戻る

参考資料3

平成14年7月25日

「社会保障負担等の在り方に関する研究会」報告書について


 「社会保障負担等の在り方に関する研究会」は、このたび、6回の研究会を経て、報告書をとりまとめた。

 ※1
 本研究会は、国立社会保障・人口問題研究所の研究の一環として行われたものであり、平成14年度厚生労働科学研究事業「社会保障負担の在り方に関する研究」(主任研究者:国立社会保障・人口問題研究所社会保障応用分析部長)の一部をなすもの。

 ※2
 研究会メンバーは以下の通り。
(世話人)神野直彦 東京大学経済学部教授  小西秀樹 学習院大学経済学部教授
(世話人)山崎泰彦 上智大学文学部教授 駒村康平 東洋大学経済学部助教授
跡田直澄 慶應義塾大学商学部教授 菊池馨実 早稲田大学法学部教授
岩本康志 一橋大学大学院経済学研究科教授 長沼建一郎 日本福祉大学社会福祉学部助教授
大沢真知子 日本女子大学人間社会学部教授 宮武剛 埼玉県立大学保健医療福祉学部教授
 報告書では、社会保障負担等の在り方について、社会保険料のみならず税の在り方も含めて検討するとともに、次のような論点が整理されている。
(1)社会保険と税の適切な組み合わせなど公平な負担の在り方に関する構造的な事項
(2)能力に応じた公平な負担の賦課の在り方に関する各般の事項
(3)社会保障負担の水準等に関する事項
(4)今後検討すべき論点

 本報告書は、上記の趣旨に鑑み、社会保障審議会等における社会保障に関する制度横断的検討の参考となるものであるが、厚生労働省の公式見解を示すものではない。

(照会先)厚生労働省政策統括官付
社会保障担当参事官室政策企画官
西村 淳
(電話 03-5253-1111内線7705)


「社会保障負担等の在り方に関する研究会」報告書

 社会保障に関しては、少子高齢化を踏まえ、中長期的な観点から、医療・年金・介護といった分野毎の議論を超えた制度横断的な見直しを行うことにより、公平で安定的な制度を構築することが求められている。
 本研究会においては、各制度毎に給付内容の異なることを念頭に置きつつも、社会保障負担等の在り方について、制度横断的観点から総合的かつ体系的に検討を行った。
 その際、
 ・社会保険料のみならず税の在り方も含めて検討すること
 ・現実の制度を踏まえつつも理論的にあるべき制度の姿を描くこと
 ・今後の各方面における制度見直し等の検討のための論点を整理すること
を目指した。
 本研究会で議論された事項は多岐にわたるが、これまでの6回(合宿を含む)の研究会を経て、
(1)社会保険と税の適切な組み合わせなど公平な負担の在り方に関する構造的な事項
(2)能力に応じた公平な負担の賦課の在り方に関する各般の事項
(3)社会保障負担の水準等に関する事項
(4)今後検討すべき論点
の4つについて大枠をとりまとめたので、ここに報告する。
 なお、本研究会報告を受けて、社会保障審議会において制度設計などの議論が、国立社会保障・人口問題研究所において制度改正モデルに基づく試算や海外事例研究などのより詳細な研究が、それぞれ行われることを期待したい。

 本研究会は、厚生労働省の「研究」として行われたもので、厚生労働省の政策に関する公式見解を示すものではない。本研究会での議論は、平成14年度厚生労働科学研究事業「社会保障負担の在り方に関する研究」(主任研究者:国立社会保障・人口問題研究所社会保障応用分析部長)の一部をなすものである。


「社会保障負担等の在り方に関する研究会」報告書・目次

1 公平な負担のための社会保障制度の構造の在り方について
(1)社会保険と税
  (1) 財源調達(社会保険財源と税財源)
  (2) 財政方式(社会保険方式と税方式)
  (3) 財源の確保(国庫負担割合の引上げ等)
(2)社会保険制度の構造(保険者の分立等)

2 能力に応じた公平な負担の賦課の在り方について
(1)負担能力の把握とバランスのとれた賦課
  (1) 資産
  (2) 消費
  (3) 定額負担
  (4) 相続
(2)各種控除等による家族等の負担能力の評価
  (1) 高齢者
  (2) 児童
  (3) 被扶養配偶者
(3)低所得者の取り扱い
(4)事業主負担
(5)その他公平な負担のために
  (1) 徴収
  (2) 情報提供
  (3) 社会保障番号

3 社会保障負担の水準等について
(1)現役世代の負担水準
  (1) 負担の上限
  (2) 世代間の公平
(2)分野間のバランス
  (1) 年金・医療・福祉間のバランス
  (2) 高齢者関係と児童関係のバランス
  (3) 公的社会保障でカバーすべき部分と個人で対応すべき部分のバランス

4 今後検討すべき論点
(1)今後の検討に向けて
  (1) 中長期的課題と当面の課題
  (2) 制度設計と試算
(2)残された課題
  (1) 支え手を増やす
  (2) 給付の在り方
  (3) 労働保険や生活保護との関係
  (4) 年金財政の問題

付 メンバー表


1 公平な負担のための社会保障制度の構造の在り方について

(1)社会保険と税

 社会保障制度に係る負担方式としては、医療・年金・介護など主なものについては社会保険方式で、その他生活保護などについては税方式であり、社会保険方式においては、社会保険財源を主としつつ、税財源も投入されてきた。今後、社会保障費用の増大が見込まれる中で、社会保険方式と税方式、社会保険財源と税財源の組合せを適切なものにし、国民の納得の得られるように負担を求めていく必要がある。

・社会保険方式も税方式もいずれも社会保障負担を賄う手段ではあるが、社会保険方式は、生活困難のリスクに対する事前の備えを共同で行うものであり、給付が個人レベルで拠出の対価的性格を持つという点で、税方式とは異なるものである。

・また、税は、基本的に負担能力に応じて賦課されるものであるのに対して、社会保険料は、負担能力に基づき実際の賦課方法は修正されるものの、基本的には給付の受益に対する拠出という応益的性格を持つものであるという点でも異なっている。社会保障負担全体の在り方を考える場合には、社会保険料と税のこうした違いを踏まえ、それぞれの特色を相互に補完するものとして、社会保険方式と税方式、社会保険財源と税財源の適切な組み合わせを考えていく必要がある。

・現在の制度に関しては、保険料が高水準になり、これ以上の引き上げに抵抗感が強くなってきているほか、社会保険財源による保険制度間・保険者間の財政調整が大規模になるにつれて負担した保険料の移転に対する不満が高まり、保険料を負担した分に応じた給付が行われるよう強く求められるようになっている。こうした中で、社会保険と税の役割を明確に整理することが求められている。

・社会保険と税の役割をめぐるこれまでの議論の中では、税方式、社会保険方式、税財源、社会保険財源などの用語の使用法に混乱が見られるので、定義をしておく必要がある。ここでは、保険料の拠出に応じて給付が行われる方式を社会保険方式、保険料の拠出にかかわらず居住等の要件のみで給付が行われる方式を税方式とし、この区別を財政方式の問題とよぶこととする。また、保険料収入による財源を社会保険財源、税収入による財源を税財源とし、この区別を財源調達の問題とよぶ。この定義に従えば、現行の社会保障制度のうち主なもの(医療保険・年金・介護保険)は、社会保険方式であるが、財源は社会保険財源と税財源により調達されていると解することができる。基礎年金や高齢者医療など基礎的な部分を拠出にかかわらず給付し、その財源を全額税で賄うべきとするいわゆる「税方式論」の主張は、税財源により賄われる税方式であると整理できる。

(1) 財源調達(社会保険財源と税財源)

・現行制度においては、社会保険方式の制度の中でも、基礎年金に要する費用の3分の1、政府管掌健康保険の場合は原則13%、国民健康保険で50%、老人保健の給付費の30%、介護保険の給付費の50%が税財源で賄われている。

・このように社会保険方式の中で税財源が投入されてきた理由としては、次のようなものがあげられる。
 ア 保険制度間の財政力格差等を調整するため。とりわけ低所得者・高齢者が多く財政力の弱い地域保険に手厚く税財源を投入してきた。全国民に社会保険方式の制度に加入義務を負わせる皆保険制度を維持するためには、加入する保険制度にかかわらずなるたけ公平な給付を行うことが望ましかった。
 イ 保険制度内の低所得者の保険料負担を軽減するため。税財源を投入することで保険料水準を引き下げてきた。皆保険制度の維持のためには、低所得者でも負担できる水準に保険料を抑える必要があった。
 ウ 負担の賦課ベースを広げるため。保険料は所得比例又は定額による負担賦課(国民健康保険の場合はその組み合わせ)であるので課税ベースが狭い(特に定額の国民年金の場合は逆進性が強い)ため、それを緩和するため課税ベースの広い税財源を投入してきた。

・アの保険者間の財政調整については、基礎年金制度と老人保健制度の創設以来、社会保険財源の移転により財政調整が行われるようになり、税財源による調整の必要は低下したとも言える。ただし、社会保険財源による制度間財政調整については、保険者自治(ガバナンスや財政における独立性)の原則に立ちつつそれを曖昧にするもので適当ではないとの考え方がある一方、国民皆保険を実現する上では保険者の自主的努力を超える構造的な違いを調整することで保険者自治を実現する条件を整えるものとして不可欠であるとの考え方もある。

・イの低所得者対策については、制度に対して税財源を投入して全体の保険料水準を下げるのではなく、個々の低所得者だけに着目して税による補足的な給付の補填を行うべきであるとする考え方もある。一方、低所得者以外には国庫負担が行われずその分保険料が高くなり、またそれが年々変化するといった不安定な運営をもたらすといった逆の意見もあった。
 また、国民年金の保険料を免除された低所得者に基礎年金の3分の1水準しか給付されなかったり、生活保護(医療扶助)を受けている低所得者に国民健康保険が適用されていないことは、皆保険・皆年金の原則の下では変則的であり、これらの者に対しては保険料拠出時に負担能力が不足する分を税財源で拠出時に補填することとし、他の者と同様に給付すべきであるとの考え方もある。

・ウの賦課ベースの拡大については、投入する税財源の税の種類(またはその組み合わせ)が問題になる。これまでは、所得比例又は定額による負担である社会保険財源に対し、累進所得課税・消費課税・資産課税等の組み合わせである税財源を組み合わせることにより、全体として、課税ベースを広くし、公平な賦課を目指してきた。
 一方、社会保険方式に対して税財源を投入する理由として、上記ア及びイを考えた場合、財政力の弱い制度や低所得者への再分配の要素を重視すれば(国民健康保険など)、税目としては累進所得課税を起源とすることが望ましく、これらに対する最低保障の要素を重視すれば(基礎年金など)広く薄く課税する消費課税がより望ましいという意見があったが、いずれにせよ目的税としない限り明確な区分はできない。

(2) 財政方式(社会保険方式と税方式)

・現在、社会保障制度のうち主なもの(医療保険・年金・介護保険)は、社会保険方式で運営されているが、基礎年金や高齢者医療など基礎的な部分を拠出にかかわらず給付し、その財源を全額税で賄うべきとするいわゆる「税方式論」の主張がある。

・財政方式については、本研究会でも給付と負担の関係の明確な社会保険方式を評価する意見が多かった。ただし、最低所得保障としての年金は税方式であるべきという意見や、社会サービスである医療や介護は税方式であるべきだという意見もあった。

・いわゆる「税方式論」の主張も、実は、最低保障だけで十分であるという制度設計の問題を主張していることが多い。この主張には、生活保護だけでナショナルミニマムを保障すれば十分であるとして、公的年金保険を否定する考え方も一部にあると言えよう。また、現行制度の設計も、生活保護制度を含めて考えた場合には、社会保険方式と税方式の組み合わせの体系であると言えるので、社会保険方式と税方式の選択は絶対的な対立と考える必要はないとの見方もある。例えば、基礎部分を税方式にするという考え方については、最低保障部分(1階部分)に所得制限を設け、被用者に対する社会保険方式による上乗せの従前所得保障部分(2階部分)を残した場合には、税方式の生活保護と社会保険方式の組み合わせである現行の制度構造と、社会保険方式の対象範囲を除けば似たものになると考えることもできるといった意見があった。

・つまり、あるべき姿を考える場合には、制度設計と財政方式と財源調達の問題の組み合わせで考える必要があり、社会保険方式か税方式かという財政方式の点だけ択一を求めるという問題設定をすることは、対立をあおるだけであまり意味がある議論であるとは思われない。

<注>制度設計・財政方式・財源調達の問題を理論的に整理したモデル
 現行の制度は社会保険方式であり、所得比例負担(給付は年金では負担に比例する)のビスマルク型(厚生年金・健康保険などの被用者保険制度)と原則定額負担(年金給付は最低保障)のベヴァリッジ型(国民年金・国民健康保険などの国民・地域保険制度)の2本建てで、財政調整等を用いつつ組み合わせる形をとってきた。仮に、社会保険と税の役割を明確に区分し、社会保険方式の部分は社会保険財源で賄い、税方式の部分は税財源で賄うこととした場合、このどちらをプロトタイプ(原型)と考えるかにより、理論的には制度の構造を以下のモデルで考えることができる。なおこのモデルは、歴史的経緯や現実性をとりあえず捨象し、理論的に純粋な形を整理したものであり、また年金・医療・介護の相違も考慮していないもので、これ自体が現行制度の改革案に直接つながるものではない。

A 所得に応じて社会保険料を負担するビスマルク型社会保険を原型とし(給付は年金では負担に比例し従前所得の一定割合を保障)、負担が少ないため対応すべき給付が最低保障水準に満たない者に対して税方式・税財源で補足給付するモデル。この場合、低所得者への補足のための税財源であるので、累進所得課税を起源とする税が望ましいことになる。

B 定額の負担で最低保障を行うベヴァリッジ型社会保険を原型とし、低所得者に合わせた保険料設定に対応した給付では最低保障水準に満たない部分を税方式・税財源で補足給付するモデル(ベヴァリッジ型の最低保障そのものを税方式・税財源にするバリエーションもあり、これがいわゆる「税方式論」)。所得制限を設け低所得者のみに補足給付する場合と、所得制限を設けず全員に補足給付して給付水準を底上げする場合が考えられるが、前者の場合は累進所得課税を起源に、後者の場合は広く薄く比例課税する消費課税を起源とすることが望ましいことになる。

 なお、医療・介護については、いずれの負担方式をとった場合も給付はニーズに応じて(負担に比例はせずに)行われる。

(3) 財源の確保(国庫負担割合の引上げ等)

・現行の制度設計を前提とすると、当面、高齢化等に伴う社会保障給付の増大を賄う税財源の確保が必要である。基礎年金の国庫負担割合の引上げや、高齢者医療や介護などに要する国庫負担の増が求められている。

・国庫負担割合の引上げに関しては、税財源の割合を増やし社会保険料の引き下げ(社会保険財源の減)を行うこと自体では、社会保険料負担と税財源を合わせて見た場合の国民負担は変わらないことに注意する必要がある。財源調達における社会保険と税の役割分担や、給付と負担の牽連性(給付が負担の対価的性格を持つこと)など社会保険料に対しては国民の理解が得やすいことなどを考慮して、社会保険料の引上げと増大する国庫負担の確保を適切な組み合わせで行っていく必要がある。

・前に述べた社会保険方式への税財源投入の理由に沿って考えると、ア・地域保険など財政力の弱い保険者が増えていること、イ・保険料の引き上げにより相対的に低所得で負担能力の低い者が増えていること、ウ・社会保険料の引き上げや被用者保険加入者の増による社会保障費全体に占める公費負担比率の低下や、税による再分配の程度(ジニ係数)の低下が見られ、税による負担賦課ベースの拡大が求められていることなどから、社会保険料の適切な引き上げが必要であることはもちろんであるが、同時に国庫負担割合の引き上げが求められている状況にある。

・社会保障負担における国庫負担割合としては、平成12年以来の与党3党合意で、2005年を目途に年金、介護、高齢者医療に必要な財源の概ね2分の1を公費負担とするとされるなど、2分の1がメルクマールになるとされている。こうした観点から、現在、基礎年金・高齢者医療・介護に要する費用の42.5%が税財源であり、平成12年年金改正法附則で約束されていることも踏まえると、当面、基礎年金に係る国庫負担の3分の1から2分の1への引上げが大きな課題である。なお、前に述べた社会保険方式への税財源投入の理由のア・イを踏まえ、全ての基礎年金給付に対し国庫負担割合を2分の1に引き上げるのではなく、低所得者等に重点的に投入する考えもあるとの意見があった。一方、この考え方に対しては、低所得者以外には国庫負担が行われずその分保険料が高くなり、またそれが年々変化するといった不安定な運営をもたらすといった意見もあった。

・国庫負担割合の引き上げなど増大する国庫負担の財源確保のためには、諸外国に比べ所得課税の比重の高い我が国の現在の税収構造を踏まえると、理解の得やすさや経済への中立性、所得税よりも広く比例税率で薄く課税することなどから、社会保障に投入する財源として、当面、消費税を引き上げることで増税に理解を求めることが適当であるという意見が多かった。

(2)社会保険制度の構造(保険者の分立等)

 現在は、職種・地域により加入する社会保険制度が異なり、制度間・保険者間で財政調整する仕組みになっているが、雇用構造の変化により地域(国民)保険制度である国民健康保険及び国民年金の財政構造が弱体化したことなどにより、分立した保険制度間の不公平感や、各制度の持続可能性への不安感が高まっている。このような問題に対応し、被用者保険制度と地域(国民)保険制度で成り立っている現在の社会保険制度の構造について、中長期的にそのあるべき姿を考えていく必要がある。

・現在は、職種・地域により加入する社会保険制度が異なっているが、保険者間の不公平感が高まる中で、公平性の確保と財政基盤の強化のために、保険者の統合再編ないし一元化を求める考え方がある。

・医療保険については、5200余の保険者に分立した状態にあり、これを一元化すべきだとする考え方がある。この中にも、制度と保険者をともに一元化(一本化)すべきとする考え方や、制度は一元化し保険者は分立させるという考え方があり、将来的な姿としてそうした考え方の整理が必要である。職域や地域の一定のまとまりを持った者で保険者を構成している現行制度にも、社会連帯の意識を共有できる範囲としての意味や、保険者自治や保険者機能を発揮する上での意義があることからすると、保険者は分立を前提とすべきである。この場合、保険者の自主努力を超える構造的要因(年齢構成の違いなど)に着目した制度間の財政調整が必要となる。

・年金については、大きく被用者保険としての厚生年金制度と、被用者以外が加入する国民年金制度に分立している。基礎年金制度による加入者数に応じた負担の公平化は行われているものの、厚生年金は所得比例、国民年金は定額と負担方法が異なり、財政的にも別立てになっている。年金制度の趣旨を従前所得保障ととらえれば、当然全体が所得比例負担であるべきであるということになる。この場合、自営業者と被用者の所得把握上の格差が問題になり、社会保障番号制度の導入等により所得把握の適正化が進められることが必要だが、給付も所得比例で行われる場合には、負担に応じた給付が行われるだけで問題がないとの考え方もある。

・なお、社会保険負担の応益的性格を徹底し、社会保険全体を定額負担にして一本化すべきという意見もあったが、定額負担である現在の国民年金制度においても、低所得者が負担できないことが問題になっており、定額負担には限界があるという意見が多かった。

2 能力に応じた公平な負担の賦課の在り方について

(1)負担能力の把握とバランスのとれた賦課

 現在、社会保険料は被用者は報酬のみに、それ以外は定額の要素を加味して(国民年金では定額のみで)賦課されているが、高齢化などにより社会保障負担が増大せざるを得ない中で、保険料引上げへの過重感、高齢者の資産に賦課されていないことや自営業者の所得が十分把握されていないこと(クロヨン問題)への不公平感が高まっている。負担能力を適切に把握し、その能力に応じた公平な負担の賦課をおこなうことで、社会保障負担について国民に理解を得られるようにしていく必要がある。この場合、社会保険負担と税負担とを合わせて考える必要がある。
 なお、ここでは、所得・消費・資産等のバランスのとれた公平な負担の賦課の方法について論じるものであって、負担の水準の問題は別に後で論じることとする。

(1) 資産

・資産への賦課については、所得・資産・消費に対しバランスのとれた賦課を行う観点から一層注目すべきである。とりわけ、金融資産の半分を保有している高齢者の資産には、世代間公平の観点からも、適切な方法で負担を賦課することを考える必要がある。この場合、社会保障番号制度など、金融資産の把握のための適切な方法を早急に講じることが必要である。

・資産への賦課の方法については、再分配は税の役割であることや、本来社会保険料は雇用に基づく賃金に着目して賦課するものであって資産に賦課するのは適当でないということを理由に、税の体系において行うべきだとする意見と、社会保険料の賦課ベースを広げる必要性や、被用者以外にも社会保険料が賦課されており賃金だけに着目する必要はないということを理由に、社会保険料の賦課標準として資産に着目してもよいのではないかという意見があった。

・社会保険料の賦課標準として資産に着目しているものとして、資産割の制度がある国民健康保険制度の例があり、これは市町村民の共同事業に対する会費(参加費)のようなものとして、資産の保有そのものに基づく負担を求めているものであると考えられる。国民年金等において、資産保有に対する賦課を求めていくことも考えられるが、年金制度の場合は給付にどのように反映するかという問題がある。

・一方、資産の保有そのものではなく、資産を起源とする所得(資産性所得)に賦課すべきだという意見もあった。こうしたものとしては、資産性所得を賦課ベースに加え社会保障目的税としたフランスの一般社会拠出金(所得型付加価値税)や、資産性所得をも社会保険料(自営業者保険)の賦課ベースにとり入れたドイツの例がある。

・社会保障制度における資産への着目としては、資産を担保とした貸付制度を充実するべきであるとの意見もあった。

(2) 消費

・所得・消費・資産に対しバランスのとれた賦課を行う観点からは、消費への賦課も一層重視されるべきである。報酬比例の社会保険料である被用者保険では報酬以外の負担能力にも着目するという点で、定額の要素が強い国民年金・地域保険では負担能力の差異に一層着目するという点で、消費への一層の賦課は賦課ベースの拡大に資することになる。

・また、高齢者の消費にも着目して負担を賦課することは、世代間公平の観点からも望ましいと考えられる。

・個人ごとの消費を把握して社会保険料を賦課する仕組みにすることは、現行の制度では難しいので、現在のところは、消費税制度を活用することが適当である。消費税の引上げを行って、これを社会保障財源に充てることは、社会保障負担の賦課ベースの拡大と世代間公平に資することになると考えられる。ただし、現行の消費税は比例税率であるため、税収全体における比重としては累進所得税とのバランスをとり、適切な再分配が行われる程度の拡充に留めておく必要があることには注意するべきである。また、益税問題など、現行の消費税の問題点の解決も図られるべきである。

・なお、現行の年金の物価スライド制度の下では、消費税を引き上げた分年金額も引き上げられるため、消費税引上げ分は高齢者が負担しなくなり、世代間公平に寄与しないことに注意する必要がある。こうしたことから、消費税の引上げにあたっては、年金の物価スライド制を見直し、消費税の引上げによる物価上昇分を物価スライドから控除するべきだとする意見があった。

・そのほか、リスクに応じた負担として、タバコ税の社会保障財源への活用を検討すべきであるとの意見もあった。

(3) 定額負担

・社会保険は給付のための拠出という応益的性格を有しているために、定額負担の要素を加味することが認められる。自営業者等について公平な所得把握が困難な中で、国民年金は定額の保険料負担、国民健康保険は課税標準の半分が世帯及び個人の平等割・均等割となっている。

・社会保障の受給者が増えるなど普遍的性格が強くなってきていることから、全ての人で支え合うという意味で、社会保障の受益のための会費(参加費)のような負担として、定額負担は今後もある程度認めることができる。

・ただし、国民皆保険制度の下では、定額負担の場合低所得者が負担できず、免除制度を設けたり、全体の負担及び給付の水準を引き下げたりしなければならないという問題があるため、社会保険料負担における定額負担の比重を高めることには制約があり、基本的な部分は、能力を適切に把握した上で、能力に応じた負担を課するべきである。こうした観点からは、現在の完全定額負担である国民年金制度には問題が多く、所得の把握を適切に行った上で、所得比例の要素を加味するべきである。

・また、定額負担は逆進性が強いことから、税による再分配と適切に組み合わせることが必要である。

(4) 相続

・相続と扶養は一定の交換関係にあることから、社会保障の充実で老親扶養の社会化が進んでいる分、相続課税の強化を図ることが適当である。

・また、現行の相続税は、相続を死亡時の支出であると見て課税する性格が強いため、消費課税の強化を行う場合は、現役時代の支出と死亡時の支出のバランスをとる観点から、相続課税の強化が必要である。

・年金を受給しながら長期入所した者などの死亡時に残した年金が問題にされることがあるが、これについて特別に税をかけて回収するようなことは適当でなく、入所などに係る自己負担の適正化とともに、相続課税を行うことで対応すべきである。

(2)各種控除等による家族等の負担能力の評価

 現在、高齢者や被扶養配偶者については、各種控除等により負担が軽減されているが、世代間公平や働く女性との公平の観点から、不公平感が高まっており、負担の適正化を求めるべきである。また、子どもを持つ親の負担を軽減する適切な方法を考えることが求められている。

(1) 高齢者

・高齢者の年金については、現在公的年金等控除の制度のため、実質的に課税されていないが、世代間公平の観点から税負担の適正化を図るべきである。具体的には、当面、公的年金等控除を給与所得控除程度の水準に引き下げるべきである。このことは、年金受給者の国民健康保険料負担を通して医療保険における世代間の公平化に、介護保険料負担を通して高齢世代内の負担の適正化にも資することになる。将来的には高齢者独自の控除を設けるべきであるとの意見もあった。

・公的年金等控除の見直しにより発生した財源は、世代間公平を進めるために行われたものであるから、高齢者年金給付や児童関連給付のための財源に用いるべきである。とくに、年金課税の適正化は、年金の給付水準を実質的に低下させることから、それとつりあう保険料水準の低下をもたらすよう、年金給付の国庫負担の財源に充てるべきであるとの考え方がある。

・なお、公的年金等控除の見直しは、世代間公平でなく総合課税原則の徹底という観点から行われるべきであって、見直しによる財源を特に年金のために用いる必要はないという意見もあった。

(2) 児童

・現在、子どもを持つ親の負担の軽減のために、税制や保険料など負担面での対応(扶養控除や保険料免除)と社会保障給付面での対応(児童手当等)がある。これら特別なニーズへの対応は給付の面で行い、負担面では所得以外への配慮を少なくし、なるたけ賦課ベースを広く考えることを基本とする考え方から、児童扶養控除よりも児童手当を重視すべきである。

・これまで、児童扶養控除を縮小して児童手当の拡充の財源に充てる方法がとられたことがあるが、このようなやり方は子どもを持つ家庭間の再配分にすぎない。別途財源を確保し、子どもを持つ家庭の負担の思いきった軽減策をとるべきである。また、年金、医療、介護等の高齢者扶養と同様、国民全体で次世代の育成を支援するという観点も必要であり、健康保険、雇用保険、児童福祉などで現在行われている各種児童関連の給付制度を総合的に見直し、所得階層にかかかわりなく普遍的な支援を行うべきであり、その有力な手段として社会保険の仕組みの活用の検討を開始すべきである。

・具体的には、地域特性に配慮しつつ保育等のサービス中心の支援を進める観点からすれば、介護保険と同様に市町村を保険者とする育児支援保険制度の創設が考えられ、また、次世代の育成が賦課方式を基本とする年金制度の安定的運営に密接にかかわるものであるという観点からすれば、年金制度の体系の中に、出産費や児童養育費を軽減する現金給付や奨学金の貸与等の次世代育成支援給付を創設することが考えられる、との意見があった。

・離婚した母子家庭の児童養育費については、社会保障制度による給付と並行して、離婚した配偶者の扶養義務の履行として養育費を支払う義務を明確化し、養育費取得のための実効ある仕組みの導入について検討すべきである。

(3) 被扶養配偶者

・パートタイムなど短時間労働者については、現在の社会保険制度では、労働時間が通常労働者の4分の3以下の場合被用者保険には加入せず、また、そのうち年収130万円以下の場合は被扶養配偶者として扱われ、地域保険・国民年金の保険料も支払わない。制度上の被扶養配偶者の多くが短時間労働を行って賃金を得ているため、被扶養者でない者との不公平感が高まっている。

・短時間労働者への被用者保険適用については、賃金は明確に把握できる負担能力であり、賃金のない人からも地域保険や国民年金で応能ないし応益の負担を求めていることからのバランスからも、適用拡大を図り、短時間労働かどうかの区別なく原則としてすべての賃金を対象として社会保険料負担を賦課するべきである。事業主への賦課方法は、労働保険で行っているように、総賃金を外形標準として事業主に賦課することも考えられる。

・短時間労働者への被用者保険適用拡大は、短時間労働者の権利保障と、雇用形態に中立的な社会保険制度の構築につながる。

・現在、被扶養配偶者が本人の社会保険料負担なしに給付を受けられ、とくに専業主婦の年金について、働く主婦とのバランスから不公平感が高まっている問題(いわゆる「第3号被保険者問題」)については、「女性と年金検討会」で論点整理が行われた。本研究会の問題意識との関係で言えば、現在の被扶養配偶者は扶養者の保険料で応能負担し、それに対応して給付されていると整理するのか、本人は負担していないが被用者全体で負担しているものとして制度設計上給付されていると整理するのか、が問題になる。また、被扶養配偶者に負担を求める場合は扶養者の所得に着目した応能負担か、扶養者の所得の一部を本人の所得とみなした応能負担か、本人の応益負担か、といった整理が問題になる。

・具体的には、当面、夫婦の所得を合算してその半分づつをそれぞれの所得として扱う、いわゆる所得分割方式をとることが基本的には適当である。ただし、夫婦ともに所得がある場合の事業主負担の取り扱いなどについては、一層検討が必要である。なお、所得税については、累進税率であり高所得者に有利に働くこと、自営業者は専従者給与、被用者は配偶者特別控除で対応されているので、2分2乗方式は適当でないとの意見があった。

・また、配偶者控除が縮小された場合には、バランス上、社会保険の被扶養配偶者認定基準である130万円ラインも引き下げられるべきであるという意見があった。

(3)低所得者の取扱い

 全国民の保険料負担を前提とした皆保険制度においては、低所得のため保険料負担が困難な者をどのようにカバーするかが問題になる。これまでは、保険料の減免や国庫負担の投入による保険料水準全体の引き下げにより、低所得者も社会保険制度でカバーし、皆保険制度を維持してきた。

・この点について、あくまで全員を社会保険でカバーし、所得に応じた負担を求めた上で最低保障に不足する分は税財源で補填する形を取るべきだという意見と、皆保険という建前が無理なのであって低所得者は税方式で対応すべきだという意見があった。

・いずれにせよ、低所得者に対しては税財源による何らかの給付を行わざるを得ないことは明らかである。現在の生活保護制度はスティグマが強い一方、高い給付水準になっており、制度の見直しが必要である。具体的には、就労能力がありつつ生活保護を受けていない層を念頭に、就労支援と結びついた新しい低所得者向け扶助制度も考える必要があるのではないか。

・現在の制度は、皆保険といいながら医療扶助や年金保険料免除者への年金給付など、低所得者については、税財源により給付を行う扱いとしている。みんなで支え合う皆保険制度を貫徹するのであれば、介護保険の第1号被保険者制度で行われているように、税財源により保険料を補足給付する形にすべきであるとの考え方がある。この場合、扶助制度にスティグマがないように設計することが不可欠である。

・現行制度においては、サービス利用の際の自己負担に低所得者減免を設ける仕組みがあるが、利用に対する負担という自己負担の性格を考えると、自己負担額の軽減よりも、保険料負担の軽減で配慮すべきである。この点については、保険事故が起こった一部の被保険者の負担が重くなることになり、適当でないとの意見があった。

・また、児童扶養等特別なニーズへの配慮は給付でおこなうこととし、保険料負担の軽減は所得のみに着目して行うことを基本とすべきである。

・低所得者への配慮は保険料負担の減免で行うべきであるから、保険料負担は基本的には所得比例の要素を入れるべきである。この場合、標準報酬の上下限も撤廃する必要があることになるが、上下限は年金において給付とのリンクを踏まえ過少・過大な給付にならないように設けられている面があるので、給付とのリンクをどう考えるかは課題である。

・現在、課税ベースを広げるために課税最低限を引き下げるべきではないかとする議論があるが、課税最低限の引き下げは一部の低所得者の負担増につながり、あらたな保険料負担の減免と社会保障給付の拡充の必要を生じさせるものであることに注意する必要がある。また、課税最低限の引き下げは税の現役世代間の所得再配分機能を著しく低下させることから、負担賦課ベースの拡大は、むしろ消費税の引上げで行うべきであるという考え方もある。

(4)事業主負担

・現在、被用者保険の社会保険料については、原則として労使折半となっており、健康保険組合においては平均的に事業主のほうが若干多く負担している。事業主負担の意味としては、賃金の支払いの一部、健康増進や疾病の治療による早期の職場復帰を通じての事業主の利益(医療保険の場合)、高齢者の退職促進や人材確保による事業主の利益(年金の場合)などの説明がされてきている。

・社会保険料の事業主負担については、価格に転嫁され消費者が実質的に負担しているという考え方や、賃金として受け取れない分労働者が実質的に負担しているという考え方、企業が実質的に負担しているという考え方があるが、このような最終的な帰着の問題とは別に、規範的な責任の意味で誰が社会保障負担を負うべきかという問題がある。

・そのように考えると、事業主も社会保障制度の利益を有するという意味で保険料負担の責任があり、消費目的税でこれを肩代わりさせることは、事業主の責任から見て認められないことになる。また、一部について事業主の責任を重く認め、例えば、ヨーロッパ諸国の例にあるように、低賃金労働者等について労使の負担の比重を変え、事業主負担を折半より高くする可能性などが検討されてよい。ただし、事業主が事業主負担も労働コストと認識して雇用を決めていると、事業主負担を高くした分だけ賃金が低下して、低賃金労働者の負担軽減にはならないという意見もあった。

・なお、法人の外形標準課税の議論があるが、社会保険料の事業主負担は、賃金を外形標準とするものとして外形標準課税をすでに実現しているということもできる。

(5)その他公平な負担のために

(1) 徴収

・きちんと社会保険料の徴収が行われていないとの不満がある。公平で納得のいく負担のためには、単に社会保障の制度体系だけでなく、負担の徴収の実務も公平で効率的に運営されなければならない。法に定められた滞納処分を行うなど国民年金の未納・未加入対策の一層の推進とともに、社会保険と労働保険との徴収一元化等の推進により、一層の効率化を図るべきである。

・なお、社会保険料徴収の効率性は税と比べてさほど遜色はなく(国民年金の第一号被保険者でも収納率は70%台半ばで所得税の普通徴収とほぼ同じ)、拠出と給付に明確な関係がある社会保険料の徴収は税よりも理解を得やすいことから、社会保険と税の徴収を一元化すれば徴収率が高まるとは必ずしも言えないことに注意する必要がある。

(2) 情報提供

・国民が公平さを納得しながら負担をするためには、個人に対し社会保障の給付と負担に関する情報がわかりやすく提供されていることが必要である。社会保険事務所等において年金について個人が負担した額と給付されるべき額に関する情報を提供することを推進するとともに、社会保障番号を活用していつでも照会に応じて情報が得られるようなネットワークを構築するべきである。社会保険庁などから、定期的に加入記録と予想される将来年金額等を通知する仕組みを導入することが望ましいという意見もあった。

・なお、医療・介護はリスクに共同で対応する仕組みであり、負担と給付に関する個人単位の会計収支を情報提供することは、適当でない。したがって、年金・医療・介護等を合わせた社会保障に関する全ての負担と給付に関する個人単位の会計収支を情報提供することは、不適当である。社会保障に対する理解を得られるように、社会保障制度が想定する負担と給付を、生涯を通じた標準的な形で情報提供することが基本であろう。

・社会保障は制度に対する貢献に応じて給付されるものであるという観点から、保険料の拠出のみならず制度に対する参加を進めることも重要である。被保険者からの発言など制度に対する参加の方法を明確にすることが必要である。このことは、制度に対する理解を深めることにつながるものと期待される。社会保障政策に関する政治的意思決定の有り方も問題になろう。

(3) 社会保障番号

・国民が社会保障の給付と負担に関する情報を知ったり、権利と義務を確認したりするとともに、金融資産や自営業者の取引を把握し、負担能力に応じた公平な負担を求めるためには、プライバシーの問題に配慮しつつ、医療・年金・福祉など制度横断的に利用できる社会保障番号制度を導入し、活用することが必要である。

・社会保障番号制度の導入にあたっては、国民の負担増やプライバシー把握のためではなく、社会保障を受ける権利の保障と行政効率の向上による社会保障負担減のためのものであることにつき、国民の理解を得ながら進めていくことが必要である。また、現在、基礎年金番号、住民基本台帳番号、納税者番号等さまざまな番号制度が施行・検討されているが、国民の負担軽減と行政効率の点から、社会保障番号が導入された場合には、多目的に活用されるようになることが望ましい。

3 社会保障負担の水準等について

 本研究会では、負担の賦課の在り方を主たる検討テーマにしたが、負担の水準についても若干の検討を行った。

(1)現役世代の負担水準

(1) 負担の上限

・現役世代の負担の上限については、いわゆる国民負担率を高齢化のピーク時においても50%以下に抑えるという目標があり、経済と社会保障の調和を図り、公私の活動の適切な均衡を図る上での目安となりうるものとされているが、国民負担率という指標に関しては、経済成長率との関係がない、家計における負担と誤解される、国民所得を分母とすることの問題、税負担の将来推計が困難であることなど、さまざまな批判もあり、負担の上限については一層の議論が必要である。

・社会保障の負担水準については、社会保障の負担が給付に対する拠出という応益的性格を持っていることから、基本的には、あるべき給付を考え、それを賄うに足りる分という観点から考えるべきである。そのために、質・水準及び効率の面で国民が満足できる給付を行うようにしなければならない。ただし、各分野の負担を合計した全体での負担水準については、国民所得や家計所得のどの程度を再配分にあてるかの国民の選択の問題であるため、給付全体とのバランスを考えて、国民が納得して負担を甘受できるような説明が必要である。

・国民負担率に代わる負担の上限の目安となる指標が求められ、いろいろな議論があるが、社会保障負担全体での水準(合計)を考える場合、医療と年金では給付の内容も異なり、給付と負担のつながりも短期保険と長期保険では異なることに注意する必要があり、あらたな目安を設けることには困難が多い。

・国民経済に占める比重ではなく、より国民の負担感を切実に表すものとして、家計における負担に着目できないかという観点から、税・社会保険料が家計に占める負担が現在の15%程度から2025年には20%以上になるものと推計したり、これらの負担が増えても労働生産性が上昇しグロス賃金が実質ベースで伸びていけば可処分所得が増加するため、可処分所得の伸びとの関係で負担の上限を論じる考え方もあるが、一層の議論が必要である。

(2) 世代間の公平

・今後、高齢化に伴い社会保障費用が増加するが、現役世代の負担が過大になりすぎないよう、また高齢世代と現役世代の公平を図るためにも、負担能力のある高齢者に一層の負担を求める必要がある。消費課税や資産課税の活用によるほか、保険料や利用時自己負担額の水準や、高齢者に対する給付の水準の在り方を検討すべきである。ただし、高齢者の負担増を消費税により行うと、現在の年金物価スライド制の下では効果が相殺されてしまうことに注意する必要があり、物価スライドのあり方も考える必要がある。

・世代間公平を考える場合には、現在の高齢世代と現役世代のバランスのみでなく、世代コーホート間の生涯を通じたバランス(世代会計)を考える必要があるという考え方がある。しかし、この考え方においては、社会保障制度の中でのバランスのみを論じ、社会保障が未成熟な時代の私的な扶養負担を考慮していないなどの問題がある場合がある。なお、世代会計の考え方によれば、将来の高齢世代である現在の現役世代、とくに団塊の世代の負担を求め、保険料引上げペースの前倒しや、所得税増税による国債の早期償還を求めることになる。いずれにせよ、どの世代も、私的にあるいはその時代の制度の下で親世代の扶養負担を行ってきており、これからもそれが繰り返されるはずである。少子高齢化が進行すれば、どのような仕組みの下でも一人当たりの負担は高まるものであり、単純な不公平論では論じられない。

・今後の少子高齢化の進行を予想した上で、中長期的視野で世代間でどのように負担を分かち合うかという観点から、将来の保険料の引き上げ方法について一層の議論が行われるべきである。この問題は年金においては積立方式と賦課方式の問題につながるが、長期的な観点で負担設計がされている年金制度では、過去に負担に対応しないまま給付された部分の処理をどうするかという問題(過去債務の問題)や、予想を越えて将来少子高齢化が進んだ場合に、どのように約束された給付を調整して対応するかといった問題がある。

(2)分野間のバランス

 社会保障負担の合計が過重なものにならないためには、各分野間の相互調整を行い、バランスのとれたものにしていく必要がある。

(1) 年金・医療・福祉間のバランス

・現在、年金・医療・福祉等の分野別に見ると、年金の比重が高いのが日本の社会保障の特徴になっている。平成6年の「21世紀福祉ビジョン」では介護や子育て支援等福祉の水準を思い切って引き上げ、5:4:1から5:3:2にするべきだとし、その後、福祉の比重は高くなってきたが、今後は、負担の限界を考え、分野間の優先関係を一層考えていく必要がある。

・分野間の優先関係を論じる場合、「社会保障は年金を基本にし、自立できる生活基盤を確保した上で、高まる医療や介護の保険料や利用時自己負担は年金で賄う」という考え方と、「あらかじめ準備がしにくいリスクであり、個人が自立した生活を営む前提条件である医療や介護への対応を優先し、あらかじめ準備しやすい年金は基礎的なものに抑える」という考え方がある。我が国では前者を基本にこれまで対応してきているが、自己負担水準や、社会保障に係る国庫負担の投入順位の決定に関わる問題であり、基本的な考え方について広範に議論を行っていくことが必要である。

・分野間の関係を論じる際には、給付の重複についても調整すべきである。こうした観点から、年金を受給しながら長期入所などをしている者の入所費用等については、自己負担を一層求めるべきであり、居住・食事のコスト(いわゆるホテルコスト)などは自己負担として年金で賄い、医療・介護ケアのコストを公的に給付するように整理していくことが望ましい。

・このほか、労災と年金など、所得保障制度間の調整も図っていく必要があるのではないか、という意見があった。

(2) 高齢者関係と児童関係のバランス

・これまでの社会保障は高齢者関係の比重が高かったが、許される負担の水準が限られていることから、子育て家庭の負担軽減や次世代育成の観点から児童・子育て支援関係に比重を移していく必要がある。こうした観点から、高齢者が経済的弱者であることを前提とした年金や医療・介護の高い給付水準や給付率を見直し、子育て支援関連サービスなどの給付を手厚くしていく方向で考えるべきである。具体的には、サービスに関する育児支援保険や年金制度体系における次世代育成支援給付の創設など、社会保険の仕組みを活用すべきだという考え方がある。

(3) 公的社会保障でカバーすべき部分と個人で対応すべき部分のバランス

・負担を過重にしないためには、公的社会保障でカバーすべき部分と個人で対応すべき部分はどうあるべきかを考えた上で、公的社会保障の守備範囲を見直すべきである。ただし、公的保障の守備範囲はどうあるべきかは、基本的には各分野ごとの給付の在り方として決定されるものであり、制度横断的検討にはなじみにくい問題である。

4 今後検討すべき論点

(1)今後の検討に向けて

(1) 中長期的課題と当面の課題

・本研究会でとりあげたテーマのうち、負担能力の把握や各種控除の問題については、期限を切って取り組めるものからすぐにでも取り組んでいくべきである。一方、社会保険と税の役割分担を含む社会保険制度の構造の問題については、現行制度の設計の大幅な見直しにもつながり、社会的経済的影響も大きいため、10年程度を見てじっくりと構造的な改革を検討していくべきである。

(2) 制度設計と試算

・これまでの社会保障改革は、医療・年金・介護といった個別の分野での縦割りの検討が多かったが、制度横断的な検討が不可欠である。今後年金など各制度における制度設計の議論が期待されるが、社会保障制度全体の検討と並行し、相互に参照しつつ検討が行われるべきである。

・この場合、財政的影響等に関する試算は不可欠なので、国立社会保障・人口問題研究所において、給付設計も交えた制度改正モデルに基づく財政試算や経済に対する影響のシュミレーションを行い、制度設計の参考に供することが期待される。

(2)残された課題

 本研究会では、社会保障の負担という観点からの検討を行ったが、時間等の関係からなお検討し切れなかったものがあった。また、社会保障の制度横断的検討の観点から今後検討すべき問題については以下のものがある。

(1) 支え手を増やす

・負担の問題を考える場合には、社会保障負担の担い手を確保することが最も抜本的な方策である。また、負担の担い手になれるよう必要な支援を行うことこそが社会保障の本来の役割でもある。こうした観点から、まだ十分能力が活用されているとは言えない高齢者や女性の就労の促進や、安心して健やかに子どもを産み育てることができる環境づくり等少子化対策の推進、社会的に援護を要する人々の自立支援策(ソーシャル・インクルージョン)、障害者の社会参加、能力開発や教育などすぐれた支え手の育成、健康寿命の延伸などについて、社会保障の在り方の一環として検討すべきである。

(2) 給付の在り方

・本研究会では、各制度毎に内容の異なる給付と比較すれば、制度横断的な検討になじみやすい、負担からのアプローチを行ったが、本来、社会保障負担の問題は、給付の在り方とセットでなければ十分な検討ができないことはもちろんである。その意味で、各制度毎の給付の在り方の検討に踏み込まなかった本研究会の検討には限界がある。特に、国民経済や家計における負担の上限の問題など、負担の水準の問題については、給付の在り方と同時に検討が必要であり、十分な議論ができなかった。今後、各制度毎の給付の在り方と合わせた検討が必要である。

(3) 労働保険や生活保護との関係

・本研究会では、社会保障負担について医療・年金・介護の各社会保険を中心に議論したが、制度の整合性や総合的な負担水準を考えるためには、労働保険も含めて検討する必要がある。また、社会保険と税の役割分担の観点からも、生活保護制度の在り方についての検討を進める必要がある。

(4) 年金財政の問題

・少子高齢化の進行する中で世代間の負担の在り方を検討する場合、その規模と長期性から年金財政の問題がもっとも大きい。特に、次期年金制度改正に向けての議論の中で、積立方式と賦課方式のバランスを含む保険料の引き上げ方法の問題や、過去債務の問題などについて、基本的な方向の整理を行っていくことが期待される。


「社会保障負担等の在り方に関する研究会」メンバー

(世話人)神野直彦東京大学経済学部教授
(世話人)山崎泰彦上智大学文学部教授
跡田直澄慶應義塾大学商学部教授
岩本康志一橋大学大学院経済学研究科教授
大沢真知子日本女子大学人間社会学部教授
小西秀樹学習院大学経済学部教授
駒村康平東洋大学経済学部助教授
菊池馨実早稲田大学法学部教授
長沼建一郎日本福祉大学社会福祉学部助教授
宮武剛埼玉県立大学保健医療福祉学部教授


トップへ
戻る