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指導医と指導体制

臨床研修指導医と指導体制(案)

 医師は生涯にわたって研鑽を積むことが義務付けられている。そのうち、卒後臨床研修は、我が国の将来の医療を支える医師が基本的医療技能を習得するための重要な初期研修の期間として位置付けられる。この卒後臨床研修期間を如何に有効なものとするかが、研修医各人の将来の臨床能力開発に大きく影響するものである。医師育成にとって重要な期間である卒後臨床研修が効率よく行われるためには、研修指導医の役割に負うところが大きいが、これまで、指導医の重要性については十分に認識されていない。臨床の場では、先輩医師が後輩医師を教育するという古くからの慣習が継続され、医師教育において実績を上げてきた経緯があるが、医師の初期教育をより効果的なものとするためには、単に先輩医師が後輩医師を教育するという図式のみでは成果を上げることは出来ないくらい、現在の医学・医療に必要な基本的技能は、量的・質的に大きく向上している。EBMに基づいた医療、透明性のある医療、患者に優しい全人的医療が国民から求められている現在の医療現場において、国民の要請に即応して活躍する医師を育成するためには、科学的教育方法に基づいた初期研修が行われなければならない。卒後臨床研修を行う医師国家試験合格者のほとんどは、座学による医学知識を備えてはいるものの、実際の臨床現場での経験を持ち合わせておらず、採血や創傷処置などの簡単な臨床技術さえ会得していないのが実状である。そのため、初期研修においては、医療の現場を頭で理解するのではなく、体に覚えこませる教育が必要であり、科学的根拠に基づく教育法を身につけた適切な指導医を身近においた臨床研修が行われなければならない。近年のIT技術の開発は、医療分野においても多くの情報交換を可能にしている。しかし、研修医に対する指導は、指導医が、研修医の身近にいて、知識や経験則の伝授、基本的な医療技術の手ほどき等を行うとともに、研修医の精神心理面にも配慮しながら行わなければならず、これらをIT技術を導入した遠隔的な指導で行うことは困難であろう。また、これから基本的医療技能を習得しようとする研修医には、有能な指導医による適切な指導と支援があることではじめてITによる情報が利用できるものであり、それなしのIT情報の活用は、医療事故を誘発しかねず、ひいては、国民に提供すべき医療の質の低下を来すものとなりかねない。また、これまでの経験主義のみに頼った医師初期教育の継続では医療の低質化を招き、本来目的とする良質の医療を提供するための卒後臨床研修制度と大きくかけ離れた状況を作り出すことになる。このような背景を勘案して、卒後臨床研修における指導医の重要性とそのあり方について提言する。

卒後臨床研修における指導医・指導体制の在り方

I 研修医指導の基本的考え方

(1) EBMに則った科学的指導

(2) 研修医個人に着目した個別指導

(3) 人間性豊かな指導


II 指導医の業務

(1) 患者-医師関係の在り方、チーム医療のあり方、安全管理への対応、問題対応能力の開発、医療に対する考え方、EBMに基づく医療の実践、医療保険、医事・薬事法制などの教育

(2) 診察法、採血、注射、創傷処置などの基本的医療技術の教育

(3) 患者情報の収集法と解析法の教育

(4) 検査計画の立案と検査結果の解析法の教育

(5) 鑑別診断の立て方と診断の決定法、治療の選択などを行う思考法の教育と開発

(6) 基本的な検査技術、治療技術の教育

(7) 研修医による症例のプレゼンテーション、学会発表の指導

(8) 医療の安全・危機管理教育の徹底

(9) 研修医のモチベーション向上を目指した教育

(10) 研修ならびに研修指導の評価と指導法の開発と改善

(11) 自己の医療技能の開発   など


III 指導医の資格

 指導医は、基本的診療に関する幅広い知識と技能を持ち、人格的にも優れた素養をもつ人材であること。

1 病院診療の指導医

(1)  指導医は、臨床経験10年以上で、かつ、2年以上の医学部学生あるいは研修医の指導経験を持つ者が望ましい。

(2)  卒後臨床研修センターなどが開催する研修指導医講習会、ワークショップなどを受講した者。

(3)  学会専門医の資格を持つ者。


2 保健・福祉施設、高齢者福祉・介護施設、終末期医療施設などの指導医

(1) 臨床経験10年以上で、それぞれの分野における3年以上の経験を持つ者が望ましい。

(2) 指導医のための講習会/ワークショップなどの受講者。

(3) 医学部学生の指導経験を持っている者。

(4) それぞれの専門分野における認定を受けた者。


IV 指導医の処遇

(1) 研修指導医、指導助手(臨床経験3年以上の上級医)に対して手当を支給する。

(2) 研修指導医を勤めたことを将来のプロモーションのための履歴として認定する。

(3) 指導医を志す者が学会専門医の資格を取得できる環境や指導医のための講習会、ワークショップなどに参加できる環境を整備する。

(4) 指導医が研修医の指導が出来る時間的余裕を持たせる勤務体制を構築する。


V 指導体制

(1) 研修拠点施設(研修拠点病院)の病院長は、「卒後臨床研修センター」を設置し、卒後臨床研修センターに指導医を登録し、公表する。

(2) 指導医は、卒後臨床研修センターとの連携のもとに研修プログラムにそった研修指導を行い、研修医各人の研修プログラムの進行度合いを勘案してプログラムの微調整を行う。

(3) 卒後臨床研修センターは、指導医の意見を聴取して研修プログラムの調整・改善を行う。

(4) 研修医の指導に当たっては、「研修医?指導助手(臨床経験3年以上の上級医)?指導医」の体制を取り、1人の研修医に少なくとも2人以上の上級医の参加による屋根瓦方式の指導体制をとる。

(5) 指導医は、毎日一定時間、医療現場において研修医の指導に当たる。

(6) 上級医が研修医の医療行為のチェックが出来る指導体制をとる(カウンターサインなど)。

(7) 研修医の指導に当たって、看護師・コメデイカル職員の協力体制を構築する。

(8) 卒後臨床研修センターは、「研修手帳」を発行し、研修医に配布する。研修終了時に研修手帳を提出させる。

(9) 研修医は、指導医のもとで経験した医療行為などを研修手帳に記録する。指導医は、研修手帳に指導医の意見を記載する。

(10) 卒後臨床研修センターは、随時、研修医、指導医それぞれの意見を聴取しながら研修の円滑な進行をはかり、提出された研修手帳をもとに研修評価を行う。



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