(1)背景と本検討会の目的
我が国の衛生指標は、世界保健機構のWorld Health Reportで示されているとおり、平均寿命は男性77.6歳、女性84.3歳、健康寿命は男性71.9歳、女性77.2歳と、世界でも最高水準である。しかし、人口の急速な高齢化が進む中で、疾病構造が変化し、生活習慣病が増加している。生活習慣病は、自覚症状のないまま進行し、最終的に脳血管疾患などの重篤な疾病に至り、機能障害などを生じる結果として生活の質の著しい低下を引き起こすことが多い。健康寿命の更なる延長、生活の質の向上を実現し、明るい高齢化社会を築くためには、疾病の早期発見や治療にとどまらず、積極的に健康を増進し、疾病を予防する「一次予防」に重点を置いた対策の推進が急務である。
(2)検討対象
本検討会において検討の対象とする「健康関連機器」の範囲は、平成12年度厚生科学特別研究「健康日本21の推進に資する健康関連機器の開発に関する研究」における定義を参考に、「栄養・食生活、運動・身体活動、休養・心の健康づくり、喫煙、飲酒、歯の健康の保持など生活習慣や、糖尿病、循環器病、癌、歯周病等の生活習慣病に関連して、健康状態の把握、健康増進又は環境整備を直接的・間接的に支援する機器類」とし、ハードである「機器」に加え、情報技術を活用した生活習慣改善のためのプログラム等の健康づくりを総合的に支援するシステムについても、国民の健康づくりに対して影響を与える可能性を考慮して、今回の検討対象とすることとした。
(3)検討方法
具体的な検討方法としては、現在入手可能な健康関連機器に関する著書、学術論文等の文献、パンフレット、健康関連機器に対する消費者意識や苦情等に関する文献等を収集・分析した。
2.健康関連機器の役割の整理
本検討会では、健康関連機器を、その果たしうると考えられる役割からみて、以下のように分類することとする。
3.健康関連機器の選択及び使用上の留意点
1. はじめに
厚生労働省では、このような状況にかんがみ、平成12年度より、「21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)」を開始し、個人の主体的な健康づくりを支援する環境整備を進めている。健康日本21は、(1)一次予防の重視、(2)健康づくり支援のための環境整備、(3)目標の設定と評価、(4)多様な実施主体による連携の取れた効果的な運動の推進、の四つを基本方針としている。
特に、(2)及び(4)において、「生活習慣を改善し、健康づくりに取り組もうとする個人を社会全体として支援していく環境を整備すること」「十分かつ的確な情報提供によって、個人による選択を基本とした生活習慣の改善等の国民の主体的な健康づくりを支援すること」が重要であるとされている。また、(3)は、根拠に基づいて目標や指標を定めるものであり、そのねらいは、目標値を定めることにより、関係者の目的意識の共有と、国民の健康づくりへの行動変容を促すことにある。
個人の健康づくりにおいて使用される健康関連機器は、個人(場合によっては集団)自らの選択に基づいて使用されるという基本的性格を有する。個人の健康は個人自らの責任において自己管理することが基本であることから、健康関連機器は健康日本21の推進に資するものとなり得る。例えば、健康関連機器を用いた健康状態の把握は、個人の健康に対する意識改革、ひいては行動変容のために有用な場合がある。また、健康関連機器が使用されることにより、健康づくりの一層効果的な実施が期待できる。
しかしながら、健康関連機器は、適切な選択及び使用がなされなければ効果に乏しいものもあるばかりか、かえって健康を害するものである可能性がある。
このため、自らの選択に基づいて使用されるとはいっても、適切な選択及び使用について適切な情報提供がなされることの社会的必要性は大きい。したがって、これらの点について整理することは有意義と考えられる。
本検討会は、以上のことにかんがみ、健康関連機器の役割を整理した上で、その選択、使用及び情報提供の在り方について留意すべき点を整理することにより、健康日本21の推進に資することを目的として設置された。
なお、本検討会においては、健康関連機器市場の分析や、開発の促進の在り方については取り上げないこととする(この点については、平成12年度厚生科学特別研究「健康日本21の推進に資する健康関連機器の開発に関する研究」を参照)。
なお、これらの検討対象から、薬事法に規定する医療用具等を排除することはしておらず、これらに関しては、前提として、関連法令による規制等を遵守することが基本であることは言うまでもない。
なお、本検討会では、以下で取り上げる個々の機器類について、それぞれに記載されている健康づくりにおける役割を、効果的・効率的に果たしうるか否かに関し個別に科学的な評価を行ったものではない。
(2)健康づくりの実践を支援する機器
(3)健康づくりを総合的に支援するシステム
(4)健康づくりの環境整備のための機器
(減量、食生活改善、適切な運動、禁煙支援等様々な目的のものがある。)
健康関連機器の選択及び使用に当たっては、個人の健康状態についての適切な評価に基づき、適切な機器を選択するようにするため、保健指導者等から適切な助言を受けることが望ましい。特に、有病者は、不適切な機器の使用により、病態の悪化を招く可能性があることから、医学的管理の下で、機器を選択及び使用を行うことが重要である。
以上のほか、以下の点に留意すべきである。
資料 |
(1)本表では、健康日本21の趣旨に則した健康づくりを推進するという観点から、健康日本21の課題と目標ごとに健康関連機器を整理した。本表は、特定の機器又はプログラムを推奨するものではない。
(2)本表では、報告書における総括的な留意点を踏まえた上で、個別の機器に特有な留意点を記載した。
(3)本表では、健康づくりにおける効果を示す明らかな科学的根拠が無い場合も含め、現時点における利用実績等から見て、健康づくりにおいて一定の役割を果たす可能性があると考えられる健康関連機器を取り上げた。
(4)本表はあくまでも現時点における整理であり、技術革新等を受けて変化するものである。
(5)「役割による分類」の項は、以下による。
測定;健康状態及び生活習慣の状況の把握を支援する機器
実践;健康づくりの実践を支援する機器
システム;健康づくりを総合的に支援するシステム
環境整備;健康づくりの環境整備のための機器
健康日本21目標等 | 種類 | 役割による分類 | 選択及び使用上の留意点 (報告書における記載事項に留意するとともに、下記の点にも留意すること) |
---|---|---|---|
適正体重維持(肥満者減少) | 体重計 | 測定 | ・固く水平な所に機器を置く。 ・測定値に日内変動があることに留意する。 |
体脂肪計 | 測定 | ・体脂肪の推計値を示すものであることに留意する。 ・測定法、測定機器、測定時刻等の条件が異なれば測定値に変動が生じる。 |
|
食塩摂取量減少 | 食物塩分濃度計 | 測定 | |
尿中塩分測定紙 | 測定 | ||
カルシウムに富む食品の摂取量増加 | 電子食品成分機器 | 測定 | |
その他 |
栄養計算機 | 実践 | ・摂取した食物の情報を正確に入力する。 |
食物模型 | 実践 | ||
カロリー計算機 | 実践 | ||
計量器具 | 実践 | ||
食生活改善のためのプログラム | システム | ・選択に当たっては、以下の諸点が重要な判断材料となる。 ー個々人の心身の状況に基づいたものであるか否か。 ー個人情報の保護措置が採られているか。 ープログラムの効果を示す資料が示されているか。 |
|
減量個別支援プログラム |
健康日本21目標等 | 種類 | 役割による分類 | 選択及び使用上の留意点 (報告書における記載事項に留意するとともに、下記の点にも留意すること) |
---|---|---|---|
意識的運動者増加 | スポーツ用品、ダンスゲーム機、福祉・高齢者用音楽療法補助具 | 実践 | |
日常生活の歩数増加 | 歩数計 | 測定 | ・使用方法、表示数値の特性を理解する。 ・歩く習慣を継続させるためには、長期間の記録機能の付加や表示方法の工夫が必要。 ・不規則な歩行や、歩行以外の上下運動や振動を受けると正常に作動しないことがある。 |
運動靴 | 実践 | ・運動の種類に応じた、足の形状に合った靴を選ぶ。 ・靴の特性を理解する。 |
|
運動習慣者増加 | 有酸素系運動機器、筋力系運動機器 | 実践 | ・安全かつ効果的な使用方法を理解する。 ・必要に応じて医師、運動指導士等の適切な指導のもと、個々人が年齢や心身の状況に応じた運動目標を設定し、運動や心身の状況を記録、評価し、計画的な運動を実践することが望ましい。 |
心拍数計 | 測定 | ||
高齢者の外出 | 転倒による骨折等の予防のための装具 | 実践 | |
その他 | 適切な運動のためのプログラム | システム | ・選択に当たっては、以下の諸点が重要な判断材料となる。 ー個々人の心身の状況に基づいたものであるか否か。 ー個人情報の保護措置が採られているか。 ープログラムの効果を示す資料が示されているか。 |
健康日本21目標等 | 種類 | 役割による分類 | 選択及び使用上の留意点 (報告書における記載事項に留意するとともに、下記の点にも留意すること) |
---|---|---|---|
ストレスを感じた人の減少 | 家庭用マッサージ・治療浴用機器及び装置、 家庭用電気・光線治療器、家庭用磁気・熱治療器 |
実践 | ・当該機器の、休養・心の健康づくりにおける役割は十分に証明されていない。ストレス度の測定方法も含めた今後の研究の蓄積が必要であることに留意する。 ・身体の状況によっては使用は禁忌である(ペースメーカー使用者等)。 |
ストレス度等測定機器 | 測定 | ・個人差や測定時期による変動が大きい測定結果の評価に当たっては、医師等の専門家の助言を必要とする場合があることに留意する。 ・心拍数等からストレス度を測定する機器では、ストレス以外にも心拍数が変化する原因があることに留意する。 |
健康日本21目標等 | 種類 | 役割による分類 | 選択及び使用上の留意点 (報告書における記載事項に留意するとともに、下記の点にも留意すること) |
---|---|---|---|
呼気一酸化炭素測定器 | 測定 | ・大気汚染等の生活環境の影響を受ける。 ・呼気中一酸化炭素濃度の半減期は4〜5時間と短いので、測定に際しては最終喫煙からの時間を確認する。 ・測定は午後に行うことが望ましい。 |
|
唾液中ニコチン測定キット | 測定 | ||
ニコチン補充剤 | 実践 | ・医薬品として、適切かつ十分な副作用等の情報提供も含め、医師・薬剤師等による健康管理が必要である。 | |
分煙の徹底 | 空気中粉塵濃度測定計 | 測定 | |
排気装置 | 環境整備 | ・吸気窓との組み合わせによる適切な配置が必要である。 | |
空気清浄機 | 環境整備 | ・空気清浄機は、ニコチン、タールなどの粒子状の成分やアセトアルデヒド、アンモニアなどにおい成分の除去が基本で、たばこ煙成分の大部分を占める有害な一酸化炭素や発がん物質のガス状の成分は除去できない。 | |
禁煙支援プログラムの普及 | 禁煙支援プログラム | システム | ・選択に当たっては、以下の諸点が重要な判断材料となる。 ー個々人の心身の状況に基づいたものであるか否か。 ー個人情報の保護措置が採られているか。 ープログラムの効果を示す資料が示されているか。 |
健康日本21目標等 | 種類 | 役割による分類 | 選択及び使用上の留意点 (報告書における記載事項に留意するとともに、下記の点にも留意すること) |
---|---|---|---|
う歯数減少 | 歯ブラシ | 実践 | ・個別の歯科保健指導を受け、歯列や磨き癖を踏まえた個別の清掃方法を習得する。 ・歯の健康の保持には、機器を正しく使用することに加え、食生活の改善やフッ化物配合歯磨剤の使用等も含めた総合的な取組を行うことが効果的である。 |
歯間部清掃用器具使用増加 | 歯間ブラシ | 実践 | ・歯間を損傷するおそれがあるので、正しいサイズを選択する。 |
進行性歯周炎減少 | デンタルフロス | 実践 | ・歯間部歯肉を損傷しないように、歯科保健指導者等による正しい使用方法に関する指導を受けること。 |
電動歯ブラシ | 実践 | ・歯の摩耗予防のために研磨成分の多い歯磨剤との併用を避けるべきである。 | |
個別歯口清掃指導受診増加 | 歯垢染め出し剤 自己点検ミラーセット |
測定 測定 |
・市販されている染め出し剤のみでは、口腔清掃状態の自己点検には限界があるので、健康診査等の機会を利用し、歯科保健指導者等の評価も受ける。 |
フッ化物配合歯磨剤使用増加 | フッ化物添加歯磨剤 | 実践 | ・幼児の歯磨剤使用量については付けすぎに注意する。 |
その他;誤嚥性肺炎発症リスク低減 | 入れ歯洗浄機、義歯ブラシ、義歯洗浄剤 口腔洗浄機(水流圧洗浄機) |
実践 実践 |
・口腔保健が、誤嚥性肺炎の発症リスクの減少などの全身的な保健に関与していることを理解すること。 ・口腔洗浄機のみでは完全に歯垢を除去できないので、歯ブラシによる口腔清掃を補助するものとして使用すること。 |
健康日本21目標等 | 種類 | 役割による分類 | 選択及び使用上の留意点 (報告書における記載事項に留意するとともに、下記の点にも留意すること) |
---|---|---|---|
尿糖検出紙 | 測定 | ・尿糖値は、測定時点の血糖値を反映するものではない。 ・朝起床時の第2尿の尿糖値を測定するか、食後おおむね2時間後の尿で測定する。 |
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血糖測定機器 | 測定 | ・自己採血式の機器は不適切な使用による健康の悪化を予防するために、保健指導者等の定期的な管理の下に使用する必要がある。 | |
糖尿病個別健康教育プログラム | システム | ・選択に当たっては、以下の諸点が重要な判断材料となる。 ー個々人の心身の状況に基づいたものであるか否か。 ー個人情報の保護措置が採られているか。 ープログラムの効果を示す資料が示されているか。 |
健康日本21目標等 | 種類 | 役割による分類 | 選択及び使用上の留意点 (報告書における記載事項に留意するとともに、下記の点にも留意すること) |
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電子血圧計 | 測定 | ・一定時刻、一定の測定部位(上腕部が比較的正確)で測定する。 ・家庭における血圧値は、医療機関外来等における測定値より10mmHg程度低くなる傾向があることに留意する。 |
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高血圧・高脂血症個別健康教育プログラム | システム | ・選択に当たっては、以下の諸点が重要な判断材料となる。 ー個々人の心身の状況に基づいたものであるか否か。 ー個人情報の保護措置が採られているか。 ープログラムの効果を示す資料が示されているか。 |
健康日本21目標等 | 種類 | 役割による分類 | 選択及び使用上の留意点 (報告書における記載事項に留意するとともに、下記の点にも留意すること) |
---|---|---|---|
体温計 | 測定 | ・体温そのものによる要因、体温計による要因、測定に係わる要因等の体温の計測値に影響を及ぼす要因を理解すること。 |
照会先
健康局総務課生活習慣病対策室
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小山(内2338)