戻る

公的年金制度の財政方式と年金積立金のあり方について



今後の議論を進める上で必要と考えられる論点(例)や参考資料をとりまとめたものである。


1.平成11年財政再計算における考え方

(1)財政方式の基本的考え方

  ○ 平成11年財政再計算における財政方式は、賦課方式を基本としつつも、世代間の負担の均衡を考慮し、一定の年金積立金を保有して運用収入を活用することにより、将来の保険料を軽減し、将来世代の過大な負担を避けることとしている。
  ○ 保険料計画は、平成36(2024)年度までに最終保険料となるよう段階的に引上げていき、最終保険料については、一定の保険料で将来にわたり収支が均衡するように設定した。
  ○ その結果、年金積立金は将来にわたり保有し続ける計画となり、その運用収入を活用することにより、厚生年金において、高齢化のピーク時に年収ベースで41/2%程度、高齢化のピークを越えた後も、将来にわたり11/2%程度、保険料率を軽減することができる。(参考資料1−1,1−2)

   ※ 高齢化のピーク時には、保険料水準を一定水準で維持できるよう、元本の一部を取崩して年金給付に充てる計画となっている。

(2)年金積立金と運用収入の役割
  ○ 年金積立金の役割は、その運用収入を年金給付に充てることにより保険料を軽減することにある。
  ○ したがって、運用収入が予定より少なくなれば、保険料軽減の効果が縮小し、保険料を予定以上に引上げなければならないが、逆に、運用収入が予定より多くなれば、保険料軽減の効果が大きくなり、保険料を予定ほど引上げる必要はなくなる。

(3)実質的な運用収入の必要性
  ○ 公的年金制度は、長期的には名目賃金上昇率により年金水準が改定される仕組みであるため、名目運用利回りが低下しても、名目運用利回りのうち名目賃金上昇率を上回る部分すなわち実質運用利回りが、想定どおりの水準で確保できている限り、保険料水準には影響を与えない。したがって、年金財政の観点からは、運用面で名目賃金上昇率を上回る実質的な運用収入をどの程度確保するかが重要である。
  ○ なお、長期的に名目賃金上昇率を上回る運用収入を確保することを見込まない場合は、名目賃金上昇率で年金水準が改定される中で、年金積立金の実質価値が目減りしていくため、年金積立金から得られる運用収入を用いて保険料軽減を続ける財政計画を立てることはできなくなる。

2.年金積立金を将来にわたり保有する計画を見直し、取り崩して年金給付に充てることにより、保険料の上昇を抑えるという考え方について

(1)年金財政の基本的な構造
  ○ 年金積立金を将来にわたり保有する計画を見直し、仮に、使い切るとした計画とする場合、年金積立金を取り崩した分を年金給付に充てることにより、当面の保険料の上昇を抑えることは可能である。
  ○ しかしながら、年金積立金を使い切った後は、年金積立金による保険料軽減の効果がなくなり、賦課保険料を徴収する必要があるため、より高水準の保険料の徴収が必要となる。

(2)仮に、一定期間で年金積立金を使い切るとした場合の保険料率の試算結果
  ○ 仮に、厚生年金で、それぞれ2040年度、2060年度までに年金積立金を使い切るとした場合、保険料率がどのようになるか、平成11年財政再計算の結果を基に試算すると次表のようになる。(国庫負担1/2の場合)

【保険料率の推移(平成11年財政再計算ベース(旧人口推計)の試算、国庫負担1/2)】
  2020年度 2040年度 2060年度
平成11年財政再計算結果 19.8% 19.8% 19.8%
仮に、2040年度までに年金積立金を使い切るとした場合 16.1%
(−3.7%)
23.7%
(+3.9%)
22.3%
(+2.5%)
仮に、2060年度までに年金積立金を使い切るとした場合 18.5%
(−1.3%)
18.5%
(−1.3%)
22.3%
(+2.5%)
注1:足下の保険料率の引上げは、年金積立金を使い切る財政計画とした場合に必要となる保険料率まで、平成11年財政再計算の考え方に基づき引上げるものとしている。
注2:年金積立金を使い切った後は、賦課保険料を徴収することとしている。
注3:保険料率は総報酬ベースである。
注4:カッコ内は平成11年財政再計算結果との差を表示している。

  ○ 仮に、2040年度までに年金積立金を使い切るとした場合、2040年度までの保険料率は、平成11年財政再計算結果と比べ3.7%上昇を抑えることができるが、2040年度に一挙に7.6%引上げ、以降は賦課保険料を徴収しなければならない。(参考資料2−1,2−3)
  ○ 仮に、2060年度までに年金積立金を使い切るとした場合、2060年度までの保険料率は、平成11年財政再計算結果と比べ1.3%上昇を抑えることができるが、2060年度に一挙に3.8%引上げ、以降は賦課保険料を徴収しなければならない。(参考資料2−2,2−4)
  ○ 新人口推計は、平成11年財政再計算の前提とした旧人口推計よりさらに少子高齢化が進む前提となっているため、将来の賦課保険料率は、さらに大きく上昇する見込みであり、年金積立金を使い切ったときの保険料率の引上げ幅もさらに大きくなる見込みである。

3.論点(例)

(1)高齢化のピークを越える前に年金積立金を使い切ることをどう考えるか

  ○ この場合、高齢化のピーク時(2040〜2060年度頃)において年金積立金による保険料軽減の効果が受けられなくなる。その結果、ピーク時に向けて賦課保険料が急激に上昇する影響を全く緩和できなくなるため、少なくとも高齢化のピークを越えるまでは年金積立金を保有し、年金積立金により保険料を軽減する財政方式をとるべきではないか。

(2)高齢化のピークを越えた後に年金積立金を使い切ることをどう考えるか
  ○ 平成11年財政再計算においては、将来にわたり年金積立金を保有し続けて保険料軽減を図るという財政方式をとったが、公的年金の財政は基本的に賦課方式を取っていることから、高齢化のピークを過ぎた後は、年金積立金は支払準備金程度とし、基本的に保有すべきでないという考え方もある。

  ○ しかしながら、次のような基本的な問題があり、年金積立金を使い切るような財政方式をとるかどうかについては慎重に検討すべきではないか。
少子高齢化が著しく進行する中で、年金積立金を保有し、その運用収入を活用することにより将来世代の過大な保険料負担の軽減を図るという基本的な考え方を放棄してよいのか。
当面の保険料の上昇を抑制する代わりに、年金積立金を使い切った後の保険料水準を急激に引上げなければならず、負担上昇の先送りとなり、年金への不安不信が払拭できないのではないか。

(3)その他
  ○ 高齢化のピークを越えた2060年度以降の被保険者の多くは、未だ生まれていない世代であり、賦課保険料の水準は、今後の少子化の進展により、不確定な要素が多いことについてどのように考えるか。

 例えば、新人口推計は、平成11年財政再計算の前提とした旧人口推計よりさらに少子高齢化が進む前提となっているため、将来の賦課保険料率は、さらに上昇する見込みとなっている。


  ○ 諸外国においても、ある程度の年金積立金を将来において保有する財政計画としている国があることの意味についてどのように考えるか。

【スウェーデン及びアメリカの財政計画における年金積立金】
 スウェーデン賦課方式部分において、16%で保険料を固定するが、一方において、2000年時点で給付費の4年分程度の年金積立金を保有し、その運用収益を充てることとしており、将来においても標準的なケースで2〜3年分保有することとなる見通し。
 アメリカ75年後においても給付費の1年分の年金積立金を保有するために必要な保険料を基準として、毎年、財政検証を実施。


トップへ
戻る