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生物由来製品の指定の考え方について(案)


1. 改正薬事法における「生物由来製品」及び「特定生物由来製品」の定義について

(1) 「特定生物由来製品」とは、生物由来製品のうち、市販後において当該製品による保健衛生上の危害の発生又は拡大を防止するための措置を講ずることが必要なものであって、厚生労働大臣が薬事・食品衛生審議会の意見を聴いて指定するものをいう。

(2) 「生物由来製品」とは、人その他の生物(植物を除く。)に由来するものを原材料として製造される医薬品・医療機器等のうち、保健衛生上特別の注意を要するものとして、厚生労働大臣が薬事・食品衛生審議会の意見を聴いて指定するものをいう。


2. 改正薬事法上の定義に沿った指定分類の基本的な考え方について

 特定生物由来製品及び生物由来製品の指定に関しては、概ね、製品の感染症のリスクに着目し、次の考え方に基づき行うものである。ただし、これらの考え方は現在想定される感染症を基とした対応であり、新しい型の感染症等感染症に対する新たな知見が得られた場合、見直しを行う必要があるものである。

(1) 特定生物由来製品については、製品における感染症の発生リスクが理論的にも、かつ、経験的にもより高いものであり、その原料に関して次のような特徴を持つものを想定したものである。
(1) 人・動物から得られた原料を使用する製品であって、不活化処理等の感染症に関する処置に対して限界があるもの(例:輸血用血液製剤)
*注: 将来、人・動物から得られた原料由来の培養皮膚等の細胞組織医療機器・医薬品も想定している。
(2) 不特定多数の人から採取された原料を使用する製品であって一定の病原体の不活化・除去等が行われているが、感染因子を内在するリスクがあるもの(例:人血漿分画製剤、人臓器抽出医薬品)

(2) 生物由来製品については、製品における感染症の発生リスクがあり、次のような特徴を持つものである。
(1) 病原性の細菌、ウイルスを原料とし、一定の不活化、弱毒化等の措置が講じられているもの(例: ワクチン、抗毒素等)
(2) 人又は動物の管理された細胞株又は管理された動物個体(遺伝子組換えを含む)により生産されるタンパク等を用い、かつ一定のウイルス等病原体の存在の否定についての確認、不活化除去が行われているもの(遺伝子組換えタンパク、培養細胞由来のタンパク等)
(3) 健康の確認された不特定多数の動物から得られた原料を用いたものであり、一定の病原体の不活化・除去等が行われているもの(ヘパリン等の動物抽出成分)

(3) 生物由来の原材料を用いているものであっても、指定の対象とならないものは、現在の科学的知見において、感染症のリスクの蓋然性が極めて低いものであり、次のようなものである。
(1) (2)の(3)においても、製造工程による管理の内容(強アルカリ、高温等の過激な処理条件)、又は投与経路(経口・経皮等)からみて、明らかに感染症についてのリスクの蓋然性が低いもの(例: ゼラチン)
(2) 病原菌を使用せず、人・動物の血清等を製造工程で使用していないものであり、明らかに感染症についてのリスクの蓋然性が低いもの(例: 乳酸菌、インスリン等の大腸菌由来の遺伝子組換え製剤、抗生物質)
(3) 人獣共通感染症の蓋然性の低い動物種を原料としたもの(例: カイコの糸を使用した医療用具、魚類由来の原料から抽出されるコンドロイチン硫酸)

(4)その他

 反芻動物由来の原料については、BSE対策により、原産国、使用部位の規制を行っており、これにより、BSEに関する製品のリスクは極めて低いという評価に基づき検討する。

I.反芻動物由来原材料基準 生物由来原料基準(案)より

 反芻動物より採取された原材料については、次に掲げる部位に由来するものが使用されたものであつてはならない。ただし、脂肪酸、グリセリン、脂肪酸エステル、アミノ酸、(オリゴ)ペプチドその他高温及びアルカリ処理により製するものを除く。
 脳、脊髄、眼、腸、扁桃、リンパ節、脾臓、松果体、硬膜、胎盤、脳脊髄液、下垂体、胸腺又は副腎
 反芻動物に由来する原材料(乳由来成分及びラノリンを除く。)の原料動物の原産国は次に掲げる国以外の国であってはならない。ただし、羊毛、ラノリンは除く。また、乳由来物は、英国、ポルトガル以外の原産国を除く。
 アルゼンチン、オーストラリア、ボツワナ、ブラジル、チリ、コスタリカ、エルサルバドル、ナミビア、ニカラグア、ニュージーランド、パナマ、パラグアイ、シンガポール、スワジランド、ウルグアイ、カナダ、コロンビア、インド、ケニア、モーリシャス、ナイジェリア、パキスタン、米国
 反芻動物に由来する原材料は、安全性確保上必要な情報が確認できるよう、次に掲げる事項に関する記録が整備、保管されていなければならない。
(1)原産国 (2)原材料の採取日又はと畜日 (3)原材料について伝達性海綿状脳症を防止するための処理及び作業の経過 (4)原材料ロットの製造番号


基本的な考え方において、境界の判断を行うべき場合について

 以下の事例については、個別の製品の内容に照らし、特定生物由来製品及び生物由来製品の指定の区分について検討する必要がある。

(1) 人血液成分を製造工程中で使用する場合(例えば、遺伝子組換え製剤の安定剤、遺伝子組換え製剤を産生する細胞の培地)は、次のような考え方に基づき、リスクを推定する。
(1) 人血液成分(アルブミン等の血漿蛋白成分)の製品中での含有量(残留量)を標準的な治療において使用した場合の累積量について、人アルブミン製剤が標準的な治療に用いられる量(基準量)と比較する。
(2) 使用量・期間は、一般に、使用期間中に暴露される人アルブミンのドナー数にも比例すると考えられる。
(3) 基準量においては未だ感染症発生の知見がないことから、比較した値が、基準量に満たないものは、生物由来製品に指定する。ただし、以下の場合は、原則として特定生物由来製品に指定する。(培地に人アルブミンを用いている遺伝子組み換え第VIII因子製剤)
(ア) 疾病により一生涯使用する製剤については、累積量が小さいものであっても、未知のリスクに対するより予防的な対応が必要であること、
(イ) 同一成分かつ同効の他の製剤が特定生物由来製品である場合には製品の管理等の観点からの適正使用を促す対応が必要であること

(2) 増殖可能ウイルスのリスク、ベクター作成に用いるウイルス自体のリスク等から制御できない感染リスクの可能性を否定できない遺伝子治療用医薬品(現在承認されている製品はない。)については製品個別にリスクの評価を行っていく。

(3) 細菌・ウイルスに対する遺伝子組換え操作により、本来の細菌・ウイルスと異なる特性をもつ細菌・ウイルスであり、開放系で使用される場合の感染伝播のリスクについて未知数であるもの(例: 遺伝子組換え生ワクチン−現在承認されている製品はない。)については製品個別にリスクの評価を行っていく。


別紙


生物由来製品の指定に関する品質管理・安全性評価について


基本的な考え方

理論的リスクの算定方法 (万が一、感染因子を含む原料を使用していた場合、最終製品中での残存量、不活化処理、投与経路から理論的に計算されるリスク)

[最終製品のリスク]



(A)
 ┌
 |
 |
 └
[原材料自体のリスク]
又は/及び
[製造時の混入リスク]






(B)


[リスク低減措置]



(C)


[投与経路・使用期間安全性]

[原料自体のリスク]又は/及び「製造時の混入リスク」

 以下の(1)又は(2)のリスクのうち、大きいもの
(1) 生物由来原材料(*)自体の感染因子のリスク
(2) 製造工程中での生物由来原料に由来する汚染リスク
* 「原材料」とは、製品の有効成分のみならず、製品の製造工程中で使用される生物由来の成分、添加剤として用いられる成分をいうものとする。

[リスク低減措置]

(1) ドナースクリーニング等の検査を行うことによるリスクの低減
(2) 不活化処理、病原体除去工程によるリスクの低減
 ドナースクリーニング等の対策は、法第42条基準及びGMP省令により担保する。

「投与経路安全性」

 投与経路による安全性への影響(注射の方が、経口よりもリスクが高い。)
 投与量・使用期間による安全性への影響
  (一生涯の使用等相当長期の使用はリスクが高い。)

「最終製品のリスク」

 上記の考え方に基づき、製剤の有効成分、非有効成分(添加剤、製造中に使用される材料)等のあらゆる成分について検討し、製品としてのリスクを評価する。
(1) 理論的なリスクが比較的高い物(血液製剤を基準)は、特定生物由来製品
(2) 理論的なリスクが比較的低い物(化学合成品レベル)は、指定せず。
(3) (1),(2)以外は、生物由来製品

参考


原材料自体の感染リスクの相対的な比較

カテゴリー 原材料※の類型 原料リスクの主たる特徴 感染リスクの要因 相対的リスク
人由来 病原体自体 動物由来の未知因子の影響 病原体増殖 不特定多数
人又は動物由来細胞・組織及び人由来成分を使用した製品
(血液製剤等)
人対人の感染リスク(人由来原料)かつ不特定多数からの原料に由来するリスク(人由来原料)
未知の感染症のリスク(動物細胞組織製品)
   
ウイルスを使用した製品
(ワクチン、遺伝子治療用医薬品等)
病原体そのものである。
       
病原菌を利用した製品
(ワクチン)
病原体そのものである。
       
株化した人又は動物の細胞(動物工場を含む。)を培養し、抽出した成分を含む製品(遺伝子組換え医薬品等)
不特定多数からの原料ではなくとも、生きた細胞の使用による病原体の増幅のリスク
   
動物由来成分を含む製品(ヘパリン等)
不特定多数の動物からの原料に由来するリスク
     
非病原菌を利用した製品(インスリン等)
菌自体よりも製造工程中で使用する材料からのリスク
     

※: 「原材料」とは、製品の有効成分のみならず、製品の製造工程中で使用される生物由来の成分、添加剤として用いられる成分をいうものとする。
注: 人血液成分等を製造工程、添加剤で使用している物は別途カテゴリー1と同様に考慮
△: 影響は少ないが考慮する必要があるもの


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