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第11回資料
資料2−1

医道審議会医師分科会医師臨床研修検討部会
「中間とりまとめ」(案)

平成14年4月22日

目次

はじめに

医師臨床研修の現状と必修化の概要

(1)医師臨床研修の現状
(2)医師臨床研修必修化の概要

ヒアリングとこれまでの検討の概要

(1)医師臨床研修制度の仕組に関すること

ア 実施運営体制
イ 指導医について
ウ 研修施設・研修プログラムと研修医のマッチング

(2)研修内容に関すること
(3)研修施設の指定に関すること
(4)研修医の評価に関すること
(5)医師臨床研修に専念できる体制整備に関すること

必修化後の医師臨床研修制度の基本的方向

(1)必修化後の医師臨床研修の基本的在り方について
(2)研修施設について
(3)研修内容について
(4)研修施設・研修プログラムと研修医のマッチングについて
(5)研修委員会による研修医の指導・監督
(6)研修医の処遇

今後に向けて

(別添)

別添1 委員名簿
別添2 審議経過



1 はじめに

 我が国の医師卒後研修については、昭和43年にそれまでのインターン制度が廃止されたことに伴い、現在の医師臨床研修制度が努力義務として設けられた。以来、医学医療の進歩への対応や医師臨床研修の質の向上を目的として研修内容や研修施設の基準に関して、様々な改善が加えられてきた。
 近年、高齢化に伴う疾病構造の変化や医療の高度化、患者と医師とのコミュニケーションのあり方など、医療を取り巻く環境は大きく変化しており、こうした状況を踏まえ、医師の資質の向上を図るため、平成12年、医師臨床研修を必修化することを含む医師法等の改正が行われた。
 この改正は、医師臨床研修に専念できる環境を整備し、医師としての基盤形成の時期に、プライマリ・ケアへの理解を深め、患者を全人的に診ることが出来る基本的な診療能力を身につけられるようにすることを目的としており、これまでの医師臨床研修に対する考え方を大きく転換し、医師養成、医療供給体制のみならず、今後の我が国の医療の姿にも大きな影響を与えるものである。
 本検討部会は、平成16年4月の改正法施行に向けて、新たな医師臨床研修制度の在り方について議論を深めるため平成13年6月に設置された。
 これまで、10回にわたり、現行の医師臨床研修制度の問題点等について、様々な立場、観点からの意見を聴取し、検討を行ってきたところである。
 平成16年4月から新たな医師臨床研修を開始するため、厚生労働省は、研修プログラムや研修医の処遇及び研修施設の基準を含む関係法令等を整備する必要があるとともに、研修施設においても今後具体的な準備を進める必要があることから、これまでの検討結果を中間的に取りまとめ、公表する。

2 医師臨床研修の現状と必修化の概要

(1)医師臨床研修の現状

 現行の医師臨床研修は、医師法第16条の2の規定に基づいて医学を履修する課程を置く大学に附属する病院(以下、「特定機能病院等」という。)又は、厚生労働大臣が指定する病院(以下「臨床研修病院」という。)で行われている。
 平成13年4月現在、医師臨床研修を行う病院数は臨床研修病院476病院(うち一般病院461、病院群118群、精神病院15)、特定機能病院等134病院である。
 全国の二次医療圏(363医療圏)のうち、臨床研修病院及び特定機能病院等を有する二次医療圏は186医療圏(全国の二次医療圏数の51.2%)であり、有さない二次医療圏は177医療圏(同48.8%)となっている。
 平成11年度における医師臨床研修の対象者は、15,041人(2学年の合計)、実施者は13,079人(対象者全体の87.0%)となっており、そのうち特定機能病院等で実施する者は約75%、臨床研修病院で実施する者は約25%となっている。

(2)医師臨床研修必修化の概要

 医師臨床研修制度の抜本的な改善の必要性については、過去厚生省医療関係者審議会臨床研修部会において審議が行われ、平成6年12月に、中間まとめとして、医師臨床研修を「基本的には必修とするとともに、その内容等の改善を図ることが望ましい」との意見が取りまとめられた。
 これを踏まえ、同部会の下に臨床研修検討小委員会が設けられ、臨床研修の必修化を具体的に実施に移す上での論点の検討が重ねられ、平成11年2月、同審議会において医師臨床研修必修化について、その実施方法、研修内容、研修修了の認定等の大枠が取りまとめられた。
 このような議論を踏まえ、医師臨床研修の必修化のための医師法等の改正を行う「医療法等の一部を改正する法律」が、平成12年11月30日に第150回国会において可決成立し、医師の臨床研修の必修化の部分については平成16年4月から施行されることとされた。
 医師臨床研修に関する医師法等の改正内容は次のとおりである。

(1) 診療に従事しようとする医師は、2年以上、医学を履修する課程を置く大学に附属する病院又は厚生労働大臣の指定する病院において、臨床研修を受けなければならない。(医師法第16条の2関係)
(2) 臨床研修を受けている医師は、臨床研修に専念し、その資質の向上を図るように努めなければならない。(医師法第16条の3関係)
(3) 厚生労働大臣は、臨床研修を修了した者について、その申請により、臨床研修を修了した旨を医籍に登録するとともに、臨床研修修了登録証を交付する。(医師法第16条の4関係)
(4) 臨床研修を修了した旨の登録を受けようとする者等は、実費を勘案して政令で定める額の手数料を納めなければならない。(医師法第16条の5関係)
(5) 臨床研修を修了した旨の登録を受けた医師でない者が診療所を開設する場合には、都道府県知事等の許可を受けなければならない。(医療法第7条関係)
(6) 病院等の開設者は、臨床研修を修了した旨の医籍への登録を受けた医師に、その病院等を管理させなければならない。(医療法第10条関係)
 なお、第150回国会参議院国民福祉委員会において、「医師及び歯科医師の臨床研修については、インフォームドコンセントなどの取組や人権教育を通じて医療倫理の確立を図るとともに、精神障害や感染症への理解を進め、更にプライマリ・ケアやへき地医療への理解を深めることなど全人的、総合的な制度へと充実すること。
 その際、臨床研修を効果的に進めるために指導体制の充実、研修医の身分の安定及び労働条件の向上に努めること。」について、政府は適切な措置を講ずるべきである旨の附帯決議がなされている。

3 ヒアリングとこれまでの検討の概要

 本検討部会においては、新たな医師臨床研修制度の在り方について、実施運営体制、指導医、研修施設・研修プログラムと研修医のマッチング、研修内容、研修施設、研修医の評価、医師臨床研修に専念できる体制整備の主要論点について、研修施設関係者(特定機能病院等・臨床研修病院の指導医及び研修医)、医学教育の専門家、専門学会、地域医療の実践者、保険者などの専門的立場を代表する17団体から現状や意見の聴取を行うとともに、議論、検討を重ねてきた。
 それらの主要な論点について示された意見及び検討の概要は次のとおりである。

(1)医師臨床研修制度の仕組に関すること

ア 実施運営体制
(1) 研修指導体制の構築に当たっては、病院の管理者の積極的な取組が不可欠である。
(2) 研修期間を通して研修医を管理し、研修プログラムの企画運営を行う組織として、研修施設に研修委員会を設ける。
(3) 実効ある指導が行われるよう、研修施設あるいは研修プログラムごとの研修医の受け入れ限度数(定員)を定める。
(4) 患者に対する診療に当たっての指導医と研修医の関係(判断、決定、指示、実施の役割分担や責任関係)を明確にする。
(5) 指導医のみならず、看護師等の医療従事者も一体となった研修指導体制とする。
(6) 名札の着用などにより、研修施設内で研修医がそれとわかるよう表示する。
(7) 地域の保健福祉施設の受け入れの際の研修指導体制については、指導医以外の指導者の活用についても柔軟に考える。
(8) IT技術の進歩を踏まえた遠隔指導支援体制を構築し、へき地・離島医療の研修を行う。

イ 指導医について
(1) 医師臨床研修の充実のためには、研修施設における適切な指導医や指導体制の確保が不可欠である。
(2) 指導医の要件を見直して、幅広い基本的な診療能力の養成という研修の目的に適したものにする。
(3) 関係学会の専門医・認定医だけでなく、プライマリ・ケアについての充分な臨床経験のある医師も指導医として活用する。
(4) 必修化に向けて講習会やワークショップを開催し、指導医の養成を積極的に進める。
(5) 指導医が研修医に対して行う教育や指導について、各施設において積極的に評価する。
(6) 基本的な診療内容については施設としての共通の指針を持ち、指導医によって治療方針や手順が異なることのないようにする。
(7) 研修施設の実際の診療体制においては、近い先輩が後輩を指導するいわゆる屋根瓦式の指導体制とする。
(8) 医師臨床研修の初期段階においては、研修医が一人で診療に当たらないようにする。

ウ 研修施設・研修プログラムと研修医のマッチング
(1) 研修医が、全国的に研修施設を幅広く選択できるようにする。
(2) 研修施設は研修プログラムを公開して、研修医を公募する。
(3) 研修医と研修施設が相互に効率的に選択を行えるよう、マッチングシステムを設ける。

(2)研修内容に関すること

(1) いわゆるストレート方式による研修に替えて、ローテートにより様々な診療科を幅広く研修する。
(2) 内科、外科、小児科、救急部門などのプライマリ・ケアを必修とする。
(3) 地域医療、へき地医療、末期医療、保健・福祉、高齢者福祉・介護なども研修プログラムに盛り込む。
(4) EBM(根拠に基づく医療:Evidence-based Medicine)の実践、治験などの臨床研究についても研修する。
(5) 研修プログラムには、必修とする標準的な内容に加えて、研修施設の特色を出せるよう一定程度の多様性を持たせる。
(6) 必修とする研修プログラムについては、2年間で履修可能なものとする。
(7) ローテートにおける1診療科の研修は、1ヶ月を最低単位とする。
(8) 研修プログラムについては、内容に関して外部からの評価を受けることとする。
(9) 医師臨床研修修了後に専門医等の研修や大学院への進学を行うこととする。
(10) 卒前の医学教育改革が進められている中で、医師臨床研修の在り方についても今後継続的に検討し見直していく。

(3)研修施設の指定に関すること

(1) 臨床研修病院の指定基準については、研修の質を確保しつつ、幅広く研修施設を確保する観点から見直す。
(2) 臨床研修病院の指定に当たっては、病院群による指定の仕組みを活用する。
(3) 病床数の基準については、プライマリ・ケアを重視するという観点から見直す。その際に、病床の稼働状況等も勘案する。
(4) 剖検に関する基準については、画像診断機器等の発達も踏まえ、CPC(臨床病理検討会)等の実績を勘案して見直す。
(5) 中小病院であっても、地域医療を担い指導医や指導体制が得られる場合には、研修施設として活用し、二次医療圏に少なくとも一つの研修体制を設ける。
(6) 研修医の宿舎の整備を進めるとともに、図書を含む設備に関してはITの技術進歩を踏まえて見直す。
(7) 医療安全のための体制の整備を基準に加える。
(8) 臨床研修病院の指定後のフォローアップ評価を行う。

(4)研修医の評価に関すること

(1) 研修医の評価については、研修過程において指導医が適時に評価を行うとともに、これを踏まえて研修委員会が最終的な研修修了の評価を行う。
(2) 研修医を診療技術面だけでなく、チーム医療や患者とのコミュニケーションの面も含め、看護師等の他の医療従事者や患者、家族の視点から多面的に評価する。
(3) 修了認定に当たっての評価の基準を明確にし、評価方法の透明性を確保する。
(4) 研修医が指導医を評価できるようにする。

(5)医師臨床研修に専念できる体制整備に関すること

(1) 研修医について、アルバイトせずに研修に専念できる処遇を行う。
(2) 常勤・非常勤の別など研修医の研修施設内での位置付けを明確にする。
(3) 研修期間中の研修医のアルバイトは禁止する。
(4) 医師臨床研修は労働か学修かとの議論があるが、研修医が現実に診療に従事し、医師としての役割を果たしていることを踏まえた処遇を考える。
(5) 国が基本的な研修医の処遇の基準を示し、研修施設にかかわらず研修医の基本的な処遇が確保される仕組とする。
(6) 研修医が研修に専念できる処遇を確保するための財政的な措置については、一般財源や診療報酬による措置も含めて今後更に検討する。
(7) 勤務状況や研修医の健康状態を研修委員会が管理する。
(8) 研修施設は、処遇についても公表する。
(9) 研修医の指導体制や研修施設の整備を国が積極的に進める。

4 必修化後の医師臨床研修制度の基本的方向

 意見聴取や議論、検討の結果を踏まえ、必修化後の医師臨床研修制度の基本的方向について、本検討部会として概ね共通認識に至った事項は次のとおりである。

(1)必修化後の医師臨床研修の基本的在り方について

ア 必修化後の医師臨床研修において、研修医は、将来の専門性にかかわらず、2年間の医師臨床研修に専念し、プライマリ・ケアの基本的な診療能力を身につけるとともに、医師としての人格を涵養することが求められている。
イ プライマリ・ケアの基本的な診療能力は、従来のいわゆるストレート方式による医師臨床研修では身につけることが難しいことから、大病院のみならず、地域医療や地域の保健福祉の現場も含めた幅広い研修が必要である。

(2)研修施設について

ア 臨床研修病院については、病院群の拡大や指定要件の見直しなどによって、医師養成に熱心な病院が医師臨床研修に参加し、より多くの病院が研修施設として医療の質の向上に対するモチベーションを高めることができるようにする。
イ 研修施設は、研修医のための宿舎を含む施設・設備や指導体制を整備するとともに、地域の医療機関等(診療所、保健所、高齢者施設など)が連携し、二次医療圏に少なくとも一つの幅広い研修を提供できる体制を構築する。

(3)研修内容について

ア 各研修施設が研修プログラムを作成し、公表することにより、研修内容を国民の目に見える形で示す。
イ 研修プログラムでは、幅広い基本的な診療能力が身につけられるよう、基本となる診療科のローテーションとともに、具体的な研修内容を明示する。
ウ 研修内容は必ずしも全国一律のものである必要はなく、基本となる研修プログラムに加えて、研修施設や研修プログラムごとに特色を持たせることも可能とする。

(4)研修施設・研修プログラムと研修医のマッチングについて

ア 実効ある指導が行われるよう、研修プログラム及び研修施設に定員を設ける。
イ 様々な背景を持った者が混じり合うことが医師臨床研修の効果を高めることから、各研修施設が幅広く全国から研修医を採用することが望まれる。
ウ 研修医が研修機会を全国的、効率的に選択することを可能とするため、研修プログラムと研修医のマッチングを行う。

(5)研修委員会による研修医の指導・監督

ア 研修期間を通して研修医を管理・監督する組織として、研修施設に研修委員会を設ける。

イ 研修委員会は、研修プログラムの企画・運営に当たるとともに、研修の実施状況や、研修医の勤務体制、処遇等を指導・監督し、研修修了の前提となる研修医の研修成果を評価する。

(6)研修医の処遇

ア 研修医が研修に専念できる体制づくりのため、国は研修医の処遇の基準となる内容を示し、各研修施設は以下に例示する基本的事項を公表する。
(1)常勤・非常勤の別
(2)給与、勤務時間及び休暇
(3)時間外勤務、当直に関する規程
(4)医療保険、年金保険、労災保険及び雇用保険の加入の有無
(5)宿舎の有無
(6)医師賠償責任保険の加入の有無
イ 国民の期待に応えられる医師を養成する体制をつくるため、処遇及び医師臨床研修の実施体制の整備に要する財源確保については、平成16年4月からの実施に向けて、施設整備や研修経費の助成の拡充を図るとともに、診療報酬における対応も含めて幅広く検討し、必要な措置が行われることが求められる。

5 今後に向けて

 これまで行ってきた意見聴取や議論、検討を通じて、これまで行われてきた医師卒後臨床研修制度の問題点とともに、35年ぶりの改正となる新たな医師臨床研修制度の基本的な方向性が明らかとなったものと考える。
 また、新たな医師臨床研修制度についての関係者の概ねの共通認識が形成されるなど、新たな医師臨床研修制度の開始に向けての環境が整いつつある。
 今回の改正は、現行の医師臨床研修が専門医志向に偏り、いわゆるストレート方式による研修が中心となっている状況を改め、プライマリ・ケアを中心とした内容の研修を行うこととするものであり、これまでにはなかった大幅な転換である。したがって、新たな卒後初期の医師養成に対する各方面からの要請や期待を考えれば、過去や現状にとらわれない思いきった制度設計が必要である。
 今後はこの中間とりまとめをもとに、新たな制度の内容を具体的に実施可能なものとして作成し、平成16年4月の施行に向けて必要な環境整備を進めることを求めたい。



医道審議会医師分科会医師臨床研修検討部会委員名簿

氏名 所属・役職
相川 直樹 慶應義塾大学医学部教授
磯野 可一 千葉大学長
井部 俊子 聖路加国際病院副院長
内村 英幸 国立肥前療養所名誉所長
黒川 清 東海大学総合医学研究所長
櫻井 健司 聖路加国際病院長
杉本 恒明 関東中央病院名誉院長
高梨 昇三 日本経営者団体連盟参与環境社会部長
高橋 真理子 朝日新聞論説委員
辻本 好子 ささえあい医療人権センターCOML代表
徳永 力雄 関西医科大学医学部教授
中野 仁雄 九州大学副学長
仲村 英一 財団法人 結核予防会理事長
花井 圭子 日本労働組合総連合会生活福祉局次長
福井 次矢 京都大学大学院医学研究科教授
星 北斗 日本医師会常任理事
堀江 孝至 日本大学医学部長
三上 勝利 医療法人 健康会理事長
宮城 征四郎 沖縄県立中部病院長
矢崎 義雄 国立国際医療センター総長
山口 昇 全国国保診療施設協議会常任顧問
横田 俊平 横浜市立大学医学部教授

(平成14年4月1日現在 五十音順)


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