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1 昭和60年改正による基礎年金制度(及び第3号被保険者制度)の導入

○給付水準、給付体系の見直しの必要
  世帯単位で設計されていた被用者年金の水準の分化
○女性の年金権の確立の要請

昭和60年改正前
各制度共通の横断的な仕組みとして基礎年金を導入し、その負担を各制度が加入者の頭割りで持ち寄ることにより、産業・就業構造の変化に中立的で安定的な仕組みとした。
被用者の被扶養配偶者の任意加入を廃止し、強制加入とし、厚生年金の定額部分、加給年金について、これらを夫と妻それぞれの基礎年金に編成替えし、これらを被用者年金制度の負担で給付することにより、世帯の形態に応じた適正な給付水準とするとともに、女性の年金権を確立した。
図

(改正前後を通じて、同範囲を夫の納付する保険料でカバー)
昭和60年改正後

2 現行の制度における保険料負担と給付

 ○世帯報酬50の場合
(単位:万円 以下同じ。)
図

 ○世帯報酬30の場合

図 (注)保険料は、事業主負担を含む数字である。また、年金額の計算において被保険者期間は、40年加入として計算している。

○夫婦世帯で標準報酬額が同じであれば、保険料負担は同額で給付も同額

 ○報酬額が標準報酬上限を超える場合

年金の保険料賦課や年金額算定の基礎となる標準報酬については、過大な年金給付を避けるなどの理由により上限が設定されている。現在の上限額は62万円。これにより、これを超える高い賃金であっても、保険料、年金額の計算上62万円として計算される。

図

夫婦世帯で報酬額が同じであっても、標準報酬上限額の存在により、片働きと共働きで保険料賦課ベースが異なるケースが存在
この場合、基礎年金に関しては、共働き世帯は片働き世帯より相対的 に負担が重くなる

3 日本の第3号被保険者と同様に配偶者に対する給付を有する国の制度

  日本 アメリカ イギリス
制度名 厚生年金保険 老齢遺族障害保険
(OASDI)
国民保険
制度上の平均賃金(A) 36.7万円
(ボーナス込みの
手取り換算40.1万円)
$2,539
(289,217円)
£1,707
(314,583円)
Aで満年加入した場合の
本人給付額
基礎年金
67,017円
報酬比例部分
104,092円
$1,105
(125,871円)
基礎年金週£72.5
(月換算57,890円)
付加年金週£64.2
(月換算51,269円)
配偶者給付額 基礎年金
67,017円
$553
(62,992円)
基礎年金週£43.5
(月換算34,740円)
配偶者給付
―――――
本人給付
39.4% 50.0% 31.8%
※イギリスは、1999年から2010年にかけて付加年金の給付率を減額中。表中は、減額後(代替率20%) の数値を記載

アメリカの制度

 アメリカの年金制度では、
  ○ 老齢年金又は障害年金の受給資格を有する被保険者の65歳以上の配偶者(62歳からの繰上げ受給が可能)に対して、被保険者に給付される年金額の50%が配偶者年金として給付される。
(注)年金制度上の平均賃金(2,539ドル、2000年)で満年度加入した場合の配偶者給付額は、月額553ドル(62,990円、為替レートはIMFによる1999年平均レートを使用。)となる。
  ○ 配偶者自身が被保険者として保険料を納付したことによる老齢年金又は障害年金を受給している場合には、その額だけ配偶者年金は減額される。(配偶者本人の老齢年金又は障害年金の額が配偶者年金を上回る場合には、配偶者年金は支給されない。)
  ○ また、被保険者が死亡した時点で、寡婦(夫)年金(被保険者に給付されていたものと同額)に切り替えられる。

イギリスの制度

 イギリスの年金制度では、
  ○ 夫が老齢年金(基礎年金及び付加年金)の受給資格を有し、受給年齢(65歳)に達している場合、受給年齢(60歳、なお2020年までに段階的に65歳まで引き上げられる予定)に達した妻は、夫の生存中には夫の基礎年金の60%を、夫の死亡後には夫の基礎年金と付加年金の100%(なお、2002年より付加年金は50%に減額予定)を、妻自身に対する配偶者年金として受給する。
(注)満年度加入した場合の基礎年金額は、週72.5ポンド(月額換算57,890円)であり、その60%は週43.5ポンド(月額換算34,740円、為替レートはIMFによる1999年平均レートを使用。)となる(2001年)。
  ○ 妻自身が被保険者として保険料を納付したことによる老齢年金を受給している場合には、
 基礎年金については、自身の保険料納付に基づく基礎年金と夫の保険料納付に基づく配偶者年金を、基礎年金の満額まで併給できる。
 付加年金については、最高限度額(=保険料徴収上限に応じて保険料を支払った場合の受給額)を超えない限り合計額を受給できる。

フランスの制度

 フランスの年金制度では、老齢年金及び障害年金を受給できない65歳以上の配偶者(障害を有する場合には60歳以上)を扶養している者に対して、被保険者の年金に年額4,000フラン(月額換算6,170円、円換算レートはIMFによる1999年平均レートを使用)の加給金が加算される。ただし、当該措置に係る所得制限額は低い水準に設定されており、また給付額も長期間据え置かれている。


4−1 第I案

【第3号被保険者に係る保険料負担の考え方】
【第3号に係る負担を負担能力に応じて負担―妻―定率負担】
潜在的な持分権の具体化による賃金分割を行った上で、妻自身にも分割された賃金に対して定率の保険料負担を求めるという仕組み。
 個人で負担し個人で給付を受けるという考え方を、応能負担のシステムを維持しながら貫くことができ、片働き、共働きを通じて、夫と妻それぞれに給付と負担の連動が明確となる。また、報酬比例部分も含め、離婚した場合の年金給付のあり方が明確となる。

図
(注) 保険料は、事業主負担を含む数字である。また、年金額は加入期間40年として計算している。

【議論する際の主な論点】
潜在的な持分権の具体化による賃金分割という手法が、我が国の税制、労働法制等の社会制度に組み込まれていない中で、現段階で年金のみがこの考え方を政策として採用できるか。
雇用関係のない第3号被保険者に係る事業主負担をどう考えるか。事業主負担が求められない場合、これに代わる財源をどこに求めるか。
(参考) 第2号被保険者(厚生年金)が納付する保険料 約20.2兆円(平成11年度)第3号被保険者のいる第2号被保険者は2号全体の約3割(これらの者に係る賃金の半分が妻に分割される形となる。現在は、これに相当する部分も含めて2号被保険者の保険料全体を通じて2分の1の事業主負担が行われている)
雇用関係のない配偶者に賦課される保険料の特別徴収(いわゆる天引き徴収)が可能かどうか。特別徴収ができない場合、未納の増加を招くおそれはないか。
医療保険も同様に制度を見直して、被扶養配偶者自身が健康保険又は国民健康保険に独自に加入することとするのか。

4−2 第II案

【第3号被保険者に係る保険料負担の考え方】
【第3号に係る負担を受益に着目して負担―妻―定額負担】
第2号被保険者の定率保険料は第3号被保険者の基礎年金に係る拠出金負担分を除いて設定し、それとは別に、第3号被保険者たる妻自身に、第1号被保険者と同額(現在13,300円)の保険料負担を求めるという仕組み。
 第3号被保険者も含めて個々人全員が受益に着目した負担という考え方から保険料負担を行うことにより、第3号被保険者に係る保険料負担についての不公平感を解消できる。

図
(注1) 保険料は、第2回検討会資料で示した試算〈3号のいる世帯16%+13,300円、それ以外の世帯16%〉による。
(注2) 保険料は、事業主負担を含む数字である。また、年金額は加入期間40年として計算している。

【議論する際の主な論点】
第3号被保険者に係る保険料負担について、受益に着目した負担の考え方を導入することが妥当かどうか。
雇用関係のない第3号被保険者に係る事業主負担をどう考えるか。事業主負担が求められない場合、これに代わる財源をどこに求めるか。
(参考) 第3号被保険者に係る拠出金負担のうち国庫負担を除いた部分 約1.7兆円(平成11年度)現在、この2分の1が事業主負担によって賄われている。
現在、やむを得ず第1号被保険者に対して採られている定額保険料の仕組みを、さらに第3号被保険者にも課すことになり、保険料負担の逆進性の問題を一層拡大することについてどう考えるか。
雇用関係のない配偶者に賦課される保険料の特別徴収(いわゆる天引き徴収)が可能かどうか。特別徴収ができない場合、未納の増加を招くおそれはないか。
医療保険も同様に制度を見直して、被扶養配偶者を健康保険から外して、国民健康保険に独自に加入することとするのか。

4−3 第III案

【第3号被保険者に係る保険料負担の考え方】
【第3号に係る負担を受益に着目して負担―夫―定額負担】
第2号被保険者の定率保険料は第3号被保険者の基礎年金に係る拠出金負担分を除いて設定し、第3号被保険者のいる世帯の夫には、それに第1号の保険料と同額(13,300円)を加算した保険料負担を求めるという仕組み。
 所得のある者から保険料負担を求めるという考え方を貫きつつ、受益に着目した負担という考え方を導入することにより、第3号被保険者に係る保険料負担についての不公平感を解消できる。

図
(注1) 保険料は、第2回検討会資料で示した試算〈3号のいる世帯16%+13,300円、それ以外の世帯16%〉による。
(注2) 保険料は、事業主負担を含む数字である。また、年金額は加入期間40年として計算している。

【議論する際の主な論点】
第3号被保険者に係る保険料負担について、受益に着目した負担の考え方を導入することが妥当かどうか。
雇用関係のない第3号被保険者に係る事業主負担をどう考えるか。事業主負担が求められない場合、これに代わる財源をどこに求めるか。
(参考) 第3号被保険者に係る拠出金負担のうち国庫負担を除いた部分 約1.7兆円(平成11年度)現在、この2分の1が事業主負担によって賄われている。
現在、やむを得ず第1号被保険者に対して採られている定額保険料の仕組みを、さらに第3号被保険者にも課すことになり、保険料負担の逆進性の問題を一層拡大することについてどう考えるか。
片働き世帯の夫(妻)に課される保険料が、共働き世帯の夫と妻に課されるものよりも高くなることについて、事業主の理解が得られるか。また、雇用行動に何らかの影響を及ぼす可能性はないか。
被用者間でのリスクの違いは、第3号被保険者の有無だけでなく、例えば性別の違いや子どもの有無のように様々なものがある中で、社会保険制度の下で国民が共有すべき社会的なリスクをどう考えるか。
医療保険も同様に制度を見直して、被扶養配偶者の受益に着目した保険料負担を求めることとなるのか。

4−4 第IV案

【第3号被保険者に係る保険料負担の考え方】
【第3号に係る負担を受益に着目して負担―夫―定率負担】
まず第2号被保険者の定率保険料を第3号被保険者の基礎年金に係る拠出金負担分を除いて設定し、第3号被保険者のいる世帯の夫には、それに第3号被保険者に係る拠出金負担に要する費用を第3号被保険者のいる世帯の夫の賃金総額で割った率を加算した保険料負担を求めるという仕組み。
 被用者の保険料負担に係る応能負担の考え方を貫きつつ、第3号被保険者について世帯単位での受益に着目した負担という考え方を導入することにより、第3号被保険者に係る保険料負担についての不公平感を解消できる。

図
(注1) 保険料は、第2回検討会資料で示した試算〈保険料率=3号のいる世帯19.3%、それ以外の世帯16%〉による。
(注2) 保険料は、事業主負担を含む数字である。また、年金額は加入期間40年として計算している。

【議論する際の主な論点】
第3号被保険者に係る保険料負担について、受益に着目した負担の考え方を導入することが妥当かどうか。
雇用関係のない第3号被保険者に係る事業主負担をどう考えるか。事業主負担が求められない場合、これに代わる財源をどこに求めるか。
(参考) 第3号被保険者に係る拠出金負担のうち国庫負担を除いた部分 約1.7兆円(平成11年度)現在、この2分の1が事業主負担によって賄われている。
片働き世帯の夫(妻)に課される保険料が、共働き世帯の夫と妻に課されるものよりも高くなることについて、事業主の理解が得られるか。また、雇用行動に何らかの影響を及ぼす可能性はないか。
被用者間でのリスクの違いは、第3号被保険者の有無だけでなく、例えば性別の違いや子どもの有無のように様々なものがある中で、社会保険制度の下で国民が共有すべき社会的なリスクをどう考えるか。
医療保険も同様に制度を見直して、被扶養配偶者の受益に着目した保険料負担を求めることとなるのか。

4−5 第V案

【第3号被保険者に係る保険料負担の考え方】
【第3号に係る負担を、応能負担をより徹底する形で負担―夫―定率負担】
夫の所得が高くなると専業主婦世帯の割合が高まることに着目し、高所得者について、標準報酬上限を引き上げて、保険料の追加負担を求めるという仕組み。
 片働き世帯が相対的に高所得であることに着目して、高所得者の保険料負担を引き上げることにより、実質的に第3号被保険者に係る保険料負担についての不公平感を縮減できる。

図

【議論する際の主な論点】
第3号被保険者に係る保険料負担について、標準報酬の上限があることにより生じている基礎年金の負担の不均衡への対応案であり、部分的な解決策にとどまるのではないか。
賃金の高い者により多くの負担を求めることにより解決を図るという手法が、今日の税制や社会保障制度における所得再分配施策の流れの中で、どのように位置付けられるのか。
一定以上の報酬について、給付に反映させずに保険料負担のみを求めることは可能か。

4−6 第VI案

【第3号被保険者に係る保険料負担の考え方】
第3号被保険者を、育児・介護期間中の被扶養配偶者に限るという仕組み(その余の期間については、他案のいずれかの方法で保険料負担を求める。)。
 第3号被保険者としてのメリットを受けられる期間を育児等の活動を行っている期間に限定することにより、第3号被保険者に係る保険料負担についての不公平感を縮減できる。

【議論する際の主な論点】
育児・介護等の期間中にある者以外の被扶養配偶者の扱いをどうするか。
育児・介護期間中にある者に対して年金制度上の特別な配慮を採ることが妥当かどうか。


5 基礎年金の費用負担の仕組みについて

 ○ 基礎年金の給付に要する費用は、年度ごとの給付費の総額を、被用者年金各制度及び国民年金制度が、それぞれの被保険者数(被用者年金制度については第2号及び第3号。国民年金については、保険料納付者)で按分して負担(いわゆる頭割り)
 ○ 厚生年金はこのように頭割りで割りふられた額を、被保険者の標準報酬(賃金)に応じて賦課する定率の保険料の中から負担している。すなわち、厚生年金制度においては、第2号被保険者が、賃金に比例する形で基礎年金費用を負担していることとなる。

厚生年金の例


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