いは論議の途中で、起草委員の方々にも御自由に御発言をいただきたいと思います。ど なたでも結構ですが、活用目的の柱について、まず発生防止、発生予防、それから発生 状況の把握ということですが、ここに柱の中心を置くのはいかがかという御提案です。  前田委員長にちょっと質問させていただきますが、1月15日の対策会議でも同じよう な御意見が出ていますが、これは親会議のほうの御意見の大勢だったと理解してよろ しゅうございますか。 ○前田委員  もちろん大勢かどうかというのは評価の問題でやや議論があるかもしれませんが、私 は大勢であったと評価いたしております。 ○堺部会長  すべてのものが全員一致で進むというのもどうかと思いますので、ぜひ御異論も伺い たいところです。星委員、御意見をお願いいたします。 ○星委員  1つは、再発防止と発生予防というのは、まさに異論のないところだと思います。そ の1つの柱になるのは、やはり原因分析ということだと思います。基本的な原因分析が あって、それが発生防止、発生予防につながるのだと。  それに資するように、とにかく自らの事故事例を使ってほしいと。つまり、例えば自 分が被害者になったときの1つの思いとすれば、このことを繰り返さないでほしい、こ のことができるだけ多くの人たちにその示唆を与えてほしいというのは、当然でありま しょうし、私はまったく反対するつもりもありません。  その下の「事故事例の円満迅速な解決」という点とのかかわりで言うと、ある意味で は変な話ですが、例えば報告の仕組みができたときに、「つまり患者側からすれば、個 別に病院の中で対応を受けると同時に、報告センターに報告してくれたのでしょうね」 ということをもって、これを活用してもらえるということが明確になるのであれば、私 はある程度被害を受けた方々にとっても意味のあることだろうと思いますので、そこは 否定することはないです。  しかし、2つ目の発生状況の把握ということで、非常に簡単に書いてありますが、後 のものを読むと、全国でどれだけのものが起こっているのかを知りたいと。これは単純 に知りたいという意味ではよくわかりますが、それを知ったからどうするのかというこ とについて何かお考えがあるのか。これを調べようと思ったら相当の労力を必要とする わけですが、それに見合っただけのものが手に入ると考えているのか、あるいはまった くこれは別な仕組みとしてお考えなのか、その辺がわかりません。  また、個別の医療機関というものについての発生状況ということも出ておりますが、 何か事故事例を再発予防に結び付けていく、発生予防に結び付けていく、あるいは原因 をきちんと分析して活用していこうというものと、この2つ目の発生状況の把握という ものとの間に何となく乖離を感じますので、いけないという意味ではなくて、分けて考 えなくては駄目だと前田委員もおっしゃっていましたが、その分け方を皆さんの頭の中 にもう少し明確にしなくてはいけないのかと思います。  何が言いたいかというと、最後の「あるのではないか」という2つ目の丸ですが、確 かに気持ちはよくわかりますが、これをいま考えている我々の頭の中に、1つの同じ文 脈の中でとらえるには無理があるのかと思います。ですから、これはまた別な考え方に よってするということで、今回の我々の議論としては、(1)あるいは場合によっては(2) までに限定するのだということで、私はそういうことでいいのではないかと思います し、どうしても個々の事例のことをやるというのであれば、土俵を変えて考えるべきだ と思います。それにいま我々が持っている知恵ではなかなか難しいのではないかと思い ます。 ○堺部会長  発生状況の把握については、資料1の2枚目の真ん中以降にありますので、後にさら に細かい議論をさせていただきたいと思います。  それから個々の事故事例の取扱いについても、先程も申し上げましたが、いちばん最 後のところでまた総括的に御議論いただきたいと思います。他にいかがでしょうか。岸 委員、いまの御議論をどのようにお考えでしょうか。 ○岸委員  私も起草委員なのですが、前回は欠席をしていてこの起草委員の議論には加わってお りません。ただ1月15日の親委員会のほうには出ていましたので若干勉強させていただ きました。私の認識も、いま星委員がおっしゃったこととよく似ています。  (2)の発生状況の把握というのは、(1)を担保するためには発生状況の把握なくしては 原因分析もできませんし、その結果、再発防止策も発生予防策もできませんので、発生 状況の把握というのは私は必須であると思います。ただ、どのような形でということに なると、後段に書いてあるようにいろいろと議論もあろうかと思います。  少なくとも、何を置いてもまず発生状況の把握をなさなければ防止策は打ち出せない という意味で、私は(2)は必須であろうと思っています。  そこの関連で、これもずっと後段にまでつながっていく話ではありますが、個別の事 例についての解決というのは、ある意味では喫緊のテーマである再発防止とか、発生予 防ということとは場合によっては矛盾をするというケースも大いにあり得るかと思いま す。いま星委員がおっしゃったように、私もこれは場合によっては別の土俵のほうがい いのではないかと考えています。  まずは、とにかく多発する医療事故の再発を防止するのだと。そのためにはまず実情 を把握し、その中で、こういうケースが最も多く起きやすいのだというようなことをと にかく抽出して、周知徹底させるということにまず主眼に置くべきだと考えています。 ○堺部会長  ここは日本でして、日本でどうするかということを、皆さんの御意見を聞いて我々が 考えるということで、もし何か参考になることがあればと思って長谷川委員にお尋ねい たします。諸外国、英語圏が主なようですが、そちらのほうでは事故事例情報の活用目 的、いま出ているような御議論を踏まえて、何か柱というようなものを議論しておりま すでしょうか。 ○長谷川委員  前回にお話ししたことになってしまうと思います。別に英米に限らず14カ国について いろいろ調べましたが、基本的には大きく分けて2つの種類があって、1つはここに掲 げている、主として患者とか一般の方からの苦情のようなものをどう処理するかという 情報と、主として専門家の方々から発信をして報告をするというのに分かれると思いま す。  その2つは、目的も、集め方も、分析の方法も随分違うので、これは分けて考える必 要があると思います。したがって、今回どういうふうにするかは委員会で意思決定する のでしょうけれども、2つの話を一緒にするのは具合が悪いのではないかと思います。  したがって、この趣旨は主として専門家の方の報告によって事故の防止に資するよう な内容にしようということだと思って、私もそれは賛成です。ただ、専門家の間の情報 の報告については、間違いから学ぶという方向性と説明責任の問題があって、後者につ いて非常に微妙な、いろいろな議論があろうかと思います。  間違いから学ぶということに関すると、こういう流れの議論にならないでしょうか。 目的は2つあって、まさしく個々の事例から学ぶということと、全体的な現状を理解す るということです。したがって、英米だけに限らず、14カ国の議論としても、これがい ま大変話題になっていて、こういう流れと一致するのではないでしょうか。 ○堺部会長  ここまでの各委員の御発言の内容はかなり同じ傾向にあったかと思います。起草委員 会に加わってない委員の御意見もこの辺で伺いたいと思いますが、井上委員、いかがで しょうか。 ○井上委員  私も星委員と同様の考えを持っており、「活用目的」と書いてあるわけですから、事 故の再発防止や発生予防ということで、ここでクリアカットに示す必要があるのではな いかと思います。  発生状況の把握というのは手段ですので、発生防止や発生予防というのが目的であ り、その目的を達成するための手段が発生状況の掌握ですから、ここに手段のことまで 書いてしまうと話がスムーズにいかないような気がします。  私どもの会の中で実際に事故事例を集めて、発生状況の掌握までやっているのです が、これは後段に出てくると思いますが、事故事例を収集している中で証拠保全命令が 出た場合にどうするのかとか、そういった問題もありますので、発生状況の掌握という 議論をここで始めてしまうと、せっかく一致した素晴らしい意見がかえって混乱するよ うな気がするので、できればここは目的だけを書いた方がいいのではないかという気が します。 ○梅田委員  星委員もお話になりましたし、岸委員からも聞きましたとおり、発生状況の把握とい うのは重要なことなのですが、原因分析とこれとがリンクしているのではないかと思い ます。ですから、原因分析をして、その原因分析と同時に発生状況を見るということも 必要ではないかと思います。ですから、これはやはり別立てにしていただいたほうが、 非常に理解しやすいのではないかと思います。 ○堺部会長  委員の方々の御発言はほぼ同じ方向かと存じます。  それでは議事を先に進めます。ただいまの御議論を踏まえて、資料1の2の事故事例 情報の収集活用の具体的な方策についてですが、この中身が(1)事故の再発防止、発 生予防というところと、2頁目の(2)発生状況の把握というように分かれています。  ここまでの御議論でも、(1)事故の再発防止、発生予防をまずいちばん中心的な柱 とするべきであろうという御議論であったと思うので、この(1)の部分について、前 田起草委員長から御報告をお願いいたします。 ○前田委員  (1)の再発防止、発生予防のいちばん基礎となるこれまでの御意見、ここで出され たものは、やはり○のいちばん最初にある事故の再発防止、発生予防のためには、なる べく幅広く情報収集して適切に分析して、幅広く医療機関に提供していく。これが柱で あることは、ほぼ異論のないところであったかと思います。ただ、なるべくそういうも のに純化するという観点からは、やや不純物のようにも見えますが、考え方によっては 合理性があるもの、あとで出てくる3との繋がりではより合理性がある可能性もあるわ けですが、事前情報を幅広く収集するためには医療機関の側からの情報以外に、患者・ 家族からの情報も活用できるのではないかという形で議論に入ってくるわけです。再発 防止、発生予防のために役立つかどうかは、御議論をいただく必要があるわけですが、 こういうものを取り組むということと、上の医療から集まる情報とを区別することの両 立は可能であって、それに加えるものとして患者・家族からの情報も集めることの意 義。  また、それを1つの機関でやるのか別の土俵をもう1つ作るのか。当面土俵を1つし か作らないということであればまた違ってくるわけですが、いずれにせよ医療機関から の情報以外に患者・家族からの情報も入れていくというのは、やはり何らかの形で御議 論をいただく。先程の議論を前提にしたとしても、議論としては意義が残るのではない か。それは、ここでいろいろと御意見を伺った患者団体の方々、いままでの世の中にあ る、いまの事故状況に対する厚生労働省の対応の仕方の1つとして、患者の声を聴く局 面がまだ弱いのではないかということ。それが単線で1つ上の目的と完全に一致しない かもしれませんが、こういうものも可能ではないかという御指摘が残り得る。これにつ いても御議論いただきたいということです。  3番目の○はちょっと方向が違うのですが、情報の集め方の手法になってくるわけで すが、法的に強制するよりはインセンティブを付与することによって、積極的な情報提 供をしていただくシステムは考えられないかという御指摘が、かなり強くなされている ということです。さらに、より具体的な議論として現在ヒヤリ・ハット事例がかなり集 められていて、それはかなり有効というか貴重な情報として高く評価されていると思う のですが、この集め方は参考になるというよりは、むしろより積極的な意味合いを持た せて、これを改良した上で事故情報収集システムの土台にできないだろうかという御指 摘がありました。  それから事故防止への活用のためには、事故の定義や報告の範囲を厳密に定めるので はなくて、予防した事例や目的、目安等を示すことによって幅広く収集することがよい のではないか。これは収集の仕方の技術論のように見えますが、先程の全国の発生状況 を把握するという観点からは、このような枠を決めないで数を集めるのはナンセンスに なるわけですが、星委員の御指摘のようにまず因果性を明らかにするとか再発を防止す る目的という意味では、その目的性を追求するとむしろ2頁の上から2の○のようなや り方も出てくるだろう。やはり目的をいかに設定するかで情報の集め方、集める基準、 クライテリアや何かも変わってくるだろう。それは御指摘のとおりですので、いまの段 階でそろそろ詰めて、最も合理的な情報の集め方、目的にどの程度ランク付けをしてど う絞り込むかという御判断をいただきたいということです。  それから、やや小さなテクニカルな議論かもしれませんが、医療事故に関する裁判例 が特に民事を中心に非常に集積していますので、この情報も医療と並んで一緒に活用で きるような、分析のような組織みたいなものも考えられるのではないか。それからより 大きな問題かもしれませんが、機関は第三者的な機関。ただ、この第三者的という意味 が患者と医師に対しての第三者なのか、厚生労働省を離れた第三者なのか。人によって まだニュアンスの部分が完全には固まってはいないと思います。いずれにせよ中立的な というニュアンスが入っていると思うのですが、新たな機関を作ることが相応しいので はないかという意見がかなり強かったと思います。  ちょっとまた角度の違うポイントなのですが、事故予防に関する助言などが医療機関 に対する各種技術的な支援を行えるセンターといいますか、第三者機関。これは実現の 可能性というか、医療的に見てどうお考えになるかの委員の御意見をお伺いしなければ と思うのですが、こういう意見も出されていた。以上です。併せて親委員会ですが、完 全に対応していませんが、やはり事故情報の収集についてはなるべく集めやすいほうが いいという御指摘が強かったと思います。それから、収集の目的によって範囲や方法が 違ってくるだろうという御指摘が強かったと思います。以上です。 ○堺部会長  ありがとうございます。この親委員会の御意見を拝見しますと、1つ後の「発生状況 の把握」に関わるところが多いかと存じますので、本日は起草委員会から御報告をいた だいた内容を基に進めたいと思います。  いまの御報告を伺っていますと、大きく分けて3つの検討すべきテーマがあるように 思いました。いちばん基本的の「幅広く収集すべきだ」というのはもちろんなのです が、御議論いただく点としては、まず「医療機関からの情報以外に、患者や御家族から の情報も収集すべきではないか」という点。次にインセンティブがありますが、インセ ンティブはどちらかといいますと発生状況の把握に関わるところかと思いますので、今 日御議論いただきたい2番目は「現行のヒヤリ・ハット事例収集システムを、さらに活 用すること」ができるのではないかという提言がありまして、これについて御議論をい ただきたいと思います。3番目は少し技術的なことになりますが、判例集の活用や第三 者機関というのがいまだに煮詰まっていませんが、「第三者機関としての提言」が必要 ではないか。あるいは「技術的な支援」という技術的な面があります。ここに入る前 に、これは多分御異論はないと思うのですが、事故事例情報を幅広く収集すべきだとい うのはよろしいですね。特に御異論はないと思います。  それでは1番目の論点、すなわち医療機関からの情報以外に患者や御家族からの情報 も活用すべきではないか、についての御意見を頂戴したいと思います。 ○辻本委員  毎回お話していることですが、いま国民・患者の医療不信というものは目を見張るも のであります。それだけに、患者たちが駆込み寺的な機関として不信感をどこかで受け 止めてもらえる機能を作ることは急務だと思っています。そこで、この事故事例情報を どう取り扱うかをシステム化する中で、その現場にフィードバックすることが再発防 止、再発予防に繋がっていくわけですから、やはり患者の声を受け止める。このことも 併せて考えていっていただきたい。是非そのことはお願いしたいと思っています。 ○岸委員  個別事例を解決するというのは、非常に難しい問題があろうかと思うのですが、事例 として評価は別にして、こういうことが起きたということを周知するのは有益だと思い ます。私どもとすれば、つまり患者なり家族からすれば非常に不満足であるというよう な事例を、評価抜きにというのは難しい話かとも思うのですが、こういう不満が提示さ れましたと。患者たちが不安を持っているのは、どういう理由なのか。どういう事態が あったと患者たちは思っているのかということを紹介するのはそれなりに意味があろう かと思うのです。実は患者たちはこういうプロセスを通じて、こういう不満を持ったの だ、あるいはこういう疑念を抱いたのだという事例はいろいろと参考になると思うので す。ただそれを評価しようとすると難しい問題が出ますので、そういう意味では先程前 田先生もおっしゃいましたが、通常の医療機関側からの情報と患者サイドからの指摘、 訴えを別枠で並べることが適当ではないかと考えています。 ○星委員  いまおっしゃったことに基本的には賛成なのですが、再発防止、再発予防に資する具 体的な収集の方法として、患者・家族からの情報も活用できるという表現は私としては いまひとつ、具体的なイメージが湧かないのです。患者・家族の情報については医療機 関側あるいは専門家として自分たちが集めている情報に関して、そういう視点を持って 見ているのですかという問いはあるのだと思うのです。「自分たちのこの苦悩を解決し てくれ」あるいは「あいつはひどいやつだ」ということでの駆込み寺として機能させる のではなくて、それはまた別にすることにしてはどうか。次の2頁の2つ目の○に、 「事故の定義や報告の範囲を厳密に定めるのではない」ということがあります。これ は、はっきり言えば医者あるいは医療機関が手前味噌にそういう項目を決めて、自分た ちに都合のいいものだけを集めるというようなことではなくて、集める場合には患者た ちが困っているという考え方、根本的な問題を理解した上でこういうものを選んでいく のだという意味において、この患者からの情報あるいは家族からの意見を反映させるこ とは可能だろうと思います。2頁の2つ目の○の中にそういう意見を反映させるような 仕組みを置く。そうなると少しイメージが湧きまして、例えばどんな情報を集めましょ うかという議論をするときに医者だけの話ではなくて、患者からもそういう話を聞い て、ではそういう切り口で集められるようなフォーマットにしましょう、あるいはそう いう切り口でも集めてみましょうという議論になれば、ここで辻本委員がおっしゃられ た個別の事例とかは、もしかしたら解決しないかもしれないけれども我々が目指す方向 には、1つの方向性を与えてくれるのではないかと思います。 ○堺部会長  ありがとうございます。それではこのテーマについて、まずは医療機関のお立場から 三宅委員と樋口委員に御意見を伺いまして、今度は法律的なお立場から川端委員と児玉 委員からも御意見を頂戴したいと思います。 ○三宅委員  私も患者・家族側の情報は、非常に重要だと思います。医療機関側の情報と患者・家 族側からの情報というのは、少し目的が違うような気もしているのです。患者からの情 報というのは非常に大事で、医療機関側から見えていない側面をいろいろ提示してくれ る。例えがいいかはわかりませんが、富士見産婦人科のような事件があったとして、あ れは医療機関側から全部情報があるかというと、そうではないと思うのです。やはり患 者の側から情報が上がってくると思うのです。ですから、そういうものをちゃんと捉え るには、患者側からの情報は非常に大事だと思います。医療機関側からの情報を集める 際に、何でもかんでも出すことには少し抵抗があって、もう少し整理して集めたほうが いいのではないか。それは集められる情報がある基準に合ったものが集められること と、その基準を見せるということは、こういう事故は非常に重大な事故ですよという一 種の警告のような意味合いも持っているのです。抑制的な働きもしているのではないか ということで、決してそれは隠すとかではなくて、そういった情報発信の役割も少しす るのではないか。それが集めやすい。ですから両方きちんとあることは大事だと思いま す。 ○樋口(正)委員  私も三宅先生とは基本的に同じですが、私は紛争担当をやっているものですから、事 故と紛争はちょっと違うわけです。私の立場からいうと事故はなくても紛争が起こるこ ともありますし、事故があっても起こらないこともあるのですが、結局患者からの情報 を集めることによって紛争は減らすことができるような気がするのです。参考人の方も おっしゃいましたが、患者にとっては感情的な不満が非常に高まっている状況があるわ けで、患者からの情報を出していただくことによって感情的な高まりを抑えて説明とか いろいろと入ってきますが、集めるルートがあることによっても既に患者の感情がかな り治まる。客観的なことも言えることがあると思いますので、患者からの情報を集める ことに関しては賛成です。現実に東京都医師会で、「都内診療所における医療情報、医 事紛争の方針について」というパンフレットを作っているところです。その中に、東京 都医師会とか東京都における患者からの苦情を集めた情報がありまして、それを整理し て「こういう患者からの苦情があるから、このあたりは気を付けるように」というのを 再発防止のためにそこに掲載しました。ですから、このことに関してもそういうルート が開いていったほうがいいと思います。 ○三宅委員  患者から集める情報の場合、一切制限を付けないことが非常に大事だと思うのです。 たしか長谷川先生がちょっと書かれていた外国の例でイギリスだったと思いますが、や はりあらゆる情報を受け止めると。その中には検討に値しない情報も入っていることを 書かれていたように思うのですが、やはりそういう姿勢が大事だろうと思います。 ○川端委員  患者・家族からの情報の活用は大賛成で、理由も三宅委員、樋口委員とほぼ同じで す。大体日本の医療過誤訴訟件数が10年間で倍増されたと言われていますが、僅かに400 件台から800件台になっただけなのです。これは米国で2万件台と言われているのと比較 すると、著しく少ないわけです。なぜそうなるのかは、おそらく主要には司法自体にア クセス障害があるからだということになるのだろうと思いますが、逆に言えばどこにも 行き場のない医療事故被害というのが日本で必ず暗数として溜まっているのだろうと思 います。それが現在の医療不信の基盤になっているのではないかという意味で、どうい う感情を持っているかをどんどん吸い上げるシステムがあるのは極めて重要だと思いま す。ただ、これはいわば性質の違う種類の情報ですので、区分して集めて区分して分析 する必要はあろうかと思います。 ○児玉委員  私も当然のことながら、患者・家族からできる限り広く、しかもフィルターをかけな い情報を受け止める仕組みを作ることについては大賛成です。いまはそもそも医療事 故、医療ミスの全体像が見えない中、非常に混沌とした状況にあるように思うのです。 ですから今後の医療事故の収集というのは受け身的な収集ではなくて、むしろ積極的な 何かのプロジェクトを立て、仮説を立てた調査研究の仕組みを作っていく必要がある。 ただ一時情報として医療機関側、いわゆる専門家の目から見た医療という見方が不十分 であることはこれまでの、いまの紛争状況自体が医療機関の目だけから医療における有 害事象、医療事故を捉えていることの不十分さが出てきているのではないか。例えば医 療機関の目から見れば、これは1万分の1の合併症だと。あるいは予防注射1つを取っ ても、これは1万人に1人のたまたま生じた被害者であると。その医療機関の側から見 て、それがやむを得ない合併症、やむを得ない副作用という形で問題視されない傾向が 出てきますが、そのいろいろな累計の中で患者・家族の納得のいかなさを何か反映し て、むしろ究極的に事故予防の仕組みというのは、医療機関側が満足する事故予防の仕 組みではなくて、患者及び国民が納得する事故予防の仕組みでなくてはいけない。そう いう意味で、何に納得がいかないのかの情報を医学的なフィルターを通さないで集めて いただく仕組みは、非常に有益ではないかと思います。 ○堺部会長  ありがとうございました。委員の方々の御意見はほぼ同じで、患者・家族の情報も広 く集めるべきであろうという点では共通しているかと思います。ただ、具体的な方策、 取扱いとなりますとまだまだ御議論は深まっていませんが、次回に個々の事故事例の対 応について御議論をいただくときに、是非患者・家族からの事例収集をどのように行う のが最も目的に叶うかを御念頭に置いて、御議論を頂戴したいと思います。 ○辻本委員  そのときの議論の内容になるかとは思いますが、先程の言葉足らずの1つを補わさせ てください。駆込み寺的機能と申し上げましたが、そこの機能を明確にすること。つま り評価をする所でもない、解決もここではできない。けれども受け止めて、それを現場 にフィードバックする機能を持っていますよと。ある意味で大きな期待、誤解を国民が 抱かないためにも、その機能という特定を明確にすることで、そのあたりが見えてくる のではないかと思っています。 ○星委員  いま、部会長のおっしゃったことは私のイメージにいちばん近いのです。個々の事例 の受け止め方をする以外に、つまり我々が再発防止のために医療機関側からの情報とし て集めようと思っているデータ、情報の中身が先程児玉委員がおっしゃったような、そ ういうものを反映したものなのかが検証されずに私たちが予防できるもの、あるいは 我々が大変だと思っているものを一方的に集めることで、少なくとも再発防止、発生予 防に限ってみてもそれでは不十分ではないかという議論があって、そういう意味で (1)の2つ目の○があるのではないかと思ったのです。ですから部会長がおっしゃる ような方向でまとめていただくべきだし、その後との関係で向こうがやるからいいでは ないかというのではなくて、どういうデータを集めて分析そして再発防止に繋げていく かの入口で、患者の視点を忘れてはならないのだと。これは、まさにおっしゃるとおり だと思います。 ○堺部会長  ありがとうございます。起草委員会にお願いがあります。患者・家族をどのように収 集し、どのように活用するかの点の論議はまだ深められていないように感じますので、 起草委員会でも御検討いただき、さらに次回に御報告いただいて御議論をいただきたい と思います。よろしくお願いします。  次に移らせていただきます。現行のヒヤリ・ハットは明らかに医療機関側からの情報 収集ですが、これをさらに活用すべきではないかという御意見がありまして、本日の資 料の中でもヒヤリ・ハット事例の報告もありますので、現在のヒヤリ・ハット事例の収 集はどのようになっているかの御報告を事務局からお願いします。 ○新木室長  参考資料4と、参考資料4(参考)の厚い資料の両方をご覧ください。参考資料4 が、本ヒヤリ・ハット事例収集のシステム、正式には「医療安全対策ネットワーク整備 事業」と呼んでいますが、その事業の概要で、その1年分の結果が参考にまとまってい ます。この医療安全対策ネットワーク事業については、簡単に申し上げますと3頁目の 図をご覧いただければと思います。  この事業は一昨年の10月から開始して、ちょうどその年が親会議の医療安全対策検討 会議ができる。また患者安全推進年として、いろいろな各種対策を実施していく最初の 年でしたが、そのときに1つの柱として開始したものです。そのときに参加対象医療機 関としたのが、すぐに全国というわけにもまいりませんので、特定機能病院、全国大学 病院の本院等現在81あります。それから国立病院・療養所、さらに国立高度専門医療セ ンター、これはがんセンター、循環器病センター等のナショナルセンターと呼ばれてい るもので、それら合計約270ほどの医療機関を対象として、そこからヒヤリ・ハット情 報を挙げてもらう仕組みを作りました。具体的にはこの参加医療機関から一定のフォー マットを定めて、事例を医薬品機構に集めます。そこでデータを処理して、例えばID とかというものはこの段階で既にわからないようにします。もともと参加医療機関から 報告してもらうときに、何々病院や何々大学ということと共に、もちろん患者の氏名、 関与した従事者の氏名等を消して集める仕組なのですが、この医薬品機構で一定のマス キング等をして、それをこの検討会議に出してもらう。具体的には「ヒヤリ・ハット検 討部会」という部会を設けて、そこで専門家の方に分析をしてもらって、国民・医療機 関、もちろん参加する医療機関の方々にもお返ししていく。さらにその内容を行政のほ うで改善に用いていくというのが概要です。  1頁は、そこのところを少し文章で具体的に御説明しています。収集する事例の範囲 は、ヒヤリ・ハットであり、事故そのものはこの時点では収集をする仕組みとしていま せん。収集内容には3つあって、傾向等を把握するための全般コード化情報と、本検討 会議でいま議論されている再発予防に具体的に活用していくような個別の記述的情報と して、重要事例情報と医薬品・医療用具・諸物品等情報の2つを集めています。ヒヤリ ・ハットの定義は(2)に書いてあるとおりです。対象医療機関は先程申した所から集 めて、2頁の(4)に書いてあるような収集方法をしているわけですが、ちょっと細か くなりますので割愛させていただきます。以上のような仕組みを一昨年の10月から集め まして、昨年の夏までほぼ1年集まりましたので、冊子の形でまとめたものがこの(参 考)です。  この中では前半でコード化した情報、グラフになっている情報がありまして、後半23 頁からが個別の具体的な事例について記載する部分です。前半の傾向を見るというの は、今回の議論で該当する部分が直接ぴったりというわけではないのですが、全国的な 傾向を把握するというところに合致するのかもしれないと考えています。この部分につ きましては全体の件数等の概要、厚い資料の9頁に「発生月」というのがあります。  ちょうど昨年の10月に過去2カ月遡って、実はここで年が変わっていまして8月、9 月というのは平成13年の8月、9月です。8月、9月を対象に10月に集めた状況から、 だんだん件数が増えてきて、1月という最初に戻ると、ここは平成14年1月に該当しま す。そこからだんだん増えて、最近は月間で大体3,000件前後が集まっていて、その傾 向を分析しましたのが9頁から22頁まであります。  これらヒヤリ・ハットが恐らく事故そのものの一定の傾向を示唆する指標であろうと いうことでお示しして、傾向を示してこういうところで事故が起こるのではないかと、 特に医療に直接携わらない方にもわかりやすいような形で示した部分です。  (参考)中の参考資料3が具体的に個別の事例を分析したものです。これは各医療機 関にお願いして、他の医療機関でも参考となるような事例を集めておりまして、具体的 に、範囲を定義していません。そのような形で4回集めまして、合計この時点で23頁の 上にあるように、第1回の110件から第4回の1,077件までだんだん増えているという状 況です。  そのうち医療事故の専門等をなさっている方々に、この作業部会の仕組みの中で重要 事例分析班ということでお集まりいただきまして、毎回集まるもののうち、特に重要で 他の参考となるようなものを挙げまして、一部を選びまして、それをコメント付きで公 表したのが27頁からです。もちろん、ここで取り上げない部分についても公表している のですが、今回冊子にする都合上その部分は除いております。ホームページ等ではご覧 いただけます。全体としては28頁から始まるのです。全体の傾向としては28頁目の辺が 第1回のいちばん最初のころで、出していただく方はもちろん、分析のほうでの専門の 先生方、事務局も初めてということでかなり試行錯誤して、例えば100頁台のあたりを ご覧いただきますと、かなり記載していただいている情報、コメントも充実してきたと いうところです。4回目となりまして、提供していただく方も、コメント、分析してい ただく方もだんだん上手になってきたかという状況で、最近これについては、かなりい ろいろな方面からこういうのを参考にということで引き合いもあります。  全体として見ますと、昨年第5回の検討会議で長谷川委員が当部会でも御発表いただ きましたように、各国この事故を教訓とする仕組みをどういうふうにするのか、それは 集める仕組みでかなりいろいろなところが悩んでいて、英国等でも途中で頓挫したとい うお話を伺いましたが、この仕組は260ほどの病院が対象ですが、2万5,000ほど集まっ ておりまして、そういう意味では現場の協力いただいている医療機関の方、従事者の方 にかなり頑張っていただいているのではないかと思って感謝しているところです。 ○星委員  単純な質問ですが、登録している施設が270いくつあって、実際に報告が来ているの が約170ということなのですが、これはこの先どんなに続けていっても、残りの約90か らは期待できないのですか、どうして出てこないのでしょうね。 ○新木室長  現在、参加を報告していない70ほどの施設について、その原因はいろいろあるようで す。それで最初にちょっとお断りしなければならなかったのは、この265と176ですが、 このギャップがあるのは国立病院、大学病院それぞれなのですが、例えばコード化した 情報を集めるには、院内の仕組みがこれと違うので、この仕組みを改良するまでは参加 できないということで見合わせている病院や、なかなかそこまで手が回らないというい ろいろな病院があります。  この170という報告施設の数も、最初から見ますとだんだん増えてきているという状 況ではあるのですが、確かにいま御指摘いただいたように、これをもう少し増やしてい くということは集め方を工夫していく、参加していただけるようなシステムを開発して いく、それから協力いただいた場合に、その情報が活用されて実際に全国に有効にお示 ししていくようなことを開発していく。そういうことによってこの参加報告率を伸ばさ なければならない、このような状況でもう少し伸ばしていく必要があろうかと思ってい ます。  なお、こういうような状況でありまして、昨年の4月におまとめいただきました医療 安全対策検討会議の中で、この仕組みについてシステムを改良するとともに、全国の医 療機関に協力してもらうような、そういう拡充をしていくべきだという御指摘をいただ いておりますので、現在ソフトウェアの開発や、フォーマットの見直し等の検討をして おりまして、平成15年度中には拡大したいと思っているところです。 ○堺部会長  ありがとうございます。当検討部会は、事故情報をできるだけ幅広く収集したい。そ の一環としてこのヒヤリ・ハット収集システムも活用できるかということを伺いたいわ けですが、まず対象、実質的な176施設をさらに増やすことができるのかということを お尋ねしようと思っていましたが、これはいま、平成15年度からそのような方向で進め られるということで推移を見させていただくということになろうかと思います。  もう1つは、多少は技術的なことになるかもしれませんが、ヒヤリ・ハット事例と事 故事例、これは私の全く個人的な感覚なのですが、線を引いて白か黒かに分けられるよ うなものではないだろうと思っていまして、ヒヤリ・ハット事例の収集システムという のは、かなりの程度事故事例にも重なり合うように、収集システムの中身は実際にはで きているのでしょうか。 ○新木室長  ヒヤリ・ハット収集システムについては集めるフォーマットの問題と集め方、それか ら提示の仕方の3つの段階で技術的な工夫をしなければならないと思っています。全体 の集める段階での話としては、コード化の部分と、あとであります定性的、記述的な 個々の事例を集めた部分とフォーマットが異なっていますが、後ろのほうについてはヒ ヤリ・ハットだから特別というような仕組みではしていません。すなわち、事故が書か れていても特に今のフォーマットを変えるということにはならないのではないかと思い ます。  それからヒヤリ・ハットのコード化したグラフを作っている部分は、最初の入口のと ころでヒヤリ・ハットとしてありますが、この仕組みは東海大学でお作りいただいたも のを全体で活用させていただいていまして、お話で伺いますとその部分は事故の部分で も対応できる仕組みだと聞いていますので、このまま使うということが良いかどうかは 別にして、技術的にはこの仕組みというのは、ヒヤリ・ハットでなくても活用できる仕 組みになっている。また、それを改良する余地も対応する余地のある仕組みではないか と思っています。 ○堺部会長  この事故情報の収集というのは、恐らく1つの方法ではないと思います。これから委 員の方にいろいろな方法を御提言いただければと思っています。そういたしますと、現 行のヒヤリ・ハット収集システムは、1つの手段になるのではないかという御意見だっ たかと思いますが、他に何か意見はありますか。 ○樋口(正)委員  いまのシステムはこの厚い本の1頁「情報報告数」を見ますと、コード化情報が2万 2,734例に対して重要情報が2,464とすると、例のハインリッヒの法則で1対30対300に しますと、その30対300のところがちょうどぴったりという感じがするのです。  2、3年前のある夜中に私が歩いていたところ、警察署の前に交通事故の毎日出る看 板が出ていまして、一例の死亡事例に対して傷害が330例というのがたまたまあったの です。私は急いでカメラを買ってそれを撮ってあるのですが、要するにハインリッヒの 法則が、いろいろな事故に当てはめられるというのがまさに傍証されたわけで、これを 見ましても、ハインリッヒの法則が本当だと仮定しまして、収集システムとしてはちゃ んと動いている1つの証拠ではないかと思いまして、これは優れた方法だと思います。 あるいは収集する範囲を広げたとしても、ある程度この数、割合に集約されていくので はないかと思っているのです。  たまたま歩いているときに、交通事故もぴったり数字が合ったので、要するにハイン リッヒの法則が効くならば、この方法も動いているのではないかと思うのです。 ○川端委員  ヒヤリ・ハットの事業で見てやはりいちばん気になるのは、先程星委員も指摘されま したが、参加しているのが特定機能病院、国立病院・療養所及び国立高度専門医療セン ターというようなところであるにもかかわらず、3分の1は報告していないということ なのです。これを他の医療機関全部に広げていくと、恐らく報告率は大きく低下するの ではないかと思うのです。それをどうするかということを考えなければならないという ことが、1つ重要な点ではないかと思います。  事故の再発予防という点では、重要事例情報のほうが重要だと思うのです。報告の事 例の項を見ていくと、記入方法に関するコメントというのが付くようになって、いろい ろ指示された関係で、確かにどんどん情報としてきちんとしたものが挙がってきている のがわかりますが、逆に言えばこれをきちんと報告するほうは随分と大変なのだろうと 思うのです。これを全く任意のベースで全体に広げて、ちゃんと協力してくれるところ がどれぐらいあるのだろうかということが余計に心配になるのです。いまのハインリッ ヒの法則が全然、適用されなくなるような事態になりかねないということがあるので、 その辺をどうするのかということを、よく考える必要があるのではないかと思います。 ○堺部会長  まだ多分に技術的な問題が残されていますが、この発生状況の把握のところの1つの 手段の候補にはなり得るのかと思います。 ○三宅委員  私も川端委員と同じことを心配しているのですが、コード化情報というのはどういう 場所に、どういう時間帯に、どういう事故が起きやすいかというような、問題を絞り込 むのに非常に有効なことだと思うのです。これを全医療機関でやりなさいと言ったら、 私もフォーマットを知っていますけれど、かなりのエネルギーを使っていると思うので す。ですから私はこれを全部にやるというのは非常に無理があって、もう少しそういう 情報というものは一時定点でいいとお話をしたのですが、いくつかある程度の規模別、 あるいは設立母体別というところである程度の情報を収集すれば、コード化情報で絞り 込むというのは大体できるわけです。  問題は絞り込まれた状況の事故を、どのように解決するかということがいちばん大事 だと思うのです。ですから、そういう点で私はこれを全医療機関にというのはかなり無 理があって、実際どれだけ集められるのかというのが非常に心配に思います。むしろこ の中で文章化されたような報告、それはもう少し発展したものとしてこの検討会の事故 事例情報ということになっていると理解するのです。やはりこのヒヤリ・ハットの報告 をそのまま事故事例情報に持ち込むのは少し難しい面もあるのではないかという気がし ています。 ○新木室長  御説明が漏れて申しわけありません。ただいま三宅先生から御指摘いただいたことは 大変に重要な指摘だと思います。親会議でも確か三宅先生からだったと思いますが御指 摘いただき、コード化傾向を把握するものは全部の医療機関ではなく、定点方式でやっ ていくこととしております。比較的精度が高く、かつ定常的に報告してもらえるような 医療機関を選んでという、一定の傾向がわかるようにするため、いまヒヤリ・ハット事 例検討作業部会で見直しているところですので追加させていただきます。 ○星委員  私の立場で発言させていただくので、少し割り引いて聞いていただいて結構なのです が、すべての医療機関、少なくとも入院施設のある医療機関においては、このヒヤリ・ ハットに限らず事故情報についての検証システム、あるいは報告システムを作りなさい ということです。診療報酬でほっぺたをたたかれ、医療法の施行規則に書かれ、そのよ うなことを書かれなくてもやっているにもかかわらず、そういう不満もありつつ、現実 にはほぼ百パーセントの医療機関が、何らかの形でこの報告システムをやっているのだ ということを理解しておいていただきたいと思います。  その上で何故、わざわざ国立病院には医療安全を専任で担当する人まで付けると言っ ているのにできないのか、私はわかりませんが、少なくとも報告率が下がる理由はやっ ていないから下がるということではなく、先程言ったように報告に手間がかかるという よりは、自分たちが集めている報告の手法と異なるというのが根底にあるのだろうと私 は思っています。  それから全数を集めるということに関して言うと、私はそもそもその必要がないだろ うと思っていますし、むしろ全体での発生状況を自分の医療機関でやっている報告と比 較することができれば、あるいは全体の基調としてどういう事故が増えてきているの か、あるいはヒヤリ・ハットが増えているのかということを、きちんと把握できればい いのだろうと思います。  ただ一方で、何故これを厚生労働省が発表されないのかわかりませんが、日本医療機 能評価機構の中に、一部厚生労働科学研究費が入っているのだと思うのですが、評価を 受けた病院の担当者が自分たちの事故情報をクローズドだけど持ち寄って、それを分析 して自分たちにとっての解決方法があれば、その他の医療機関の解決方法などに学ぶと いうことで、大変に熱気を持ってやっています。その方法論が良いかどうかということ は、私も詳細をすべて知っているわけではありませんが、そういう動きがあって、実際 に事故防止活動をしている医療機関にとっては、大変に福音になっているということが ありますので、このヒヤリ・ハットの話とともに、具体的な動きはどのようになってい るのかということについても、この場で御報告をいただいて議論してみてはどうかと思 います。 ○堺部会長  それは本日でなくて結構ですが、御報告いただけますか。よろしくお願い致します。 ○梅田委員  新木室長にお尋ねしたいのですが、いま星先生からお話がありましたように、私ども も、いわゆるインシデントについては報告をしなさいということで、これは医師会と同 じように、歯科医師会も全会員に都道府県の会長を通じまして、文書は流してあるので す。そういうところからどの程度の報告が来ているか、そういうこともおわかりになり ましたら教えていただきたいと思います。 ○新木室長  ヒヤリ・ハットの仕組みについて、冒頭ちょっと申し上げましたが現時点では国立病 院、国立療養所、大学病院本院、特定機能病院だけで、その他、私もいま梅田委員御指 摘のいろいろなところで、ヒヤリ・ハットもしくは事故事例を集めて分析をする気運に あるということはお聞きしていますが、この仕組みとは別にいま行っています。ただ、 そこのところがいろいろ問題なのではないかということで、せっかくそういうことがで きる環境にあるので全部に広げたほうがいいのではないかということで、平成15年度か らすべての医療機関等を対象に集める方針となっていますが、現時点においてはいま梅 田委員から御指摘いただきましたことはこの数には入っていませんし、我々も現時点で は各団体にお聞きしないとわからないという状況です。 ○堺部会長  それでは先に進ませていただきます。資料1の2頁、上から2つ目の○、事故の定義 や報告の範囲を厳密に定めるのではなく、もう少し幅広く収集することが望ましいとい う御意見がありまして、恐らくこれについてはどなたも反対はないと思いますので、そ の先のやや技術的なところへ話を移させていただきます。  まず、この判例集を活用できないかということで、この点については法律の御専門の 方々の御意見を頂戴したいと思います。よろしければ、川端委員、児玉委員、前田委員 から説明をお願いしたいと思います。 ○川端委員  ここは判例集となっていますから、公刊物ということなのだと思いますが、公刊物で すから、載っているものを全部集めることは可能だと思います。判例ですから証拠に基 づいて事実認定がなされていますので、どういう事故かというのは非常に客観的にわか るのではないかと思います。  もう1つ、裁判所がそこで過失の有無を判断しているわけですけれども、その司法的 な判断、これが多分医療側と若干のずれがあるというところが医療側からの不満のよう ですが、そこで司法側がどういう目で、医療事故について医療側が損害賠償をすべきか というようなことを考えているのかもわかるわけです。それは予防対策という意味では 副次的な問題だと思いますが、いずれにせよ、極めて詳細に事実関係が客観的な形で確 定したものが集められるという意味では、1つの予防対策を考える上では重要な資料に なり得るものと思います。 ○児玉委員  私自身も事務所でたくさんいろいろな判例集を集めまして、参考にしているわけで、 予防対策を考える上で1つの活用可能な情報と位置付けることができると思います。た だ、判例集というものの記載される内容の特性をよく御理解いただきませんと、一部ミ スリードになる可能性もあるので、いくつか順不同で申し上げます。  1つ目は、裁判所というのは自ら積極的に調査を行い、証拠を収集する役割を担って いるのではなく、当事者の主張立証について判断を示す受動的な機関です。その結果、 有り体に言えば原告の側と被告の側がどのレベルの、どういうレベルの資料を出して、 どういう争い方をするかということに、裁判例の検討の深さは非常に縛られてくるわけ です。ですから、あくまでも捜査権も調査権も何も持っていない原告と被告の双方の主 張の限りで、どちらかに判定を下すという側面があるということです。  2つ目は、1つ目の問題に関わってきますが、裁判所は原告が主張して被告が争わな い部分、あるいは被告が主張して原告が争わない部分、ここについては特に証拠を詳し く検証することなく、争いのない事実ということで、判例集の前のほうにまとめて書く ということをやっています。この争いのない事実というのは、むしろ判例の中で証拠を 踏まえた双方の議論が尽くされていない部分ですので、前提事項として取り扱われます けれど、非常に不正確な内容が含まれていることが多々あります。しばしば医療関係者 の方がおかしいと言って御指摘になるのもこの争いのない事実の部分です。  裁判所は争点について証拠を用いて判断を示すけれども、争いのない部分については 証拠との整合性などはあまり詳しく検討しないで、事実をそのまま書いてしまうという 傾向があります。  3つ目はこれがいちばん大事な点だと思うのですが、これまでの検討会議の議論の中 で、我々が今やろうとしていることは、白か黒かを定めようとすることではなく、白黒 問わずグレーゾーンを含めてより安心できる、納得できる医療につながる素材をできる だけ広く拾ってこようということなのですが、裁判の目的はむしろ白黒の決着をつける ことです。そしてその当事者双方がどうしても譲らなくて最後の判決まで至ってしまっ たという、例えば800件のうち、判決まで至るものは半数の400件程度です。ここ数年の 傾向で大体、半数程度は判決前に解決をされていますので。そういう意味で白黒をつけ なくてはならない、判決を出さないとまた遅い、遅いと大変に怒られますので、賠償す べきか否かという非常に限られた目的の範囲内で白黒をつける、あるいは最近若干出て きている刑事処罰をすべきかどうかという限りにおいて白黒をつけるということです。  この辺で判例集で出てきた事象を、参考例として採用するということを私は良いこと と思いますが、いま申し上げた当事者の主張に拘束される、争点についてしか詳細な検 討がなされない、目的が白黒つけることである、ということを十分に斟酌いただきたい と思います。 ○前田委員  付け加えることはあまりないのですが、私は専門が刑事ですから、刑事の司法に出て くるような事件というのは極端なものにほぼ限られて、極端でないものまで立件してい る傾向があるとの御指摘がありましたけれど、やはり基本的には非常に重大で、しかも 特異な事件というようなものですので、そこさえクリアできればいいというような基準 には全然なりません。要するに民事が重要だと思いますが、民事の判例について扱うと きの御注意は、もう両先生の御指摘のとおりで、ただやはり情報源としては従たる存在 である、という認識は十分持っておくべきだと思います。 ○星委員  まさに、いま御発言のとおりだと思います。関連して、そのオープンにされなかった 様々な争いに関する記録についても、参考になるはずであるというような議論が繰り返 し行われたことがあります。過去にも何度かありました。しかしその場合には、いま児 玉委員が御発言になったこと以上に、事実、あるいはそこに描出される様々な出来事 が、必ずしも事実と異なる。事実と異なる、という言い方がいいのかどうかわかりませ んが、少なくとも医療事故を防止するという観点からいって参考になり得ない可能性が 高い、というように思っておりまして、いま条件付きでとおっしゃいました。それか ら、樋口委員がおっしゃられたように、事故になるという話と、紛争になるというもの が異なるのだ、という大前提があります。ですから、紛争になったことすなわち事故な のだと、あるいは事故になったこと即ち紛争なのだという、これは必ずしも両方とも違 う話でありまして、先程樋口委員がおっしゃったとおりですけれども、そういったこと を一緒に考えないと、大変に間違った方向に、活用の方法あるいはその議論の方向を導 く可能性があると私は思います。 ○川端委員  いまの「紛争と事故とは違う」というのはおっしゃるとおりなのですけれども、ただ 誰が定義するかで事故の範囲は変わってくるということを、その紛争と事故の食い違い が示しているという面もあるわけで、ここも念頭に置いておく必要があるのではないか と思います。つまり医療側が、これは紛争だけれど事故でないと思っていることが、そ のまま絶対的な真理ではないということだと思います。 ○児玉委員  ヒヤリ・ハットとインシデントの話といまの部分、ちょっと関連するので、1点だけ 補足をさせていただきたいのですが、もともと英語のインシデントレポートは、これは ヒヤリ・ハットと事故と両方含んでいるのです。このヒヤリ・ハットのシステムを立ち 上げられて、協力しているところの関係者の方等と、それから私、何度も「どこまでが ヒヤリ・ハットで、どこからが事故か」という質問をされたのです。  私のほうは、もともとヒヤリ・ハットと事故というのは間にグレーゾーンが広がって おりまして、アメリカの場合は区別するのが大変なので、全部インシデントとまとめて 言っております、というようなお答えをしていたわけです。  いま、これは大変興味深く中身を見せていただいていたのですけれども、例えば小さ な子どもが転落しそうになって、それでベッドの柵を越えて転落しそうになったけれど も、なんとかそれを落とさないですんだという話まで、やはり私としてはヒヤリ・ハッ トかなと思っていたのですが、これは中を見ると落ちてしまった例も書いてあるのです ね。落ちてしまったら事故ではないかと思うのですが、要するに現場の感覚で言うと、 転落事故が起こったとしても、結局ケガはなくて終わったのでヒヤリ・ハットなのだと いうことでしょう。ただ、いま川端先生が御指摘のように、医療機関側がヒヤリ・ハッ トと思っていても、親御さんにしてみれば、自分の大事な子どもがベッドから落ちてい ますから、ひょっとしたらこれは事故と思っているのかもしれない。ことほどこのヒヤ リ・ハットと事故の区別というのは難しい部分があるわけです。  ちょっと個人的な興味といいますか、それもひょっとしたら有益な情報源になるので はないかなと思うのは、いませっかく動いているこのシステムを、たまたまヒヤリ・ハ ットの具体的な発生した要因、実施したもしくは考えられる改善策、これをヒヤリ・ハ ットというところを、例えば事故も含めて情報を取ることはできまいかと。そうすれ ば、またこのヒヤリ・ハット事例を上回る、非常に実り多い、示唆に富む情報が出てく るのではないかと。  ただ、その際にやはり当初の目的として、これは事故予防のためなので、この情報を 特定の医療機関の法的な処分等に使用しない、というお約束の上で情報を上げていただ くと、議論の基盤がさらに充実するのではないかという期待感を、これを先程から見せ ていただいていて思います。 ○堺部会長  ありがとうございます。これは部会長としての発言ではなくて、病院で事例収集に当 たっている者の意見としてお聞きいただきたいのですが、私は結果の重要性とプロセス の重要性があると思っています。結果の重要性というのは、患者さんにお身体、あるい は心に何が起こったかと、それが重大な事態であったかということですし、プロセスの 重要性というのは、結果はともかくそのプロセス自体に、やはり問題がかなり潜在的に あるということで、この2点はやはり分けて分類すべきではないかなと私は考えており ます。 ○長谷川委員  それに関してアメリカのVAでやっている方法は、ヒヤリ・ハットの場合にも、もし これが途中で予防されなかった場合にどうなるだろう、ということをチェックさせるの です。最終的に非常に重篤な障害の部分だけをピックアップして、ルートコーズアナリ シスのほうに流すのですけれども、ヒヤリ・ハットの場合でも、もし途中でその事故が 予防されなかった場合に酷い状況が起こるケース、それもルートコーズに回すように、 というようなシステムをとっております。一応、参考までです。 ○井上委員  私どもの会で集めました4,000例の事例をもとに、事故対策ということで分析方法も 確立しながら対策をやっているわけですが、実際にやってみますと、ヒヤリ・ハットに はやはり情報が足りない場合があるのです。事故解析、事故報告ですと、かなりの情報 が背景情報まであって、薬剤師の経験年数がどのくらいだったとか、どの時間帯、繁忙 時に起こったのか、閑放時に起こったのか。それから、そのときの事故を起こした当人 の疲労度がどのくらいだったのか、こういうのはヒヤリ・ハットでは集まってこないの です。  やはりヒヤリ・ハットというのは、傾向を知るという分析手段としての目的がありま すが、事故を起こさない対策の方法として考えるには、やはりルートコーズアナリシス に回すためには、センチネルイベントとしての情報量というのはかなり膨大なものにな ります。ヒヤリ・ハットというのは、やはり情報量が少ないために傾向分析の1つの手 段で、きちんとした事故対策を立てようと思えば、それなりの分析ができる情報量とい うのが必要だろうと思います。裁判事例も裁判の切り口から情報を集めていますので、 事故対策を立てるには、やはり事故防止のための情報としてはある側面で不足するとこ ろが出てくるのだと思うのです。そうなってきますと、JCHOがやっておりますよう な、事故対策のためのちゃんとした、かなりの量の情報を持った事故情報を集めない と、きちんとした事故対策は立てられないということ。そういうことがセンチネルイベ ントとして位置付けられることの意味だろうと思います。だからインシデントとセンチ ネルイベントというのは、情報の量的には全く異なるものだと私は思っています。 ○堺部会長  その辺は現行のヒヤリ・ハット収集システムの内容を、次回にもう少し示していただ いて、いまの井上委員の御質問にどの程度答えられるかということを検討いただきたい と思います。  それでは先に進ませていただきますが、起草委員会にもう1つできればお願いしたい のはこの部分です。第三者機関という部分と、それから医療機関に対する各種技術的な 支援。前のページにありましたインセンティブというところもここに入るかと思います が、ここのところはまだちょっと御議論が深まっていないように感じますので、起草委 員会のほうである程度御検討いただけますでしょうか。 ○前田委員  そのことも当然だと思うのですが、その前提として参考資料2に付けていただいた、 親委員会の中の第三者機関についての御意見を簡単に御披露した上で、この検討部会の 委員の方々の第三者機関イメージですね。これを少し、もう時間がだいぶつまっており ますが、出していただいて、それを踏まえてまた起草委員会で検討させていただきたい と思いますので、ちょっとコメントさせていただきたい。  2ページ目の5、「いわゆる『第三者機関』について」というところですが、先程も う既に、まさにここで議論されたことなのですが、事故かどうかはっきりしないことが 多いために、事故かどうかを判定できる第三者機関が必要であると。こういうイメージ で第三者機関を捉えられていて、医療側から見るとこうだけれども、法律家から見ると 事故であるかどうかちょっと微妙だというようなことがあるわけですけれども、それと ある意味で表裏なのだと思うのですが、信頼性のあるものが第三者機関だというとらえ 方。  それからもう1つは、1つ上に立ったという感じだと思うのですが、啓発・普及のコ ンサルテーションも行う。これは先程御説明がありました、技術支援の問題という中に も繋がってくると思うのですが、それに対する1つの答としては、いくつか下のところ にあるのですが、機関の目的によってやはり違って、ここには書いてなかったかもしれ ませんけれども、第三者機関がどういう作業をする組織かということで、どういう人々 の構成になるか。それと信頼性、公平性をどう結びつけていくかという辺りがポイント になってくると思うのですが、機密性、独立性、公平性、いろいろな概念が出てまいり ます。  第三者というときには独立している、それから公平である。ある意味では当然といえ ば当然なのですが、いままでの議論を踏まえて、特に事故事例情報を集めることによっ て再発予防をしていくのがいちばん中心である。  発生状況の把握は次回にちょっと回ってしまうわけですけれども、再発予防をする、 それから技術的なアドバイスもするというようなことを踏まえると、どういう第三者機 関になるのか。それと今日、宿題として1つ加わった、患者の側の御意見を聞く組織と して、適切な第三者機関というのはどういうものなのか。これを煮つめていかなければ いけないと思うのですが、ぜひ今日の段階で御意見を承れればと思います。 ○堺部会長  よろしくお願いします。第三者機関と申しても、ただいまの前田委員の御指摘のよう に、目的と機能、実はいろいろなものが想定されております。おそらくこれは、完全に 絞り込むことはかなり困難だと思われますし、それからこの検討部会の、最初に皆様の 御意見を頂戴いたしまして、とにかく我々は全てを完璧に解決策を提示するということ よりも、とにかくいまできることを実際に作っていこうという、そういうスタンスで作 業を始めていると思いますので、第三者機関も、いまできるものは何かということでお 考えいただきたいと思います。  また、この第三者機関のことだけで何日もかかるほどの議論に実はなるわけですが、 ぜひそのイメージを起草委員長にお伝えいただきたいと思います。 ○三宅委員  先程患者さん側からの情報も十分集めるべきだというお話があったのですけれど、私 もそれに賛成なのですが、そういうことを考えるとやはり医療機関から集めてくる情報 を受けるところと、患者さんからの情報が集まってくる場所とは、やはりちょっと違う のではないかという感じを受けています。ですから、おそらく大部分の項で、いままで 第三者機関ということを言われてきた大部分の方は、おそらく医療機関から情報を出す ときに、何か信頼できる中立な立場のところにであれば情報を出しやすいと、そういう イメージで言っているのです。ですから、そういうことが1つと、もう1つは患者さん の情報がいかにきちんと集められるかという、それが第三者機関という表現がいいのか どうかわかりませんが、そういう受け皿といいましょうか。何かその2つがあって、お そらくイメージとして皆さんが思っているのは、その医療機関側がということをイメー ジとして持っているのではないかという気がします。 ○星委員  だとすると参考資料2の、いわゆる第三者機関の最初の○のところは、ちょっと話が 違うのだろうな、と思うのです。ここはまさに裁判所ではないけれど、白か黒かはっき りさせるという。ですからここの、いまの我々が議論している2の(1)、ここに出て くる第三者機関というのは、まさに三宅委員がおっしゃるように、医療機関が安心し て、フリーハンドで自分たちの、いわばいろいろな、本当なら聞かれたくないこと、言 いたくないことも、安心して出せると。それはなぜかと言えば、それが信頼性がある し、それが事故予防に役立つからだと。自分の恥を忍んでというものを促進するための 第三者性というのが必要なのです。  ただ、ここで「いわゆる」という話になると、まさに最後の3のところです。個々の 事故事例の対応というところが混じってきてしまうのかなと思いまして、やっとこ書き 分けていただいているので、私はその中で参考資料2が、またぞろ元に戻しているのか と大変不安に思うのですが、私も三宅委員がおっしゃるように、とにかく医療機関に とって、患者さんからの意見を反映させるという仕組みは別に考えるとして、少なくと も医療機関にとって、自分たちが本当なら恥ずべきこと、出したくないことだけれど、 その意義を持って安心して情報の提供ができるというようなことが、第三者機関の役割 として第一に考えられるべきだと思いますし、個々の事例の判断というようなものと、 やはり明確に分けられるべきだと思います。 ○前田委員  補足というか、これは私も厳密には覚えていないのですが、(1)のいちばん上の、事 故かどうかはっきりしないことが多いために、事故かどうかを判定するというのは、そ の事件の司法的ないし黒白を付けるという趣旨では、必ずしもなかったと思います。  要するに、集めるときに事故情報を集める、ヒヤリ・ハットと事故を分ける、と言っ たって変わらないのではないか。そういうものをある程度分けられるだけの、この場合 はやはりきちんとした基準を持った第三者機関というニュアンスのほうが強かったと思 いますので、おそらくいま議論している中で裁判所以外に裁判所的なと言いますか、い わゆる法的な黒白を付けるようなものを考える、という議論はあまり出ていないとは思 います。ただ、先程のように事故かヒヤリ・ハットかは非常に難しい、という問題は 残っているということだと思います。 ○川端委員  第三者機関の例としてイギリスに患者安全機構、National Patient Safety Agencyと いうのが、わざわざインシデント情報の収集機関として作られているわけです。それ で、そこのやり方を見ていると、いまの星委員の疑問に答えるようなやり方をされてい るのではないかと思うのですけれど。  要するに日本はいまインシデントとアクシデントを分けて、それから何か議論が混乱 するのですが、いずれにせよ何らかの予期しない結果、あるいは予期しない事象が発生 したとき、つまり向こうはインシデントはヒヤリ・ハットもアクシデントも両方含む概 念として使っていますが、それは全部報告させるのです。実際に起きた結果のグレード だけではなくて、結果は起きていなくても、これは将来非常に重要な事故を起こしそう な事例だという場合とか、あるいは非常に大きな範囲に将来影響しそうだというような 事例は、いちばん最高ランクとされ、緊急報告があったり、あるいはこのNational Patient Safety Agencyに3日以内に報告しろということになっているのです。  それで、そうでないものは報告の対象先の報告機関のランクが落ちていって、最低ラ ンクでは院内で対策を分析して四半期ごとに報告すればいいというように分けているの ですけれど、いずれにせよ事故かヒヤリ・ハットかというのを出だしの段階で分けると いうのは、あまり意味がないのだと思うのです。そういう視点でやれば。つまり事故で あろうがなかろうが、つまり有害な結果が現に発生していようがしていまいが、将来は 重要な問題を起こしそうなものをみんな報告しなさいと言ってしまえば、事故かどうか というのを分けるのは、神経質になる必要はなくなるのではないかと思います。  それで、どういう第三者機関がいいかというのは、現在の財政事情の関係があって、 いろいろ制約があるのだとは思いますけれども、いちばん理想的なのは、やはりイギリ スのようなそういう公の機関を作ることだと思うのです。そういうものができれば、私 は患者からの情報というのも、そこにも集めていく。つまり患者の苦情申立機関から来 る情報、間接的に来る情報というのは当然あると思いますけれども、そういう患者申立 受付専用機関というのを別に明確に区分して、患者の情報はみんなそちらとやる必要は ない。現にNational Patient Safety Agencyでも、患者からの情報も集めているので す。だから事故の報告すべき情報は対象を広く、それから報告すべきことも広く。た だ、その性質の違う情報を同一の基準で分析するわけにはいかないので、それはソース 別に違う分析をすればいいというだけではないか、という気もいたします。 ○辻本委員  東海大学の誤注入事件、それから川崎協同病院の安楽死事件、そういったところに外 部評価として関わってみて、感じたことなのですけれど、やはりあの事件などは病院側 から積極的に内部調査をし、外部評価を受け、ということを判断なさった。その結果が 出たところで、御家族、御遺族の方は、やはりそれなりに納得をしていらっしゃる。そ の行為そのものに、やはり敬意を表している。ですから、逆に言えばそこまでの調査が 必要です、そういったことを判定する場になればいいのではないかな、という気もいま しながらお話を伺っていたのですけれど。 ○前田委員  私なりに整理というわけではないのですが、お伺いしておりまして第三者制というの は、1つはいちばんすっと出てくるのが、労働者と企業の間の公益みたいに、どちらに も属さないという第三者制ということなのですが、この場合はあまり的確ではなくて、 1つは先程委員から出ていましたヒヤリ・ハットの集め方にも繋がるのですが、非公開 制というか、情報が漏れない。そこに行けば情報が確実に漏れないで、しかも使ってい ただける。それはある種、専門性とも結びついていて、専門性の高い方が分析できなけ ればいけない。  あと、公平性というのは特定の医療機関に利益を図るとか、患者団体に利益を図るの ではない、という人的な公平性は必要だと思うのですが、その象徴が1つは川端先生が 御指摘のように、公的なものを作るというのは1つの公平性のパターンだと思うのです が、その経済的余力とか、それがどうなるのか。おそらく専門性があり、しかも情報が 守れて、一方の側の利益に与みしないで、ただそこから一歩進んで調停をしたり何とか というのはちょっと違うだろう、という辺りが皆さんの御意見からあって、またこれを たたき台を作らせていただいて、次回また御検討いただければと思っています。 ○星委員  もう1つ、先程申し上げたことなのですけれど、いま辻本委員の御意見を聞いて「な るほど、そうだ」と思うのですが、例えば原因を分析しましょうねと。実際に起きた事 故を目の前にして、患者さんたちと医療者が向き合って原因を分析しましょうと。しか し、どのようにしていいのかわからないという、まさに技術的な支援というのはそうい う部分にもあるのかもしれません。原因の分析、そしてそこから得られた再発防止の考 え方、あるいは原因を分析して作ったレポート、これは病院の中だけではなくて、広く 日本中で活用してほしいのだという気持ちが、たぶんあるのだと思うのです。  ですから具体的に申し上げれば、少なくともここでデータを集めるときの、患者さん に対する1つの言い方とすれば、あるいは患者さん側からの言い方とすれば、「この事 例については、あの機関に報告していただけましたよね」、「みんなに資するように、 あそこに言っていただけましたよね」というような機関として位置付けられるのであれ ば大変に価値があるだろうし、患者さん側にとっても意味のあることだろう。  ただ、その前の段階として必要な原因分析をきちんとする、というところがどうなの かといったときに心許ないような気がしますけれど、ではそこに対する支援をどうする のかというのは、これはまたその他の第三者機関が支援するというのも変な話ですか ら、どうなのかなと思いますけれども、1ついま言っている第三者機関というものの中 に、実は異なる期待が入っているということを前提に議論していただきたいと思いま す。 ○堺部会長  他にはよろしいでしょうか。それでは、正直もう少し先までいきたかったのですが、 十分御議論していただくということがいちばん大事だと思いますので、そろそろ予定の 時間がまいりました。本日の議論はここまでとさせていただきます。  次回の予定ですが、資料1の2枚目(2)以降に進みます。それに先立って起草委員 会、あるいは事務局のほうに資料の御提供もお願いしておりますが、その御報告も頂戴 したいと考えております。それについて、また議論をしていただきますが、それでは次 回の日程について、事務局のほうから御連絡をお願いします。 ○事務局  次回の日程は2月5日(水)ですが、17時から19時の日程で予定しております。  会場は厚生労働省、この建物の5階の共用第7会議室を用意しておりますので、詳細 についてはまた後日御連絡させていただきます。  なお、本日御指摘のありました資料等については、事務局でそれまでにまとめ、また 議論をさらに起草委員会で深めていただく部分につきましては、次回以降になるかもし れませんが前田先生と御相談しながら進めさせていただく予定です。 ○堺部会長  それでは、本日はこれで閉会いたします。お忙しいところ、まことにありがとうござ いました。  (照会先) 医政局総務課医療安全推進室指導係長 電話 03-5253-1111(内線2579)