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厚生年金の適用基準について

1 現行基準

(1) 現行基準

 厚生年金の適用基準については、昭和55年以来、「通常の就労者の所定労働時間及び所定労働日数のおおむね4分の3以上である就労者については、原則として健康保険及び厚生年金保険の被保険者として取り扱うべきものであること」とされている。
 したがって、被用者の配偶者である者についてみれば、労働時間が通常の就労者の概ね4分の3以上であれば、第2号被保険者となり、それに満たない場合であれば、収入に応じて第1号被保険者または第3号被保険者となる。

(「年金保険(医療保険)における被保険者の区分について」 (資料4-7 P26)参照。)

(2) 「4分の3基準」の意義等

イ 「4分の3基準」の経緯
 要件創設以前の短時間労働者に対する厚生年金保険法は、各都道府県毎にその地方の実状を勘案し、各個に取扱い基準を定めて運用していた。
 しかしながら、短時間労働者が都道府県をまたいで移動した時などに各都道府県の取扱い基準の差異からトラブルを生じることがあり、その取扱いの統一化が求められ、「4分の3基準」を設定した(昭和55年6月6日付け内かん)。

ロ 「4分の3」とした理由
 雇用保険法による短時間労働者に対する当時の取扱い(注1)、及び人事院規則による非常勤職員の取扱い(注2)を参考に基準を制定。

ハ 健康保険との関係
 厚生年金と健康保険においては、被用者に対する社会保障制度として、どのような者を適用対象とするかについて、共通の基準により運営されてきている。

2 適用基準の見直しについて

(1) 外国の年金制度における短時間労働者への適用基準 (注3)

(1) 諸外国の年金制度における短時間労働者の適用については、一定額以上の所得のある者を強制適用とすることが多く、また、その金額は我が国の被扶養者認定基準よりもかなり低い水準となっている。

(2) なお、諸外国の年金制度においては、20歳から60歳までの全国民が強制加入対象となっている我が国の制度とは異なり、基本的には被用者を中心として制度が組み立てられており、所得がない場合には強制適用対象とはならず、自身の保険料納付による年金保障もないことから、できる限り低賃金の者であっても被用者年金の対象としていることがうかがわれる。

(2) 雇用保険

イ 雇用保険においては、パートタイム労働者が次のいずれにも該当するときは、短時間労働被保険者となる。
(1) 反復継続して就労する者であること
 ・具体的には、1年以上引き続き雇用されることが見込まれること。
(2) 1週間の所定労働時間が20時間以上であること。
(短時間労働被保険者とは、1週間の所定労働時間が、同一の適用事業に雇用される通常の労働者の1週間の所定労働時間よりも短く、かつ、30時間未満である雇用保険の被保険者をいう。)

ロ なお、平成13年4月から、年収要件(年収が90万円以上見込まれること)は、撤廃された。

(3) 女性と年金検討会における検討

 女性と年金検討会では、短時間労働者に対して厚生年金の適用を拡大する場合の具体的な新しい適用基準について、樋口美雄慶應義塾大学教授から、以下の2つの基準を設けてはどうかという提案がなされ、議論が行われたところ(以下この提案を「A案」という)。

(1) 時間要件(週の所定労働時間が20時間以上の者)(注4)
(2) 収入要件(週所定労働時間にかかわらず年収が65万円以上の者)

のいずれかに該当する場合には、厚生年金の被保険者とする。
 (なお、収入要件における年収の水準の設定については、時間要件の下限時間(20時間)と最低賃金額の水準が考慮されている。)

(資料4−2「女性と年金検討会報告書」の資料V-2-5を参照 (注4))

(4) 新しい基準についての考え方

個人が意欲と能力に応じて力を発揮できる社会を目指し、個人が主体的に多様な働き方を選択できるよう、その制約となるような仕組みはできるだけ除去する方向を目指すことが必要。
ロ あわせて、短時間労働をはじめ就業形態の多様化が進展する中で、年金保障の範囲を拡充することで、これら働き方をより魅力あるものとするとともに、年金制度への信頼を高めていく。
 また、年金制度の支え手の拡大を通じた財政基盤の強化や、負担の公平性の一層の確保を図る (注5)。
ハ このため、短時間労働者の活用の壁となっていると指摘されている厚生年金の適用基準及び国民年金の被扶養者認定基準を見直し、短時間労働者が自らの意欲と能力に応じ安心して働くことを可能とすることが必要。
ニ このため、具体的には、短時間労働者についてはできる限り厚生年金に適用することを基本に、厚生年金の適用基準(4分の3基準)及び国民年金の被扶養者認定基準(いわゆる130万円基準)を就業調整の原因とならないような水準まで引き下げることが必要なのではないか

ホ また、ニの「時間基準」の引下げに加え、厚生年金の適用基準に「収入基準」を加える方向で検討してはどうか
 これによって、「時間要件」のみでは対応困難な以下の事項について、その確保が可能となるのではないか。
(1) 報酬に応じた負担をより徹底することにより、厚生年金が適用される労働者と同等ないしそれ以上の収入を得ている者が、所定労働時間が短いというだけで報酬比例の負担を免れることのないようにすること。
(2) 「時間基準」の引き下げに伴い、新基準の付近での新たな就業調整行動が起こらないようにするためには、「収入基準」を加えた方が妥当であること。


補足(資料4−3関係)

(注1)雇用保険法における短時間就労者の取扱い

「一週間の所定労働時間が、当該事業所において同種の業務に従事する通常の所定労働時間のおおむね4分の3以上であり、かつ、22時間以上であること。」(昭和50年3月25日付職発第97号)

*1) 当時の一般被保険者としての適用ルールである。
*2) 現在は、雇用保険法第6条第1号の2において、短時間労働者を「1週間の所定労働時間が、同一の適用事業に雇用される通常の労働者の1週間の所定労働時間に比し短く、かつ、厚生労働大臣の定める時間数未満である者をいう。」と定義。なお、「厚生労働大臣の定める時間数」は30時間(H6 告示10号)。

(注2) 人事院規則における非常勤職員の取扱い

「1.非常勤職員の勤務時間は、日々雇い入れられる職員については1日に月8時間を超えない範囲において、その他職員については常勤職員の1週間の勤務時間の4分の3を超えない範囲において、任命権者の任意に定めるところによる。」(人事院規則15-4(非常勤職員の勤務時間及び休暇)(昭和25年2月8日施行))

*3)現行:人事院規則15-15 第2条。

(注3) 外国の年金制度における短時間労働者に対する適用

○アメリカ[2000年]
 収入を有する者については、雇用形態の如何を問わず適用。(年金額算定の根拠となる保険料記録は、年780ドル[88,850円]以上の収入について行われる。)

○イギリス[2001年]
 週72ポンド[13,270円]未満の被用者(と年収3,955ポンド [729,030円]未満

○ドイツ[2000年]
 月収630マルク[39,090円]未満かつ週の労働時間が15時間未満である場合は任意加入。
 (加入しない場合でも、事業主に対して、年間2か月又は50日未満の短期間雇用の場合を除き、報酬の12%に相当する保険料が賦課される。)
※月収630マルク→年換算(12倍)すると7,560マルク[469,100円]に相当

○フランス[2001年]
 収入を有する者については、強制適用対象となる。(年8,404フラン[155,470円]以上の収入がある場合1四半期の保険期間を得、年33,616フラン[621,900円]以上の収入がある場合には、4四半期(1年)の保険期間を得る

○スウェーデン[2000年]
 申告対象となる所得(年間8,952クローネ[123,450円]以上)を有する者は、強制加入

○カナダ(カナダ年金制度:所得比例年金)[1999年]
 年間基礎控除額(年間3,500ドル[268,350円])を超える所得を有する者は、強制加入

(注)資料中の円表示は、IMF, “International Financial Statistics”による1999年平均レート (1ドル=113.91円、1ポンド=184.33円、1マルク=62.05円、1フラン=18.50円、1クローネ=13.79円、1カナダドル=76.67円)。

(注4) 女性と年金検討会における提案は、時間基準について、現行の「4分の3以上」を「2分の1以上」に改めるとするものであったが、以下では、一般労働者の所定労働時間等の長短によって、個別の事業所毎に短時間労働者に対する厚生年金の適用関係が異なることとならないようにするとの見地から、時間基準については「週の所定労働時間20時間以上」として整理を行う。

(注5)

(1) 近年、就業形態の多様化の進展等の下で、「雇用者に占める厚生年金被保険者の割合」(被保険者比率)が低下。
 直近の厚生年金被保険者数(3,166万人 H12)は、過去10年間での当該比率のピーク水準(男77.9%、女61.1%(H3))が現在まで維持されていると仮定した場合と比べれば235万人、また過去5年間における当該比率のピークの水準(男76.1%、女58.5%(H8))が現在まで維持されていると仮定した場合と比べれば134万人少ない。
(2) このように、企業が近年短時間労働者の比率を高めてきた結果として、被保険者数さらに保険料収入の伸びが低下しているのが現状。
(3) 短時間労働者への厚生年金の適用拡大は、このような状況を改善し、年金制度の安定と負担の公平に資するもの。


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