I 年金制度に対する国庫負担 |
1 現行の年金制度における国庫負担の考え方
(1) | 国庫負担の意義 社会保険方式の公的年金制度は、事業主及び被保険者の拠出する保険料を主たる財源とするものであるが、公的年金制度の運営についての国の責任の具体的表明として、給付水準の改善、保険料負担の軽減などの観点から、費用の一部に対して国庫負担を行っている。 |
(2) | 公的年金に対する国庫負担の経緯 公的年金制度に対する国庫負担については、厚生年金(旧制度)において国の責任として当初から一定(10%)の国庫負担が行われており、給付水準の改善に伴う費用負担の増加を被保険者や事業主のみが負担するのではなく、国もその一部を負担すべきとの考え方から、順次引上げが行われた(昭和29年:10%→15%、昭和40年:15%→20%)。 また、国民年金制度においては、既に厚生年金においても国庫負担が行われている中で、発足時より被用者年金制度における国庫負担割合より高い3分の1(保険料負担の2分の1)と設定された。 これらの国庫負担については、昭和60年の改正による基礎年金制度の導入に伴い、基本的には基礎年金部分の3分の1に集約されて、今日に至っている。
→ 別紙1:厚生年金・国民年金における国庫負担の経緯 |
2 | 諸外国の社会保険方式の公的年金制度における国庫負担
諸外国の社会保険方式の公的年金制度においては、国庫負担が行われている国(ドイツ、アメリカ、スウェーデン)とそうではない国が見られる。 国庫負担が行われている国の国庫負担の行われ方は一様ではないが、
→ 別紙3:諸外国の社会保険方式の公的年金制度における国庫負担 |
3 基礎年金に対する国庫負担割合の2分の1への引上げについて
(1) | 基礎年金に対する国庫負担と保険料の将来見通し 平成11年財政再計算結果では、基礎年金給付に必要となる費用及び国庫負担所要額の見通しは、次のとおりである。
また、第4回社会保障審議会年金部会において説明した「新人口推計の厚生年金・国民年金への財政影響について」によれば、基礎年金国庫負担割合を3分の1から2分の1へ引き上げた場合の平成37(2025)年度以降の最終保険料(率)(総報酬ベース)への影響は下表の通りである。
→ 別紙4:基礎年金国庫負担額の見通し 《国民年金(平成11年度価格)》
《厚生年金》
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(2) 国庫負担割合の引上げ問題の経緯
(ア) | 平成6年改正 平成6年の改正法の附則に、基礎年金に対する国庫負担割合を引き上げることについての検討規定が設けられた。 また、法案の国会における審議において、「国庫負担割合を2分の1を目途に引き上げることを検討する」旨の附帯決議が行われた。
なお、国庫負担割合引上げの議論は、将来の保険料負担増への対応という趣旨でなされたものである。
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(イ) | 平成12年改正 平成9年に行われた財政構造改革の推進についての閣議決定において、基礎年金の国庫負担割合の引上げについては、「財政再建目標達成後改めて検討を行う」こととされ、平成12年改正において引上げは行われなかったが、改正法の附則に「平成16年までの間に、安定した財源を確保し、国庫負担の割合の2分の1への引上げを図るものとする。」との規定が設けられた。 なお、平成11年10月には、自由民主党、自由党、公明党の3党連立政権発足に際して、「2005年を目途に、年金、介護、後期高齢者医療を包括した総合的な枠組みを構築する。それに必要な財源の概ね2分の1を公費負担とする」ことが合意されている。
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(ウ) | 平成12年改正後 平成12年改正後、社会保障構造の在り方を考える有識者会議報告書、「社会保障改革大綱」(政府・与党社会保障改革協議会)、「今後の経済財政運営及び経済社会の構造改革に関する基本方針」(平成13年6月26日閣議決定)において、基礎年金国庫負担の引上げについて言及されている。
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(3) 論点
(ア) | 基礎年金国庫負担割合引上げの趣旨 これまでの議論の中で、基礎年金国庫負担割合引上げの意義は、少子高齢化が急速に進展し将来世代の保険料負担の引上げが避けられない中で、それが過度な水準のものとならないよう将来世代の保険料水準の上昇を抑制し、基礎年金制度の将来の安定を確保することであると整理されてきているが、この点をどう考えるか。 また、諸外国においても、相当な水準の保険料負担が必要となる中で、国庫負担の導入あるいは引上げを行っている国がある。 |
(イ) | 2分の1への引上げと「税方式化」の質的な違い 基礎年金は年金受給者各々の保険料納付実績に応じて給付され、国庫負担は基礎年金給付費用の一部に充てられる。未加入や未納の期間分については、国庫負担分も含めて将来の年金給付はなされない。このことは、国庫負担割合が3分の1から2分の1に変わっても変化はない。 他方、税方式は、個々人の負担実績すなわち保険料納付に連動することなく、税負担により給付が行われる仕組みである。 したがって、単に基礎年金に対する国庫負担の割合の程度の問題ではなく、質的な違いがあることに留意が必要であると考えるかどうか。 |
(ウ) | 引上げの水準、保険料との関係 社会保険方式の公的年金制度においては、保険料負担を中心に運営される公的年金制度に対する補助と位置付けられる国庫負担の割合は、2分の1が上限となると考えられるがどうか。 国庫負担割合を3分の1から2分の1に引き上げる際に、保険料を引き下げるか(現行の保険料水準を将来に向けて引き上げていくことが必要な状況の下で、国庫負担割合引上げに伴い保険料をいったん引き下げるかどうか。)。 |
(エ) | 引上げのための安定した財源 基礎年金国庫負担割合の引上げを具体化していく際には、併せて安定した財源の確保のための具体的方策を検討することが必要。他方、税財源の問題については、年金制度の文脈からだけではなく、他の政策分野も含め、財政・税制全般にわたる問題として、ひろく国家的見地から議論されるべきものである。 こうした中で、基礎年金国庫負担割合引上げのための安定した財源について、どのように考えるか。 また、平成11年度から、国の消費税の収入(地方交付税を除く国分)を基礎年金、老人医療及び介護に充てることが予算総則に明記されている(いわゆる「消費税の福祉目的化」)こととの関係をどう考えるか。 → 別紙6:消費税の使途 |
II 年金に関する税制をめぐる動向について |
1 公的年金収入に対する課税の現状と経緯
1) 公的年金等控除の考え方と仕組み
○ | 公的年金等控除は、高齢者の生活において公的年金等が大きな役割を果たしていることなどから設けられた控除であるとされている(「わが国税制の現状と課題(平成12年7月)」(政府税制調査会))。 |
○ | 公的年金収入は雑所得に区分され、特別な控除である公的年金等控除が独立して適用される。 |
○ | この仕組みは、昭和62年の税制改正で導入されたものであり、従前は、公的年金収入は給与所得として取り扱われ、給与所得控除の対象となっていた。 |
○ | 従前は給与所得扱いであったこと及び65歳以上の者については老齢者年金特別控除が適用されていた経緯を踏まえ、公的年金等控除は、給与所得控除と同様、定額と定率の組み合わせであり最低保証額が設定されているという構造であるとともに、65歳未満と65歳以上で差が設けられている。 |
2) | 公的年金収入への課税の経緯とこれについてのこれまでの年金制度側からの考え方(標準的な年金額との関係) |
○ | 昭和48年に老齢者年金特別控除(60万円)が創設されたが、この時の厚生年金制度が想定する標準的な年金(モデル年金)は月額5万円であり、この控除のみでモデル年金が非課税になる水準に設定された。 その後、モデル年金の上昇に見合って控除が引き上がったわけではなく、公的年金等控除が導入された昭和62年時点においては、老年者年金特別控除及び給与所得控除のほか、基礎控除、老年者控除、配偶者控除等と合わせてモデル年金非課税が実現されていた。 |
○ | 昭和62年度税制改正に当たり、厚生省の研究会は、「公的年金については、‥(中略)‥その給付費用が世代間の扶助という社会連帯のシステムによって賄われていることからも、税制上これにふさわしい対応を考える必要がある」「厚生年金における標準的な老齢年金の‥(中略)‥水準(61年度 220万円)にまで課税が及ぶことは、公的年金に対する国民の支持と信頼を確保する観点からも適切ではない。少なくともこの標準的な年金額までは実質的に課税されないよう措置すべき」と提言している(昭和61年9月)。 |
○ | 公的年金等控除の創設を提言した昭和61年10月の政府税制調査会の答申は、「公的年金を受給する老年者に対し、基本的には現行程度の給付水準を維持しつつ、課税制度の整理合理化を図ることとし、給与所得控除及び老年者年金特別控除に代えて、他の所得との負担調整のための新たな控除を設けるとともに老年者控除を引き上げることが適当である」としている。 |
3) 公的年金等控除の評価
○ | 「今後の経済財政運営及び経済社会の構造改革に関する基本方針」(平成13年6月26日閣議決定)においては、年金制度の改革に関する今後の検討課題の一つとして「世代間・世代内の公平を確保するための年金税制の見直し」を掲げ、以下のように指摘している。
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○ | また、政府・与党社会保障改革協議会の社会保障改革大綱(平成13年3月30日)において以下のように指摘しているほか、自由民主党税制改正大綱(平成12年12月13日)、確定拠出年金法案等に対する衆参両院の附帯決議(平成13年6月)などにおいても、同旨の指摘がなされている。
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2 公的年金等控除を見直す場合の論点
1) | 公的年金収入のみの受給者を考えた場合、現役世代との均衡上、どの程度の年金水準を非課税とするか |
2) | 公的年金等控除の見直しは、年金受給者に対する給付調整(既裁定年金についての実質的な給付水準の在り方の見直し)であるが、どのような受給者層を念頭に置いて見直しを行うか
(念頭に置く対象層の例) |
3) | 公的年金以外の収入のある者を念頭に置いた見直しを行う場合、その「収入」の範囲をどう考えるか ・他の一切の収入を考えるか ・給与所得との均衡を主眼に考えるか |
4) | 公的年金等控除の見直しは、実質的な年金給付水準の在り方の見直しであり、年金の負担と給付に関わる論点であることから、平成16年の次期年金制度改革の検討スケジュールにあわせた検討が適当ではないか
(参考) |
3 年金課税を強化した場合の増収分の取扱い
○ | 公的年金等控除による減収見込額(国税分)は、政府税制調査会基礎問題小委員会(H14.4.19)資料によれば、約1兆円とされている。 |
○ | 公的年金の給付時の課税強化は、実質的な年金給付水準の引下げに相当するものであるが、世代間扶養を基本とする公的年金への課税による増収分の取扱いについて、どう考えるか。
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4 遺族年金及び障害年金の非課税措置について
○ | 現在は非課税とされている遺族年金及び障害年金の取扱いについてどう考えるか。これらの受給者の中にも、他に多くの収入がある者がいたり、子どもの有無など生活実態は様々であるが、これらを踏まえ、老齢年金給付と同様の取扱いとすることについて検討が必要ではないか。なお、検討スケジュールについては、2(4)と同様の取扱いが適当ではないか。
(参考)
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○ | 医療保険、労災保険等における現金給付にも公租公課禁止規定が置かれているが、これらとの関係をどう考えるか。 |
《備考》
○ | 介護保険の高齢者保険料(第1号保険料)は、公的年金から特別徴収(天引き)されるが、公租公課禁止規定等を考慮して、遺族年金及び障害年金のみの受給者たる65歳以上の者からは特別徴収(年金からの天引き)が行われておらず、保険者たる市町村が普通徴収を行っているが、この取扱いの見直しについての要望が地方団体等から出されているところ。
(参考)
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