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カリキュラム


卒後臨床研修におけるコア・カリキュラム(案)

 卒後研修における医学的知識は、卒前に獲得した想起レベルの知識を問題解決レベルまで深める必要がある。卒後臨床研修では、知識の量の増加よりも、問題解決能力の習得のほうがはるかに重要である。また、ここに示したカリキュラムはあくまでも最大公約数であり、各卒後臨床研修施設においてより良いものを作成すべきと考える。


1.臨床研修の一般目標と行動目標

【一般目標】

 医師として、医学・医療の社会的ニーズを認識しつつ、日常診療で頻繁に遭遇する病気や病態に適切に対応できるよう、幅広い基本的な臨床能力(態度、技能、知識)を身につける。


【行動目標】

1.患者−医師関係

 患者を全人的に理解し、患者・家族と良好な人間関係を確立するために、

1)患者、家族のニーズを身体・心理・社会的側面から把握できる。

2)医師、患者・家族がともに納得できる医療を行うためのインフォームドコンセントが実施できる。

3)守秘義務を果たし、プライバシーへの配慮ができる。


2.チーム医療

 医療チームの構成員としての役割を理解し、医療・福祉・保健の幅広い職種からなる他のメンバーと協調するために、

1)指導医や専門医に適切なタイミングでコンサルテーションができる。

2)上級および同僚医師、他の医療従事者と適切なコミュニケーションがとれる。

3)同僚及び後輩へ教育的配慮ができる。

4)患者の転入、転出にあたり情報を交換できる。

5)関係機関や諸団体の担当者とコミュニケーションがとれる。


3.問題対応能力

 患者の問題を把握し、問題対応型の思考を行い、生涯にわたる自己学習の習慣を身につけるために、

1)臨床上の疑問点を解決するための情報を収集して評価し、当該患者への適応を判断できる(EBM =Evidence Based Medicineの実践ができる)。

2)自己評価および第三者による評価をふまえた問題対応能力の改善ができる。

3)研究や学会活動に関心を持つ。

4)自己管理能力を身につけ、生涯にわたり基本的臨床能力の向上に努める。


4.安全管理

 患者ならびに医療従事者にとって安全な医療を遂行し、安全管理の方策を身につけ、危機管理に参画するために、

1)医療現場での安全確認を理解し、実施できる。

2)医療事故防止及び事故後の対処について、マニュアルなどに沿って行動できる。

3)院内感染対策(Standard Precautionsを含む)を理解し、実施できる。


5.医療面接

 患者・家族との信頼関係を構築し、診断・治療に必要な情報が得られるような医療面接を実施するために、

1)医療面接におけるコミュニケーションのもつ意義を理解し、コミュニケーションスキルを身につけ、患者の解釈モデル、受診動機、受療行動を把握できる。

2)患者の病歴(主訴、現病歴、既往歴、家族歴、生活・職業歴、系統的レビュー)の聴取と記録ができる。

3)インフォームドコンセントのもとに、患者・家族への適切な指示、指導ができる。


6.身体診察

 病態の正確な把握ができるよう、全身にわたる身体診察を系統的に実施し、記載するために、

1)全身の観察(バイタルサインと精神状態の把握、皮膚や表在リンパ節の診察を含む)ができ、記載できる。

2)頭頸部の診察(眼瞼・結膜、眼底、外耳道、鼻腔口腔、咽頭の観察、甲状腺の触診を含む)ができ、記載できる。

3)胸部の診察(乳房の診察を含む)ができ、記載できる。

4)腹部の診察(直腸診を含む)ができ、記載できる。

5)泌尿・生殖器の診察(産婦人科的診察を含む)ができ、記載できる。

6)骨・関節・筋肉系の診察ができ、記載できる。

7)神経学的診察ができ、記載できる。

8)小児の診察(生理的所見と病的所見の鑑別を含む)ができ、記載できる。

9)精神面の診察ができ、記載できる。


7.臨床検査

 病態と臨床経過を把握し、医療面接と身体診察から得られた情報をもとに必要な検査を、

{ A=自ら実施し、結果を解釈できる。
B=指示し、結果を解釈できる。
C=指示し、専門家の意見に基づき結果を解釈できる。

1)一般尿検査 (尿沈渣顕微鏡検査を含む)(A)

2)便検査:潜血(A)、虫卵 (B)

3)血算・白血球分画 (A)

4)血液型判定・交差適合試験 (A)

5)心電図(12誘導) (A)、負荷心電図(C)

6)動脈血ガス分析 (A)

7)血液生化学的検査 (B)

8)血液免疫血清学的検査(免疫細胞検査、アレルギー検査を含む)(B)

9)細菌学的検査・薬剤感受性検査 (B)

10)肺機能検査 (B)

11)髄液検査 (B)

12)細胞診検体(喀痰、腹水など)の採取と処理(A)
   細胞診・病理組織検査 (C)

13)内視鏡検査 (C)

14)超音波検査 (B)

15)単純X線検査 (B)

16)造影X線検査 (C)

17)X線CT検査 (C)

18)MRI検査 (C)

19)核医学検査 (C)

20)神経生理学的検査(脳波・筋電図など)(C)


8.基本的手技

 基本的手技の適応を決定し、実施するために、

1)一次及び二次救命処置ができる 。(13.行動目標4を参照)

2)圧迫止血法を実施できる。

3)包帯法を実施できる。

4)注射法(皮内、皮下、筋肉、点滴、静脈確保、中心静脈確保)を実施できる。

5)採血法(静脈血、動脈血)を実施できる。

6)穿刺法(腰椎、胸腔、腹腔)を実施できる。

7)導尿法を実施できる。

8)浣腸を実施できる。

9)ドレーン・チューブ類の管理ができる。

10)胃管の挿入と管理ができる。

11)局所麻酔法を実施できる。

12)創部消毒とガーゼ交換を実施できる。

13)簡単な切開・排膿を実施できる。

14)皮膚縫合法を実施できる。

15)軽度の外傷・熱傷の処置を実施できる。


9.基本的治療法

 基本的治療法の適応を決定し、適切に実施するために、

1)療養指導(安静度、体位、食事、入浴、排泄、環境整備を含む)ができる。

2)薬物の作用、副作用、相互作用について理解し、薬物治療(抗菌薬、副腎皮質ステロイド薬、解熱薬、麻薬を含む)ができる。

3)輸液ができる。

4)輸血(成分輸血を含む)による効果と副作用について理解し、輸血が実施できる。


10.医療記録

 チーム医療や法規との関連で重要な医療記録を適切に作成し、管理するために、

1)診療録(退院時サマリーを含む)をPOS (Problem Oriented System) に従って記載し管理できる。

2)処方箋、指示箋を作成し、管理できる。

3)診断書、死亡診断書(死体検案書を含む)、その他の証明書を作成し、管理できる。

4)剖検所見の記載・要約作成に参加し、診療の向上に役立てることができる。

5)紹介状と、紹介状への返信を作成でき、それを管理できる。


11.症例呈示

 チーム医療の実践と自己の臨床能力向上に不可欠な、症例呈示と意見交換を行うために、

1)症例呈示と討論ができる。

2)臨床症例(剖検症例も含む)に関するカンファレンスや学術集会に参加する。


12.診療計画

 保健・医療・福祉の各側面に配慮しつつ、診療計画を作成し、評価するために、

1)診療計画(診断、治療、患者・家族への説明を含む)を作成できる。

2)診療ガイドラインやクリニカルパスを理解し活用できる。

3)入退院の適応を判断できる(デイサージャリー症例を含む)。

4)QOL(Quality of Life)を考慮にいれた総合的な管理計画(社会復帰、在宅医療、介護を含む)へ参画する。

5)社会福祉施設の役割について理解する。

6)地域保健・健康増進(保健所機能への理解を含む)について理解する。


13.救急医療

 生命や機能的予後に係わる、緊急を要する病態や疾病、外傷に対して適切な対応をするために、

1)バイタルサインの把握ができる。

2)重症度および緊急度の把握ができる。

3)ショックの診断と治療ができる。

4)二次救命処置 (ACLS = Advanced Cardiovascular Life Support、呼吸・循環管理を含む)ができ、一次救命処置(BLS = Basic Life Support)を指導できる。

※ ACLSは、バッグ・バルブ・マスク等を使う心肺蘇生法や除細動、気管挿管、薬剤投与等の一定のガイドラインに基づく救命処置を含み、BLSには、気道確保、心臓マッサージ、人工呼吸等の、機器を使用しない処置が含まれる。

5)頻度の高い救急疾患の初期治療ができる。

6)専門医への適切なコンサルテーションができる。

7)大災害時の救急医療体制を理解し、自己の役割を把握できる。


14.予防医療

 予防医療の理念を理解し、地域や臨床の場での実践に参画するために、

1)食事・運動・禁煙指導とストレスマネージメントができる。

2)性感染症(エイズを含む)予防、家族計画指導に参画できる。

3)地域・職場・学校検診に参画できる。

4)予防接種に参画できる。


15.緩和・終末期医療

 緩和・終末期医療を必要とする患者とその家族に対して、全人的に対応するために、

1)心理社会的側面への配慮ができる。

2)緩和ケア(WHO方式がん疼痛治療法を含む)に参加できる。

3)告知をめぐる諸問題への配慮ができる。

4)死生観・宗教観などへの配慮ができる。


16.医療の社会性

 医療の持つ社会的側面の重要性を理解し、社会に貢献するために、

1)保健医療法規・制度を説明できる。

2)医療保険、公費負担医療を説明できる。

3)医の倫理・生命倫理について説明できる。

4)虐待について説明できる。


2.経験すべき症状・病態

 研修の最大の目的は、患者の呈する症状と身体所見、簡単な検査所見に基づいた鑑別診断、初期治療を的確に行う能力を獲得することにある。

(1)頻度の高い症状

 以下の症状について、最低限90%は経験することが望ましい。

1)全身倦怠感

2)不眠

3)食欲不振

4)体重減少、体重増加

5)浮腫

6)リンパ節腫脹

7)発疹

8)黄疸

9)発熱

10)頭痛

11)めまい

12)失神

13)けいれん発作

14)視力障害

15)結膜の充血

16)聴覚障害

17)鼻出血

18)嗄声

19)胸痛

20)動悸

21)呼吸困難

22)咳・痰

23)嘔気・嘔吐

24)胸やけ

25)嚥下困難

26)腹痛

27)便通異常(下痢、便秘)

28)腰痛

29)関節痛

30)歩行障害

31)四肢のしびれ

32)血尿

33)排尿障害(尿失禁・排尿困難)

34) 尿量異常

35) 不安・抑うつ


(2)緊急を要する症状・病態

 以下の症状・病態について、最低限90%は経験することが望ましい。

1)心肺停止

2)ショック

3)意識障害

4)脳血管障害

5)急性呼吸不全

6)急性心不全

7)急性冠症候群

8)急性腹症

9)急性消化管出血

10)急性腎不全

11)流・早産および満期産

12)急性感染症

13)外傷

14)急性中毒

15)誤飲、誤嚥

16)熱傷

17)精神科領域の救急


(3)経験が求められる疾患・病態

 以下の疾患・病態について、※のものは必ず経験すること。さらに、全体の最低限70%は経験することが望ましい。

(1)血液・造血器・リンパ網内系疾患

※(1)貧血(鉄欠乏貧血、二次性貧血)

(2)白血病

(3)悪性リンパ腫

(4)出血傾向・紫斑病(播種性血管内凝固症候群:DIC)


(2)神経系疾患

※(1)脳・脊髄血管障害(脳梗塞、脳内出血、くも膜下出血)

※(2)痴呆性疾患

(3)脳・脊髄外傷(頭部外傷、急性硬膜外・硬膜下血腫)

(4)変性疾患(パーキンソン病)

(5)脳炎・髄膜炎


(3)皮膚系疾患

※(1)湿疹・皮膚炎群(接触皮膚炎、アトピー性皮膚炎)

※(2)蕁麻疹

(3)薬疹

(4)皮膚感染症


(4)運動器(筋骨格)系疾患

(1)骨折

(2)関節の脱臼、亜脱臼、捻挫、靱帯損傷

※(3)骨粗鬆症

(4)腰椎椎間板ヘルニア


(5)循環器系疾患

※(1)心不全

※(2)狭心症、心筋梗塞

(3)心筋症

(4)不整脈(主要な頻脈性、徐脈性不整脈)

(5)弁膜症(僧帽弁膜症、大動脈弁膜症)

(6)動脈疾患(動脈硬化症、大動脈解離)

(7)静脈・リンパ管疾患(深部静脈血栓症、下肢静脈瘤、リンパ浮腫)

※(8)高血圧症(本態性、二次性高血圧症)


(6)呼吸器系疾患

※(1)呼吸不全

※(2)呼吸器感染症

※(3)閉塞性・拘束性肺疾患(気管支炎、気管支喘息、気管支拡張症)

(4)肺循環障害(肺塞栓・肺梗塞)

(5)異常呼吸(過換気症候群)

(6)胸膜、縦隔、横隔膜疾患(自然気胸、胸膜炎)

(7)肺癌


(7)消化器系疾患

※(1)食道・胃・十二指腸疾患(食道静脈瘤、胃癌、消化性潰瘍、慢性胃炎)

(2)小腸・大腸疾患(イレウス、急性虫垂炎、痔核・痔瘻)

(3)胆嚢・胆管疾患(胆石、胆嚢炎、胆管炎)

※(4)肝疾患(ウイルス性肝炎、急性・慢性肝炎、肝硬変、肝癌、アルコール性肝障害、薬物性肝障害)

(5)膵臓疾患(急性・慢性膵炎)

(6)横隔膜・腹壁・腹膜(腹膜炎、急性腹症、ヘルニア)


(8)腎・尿路系(体液・電解質バランスを含む)疾患

※(1)腎不全(急性・慢性腎不全、透析)

(2)原発性糸球体疾患(急性・慢性糸球体腎炎症候群、ネフローゼ症候群)

※(3)全身性疾患による腎障害(糖尿病性腎症)

(4)泌尿器科的腎・尿路疾患(尿路結石、尿路感染症)


(9)妊娠分娩と生殖器疾患

(1)妊娠分娩(正常妊娠、流産、早産、正常分娩、産科出血、乳腺炎)

(2)女性生殖器およびその関連疾患(無月経、思春期・更年期障害、外陰・腟・骨盤内感染症、骨盤内腫瘍、乳腺腫瘍)

(3)男性生殖器疾患(前立腺疾患、勃起障害、精巣腫瘍)


(10)内分泌・栄養・代謝系疾患

(1)視床下部・下垂体疾患(下垂体機能障害)

(2)甲状腺疾患(甲状腺機能亢進症、甲状腺機能低下症)

(3)副腎不全

※(4)糖代謝異常(糖尿病、糖尿病の合併症、低血糖)

※(5)高脂血症

(6)蛋白および核酸代謝異常(高尿酸血症)


(11)眼・視覚系疾患

(1)屈折異常(近視、遠視、乱視)

(2)角結膜炎

(3)白内障

(4)緑内障

※(5)糖尿病、高血圧・動脈硬化による眼底変化


(12)耳鼻・咽喉・口腔系疾患

(1)中耳炎

(2)急性・慢性副鼻腔炎

(3)アレルギー性鼻炎

(4)扁桃の急性・慢性炎症性疾患

(5)う歯と歯周病

(6)外耳道・鼻腔・咽頭・喉頭・食道の代表的な異物


(13)精神・神経系疾患

(1)症状精神病

(2)痴呆

(3)アルコール依存症

(4)うつ病

(5)精神分裂病

(6)不安障害(パニック症候群)

(7)心身症


(14)感染症

※(1)ウイルス感染症(インフルエンザ、麻疹、風疹、水痘、ヘルペス、流行性耳下腺炎)

※(2)細菌感染症(ブドウ球菌、MRSA、A群レンサ球菌、クラミジア、結核菌)

(3)真菌感染症(カンジダ症)

(4)性感染症

(5)寄生虫疾患


(15)免疫・アレルギー疾患

(1)全身性エリテマトーデスとその合併症

(2)慢性関節リウマチ

※(3)アレルギー疾患


(16)物理・化学的因子による疾患

(1)中毒(アルコール、薬物)

(2)アナフィラキシー

(3)環境要因による疾患(熱中症、寒冷による障害)

(4)熱傷


(17)小児疾患

(1)けいれん性疾患

※(2)ウイルス感染症(麻疹、流行性耳下腺炎、水痘、突発性発疹、インフルエンザ)

(3)細菌感染症

(4)小児喘息

(5)先天性心疾患


(18)加齢と老化

※(1)高齢者の栄養摂取障害

※(2)老年症候群(誤嚥、転倒、失禁、褥瘡)


スーパーローテーションの例

コアローテーション:9ヶ月以上、必須選択:3ヶ月以上、自由選択12ヶ月未満

  6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 1月 2月 3月 4月 5月
1年目 内科 外科 小児科・救急 選択A
2年目 選択B 選択C 選択D 選択E

註1 1年目の順番は順不同  小児科と救急は各々1ヶ月以上、また救急は2年目でもよい。
註2 2年目は外来診療研修(総合的な外来が望ましい)を必須とする。
註3 選択A−E最低3種類の診療科を経験する。
註4 選択A−Eの中に必須選択を取り入れ、それぞれの病院の特徴を提示する。
必須選択例:「産婦人科、精神科、麻酔科(ICU)、放射線科、診療所、福祉・介護、保健所」から一つ以上を必須とする
註5 研修の開始時期は将来は4月にすべきとの議論があった。


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