戻る
【論点I】
厚生年金の適用拡大が企業の行動や労働市場に及ぼす影響・効果等について
○検討の対象
○ 女性と年金検討会報告書
(5) 企業行動や労働市場への影響・効果
短時間労働者に対して厚生年金の適用を拡大することは、雇用コストの増加を伴うものであることから、就労形態、企業行動に与える影響等について、今後、さらに詳細な分析、検討を行うことが必要である。
他方、短時間労働者の雇用管理の改善、短時間労働者の能力の有効な発揮、企業における計画的な人員配置が図られるといった、企業、さらに社会全体としてのメリットについても、分析、検討が必要である。
|
I−1 年金制度と短時間労働者の就業行動等との関わりについて |
1 就業調整の現状
(1) 短時間労働者側の状況
イ 「多様な就業のあり方に関する調査」(平成14年2月 (財)21世紀職業財団)によれば、「就業調整を行っているパート」は約4割(41.8%)。
- (1)「税・社会保険料等がかからないよう自分から労働時間を減らしている者」(23.2%)
- (2)「会社が用意している就業コースのうち税・社会保険料等の負担がかからない範囲で働くコースを選択している者」(12.0%)
- (3)「自分はもっと働きたいが会社の意向で税又は社会保険料がかからない範囲で働いている者」(6.6%)
ロ さらに、年末の繁忙期等において、年収が調整ラインを超えないように短時間労働者が一斉に休暇を取得したり、残業に応じないために、正社員による代替を要するなど、円滑な企業活動の上で支障となっている例があるとされている。
(2) 事業所側の状況
- (1) 「労働時間に差をつけて社会保険適用パートと被保険者適用パートを区別し、パートに選択させている事業所」(47.5%)
- (2) 「全てのパートに社会保険が適用されないよう労働時間を短くしている事業所」(21.5%)
- (3) 「全てのパートに社会保険を適用している事業所」(18.8%)
2 短時間労働者の就業行動と年金制度との関わり
(1) 短時間労働者の就業と年金制度との関わりについては、次のように整理することができる。
- (1) 短時間労働者を雇用する多くの企業において、短時間労働者の全部又は多数に厚生年金が適用されないよう、短時間労働者に係る所定労働時間を通常の労働者の4分の3未満(週40時間労働であれば30時間未満)に設定することが行われている。
- (2) そのような枠組みの下で、厚生年金の適用されない短時間労働者本人が、年金制度、税制等を考慮して年収を一定範囲(前者が考慮されるケースでは、被扶養者認定基準の130万円未満)に抑えることを希望する場合に、労働時間を抑制する就業調整行動が生じている。
- (3) また、企業が、上記の(2)の短時間労働者の調整行動を念頭に賃金率を設定することで、賃金の抑制という結果が生じている。
(2) これらの結果、例えば、短時間労働者本人が年収を一定範囲に抑えることを希望している場合には、
- (1) 職場において短時間労働者のリーダー的な役割を果たしたり、特別な技能を有する者に対し、それらに応じた時給の加算や手当の付与を行おうとしても、固辞されてしまう、
- (2) 意欲や能力のある短時間労働者を役職に任じたり、責任ある職務に就けようとしても、それに相応しい賃金面での処遇ができず、断念せざるを得ない、など、短時間労働者の意欲や能力を活かす上での支障にもなっている。
(3) 年金制度の就業行動への影響については、ともすれば上記の(1)の(2)の年末の要員確保の問題に限定して論じられがちであるが、税制、社会保険制度等を考慮して労働時間や賃金水準を抑制しようとする企業や労働者の行動として幅広く捉え、整理を試みれば次頁の図のとおり。
短時間労働者の就業行動等に対する年金制度等の影響
1 企業の雇用行動については、以下のような動きが想定される。
- (1) 適用拡大に伴い、短時間労働者に係る所定労働時間を「週30時間未満」程度に抑える必要性が縮小することや労働者の就業ニーズの変化(後出(5)参照)に伴い、短時間労働者の職務等の在り方と併せ、より業務の実態に沿った形で労働時間や賃金の在り方を見直そうとの機運の高まり。
- (2) 保険料負担に伴いフルタイム労働者との間の雇用コスト差が相対的に縮小することに伴う、契約社員などのフルタイム労働者や、より長い時間働く短時間労働者へのニーズの拡大。
- (3) 中長期的に、正社員を短時間労働者等の非典型労働者に代替しようとする動きの緩和。
(ただし、短時間労働者の増加に係る他の要因(景気変動に応じた雇用量の調節や人員調整の容易さなど)や、均衡処遇等に係る施策の今後の動向にも関わる。)
- (4) 一方、コスト増への対応のために雇用の縮減等を図ろうとする動きも想定され得るが、そのような選択には制約も大きい。
(イ) |
短時間労働者に係る雇用の縮小による人件費の縮減
ただし、雇用の縮減に際して生産性の向上が伴わなければ、業務そのものの縮小につながりかねないという問題がある。 |
(ロ) |
派遣労働の利用や、個人請負への移行など 費用対効果や、人材確保の点での制約がある。 |
2 短時間労働者の就業行動については、以下のような動きが想定される。
- (5) 本人への保険料負担の発生や、追加的な就労により手取りを増やす途が拡がることに伴う、収入の増加を希望する者の増加。
- (6) 具体的には、追加的な就労(より長い労働時間や残業)、責任が重い職務等を受け容れようとする者の割合が相対的に高まり、短時間労働の多様化が進展。
ただし、短時間労働者の現在の働き方への満足度は比較的高く、家庭生活との両立を求める者も多いことにも留意が必要 (資料4-7 P13参照)。
- (7) 年末の繁忙期等における就業調整は、年金制度との関係では、解消する。
- (8) 一方、通常の労働者の働き方に近接した働き方をする短時間労働者の割合も相対的に増加すれば、短時間労働者の適正な労働条件の確保や雇用管理の改善に向けた取組がより一層重要に。
- (9) なお、(6)の短時間労働の多様化の動向いかんによっては、追加的な就労等が困難な労働者に対する雇用機会や労働条件面での影響が生じる可能性も想定し得る。
しかしながら、一般労働者に比べ高い水準にある短時間労働者の求人動向 (注1)や、今後見込まれる労働力供給の減少(注2)に照らせば、人的資源を確保していく上で、企業の対応はかなり制約される可能性。
1 現状認識
(1) 短時間労働者に関しては、多くの企業において、税制、社会保険制度等を意識し、また被扶養者認定基準の範囲内で働きたいとの短時間労働者の意向を考慮した所定労働時間や賃金水準設定が行われており、これが、短時間労働者の能力の有効な発揮を図る上での阻害要因となっている(I-1参照)。
また、これが、業務の繁閑、困難度等に応じた計画的、柔軟な人員配置や、短時間での就労を希望する有為な人材の確保の上での妨げともなっている。
(2) また、年収を一定範囲に抑えようとする就調整行動は、短時間労働者の低賃金を助長している面があり、それは短時間労働者の能力向上意欲にもマイナスになっている (注3)。
(3) 今後における少子高齢化の一層の進行や、サービス経済化の一層の進展、さらに我が国を取り巻く厳しい国際経済環境の下で、このような短時間労働の現状の改善は急務。
(4) また、今後、パート労働力の主たる供給源である中高年女性層における高学歴化が進み、正社員としての勤務経験を有する者も一層増加していく中で、これらの人的資源の戦略的な活用が重要。
(5) 短時間労働者への厚生年金の適用が拡大された場合には、企業において、
- (1) コスト(保険料負担)増加への各種の対応
- (2) 職務や責任に応じより柔軟な処遇や賃金設定が可能となるような人事制度の見直し
などが想定されるが(I-2、資料4-4参照)、これら取組みを契機として、短時間労働者の一層の能力発揮や、企業の生産性の向上を図り、さらに短時間労働者の処遇の改善につなげていくことが、企業や労働者、さらに社会全体としての課題。
2 適用拡大の意義・効果等
(1) 厚生年金の適用拡大により、短時間労働者に対し被用者の一員としての負担を求めつつ、均しく年金保障が行われることは、
- (1) 短時間労働者の活用の仕方や、賃金・労働時間管理について、これまでの画一的なものから、より仕事や働き方の実態に即した柔軟なものに変え、
- (2) 女性や高齢者をはじめとする多様な労働者の能力・経験を有効に発揮できる雇用機会として短時間労働を整備・拡充していく、上での重要な契機となる。
(2) これらの進展により、企業の短時間労働者に対する人的資源投資の促進や、能力の有効発揮と処遇の改善、さらに企業の生産性の向上にもつながることが期待される。
(3) また、厚生年金による老後の保障が等しく行われることにより、短時間労働者の就業意欲の向上や、正社員も含めた職場の意識改革も期待。
(4) 一方、被扶養者認定基準に係る130万円ラインで年収を調整する必要が解消し、短時間労働者が追加的な収入を得る途も拡がることにより、年金制度を原因とする手取りの逆転現象は解消し、就労や就業形態の選択に対し、より中立的で公正な仕組みの実現にも寄与。
(5) さらに、育児期等をはじめとして正社員も含めた多様な働き方の実現が課題となっており、また少子化の下で若年労働力の稀少性が一層強まっていくと見込まれる中で、正社員型の短時間勤務など、正社員も含めて多様な働き方の下で能力を発揮できる基盤を整え、多様就業型のワークシェアリングを早期に具体化する上でも、厚生年金の適用拡大は重要。
(6) このようにして、女性や高齢者をはじめ、より多くの労働者の能力が発揮できる多様な雇用機会が創出されることは、年金制度における「支え手を増やす」うえでも大きな意義。
3 労働政策等との連携の必要性
短時間労働者の戦略的な活用を実現できるかどうかは、今後、企業、さらには我が国社会のありようを大きく左右。このため、短時間労働者の均衡処遇への取組も含め、その意欲を喚起し、能力を発揮できる場としての短時間労働を整備していくことが大きな課題。
- (1) 短時間労働者への厚生年金の適用拡大は、短時間労働を良質な雇用機会として整備していく契機となり、女性や高齢者を中心とする人的資源の有効活用にも資することとなるなど、本格的な少子・高齢化社会の到来に向けた社会保障政策及び労働政策上の取組みの一環として重要なもの。
- (2) ただ、これらの具体化に向けては、短時間労働者に関し、その就業の実態、通常労働者との均衡等を考慮した適正な労働条件の確保と雇用管理の改善を通じ、能力の有効発揮を図っていくための労働政策上の取組が極めて重要であり、その進捗が強く望まれる。
- (3) なお、税制改革における配偶者控除、配偶者特別控除の見直しの動きにも留意が必要。
補足(資料4ー5関係)
(注1)
最近における有効求人倍率の動向
|
2年 |
3年 |
4年 |
5年 |
6年 |
7年 |
8年 |
9年 |
10年 |
11年 |
12年 |
一般 |
1.26 |
1.28 |
1.01 |
0.71 |
0.59 |
0.56 |
0.62 |
0.62 |
0.44 |
0.39 |
0.46 |
パート |
3.27 |
2.60 |
1.75 |
1.18 |
1.07 |
1.14 |
1.31 |
1.44 |
1.16 |
1.11 |
1.41 |
|
(職業安定業務統計) |
(注2)
今後の労働力受給見通し
2005年から2010年までの5年間に、男性で89万人、女性で31万人、合計 120万人が減少するとの見通しが示されている。
(万人) |
|
1998年 |
(1) 2005年 |
(2) 2010年 |
(1)−(2) |
男女計 |
6,384 |
6,856 |
6,736 |
▲120 |
15-19歳
20-29歳
30-39歳
40-49歳
50-59歳
60歳- |
141
1,490
1,279
1,550
1,410
924 |
123
1,274
1,486
1,348
1,531
1,093 |
112
1,119
1,477
1,434
1,314
1,279 |
▲11
▲155
▲9
86
▲217
186 |
|
(平成11年 職業安定局推計) |
(注3)
厚生労働省「パートタイム労働研究会 中間取りまとめ」参照。
トップへ
戻る