治験薬に係わる賠償責任保険のご案内
株式会社 損害保険ジャパン
1.治験実施中の事故と保険
平成9年3月に新GCP(医薬品の臨床試験の実施に関する省令)が公布されたことにより、製薬業界の皆様より新GCPの基準に合わせた新保険創設のご要望を賜っておりました。
<1>従来の治験に係わる保険 (1)製薬会社の賠償責任・・・治験薬PL保険(生産物賠償責任保険) 治験薬(プラセボ、プロトコールを含みます。)に起因して、被験者の生命または身体を害した場合に、製薬会社が法律上の賠償責任を負担することによって被る損害をてん補する保険です。 (2)治験実施医療機関と医師の賠償責任・・・医師賠償責任保険 治験中の医療行為に起因して、被験者の生命または身体を害した場合に、治験実施医療機関ならびに医師が法律上の賠償責任を負担することによって被る損害をてん補する保険です。 |
↓
<2>製薬業界からのご要望 新GCP対応型の新保険創設
→新GCPでいう補償責任をカバーする条項を設計して欲しい。 |
<ご参考:当事者関係図>
|
治験 契約 ←→ |
|
診療 契約 ←→ インフォームド・ コンセント |
|
||||
|
*被験者に対する説明事項 被験者が受けることができる補償 |
2.新治験保険の概要
ご案内する新治験保険の概要は以下のとおりです。「補償責任担保条項」のみのお引き受けはできませんのでご留意ください。
<1>新治験保険(生産物賠償責任保険)の約款構成
(1)保険約款
|
||
+ | ||
|
*治験薬に起因する賠償責任を担保する追加条項です。 | |
+ | ||
|
*健康被害に関する補償責任を担保する追加条項です。 |
(2)担保する損害
イ.治験薬に関する追加条項
治験薬等(プラセボ・プロトコールを含みます。)に起因して、被験者の生命または身体を害した場合に、被保険者が法律上の賠償責任を負担することによって被る損害をてん補します。
(従来と同様の賠償責任です。)
ロ.補償責任担保条項
治験に起因して、被験者が健康被害を被った場合に、新GCPにより治験依頼者が負担する補償金をてん補します。
(新GCP対応です。)
(3)お支払いする保険金
イ.(賠償責任)
●損害賠償金
●争訟費用
●応急手当、緊急措置に要する費用
ロ.補償責任
●ガイドラインによる補償金
ただし、予め約定した保険金額を上限とし、死亡ならびに後遺障害を対象とします。
(4)保険の対象にならない主な損害
次のような損害については、保険金のお支払いができません。
(1)故意によって生じた損害賠償。
(2)貴社の従業員が貴社の業務に従事中に被った身体障害に起因する賠償損害
(注) | 第1相試験において、貴社の従業員が被験者となられた場合には、通常政府労災保険の給付対象とならないため、この免責条項が適用されることはありません。 |
(3)貴社と第三者との間に損害賠償に関する特約がある場合に、その特約によって加重された賠償損害。
(4)貴社が、故意または重大な過失により、法令に違反して生産または引き渡した治験薬に起因する賠償損害。
(注) | 薬事法等の法令に対する著しい違反があった場合にのみ適用します。 |
(5)治験薬が意図した効能を発揮しないことに起因する賠償損害。
(注) | 制がん効果を意図した治験薬がその効果を発揮せず被験者が死亡したような場合の賠償損害を免責とするものです。なお、副作用等の本来意図しなかった悪影響についての賠償損害は本保険の対象になります。 |
(また、プラセボ投与により、被験者の症状が悪化した場合もお支払い対象とはなりません。) |
(6)胎児、胎芽、または卵子等の障害または異常に起因する賠償損害。
(7)治験薬の回収、検査、交換、その他これに類する処置を講ずることにより貴社が負担する費用損害。
<2>補償責任担保追加条項の概要
医薬品企業法務研究会平成10年特別研究部会報告で発表された「治験補償ガイドライン」に規定された補償責任をカバーする追加条項です。
<補償責任と保険との関係>
|
保険金額は、ガイドラインに合わせ、「患者を被験者とする治験」と「健常人を被験者とする治験」に分けて設定します。
(1)患者を被験者とする治験の補償金額
(1)補償基準→医薬品副作用被害救済・研究振興調査機構でいう死亡、後遺障害1級・2級となります。
(2)補償額 →医薬品副作用被害救済・研究振興調査機構に準じますが、以下の金額が標準保険金額となります。
○死亡補償金
●生計維持者が死亡した場合 | : | 2,000万円 | |
●生計維持者以外が死亡した場合 | : | 700万円 |
○後遺障害補償金
●生計維持者が後遺障害となった場合
●生計維持者以外が後遺障害となった場合
(2)健常人を被験者とする補償金額
(1)補償基準→政府労災でいう死亡、後遺障害1級〜14級に限定します。
(2)補償額 →政府労災に準じますが、以下の金額が標準保険金額となります。
○死亡補償金
●生計維持者が死亡した場合 | : | 4,000万円 | |
●生計維持者以外が死亡した場合 | : | 1,800万円 |
○後遺障害補償金
|
|
(3)お支払いできない主な場合
○被保険者、保険契約者または医療機関等の故意または重過失
○被験者の故意
○被保険者の従業員が被保険者の業務に従事中に被った身体障害
○治験薬が意図した効能を発揮しない場合
(プラセボ投与により、被験者の症状が悪化した場合もお支払い対象とはなりません。)
○胎児、胎芽、または卵子等の障害または異常に起因する場合
○治験の開始以前または終了以後の医療行為に起因する場合
3.保険料お見積りにあたって
保険料は以下の内容が記載された「プロトコール」「補償の手順書」等をご提出いただくことにより別途算出させていただきます。
(1) 治験薬の内容(名称、適応症など)
(2) 治験の実施方法(投与方法、投与容量、各相別期間など)
(3) 被験者の選定方法(各相別の被験者の内容、人数など)
(4) 必要とする各相別症例数
(5) 予想される副作用
(6) 同効薬の有無(外国におけるものを含む)
(7) 主な治験の実施施設、実施機関
(8) 被験者の同意書(または被験者との契約書)写
(9) 治験実施機関との契約書写
(10) 賠償または補償に係わる約定がある場合はその写
(11) その他参考資料
(注) | 保険契約は1治験ごとに行っていただくため、保険料もその都度算出することになります。 |
以上
ご参考 |
(1)薬事法 第80条の2第5項(治験の取扱い)
「治験の依頼をした者は、厚生省令で定める基準に従って、治験をしなければ ならない」
(2)医薬品の臨床試験の実施に関する省令 第14条(被験者に対する補償措置)
「治験の依頼をしようとする者は、あらかじめ、治験に係る被験者に生じた健康被害(受託者の業務により生じたものを含む。)の補償のために、保険その他の必要な措置を講じておかなければならない」
(3)医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令の施行について
○治験に関連して被験者に健康被害が生じた場合には、過失によるものであるか否かを問わず、被験者の損失は適切に補償されなければならない。その際、因果関係の証明等について被験者に負担を課すことがないようにしなければならない。(3-14)
○開発業務受託機関に、治験依頼者ともに、当該受託機関により生じた健康被害の治療に要する費用費用その他の損失を補償するための手順を定めるとともに、その履行を確保するために、保険のその他の措置を講じておかなければならない。(8-2-5)
(4)医薬品副作用被害救済・研究振興調査機構との関係
機構の対象となる医薬品・・・薬事法第2条第1項に規定する医薬品
(注)薬事法第80条の2に規定する治験薬は対象外
(5)補償ガイドラインの骨子(医薬品企業法務研究会平成10年度特別研究部会発表)
<補償原則>
○治験依頼者に法的責任が無くとも補償する。(補償責任の明記)
○被験者の損害賠償請求権を妨げない。
○治験に起因した健康被害であれば補償する。(救済する)
*白箱を使った市販後臨床試験にあってはガイドラインを適用する。
○健康人と患者に分けて対応する。
○補償の内容は、医療費・医療手当・補償金とする。
<補償の除外>
○機会原因に起因するものには補償しない。
○因果関係が否定されるものには補償しない。
○治験終了後の継続提供にあっては、賠償責任は追うが、補償責任は負わない。
<補償の制限>
○効能不発揮には原則として補償しない。
○プラセボ投与により治療上の利益を受けられなかったとしても原則として補償しない。
○治験実施計画書からの逸脱、第三者の違法行為または不履行、被験者の故意または重過失によるよるものには補償がされないか制限される。
<補償基準>
○医療費は、被験者の健康保険等からの給付を除く被験者の自己負担額を償還する。
○医療手当ては医薬品副作用被害救済制度に準じて支払う。
○補償金は、健常人を対象とした試験にあっては政府労災給付金を、患者を対象とした試験にあっては医薬品副作用被害者救済制度の給付金に準じて支払う。
<補償ルール>
○補償責任を自発的に果たす。
○因果関係否定の立証責任は治験依頼者が負う。
<判定委員会>
○不服の申し立てには、治験依頼者の費用負担で中立的な第三者の判定を被験者、治験依頼者双方が尊重する。
○判定委員会の判定に不服がある場合、民事責任ルールによる。
○判定委員会は損害賠償請求には関与しない。