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4 結論・評価

 内外の主な機関や学会などで結晶質シリカに発がん性があるとする見解が出され、また、結晶質シリカがじん肺の主要な原因物質であることから、じん肺有所見者の健康管理の在り方をあらためて検討した。その前提として、結晶質シリカと肺がんリスクの関係について検討を行い、以下の結論・評価を得た。

 結晶質シリカを含む粉じんのばく露を受けた集団に肺がんリスクが若干上昇していることが観察されるが、じん肺所見のない者群を調べた8調査の分析では肺がんリスクの上昇を示す知見は得られなかった。
 一方、じん肺有所見者では、肺がんリスクの有意の上昇が認められる。喫煙は肺がん発生に大きく関与するリスク要因であるが、じん肺有所見者の肺がんリスク増加の全てを説明するには至っていない。じん肺有所見者の肺がんリスクの増加は、じん肺有所見者群に関する疫学調査にみられるバイアスの影響及び喫煙の影響のみによるものではないと判断できる。
 また、じん肺の重症度に関わらず肺がんリスクが高まると考えられる。
 結晶質シリカの発がんに関する動物実験及び変異原性試験に関する知見からは、結晶質シリカの発がん性は明確には認め難い。現時点で、肺がん発生機序については直接明らかにする知見はないと考えられるが、肺がん発生に関する病理学的研究により、じん肺病変が生じる過程の肺間質の線維増殖性変化と肺胞構造の改変、DNA修復過程が関与して肺がんを発生することを類推させる知見が得られているといえる。この、じん肺病変を介して肺がんが発生するとする考え方は、今回得られた疫学的結果と矛盾するものではなく、合理的な説明が可能となるものである。
 以上のことから、結晶質シリカを含む粉じんのばく露を受けた集団に肺がんリスクが若干上昇していることは、その集団に含まれるじん肺有所見者群のリスク上昇や喫煙その他撹乱要因も影響していると考えられる。今回得られた疫学的結果からは、じん肺病変を介さない結晶質シリカそのものの発がん性を明らかな肯定する知見は得られなかった。結晶質シリカそのものの発がん性の有無の判断は、直接的な量−反応関係が検討でき、撹乱要因を除去した知見が集積され、それに基づいて検討される必要があり、更に知見の集積が必要である。


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