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公的年金積立金の運用の問題と解決策

14.10.30 構想日本代表 加藤 秀樹


1.現行制度の問題

(1)リスク運用できる体制になっていない

 リスクの許容範囲が全く不明である。年金資金運用基金のポートフォリオは4%の予定利率を前提に作られているが、これは株式や債券の過去の収益率と変動率等を使って計算しているに過ぎない。過去のデータをいくら使っても将来の安全の保障は全くない。年金の運用は、負債サイドからリスク許容度を計算して行うのがイロハであるが、公的年金は数百兆円の債務超過(アンダー・ファンディング)であり、リスクなど1円も取れない。もし、リスクをとるなら、それは直ちに保険料の引上げを意味する。保険料引上げをも覚悟してリスク運用することに国民が納得しているだろうか。「長期運用」は、20年後の結果は誰も責任をとらないという仕組みである。

 公的年金運用の本来の目的は、リターンを高めることではなく、将来約束した給付を行うことである。長期運用のメリットとして挙げられる「時間分散効果」は、長期的に見てリターンが一定に収束することを意味しているに過ぎず、逆に、運用期間が長くなると損失が大きくなる確率が高くなることが示されている。

 年金特別会計は、発生主義を用いたバランスシート等を作成していない(毎年の予算・決算で)。毎年の運用の結果が年金財政にいかなるインパクトを与えているのかを検証せずに、いったいどうやって、年金財政の健全性をチェックするのだろうか。

(2)コーポレート・ガバナンスとマーケットを歪める

 国が民間株式等を大量に保有することについての概念整理が不十分なままである。

 政府の代理機関である特殊法人が巨大な規模でマーケットに参入するのは、レギュレーター(規制監督者)がプレーヤーになるようなものである。基金は議決権を行使すべきとの意見があるが、これでは政府が株式会社に影響力を行使することになる。逆に、もし、政府だから影響力を及ぼすべきではないとすれば、株主が議決権を行使しないことになり、コーポ−レート・ガバナンスが働かなくなってしまう。

(3)運用責任が曖昧でありガバナンスが欠如

 厚生労働省の「運用指導」の状況や基金の理事長・役員の選任等の仕組みでは、政治的な圧力から隔離できない。また、運用についての責任体制、金融・会計等の専門性の確保、ステークホルダーへの説明責任等、いずれをとっても不十分である。株式投資に積極的な事例として挙げられるカナダの運用組織(Canada Pension Plan Investment Board)は、役員の選任から予算に至るまで政府から強い独立性を有していること、専門家集団に特化していること、ステークホルダーへの説明責任と信認の確保に努めていること等、ガバナンスの構造はわが国と大きく異なる。

2.解決策

(1)年金資金運用基金を廃止

 基金の前進である年金福祉事業団の時代から十数年運用して、国債の金利さえ稼げなかったのが実態である。初めから100%国債で運用していれば、3兆円の赤字などなく、また余計な職員を雇う必要もなく、金融機関に毎年数百億円の手数料を払う必要もなかった。


(2)公的年金積立金は全額国債に運用

 公的年金積立金の株式等への運用は、国民に対してリスクとコストを転嫁するだけでメリットがない。そもそも公的年金は実質的に賦課方式になっており、年金財政が成熟すると、運用収益は年金給付の1割強に過ぎず(予定利率による将来見通しでも)、莫大なコストをかけて、あえてリスクをおかして運用する意味はほとんどない。米国でも公的年金の株式への運用が議論されたが、グリーンスパンFRB議長は、公的年金積立金が株式市場に流れても、そのことによって将来の国民所得が増大しない限りは、私的年金とのゼロサムゲームになるだけであり、公的年金積立金の運用リターンが高まれば高齢者の扶養が社会的に容易になるというのは誤りであると指摘し、その導入に強く反対した。



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