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パート労働の課題と対応の方向性
(パートタイム労働研究会の最終報告)

平成14年7月


はじめに

 わが国のパートタイム労働者は平成13年に1,200万人を超えた。
 かつてのように男性が若年、壮年期に集中的に働いて産業社会や家計を支えた時代から、女性や高齢者も含め、幅広い社会構成員がライフステージに応じてゆとりを持って働き、社会や家計を支える時代に変化しつつある。短時間就労などの多様で柔軟な働き方の広がりはこうした大きな流れを背景に進行している。
 ただ、こうした動きが進行している背景として、企業の経営環境の厳しさによる影響も否定できない。厳しいコスト削減要請の下で企業は正社員から非正社員へのシフトを強めており、これにより、正社員雇用への入り口が狭まり、若年者雇用問題にも影響を及ぼしていることも事実である。
 今後、多様な働き方が広がっていくにしても、それが労働市場全体の著しい不均衡や処遇条件の低下をもたらすことのないように、あくまでも「望ましい」形で広がっていくことが重要である。それは一人一人の働き手の幸せはもちろん、しっかりとした人材育成による足腰の強い社会を目指す上でも、また少子高齢社会における社会の支え手を確保していく上でも、さらには子供を産み育てる不安を除去し、少子化そのものに歯止めをかけるためにも重要なことである。
 それでは、多様な働き方が「望ましい」形で広がっていくために何が重要か。現状の問題を踏まえると、特に「正社員かパートかに関わらず、『働きに応じた公正な処遇』を社会的に確立していくこと」が重要である。

 この報告書では、このような問題意識の下、正社員とパートとの処遇問題を中心に、どのようなルールが目指されるべきか、その実現のために何をしなければならないのか、などについて、パートのみならず正社員も含めたできるだけ総合的な視点から整理を行った。

 中間とりまとめ以降、我々は労使を始め、各方面から中間とりまとめに対する率直なご意見をうかがってきたが、特に労使の間で、この問題に対する意見に大きな隔たりがあることを痛感した。重要なことは、行政はもちろん、労使を含めた国民各層に「このまま放置しておくわけにはいかない」という共通認識が生まれることであり、それをてこにしながら、この問題への対処について合意形成の道を切り開いていくべきである。

 この報告書がきっかけとなって、活発な議論が行われ、国民各層の共通認識や合意形成の促進となることを期待したい。



目次
I パート労働の現状と問題点

1 パート労働者等の増加とその背景

 1)増加の実態

 2)増加の背景

(1) 需要側の要因
(イ)コスト要因
(ロ)業務変化要因
(2) 供給側の要因
2 環境の変化(柔軟で多様な働き方へのニーズの高まり)

3 問題点と課題

 1)パートの基幹的役割の増大

 2)処遇の実態

(1) 賃金格差の実態
(2) 契約期間
(3) 組合組織率
(4) 背景となる構造と問題点(内部労働市場と外部労働市場)
 3)今後の課題

II 雇用システムの変化と方向

1 正社員も含めた雇用システムの多元化

2 さまざまな働き方を納得して選択できる「働きに応じた処遇」の確立

3 ライフステージに応じて多様な働き方の間を行き来できる連続的な仕組みの構築

4 新たな雇用システムがもたらす労使双方、社会全体へのメリット

 1)企業側にとってのメリット

(1) 優秀な人材の確保・定着
(2) 処遇制度全体の見直しやモラール向上によるコストの吸収
 2)働く側にとってのメリット
(1) 多様な働き方へのニーズに応えられるシステム
(2) 連続的な仕組みの中での経済的自立の可能性
 3)社会全体としてのメリット
(1) より多くの層の就業可能性の向上と経済的自立
(2) 雇用のミスマッチの改善
(3) 少子化抑制の効果

III 政策の方向性

1 基本的考え方

2 具体的な方向性

 1)政労使による包括的合意形成の推進

 2)多元化した雇用システムの下での雇用の安定性の確保

 3)パートの均衡処遇に向けたルールの確立

(1) 基本的考え方
(イ)ヨーロッパの経験
(ロ)わが国企業の処遇システムの特性
(ハ)日本型の均衡処遇ルールの確立
(ニ)法制のタイプについて
(2) 具体的対応
(イ) 均衡処遇ルールの実現に向けた道筋のあり方
(ロ)ガイドラインによる「均衡処遇」の具体的内容の明確化
(ハ)事後的救済のための円滑なルートの整備
(ニ) 「働きに応じた処遇」が広がっていくための評価・処遇手法の開発や実証の取組の推進
 4)多様な働き方を行き来できる連続的な仕組みの促進

 5)働き方に中立的な税・社会保険制度の構築

まとめ

別添 短時間労働者の均衡処遇に関するガイドライン案


I パート労働の現状と問題点

 短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律(平成5年法律第76号)(以下「パート労働法」)にいうパートタイム労働者とは、「1週間の所定労働時間が同一の事業所に雇用される通常の労働者の1週間の所定労働時間に比べて短い労働者」となっており、以下においても基本的にはこの概念をもってパート労働者と呼ぶ。ただ、もう一つ統計的な概念として、「勤め先の呼称がパートである者」というとらえ方がある。これらの中には短時間労働者でない者も相当数含まれている。一般的に「パート」という概念が短時間労働者という意味だけでなく、「正社員でない者」という意味で用いられている実態があることを示している。パート労働問題を考える上で、この現実も無視することはできないので、以下ではこうしたとらえ方についても視野に入れて検討することとする。
 ここで、「短時間労働者(ここでは週35時間未満雇用者)」と「勤め先の呼称がパートである者」の関係を整理すると、数的にはどちらも1,100万人前後であるが、前者のうち2割は正社員や派遣等、後者のうち3割は35時間以上であり、800万人弱は両者が重なっている部分となっている(図表1)。

 なお、本文でもみるようにいわゆる「正社員」と「非正社員」が同種の仕事につくことが増え、「正社員」と「非正社員」の区分が曖昧になってきている中で、また、パート等の働き方がすでに重要な役割を担っている中で、「非正社員」という社内の身分差を印象づけるような言葉を使うことは本来適切でないと考えられる。しかし、まだ多くの企業で実際に使われている現実があり、また、その意識の原因に迫ることが本問題を考える上で非常に重要であることから、以下ではあえて「正社員」と「非正社員」という呼称を使用することとする。

1 パート労働者等の増加とその背景

1) 増加の実態

 総務省「労働力調査」によれば、平成13年の週35時間未満非農林雇用者は1,205万人(うち女性829万人)で、非農林雇用者中に占める割合も2割(女性では39.3%)に達し、20年前の昭和55年の約1割(390万人)から大きく上昇している(図表2)。また、「呼称パート」は1,129万人で非正社員の8割強を占めているが、景気後退期における正社員と非正社員の増減のパターンをみると、従来は景気後退期でも正社員の増加は続いており、非正社員の増加が抑えられるという形で調整がなされてきたが、今回ははじめて正社員が大幅に減少する一方で、非正社員は大幅に増加しており、明らかにパターンに変化がみられる(図表3)。なお、呼称パートには、短時間労働者でない者も含まれているが、ここ数年、週40時間以上の長時間労働者が大幅に増えている(図表4)。

 産業別にみると、「卸売・小売業、飲食店」(386万人)、「サービス業」(397万人)、「製造業」(200万人)の3業種に8割以上が集中している(図表5)。最近の変化を各業種におけるパート比率でみると、特に卸売・小売業、飲食店で上昇が著しい(図表6)。既存の業態におけるパート比率の引上げに加え、外食産業やコンビニエンスストアなどパート・アルバイトを多用する新しい業態の登場・成長も反映していると考えられる。

 企業規模別にみると、約4割が1〜29人規模で働いているが、ついで多いのは500人以上規模で約2割となっている(図表5)。最近の変化を各規模に占めるパート比率の推移でみると、特に1,000人以上の大企業で上昇が著しく、11年前は7%弱だったパート比率が約3倍の2割弱にまで上昇している(図表7)。

 職業別にみると、サービス、販売、事務で7割弱を占めているが(図表5)、最近の変化を各職業におけるパート比率でみると、特に労務作業、サービス職業などでの上昇が著しい(図表8)。

2) 増加の背景

(1) 需要側の要因
 企業がパートを雇用する理由には、主に「人件費の節約のため」、「景気変動に応じて雇用量を調節するため」などコスト要因に基づくもの、「1日、週の中の仕事の繁閑に対応するため」、「長い営業(操業)時間に対応するため」など業務内容の特性や変化に基づくものが考えられるが、最近の状況をみるとコスト要因によりパートを雇用する企業が増えている(図表9)。
(イ)コスト要因
 1)でみたように正社員と非正社員の増減パターンに変化がみられるが、これは国際競争激化の下でのコスト削減の必要性、経済の先行きに対する不透明感やデフレの進行などの下で、できるだけ賃金コストが安く、雇用調整も容易な労働者のウェイトを拡大したいという企業側のニーズがかつてなく強まっていることが、パート労働者等非正社員の増加に結びついていると考えられる。
 さらに電機業界などでは、パートも含めた「直傭形態」ではなく、いわゆる「構内下請け」の活用を広げることにより、人件費コストの柔軟化を進める動きもみられる。パートのみならず、直傭でないさまざまな形態にまで雇用形態が広がっていることも認識しておく必要がある。
(ロ) 業務変化要因
 一方、サービス経済化の進展も、繁閑業務の拡大とともに、繁忙期だけの対応をするパート労働者の需要拡大の大きな要因となっている。特に、流通業や外食産業などではパートが重要な戦力となっている。近年、流通業などでは営業時間の延長に対応してシフト制を組むためにパート化が一層進んでいる面があり、短時間でも店長やマネージャー等責任のある仕事を担える人材も必要になってきており、こうしたパート比率の高い業種では、パートの基幹化も進んでいる。
 また、近年急速に進んでいるIT化は基幹的業務と定型的業務の二極分化をもたらす面があり、定型的業務については、正社員から非正社員パートにシフトする動きもみられる(図表10)。
(2) 供給側の要因
 短時間パートに現在の就業形態を選択した理由を聞くと、「自分の都合のよい時間に働けるから」、「家計の補助、学費等を得るため」、「勤務時間や労働日数が短いから」、「家庭生活や他の活動と両立しやすいから」など、時間的な自由度を積極的に評価する者が多く、「正社員として働ける会社がなかったから」という者は割合としては1割弱となっている(図表11)。
 パートの7割強は女性である。ここ10年でみても女性パートは280万人増加しており、これはパート全体の増加の3分の2を占める。
 日本労働研究機構の「高学歴女性と仕事に関するアンケート」により、女性が理想とする就業パターンをみると、「子供ができたら職業をやめ大きくなったら再び職業を持つ方がよい」(再就職型)が依然として継続就業型より多いが、子育て後の入職の場合、その多くはパート入職であり、例えば女性の30歳代の未就業からの入職の7割強がパート入職となっている。ライフスタイルに合わせ、家庭生活との両立が可能な短時間就業を選んでいる姿が窺われる。ただ、30歳代の再就職を希望する高学歴女性に希望就業形態を聞くと、当面はパート就業が多いが、長期的にはパートとして経験を積んだ後や子供の進学後に正社員に移行したいと考える層が多い(図表12)。ライフステージに応じて柔軟に働き方を変えたいと望んでいることがわかる。

 最近の年齢別パート比率の変化をみると、男女とも若年層において上昇が著しい(図表13)。また、新規学卒でも女性の20%、男性の16.3%はパートで入職しており、その割合はここ数年で大幅に上昇している(図表14)。いわゆる「フリーター」の増加現象であるが、これには若年者の意識変化もさることながら、近年、正社員としての就職機会が大きく制約されていることも影響していると考えられる。

 60歳以上の高齢層は特にパート比率が高い(図表13)。11年前に比べ高齢者パートは男性が63万人、女性が43万人増加している。60歳時点の平均余命が20年となっていることから、高齢期になっても無理のない範囲でこれまでの経験を生かして働きたいと考える層も増えてきている。

2 環境の変化(柔軟で多様な働き方へのニーズの高まり)

 1でみたように、パート労働者の増加は需要供給両面のニーズによってもたらされているものであるが、ここでパートも含めた労働者の働き方に対して、今後も含めてどのような環境変化要因が働いているのか、整理してみよう。

 需要面では、サービス経済化の一層の進展の下で業務の繁閑への柔軟な対応が求められている。最近はこれに加えて厳しい国際経済環境の下でコスト削減要請が強まっており、雇用コストの効率化、雇用の柔軟性を確保することが、企業経営上、重要な課題となっている。今後の企業の雇用への考え方を聞いてみても、正社員は減らし、パート等の非正社員を増やしていくとする企業が多い。
 さらに、今後は、少子化により若年者の確保が難しくなる。本年1月に発表された「将来人口推計」(国立社会保障・人口問題研究所)によれば、わが国の少子・高齢化は今後さらに加速する見込みであり、短時間の働き方を希望する層の多い女性や高齢者などを企業の中で有効に活用しうる柔軟なシステムを作っていく必要性が一層高まると考えられる。

 一方、供給面では、それぞれのライフステージの中で、短時間での働き方を選択する層が増加している。
 一つは高学歴化の進んでいる女性である。結婚出産等で退職した層の多くはその後も就業希望を持っており、そのうちかなりの者が、自らの専門知識や経験を生かせ、自己実現の可能な仕事を求めている(図表15)。また、子育て後の当分の間はパート就業希望が多いが、経験を積んだ後や子供の進学後には正社員に移行したいと考えるなどライフステージに応じた働き方を求めている。
 もう一つは高齢者である。平均余命も伸びており、彼らは第一線を退いた後も、短時間で無理なく、しかしこれまで培った経験、能力を生かせる仕事をしたいと考えている(図表16)。
 こうした供給側の短時間での働き方へのニーズは今後の少子化の下で、上記のような企業側のニーズともあいまって実現されていく可能性がある。
 さらに、フルタイムで働く層の中にも、仕事一辺倒ではない生き方を志向する層が若年層を中心に広がりつつある。
 一つの方向性として、主に男性が若年、壮年の時期に集中的に働くことで産業社会や家計を支えた時代から、女性や高齢者も含め、幅広い社会構成員がそれぞれのライフスタイルにあわせてゆとりをもって働くことで、社会や家計を支える時代に大きく変化しつつあるということであろう。こうした変化の中で、供給側においても、そのライフステージに応じた多様で柔軟な働き方が選択できることが大きな課題になっていると考えられる。

 このようなことから、「働き方についての柔軟性、多様性を確保していくこと」が、企業にとっても、個人にとっても今後の基本コンセプトになるといえよう。
 こうした中で、パート等の働き方も正社員の単なるバッファーとしてではなく、確固とした働き方として確立されつつある。

3 問題点と課題

 しかし、柔軟で多様な働き方はそれなりの雇用の安定性や処遇が確保されていなければ、それを本当に選びとれる形では広がっていかない。そのような条件は整っているだろうか。

1) パートの基幹的役割の増大

 1でみたようなパートのウェイトの増大に伴って、従来正社員が行っていた役割の一部をパートが担うということが起きてきている。
 「自分と同じ仕事をしているパート等の非正社員がいるかどうか」を正社員に聞くと、「多数いる」とする者は1割強、「少しいる」が3割を占めており、さらに3年前に比べてそれが「増えている」事業所が「減っている」事業所を大幅に上回っている(図表17)。責任の重さ等役割の違いはあるにしても、従来正社員がやってきた仕事にパート等が組み込まれ、基幹的な役割を持つ層が増大していることが類推される。
 特に、パートを多く活用している業種では基幹的役割をしているパートが多い。東京都の外食産業に関する調査によると、他のパート従業員の勤務スケジュールを調整したり、新人に対して業務内容を教えるトレーナー役をしているいわゆるリーダーパートが4割弱を占めており、そのうち2割弱は店全体の時間帯責任者か店長に就いている(図表18)。またこうした企業では、今後の方向性としても、パートに対して、サービス・顧客対応全般の統括などの重要な役割を果たすことを期待している(図表19)。
 「パートは補助的仕事」という従来の認識は、必ずしもあてはまらなくなってきている。

2) 処遇の実態

 このようなパートの基幹的な役割の増大の下で、パートの処遇の実態はどうなっているか。

(1) 賃金格差の実態
 パートの所定内給与を時間換算で正社員と比較すると男性で5割強、女性で7割弱の水準であり、その格差の推移をみると拡大傾向がみられる(図表20)。また、欧米諸国と比較するとわが国は、アメリカ、イギリスと並んで格差が大きい(図表21)。
 こうした格差拡大にはいくつかの要因が考えられる。
 第一は職種構成の変化である。職種別にみるとパートは販売店員(百貨店店員を除く)、スーパー店チェッカーなど賃金水準の低い職種でそのウェイトを増しており、これが全体の賃金格差拡大に影響していると考えられる。そこでパートの職種構成を正社員にそろえ、いわば同じ職種における正社員との賃金格差を女性について推計すると、正社員の約8割の水準となり、職種構成の違いを加味しない場合に比べて10%以上格差は縮小する(図表22)。

 第二は就業調整の影響である。パートの中には、本人の収入が一定額を超えると所得税や社会保険料がかかる、配偶者が得ていた配偶者手当がもらえなくなる等の理由から、収入が一定額を超えないよう就業調整を行う層が約4割程度存在する。こうした就業調整行動は基本的には労働時間の調整によって行われるが、時間当り賃金の伸びも就業調整パートは非就業調整パートより低くなっており、少し古いが、平成7年でみて、パート全体の賃金が就業調整要因により9%押し下げられているとの分析もある(参考1)。これを元に就業調整の影響がなかった場合のパートの正社員との賃金格差を推計すると平成2年から7年にかけて、賃金格差はむしろ縮小している。
 第三は時短の影響である。正社員の場合、月給制が多いため、月給一定の下で時短を実施した場合、時給換算した賃金は上昇するため、自動的に時給制の多いパートとの賃金格差が拡大する。平成元年以降の時短による正社員の時給上昇効果により、女性の正社員とパートの賃金格差は5%程度拡大していると推計される(図表23)。
 以上、賃金格差の拡大については、上記のようないくつかの要因が絡み合っていると考えられる。
 さらに、賃金(所定内給与)以外の労働条件についても、賞与・退職金制度の適用を受ける正社員は9割を超えるのに対してパートはそれぞれ4割強、1割弱等、正社員とパートの状況には大きな差がある(図表24)。

(2) 契約期間
 欧米諸国の状況と比べると、我が国においては契約形式でみたいわゆる常用パートタイム労働者(臨時や有期労働でないパート)の割合が少ないのが特徴である。オランダ、フランスの女性では常用パートがそれぞれ8割強、8割弱と多数派であるのに対し、日本の女性では4割にすぎない。このような差異は、我が国においては、これらの国に比べ、有期労働契約に対する規制が少ないため、有期労働契約の下で更新を繰り返し、実質的に長期にわたって雇用することが可能であることも理由の1つであると考えられる。

(3) 組合組織率
 パートの労働組合への組織率は3%弱と労働者全体の組織率(2割弱)を大きく下回っている。労使交渉は処遇決定の重要なプロセスであるが、そこにパートの声が十分反映されていないことが正社員とパートの処遇格差を大きくしている側面もあると考えられる。

(4) 背景となる構造と問題点(内部労働市場と外部労働市場)
 こうした処遇格差の背景には、正社員とパートが属する労働市場の違いが大きく横たわっている。
 図表25は正社員とパートの勤続年数別の賃金の動きである。二つを比べると、採用時の賃金差もさることながら、勤続を重ねた時の賃金の上がり方の違いが顕著であるが、これには次のような構造が背景にあると考えられる。
 いわゆる内部労働市場に属するフルタイム正社員の賃金体系は、一般的に長期的視点に立ったキャリア形成を前提としており、能力向上に応じて賃金が上がる仕組みとなっている。そこには家計の支え手を想定した生計費的な要素もある程度内包されている。
 一方、パートの賃金は、一般的に補助的で代替可能な仕事を想定しているため、採用賃金も地域の相場に応じたいわゆる市場賃金の色彩が強く、また、職務で賃金が決まることが多いため、その後勤続を重ねても傾向として賃金がフラットな仕組みとなっている。この仕組みは家計の支え手を想定していないため生計費的な要素も基本的には内包されていない。

 これらのシステムはパートの役割が補完的なものに留まっていた時代には、企業に属する人々に一定の理解を得てきた。企業は正社員の高いモラールによって活力と発展を、正社員は高い処遇と雇用保障によって生活の安定を、パートは都合のいい時間帯に税・社会保険のかからない範囲で配偶者の安定した所得に少し補てんしうる収入を、それぞれ得てきた。

 しかし、こうした基本的な構造による問題点が表面化しつつある。

 第一に、上記のような構造は、パートが補助的仕事に留まっているうちは、ある種の安定性を持っていたが、パートがそれなりにスキル、経験を蓄積し、基幹的な役割を担う働き方をするようになると、正社員とパートの間の処遇格差の存在は、当然コスト削減が求められている企業にとって、正社員を極力絞りパート等非正社員で対応するという動きを強めることとなる。前述のように新規学卒でもパートで入職する割合が増えているが、この傾向は大都市圏の高卒者で顕著であり、特に男子では非正社員での入職が、89〜92年卒では2割弱だったものが97〜00年卒では5割弱へと激増している(図表26)。正社員の雇用機会が不足する中で、正社員を希望しながらやむなくパート就労を選ぶ「非自発パート」も趨勢的に増加している(図表27)。
 求人倍率をみても、パートは求人超過であるのに対して、正社員は大幅な求人不足である(図表28)。現状の処遇格差が続くと、こうしたアンバランスがさらに拡大する懸念がある。
 一方、企業にとって、こうしたパートへのシフトは短期的にはコスト削減をもたらすが、中長期的には顧客に対するサービスや業務運営能率の面でのマイナスとなったり、また、責任範囲の増大等により正社員が多忙となり、部下の育成に時間が割けないため長期的な人材育成に障害が生じるとの実証分析もある(注)
 また、パートにとっても、基幹化により一時的労働にとどまらず職場での就労期間が長くなるにつれて賃金格差への不満は高まる傾向にある(図表29)。

 第二に、家族のあり方が多様化する中で、パートが上記のような構図で想定したような標準形(夫が稼ぎ手で、妻が専業主婦かパート)ではとらえきれなくなってきていることである。
 離婚や未婚の母の増加とともに母子世帯が増加しており、これらの就業者のうち約4割はパートとして就労している。こうした世帯のみならず、増加している単身世帯、夫が失業している世帯でも女性のパート就労は決して家計補助ではなく、家計を支える役割を求められる(図表30)。第一であげたような非自発パートも然りである。
 このようにパートの属性も多様化している。家計を支える役割を持つパートが企業の中である程度基幹的な役割を担っているとすれば、当然、処遇格差の存在は、企業の中で不公平感を増大させると考えられる。
 第三に、正社員についても、多様な働き方が求められてきていることである。
 これまで企業は相対的な高賃金と雇用保障の見返りに、残業や配転等の強い拘束性を正社員に対して求め、これによって生産性の高さを追求してきた。しかし、仕事一辺倒ではない生き方を志向する層にとってそれは必ずしも魅力のある働き方ではない。実際にフリーターとなっている若年層の多くが「正社員としての仕事に就く気がなかった」と答えているのには、こうした事情も影響していると考えられる(図表31)。
 また、現実に家族的責任を負うことが多い女性が家事育児と両立させて仕事を続けようと考えても、強い拘束性を求められる現在の正社員の働き方の中では就業継続が難しくなるのが実態である。しかし、いったん退職して、育児等が一段落したところでまた復帰しようとしても、内部労働市場には再参入できず、パート等の非正社員になるしかないのが現実である。特に、短時間であっても責任ある仕事をしたいと望む女性にとって、それを実現することは難しい状況である。
 今後、少子化の下で若年層の希少性がますます高まり、女性の有効活用が必要になるとすれば、正社員の働き方にももっと多様性を持たせることが企業の人的資源の活用という観点からも重要になると考えられる。

(注) 佐藤博樹 「雇用システムの変化から見た人事管理の課題」日本労働研究雑誌 1999.special issue
佐野嘉秀 「パート労働の職域と労使関係」日本労働研究雑誌 2000.8

3) 今後の課題

 1、2でみたように、パート等の多様な働き方の拡大は不可逆的な流れである。ただ、これが現在の雇用システムの中で無秩序に拡大すれば、労働市場全体の不安定化や処遇の低下、ひいては能力発揮への阻害につながるおそれがあり、それは企業の人的資源の活用という中長期的観点からも望ましいことではない。そのような状況をもたらさずにこのような働き方が広がっていくためにはどうすればよいのか、新たな雇用システムの構築も含め、多様な働き方がより望ましい形で広がるような方途を考える必要がある。

 パート等の多様な働き方の拡大は、フルタイム正社員のウェイト低下とともに進行しており、パート労働をめぐる諸問題は、ますます正社員を含めた労働市場全体に波及する問題となりつつある。フルタイム正社員とパート非正社員という二者択一の中では、短時間でも意欲と能力を持って働きたいと感じている層や就業意識の変化の中で従来型の「会社人間」とは違った働き方を求める層など、ニーズの多様化した人材の能力の十分な発揮は難しい。こうした意味で、フルタイム正社員の働き方の中にも多様な選択肢を組み込むことが必要である。正社員も含めた雇用システムについての新たな構想が求められている。

II 雇用システムの変化の方向

 Iでみたように、企業と働く側双方が求めている「柔軟で多様な働き方の実現」が双方にメリットをもたらす形で図られることが、今後、豊かで活力ある社会を実現するための鍵になると考えられる。そのための今後の雇用システムをどう構想すればよいのか、また実際の姿はどう動こうとしているか。

1 正社員も含めた雇用システムの多元化

 これまでのわが国の雇用システムは、やや単純化すれば、残業や配転などの拘束性は高いが雇用保障や高い処遇に守られたフルタイム正社員グループと、自由度は高いが雇用保障が不安定で低い処遇のパートを含めた非正社員のグループという二者択一の構図が続いてきた。

 しかし、Iでみたように働く側の意識は変化している。もっと多様な選択肢があり、またライフステージに応じて柔軟に働き方を変えられる「多元的な雇用システム」が求められている。それは働き方のニーズが多様化する中でそれぞれの個人の能力を十分に引き出すために、企業にとっても重要な仕組みである。

 一つの方向性として、従来の正社員の働き方に比べると残業、配転などの拘束性は低いが、だからといってすぐ「非正社員パートで補助的な仕事」というのではなく、ある程度基幹的な仕事をフルタイムや短時間で行う「中間形態」の形成が考えられる。
 Iでみたように、就業意識の多様化の中でフルタイムであっても拘束性の少ない働き方を希望する層も増えている。従来型の正社員とパートの働き方の二者択一ではなく、より拘束性の少ないフルタイムの働き方とそれに応じた雇用保障や処遇の組み合わせが「連続的な仕組み」の中で用意されれば、多様化した労働者のニーズにも合致し、企業にとって雇用管理の柔軟性を高めることにもなる。
 他方、パートであっても基幹的な役割を果たしている層も増えている。これらについては要求されている役割と処遇のギャップがパートのモラール低下に結びつく懸念も大きい。上記のような拘束性の低いフルタイムの働き方が中間形態に位置づけられるならば、これらに近い役割を果たす基幹的パートについても、同じ枠組みの中に位置づけ、パートかフルかにこだわらず、できるだけ統一的な雇用保障・処遇の仕組みを作っていくことが重要と考えられる(図表32)。

 このように従来のフルタイム正社員とパート非正社員の働き方に限定されない、できるだけ「連続的な仕組み」を作っていくことが、企業と働く側双方が求めている「柔軟で多様な働き方の実現」のための第一の条件であると考えられる。そしてこうした仕組みはすでに導入が進んでいる複線型人事管理の延長線上に位置づけられるものでもある。

 実際に流通業など、パートを多く活用している産業では、中間形態的な働き方を導入して、パートの能力発揮に役立てている企業が多い。
 例えば、百貨店のA社では、パートタイム労働者と正社員との中間形態として、職種や勤務エリア・専門領域があらかじめ明確にされており、定められた領域の中で専門性を高めていく有期契約の準社員制度を導入している。
 正社員のように、全国転勤・あらゆる分野への人事異動の可能性といった無限定の拘束性を求められることはなく、マネジメント業務に従事することもないが、専門領域の中でリーダー的業務を担うなど基幹的な役割を果たしている。パートタイム労働者の中にも、補助的な業務に従事するグループと補助的パートの指導的な立場に位置づけられるグループとが存在する。すなわち、補助パート、より基幹的なパート、準社員、正社員といった連続的な仕 組みの中で、それぞれの役割・業務等が明確に位置づけられている。
 また、スーパーのB社においては、全国異動のフルタイム社員と異動がなく補助的業務のパートタイム社員の中間に、いくつかの社員群が異動可能範囲の違い等によって位置づけられており、やはり連続的な仕組みとなっている。これらの中間的な形態においては、パートタイムであっても、管理職に就くチャンスが開かれているなど、基幹的な役割を期待されている。
 これらの企業における「中間形態的な働き方」は、従来のフルタイム正社員に比べて、異動の範囲等において拘束性は少ないものの、フルタイム、パートタイムに関わらず、基幹的な役割、責任ある役割を期待されており、企業にとって不可欠な存在となっている。

2 さまざまな働き方を納得して選択できる「働きに応じた処遇」の確立

 第二に、こうした多元的な雇用システムが有効に機能するためには、それぞれの働き方が納得して選択されることが必要であり、それが可能となるためには、仕事とそれに対する処遇との関係において公平性が確保されていることが重要である。

 もとより賃金処遇制度の考え方は企業によりさまざまである。年齢や生計費などの属人的な要素、潜在的なものも含めた職能の要素、より顕在的な職務や成果の要素などをどのように組み合わせて評価し処遇することが公平であると考えるかは、まさに企業の人事政策に属する問題である。

 ただ、人員構成の高齢化や厳しい国際経済環境、さらには共働きの増加など家族のあり方の多様化等の環境変化の中で、わが国の企業の賃金処遇制度に対する考え方も大きく変化しつつある。企業が賃金決定において何を重視するかをみると、年齢・勤続年数から職務遂行能力、業績・成果へと重視する要素がシフトしている(図表33)。
 本年5月に公表された日経連のダイバーシティー・ワーク・ルール研究会の報告書でも、「職務や役割にもとづき、与えられたミッションをどれだけ達成したかで評価・処遇することは、長期・有期といった雇用期間や、経営層となる基幹的人材、あるいは補助的業務を担う人材などの区分によることなく、公正・公平で納得性の高い制度といえる」とされている。企業としても、社内人材が多様化していく中で、それらの人材すべての能力を引き出しうる処遇制度を模索していることがうかがわれる。

 大きな方向性として、いわば生計費などの「必要に応じた処遇」から「働きに応じた処遇」に評価のウェイト変化の流れが窺われる。年齢別賃金カーブのフラット化や家族・扶養手当の支給企業割合の低下の動きなどもこうした流れを裏づけるものである。
 「働き」を評価する要素として、現時点だけでなく中長期的な観点からの評価も当然含まれるが、ウェイトの置き方としては、年功的な運用から、「職務」やその遂行の「能力・成果」で客観的に評価・処遇する方向に徐々に変化しつつある。

 こうした処遇制度の変化の流れは、基幹的な仕事を担いつつあるパートにとって、その働きに応じた処遇がなされるという意味で望ましい方向である。
 ただ、正社員とパートとの処遇格差の背景には、Iでもみたように「家計の支え手としての正社員」と「家計補助的なパート」といった「必要に応じた処遇」の発想が根強くあるのが現実である。
 しかし、共働き世帯が多数派となる中で(図表34)、正社員だからといって世帯全体の生活を支えなければならないというのは必ずしも平均的な姿でなくなりつつある。

 上記のように企業の賃金処遇制度は「必要に応じた処遇」から「働きに応じた処遇」に重視される要素のウェイトが変化しつつある。こうした流れの中で、賃金についての考え方が「世帯単位」から「個人単位」へと変化していくことが、家族のあり方が多様化する中で、さまざまな労働者が納得して 働けるための条件になりつつある。

 実際、パートを多く活用している企業には、「働きに応じた処遇」に留意し、パートのモチベーション向上に役立てている例が多い。
 前述のB社においては、異動可能範囲の異なる社員群の間で役職に応じた手当(マネージャー手当等)を同じにし、職務に応じた処遇を行っている。
 また、金融業のC社においては、スキルや知識のある人は、正社員やパート等の雇用形態に関係なく公正に扱い、その分責任も負ってもらうという考えに立ち、職能資格等級が同一の正社員とパートの所定内給与について同一処遇にしている。すなわち、パートの時給は、同資格の正社員の月給を労働時間で換算した額を支給しており、このような制度により、意欲、能力のあるパートのモチベーションを高めている。

3 ライフステージに応じて多様な働き方の間を行き来できる連続的な仕組みの構築

 第三に、多元化した雇用システムの中で、フルとパート、補助的役割と基幹的役割など、ライフステージに応じて、柔軟に行き来のできる連続的な仕組みが重要である。

 Iでもみたように、現状では、女性が家事育児と両立させて仕事を続けようと考えても、強い拘束性を求められる現在のフルタイム正社員の働き方の中では就業継続が難しく、また、いったん退職して、育児等が一段落したところで復帰しようとしても、フルタイム正社員を中心とした内部労働市場には再参入できず、パート等の非正社員になるしかないのが現実である。

 まずは、内部労働市場の中でのフルとパートの行き来の可能性が広がれば、子育て期は短時間で働き、一段落したところでまたフルに転換することにより、継続的に能力を発揮することができる。現在、育児休業、介護休業等育 児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(平成3年法律第76号。 以下「育児・介護休業法」という。)により、1歳に満たない子(本年4月1日より3歳未満に引き上げ)を養育する労働者で育児休業をしないものに関して事業主が講ずべき措置の選択肢の1つとして短時間勤務制度を設けることが規定されており、約3割の企業が制度を導入している。その他の理由による場合も含め、フルとパートの行き来の可能性を広げることは、わが国において十分に評価されているとはいえない「短時間で働くこと」の有効性をさまざまな工夫によって高める契機になると考えられる。加えて、高齢社会における職業生活から引退へのソフトランディングを図るためにも、フルタイム勤務から短時間勤務形態への円滑な移行の仕組みを構築していくことが今後の重要課題である。

 このように内部労働市場の中で、本格的な短時間就業(後述するような「短時間正社員」的な働き方)が一つの働き方として広がってくれば、外部労働市場からの参入による働き方にも違った評価がなされる可能性が出てくる。
 例えば、子育て後に再び入職するパートが、当初は補助的な仕事だとしても、経験を重ねる中で、短時間のまま、さらにはフルタイムで、もっと基幹的な役割を果たしたいと考えた時、その意欲、能力に応じて活躍の機会やそれに見合った処遇が選択できる仕組みが重要であると考えられるが、上記のような内部労働市場における変革は、同時にこうした選択の仕組みの可能性を広げるものでもある。
 例えば、拘束性の高い基幹社員(フルタイム、パートタイム)、中間形態の社員(フルタイム、パートタイム)、臨時・一時的社員(フルタイム、パートタイム)のような多様な働き方をライフステージに応じて選択できる道が開かれていれば、企業としても意欲のある優秀なパートを確保できるはずである。
 ちなみに、21世紀職業財団の「多様な就業形態のあり方に関する調査」によれば、パートの正社員登用制度のある事業所は約3割であるが、制度のある事業所で最近3年間に正社員に登用された人数は平均約3.6人であり、それなりの登用実績があることがわかる。

 さらに、このようにフルとパートの行き来の可能性が広がることは、社会全体としては、短時間で働く層の拡大を通じて、雇用機会を増やすことにつながる。いわゆる多様就業型ワークシェアリングの実現である。働き方をライフステージに応じて柔軟に変えられることによって、子育てしながら勤め続けたり、子育てのためのいったん退職しても再び活躍の道が開かれる。男女ともにこうした働き方が可能になることによって、子育ての負担も軽減され、子供を産み育てることの安心感がもたらされる。こうした意味で、このような働き方が社会全体に広がることにより、少子化そのものを抑える可能性も期待できる。

 上でみたような多元的で連続的な雇用システムを導入している企業には、ライフステージに応じて就業形態間の移動を可能としている例が多い。
 例えば、前述のA社においては、キャリアアップによるモチベーション向上を図る目的で、補助業務を担うパートタイム労働者からリーダー的業務も担う準社員への転換が可能な仕組みを作っており、現在準社員からマネージメント業務まで担う正社員への道を検討している。
 また、前述のB社においては、本人の希望により、異動の範囲やフルかパートかを選択できるようになっており、ライフステージに応じて働き方を変えられる仕組みになっている。こうした制度の下で、例えば、育児、介護等の理由で全国異動が困難になった場合に、地域異動社員に転換して働き続けているケースもみられる。
 さらに、衣料販売のD社においては、パートから、希望者は店長代理を経て、店長に昇格することが可能であり、店長に昇格すると同時にフルタイム正社員となる。現在、店長のうち、過半数がパートからの転換であり、パートにとって、こうした道が用意されていることが大きな魅力となっている。D社としても、パートから転換した店長の実力を高く評価しており、人材登用やパートのモチベーション向上の面で得るものが大きいと考えている。

4 新たな雇用システムがもたらす労使双方、社会全体へのメリット

 こうした新たな雇用システムが労使双方、社会全体にもたらすメリットについて、再度整理しておきたい。

1) 企業側にとってのメリット

(1) 優秀な人材の確保・定着
 新たな雇用システムが企業側にもたらす第一のメリットは、多元的な雇用システムの下で、働きに応じた処遇や様々な働き方の間を行き来できる仕組みなどにより、優秀な人材の確保や定着に役立つことである。
 上記、衣料販売D社では、パートについて、地域相場より高い賃金設定や正社員店長への登用など将来の道が開けるようにしてから、優秀な人材が集まるようになったという。
 電機のE社では、育児休業明けの社員の8割が短時間勤務制度を利用している。フルタイムとの時間比例賃金にする(もっともこれは正社員の短時間勤務制度を導入している企業の場合、ごく一般的な方式である)、不在時の状況についての情報共有を図るなどにより利用が進んだ。これにより、育児休業明けの復職率が向上し、教育投資された貴重な人材の定着に役立っている。
 今後はさらに少子高齢化が進むことから、企業にとっても、女性、高齢者など短時間での就業を希望する層を含め、多様な人材の有効活用が図れるかどうかが重要な経営課題である。新たな雇用システムは、企業の中での多様な働き方を魅力あるものにすることで、人材を集め、組織の活力を高めることを可能にする点で、企業にメリットをもたらすものである。

(2) 処遇制度全体の見直しやモラール向上によるコストの吸収
 パートを含めた「働きに応じた処遇」が企業にとってコストアップとなるとの懸念も指摘されるが、その点はどうだろうか。
 スーパーのF社では、フルタイム社員の処遇制度を仕事給体系に組み直す中で、パート社員についても仕事・役割に応じた処遇(例えば、売り場主任に就くパート社員の処遇はフルタイムで主任をしている地域限定社員と時間比例)を実現している。F社の改革は「パートに関わる不合理な差別を社内から排除する」という強い決意で行われており、地域に密着したパート社員の持ち味を最大限に引き出す経営が実践されている。他の大手スーパーでも、パートの管理職登用制度など人事処遇制度の導入が見られはじめており、パートと正社員との不合理な仕事の垣根や処遇の違いは経営にとってもマイナスであるとの意識が高まりつつある。パートと正社員との処遇制度間の均衡を図ることが企業の経営パフォーマンスに有意な影響を与えるということを実証した最近の分析例もみられるところである(注)
 このようなことからすると、パートを含めた「働きに応じた処遇」を図ることは決して企業経営にとってマイナスとなるものではない。むしろ、パートが雇用者の2割という状況において、正社員との不合理な処遇の違いをそのままにしておくことの方が企業活力の低下をもたらす恐れが大きいと考えられる。前出の日経連ダイバーシティ・ワーク・ルール研究会の報告書でも「『非正規は正規より格下』といったような古い意識や、特にそうした意識に基づく制度や仕組みは、新しい人事戦略を進めていく上での障害となり得る。こうした制度や仕組みを改め、必要に応じて、多様な人材に対して基幹的な仕事の担い手にふさわしい、広い意味での労働条件を提示していく必要があるだろう」と提言されている。
(注)西本万映子 「正社員とパートタイマーの人事管理制度の均衡で経営パフォーマンスを高める」賃金実務 2002.7.1.

2) 働く側にとってのメリット

(1) 多様な働き方へのニーズに応えられるシステム
 前述したように、フルタイムで働く層の中にも、より拘束性の少ない働き方や仕事一辺倒でない生き方を指向する層が広がりつつある(図表35)。
 他方、家事育児などの家族的責任を果たしながら、働き続けたいと望む層も増えており(図表36)、これらの層にとっては、フルタイムであっても、より拘束性の少ない働き方が可能かどうかが働き続けられるかどうかの分かれ道となる。
 さらに、フルタイムでなく、「基幹的であるが短時間」という働き方がライフステージの中で選択できるようになれば、現在の仕組みでは、時間的制約から就業をあきらめている層も就業可能となるはずである。
 こうした意味で、新たな雇用システムは、働く側のニーズに合った働き方を用意することを通じて、働く側にとって大きなメリットをもたらす。

(2) 連続的な仕組みの中での経済的自立の可能性
 前述のように「正社員としての仕事に就く気がなかった」からフリーターになった若年層もずっとその働き方に留まろうとしているわけではない。特に、男性において、今後の働き方として正社員を指向する層は多く、その割合は年齢を重ねるごとに高まっていく(図表37)。親からの独立、結婚など、経済的自立の必要性が高まるにつれて、フリーターからの離脱を求める意識が強くなっていくことがうかがわれるが、フリーター期間における能力開発機会の不足もあり、正社員への移行、経済的自立が円滑にいかない層もみられる。
 また、増加する母子世帯等においては、家事育児との両立や正社員雇用機会の不足等から、就業者の約4割がパート就業をしており、経済的自立という面で多くの困難を抱えている実態がある。こうした困難は夫がリストラで失業し、妻のパート就労が家計を支えている世帯でも同様である。
 さらに、年金支給開始年齢が段階的に引上げられる中で、高齢者の就業継続による経済的自立も今後の大きな課題である。
 こうした問題に対し、「拘束性の高い正社員」か「補助的位置づけで低処遇のパート」という二者択一ではなく、「拘束性の低いフルタイム社員」や「基幹的な仕事で経済的自立が可能なパート」という幅広い選択肢が確保されれば、上記のような層も経済的自立を図れる就業の枠組みに入っていけるようになると考えられる。

3) 社会全体にとってのメリット

(1) より多くの層の就業可能性の向上と経済的自立
 2)でみたように、多元的な雇用システムとそれに対応した処遇の仕組みができていくことは、より多くの層の就業可能性を広げ、これらの層の経済的自立を促進するものである。さらに、このような仕組みの中でライフステージに応じて短時間で働く層が拡大すれば、社会全体として雇用機会を増やすことも可能となる。
 今後、少子化が一層進み、人口構成的には社会の支え手の相対的減少が予想される中で、若年層や高齢層、主婦層など、より多くの層が経済的に自立し、同時に社会の支え手となりうることは社会全体にとっても大きなメリットである。

(2) 雇用のミスマッチの改善
 現状、正社員の需要不足、非正社員の需要超過というミスマッチが存在しているが、「働きに応じた処遇」が浸透していけば、こうした労働市場のアンバランスも改善されることが見込まれ、より多くの層の就業可能性を広げることになる。
(3) 少子化抑制の効果
 少子化対策についての世論調査によると、出産・子育て後に再就職しやすくすることが重要との声が多い(図表38)。強い拘束性を求められる現在のフルタイム正社員の働き方の中では子育てをしながらの就業継続が難しいのが実態である。また、いったん退職してしまうと、子育て後に補助的パート以外の形で復帰することが困難な現実がある。子育てをしながら就業継続できる短時間勤務や拘束性の少ない働き方に移行できること、子育てのためにいったん退職しても再び活躍の道が開かれる柔軟な仕組みが形成されることが、子供を産み育てる安心感をもたらし、少子化そのものを抑える効果を持つと考えられる。

III 政策の方向性

 わが国では、昭和60年代以降、サービス経済化の進展等によるパート労働者の拡大の下で、これを良好な雇用形態として社会的に確立することを目的として施策が進められてきた。平成5年にはパート労働法が制定され、事業主による雇用管理改善が法律上の努力義務として規定され、賃金等については基本指針において「就業の実態、通常の労働者との均衡等を考慮して定めるように努めるもの」とされた。以降、都道府県労働局、21世紀職業財団等の活動を通じて、パート労働法や指針についての周知、短時間雇用管理者の選任、助成金の支給や相談援助の実施等の施策が行われている(図表39)。
 これらの施策は、事業主による雇用管理の自主的な改善を基本的な枠組みとしているが、Iの3で述べたように、これらの施策の下でも、パート労働者の通常労働者と比べた処遇格差は依然として大きく、パート労働法に掲げられた処遇の均衡が実現しているとはいえないのが現状である。
 こうした経過も踏まえ、今後、IIでみたようなあるべき姿に近づけていくための政策の方向性はどのようなものであろうか。

1 基本的考え方

 これまでみてきたように、今後、パート等の多様な働き方が拡大していく中で、その雇用保障・処遇を「働きに見合ったもの」にしていくことが、処遇の公平性を高め、能力の発揮を促すために、また、労働市場のバランスを確保していくためにも必要である。
 ただ、パート労働者がすでに1,200万人という大きなグループとなり、また、フルタイムの就業意識も変化している。部分的にパートの処遇改善をすればいいということではなく、フルタイム正社員の働き方や処遇のあり方も含めた雇用システム全体の見直しの中でこの課題をとらえる必要がある。
 そのためには、IIでみたような雇用システムの多元化が求められるが、こうした変化はすでに進みつつある複線型人事管理や仕事・能力・成果で評価する処遇制度の流れの延長線上にあるものであり、政策的には、すでに形成されているこうした流れをさらに推進していくことが重要と考えられる。

 そのための第一の条件は、パートのみならず、正社員の働き方や処遇の見直しも含めた全体の雇用・処遇システムのあり方について、労使が主体的に合意形成を進めることである。
 その際、以下のような論点が合意形成のかぎになると考えられる。

(1)使用者団体が「短時間正社員」の考え方を提案したり、実際に企業でパートのキャリアアップの仕組み作りなどが広がっているが、すでに大きなウェイトを占めているパート等に対して、働きに見合った処遇を確立することが、今後、企業活力を確保し続けていくためにも重要な条件であることを企業がどれだけ強く認識しうるか。
(2)これまで正社員中心に組織されてきた労働組合も、パートの賃上げ要求を具体的に掲げるなど、パートの処遇改善への取組を強めているが、さらに一歩進めて、正社員の処遇を見直してでもパート等の処遇向上を図ることが、パートの利益のみならず、将来的に正社員の存立基盤の確保にも結びつくとの立場に立ちうるか。

 今、まさに政労使の間でワークシェアリングの議論が活発化しているが、こうした機会をとらえて、今後、「企業活力」と「雇用安定」の二つの課題を同時に満たすような雇用・処遇システムのあり方について、正社員もパートも含めた全体の雇用システムを視野に入れつつ、真剣な議論が行われることが期待される。

 第二の条件は、政府がこうした労使の取組を推進するべく、多様な働き方がより「望ましい形」で広がっていくための制度改革を実行することである。
 そのための制度改革には二つの視点があると考えられる。
 一つ目の視点は、多様な働き方が可能となるような制度改革の視点である。
 就労形態の多様化を可能とする制度改革として、派遣労働者の拡大、有期労働契約の拡大、裁量労働制の拡大などが掲げられている。これらの制度改革は、基本的に雇用の選択肢を拡大する方向での条件整備と考えられる。
 二つ目の視点は、多様な働き方が広がる中で、働き方相互の間での処遇に不公平が生じないように、新たなルールを社会的に確立していくという視点 である。多様な働き方が「望ましい形」で広がっていくためには、就労形態の多様化に対応した社会保険制度等の改革を進めるとともに、こうした公正なルールの確立という視点からの改革の方向性がさらに検討されることが重要と考えられる。

 仮に、上述した一つ目の視点のみで制度改革が行われた場合、必ずしも働きに見合っていない処遇面の格差が縮まらないまま、非正社員化の進行が加速するおそれがある。他方、二つ目の視点から公正なルールの確立のための制度改革のみを進めようとした場合は、企業の自由度を損ない、結果的に雇用機会を狭めるおそれがある。これら二つの視点を組み合わせた総合的なパッケージの中で制度改革を進めていくことが重要である。

2 具体的な方向性

1) 政労使による包括的合意形成の推進

 厳しい雇用失業情勢の下で、ワークシェアリングの議論が活発化している。
 日経連・連合の「雇用に関する社会合意」推進宣言(平成13年10月18日)では「雇用の維持・創出を実現するため、日経連・連合は多様な働き方やワークシェアリングに向けた合意形成に取組み、労使は雇用・賃金・労働時間の適切な配分に向けた取組を進める」としている。

 ワークシェアリングは、雇用情勢が厳しい時に、労働時間を短縮し、仕事を分かち合うことにより、雇用環境を好転させる解決策として主に欧州諸国で採られてきた政策であるが、わが国においても、ワークシェアリングに対する関心の高まりを踏まえ、昨年12月以降「政労使ワークシェアリング検討会議」において議論がなされ、ワークシェアリングの基本的な考え方について本年3月29日に政労使間の合意が得られたところであり、検討会議における議論は大別して短期と中長期の二つの視点に整理される。

 このうち短期的な対応としては、いわゆる緊急対応型ワークシェアリングについて検討された。すなわち経済活動の落ち込みに対し、一人当たりの労働時間を減らすことによって雇用を維持しようとする考え方であるが、その際、時間短縮の方法として、従来のように月給を下げずに時短をすることは企業にとって雇用コストの削減につながらない。上記政労使合意においては、「当面の緊急的な措置として、労使の合意により、生産性の向上を図りつつ、雇用を維持するため、所定労働時間の短縮とそれに伴う収入の減少を行う緊急対応型ワークシェアリングを実施することが選択肢の一つと考えられる」とされた。
 このことは直接、パートの均衡処遇に結びつくものではない。ただ、一般的に正社員は月給制、パートは時給制という給与支給形態の違いが、これまで両者の比較を難しくしていたが、こうした議論の中で、正社員の時間賃金率意識が高まることになれば、正社員とパートの処遇実態の違いが目に見えるようになり、公平な処遇への一つのきっかけになると考えられる。

 もうひとつ、短期的な対応だけではなく、より中長期的な視点から多様就業型ワークシェアリングについて議論された。Iでもみたように、「柔軟で多様な働き方の実現」は企業と働く側双方が求めている方向性であるが、これは短時間で働く層の増大を通じて社会全体の雇用機会の増大にもつながるものである。
 ただ、現状のようなフルタイム正社員とパート等非正社員の処遇格差をそのままにしてこれを進めるならば、労働市場全体の不安定化や処遇条件の低下をもたらすこととなり、それはワークシェアリングのあり方として、望ましい方向ではない。
 やはりパート等の非正社員でも能力を発揮でき、働きに応じた処遇が確保されることを前提とした「多様就業型ワークシェアリング」が実現されるべきである。
 その際、パートの処遇改善だけを切り離して考えるのではなく、正社員も含めた総合的な働き方や処遇のあり方について、労使で率直な議論が行われることが望まれる。例えば、

・フルタイム正社員の働き方として残業・配転等の拘束性の高い働き方だけを前提に考えるのではなく、もう少し拘束性の低い働き方も導入していくことが必要ではないか。
・働き方を見直す中で、生計費や家族手当など、いわば必要に応じた処遇についても見直すべきではないか、
・働き方を見直す中で、「働きに見合った処遇」の仕組みに向けて、正社員、パート等様々な働き方全体を視野に入れた処遇システムの見直しを行うべきではないか、
などについて率直に議論し、新たな公平な配分のあり方について労使が包括的な合意をすることが期待される。

 このようなワークシェアリングの推進方策について、上記政労使合意において、「多様就業型ワークシェアリングの推進に際しては、労使は、働き方に見合った公正な処遇、賃金・人事制度の検討・見直し等多様な働き方の環境整備に努める」とされており、さらに政府の取組として「多様就業型ワークシェアリングの環境整備を社会全体で進めるため、短時間労働者等の働き方に見合った公正・均衡処遇のあり方及びその推進方策について引き続き検討を行う」とされた。こうした合意を受けて、公正なルールの確立に向けた検討がさらに進められることが期待される。

2) 多元化した雇用システムの下での雇用の安定性の確保

 今後、多様な働き方が広がっていく中で、それとバランスのとれた雇用の安定性をどう確保していくかは重要な論点である。それは雇用システムの多元化の下での雇用保障のあり方をどう構想するかということでもある。

 わが国においては、企業側にとって、「期間の定めの無い雇用」については一般的に解雇権濫用法理の適用により解雇が制約される一方、「期間の定めの有る雇用」については原則として更新するか否かが柔軟に決定できる構造になっている。このような構造の下で、また最近の経営環境についての先行き不透明感の強まりもあって、基幹的な役割がある程度求められ、キャリア形成が必要となるような業務に従事しているパートでも、有期契約の反復更新で対応し、実態としては常用雇用に近い働き方をしている場合が多くみられる。
 働く側からみると、勤続を重ねても短期契約の繰り返しというのは、雇用の安定性の面で不安が大きい。計画的なキャリア形成ができないという意味では、働く側のみならず、企業にとっても人材の有効活用の面でマイナスが大きいと考えられる。
 このように無期雇用と有期雇用の取扱いについては、企業の認識も含めて落差が大きいために、基幹的、常用的な層においても有期雇用の活用が進み、その能力発揮や処遇の制約要因になっている面がある。こうした構図の中で、正規雇用機会の入口が狭まり、新規学卒でもパート入職が大幅に増えているのはIでみたとおりである。

 今後、雇用システムの多元化の下で、働きに見合った雇用保障、それによる雇用の安定を図っていくためには、

(1)無期雇用であっても、ケースごとの具体的な事情によって雇用保障にかかる判断は必ずしも一律ではない裁判例の実態などについて理解を深めること、
(2)有期雇用であっても反復更新しているケースに対しては、適正なルールの確保を徹底していくこと、
等が必要である。
 こうした取組を通じて、現状、大きな落差のある無期雇用と有期雇用の取扱いに一定の均衡をもたらすことにより、就業実態に応じた雇用契約がゆがみなく選択され、全体として、雇用システムの多元化の下での雇用の安定や計画的キャリア形成に資するものと考えられる。

3) パートの均衡処遇に向けたルールの確立

 これまでもみてきたように、今後、多様な働き方が「望ましい形」で広がっていくためには、パート等の処遇を働きに見合ったものにしていくことが重要である。そのための政策の方向性についてどのように考えればよいのだろうか。

(1) 基本的考え方
 この問題については、近年、ヨーロッパにおいてルール化を進める動きがあり、わが国においても、「パートタイム労働に係る雇用管理研究会」などで検討されてきた。加えて本報告の中では、IIでパートの処遇問題を正社員も含めた雇用システム全体の見直しの中でとらえる必要性について述べてきた。ここではこれらの流れを踏まえた上で、パートの均衡処遇の進め方について基本的考え方を整理したい。

(イ) ヨーロッパの経験
 ヨーロッパ諸国においては、サービス経済化への対応、女性活用を図るためにパート労働の発展が重要との観点から、1980年代の前半より同一労働同一賃金の考えに立脚した時間による差別的取り扱いの禁止の立法化が行われ、1997年にはEUパートタイム労働指令として共通のルールとなった。
 このように、ヨーロッパにおいて立法化が可能であった事情としては、
・職種ごとの賃金が産業別協約により存在し、これにより賃金と職務とのリンクが明確になっている分野が多いことから、同一労働同一賃金を受け入れる社会的基盤を有していたこと
・国により事情は異なり一般化はできないものの、例えばオランダのようにパートの活用が本格化する比較的初期の段階において、労使によりパート活用のいわば前提条件として均等原則を受け入れることが可能であったこと
が考えられる。
 もっとも、差別的取り扱いとならないための合理的理由として何を認めるかについては、国によって一様ではない。職務の格付けや勤続期間の違いが認められるのは一般的であるが、ドイツにおいては、家族的責任の違いも処遇差の合理的理由として認められる場合があると考えられている。
 また、法規制に至るプロセスも一様ではなく、フランスやドイツのように法規制を先行的に実施した国もあるが、オランダのように、均等処遇に関する労使合意(ワッセナー合意。1982年)から法制化(1996年)まで10年以上かけた国もある。

(ロ) わが国企業の処遇システムの特性
 (イ) でみたようにヨーロッパ諸国においては、職務概念が社会的に確立しており、職務に賃金がリンクしている分野が多い。仕事が同じであれば、個人の属性や働きぶりによって賃金格差の生まれる余地が少ないという点で、同一労働同一賃金原則の前提条件が満たされているといえる。
 一方、わが国においては、外形的に同じ仕事をしていても、年齢、勤続年数、扶養家族、残業・配転などの拘束性、職務遂行能力、成果などの違いによって、処遇が大きく異なりうる。それは、正社員とパートの間だけではなく、正社員同士においてもしばしばみられるところであり、わが国においてヨーロッパ的な意味での「同一労働同一賃金」が公序となっているとは言いがたい。労働基準法上、均等待遇原則を定めた第3条も、差別禁止事由として挙げられている「社会的身分」にはパートや非正社員といった雇用形態の違いは含まれないと解される。
 もちろんIIでみたように、わが国の企業の処遇制度も変化しつつある。生計費などの「必要に応じた処遇」から、職務や能力・成果などの「働きに応じた処遇」を重視する方向へ企業の評価のウェイトは変化しており、年齢別賃金カーブもかなりなだらかになっている。ただ、それは職務による評価に収斂するということではない。それぞれの職務において、各人がどのような成果をあげているか、またその職務遂行能力をどう評価するか、といった要素はむしろより重視される方向にある(図表33)。
 このように、わが国における今後の賃金制度の変化を考慮に入れたとしても、ヨーロッパのように「職務」による評価を中心とした「同一労働同一賃金」の考え方をそのままわが国にあてはめることはできないと考えられる。
 いま一つわが国の雇用・処遇システムの特性として留意しなければならないのはこれまでもみてきたフルタイム正社員における広範な配転や転勤などの高い拘束性の存在である。今後、IIでみたように、働く側のニーズの多様化の下で、フルタイム正社員でもより拘束性の少ない働き方が広がっていくとしても、すべてがそうなるわけではない。これまでの正社員の幅広い配置転換を含めたキャリア形成システムがわが国の企業の活力や環境変化適応の面で重要な役割を果たしてきたことを考えると、このような基幹的な社員の層も今後、ある程度は存続していくものと考えられる(図表40)。わが国において、パートとフルタイム正社員の処遇の均衡を考える際には、このようなわが国の雇用・処遇システムの特性についても十分考慮する必要がある。
(ハ) 日本型の均衡処遇ルールの確立
 これまでみてきたように、柔軟で多様な働き方が望ましい形で広がっていくためにはパートと正社員の均衡処遇を図っていくことが必要である。ただ、その方法として、これまでのようにルール化を労使に委ねるのではIIIの冒頭で見たように限界があるし、他方、ヨーロッパ的な考え方をそのままあてはめることにも問題がある。いわば日本型の均衡処遇ルールの確立を考える必要がある。
 そして、この課題については「パートタイム労働に係る雇用管理研究会報告」(平成12年4月)においてすでに方向性が出されているところであり、その主な内容は以下のとおりである。

1 正社員と同じ職務を行うパートタイム労働者(Aタイプ)に係る均衡を考慮した雇用管理のあり方

(1) 処遇や労働条件のあり方

・ まず、処遇や労働条件の決定方式(例:賃金の構成要素、支払形態)を正社員と合わせていく方法がある。
 ただし、合理的な理由がある場合には、決定方式を異にすることはあり得る。
・ 決定方式を合わせられない場合であっても、処遇や労働条件の水準について正社員とのバランスを図っていく方法が考えられる。ただし、正社員と比較して、例えば、残業、休日出勤、配置転換、転勤がない又は少ないといった事情がある場合、合理的な差を設けることもあり得る。
・ 同じ職務を行う正社員に賞与や退職金が支給されている場合にはパートタイム労働者に対しても、合理的な内容により、賞与や退職金に係る制度が設けられることが適切であると考えられる。
・ さらに、正社員との処遇や労働条件に差がある場合、パートタイム労働者の納得度を高めるためには、(1)決定方式や水準に違いが設けられている事情の明確化及び情報提供、(2)相談や苦情に応ずる体制の整備が必要となる。

(2) 働き方の選択性を高めるための条件整備

・ 正社員への転換制度を設ける等、採用後改めて選択(乗換え)の機会を付与することが、 パートタイム労働者の意欲や納得度を高め、能力発揮にも資するものと考えられる。

2 正社員と異なる職務を行うパートタイム労働者(Bタイプ)に係る均衡を考慮した雇用管理のあり方

 Bタイプのパートタイム労働者については、正社員との間で具体的な比較を行うことは困難であるが、以下のような正社員との均衡を考慮した雇用管理が図られることが必要である。

(1) 合理的な雇用管理の構築
 就業の実態等に応じ、また、職務やそのレベル、職務遂行能力に見合った処遇や労働条件を考えることが重要である。

(2) 働き方に係る納得性を高めるための条件整備
 処遇・労働条件の違い等に関する必要な情報の提供及び相談体制の整備を行うことや、選択(乗換え)の機会を付与することが、その意欲や納得度を高めることにつながることとなる。

 この考え方は、正社員との職務(責任・権限を含む。以下同じ)の同一性を第一の判断基準としつつ、同じ職務であっても、能力や成果などの他の諸要素や、配置転換の有無等働き方の違いによって処遇が違いうるわが国の実態に深く配慮した均衡処遇ルールといえる。
 すなわち、第一に「同じ職務の場合に処遇の決定方式を合わせる」というルールは、同じ職務であっても、他の諸要素によって処遇が違うわが国の処遇制度の実態に配慮し、例えば、同じ職務についている正社員が職能給であればパートも職能給というように処遇の決定方式は合わせ、その決定方式の下で各人をどのように評価・処遇するかは企業のルールに委ねるという考え方である。
 「ただし、合理的理由がある場合は決定方式を異にすることはあり得る」というのは、例えば、いまは同じ職務に従事していても、正社員には幅広い配転があり、パートは職務限定というように雇用管理形態が異なる場合には、配転を前提とした正社員には職務との結びつきの相対的に薄い職能給、職務限定が前提のパートには職務給といったように賃金決定方式が異なることもあり得るということである。
 第二に「残業、休日出勤、配置転換、転勤がない等の場合、合理的な差を設けることもあり得る」というのは、例えば、現在、就いている職務が同じであっても、幅広い異動の多寡などキャリア管理の実態が明らかに違う場合には、パートと正社員との間に処遇差があるとしても合理的であると考えるということである。
 ただ、IIでみたように、今後、働く側のニーズの多様化の下で、フルタイム正社員でも、配転、転勤などを伴わない、より拘束性の少ない働き方が広がっていくことにより、そうしたフルタイムとパートとの間でキャリア管理の実態に差がなくなり、他の合理的理由もないということになれば、処遇の決定方式を合わせることが必要ということになる。要は、フルかパートかの違いだけで、職務も働き方も含めて同じであれば、同じ評価の枠組みの中で処遇するというルールである。
 ちなみに、現状において、職務も配転・転勤等の取扱いも含めて正社員と同じケース、すなわち上記ルールからみて処遇の決定方式を合わせるべきと考えられるケースは、事業所、正社員、パートいずれからみてもパート全体の4〜5%となっている(図表41)。

 第三に「水準についてのバランスを図る」というルールは、第一でみたように、職務は同じでも働き方、キャリア管理の実態が異なるために処遇の決定方式を異にせざるをえない場合に、どんな処遇格差も許されるかというとそうではなく、合理的な範囲内での差であるべき、とのルールである。ただ、どの程度の差なら合理的かという点については一律に定めるのでなく、それぞれの企業や労使に委ねられるべきであり、差が設けられている理由を説明することでパートの納得性を得るという企業・労使の自主性を重視したゆるやかなルールである。
 ちなみに、上記の4〜5%以外に、拘束性や責任の度合いは違っても、正社員と同様の仕事をしているパートは数多くみられるが、これらのパートで正社員と同じ勤続年数の者が納得できると考えている所定内賃金の水準は、パート、正社員、事業所のいずれに聞いても、正社員の約8割というのが平均値であった(図表42)。
 さらに、正社員と職務が異なるパートについて、具体的な比較を行うことは困難としても、就業の実態に応じた合理的な雇用管理やパートの納得性の確保については考慮が必要、とされている。
 現在、「パートタイム労働に係る雇用管理研究会報告」の内容については、労使に対する情報提供に留まっているが、Iでみたような課題の大きさを考えると、今後の方向性として、この考え方を法律上明らかにすることにより、ルールの実効性をさらに高めていくことが考えられる。
 ただ、上記のように、日本型の均衡処遇ルールについては、それぞれのケースに応じて判断すべき要素が多く、画一的な規制はなじまない。
 法律で基本的な原則を示し、これを具体的な例示を含むガイドラインで補う手法が望ましいと考えられる。
 なお、法制の検討にあたっては、フルタイム有期など短時間以外の非正社員への対応が抜け落ちることのないよう、手当てをあわせて考える必要がある。

(ニ) 法制のタイプについて
 研究会では、法制の内容について「均等処遇原則タイプ」と「均衡配慮義務タイプ」の2つの方向で議論がなされた。
「均等処遇原則タイプ」とは、事業主に対し労働時間の長短による合理的理由のない処遇格差を禁止するものであり、これに対し「均衡配慮義務タイプ」とは、事業主に対して労働時間の長短による処遇の格差について均衡に向けた配慮を義務づけるものである。この2つはいずれも事業主に対し正社員とパートの処遇格差に合理的理由を求める点で基本的な趣旨は共通にしているが、法的な効果としては次のような相違が生じうる。
 「均等処遇原則タイプ」はこれに反する賃金等の取り決めについて私法的に無効とするものである。したがって、合理的理由がないとされれば私法的に重大な効果が及ぶことになることから、企業はこれを回避するため雇用管理の改善を積極的に行うと考えられる。
 ただし、(ハ)でみたようなわが国の処遇システムの実態を考えると、処遇格差の合理的理由は雇用システムの実態に即してある程度柔軟に認めることが必要になると考えられる。具体的には、現在の職務が同じであり、かつ、幅広い異動の多寡などキャリア管理の実態にも差がないなど処遇差の合理的理由が見出せない場合(以下「同一職務・合理的理由なしケース」と呼ぶ)にのみ、パートを正社員と同じ処遇決定方式にすることが法的に求められることになる。
 逆に言えば、このタイプの場合、合理的理由があれば法律上は問題とされないことから、正社員とパートの職務の分離や処遇差の合理的理由を整えるなどの対応で終わってしまうことも考えられる。
 これに対して、「均衡配慮義務タイプ」は、格差について一定の合理性があるとされた場合も含め、パート労働者の処遇の改善という政策目的にてらして必要な配慮を企業に法的義務として求めるものである。
 具体的には、「同一職務・合理的理由なしケース」に限らず、より広く処遇面での正社員との均衡に配慮した措置が企業に対して求められることになる。均等処遇原則タイプのように合理的理由を整えるだけでは不十分であり、実質的な処遇水準の均衡に向けた措置を企業は法的に求められることになる。
 他方、このタイプの場合、「均衡配慮」の考え方からすると、「同一職務・合理的理由なしケース」であっても、均衡に配慮した措置が適切に講じられていれば、処遇決定方式の違いが直ちに義務違反となるわけではないとも考えられる。
 「均衡に配慮した措置」は処遇水準の均衡を図るための措置である。ただ、直ちにそれを実現するのでなくても、例えば、(1)パートと正社員の処遇の違いやその理由について十分な説明を行うこと、(2)パートが自らの処遇決定等に実質的に参加することを可能にすること(パートを含めた労使協議の推進など)、(3)パートの経験・能力の向上に伴って処遇を向上させること(処遇決定方式を正社員に合わせること、正社員に準じた昇進昇格制度の設置など)、(4)パートと正社員との行き来を可能にすること(パートの正社員転換制度の設置など)、などを通じて、処遇水準の均衡に向けたプロセスを確実にすることが考えられる。無論、これらはあくまでも例示であって、その具体的内容についてはさらに体系的に吟味する必要がある。また、こうした配慮を求める対象範囲(例えば、パートが明らかに短期・臨時的就労の場合などの取扱いをどうするか)についても十分な吟味が必要である。
 このタイプは、格差について一定の合理性がある場合も含めて配慮措置を求めるものであるため、「均等処遇原則タイプ」ほど私法的効力を明確に持つものではない。しかし、例えば、(1)「同一職務・合理的理由なしケース」にも関わらず、処遇格差があり、均衡に配慮した措置が講じられていない場合や、(2)「同一職務・合理的理由なしケース」でなくても、処遇上明らかに合理性を欠く格差があり、均衡に配慮した措置が講じられていない場合には、私法的効力が発生する可能性がある。こうした場合には、公序違反として不法行為責任を発生させることも考えられる。ただ、いずれにしても、このタイプは、いかなる場合に私法上の効果が発生するかが「均等処遇原則タイプ」ほどには明確でなく、法規制としての実効性を欠くことになりかねないという問題点がある。
 このような検討からすると、「均等処遇原則タイプ」と「均衡配慮義務タイプ」を必ずしも二者択一でとらえる必要はないと考えられる。
 すなわち、目指すべきルールとしては、
(1)「同一職務・合理的理由なしケース」においては、「均等処遇原則タイプ」に基づいてパートと正社員の処遇決定方式を合わせることを求めるとともに、
(2)「処遇を異にする合理的理由があっても、現在の職務が正社員と同じケース」等においては、幅広く「均衡配慮義務タイプ」に基づく均衡配慮措置を求める

という相互補完的な組み合わせのルール(以下これを「均衡処遇ルール」と呼ぶ)が一つの方向性として考えられる。

(2) 具体的対応
(イ) 均衡処遇ルールの実現に向けた道筋のあり方
 ただ、こうした「均衡処遇ルール」を法的措置として、直ちに導入した場合には、企業行動や労働市場に一定の影響が及ぶことは否定できない。
 IIIの1でもみたように、パートの「働きに見合った処遇」を実現していくためには、部分的にパートの処遇改善をすればいいということではなく、フルタイム正社員の働き方や処遇のあり方も含めた雇用システム全体の見直しの中でこの課題をとらえる必要がある。
 それには時間を要する。にも関わらず、直ちに上記ルールを導入した場合に、第一に考えられるのは、一時にパートの雇用コストが増えることによるパート雇用機会の減少や、フルタイム有期や直傭形態以外の派遣労働者、構内下請などへの代替等の影響である。
 第二に考えられるのは、パートと正社員との職務の分離である。上記ルールは正社員とパートの職務が同じ場合に特に厳しい措置を求めるものであるため、このルールが導入されると、企業はこの適用によるコスト増を避けるために、低技能・低賃金の職務を分離して、パートの職務として固定化するのではないかとの指摘もなされている。正社員の働き方や処遇見直しは時間を要するものであり、企業の当面の対応としては、パートの処遇はそのままにして職務分離が進む可能性がある。
 しかし、何もしないということでは状況は改善しない。「均衡処遇ルール」を直ちに法制化することが難しいとしても、そこに向かっていくことを確実にするための方策について考える必要がある。
 第一に、上記、「均衡処遇ルール」の具体的な内容の明確化が考えられる。「均衡処遇ルール」への道筋を確実にするためには、まず、企業に対し、そのルールにおいて具体的に何をすることを求めるのかを明確に示し、それについて社会的醸成を図っていくことが必要である。例えば、(1)(ニ)で検討されたルールでは、「『同一職務・合理的理由なしケース』においては、パートの処遇決定方式を正社員に合わせることを求める」とされたが、その場合の「合理的理由」の内容は何か、それぞれのケースにおいて求められる「均衡配慮措置」の内容は何かについて具体的に示すということである。このため、これらのことを具体的に示すガイドラインを策定することがまず必要と考えられる。
 さらに、このルールの遵守を図るための法制の道筋としては、(1)現状でも相対的に遵守可能性の高い均衡配慮措置を「同一職務・合理的理由なしケース」を含め、幅広く求める法整備を先行させ、環境が整った後に同ケースにおける均等待遇を求める法整備を加えるやり方と、(2)均衡配慮措置の場合、法的実効性が弱いことから、時間はかかっても、最初から均等待遇も含めた法整備を行うやり方とが考えられる。ただ、(1)の考え方に立つとしても、法的に求める均衡配慮措置の内容、配慮を求める対象範囲等について十分な吟味が必要であることは言うまでもない。いずれにしても、法整備については、企業の雇用意欲を削ぐことのないように時機を計りつつ、また、労使を含めた国民的合意形成を推進しながら、検討していく必要がある。
 また、これらは公正なルールの確立のための制度改革であるが、IIIの1の基本的考え方からすると、企業にとって雇用の柔軟性を増す他の制度改革と併せて進めていくことが有効と考えられる。
 第二に考えられるのは、処遇決定等へのパートの実質的参加の促進である。Iでみたように、通常労働者に比べてパートの組合組織率は著しく低い。労使交渉は処遇決定の重要なプロセスであるが、そこにパートの声が十分反映されていないことが、正社員とパートの処遇格差を大きくしている側面もあると考えられる。
 このため、パートと正社員の均衡処遇の実現には、例えば、パートの処遇条件の決定にあたってパートの意見を聞くこととしたり、パートも含めた労使協議の推進により、処遇等の話し合いにパートの参加を促すことも有効と考えられる。このようなことにより、パートのみならず正社員も含めた公平な配分のあり方について、労使で話し合う環境が形成されることが均衡処遇の実現に向かわせる一つの方策になりうると考えられる。
 企業においても、社内人材が多様化していく中で、正社員のみならず、社内の人材すべての能力・意欲を最大限に引き出すことが重要になっている。これら多様な人材の間の利害調整や苦情処理を図り、それぞれの納得性やインセンティブを高めるという意味でも、多様な人材の参加できる労使協議の推進は、企業にとっても有効と考えられる。
 いずれにしても、I、IIでみたようなパートに関わる問題・課題について、社会全体の共通認識を深めながら、パート労働者の均衡処遇ルールを定めた法律の制定に向けて、その時機の検討と労使を含めた国民的な合意形成を進めていく必要がある。それを促進するためにも、また法律上定められる基本原則の内容を例示的に示していくためにも、何が均衡かについて具体的な内容を示したガイドライン(仮称)を早急に策定し、ルールの社会的な浸透・定着を図っていくことが重要である。

6月に発表された「年齢にかかわりなく働ける社会に関する有識者会議」中間とりまとめでも、多様な働き方を可能にするために「公正な処遇を社会的に確立していくことが重要であり、政府はパートタイム労働に関するガイドラインを策定するなど環境整備に努めるべきである」と提言されている。

(ロ) ガイドラインによる「均衡処遇」の具体的内容の明確化
本報告では、今後の検討に資するため、ガイドライン案を別添のとおり、作成した。ガイドライン案の中で、経営者に求めるルールの内容として整理されているのは以下のとおりである(本報告の別添参照)。

働きに応じた公正な処遇のための6つのルール

[雇用管理における透明性・納得性の向上]
ルール1 パート社員の処遇について常用フルタイム社員との違いやその理由について十分な説明を行うこと。
(なお、処遇の差について合理的理由と考えられるものを例示)
ルール2 処遇の決定プロセスに、パート社員の意思が反映されるよう、工夫すること。
ルール3 パート社員についても、仕事の内容・役割の変化や能力の向上に伴って、処遇を向上させる仕組みを作ること。
(なお、パートの昇進昇格制度のある事業所が3 割弱に上ること、キャリアアップ、昇進昇格制度などでパートの納得性や生産性を高めている事例を紹介)

[雇用管理区分間の行き来を可能にすること]
ルール4 パート社員の意欲、能力、適性等に応じて、常用フルタイム社員(あるいは短時間正社員)への転換の道を開くこと。
(なお、パートの正社員登用制度のある事業所(約3 割)で、最近3年間に登用された人数は一事業所あたり平均3.6人に上ることを示す。)

[雇用管理における公正なルールの確保]
ルール5 フルかパートかの違いだけで、現在の仕事、責任が同じであり、また異動の幅、頻度などで判断されるキャリア管理実態の違いも明らかでない場合は、処遇決定方式を合わせること。
(なお、こうしたパートは全体の4〜5%という調査結果を示す。)
ルール6 ルール5 に照らして、処遇決定方式を異にする合理性がある場合でも、現在の仕事、責任が同じであれば、処遇水準の均衡に配慮すること。
(なお、このような場合に処遇均衡のための配慮として具体的に考えられる取組を示す。また、参考値として、同様な仕事をしているパートが納得できると考える水準はパート、正社員、事業所ともに正社員の約8 割が平均値となっていることを示す。)

※ なお、均衡処遇に関わるケースで法的に争われた実例として丸子警報器事件(注)についてその内容を紹介する。

※ なお、ここでは、「正社員」のことを「常用フルタイム社員」、「パート」のことを「パート社員」と呼んでいる。

(注)丸子警報器事件

 原告ら臨時社員は、女性正社員と職種、作業内容が同じのみならず、労働時間もほとんど同じであり、2カ月毎の雇用期間の更新を形式的に繰り返して長期に勤続(4年〜25年)していたが、何ら措置を講ずることなく、女性正社員との賃金格差が拡大していった事案。原告らの賃金が、同じ勤続年数の女性正社員の8割以下となるとき、公序良俗に反し、違法になると判断された(長野地裁上田支部 平成8年3月15日判決)。
 原告・被告双方が控訴したが、控訴審において、給与を日給から月給にする、5年間月給の額を毎年3千円ずつ増額することにより5年後には正社員の9割前後にまで是正する等を内容とする和解が成立した(東京高裁 平成11年11月29日和解)。

(ハ) 事後的救済のための円滑なルートの整備
 現在、21世紀職業財団の短時間雇用管理アドバイザー等により、パート労働者を対象とした社会保険適用も含めた幅広い相談が行われている(図表39)。現状をみると個人からの主たる相談内容は、社会保険適用関係が多く、賃金等に関する相談は5.8%程度となっている。
 また昨年10月から施行された個別紛争処理システムにおいては、都道府県労働局について窓口を設け、広く労使間の個別紛争についてあっせんによる解決の道を開いている。今後、これらの機関がそれぞれの役割を明確にしつつ、有機的連携を図ることにより、トラブルが起きた時の事後的救済の円滑なルートが整備され、また、その過程で上記ガイドラインが活用されれば、均衡処遇の実効性を高めていくことにもつながるものと考えられる。

(ニ)「働きに応じた処遇」が広がっていくための評価・処遇手法の開発や実証の取組の推進
 IIでみたように「働きに応じた処遇」への流れは基幹的な役割を担いつつあるパートにとって望ましい方向であり、こうした企業の処遇の枠組みの中でパートも正当に評価されるようになれば、自ずから均衡処遇の実現につながることになる。その意味では、「働きに応じた処遇」を可能にする仕組みとして、個人の職業能力や成果を公正かつ客観的に評価できる手法の開発が重要である。
 現在、厚生労働省では、さまざまな職種での必要なスキルや能力開発のあり方を体系化した職業能力開発体系を活用して、各業界の労使との連携により、職業能力を適正に評価するための手法の開発を進めているが、こうしたノウハウがいわば公共財として企業において活用されるようになれば、「働きに応じた処遇」のための評価軸の確立に役立つことになると考えられる。

 ただ、こうした「働きに応じた処遇」やそれによって進むと考えられる「均衡処遇」の実践によって、実際に労働者のモラールや生産性にどのような影響が及ぶのかがわからないために、企業として、踏み出せないという事情もあると考えられる。その意味では、これらの取組を実践する際にどのような点に留意すれば経営にとってもプラスとなるのかが実証的に示されれば、企業にとって大きな道しるべとなる。
 先行企業の成果分析を進めるとともに、企業の取組を促進してその成果・ノウハウを社会的に蓄積するモデル事業を実施し、企業に対して情報提供を行うことも有効と考えられる。

4) 多様な働き方を行き来できる連続的な仕組みの促進

 IIの3で述べたように、行き来ができる仕組みには大きく2つが考えられる。
 第一は、フルタイム正社員として雇用されている者が、育児・家事、自己啓発等のライフステージの一定の時期に発生する必要に応じて正社員のまま短時間勤務として仕事を継続し、一定の時期の終了後に再びフルタイムに復帰ができる仕組みである。
 第二は、外部市場からの参入形態として、補助的パートだけではなく、意欲と能力に応じて、キャリアアップし、もっと基幹的な役割とそれに見合った処遇のパート、さらにはフルタイム正社員というように多様な働き方が可能になるような仕組みである。

 この二つの仕組みは、いずれも「基幹的であるが短時間」という働き方を共通項として持っている。行き来ができる仕組みを社会的に醸成していくために、これをいわばフルタイム正社員とパート非正社員のバイパスとして「短時間正社員」と位置づけ、これを政策的に広げていく方向性が考えられる(図表43)。この考え方は、決してフルタイム正社員やパート非正社員から分断された新たな雇用管理区分を作ろうとするものではない。両者をつなぐ中間的な働き方をなだらかに連続した形で創出し、両者の行き来を可能にするところに「短時間正社員」の意義がある。このような連続的な仕組みができていけば、実質的に処遇の均衡にもつながるものと考えられる。

(注)ここでは「短時間正社員」を「フルタイム正社員より一週間の所定労働時間は短いが、フルタイム正社員と同様の役割・責任を担い、同様の能力評価や賃金決定方式の適用を受ける労働者」と定義するものとする。

 こうした「短時間正社員制度」には、どの程度ニーズがあるのだろうか。図表44は「短時間正社員制度」を対象者別に4つに分類し、これに対する事業所の実態、意向を聞いたものである。導入が最も進んでいるのは、育児・介護休業法においても、勤務時間短縮等の措置の選択的措置義務の対象となっている「育児・介護を行う正社員」を対象とするものであり、ついで多いのは正社員で育児介護以外の理由の者を対象にしたものである。パート等の非正社員を対象としたものは現時点での導入は少ないが、検討中か今後検討可能性ありとした事業所が約2割ある。
 正社員に短時間正社員制度への希望を聞くと、「利用したい」が20%弱、「現在は利用しないが将来利用する可能性がある」が36%と利用への期待が高い(図表45)。
 また、パートに希望を聞くと、残業や転勤がほとんどない制度への利用希望が多いが、フルタイム正社員と同じような拘束性のある制度についても2割弱が利用したいと答えている(図表46)。

 事業所、正社員、パートそれぞれがある程度期待をもって見ているこの制度が広がっていくためには、どのようなことが課題となるのだろうか。正社員に現在の自分の仕事を複数の短時間正社員に分担することは可能かを聞くと、「工夫をすれば可能」が最も多く、工夫の内容としては、「仕事内容を明確化し、細分化する」が8割強、「分担する者同士で連絡をきちんと行う」が7割強、また「分担は不可能」という者にその理由を聞くと「内容的に不可分な仕事だから」が7割強、「連絡等の業務が多くなりすぎるから」が4割強、「特定の時間帯に常に対応できることが必要だから」が3割強となっている(図表47)。こうした回答から判断して、ある程度自己完結的に行える仕事や、分担が必要だとしてもあまり引継が煩雑にならない仕事などが短時間正社員の働き方に適していると考えられる。
 いずれにしても、こうした制度の導入については、仕事の引継や情報共有の面で生産性が低下しないようにするため、一定のノウハウが必要となるし、そもそも「短時間で働くこと」に対する企業の意識が変わることも必要である。今後これらの取組に対する行政支援をしていくことも必要と考えられる。また、こうした制度を広げていくためには5)にも関わるが、短時間勤務になると適用関係が変わる現在の社会保険制度の仕組みについても見直しが必要である。

5) 働き方に中立的な税・社会保険制度の構築

 Iでもみたように、パートの中には、本人の収入が一定額を超えると所得税や社会保険料がかかる、あるいは配偶者手当がもらえなくなる等の理由から、収入が一定額を超えないように就業調整を行う層が4割程度存在する。
 図表48は、就業調整をしている層と、していない層の勤続年数別の賃金カーブを比べたものであるが、就業調整パートの賃金カーブはフラットに近く、また時系列で見ても、非就業調整パートはそれなりに賃金カーブが上方にシフトしているのに対し、就業調整パートの賃金カーブはほとんどシフトしておらず、いわば天井に張りついている感が見られる。
 このように就業調整行動はパートの低賃金を助長している面があり、それはパートの能力向上意欲にもマイナスとなっていると考えられる。
 企業にとっても人材の有効活用や計画的人員配置を妨げている面がある。

 こうした就業調整の理由を聞くと、所得税の非課税限度額の関係で調整している層が3割強、税制上の控除がなくなるから調整している層が2割強と、税制の仕組みを理由として就業調整を行っている層が多い。
 しかし、図表49で示されるように、昭和62年に配偶者特別控除制度が導入されてからは税制についてのいわゆる逆転現象すなわち、パートの勤労収入が一定額を超えると世帯収入がかえって減少するという現象は解消されている。にもかかわらずこれを理由にした就業調整が多いのはなぜであろうか。
 非課税限度額である年収103万円を超えないように就業調整を行っているパートのうち7割強はこの額を超えると家計の手取りが減ると考えている。しかし配偶者の勤務先からの家族手当等が支給停止されることにより実際に手取りが減少する者はそのうち約5割であり、それ以外のパートは103万円で実際には手取りが減らないにも関わらず、減ると考えて就業調整をしていることになる(図表50)。また、これらのパートに103万のラインを超えても手取りが増えるとしたらどうするかという問いに、それでも就業調整すると答えたのは2割だった。この2割は、課税されること自体に強い抵抗感を持っている層とみられるが、それ以外の層は、現行の税制に対する誤解から就業調整行動を行っていると考えられることから、これらについては、すでに手取りの逆転現象が解消されている現在の税制についてまず正しい理解を促していくことが重要であると考えられる。
 なお、今後の税制の見直しにあたっては、配偶者に係る控除制度等のあり方についても、就業行動との関連も考慮しつつ、公平・中立・簡素の原則を踏まえて検討が行われることが望まれるが、その際、昭和62年以前のように、世帯の手取りの逆転現象が再び生じることのないようにすることが重要である。

 一方、健康保険、年金保険への加入義務が生じることを理由に就業調整しているパートも1割強存在する。これら社会保険については、年収130万円、通常労働者の4分の3の労働時間を超えると、保険料のかからない3号被保険者から、それぞれ保険料のかかる1号被保険者、2号被保険者に変わるため、このラインで実際に手取り収入の逆転現象が生じる構造となっている。また、2号被保険者になると、事業主にも保険料負担が生じるために、事業主がそこに至らない短時間の範囲でパートの就業時間を設定しているケースも多い(図表51)。
 上記のような就業調整行動による弊害を考えると、このような就業調整行動が起こりにくい、働き方に中立的な制度への見直しに向けた検討が望まれる。
 ちなみに、パートの社会保険の適用拡大について、「例えば、その範囲が現在通常労働者の4分の3から2分の1程度に拡大された場合、現在適用されていないパートが新たに社会保険の適用対象になるのを避けるために何らかの措置を講じるか」を聞いたところ、特段の措置は講じないと答えた企業が半数弱を占めた(図表52)。適用拡大によって、新たなラインで新たな就業調整が生じる可能性はあるものの、こうした企業の意向や現在のパートの所定労働時間の分布等を鑑みれば、それは現状に比べ、かなり少なくなるものとみられる。
 今後、「女性のライフスタイルの変化等に対応した年金のあり方に関する検討会報告」(平成13年12月)に示されたように、厚生年金の適用について、被用者にふさわしい年金保障の確立、とりわけパートが多い女性に対する年金保障の充実という観点から企業行動や労働市場への影響・効果、年金財政への影響等を踏まえつつ、適用拡大を行う方向で検討を進めるとともに、被用者保険として適用対象について共通の基準により運営されている医療保険制度においても、その取扱いについて検討を進めることが重要と考えられる。

 いずれにしても働き方に中立的となるように税・社会保険制度等の改革が進められていくことが、今後、柔軟で多様な働き方が望ましい形で広がっていくために重要な条件である。それはパートの能力発揮を進め、処遇の改善を図るためにも、また、企業が少子化に向けて、家庭責任のある男女や高齢者など時間制約のある人材の有効活用を図っていくためにも不可欠な条件と考えられる。

まとめ

(求められる方向性)

 これまでみてきたように、企業、個人、双方が柔軟で多様な働き方を求める方向を指し示している中で、パート等の働き方が拡大していくのは不可逆的な流れである。主に男性が若年、壮年の時期に集中的に働いて産業社会や家計を支えた時代から、女性や高齢者を含め、幅広い社会構成員がライフスタイルに合わせてゆとりを持って働く時代に変化しつつある。

(問題点と課題)

 ただ、現状をみると、パート等において基幹的な役割が増しているにもかかわらず、処遇や雇用保障の面で働きに見合った対応がなされているとは言い難い。正社員とパートとの大きな処遇差の中で正社員からパートへのシフトが加速しており、正社員雇用の入り口が狭まるなど、労働市場のアンバランスも広がっている。近年、若年のパート入職が急増している背景にも、若年者の意識の問題のみならず、こうした労働市場の問題が内在している。
 今後、多様な働き方の拡大は不可逆的な流れであるとしても、それが労働市場全体の不安定化や処遇条件の低下に結びつくのではなく、いわば多様な働き方が「望ましい」形で広がっていくためには、どうすればよいのか。それは今後のわが国の労働市場のあり方にも関わる重要課題である。
 同時に、多様な働き方が「望ましい」形で広がっていく仕組みができれば、それは少子化の下での社会の支え手の確保に寄与し、子育て後の魅力ある再就職の道を開くことにより少子化抑制にも寄与するものと考えられる。

(あるべき雇用システム)

 こうした課題への対応を考える上で、1,200万人を超えるパートのグループとしての大きさやフルタイムも含めた就業意識の変化を念頭に置かねばならない。すなわち部分的にパートの処遇改善をすればいいということではなく、フルタイム正社員の働き方や処遇のあり方も含めた雇用システム全体の見直しが必要である。
 一つの方向性として、現在の雇用システムを多元化し、フルタイムでも配転、残業などの拘束性の少ない働き方を中間形態として位置づけ、他方、パートであってもより基幹的な役割を果たすグループについては、やはりそこに位置づけ、その中では、フルとパートの評価・処遇の仕組みをできるだけ合わせていくという考え方がありうる。こうした多元化した仕組みの中で、フル、パートを問わず「働きに応じた処遇や雇用保障の仕組み」を確立していくことや、ライフステージの中でそれぞれの働き方の行き来が可能となる「連続的な仕組み」を構築していくことが根本的な問題解決への道であると考えられる。

(政策課題)

 問題は、こうした仕組み作りをいかに進めていくかであるが、それはすでに進みつつある複線型人事管理や仕事・能力・成果で評価する処遇制度の流れの延長線上にあるものであり、企業の雇用処遇システムは、こうした仕組みを形成する途上にあると考えられる。これを政策的に推進していくための条件は何か。
 いま、労使の間でワークシェアリングの議論が活発化しているが、こうした機会をとらえて多様な働き方が広がる中での雇用処遇システム全体のあり方について大所高所からの議論が行われ、

・企業側は、自らの活性化のために、パートの戦力化や働きに見合った処遇を進めることの重要性を、
・労働側は、パートのみならず、正社員の雇用安定のためにも、パートの処遇向上を正社員の処遇を見直してでも進めることの重要性を、
ともに強く認識する中で、正社員、パートの双方が「働きに見合って処遇される」仕組みについて労使間の包括的な合意に至ることが期待される。
 政府は、こうした労使の取組を推進するべく、多様な働き方がより望ましい形で広がっていくための制度改革を着実に実行していくべきである。実行にあたっては、「企業の雇用の選択肢を拡大する方向での制度改革の要素」と「多様な働き方の下での雇用保障や処遇についての公正なルール確保の要素」の両面を有機的に組み合わせ、総合的なパッケージとして進めていくことが大切である。
 前者の要素としては、派遣労働者の拡大、有期労働契約の拡大、裁量労働制の拡大など就労形態の多様化を可能とする制度改革が中心となるが、後者の要素としては、(1)パートについての日本型均衡処遇ルールの確立、(2)フルとパートの行き来ができる仕組みの推進、(3)働き方に中立的な税・社会保険制度の構築、などの制度改革や環境整備が重要である。
 このうち、(1)については、「フルかパートかにかかわらず、働き方が同じであれば、同じ評価の枠組みの中で処遇する」というルールを確立するための法整備について国民的合意を進めていくことが必要であり、そのためにもルールの具体的な内容をわかりやすく事業主等に示すためのガイドラインを策定すべき(別添ガイドライン案参照)である。
 (2)については、フルとパートの行き来ができる仕組みを社会的に醸成していく上で、フルタイム正社員とパート非正社員のバイパスとしての「短時間正社員制度」を政策的に広げていくことが有効であると考えられることから、企業のこうした制度導入への取組への支援のあり方を検討すべきである。
 (3)については、税、社会保険制度の関係で、収入が一定額を超えないようにする就業調整行動については、低賃金を助長し、能力発揮への妨げにもなっていることから、年金制度等について、適用拡大による労使の保険料負担の増加に配慮しつつ、パートに対して被用者にふさわしい年金保障を行うことの重要性を認識する中で、パートへの適用拡大を行う方向で検討を進めることが必要である。


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