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資料3−2


鉛に係る水質検査における試料採取方法について

(担当主査:国包委員)


 本資料は、厚生労働省の依頼を受け、鉛に係る水質検査における試料採取方法についてとりまとめたものである。

1.背景

 平成14年3月27日に鉛に関する水道の水質基準が0.05mg/l以下から0.01mg/l以下に改正・強化され、平成15年4月1日から新基準が施行されることになっている。この改正は、平成4年における水道水質基準の全面改正の際に、鉛の水質基準がそれ以前の0.1mg/l以下から0.05mg/l以下に改正・強化され、それと併せ、当時の生活環境審議会の答申に基づき、鉛管布設替えを鋭意進めるとともに、概ね10年後に鉛の水質基準を見直して0.01mg/l以下とすることが、今後の方針として定められていたことを受けたものである。

 水道水に含まれる鉛のうち多くは、主として鉛給水管、青銅合金製給水用具等、給水装置からの溶出によるものである。また、水道水中の鉛濃度は、鉛給水管等と接触することによって上昇するので、給水装置ごとにその使用実態に応じて時間的にも著しく変化する。それゆえ、水道水中の鉛濃度が水質基準に適合するかどうかを判断するための水質検査に関しては、これらのことを十分に考慮した上で試料の採取方法を明確に規定することが必要である。

 以上のことから、ここでは上記の鉛に関する水道水質基準の改正に関連して、水道水中の鉛濃度測定のための試料採取方法等につき、厚生科学研究班等における検討結果を取りまとめた。


2.鉛濃度検査のための試料採取方法

 水道水の鉛濃度が水質基準に適合しているかどうかを判定する上においては、その検査のための試料の採取方法を明確にしておくことが必要である。水質基準に係る現行の規制では、給配水過程でその濃度が変化する可能性が高い鉛に関しては、水質検査のための試料の採取は給水栓で行うことが定められているが、その具体的方法に関しては何も定められておらず、慣例として流水状態での試料採取が一般に行われている。

 しかしながら、既によく知られているとおり、鉛給水管等を使用している場合の給水栓水の鉛濃度は、給水装置における水道水の滞留時間によって大きく変化し、一般に滞留時間が長くなるほど給水栓中の鉛濃度はより高くなる。従って、給水栓水の鉛濃度を適切に把握するためには、現行のような流水を試料とする水質検査は必ずしも妥当ではないと考えられる。

 上記のような観点から、給水栓水の鉛濃度検査のためのいくつかの試料採取方法につき、すでに得られている科学的知見に基づき比較評価した結果を表に示す。ここでは、「流水」、「15分滞留水」及び「30分滞留水」の3種類の試料につき比較検討している。また、「15分滞留水」と「30分滞留水」では、試料の採取量が異なり、「15分滞留水」では5L、「30分滞留水」では2Lとしている。

(1) データの信頼性と再現性

 溶出量のばらつきの測定結果に与える影響という観点からは、一見、「30分滞留水」法にメリットがあるようにも見えるが、「15分滞留水」法においては、採取量を5Lに増加させることによりそのデメリットを解消する工夫をしている。さらに、5L採取することにより、ほとんどの場合、給水管内のすべての水(内径13mm管で長さ約38mの給水管に相当)を取り込めるという点は、「15分滞留水」法の大きなメリットである。

(2) 平均暴露濃度との関係

 表にあるとおり、「15分滞留水」法にしろ、「30分滞留水」法にしろ、その得られる値と平均暴露濃度との関係については現時点では明らかではない。なお、非常に限定された調査ではあるが、我が国における実態調査の結果によれば、両法で得られる鉛濃度に差は見られていない。いずれにしろ、今後の研究に待つところが大きい。

(3) 採水作業上の問題点

 この点については、表にあるとおり「15分滞留水」法にメリットのあることは明らかである。

 上記(1)〜(3)のとおり、データの信頼性と再現性、平均暴露濃度との関係及び採水作業上の問題点を考慮した場合、「15分滞留水」法が総合的に見て最も適切であると判断し、これを鉛濃度検査のための試料採取方法として提案する。
 ただし、現時点では平均暴露濃度との関係に関するデータが限られているため、本提案は暫定的な位置づけとし、今後の調査・研究を踏まえ必要に応じて見直しを行うこととしたい。

(鉛濃度検査のための試料採取方法案)

 流量約5L/分で5分間流して捨て、その後15分間滞留させたのち、先と同じ流量で流しながら開栓直後から5Lを採取し、均一に混合してから必要量の検査用試料を採水容器に分取する。


表 給水栓水の鉛濃度検査のための各種採水方法に関する比較

試料水 採水の具体的方法 評価
データの信頼性と再現性1)、2) 平均暴露濃度との関係3) 採水作業上の問題点
流水 流量約5L/分で5分間流して捨てたのち、そのまま続けて流しながら試料水の適量を採取し、均一に混合してから必要量の検査用試料を採水容器に分取する。 特に問題ない。 平均暴露濃度に比べて低い値が得られる。 現状と同じであり、特に問題はない。
15分滞留水 流量約5L/分で5分間流して捨て、その後15分間滞留させたのち、先と同じ流量で流しながら開栓直後から5Lを採取し、均一に混合してから必要量の検査用試料を採水容器に分取する。 30分滞留水の場合に比べれば、滞留時間が短い分だけ鉛の溶出量により大きなバラツキが生じるおそれがあり、その分だけ再現性は低いが、採水量が5Lと多いので、ほとんどの場合において鉛給水管内の水がすべて取り込まれることになり、その延長等に応じた鉛濃度測定結果が得られる。 流水の場合に比べればより高い値が得られるが、平均暴露濃度との関係についてはよくわからない。 事業体職員による採水の作業効率の面から見て、この程度の滞留時間が実務上の許容限界であると考えられる。
30分滞留水
(kiwaの方法)
流量約5L/分で5分間流して捨て、その後30分間滞留させたのち、先と同じ流量で流しながら開栓直後から2Lを採取し、均一に混合してから必要量の検査用試料を採水容器に分取する。 15分滞留水の場合に比べれば、滞留時間が長い分だけ鉛の溶出量にバラツキが生じるおそれは少なく、その分だけ再現性は高いが、採水量が2Lと少ないので、場合によっては鉛給水管内の水がすべて取り込まれないことも予想され、その延長等に応じた鉛濃度測定結果が必ずしも得られない。 流水の場合に比べればより高い値が得られるが、平均暴露濃度との関係についてはよくわからない。また、オランダではこの方法により平均暴露濃度に匹敵する値が得られることが確認されているが、このことがわが国でも当てはまるかどうかは確認されていない。 事業体職員による採水の作業効率の面から見て、この滞留時間は実務上の許容限界を超えていると考えられる。

注、 1) 給水管の延長10m当たりの内容積は、F13mmの場合が1,327mL、F20mmの場合が3,142mLである。
2) 当厚生科学研究班が、鉛経年管(F13mm、延長10m)を用いて、一定時間滞留後に水を流しながら(1)開栓直後の1Lと、(2)その後3Lを流して捨ててから採取した1Lとについて、これらの操作を5回繰り返して測定値のバラツキを評価した結果によれば、滞留時間ごとの変動率は、(1)については5分滞留が12.4%、15分滞留が10.2%、30分滞留が5.8%、60分滞留が9.9%、(2)については5分滞留が14.3%、15分滞留が14.3%、30分滞留が12.9%、60分滞留が10.0%であった。
3) 朝一番の滞留水は飲用に供しないといった生活習慣のあり方によって、平均暴露濃度は大きく異なることが考えられる。


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