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4−4.暴露可能性を考慮した事前審査制度の見直しについて

(1) 日米欧の事前審査制度における主な適用除外・軽減措置

 欧米の化学物質審査制度においては、他の規制の適用を受けるものを除外した上で、リスク評価の観点に立脚し、暴露可能性を考慮して製造・輸入数量の少ない化学物質、中間物として他の化学物質に変換されるもの、輸出専用品等について、届出対象から除外したり、届出事項の軽減を図る等の措置が講じられている。

日本 米国 EU
重複規制を排除するため以下のものは届出不要
  • 放射性物質、特定毒物、覚せい剤・原料、麻薬(化学物質から除外)
  • 食品衛生法の食品、添加物、容器包装、おもちゃ、洗浄剤
  • 農薬取締法の農薬
  • 肥料取締法の普通肥料
  • 飼料安全法の飼料、飼料添加物
  • 薬事法の医薬品、医薬部外品、化粧品、医療用具




  • 核物質(原料、特殊、副生物)
  • 食品、食品添加物
  • 農薬
  • 医薬品、化粧品、医療器具
  • タバコ又はタバコ製品




  • 放射性物質
  • 食品
  • 農薬
  • 動物用飼料
  • 医薬品、化粧製品
  • 殺生物性製品の活性物質
  • 廃棄物の形での物質の混合物
試験研究用等の届出不要
  • 試験研究用、試薬用



  • 研究開発用(記録保存義務あり)



  • 1社当たり100kg未満の研究開発用途(記録保存義務あり)
  • 限定されたプロセス指向研究開発用途に関しては研究開発内容を届出(1年間は通常の届出を免除)
製造・輸入数量が少量の場合の届出事項の軽減
  • 年間の製造・輸入数量の国内合計1t以下の場合の事前確認制(試験データの届出不要)




  • 年間製造・輸入数量が1社当たり10t未満の場合の事前承認制




  • 年間上市量が1社当たり1t(累積5t)未満の場合は届出事項を軽減
     ┌
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     └
    10kg未満の物質は届出不要。
    また10t以上に達した場合は追加データの要求が可能。





中間物や低暴露の場合の届出事項の軽減
  • 医薬品中間物のみ事前確認制(試験データ提出不要)




  • 低い環境放出及び低い人暴露を有する化学物質の場合の事前承認制(暴露情報の提出)




  • 中間物については事前許可により届出事項を軽減
○輸出専用品
  • 適用除外・軽減措置なし


  • 輸出専用の製造等は届出・審査の対象から除外
    (記録保存義務・報告要件は適用)


  • EU域外への輸出は届出・審査の対象から除外
○高分子化合物
  • 性状を考慮した試験を適用(場合によっては届出事項を軽減)


  • 一部の高分子化合物に関しては届出不要


  • 一部の高分子化合物に関しては届出不要


(2) 我が国の事前審査制度を有する法令における中間物及び輸出専用品等の取扱い(詳細は別紙参照)

  化学物質審査規制法 労働安全衛生法 農薬取締法 薬事法
中間物
 (注1)

○事前審査の対象から除外

以下の場合に事前審査の対象から除外される。

  • 同一事業者内において新規化学物質を製造し、中間物として 使用する場合
  • 医薬品中間物については、当該中間物が全量医薬品として 使用されることを確認するための書類を添えて事前に届け出た場合

○有害性調査の対象から除外

事前に申し出て、労働者が新規化学物質にさらされない旨の確認を受けることにより対象から除外される。

具体的には、次の条件を満たす場合に確認がなされる。

  • 製造中間物、副生物又は廃棄物であること
  • 暴露防止措置が講じられていること
   
低暴露 現行の化学物質審査規制法では、事前審査の対象外とはされていない。    
輸出専用品 現行の化学物質審査規制法では、事前審査の対象外とはされていない。  

○法令の適用除外

輸出専用品である場合、農薬取締法は適用されない。(注2)

○製造・輸入販売業の許可要件等の軽減

事前に届け出て、届出書の記載内容に従って製造・輸入を行う場合に適用される。

(届出書の主な記載事項)

  • 輸出用医薬品等の成分及び 分量又は本質
  • 製造方法

(注1) 中間物であることについて、事前確認を受けることによって許可の対象から除外している例としては、オゾン層破壊物質の製造数量の管理を行うオゾン層保護法がある。
(注2) 農薬取締法の枠組みとは別に、FAO(国連食糧農業機関)のガイドラインに基づき、輸出される農薬の安全性を輸出される前に確認している。


(別紙)

1)現行の化学物質審査規制法における医薬品中間物に関する確認制度の概要

 現行の化学物質審査規制法においては、医薬品中間物の製造・輸入については、事前審査が不要とされている。

 医薬品中間物として使用する新規化学物質の製造・輸入事業者は、あらかじめ、「医薬品中間物としての新規化学物質製造(輸入)計画書」、及び別添として「確認書」を提出する必要がある。

 

(1)計画書

 主な記載事項は次のとおり。

 
(a) 新規化学物質の名称及び構造式又は示性式
(b) 新規化学物質が医薬品となるまでの経路(当該新規化学物質が医薬品となるまでの間当該新規化学物質に化学反応を起こさせる者及び医薬品製造業者の氏名又は名称等を記載
(c) 新規化学物質の年間の製造(輸入)予定数量

(2)確認書

 確認書には、医薬品製造業者が、当該新規化学物質製造業者から購入する当該新規化学物質の全量を医薬品の製造に使用する旨確認したことを記載することが必要である。


2)オゾン層保護法における中間物の事前確認制度の概要

 オゾン層保護法(特定物質の規制等によるオゾン層の保護に関する法律)においては、原料として使用されたこと又は使用されることが確実であるとして経済産業大臣の確認を受けることによって、製造許可が免除されている。

 確認を受けようとする事業者は、製造確認申請書及び原料使用の証明書を提出して確認を受けなければならない。

 

(1)製造確認申請書

 主な記載事項は次のとおり。

 
(a) 使用に係る設備及び貯蔵の場所
(b) 製造しようとするオゾン層破壊物質の製造及び貯蔵の場所

(2)原料使用の証明書

 主な記載事項は次のとおり。

 
(a) 使用に係る設備の機能及び構造
(b) 反応生成物の数量及びその化学反応式
(c) 反応の収率
(d) 原料として使用したオゾン層破壊物質の数量

 行政庁は、次に掲げる条件をすべて満たす場合のみ、確認を行うこととしている。

 
(1) オゾン層破壊物質を原料として製造した他の物質の数量を正確に把握することができること

(2) オゾン層破壊物質から他の物質に至る化学反応式が明らかになっていること

3)労働安全衛生法における低暴露物質の事前確認制度の概要

 労働安全衛生法においては、当該新規化学物質の取扱い等の状況から見て暴露の可能性が低い場合や暴露について管理を行い得る場合については、労働者が当該新規化学物質にさらされるおそれがない旨の厚生労働大臣の確認を受けることによって、新規化学物質の製造又は輸入前の有害性調査が免除されている。

 確認を受けようとする事業者は、確認申請書及び当該新規化学物質の製造又は取扱い方法を記載した書面を提出しなければならない。

 

(1)確認申請書

 主な記載事項は次のとおり。

 
(a) 新規化学物質の構造式又は示性式及び物理化学的性状
(b) 新規化学物質の用途

(2)新規化学物質の製造又は取扱い方法を記載した書面

 主な記載事項は次のとおり。

 (@)製造しようとする場合

 
(a) 原料から製品に至る工程を示すプロセスフローシート
(b) 当該新規化学物質を製造する際の化学反応式
(c) 原料から製品に至る工程について単位工程ごとの製造設備、作業方法

 (A)輸入しようとする場合

  取扱い設備、作業方法

 行政庁は、確認申請に対し、次に掲げる基準をすべて満たす場合のみ、労働者が新規化学物質にさらされるおそれがない旨の確認を行うこととしている。

 
(1) 当該新規化学物質が製造中間体、副生物又は廃棄物であること。

(2) 当該新規化学物質の製造又は取扱いを行う場合において、次のイからハまでの条件をすべて満たすこと。

(a) 新規化学物質を製造し、又は取り扱う作業(定常作業(サンプリング作業等の断続的な作業を含む。)のほか、製造又は取扱い設備等の清掃、改修等の非定常作業が含まれること。)において、労働者が当該化学物質を開放して取り扱うことがないこと。

(b) 新規化学物質を製造し、又は取り扱う設備等は、原料等の供給口、生成物等の取り出し口、フランジの部分等から当該新規化学物質が漏れないように十分な気密性を持った密閉式の構造のものであること。

(c) 設備等の気密性の低下による当該化学物質の漏えいを防止する措置が講じられているものであること


(3) EUにおける中間物の取扱い

 我が国においては、中間物の製造業者が自ら全量他の化学物質に変化させる場合のみ、当該中間物を事前審査の対象から除外しているが、EUにおいては、当該新規化学物質の製造業者が使用する場合だけでなく、事業者間で取引する場合であっても、中間物の届出内容の軽減措置が講じられている。

(1)中間物の定義

 専ら、他の化学物質に転換するための化学的工程のために製造され、そして消費され又は使用される化学物質のことをいう。

(2)条件

 ただし、次の条件を満たすことが求められる。

 
(a) 当該新規化学物質が、中間物として使用する事業者に直接譲渡され、かつ、その譲渡先が3社以上でないこと

(b) 当該新規化学物質が、そのライフサイクルに亘って密閉されていること

(c) 当該化学物質が暴露される可能性がある場合には、それを最小にするよう管理するものであること

(3)届出内容の軽減化の内容

 次の事項の届出が不要とされる。


(4) 閉鎖系等暴露管理がなされていると考えられる事例

 以下の場合のように、使用段階で化学物質が環境中に放出されないよう閉鎖系等で用いられ、廃棄段階等においても十分な管理がなされることが担保される場合には、当該化学物質による暴露の可能性は低いと考えられるのではないか。

 

(1)閉鎖型の装置内でのみ使用される熱媒体

 十分な気密性を持った閉鎖型の加熱・冷却用機器内でのみ使用される熱媒体であって、当該化学物質の状態で環境中へ排出されることがないよう廃棄に際し適正な処理がされる場合。

(2)半導体チップ製造工程で使用されるフォトレジスト(感光性樹脂液)

 半導体チップ製造工程において、シリコンウエハ上に塗布されるフォトレジストは、塗布の段階で大部分が廃液として回収され、焼却処分される。ウエハ上に塗布されたフォトレジストについても、後工程で除去・処理され製品には残らない。こうした管理の状況が確認できる場合。

(3)半導体チップの封止剤に用いられる低分子量の樹脂原料

 十分な気密性を持った半導体チップ製造工程内でのみ使用され、封止剤となる段階で化学反応によって高分子化合物に変化する化学物質。工程中からの排出・廃棄が適切に管理されるとともに、全量が変換されること、変換後の高分子化合物の生体内への取り込みによる暴露の可能性が低いこと等が確認できる場合。



(5) 各国における化学物質の事前審査制度の導入状況について

法律名
制定年月日
法律の目的
日本 化学物質審査規制法
1973.10.16制定
1986.5.7改正
難分解性の性状を有し、かつ人の健康を損なうおそれがある化学物質による環境の汚染を防止する
米国 有害物質規制法(TSCA)
1976.10.11制定
人の健康又は環境を損なう不当なリスクをもたらす化学物質を規制する
カナダ カナダ環境保護法
1988.6.28制定
1999.9.14改正
環境汚染の防止を通じて持続可能な開発に貢献する
EU
(次の国が採用;イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、ベルギー、オランダ、ルクセンブルグ、デンマーク、アイルランド、ギリシャ、スペイン、ポルトガル、フィンランド、オーストリア、スウェーデン、ノルウェー、アイスランド、リヒテンシュタイン)
危険な物質の分類、包装、表示に関する第7次
修正指令
1967.6.27制定
1992.4.30改正
人及び環境への潜在的なリスクに関するアセスメントをし、分類、表示を行う
スイス 環境保護に関する連邦法
1983.10.7制定
化学品法
2000.12.15制定
人、動物及び植物、その生活共同体及び生活圏を有害な影響から保護し、土壌の豊饒性を維持する
オーストラリア 1989年工業化学品(届出・審査)法
1990.1.17制定
1997.6.30改正
労働安全衛生、公衆衛生及び環境へのリスクをアセスメントし、国民と環境を保護する
韓国 有害化学物質管理法
1990.8.1制定
1996.12.30改正
国民健康及び環境への危害を予防し、有害化学物質を適切に管理する
フィリピン 共和国法6969
1990.10.26制定
1994.1.1施行
健康または環境に不当なリスク/危害を呈する化学物質の輸入、製造、加工、販売、流通、使用および廃棄を規制、制限または禁止すること
ニュージーランド 1996年有害性物質・新生物(HSNO)法
1996.6.10制定
2001.7.2施行(有害性物質)
環境並びに国民の健康及び安全を保護する
ハンガリー 化学物質の安全に関する2000年第15号法
2000.4.26公布
2001.1.1施行
(前文)可能な最高レベルの健康と健全な環境に係る国民の権利を確保するため、化学物質の安全を保証する


(6) 欧米における低生産量化学物質に関する取扱い

1.米国における取扱いと近年の取組

 TSCAにおいては、年間製造(輸入)予定数量が一事業者当たり10トン未満の新規化学物質については、以下のとおり事前の承認を受けることにより、製造前届出における手続を簡素化する措置が講じられている。この制度に関しては、複数の事業者が同一の化学物質の届出を行う場合における国内総量の制限に関する規定はなく、個別のリスクに応じ判断される。

 

<低生産量化学物質の事前承認制度(一事業者あたり10トン未満)>

  • 事業者は、製造・輸入の30日前まで(通常の製造前届出は90日前)に、新規化学物質の暴露及び排出量の推定等のデータ(通常の製造前届出と同様)を届出。EPAが「不当なリスク(unreasonable risk※)」がないと判断しない場合は、当該化学物質の上市を認めないことができる。また、新たなデータにより事後にリスクが明らかになった場合には、事業者は報告が求められ、EPAは免除を取り消すことができる。
     unreasonable risk:TSCAでは定義されていないが、立法の歴史によれば、実害が発生する蓋然性と実害の大きさ・深刻さが、化学物質が社会に与える便益に照らして、規制行為の影響との間で保つべき均衡を求めることであるとされている。(40CFR(連邦規則集)Part723より)

 なお、上記のすそ切り要件については、1995年に年間数量が「国内総量1トン未満」から「一事業者あたり10トン未満」に変更された。その際の論拠としては、以下の事項が挙げられている。

 
(1) 少量しか生産されない化学物質は一般的に人に対する暴露及び環境に対する放出が低いため高生産量物質よりリスクは小さく、製造前届出を免除することに伴う審査の効率化等による社会全体のベネフィットの増大の方が大きいと考えられること

(2) 事前承認制度により、不当なリスクがある新規化学物質は上市を認めないことができること

(3) 事後にリスクが明らかになった場合にも対応できる適切な制度枠組(確認の取消、事業者の報告義務など)が整備されていること

(4) 過去の審査におけるリスク評価の実績から、1t以下と1〜10tの場合を比較して健康や環境へのリスクに有意な差が見られた物質は極めて少なかったこと

2.EUにおける取扱いと近年の取組

 「危険な物質の分類、包装、表示に関する法律、規制、行政規定の近似化に関する指令(67/548/EEC)」においては、上市の年間予定数量又は累積予定数量に応じて、以下のように段階的に届出事項や期日を定めている

(1)完全届出

(2)少量届出

(3)届出不要


(7) 少量新規化学物質の事前確認制度の概要

 化学物質審査規制法においては、年間の製造数量又は輸入数量の全国における合計数量が1トン以下の新規化学物質(少量新規化学物質)について、当該化学物質の製造・輸入開始前に製造・輸入の予定数量等を厚生労働大臣、経済産業大臣、環境大臣に申し出て、(1)国内における1年間の製造と輸入の合計数量が1トン以下であり、かつ(2)既存の知見から判断して当該化学物質による環境汚染が生じ、人の健康を損なうおそれがないことが確認された場合には、確認された数量の範囲内で、当該化学物質を製造又は輸入することができる制度が設けられている。
 制度の上限となっている製造・輸入予定数量1トンについては、昭和48年の化学物質審査規制法制定の際に、仮に、既知見等からは難分解性・高蓄積性・長期毒性を示す第一種特定化学物質に該当する少量新規化学物質を特定することが困難な場合があり得たとしても、国内の製造・輸入総量の上限を年間1トンとしておけば、人の健康被害を未然防止することができるとの判断に基づくものである。
 なお、化学物質審査規制法における高蓄積性の位置付けは、以下の例のとおり、食物連鎖の過程で生体内濃度が著しく増加することにより環境中濃度よりも高濃度で人に摂取される可能性を考慮したものである。この意味で、化学物質が環境経由で人により摂取される量を評価する際には、環境濃度とともに、蓄積性も考慮することが適切である。

環境を経由しての人の健康への影響に関する
高蓄積性物質(H)と低蓄積性物質(L)の違い

  環境中濃度 魚体内の濃度 人の摂取量
水環境中のHとLの濃度は排出量に比例。 魚体内のHとLの濃度は各々「水環境中の濃度×濃縮倍率」。 一定の魚肉を摂食することにより、人は魚体内濃度に比例した量の化学物質を摂取し、その量に応じた健康影響を受ける。
HとLの排出量が同じ場合 H:1    →
L:1    →
→ H:10000
→ L:100
Hの方が濃縮倍率に応じて多量に摂取されることになる。
HとLの排出量の比が濃縮倍率の逆数の比と同じ場合 H:1    →
L:100  →
→ H:10000
→ L:10000
HとLが摂取される量は同等となる。

H:高蓄積性物質(濃縮倍率10000倍)、L:低蓄積性物質(濃縮倍率100倍)とする。なお、上記においては化学物質の主要な摂取経路と考えられる魚介類の摂食の場合を例示。



(別紙)

第一種特定化学物質を1トン環境中に放出した場合の環境中濃度の予測


 化学物質審査規制法における少量新規化学物質の事前確認制度においては、年間の製造・輸入数量の全国における合計数量の上限値は1トンとされている。この上限値の妥当性について、以下のとおり、第一種特定化学物質の一つであるディルドリンを事例として用いて、限られた水域中に年間1トン放出されたと仮定した場合の環境中濃度の予測、及び魚介類の摂取による暴露を想定した簡易なリスク評価により確認を行った。

1.対象物質

 第一種特定化学物質の中で一日許容摂取量(ADI)が最も低いディルドリン(ADI:0.0001mg/kg/day(*1))を対象とした。

*1: 厚生省、厚生科学研究「母乳中のダイオキシン類に関する調査」結果報道発表資料(平成11年8月2日)

 なお、検討に用いたディルドリンの物性データは以下のとおり。

分子量    380.9
水溶解度(mg/L)      0.022
蒸気圧(Pa)      4.3×10−4
分配係数(Log Kow)      5.61
生物濃縮倍率   14,500 (*2)

  ((財)日本環境協会 化学物質運命予測手法開発調査報告書(昭和57年3月)、経済産業省既存化学物質点検結果(*2))
2.暴露の考え方

 全国総量で年間1トンのディルドリンが毎年継続して製造され、そのうちの一定割合が特定の水域に放出された後、これらの物質が蓄積された魚介類を人が摂取することによる暴露を想定する。なお、ここでは以下の二つの海域を想定することとする。なお、大気及び飲料水経由の暴露については無視しうると考え、ここでは考慮しないこととする。

(1) 想定した水域

 滞留時間が長くかつ漁業が行われている広範囲の水域として、東京湾及び瀬戸内海を選択。

水域 面積(km2) 水深(m) 滞留時間(日)
東京湾 1,380 45 45.6
瀬戸内海 21,827 37 547.5

  (国土技術政策総合研究所資料、(財)国際エメックスセンター資料等)

 これらの水域に対して、全国の年間生産量1トンのうち、流域人口に比例した数量が使用され放出されると想定して、東京湾に0.28トン、瀬戸内海に0.15トンのディルドリンが放出されると仮定した。

(2) 予測に用いたモデル及び各種係数

 水域における表層水と底質で構成される2コンパートメントモデル(SAFECAS)を用いて、以下の仮定に基づき水中溶存態濃度を計算し、これに生物濃縮倍率を乗じることにより、環境中濃度及び魚体中濃度を算出した。

検討に用いた2コンパートメントモデル

検討に用いた2コンパートメントモデル

(計算の前提条件)

微生物分解速度: 難分解性のためゼロと仮定。その他の非生物的な分解速度もゼロと仮定。
平衡定数: 分配係数を用いてMackayのフガシティモデルでの相関式Koc=0.41×Kowから推算。
魚介類の摂取量: 高暴露集団の魚介類多食者を想定し268g/dayを使用。
(厚生省の国民栄養調査(1995年)での平均値と標準偏差から算出される95パーセンタイル値)
50kg
その他の環境パラメータはモデルのデフォルト値である以下の値を使用。

  温度(℃) 15
水相 懸濁粒子濃度(mg/L)
有機炭素含有率
粒子沈降速度(m/day)
10
0.05
0.5
底質相 厚さ(m)
間隙率
粒子密度(kg/L)
有機炭素含有率
容積重(kg/L)
粒子巻上速度(m/day)
0.05
0.5
2
0.05
1.5
5×10−5

4.予測結果

 対象水域へそれぞれ、0.28トン/年(東京湾)、0.15トン/年(瀬戸内海)の速度で流入したと仮定した場合に予測される各環境媒体中濃度及び摂取量は以下のとおり。

  東京湾 瀬戸内海
水中濃度(mg/L) 0.59×10−6 0.62×10−7
底質中濃度(mg/kg) 1.6×10−3 0.17×10−3
魚体中濃度(mg/kg) 0.78×10−2 0.83×10−3
摂取量(mg/kg/day) 0.42×10−4 0.44×10−5

 それぞれの水域における摂取量をADI値(0.0001mg/kg/day)と比較すると、摂取量/ADIの値は、東京湾では0.42、瀬戸内海では0.04となった。


(8) 化学物質排出把握管理促進法におけるPRTR対象物質選定の際の暴露の考え方

 化学物質排出把握管理促進法におけるPRTR制度の対象物質(第一種指定化学物質)については、以下の要件を満たすこととされている。

 
(1) 人の健康を損なうおそれ又は動植物の生息若しくは生育に支障を及ぼすおそれがあるもの(有害性要件)
(2) 相当広範な地域の環境において継続して存すると認められるもの(暴露要件)

 特に、暴露要件の判断基準については、関係審議会(※1)における審議の結果、「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律に基づく第一種指定化学物質及び第二種指定化学物質の指定について(報告)」において、下記のような考え方の整理が示されている。

※1 中央環境審議会環境保健部会 PRTR対象物質専門委員会
生活環境審議会生活環境部会 PRTR法対象化学物質専門委員会
化学品審議会安全対策部会 化学物質管理促進法対象物質検討分科会

<上記報告における該当個所(抜粋)>
 第一種指定化学物質の選定基準としては、いずれかの有害性(※2)に分類された物質で、「1年間の製造・輸入量」が一定量以上または一般環境中で最近10年間で複数地域から検出されたものについては、現時点で製造・輸入等の取扱いがないことが明らかであるものを除き「相当広範な地域の環境での継続的な存在」があるものとみなし、選定対象とすることを基本とすることが適当である。ただし、特に重篤な障害をもたらす物質及び使用形態から見て明らかに環境中に放出されやすい物質については、「製造・輸入量」がより小さいレベルのものも「相当広範な地域の環境での継続的な存在」があるものとみなし、選定対象とすることが適当である。
 具体的な「1年間の製造・輸入量」には、これより多いと環境中から検出されやすくなる100トンを基本とし、より小さいレベルのものも対象とする場合はこれより1桁下の10トンとするのが一つの考え方である。
また、OECDにおいて高生産量化合物等の目安としている1000トンを基本とする考え方もある。

※2(有害性の範囲)
     1.発がん性
2.変異原性
3.経口慢性毒性
4.吸入慢性毒性
5.作業環境許容濃度から得られる吸入慢性毒性情報
6.生殖/発生毒性
7.感作性
8.生態毒性
9.オゾン層破壊物質


(9) 環境省黒本調査における製造・輸入数量別の検出状況

 環境省が実施している化学物質環境汚染実態調査(黒本調査)において昭和49年度から平成12年度までに調査対象とされた物質に関して、過去の化学物質の製造・輸入数量と環境中からの検出状況の関係を整理したところ、以下のとおりとなった。(注) 製造・輸入数量の少ない区分ほど検出割合は小さくなっており、100トンの区分を境にして検出割合は更に大きく減少する傾向を示している。また、過去の製造・輸入数量が年間10トン未満の場合には、これまでのところ検出実績はなかった。

(注) 製造・輸入数量のデータは、経済産業省の製造・輸入量に関する実態調査結果、化学物質環境汚染実態調査報告、農薬要覧、民間のデータベース及び製造事業者への聞き取り調査による。

製造・輸入数量区分毎の検出状況一覧

製造・輸入数量(トン) 不検出 検出 合計 検出割合(%)
1以上-10未満 6 0 6 0
10以上-50未満 18 1 19 5
50以上-100未満 29 5 34 15
100以上-1,000未満 81 50 131 38
1,000以上-10,000未満 48 49 97 51
10,000以上-100,000未満 25 39 64 61
100,000以上-1,000,000未満 10 28 38 74
1,000,000以上 0 9 9 100

製造・輸入数量区分毎の検出状況一覧



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