02/09/26 第2回医療安全対策検討会医療に係る事故事例情報の取扱いに関する検討部会      議事録                 医療安全対策検討会議          医療に係る事故事例情報の取扱いに関する検討部会                    第2回          日時 平成14年9月26日(木)16:00〜          場所 経済産業省別館944会議室 ○堺部会長   定刻になりました。ただいまから第2回医療に係る事故事例情報の取扱いに関する検 討部会を始めさせていただきます。委員の皆様方におかれましてはお忙しいところをご 出席くださり、誠にありがとうございます。本日は8名の委員の出席をもちまして検討 会議を開催いたします。ご欠席が梅田委員、岡谷委員、黒田委員、児玉委員、辻本委員、 樋口委員、三宅委員です。  それでは議事に従いまして始めさせていただきます。本日の議事はお手元にあります ように、「参考人からの意見聴取及び質疑」についてです。前回のフリーディスカッシ ョンで各委員から様々な観点からのご意見を頂戴いたしました。私のほうでこういった ご指摘を踏まえて、更に今後議論を熟成していただくために2つのご提案をいたしまし た。1つが医療現場における医療事故情報の取扱いの実態について、参考人をお呼びし てご意見を伺うべきではないかということ、2つ目が他分野における事故事例を活用し た安全対策、諸外国における医療事故情報の取扱いの状況等についてもご意見を伺いた いということでした。  委員の方々からこの2つの提案についてご賛同をいただきましたので、事務局とも相 談いたしまして、本日はこれからご紹介いたしますお2人の方に、それぞれのお立場か ら医療に係わる事故事例情報の取扱いについてお話をいただくということでございます。  では、ご紹介させていただきます。お1人目は医療事故を経験なさったご家族として 愛知県からお越しいただきました稲垣克巳さんです。よろしくお願いいたします。 ○稲垣参考人   稲垣克巳でございます。よろしくお願いいたします。 ○堺部会長   お2人目は日本病院会、日本医療法人協会、日本精神病院協会、全日本病院協会の4 つの病院団体からなります、四病院団体協議会の医療制度委員会委員兼医療安全対策部 会委員であります大井利夫さんです。 ○大井参考人   大井でございます。よろしくお願いいたします。 ○堺部会長   本日はご多忙のところご出席をいただきまして、誠にありがとうございました、当検 討部会を代表してお礼を申し上げます。これから議事に入らせていただきます。まず資 料の確認をお願いします。 ○新木室長   本日お手元にお配りしております資料は2つございます。資料1は稲垣さんからご提 出いただきました「医療に係る事故事例情報の取扱いに関する検討部会資料」です。ま た、稲垣さんから委員の先生方のお手元には、ご著書『克彦の青春を返して』というも のをいただきましたので、配付させていただいています。更に資料2といたしまして大 井さんからご提出をいただきました「第2回医療に係る医療事故情報の取扱いに関する 検討部会における意見陳述要旨」というものを配付させていただいています。以上です。 ○堺部会長   ありがとうございました。本日の議事の進め方ですが、本日招聘いたしました参考人 の方々から、それぞれのお立場からのご意見をお伺いして、その後に質疑応答をまとめ て行いたいと思います。参考人の方々はもしご発言の途中で時間で足りない部分は後の 質疑応答でまたご発言をいただきたいと思います。そのほか委員の方々からいろいろ質 疑がございますが、ご意見をご自由にお話いただきたいと思います。よろしくお願いい たします。まず稲垣参考人からご説明をお願いいたします。 ○稲垣参考人   愛知県の春日井市から参りました稲垣克巳でございます。本日、私は医療過誤の被害 者の立場で出席させていただきました。したがいまして、まず最初に私たちが受けまし た医療過誤の粗筋を簡単にご説明したいと思います。なお、いま部会長からお話があり ましたように、お手元に5頁のプリントにしたものがお配りしてございますので、参考 にしていただきたいと思います。  私の長男、克彦は、1983年(昭和58年)7月、大学の4年の時でございましたが、名 古屋大学医学部付属病院の耳鼻咽喉科で「リンパ管腫」という首が腫れる病気の手術を 受けました。病状といたしましては、熱が出たり、痛いとか痒いとかいうことはまった くなく、ただ、首が日を追って腫れてきたという病状でございました。  腫瘍は良性のものでございましたが、奥のほうまで腫れていたこともありまして、手 術には5時間50分かかりました。かなり長時間を要した手術でございましたが、手術後 の経過観察が十分になされませんでして、手術後30時間余り経過した時点で静脈性の出 血が続いて、かつそれが増えました。午前3時ごろでしたが、本人がナースコールをし ました。患部のガーゼが出血で汚れておりまして、それを更に上から看護師に当てても らった。そのほかに寝間着とシーツが出血で汚れておりましたから、それを取り換えて もらいました。しかし、看護師から当直医に報告がなされませんでした、したがって止 血のための処置というようなことがなされませんでした。  3時間半ぐらい経ちまして、明け方の6時半でございますが、本人が「息苦しい」と いうことを訴えました。看護師が「息苦しい」ということを聞きまして、まあ、後で言 ったことですが「ちょっと嫌な感じがした」ということで、すぐ当直医の診察を受けま した。当直医は診察をして患部のガーゼの交換をしたものの、気道を確保する手術をす るとか、あるいはその準備をするとか、酸素の補給をするとかいうような措置はまった くなされませんでした。ただ、後刻、詰め所に帰ってから当直の看護師に「再手術を要 するかもしれないな」ということを言ったということでございます。  ところが、それから数十分後に、克彦がコールをいたしましたが、その時点で呼吸停 止、心臓停止をいたしました。結局、酸素不足が高じまして極限の状態になりまして、 トラブル状態になったというふうに思われます。それで当直の看護師が2人、すぐ駆け 付けまして応急措置をしたと。当直医は当直医室にも医局にもおりませんで、少し遅れ ましたけれども駆け付けて来て、気道確保に当たりましたけれども、咽喉部に浮腫がご ざいまして、なかなか気道確保がうまくいかず、結局気管切開をして気道確保できたの は45分後でした。  その結果、低酸素性の脳障害の後遺症で人としての知的機能、運動の機能のほとんど 全てが失われまして、事来19年間寝たきりで自宅療養を続けております。  手術をした名大病院には5年4カ月入院しておりました。その間、昼も夜も24時間、 家族が交替で付き添いをいたしました。最初の3年間は私も家内もなんとか元どおりに したいと、あるいは元どおりにすることがちょっと無理だということが分かってからも、 少しでも良くならないものかと一心に看病をいたしました。  それから満3年を経ってから、トラブルの原因について教授、主治医、それからその 時の当直の医師、看護師等を交じえまして、何回も懇談をいたしました。私のほうから は出血が続いていたし、それが増えたと。それから患部の首だけではなしに頬まで、同 じ部屋の人が言っていますが、よく分かるように腫れてきたと。それから脈拍が短時間 の間に72から112に40も上がりました。それから本人が「息苦しい」と訴えたと、いろ いろな危険な徴候があったわけです。したがって、どうしてこういった徴候がありなが ら、事前に、呼吸停止、心停止になるようなトラブルの発生が防止できなかったか、と いうことを申し上げたわけです。病院のほうは責任は一切認めてくれませんでしたし、 謝罪もございませんでした。  医療過誤の訴訟というものは例え勝っても、病人が元通りになりません。また民事訴 訟は損害賠償を請求して訴えを起こしますけれども、お金に代えられるものではござい ません。したがいまして、私たちは訴訟を起こすことにつきましては、大変大きな抵抗 感がございました。しかしながら、このままでは同じような事故がまた再び起こるので はないかということが大変懸念されましたものですから、やむを得ず訴訟を起こしまし た。病院のほうで責任を認めて謝罪をし、再発防止の対策を立ててくれていれば、訴訟 なんかはいたしませんでした。1審の判決までに満8年かかりましたけれども勝訴をす ることができました。以上のような経過でございました。  今日のテーマでございます「事故事例情報」に関連したこととして、私の経験に基づ いた話を申し上げたいと思います。5年余り入院していた期間中にもいろいろとアクシ デントやミスがございました。2、3の例を申し上げますと、排尿のカテーテル、尿を 出すための管でございますね、これを交換する際に、経験の浅い医師がミスをしまして、 尿道に傷がつきまして出血が止まらなくなって7時間も続いた。41度の熱が出て、最高 血圧が90まで下がって、手足にチアノーゼが出、顔色が土色になりまして、全身に震え がくるというようなことがございました。  どうしたことかこれとまったく同じようなことが2年後にも、もう1度起こりました。 先ほど申し上げましたように、24時間家の者が病室に付き添っておりましたが、ある日 家内が2時間ばかり用があって病院を離れる時に看護師にお願いをして出掛けました。 その後で看護師が克彦の足が冷たいということで好意的に湯たんぽを入れてくれました。 ところがその湯たんぽが熱過ぎて火傷をしてしまいました。克彦は熱くても自分で足を 動かすことができないわけなのですね。したがってその傷跡がいまも残っております。 また点滴の色がいつもと違うということを家内が見つけまして、これはほかの患者さん のものと点滴が間違っていたこともございます。このようなアクシデント、あるいはイ ンシデントがございました時も、医師や看護師からは例外的なただ1回を除きましては、 謝られたことはございませんでした。  そこで委員の方のお手元には、私が昨年出版をいたしました『克彦の青春を返して』 という本をお配りしてございます。この本は医療の安全を願いまして、同じような事故 が再び起こらないようにという思いを込めて書いたものでございます。18年間にわたる トラブルの発生から治療、看護、それから退院して自宅療養、それから訴訟という一連 の一部始終を全部書かさせていただきました。これはお読みいただいた方も既にあるよ うですが、一部始終を書いただけではなくして、18年間の日本の医療に対する思いや、 あるいは司法に関することもありますが、そういった私たちの思いを述べさせていただ いております。  1、2例を申し上げますと、例えば5年4カ月入院していたわけですが、入院してい た病棟は大変老朽化した病棟でございまして、冬になると隙間風が入ってくる。夏、午 後8時に冷房が切れますと、窓を開けると蚊が入ってくるわけなのです。そういう病棟 でした。私が痛切に思ったのは、国家予算の中でもう少し医療とか福祉とか、あるいは 教育とか、文化とか、科学振興とかいう面に予算の配分があるといいなと思いましたか ら、そのまま書いてございます。  5年4カ月家族が交替で詰めていまして毎日、医師、看護師に接していたわけですが、 その間、いろいろと医師、看護師に対する思いもございました。医師につきましては大 変勤務時間が長いと、大変きつい仕事だなということがよく分かりました。看護師に関 しても責任は重いし、かなり重労働で大変だなということがよく分かりました。その反 面、医師に対してあるいは看護師に対してこうしてほしいなと思ったことも多々ござい ますから、そういったことも書かせていただきました。  そういった中で医療に従事する方々についていちばん必要なものは何かというと、私 は「人間性」であると、人間性がいちばん大事ではないかということを痛切に感じまし た。それと長男がこういった事故に遭いましてからは、私の頭の中にいちばんあるのは 「医療の安全」ということでございます。そういった思いを込めた本でございますから、 よろしくお願いいたします。  本論に戻りますが、医療の安全の確保ということが医療のいちばん基本的な事項です。 患者は病気の治療で病院に行くのでして、その治療で病が多くなったり事故が発生する ということは、絶対に避けなければなりません。しかし、現実には私たちも医療過誤を 受けましたし、毎日のようにニュースで医療の事故が報じられております。医療事故を 減らし、なくすために、まず考えなければいけないことは、日本の医療は事故を隠そう とする、謝らない、その結果として患者に説明をしない、こういう体質を持っていると いうことです。事故を隠そうとする、謝らない、その結果患者に説明をしない、この悪 弊を改めることがまず第一歩だと私は思います。  事故を隠そうということにつきましては、つい3、4年前までは都道府県レベルのマ ニュアルの中に、「事故の原因に対する判断や見解の説明や謝罪は避けるようにし、特 に決定的なことは言わない」というようなことが書かれておりまして、「事故を隠し通 す」という姿勢がまかり通っておりました。  その後、2000年5月の国立大学の医学部付属病院長会議での「医療事故防止のための 安全管理体制の確立について」の中間報告では、「ミスの秘匿、隠蔽という形での故意 は過失より厳しく処断されることを忘れてはならない。常に患者と社会に誠実に対処す る」とされました。また、2001年6月の最終報告では、「軽微なことでもミスについて は速やかに説明して謝ることが基本でなければならない」と長年の通念を越えて新しい 内容の活気的な方向付けがなされました。患者のための医療という観点からしますと、 患者に対して正直でなければなりません。万一ミスが分かった時には、できるだけ誠実 に対応して、真実を正確に伝えるべきだと思います。  私は先ほど申し上げたように、医療事故をなくす第一歩は事故を隠さず、ミスがあれ ば謝るということだと思います。私の資料の3頁の中程に、大きな活字で示しましたが、 「事故を隠さない、ミスがあれば謝る、謝ることにより反省が生まれる。反省して原因 を徹底的に究明する」。事故を公開して注意を喚起し、同じ事故が二度と起こらないよ うにする。もう一度申し上げますが、事故を隠さない、ミスがあれば謝る、謝ることに よって真の反省が生まれてまいります。反省をした上で原因を徹底的に究明をする。 これで再び事故が起こらないように注意を喚起していくということが大切かと思います。  なお、原因の究明に当たっては、組織的に取り組むこと、あくまでも再発防止を最重 点に考える。誰がやったということではなくして、何が起こったか原因をつかむことが 大切でございます。責任を問うのではなく、主な要因を1件1件洗い出し、具体的な対 策を立てて、再発防止を図ることが大切だと思います。医師、看護師、薬剤師、技師な ど、医療関係者が一体となってチームとして、組織的に取り組むことが大切と思います。  実は私は長い間銀行に勤めておりました。克彦のトラブルが発生してから郷里の愛知 県に帰りまして、中堅の製造業に移りました。その際に安全について会社を挙げて努力 している姿を目の当たりにしました。ヒヤリ・ハット情報を分析したり、インシデント 事故の原因を究明して再発防止を図っておりました。いまから19年前のことですが、当 時、我が国の主要製造業、陸運業、航空業では安全管理手法を活用し、安全対策に真剣 に取り組んでおりました。  最近に至りまして、病院においてもインシデント事故や、ヒヤリ・ハットの事例を報 告して、院内においてリスクマネージャーを中心に原因を分析して、事故防止を図って いる所が増えてまいりました。2000年4月以降は厚生労働省の指導で全国の大学病院な ど、特定機能病院では、各病院ごとに事故防止指示書の作成、事故やニアミスの報告制 度、安全対策委員会の設置などが行われております。更にこれは全病院にも拡大される ような方向にございます。また、2001年10月以降は、厚生労働省でヒヤリ・ハット事故 事例を収集、分析して、結果を発表しておりますが、これは今後において効果が期待さ れるところでございます。  しかしながら、医療事故については報告が制度化されておりませんので、医療事故の 発生状況は把握することができず、これを踏まえて安全対策を立てることができており ません、これが現状です。現在、医療事故はマスコミ等に取り上げられたもの以外はほ とんど個々の病院内の問題にとどまって、医療の世界全体の共有財産にはなっておりま せん。したがって、同じような事故があちらでもこちらでも起こっております。1つの 事故を他山の石として、同じような事故がほかの医療機関では起こらないようにする組 織的な取組みができておりません。したがいまして事故報告を取りまとめ、全国に再発 防止の徹底を図る組織として、私は中立的な第三者機関の設立が望まれると思います。  第三者機関をどのような形にするかということについては、これからいろいろと議論 をしなければいけないことではございますが、私は第一にこの機関は「事故の再発の防 止を最重点課題とする」ということです。全国の病院から事故報告を受け、事故の内容 を分析・検討をして再発防止を図る。調査権を持って必要に応じて事故の実態を調査す る。事故事例を共有資産として、情報を公開し、注意を喚起して、同じような事故の再 発防止を図る、これを第一といたします。  2つ目に、現在は医療事故により、1年の間に何件の死亡や事故があったか。あるい は重い後遺症が残る事例がどれだけあったかということが、まったく分かっておりませ ん。全国的な統計資料がないということは大変不都合なことです。重要な事項で全国的 な統計資料がないものは、私はあまり見当たらないと思います。どこまでが医療事故な のか判定の難しさはありますが、一定の基準を設けて報告をさせるものとしたいと思い ます。この報告制度があって、初めて国全体の基礎資料が得られることになります。こ の資料があって初めてマクロ的な立場で医療政策を策定し、医療事故をいかにして減ら すかの施策を効果的に進めることができると思います。  3つ目ですが、この第三者機関は、被害者の相談窓口にもいたします。医療事故かど うかの判定とか、補償の問題とか、あるいは裁判に訴えることについていいか、悪いか ということの相談も受けることにします。突然なことで被害者がどこに相談したらよい か困っている事例も多うございます。現在、各地にあります相談センター的な窓口も、 可能なものはこの機関に統合するといいと思います。  4つ目に、この制度はあくまでも全体の事故状況をつかんで、再発防止に資するとと もに、施策の立案の基礎資料を作成することに重点を置きます。それと、被害者の相談 窓口ということです。しかし、現在のように医療の専門家のいない警察とか検察が、最 初から医療事故に介入するのは私は好ましくないと考えております。本機関は事故の責 任を追及する機関ではありませんが、調査に基づいて悪質な事例は警察に連絡する。し たがって事故の発生の報告は第三者機関にして、第三者機関で判断の上で悪質なものが 警察にいくという形がどうかと考えています。  5つ目に医療過誤訴訟で裁判所が鑑定書を取る際に、鑑定者、いわゆる鑑定する医師 の選定がなかなか難しくて、医療過誤訴訟の長期化の一因になっています。私たちの例 で申し上げますと、5年間にわたりまして、何回も裁判を開きまして、私のほうからも 病院のほうからも鑑定意見書が提出されました。それで5年も十分審理を尽したから結 審をしてほしいということを裁判所にお願いをしましたけれども、病院側の要望もあり ましたが、更に裁判所で鑑定書を取ることになりました。それで鑑定をする人を決める のに約1年間、鑑定者が決まってから鑑定書が出てくるまでに約1年間、これだけで2 年間費やしまして、2年間は裁判が1回も開かれず鑑定書待ちということでした。この 鑑定書は司法の問題ではありますが、鑑定をする人は権威のある医師がするわけです。 これは医療側においても十分このことは考えてもらわないといけないことではないかと 思います。なお、この第三者機関が職権に基づいて最初に調査するようなこともありま すし、その調査をしたデータが鑑定書に代ることもありますし、あるいはそれに基づい て鑑定書を作るということも可能ではないかと、このようなことを考えます。  最後に事故報告をした人が例えば昇給とか昇進とか、配転とかいうようなことで、人 事上不利な形にならないような配慮をする制度化が必要ではないかと、このように考え ています。以上でございます。被害者の親の立場で経験に基づいて申し上げました。今 日のような機会が与えられたことを大変有難く思っております。どうもありがとうござ いました。 ○堺部会長   ありがとうございました。続きまして大井参考人、ご説明をお願いいたします。 ○大井参考人   お手元の資料2に従いまして説明させていただきます。私は現在、日本病院会に所属 しておりますが、今日は先ほどご紹介がありましたように、四病院団体協議会、医療制 度委員会の中の医療安全対策部会の委員として、四病院団体協議会の推薦を得てここに 参りました。ここで意見陳述をさせていただく栄誉を与えられましたことを感謝申し上 げます。  ただいま稲垣参考人の話にございましたように、医療というのは安全に遂行されて当 然なことでして、無害第一というのが我々医療人の最も大切にしていることでございま すが、今日は医療提供機関の立場から医療事故情報の取り扱いに関する問題点について、 委員の中から集まった意見及び私の私見を混じえて述べさせていただきます。ここに示 させていただいたのは意見を全て網羅いたしましたが、私の意見とお取りいただいて結 構でございます。  資料2にありますように、5つの項目に分けています。前提条件と医療事故の特性、 所属しております四病院団体協議会の医療制度委員会において、この問題を話し合った 時の指摘事項、それから医療提供者代表として主張したい事項、最後に提言事項とまと めさせていただきました。資料にしたがいましてご説明申し上げます。  当然、前提条件としては、私ども医療提供機関というのは、医療の安全を第一にして おりますから、医療従事者及び機関に課せられたもっとも重い責務であるということを 自覚しております。それ故、医療事故防止は常に希求されなければならない最も重要な 命題であろうというのが前提条件です。それを踏まえて医療事故にはさまざまな特性が あります。病院団体の調査でもいくつかのことが指摘されてきています。それらの中の 特徴的なことをまとめさせていただきました。  残念ながら医療機関のさまざまな努力にも係わらず、医療事故はあまり減少しており ません。事故報告書・「ヒヤリ・ハット」というメモの提出件数の推移が出ていますが、 これは私が昨年の3月まで院長をしていまして、今は名誉院長をしています栃木県の上 都賀総合病院の統計をここに出させていただきました。平成3年(1991年)からの統計 を出させていただきましたが、非常に早い時期から私どもインシデントレポートとか、 アクシデントレポートを必ず提出するように義務付けております。  しかし、ここでご覧になっていただけますように、なかなか事故もインシデントの報 告書、そういう事例もなかなか減ってまいりません。よく医療界では「ハインリッヒの 法則」というのがあります。労災事故から計算されたことだそうですが、1件の事故が 起きると、1件の事故の裏には29件の危い事故があり、その裏には300の水面下の事故 があるといいますが、私どもの事例でも今までの報告書でご覧なっていただくように、 事故報告書とインシデントレポートの比は大体1対20でして、大体そういう形で経過し てまいりました。  平成11年ぐらいから少し増えていますのは、できるだけインシデントレポートをたく さん集めて分析することによって、何とかして事故を防ぎたいという希望から、インシ デントレポートに匿名制、一切名前を書かないとか、それを提出をしても一切いろいろ な責任とかいうものは問わない。だからインシデントレポートを気がついたらどんどん 出してくれということを訴えて、平成11年から急激に増えてまいりました。  この年代から実は医局の提出が10%近くあるというのも特徴の1つです。しかし、ご 覧になっていただけるように、残念ながら医療事故及びヒヤリ・ハットはなかなか減っ てまいりません。事故に至らないインシデント、ヒヤリ・ハットが非常に多いというの が特徴です。これを分析することによってより事故を減らしていけるのではないかとい うことを、私自身は期待をしております。  ただ、集まってきた事例を見ますと、医療事故の原因は極めて多様であって、さまざ まな要因が非常に複雑に絡み合っていることが少なくありません。単純なエラーという のはそれほど多いものではなく、いろいろなことが絡み合っていることが多いと思いま す。8割ぐらいはヒューマンエラーなどのactivd failureがほとんどです。ここにも 「引継ぎ時の医療事故件数」を出させていただきましたが、これも私どもの病院の統計 から示させていただきました。医療行為が非常に短時間に重なり合う、あるいは錯綜す る時間帯に事故が起こりやすいということで、全体の事故の40%は引継ぎ時に起こって いるということを示させていただきました。この辺は医療の在り方についてもう少しい ろいろなことを考えていく必要があろうかと考えております。  「事故事例の取り扱い」に関して、四病協の医療制度委員会の医療安全対策部会にお いて、いろいろ協議をしました時の指摘事項を一応羅列させていただきました。全体と しては四病協における。あるいは病院団体に所属する医療機関は従来、我が国の医療に ついて指摘されてきた閉鎖性とか、密室性をとにかく打破していこうということで、こ こ数年は医療の透明性を高めていこうとする努力を続けております。具体的にはあらゆ るセミナーとか、勉強会とか、学会とかいう所を通して、透明性を高めるような運動を 展開しておりまして、着実にその実を上げているのではないだろうかと思います。もち ろんこれは今後も更に続けていかなければならない重要な命題と認識しております。  しかし巷間言われる日本における医療事故は諸外国に比して実際に多いのかというこ とに関しては、実態の把握が必要ではないだろうかという指摘がございました。外国で の臨床経験に従事したことの多い医師から、アメリカとか医療先進国と言われている所 では非常に事故が多いのだと、医療というのは複雑化したり煩雑化してくればくるほど、 それから医療従事者が増えてくればくるほど、そういうインシデント、あるいはアク シデントが多くなる。そのことを十分に認識しておかなければならない、という指摘が ございました。  次に医療事故と言っても実は程度がさまざまであって、レポートを出してくれる中に はアクシデントと言えるかどうかというような、あるいはインシデント、ヒヤリ・ハッ トと言えるかどうかという程度のものまでさまざまございます。そういう意味で事故を グレード別に分類して対応する必要が現在ではあるだろうと思います。このことを指摘 させていただきましたのは、一医療機関の中だけではもう既に事例を集めて検討すると いう段階を越えているのではないだろうかという指摘です。  次に書きましたのは医療事故というのは結果です。アウトカムですが、現在できるだ け医療はそのプロセスを正しく持っていけば、良い医療ができるのではないだろうかと いうことで、例えばEBMだとか、クリティカルパスとか、さまざまな手法がとられて います。しかし、たとえプロセスが正しくても医療事故というのは起こってしまう可能 性がある。体制を整備しEBMとか、クリティカルパスを駆使しても、それだけでは全 てを防ぎ得ない背景がある、ということをご理解いただきたいと思います。  また、次に書きました医療事故報告を法律で義務付けることに関しては、後ほど指摘 させていただきますが大変問題が多いと思います。まず何よりも大切なのは、医療にお ける安全文化の思想を医療現場に根付かせることだ、それによって医療の質の向上を図 ることが肝要だと考えております。そのためには報告者あるいは医療事故に携わった当 事者に対する責任追求に終始したり、あるいはその事件性を煽って、そのために原因追 求が阻害されるようなことがあっては結局は何にもならないのではないだろうか、とい う意見が多くありました。何よりも事故を分析することによって、防ぎ得るエラー、 preventable errを見抜いて対応するという姿勢がもっとも大切だろう。それによって 相当程度の事故が減っていくのではないだろうかと考えられます。  また、もう1つは委員の中から強い指摘がございました、医療事故防止にはコストの 問題を避けては通れないのではないだろうか、もはや一医療機関の中で内部努力だけで はなかなか浄化していかない、コストの問題は決して避けて通れないのだと。しかし、 保険制度の枠の中では、これがなかなか取り上げられないし、解決しにくい問題です。 今年の6月に行われました日本病院学会の時も、この問題をシンポジウムとして取り上 げまして、さまざまな意見が出ましたが、重要な問題で絶対避けて通れない問題だとい う指摘が多うございました。Safety is not freeであるということです。  また、保険制度や医療提供体制の医療制度は、欧州型の統制下にあるのですが、事故 補償に関してはアメリカ型で交通事故並みの損害賠償が求められて、先ほど稲垣さんの ご指摘にもございましたように、法廷における訴訟も非常に長期を要しています。平均 しますと解決までに約3年を要しているという状態で、このことは医療機関にとっても、 また被害者にとっても非常に不幸なことではないだろうかと考えております。早急に法 廷外医療事故処理機関を設置する必要があるのではないかという意見です。  また、何よりも大切なのは、できるだけ医療情報を集めて広くそれを共有し、効果的 に活用していく、そのために広域で専門的に情報を収集分析する機関が必要であろうと 考えております。また、医療事故の中には、製薬工業界、医療器械工業界、あるいは医 療提供機関というさまざまな医療に携わるいろいろな立場による医療事故が絡み合って いることが多いのですが、それらの三者による医療事故の原因の分析を基にしての役割 分担を明確にする、そういう努力も必要であろうと考えております。  何よりも「患者救済」の視点がまず第一だというのは、私ども実際に医療事故に携わ った医療人というのは非常に苦しむわけですが、もちろん事故に遭われた患者さん及び その家族の方々の苦しみや悲しみには比較すべきもありません。しかし、それを踏まえ てとにかく何とかして事故を減らしていかなければならないのではないだろうか、とい う希望が各委員から強く指摘されておりました。  それらを参考にしまして、本日ここで述べさせていただきます医療提供者代表として 主張すべき事項を、以下まとめさせていただきました。現在、一部の医療機関は分かり ませんが、大多数の、ほとんど全部と言ってよろしいと思いますが、医療機関はいかに 医療の安全を希求しているか、向かい合っているかということをご理解いただきたい。 少なくともこの四病院団体協議会に所属する医療機関に関しては、そういう姿勢でみん な努力をしているので、そのことを理解してほしい、しかし、事故がどうしても起こっ てきてしまう。更なる工夫が必要だということが強く指摘されました。  また医療事故の大部分がヒューマンエラーであると、そういう特殊性を知っていただ きたいと思います。このことは、非常に難しい問題を含んでいます。医療従事者の適性 を見抜くという努力も必要かもしれません。しかし、現在のような医療情勢の中で、そ こまで深く立ち入ることができるかどうかという懸念もありまして、残念ながらヒュー マンエラーが非常に多いということをご理解いただければと思っています。  先ほど指摘された「医療事故報告を法律的に義務付けることに問題が多い」という件 ですが、医療機関に全ての医療事故報告を法律的に義務付けるのは、いくつかの問題が ございます。医療事故の範囲がまず不明確なのです。事故報告書とかインシデントレポ ートというのは提出してくる側の考え方によってさまざまですし、分析しておりますと 「事故報告書」と書いてあっても実際には事故でなかったり、私どもそういうことを努 力しているのですが、自由に書いてもらうとインシデントレポートの中に、これは事故 として取り上げたほうがいいのではないかというような問題もあり、さまざまでして事 故の範囲が非常に不明確になります。  また、私どもの病院でも呼び掛けてずいぶん集まってきましたが、インシデントレポ ートの中には未然にそういう事故をクリアする、インシデントクリアレポートというの でしょうか、そういうものを出すようにということを呼び掛けましたら、意外にそれも 集まってきました。そういうものを含めて医療事故報告をすべて法律的に義務付けると いうのはいかがなものであろうか、範囲が不明確なので、報告者に法的責任の偏在を招 く可能性があるということで、これは賛成できないと考えております。  それよりもっと大切なのは、できるだけ情報を収集することです。もし法的に義務付 けることになれば情報収集に抑制がかかって、事例分析に基づく医療の安全文化の向上 に支障を来す可能性があるのではないかと考えられます。更に医療現場の中に防衛的な 医療、defensive medicineに傾いて、必要であっても危険性のある医療行為を拒否す る傾向が生まれてくる可能性があると思います。医療が萎縮しないようにすることも大 ではないでしょうか。 例えば救急や何かで、その専門の科の医師が当直でない時に、専門でないからというこ とで不幸なたらい回しのような事件がありましたが、あの時に勇気をもってご覧になっ た眼科の医師が、いろいろな所で責められている、ほかに診る所がなかった時にご覧に なった医師が責められてしまうということになると、実際には医療が萎縮していくので はないだろうかということも非常に強く懸念されます。  また、何よりも医療の透明性を高めるために報告しやすくする必要があると思います。 そのためには、ここに書きましたが免責の問題あるいは匿名認可の問題とか、そういう 法的な整備を行う必要があるのではないでしょうか。それと同時に、これは裏返しにな りますが、特にいろいろな事故があった時に、事故報告を出さなかった人の責任も厳し く問う必要があるだろうと考えています。医療の安全を高めるためには、経済基盤、イ ンフラストラクチャーを整備する必要があると思います。例えばリスクマネージャーの 人件費だとか、器材設備の更新の費用、IT化とか、未収金の問題で医療機関が経営的 に圧迫されている、という現実や何かも考えていかなければならないのではないかと思 います。  次に安全のための技術革新を推進していくことも必要です。例えばよく三方活栓の問 題だとか、注射器の使い分けの問題がようやく認められて施行されてきていますが、そ ういういろいろな技術革新を更に推進していくことが必要であろうと思います。そのた めには強力な行政指導に期待することはもちろんですが、まず何よりも現場でそういう 医療機器を使っている使用者の声を集める工夫をする、ということも大切ではないかと 考えております。  それらをふまえて、四病院団体協議会では現在セーフティ・マネージャー、ペイシェ ント・セーフティ・マネージャーの養成の具体的な検討に入っておりまして、これをど んどん押し進めていこうと考えています。しかし、何よりもいちばん大切なのは、医療 の安全文化を向上させるための前提条件として、関係者相互が医療事故の特殊性を理解 した上で、とにかく情報を集めて分析して地道に対策を立てて実行していくという、こ の4つの道をきちんと守っていくこと、そのためには医療提供者が絶対に守らなければ ならない透明性と説明責任、この2つを強く自覚しなければならない。そのことを医療 関係者はもっと強く認識すべきである。そのための運動を病院団体としてはこれからも 強力に進めていこうと考えております。  以上のことをふまえまして、提言事項として以下の3つを述べさせていただきます。  (1)アクシデント、インシデントに拘らず幅広く事例を収集し、透明性を高める習慣、 文化と言ってよろしいかと思いますが、透明性を高める医療文化を根付かせること。更 にこれらの事例を分析して具体的な改善行動を啓蒙する。  (2)早急に情報の収集、分析、対策の樹立、指導を行う機関を設立する。更にその機関 は医療機関からの要請に基づいて、個々の事例についても具体的なアドバイスを行って いく、そういう機関を設立していく。  (1)将来的には裁判外紛争処理の迅速な遂行と被害者救済を行う「第三者機関」の設立 を視野に入れて検討をしていただきたい。以上です。 ○堺部会長   ありがとうございました。それでは質疑応答に入らせていただきます。  両参考人にそれぞれのお立場からお答えをお願いしたいと思います。「医療の透明性 」ということがまず大事だということは、お2人方のご説明で共通していたかと思いま すが、この透明性を高めるにはどうしたらいいかということをいまいろいろと努力も重 ねられているところです。透明性を高めるにはどういう方法が考えられるかということ を、それぞれのお立場からご説明をお願いしたいと思います。大井参考人は一部お述べ になられましたが、もし可能でございましたらもう少し具体的なこともご説明いただけ ればと思います。よろしくお願いいたします。稲垣参考人いかがでしょうか。 ○稲垣参考人   従来というか、かつての医療というのはパターナリズムといいますか、「患者、おま えらは黙っておれ」の調子の時代があったと思います。最近はだんだん変わってはきて いると思いますが、まず診察した結果、病状等についてよく患者に説明をすることが必 要だと思います。患者のほうももう少し賢い患者になって理解をするというようなこと と相俟って、相互の信頼関係ができてくるのではないかと、このように考えます。  なかなか、一挙には難しいことかも分かりませんが、例えばカルテの開示の問題など もいろいろ論議されていますが、医師会等ではまだ若干留保を付けているようです。本 来、日本というのはカルテにはあまりきちんと書いてないのです。カルテをまずきちん と書くところから始めないと、カルテを開示するといっても、開示してもらっても大し て参考になることが書いてないようなカルテではどうしようもないと思うのです。  これも私の経験ですが、訴訟の時にはカルテと看護記録、その他検査資料を裁判所か ら押えてもらって入手したわけです。しかし、「手術記録」としてのカルテは克明に書 いていましたから参考になりました。しかし、「診察記録」というのはほとんど何も書 いてないのです。英語かドイツ語で1行か2行パッと書いてあるだけで、まったく参考 になりませんでした。看護師さんが書いている「看護記録」は克明に書いてありました から、これを一部始終見ることによって大変参考になりました。この辺からも改めてい かなければいけない問題ではないかと思います。 ○大井参考人   「透明性」と私も言いましたが。「透明性」というのは一体、誰に対して透明なのか という問題だと思います。これはいま稲垣さんが言われましたように、国民全員という わけにはいきません。実際には患者さんが対象になりますが、事故に遭われたとか、遭 われないとかいうことではなくて、医療現場の中の医療者、患者関係の中の全ての患者 さんに対して透明でなければならない。不幸にしてもし何かの医療事故とかいうことが あった時も、その同じ線上で解決していくべき問題だろうと思います。ただ、具体的に 「医療現場の中の透明性」というのが、情報開示だとかいうこともありますでしょうし、 診療記録の開示とかいう問題もあるかもしれませんが、最も大切なのは、診療行為が始 まる前のインフォームド・コンセント、患者中心主義を根付かせることが私は第一だろ うと思います。ただ不幸にして何かの事件が起こったときに、従来ですと密室性だとか 隠蔽性が出てくる可能性、そういう傾向が確かにあったと思います。  そういう意味では、そういう事例が起こったときにも同じような考えで透明性を高め ていく、という姿勢が最も大切だろう。そのためにどうしてもやらなければならないの は、いくつかの方法があると思いますが、医療機関でできるだけ事例の収集をしやすく する。義務付けだけではなくその方法はいくらでもあると思います。そういうふうにし て事例を集め、それを分析する。しかし、現実にはそれを続けていってもいろいろな問 題で頭を打ってしまいますし、さらに、それが医療事故などにつながっていきますと、 なかなかうまくいきません。  そういう意味でどうしても考えていただきたいのは、私が強く主張しましたように、 免責とか匿名認可とかという法的な整備がなされない限り、それはその医療機関を超え ては出ない。極端な話をしますと、私どもの病院でもいろいろな事例をたくさん集めて、 その事例を基にしていろいろなセミナーなどで話をしたときに、「そういう事例が外に 漏れたらどうするのですか」という質問があったことがあります。中にはそういう事例 がないとは言えませんので、私は法的な整備としての免責とか、そういう事柄を同時に 続けていかないと、透明性はなかなか保てないのではないかと考えております。  それには逆もありまして、先ほども言いましたが、もし事故報告を隠したり何かした ときの責任も、同時に強く問われなければならないと考えております。 ○堺部会長   ありがとうございました。透明性について、お2人の参考人から更に詳しいご意見を 承りました。この透明性について、委員の方々からさらにご質問、ご意見がございまし たら、よろしくお願いいたします。 ○前田委員   大井参考人に教えていただきたいと思います。なるべく免責したり自由に報告したほ うが情報が集まりやすい、というのはそのとおりだと思います。私はどちらかというと 法律で刑事関係をやっておりますので、重大な医療事故を念頭に置きがちなので、そこ を踏まえてお聞きいただきたいと思います。多くの医療事故は努力をしたけれどもやむ を得ずに近い部分がある、というのはおっしゃるとおりで、ただ例外的に非常に重大な 過失とか、故意はおそらくないと思いますが、そういうときにどこまで免責することが 国民の納得が得られるか、という問題が常に先生のご指摘にはあろうかと思うのです。  私は両面があって、どちらか一方で医療の事故を動かすのは間違いなんだと思います。 片一方では、あまりにも免責して、情報を集めて、それによって医療の将来を良くして いく、それはそのとおりだと思いますが、過去に起こったことであり現に被害者がいる 問題について、医療の側でどう対応していくかというスタンスというか、それも視野に ちょっと置いていただいたほうがいいのではないかという感じがしたのです。 非常にお答えしにくい質問の形になったのですが、最近こういう検討部会ができた1つ のきっかけはその面があったと思うのです。非常に重大な事故のときに免責することを 強調するだけでは済まない部分があるのではないか、という非常に素朴な疑問ですが、 その点についてお答えいただければと思います。 ○大井参考人   すべての事例に関して免責が適用されるか、というのは確かに私も何とも言えないと 思います。ただ先生がおっしゃられるように、ほとんどの医療事故は恣意的に行われた のはないと思います。それであっても重大な結果を招来したようなとき、あるいは重大 なエラーがあったようなときは、それはすべての面で免責になることはないだろうと思 います。ただその判断が、いまは直ちに刑事とかそちらのほう、司法の世界のほうに入 っていってしまいますが、そういうことではなく、私が主張しましたように、届け出る 機関をつくっていただいて、それで専門的に見て、これはどう考えても大変と、結果の 大きさだけではなく大きなエラーがある、責任があるというようなときには、こう対応 すべきであろう、という指示を与えるという、「個々の事例について具体的なアドバイ スを行う」と言ったのは、そういう意味です。ワンクッションを置くことによって事例 が生きてくるし、出しやすくなるのではなかろうかと。そこへ出てくるまでの間は免責 であってほしいなと思います。 ○前田委員   補足的に1つだけ質問させていただきます。「そこ」と先生がおっしゃっているのは、 ここでいう「第三者機関」ということですか。稲垣参考人の意味にされている「第三者 機関」というのは、いま先生がおっしゃった機能を強調されたと思うのです。先生の「 第三者機関」は、患者の補償とかという。言葉だけ捉えて言うのですが、実質的に情報 を集めて、その中で重大な、過失の程度が、これはちょっとまずいなと思うようなもの は、そこでスクリーニングして司法に持っていく、という機能もお考えになるわけでし ょうか。 ○大井参考人   それもあるだろうと思います。私はなぜ提案事項の(2)の中で「第三者」という言葉 を使わなかったかと言うと、確かに表現はよろしいのでしょうが、第三者機関と言って もそれの設立を待っている時代ではないのではないだろうか。手のつけられる所は第一 者でも第二者でもよろしい、何でもよろしいからそういう機関を設立していく努力をす べきであろうと思ったのです。第三者機関をどういう形にするかということになると、 そこに書きましたように裁判外の紛争処理とか、患者救済とかという大きな仕事が入っ てまいりますと、なかなか設立できないのではないだろうか。その前に、安全文化の風 潮を根付かせるためにも、情報を出しやすくするような機関の設立が、いま待たれてい ると私は考えております。 ○星委員   先ほどご指摘いただきましたように「カルテに何も書いていないのは参考にならない 」という話で、まさにカルテの開示と、その問題は密接に係わって、これも我々認識し ている話ですし、その方向でいま努力をしているところです。  それはそれとしまして私が知りたいのは、いきなり第三者機関に話がいく前に、結局 そのコンフリクトは何なのか。つまり、稲垣さんのご指摘によれば、きちんとした説明 をしてくれないのだ、あるいは謝罪をしてもらえないのだ、ここにいちばんの最初の問 題があるのではないかと。そして我々医療者が誤った対応をしてきた。すなわち、まさ にご指摘いただいているように、裁判で負けるかもしれないから余計なことを言うな、 というような誤った教育、あるいは誤った認識を私たちは持ってきてしまったというそ の不幸が重なってというか、お互いに満足が得られない、そういうコンフリクトが根元 にあるのではないかと思うのです。  そのときに1つ両名の先生にお伺いしたいのは、そのコンフリクト、つまり説明して ほしい、あるいはきちんと謝罪してほしいという気持が、どうしてお互いに伝わらず、 どうしてお互いに解決し得えなかったのか。つまり謝ってもらえなかったのか、あるい は、その先生方が謝らなかったのか、また、その説明が納得いかなかったのか。この事 例ということではなく一般論としてでも結構ですが、何が要因なのか。それは単に医者 の不遜な態度だとか、教育が間違っているとかではなくて、どのようにお感じなのかを 教えていただきたいのです。 ○稲垣参考人   私が先ほど話をした中にもあったと思いますが、やはり医療機関側は、最近は少しず つ変わってきたと思いますが、「まず謝るな」という教育がなされていたのではないか と思いたくなるような状況でした。私はこの本を書いてからいろいろと医療関係の方に も、直接私とタッチしなかった方々にもお会いするような機会が多くなりまして、医師 会とか看護業界から依頼を受けて「話をしてくれ」というような話で、看護師さんなど の集まりにも出て行ったりもしましたが、最近ですら看護師さんの研修会で弁護士の先 生から「そう簡単に謝ってはいけませんよ」ということを、東京へ全国から集まった席 上で言われたと。その後で自分たちが、つまり看護師同士が、ということは主任、部長 クラスの看護師が全国から集められたある研修で、「弁護士の先生は謝るなと言ったけ ど、おかしいじゃないの」と、それで皆で討議して「やっぱりミスがあったら謝るべき ではないのという結論を出しました」と。これは私の地元ではなく遠く離れたある県の 看護協会の方が、私が講演会に行って接触した方が「そう言っておられる」という連絡 を受けたのです。だから、そういう体質はなかなか抜け切れないものが一部残っている のではないかと私は思うのです。その辺は払拭されつつあると思うのですが、やはり完 全になくする必要があるのではないかと思います。 ○大井参考人   私はこう考えております。星委員が言われているように医療界の中には、簡単に謝る な、という悪い風習が確かにあったことは事実であります。謝るという裏には、謝るこ とと罪の問題が一緒になっていたのではないだろうかと思うのです。医療事故の大半は、 先ほど特殊性を説明しましたように、犯したくて、あるいは意図的に、あるいは恣意的 に行ったエラーはほとんどありません。いろいろなことを努力していたけれども偶然起 こってしまうとか、防ぎたいと努力していても起こってしまうというエラーがほとんど であります。したがって、謝ることイコール謝罪だというと罪を謝るということになっ てしまいますので、そういうことで謝るという風習がつかなかったのだろうと思うので す。  ですから、それは医療の原点に戻る話なのですが、目の前にそういう不幸に遭われた 患者さん、あるいは、そういう人がいたら、まず謝ることです。謝ることイコール謝罪 ではないのだ、ということを徹底して教えていく必要があるだろうと思います。謝るこ とと謝罪、罪を謝るというのとは意味が違うだろうと思います。少なくともそういう意 味で、先ほどから言っているような免責とか、そういうことを根付かしていってほしい なと思っております。それによっていろいろな事例の原因が分析されて、いくつかの安 全方策が生まれてくるのではないかと考えております。 ○堺部会長   星委員、よろしいですか。 ○星委員   はい。 ○堺部会長   この透明性の問題はこれでよろしいでしょうか。それでは、「その他」の問題にまい りたいと思います。両参考人のご意見に対して、何かご質問がございましたらお願いい たします。 ○長谷川委員   先ほど堺部会長も言われましたが、お二方とも第三者機関で補償する必要がある、間 違いから学ぼうと、そのために第三者機関をつくったほうがいいというご提言があるよ うです。病院側は、事実関係を調べるのは少し置いといて、とりあえず事例をプールし て学ぼうという機関をつくろうというご提案で、ステージを分けてご提案されています。 被害者側のご提言では、それは宿題になって書かれたりしています。私は諸外国のほう を見たこともありますし、また、日本で考えても感じるわけですが、その2つのことは ずいぶん違ったプロセスで、情報の出し方、取扱い方、結論も全く違う。はっきり言う と、全く違うと言ってもいいぐらいのものではないかと思うわけです。どういう立場で 考えてみても、被害者の方を正当に、問題が本当に起こったという事実を認定して補償 することは大変重要なことであります。  一方で、もう起こってしまった事故からなるべく学ぶということは、安全文化であり、 かつ最大重大であります。しかし、しばしばその2つが相反する形になってしまう。ア メリカ人で報告制度を推進しているケンカイザーという方が言われておりましたが、報 告制度というのは、基本的にはすべてボランタリーだと、法律で決めて報告せよと言っ ても報告したくない人がいるわけです。極論を言えば、憲法で証言しないということも 認められている。さすれば、最終的に言った事実がどこにも出てこないから、そういう ことして使われないということがない限りは、言うほうにとってはある程度抑制がかか るということがあります。  ちょっとイントロが長くなりましたが、諸外国の場合には分けて使っているようです。 刑事を刑事事件に関して証拠を免責するという制度は世界中どこにもありません。  しかし民事に関しては、アメリカの場合ですと退役軍人病院、そして州の、すべての 州ではないそうですが、3分の1か半分ぐらいの州では、安全性と医療事故の分析のた めに使われた記録については、法廷では証拠としては使われないという措置があるそう で、罪が免責することはあり得ないのですが、分析した情報が開示されないと。民事の 法廷で。刑事は不可能です。イギリスでは現在審議中で、アメリカでも残りの州でそれ を進めるということで、連邦法にするという議論がいま起こっているようですが、それ は通るか通らないか分からないそうです。  ちょっと気になったのは、提供側の立場から言えば、そういう形で言って保護して、 つまりやった事実を保護する、免責することはあり得ないのですが、分析をしたという ことを自由に議論をする。逆に安全文化を高めるために報告の量を高めて、皆で勉強す るために、勉強した内容については法廷で開示されないという制度が必要ではないかと 個人的に思います。そういうことについて被害者の方は、どういうふうに考えられるの かなというのが興味でした。 ○堺部会長   それでは、これも両参考人からご意見を頂戴したいと思います。先に大井参考人から お答えを頂戴したいと思います。長谷川委員が、いわゆる第三者機関、非常に多岐にわ たるのですが、分けて考えるべきではないかというご意見がございました。これについ て大井参考人はどのようにお感じになられましたでしょうか。 ○大井参考人   そのとおりだと私は考えております。実は刑事事件に関して、あるいは民事事件でも そうですが、起こしてしまったことに、その当事者が全責任を免責できる、というふう に私は全然考えておりません。それは当然のことだろうと思います。しかし、集まった 情報を医療安全文化の構築のために利用していこうとするためには、出しやすくする工 夫が必要であります。そのために、出した人に対して、いろいろな意味で昇給だとか、 あるいは人事だとか、そういう事柄を含めて全てに責任を問うような方向で、それでい て出せと言っても、おそらく出てこないのではないだろうか。出さないことによる、あ るいは、萎縮することによる医療のマイナス面のほうが、うんと大きくなってしまうだ ろうと考えております。  したがって、いま言われたように分析していくという事柄と刑事事件とは分けて考え る必要があるだろうと思います。ただ、そのために機関を2つに分けて話をしたのは、 将来的には裁判外処理、紛争処理なども視野に入れての機関の設立は、確かに望ましい とは考えております。その前に、もうすぐにやらなければならない事柄があって、それ は情報をできるだけ集めて、それを分析して流す。あるいは、不幸にして事故を起こし てしまった医療機関の求めに応じてアドバイスをするというようなことは、どんどんや っていかなければならない。それも緊急の問題ではないだろうかということであります。 それは私自身の経験から言っても、一医療機関の努力では、冒頭のグラフにも示しま したように、10年以上にわたっていくら努力していてもなかなか減っていきません。も ちろんそれは続けていかなければならない事柄でありますが、もっと幅広いところでい ろいろな議論をすることによって、いくつかのpreventable errは防ぐことができるの ではないだろうかと考えております。  そういうことによって、何パーセントでも構わないから減っていくことが、いまいち ばん大切ではないだろうか。そのことが、引いては医療機関を訪れる患者さんに対して 我々が、なさねばならない第一の責務だろうと考えております。 ○稲垣参考人   まず事故報告を出すということについては、これはどうしても実施すべき事項だと私 は思います。やはり事故がどのように発生して、どこでどう起こったかということが全 体的につかめなくては基本的な問題の解決はできないと思います。医療事故を減らすこ とは難しいと思います。  私は先ほど「免責」ということは言いませんで、事故報告を出した方が人事上不利に ならないような扱いは必要だ、という程度に申し上げました。ということは、免責まで 一挙にいくのは、日本の現状においてはどうかなと考えてそういう言葉を使いました。 免責したほうが報告が出しやすいということは、皆さん方がよく言われていることでも ございますし、そのとおりだと思いますが、日本の現状において一挙に免責までいくの はどうかなと。リピーターと言われる同じ方が何回か事故を繰り返すというようなこと もあるということですし、また日本の医療の質を高めるという、いちばん基本的な問題 がカチッとできて初めて、片方で免責ということと天秤にかけて考えるべきだと思いま す。  日本では「ピアレビュー」というような形で、医師相互間で切磋琢磨してレベルを高 めるというようなことも薄いように思います。医局を中心に閉鎖的でかばい合うという 体質が非常に強く、私もそういうことは緊々と感じました。医師の免許制度にしても、 日本のように1回試験受かれば終わりです。例えば5年なり10年ごとに試験なり研修を やって、免許の更新制を実施するとか、あるいは、臨床が日本では非常に軽視されてい ます。これは今度重視するようなことを教育の面でもやることにやっと動き始めました が、そういった医療の質を高めることが他方であって、それで安全、あるいは事故デー タを集めるために、また出やすいように、片や免責ということも初めて出てくる問題だ と思います。  いまの日本の現状では、やはり悪質なものについては当然免責にはなりませんし、せ いぜい人事異動、昇進等の配慮をするという程度のことでいいのではないかと考えてお ります。 ○長谷川委員   誤解なきように。罪はどう考えても免責されることはあり得ないです。アメリカの制 度はこうなっておりまして、民事で使う場合にカルテは返されます。ただカルテ以外の 事故報告とか、原因分析、院内はそうなっているのですが、安全のために扱ったような 問題については、民事の法廷ではその情報は使わないという制度はアメリカでは既にで きております。  さらに大変興味新いのは、先ほど申し上げましたように、報告制度では真の実態が分 かりませんので、諸外国ともカルテレビューをして事故の研究をいたしました。オース トラリアの場合はそれをするためにわざわざ法律を作りました。つまり研究者がある病 院に行ってカルテを見て事故があるということを知った場合に、その人が知っていると いう状態においては、民事で問われた場合には発表せざるを得ない。しかし、それをす ると研究できませんので、その方が知った事実については法廷で、発表する必要がない、 という法律ができました。そういう法律を作って研究をしたそうです。そういうこと をお聞きしたかったわけです。 ○大井参考人   言葉が足りなくて失礼しました。私が免責、免責と言っていたのは報告書の免責であ り、罪の免責ではありません。報告書を出しやすくする‥‥。 ○長谷川委員   提出することの免責ですね。 ○大井参考人   そうです。提出することの免責です。 ○堺部会長   いわゆる第三者機関、いくつもの局面がございますし、それぞれに法律的なことが非 常に深く係わっております。これは当検討部会において今後さらに論議を深めていきた いと考えております。そのために何人もの法律専門家の委員にもおいでいただいており ます。いまこれについてのご意見を伺うのは、やや時期尚早かと思いますが、法律ご専 門の委員の方々、川端委員、前田委員、何かこの時点でご質問、あるいは、ご意見がご ざいましたら承りたいと思いますが、いかがでしょうか。 ○川端委員   大井参考人にお伺いします。稲垣参考人が指摘されたとおり、調査の対象となるべき 医療記録それ自体が、非常にきちんとしている病院はもちろんありますが、そうではな い病院も結構あります。稲垣参考人の体験にもありましたが、看護記録はどの病院でも 比較的詳細に記されているのですが、医師が記入する部分は非常に杜撰な例が多い、と いう現状があるのです。その現状に対して医療提供側としては、何か改善策はないのか。 そうでないと、そもそもカルテを見て医療事故を研究すると言っても、研究の素材自体 が、きちんとしていない、ということになるのではないかと思うのです。その点はいか がでしょうか。 ○大井参考人   言われるとおりです。医師の書いたカルテは非常に読みにくい、見にくい、あまり詳 細に書いてないというような指摘は度々聞かれますし、私自身も経験の中で感じたこと があります。そのために医療界が何もしていないわけではありません。例えば、私が所 属しております日本病院会は、それを中心に「診療情報管理士」という事務方の認証制 度を発足させて、すでに約5,000人ぐらいでしょうか、数千人の診療情報管理士を養成 してあります。その人たちは病院の中のカルテを全部管理して、記載の不備などがあれ それを指摘してくる、医療現場のほうへ返していく。ただ、全部そこまで完全にはでき ておりませんが、そういう努力を続けております。  また、日本医師会のほうでは、診療情報開示の問題と同時にカルテの書き方というマ ニュアル指針を出しておりますし、方々の所でもそういう事柄を行ってきております。 ただ残念ながら、そうは言ってもすべての人に分かりやすいというカルテの書き方には なっておりません。これは医師独特の略語もありますし、事実の記載のほかに思考的な 知り得た所見も一緒に入ってしまいます。こうではないだろうか、というようなことも 皆カルテに書き込む習慣ができておりますので、それらがごっちゃになっていてカルテ のほうが整備されていかないのだろうと思います。  そういう意味では、将来的には、誰が見ても分かるという意味では電子カルテ化に進 んでいくだろうと思います。このことに関しては、もちろん病院会でも一生懸命にそれ に取り組んでおりますが、国自体も電子カルテ化に進んできておりますので、着実にそ ういう問題は解決していこうという方向に進んでいるのではないかと思います。それに は大変な経済的な裏付けが必要になりますので、一気には進んではおりませんが、そう いう努力は方々で行っていると思います。言われるとおり、まずそれがなければ透明性 というのはとても困難だろうというのが私ども認識しております。 ○川端委員   それに関連してですが、ボランタリーの努力がいろいろな所でいろいろな形でなされ ているというのはよく分かるのですが、法制度として一定の医療記録の記載を義務付け て、それを怠った者にはサンクションを与える、また、先ほどの事故報告についても、 報告した人が不利にならないようにという話がありましたが、逆に報告をしなかった人 に対して、これは交通事故の場合と同じように処罰する、あるいは何らかの不利益、制 裁を課すというような法制度は、医療の透明化、あるいは事故の減少という観点から見 た場合に効果がある方策なのでしょうか、それとも、そうではないのでしょうか。 ○大井参考人   カルテの中に何を記載していくかという問題では、残念ながらまだ医療界では、すべ ての事柄が決まっているわけではありませんし、共通の認識ができているわけではあり ません。しかし、アメリカで行われてきましたPOSシステムとか、そういう問題が徐 々に浸透してきております。ただ、それを法制化したからカルテが良くなるとは考えて おりません。実際に医師が書いている中には、先ほども言いましたように気付いたこと、 あるいは自分で思ったこと、主観的な事柄も非常に後になって参考になったりするので、 そういうことを分けて記載していくという習慣は具体的にはつかみ得ないと思います。 そういう意味で、規範になるのは、将来は電子カルテ、少なくとも診療記録に関しては 電子カルテ化の方向に進んでいくのではないだろうかと思います。電子カルテの利点の 1つは、とにかく読めない字がないということがいちばん大きいだろうと思います。残 念ながらそう考えております。  未報告者に対しての責任というのは、私は2頁の所にも書きましたが、事故報告の否 提出者の責任も当然問われるべきであろう。報告書の免責の問題を取り上げていただく のなら、法的整備をしていただくのなら、当然それは表裏一体のものであろうと考えて おりますので、ここで記させていただきました。 ○前田委員   先ほどの「免責云々」という議論があって非常に詳しい研究があると思うのですが、 我々刑事から見るというか、欧米の世界は若干訴訟文化が違って、免責とか、取引とか というのが強い社会です。日本は、やはり真相解明的な意識が強く、民事訴訟の中でカ ルテは調査で使ったものを証拠として使わないようにするとか、ということについての 民事訴訟法上の議論は、かなり難しい問題があるので、今後ゆっくり検討していかなけ ればいけないと思うのです。いずれにしろ、そういう形で第三者機関をどう捉えて、一 方で情報を集めやすくするということは一致があって、ただそれだけでは済まない、そ れプラス、ですから太陽だけではいかないし北風だけでもいけないのですが、その折り 合いのつけ方のところで、その中で1つのキーになるのは、私の見るところは第三者機 関を誰がどこの組織とのつながりでどう構成していくか。  先ほど長谷川委員からご指摘がありましたように、仕事の中身をどう切り分けていく か、どこに中心を置いた第三者機関をつくっていくかということになってくるかと思い ます。それは今後の課題で、ゆっくり検討していかないとまずいと思っております。 ○堺部会長   いま法律ご専門の立場の前田委員からご説明がございました。お二方の参考人から何 かご意見があれば伺いたいと思います。なお、この後いままでご質問いただいておりま せん、ほかの委員の方々からもご質問、またはご意見を頂戴したいと思います。  それでは稲垣参考人、いまの前田委員のご説明に何かご意見がございましたら、よろ しくお願いいたします。 ○稲垣参考人   私、「第三者機関」ということを申し上げましたが、これは前田委員の言われるとお り、今後十分検討して、皆さんの知恵を集めて前へ進めていかなければいけない事項だ と思っております。また中立的な形のようにしなければいけないと思います。誰が参画 するかということになれば、厚生労働省の役所も当然でございますし、医師会等の医師、 弁護士等の、いわゆる法曹関係、学識経験者、一般市民といったところからも構成して 作っていく。それで、実際の事故事例を調査するということになれば、相当専門的なス タッフも要りますし、また法律の専門家も多数必要だ、というような形での組織を作り 上げていく必要があるのではないかと思います。これは今後、是非皆さんが衆智を集め て、早急に具体化を図っていただけるといいと考えております。 ○大井参考人  第三者機関の第三者とは何かということですが、私自身はいま稲垣参考人が言われた ように中立的なという意味で考えております。したがって、いまお話がありましたよう な様々な職種の人たちが入ってくることになるだろうと思います。どうしても事が医療 関係に係わる問題ですから専門的な医師が、特にそういうことを研究している人たちに 入っていただかなければならないだろうと考えております。  そういう意味で、この第三者機関をどういうふうな形に、諸外国の例なども参考にし ながら考えていくべきかということに関しては、すでに病院協会の中でもいくつかの議 論が出て、いろいろな要望をまとめようと努力はしております。しかし、事は、先ほど から言いましたように医療界の中だけで問題を解決することではございませんので、幅 広く、国民的な立場に立って決めて、考えていただければと。その中に私どもの病院協 会の主張も、発言させていただく機会がいずれ出てくれば有難いというふうに考えてお ります。そういう意味で、先ほどの先生のご指摘は大変に参考になりました。ありがと うございました。 ○長谷川委員   諸外国を見ていますと、証拠として提出することの免責と患者の権限とが、バランス がとれて1パッケージで提案されているような感じです。まず苦情とか、あるいは補償 の問題は患者さんのご家族からくるわけですが、その場合に、言っていいのですよと。 権利があるのです、受けたことについての事実関係について、ある場所に提案をし提出 をし真実を知る権利があるのですよ。もっと重要なことは、提供側に対してメッセージ がありまして、そういうことで訴えられた場合には、患者さんは権利を持っているので、 あなたはちゃんと聞かなければいけないのですよと。そういうことをイギリスの場合 もオーストラリアの場合も作ってから始めているようです。 ○樋口委員   質問はありませんが意見を述べさせていただきます。この前も私は述べましたが、医 療行為はすべて傷害行為だという認識が今まで医師側に、あるいは医療側に欠けていた ことがすべての始まりであって、そこから隠すとか、説明不足とかいろいろなことが出 発しているような気がします。  昨日の日経新聞に「過失は全部警察に届けろと外科学会が申し合わせをした」。もし 短兵急にやるならば、すべての過失をすべて警察に交通事故と同じように通報制度を敷 けば報告はそこで終わると思います。ですから、それをやれば、警察の仕事がパンクす ると思いますが、そこで具体的な解決方法が動くかもしれませんから、やればいいと。 実際にそういうことが起こっており、東京都の場合は患者さんがちょっとした、例えば 針で縫うときに、ちょっと掛け方が悪かったということで警察に訴える事例が増えつつ ありますから、こういう発表がありますと多分届出が警察に殺到するのではないかと思 います。新聞に載ると、それを切り抜いて患者さんは持って来ますから、東京でそうい うことが起こるので明日あたりから、ひょっとすると警察が交通事故処理以外にこうい う処理事項が増えてパンクするのではないかということを憂慮しております。  そして、警察のほうも不作為を最近は責められております。今までは警察のほうでも、 これぐらいのことは勘弁してあげなさい、ぐらいで済んだかもしれませんが、今後は、 すぐに捜査が入り、医療現場が差し押さえられ、明日から診療行為ができないという事 態が起こるのではないかと思っております。ここら辺りを、先ほどから第三者機構とか 機関という話をしておりますが、それも早急にやらないと警察もパンクしますし、医療 現場も混乱するのではないかと思っております。  もう1点の意見は、先ほどから看護師さんの記録は非常に詳しいということでしたが、 それは当たり前の話で、看護師さんの人数と医師の人数を比べれば明らかな話です。時 間というファクターがあり、医師には医師法第19条で「診療を断ってはいけない」とい う応召の義務があり、どんなに忙しくても患者さんが来たら受け付けなければいけない わけです。1日24時間しかなくて、患者さんが何十人も何百人も押し寄せた場合は断る ことはできない。とにかく診てあげようとすると、よく1人当たりの時間は3時間待ち の3分診療と言われますが、どうしてもそういう事態が起こるわけです。それを防ぐと すれば、厚労省あたりで最適診療時間(又は最少必要診療時間)、あるいは診療人数を 研究していただきたいと思います。医師法第19条をもう1回検討していただきたいわけ です。  それとカルテをしっかり書こうと思えば、極端に言えば1人30分、1時間かけないと 説明、インフォームド・コンセントもとれませんし、記録もちゃんとできないわけです。 そうすると患者さんを例えば半日待たせることになる。実際に某都内の病院のERはそ ういう事態が起こっており、患者さんが殺到しますと救急車で行ったにもかかわらず5 時間待されたとか、1日待されたと苦情が殺到するわけですが、それはしようがないで すね、患者さんを断わることができませんから。もしカルテをきちんと記載しようと思 えば1時間や2時間はかかると思います。電子カルテをいくら導入しても、電子カルテ が勝手に一人で記録してくれるわけではありません。そのときに、先ほど大井先生が言 われましたが、どういうふうにそれを解決するかということが問題であると思います。 ですから多分1回、科別、あるいは重症度別でもいいのですが、そういう研究を、例え ば災害のときは「トリアージ」という方法があります、どこから順番に診るかという。 そういう研究がなされないで、ただカルテをしっかり書きなさいとか言っても、それは 駄目だと思います。  日本の場合は「フリーアクセス」とかいって、誰でも診療を平等に受けられるという ことは確かにいいことなのですが、そこにしわ寄せがきて一方的に医療側、あるいは医 師側が責められている状況が起こっていると思います。しかし時間は増やしようがない わけです。どうしたらいいかという研究がされていませんから、現象面ばかりを検討し ても根本的解決はできないと思います。その辺を厚生労働省なり、あるいは医師会でも いいのですが、最適診療時間なり人数、例えば患者さんの取り違えって、1日1人しか 診ない場合は起こりっこないわけです。でも患者さんが殺到されれば取り違えとか、取 り違いの薬とか注射が起こるわけです。根本的な研究も並べて行っていただきたいとい うのが現場からの注文です。  それと、事故の警察届出が新聞に出ましたので私は明日から医療現場、あるいは警察、 それと病院もテンヤワンヤする。実際にこういう事項は患者さんも分かっておりますか ら、カルテを隠すとか何とか言われていますから、すぐ証拠保全に入りますし、警察も 今晩にもすぐきます。救急車で運ばれた患者さんを一応診まして、「大丈夫ですからお 家に帰って寝ていてください」と、それで帰って何時間かでたまたま重症化したり亡く なると、もうすぐ警察が来ます、これは誤診じやないかって。そういう実態が東京では 起こりつつありますから、今後、全国的に波及するのではないかと憂慮しております。 以上意見を申し述べました。 ○岸委員   情報収集する件で質問させていただきます。先ほどから繰り返し皆さん言われている ように、その情報の内容について刑事免責はあり得ないというご指摘があるわけです。 情報収集した情報は、ある意味で、これは開示の方法とも絡むのですが、事故の原因等 々の解明のための非常に正直なものである、という前提に立っています。ところが、医 療の現場では患者さん、あるいは家族の方と、その治療行為について対立している場合 がありうる。実は患者さん側に対しては明確な事実を示していないというような事態が あった場合、正直な情報のほうが、何らかの形で患者さんなり家族の目に触れたとする と、このディテールを見ると、匿名であっても明らかにこれは私の家族のこと、あるい は患者のことを指したものに違いない、というようなことがはっきりする。それをもっ てして私のケースであるに違いない、蓋然性が非常に高いのでということで民事なり、 刑事なりの司法手続を求めたい、というようなことが起こり得るかと思います。そうい う事態を想定した場合に、大井参考人、稲垣参考人、報告制度というのはどのような形 のものを今まで言っていたのでしょうか。  つまり、こういう問題が想定されるというようなことまで含めて、情報収集システム という形を考えておられますか。 ○大井参考人   実際の経験からお話させていただきます。医療事故情報の中には、表現は悪いのです が、非常に参考になる事例と、その現場でほとんど対処してというか、解決してしまう 事例が混在しております。各医療機関でいちばん困っているのは、この第三者機関に限 らず、私は第三者とはまだ言っていませんが、情報を集めてくる機関というのは、集ま ってくる情報はどうでもいい情報まで全部集めていく、というふうには全然考えており ません。それはその医療機関の中である程度セレクトさせていただかないと集まってき た事例が、例えば、私どもの病院でも「ヒヤリ・ハット」は年間に1,800件ぐらい集ま ってきて、それが全国からドサッと集まってきたら、どんな優秀な検討機関でもパンク してしまいます。  私はそういうふうには考えておりませんで、各医療機関の中に、これはどうしても報 告して分析してほしい事例とか、あるいは、もっと広域で検討していただきたい事例と か、あるいは非常に影響の大きいと考えられる事例をセレクトしていくべきだろうと考 えています。したがって、この報告書の中にも、また意見陳述書にも書きましたが、事 故の程度を分類していく、グレーディングをするということが大切だろうと思っており ます。そうすると、じゃあこういう事例は報告しなさいとか、そういうことが出てくる はずであります。それはアメリカのJACHOのセンチネリーイベントの中にも、これ とこれとこういうものは報告しなさいよ、というふうに決めてありますので、必ずそう いう方向が出てくるだろうと思います。  そういうことを前提にして集める機関ができたら、あと現場の医療機関は、そういう ものに対して、そっぽを向いていていい、というふうには考えておりません。各医療機 関で努力していて、それを超えたもの、あるいは、さらに影響の強いというものを集め て解決していくと考えております。 ○稲垣参考人   事故報告を直接国にするとか、県に報告せいとか、警察に報告せいということになり ますと、非常に報告はしずらいと思います。それで第三者機関を中立的なものにして、 そこへ報告するということにすれば医療機関としても、行政とか警察へ直接報告せよと いうよりは出しやすいのではないかと考えたわけです。  もう1つは、これは先ほど申し上げました中に入っておりますが、どこまでが医療事 故かということは非常に難しいと思います。これは専門家のほうでご検討いただいて、 こういうものとこういうものは報告して、この程度ならいいのだ、という1つの基準が 医療機関に、第三者機関なり、あるいは国が関与するかどうか、とにかく示されて報告 しやすいようにするのが必要ではないかと思っております。  いまのお話で、患者に説明されていることと事故報告で報告したこととの食い違いが あったら云々、というふうに言われたように受け取りましたが、私は本来、食い違いは ないほうがいい、食い違いはなくすべきではないかと考えます。これは医療の立場の人 と違った考え方かもしれませんが、私は食い違いがあってはおかしいのではないかと考 えております。 ○井上委員   大井参考人にお伺いします。「医療事故の範囲が不明確である。事故をグレード別に 分類して」という所があります。前田委員はこれがご専門かどうか分かりませんが、ス タンダードオブケアという考え方の医療水準というものがあって、行われた医療の水準 のどこまで不作為で、境界線上が一体どこにあるのか。司法の判断と我々医療関係者が 考える医療慣行とは、今までの裁判例からするとかなり違っているようなところがあっ て、説明義務とか、注意義務とかの内容がグレードが裁判所の判断と医療関係者の間で はかなり違っているような気がするのです。そういったところを教えていただければと 思います。 ○大井参考人   明解なお答えをいま現在持っているわけではございません。大ざっぱに言いますと、 とにかくグレーディングをしなければならないということであって、それはじゃあどう いうふうにグレーディングするのだと言われると、細かい事例まで分析しているわけで はありません。これは四病協の医療安全対策委員会でも、今後検討すべき事柄だという ふうに考えておりますので、ここから先は全くの私見だと考えていただきたいと思いま す。  グレーディングの中には起こってきた事例の中で2つの視点があろうかと思います。 1つは、患者さんに対して与えた障害が非常に大きかった事柄という分類。もう1つは、 非常にいろいろな事柄が絡み合った、錯綜した背景が予想されているような事例という 分類もあろうかと思います。そういう意味で私は各医療機関の中では、すでに4E4M の分類とか、あるいはシェルの分類ということでみんなやっておりますので、その中で ある程度は、これとこれとこれは報告しなさい、ということが出てくるのではなかろう かと思います。具体的にはちょっと示し難いと思いますが、そういう2つの視点があろ うかと考えております。 ○堺部会長   そろそろ予定の時間が過ぎてまいりました。本日はここで閉じさせていただきたいと 思いますが、その前に各委員の方々で、是非これだけはお尋ねしたいとか、あるいは両 参考人で、これは是非補足しておきたいというものがありましたら、お願いしたいと存 じます。星委員、どうぞ。 ○星委員   質問というより稲垣参考人からの意見を受けて1点だけお話をさせていただきます。 先ほど申し上げましたように、カルテの開示に関する取組み、あるいは、カルテをきち んと書きましょうといろいろな取組みをしている事実について、まだまだご理解いただ けていないし、そういうふうにご指摘をいただくということで、努力が足りないのかな、 ということをいま感じております。ただ、いま変わりつつある中にあって、さあ、何を 目指していくのか、というまさにこれからの議論の中にあって、いきなり「第三者機関 にどうのこうの」ということよりも、先ほど最初に質問させていただいたように、最初 の手違いといいますか、説明を求めたのに説明してくれなかった、謝罪を求めたのに謝 罪をしてくれなかったと。そこのところをもっときちんと議論をしておかないと、その 後のいろいろな問題だけを取り上げてしまうのは、いかがなものかと思います。これは お答えの必要はございませんが、そういったことを感じました。ありがとうございます。 ○堺部会長   ありがとうございます。 それでは、本日はこれで終了させていただきます。稲垣さ ん、大井さん、両参考人の方々、誠にお忙しいところ、おいでいただいてありがとうご ざいました。改めてお礼を申し上げます。次回はまた外部の有識者の方においでいただ きたいと思っております。なお人選については事務局と相談して決めさせていただきま す。  では、次回の日程について事務局からご連絡いたします。 ○新木室長   次回の日程についてはかねてからお知らせしているとおり、10月21日(月)、16時か ら18時の間、厚生労働省9階省議室にて開催することとなっております。詳細について は後日、委員の方々にご連絡を差し上げたいと思います。 ○堺部会長   ありがとうございました。それでは本日はこれで終了させていただきます。どうもあ りがとうございました。 (照会先) 医政局総務課医療安全推進室企画指導係 電話 03-5253-1111(内線2579)