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2 結晶質シリカの発がん性に関する動物実験に関する知見

 1997年以前の結晶質シリカの発がん性に関する動物実験は、Wagnerの血管内投与実験(1976年) を除き、IARCのモノグラフ(Monographs Volume 68、1997年)採用文献によって網羅されている。モノグラフ以降、新たに結晶質シリカを用いた動物実験に関する文献は見当たらない。従って、IARC採用論文とその議論を参考にして結晶質シリカの発がん性に関する動物実験の結果について知見の収集を行った。

結晶質シリカに関する動物実験に関するまとめ

(1) 発がん性について

 動物モデルを検討する場合、粒子の物理化学的性状、径、濃度などの条件をふまえた吸入ばく露実験が最もヒトのばく露状況に近い。気管内注入は、投与量が自由に設定できるが、肺内への粒子の沈着やサイズが不均等になり、吸入ばく露の沈着状況と異なる可能性がある。一般的にゲッ歯類は、粒子の大きさと肺内到達度がヒトと同様の傾向を示し、肺内粉じん沈着パターンもヒトと類似し、比較的よいばく露対象といわれる。ただし、ラットはヒト、マウス、ハムスターと比較し、難溶性粒子状物質(カーボンブラック、コールダスト、二酸化チタン等)に対し肺がん高感受性であることが報告されている。
 報告された実験(表9)では、マウス、ラット、ハムスターなどのゲッ歯類が用いられ、様々な投与経路によって行われている。ヒトの結晶質シリカの発がん性に関する評価研究としては、ヒトのばく露環境に近い吸入ばく露実験を中心とし、その他の投与実験の結果は参考として判断すべきだと考える。これまでの、吸入ばく露実験では、ラットにのみ肺がんの発生がみられている。また、ラットでの肺がん発生は、他の動物ではみられない肺の慢性活動性炎症と増殖性変化および著しい線維化を伴っている。EUでの動物発がん性判定基準は肺線維化などを介する発がんは二次性として認めていないが、IARCは一次性と二次性を区別せず、全てを発がん性ありの根拠にしている。また、複数施設の実験で発がん性が認められれば、1種のみの動物実験であっても、発がん性を認めるIARCの基準に従えば、ラットに関して発がん性ありとなる。

(2) 線維化と発がん

 吸入ばく露実験の場合、Spiethoff (1992年)の論文以外、線維化と腫瘍発生部位と関連性があることが記述されている。また、Saffiottiら(1990年)の行った気管内注入実験でも、30%の腫瘍は線維化を伴った肉芽腫領域あったことが報告され、Wagnerらの胸腔内注入実験では、蓄積されたシリカと腫瘍発生が一致していると述べている。しかし、線維化の程度にまでふみこんだ記述はなく、線維化と発がんに関する明確な因果関係の証明はできていない。

 以上のような知見からまとめると、結晶質シリカの発がん性に関し、ラットにおいて長期間の十分なばく露があり、貪食を伴った十分量の細胞内変化がおき、慢性活動性炎症と増殖性線維化に至った例においてがんが認められるものもあり、この知見はじん肺有所見者での肺がんリスク増加と矛盾しないものである。

表9 結晶質シリカの動物実験 (1)結晶質シリカ投与実験 表9 結晶質シリカの動物実験 (1)結晶質シリカ投与実験 (2)結晶質シリカと既知の発がん物質との併用投与実験


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