02/03/18 第11回 医療安全対策検討会議議事録           第11回 医療安全対策検討会議 日時 平成14年3月18日(月)10:00〜11:30 場所 厚生労働省専用第22会議室 ○森座長  ただいまから、第11回「医療安全対策検討会議」を始めます。年度末のお忙しい中、 お出かけいただきましてありがとうございました。本日は岩村委員がご欠席ですが、20 名の委員にご出席いただいております。ここでは、「仮称:医療安全推進総合戦略(案 )について」をご議論いただきたいと存じますが、10回にわたっていろいろご議論いた だきました結果を、この度1つの報告として出そうということで、起草委員の方々には ご努力いただいているところであります。堺先生のご説明の後、皆様方にご論議をいた だき、その結果を次回、最終的な案としてお諮りするという段取りになっておりますが 、それでよろしうございますか。まず、事務局から資料の確認をお願いします。 ○新木室長   本日配付しております資料は、資料1「仮称:医療安全推進総合戦略(案)」、資料 2はその参考資料です。 ○森座長  この資料も委員の方々、初めてご覧になるものではなく、既にある程度の論議を経て 何回か改訂を加えてきたものと理解しております。では早速、堺先生からご説明をお願 いいたします。 ○堺委員  報告書案についてご説明申し上げます。表題は仮称ですが、「医療安全推進総合戦略 」、副題として「医療事故を未然に防止するために」という題を掲げさせていただきま した。  内容を「目次」に沿って報告させていただきます。全体の構成として、「はじめに」 ということでこの報告書の経緯がありまして、それから3つの章に分かれています。第 1章「今後の医療安全対策」、第2章「医療安全の確保に当たっての課題と解決方策」 、第3章「国として当面取り組むべき課題」、最後に結論の「おわりに」があります。 参考資料が資料2で目録として掲げてあります。これについては、事務局で取りまとめ ていただき、次回に提出させていただきます。  「はじめに」のところは、この報告書がまとめられた経緯を、検討会議の流れに沿っ て記載したものです。第1章「今後の医療安全対策」は3つの柱に分かれています。1 −1「医療の安全と信頼を高めるために」ということで、これも2つに分かれていて( 1)「医療安全の確保」、(2)「医療における信頼の確保」となっております。「医 療安全の確保」が前面に出るわけですが、「医療の信頼の確保」ということも極めて重 大と考えまして、「医療の安全の確保について」が2頁から3頁にかけて、「医療にお ける信頼の確保」を4頁に記載させていただきました。  1−2「本報告書における検討の範囲」です。これは、以前からの議論にあるように 、この検討会議は主に医療の安全性を高める。そのために、医療事故を未然に防止する という観点から検討を行ってまいりましたので、医療事故発生後の救済等の問題につい ては主たる検討の範囲とはしておりません。これを一応お断りさせていただいておりま す。  1−3「医療安全を確保するための関係者の責務等」です。これは、さまざまな関係 者について記載してあります。(1)「国の責務」、(2)「地方自治体の責務」、( 3)「関係者の責務と役割」ということで、医療機関、医薬品・医療用具関連の企業、 教育研修・研究機関、医療関係団体等、保険者、その他関連の団体や個人と分けて記載 してあります。「医療従事者個人の責務」を9頁に記載しました。また、「患者に期待 される役割」を9頁の下の段に書かせていただきました。  いろいろな用語の解釈統一が必要かと考え、10頁から11頁にかけて、いくつかの 用語の解説を書かせていただきました。11頁に「アクシデントとインシデント」とあ りますが、この検討会議では「アクシデント」は「事故」、「インシデント」は「ヒヤ リ・ハット」という用語を使わせていただくことにしております。  次は12頁、第2章「医療安全の確保に当たっての課題と解決方策」ということで4 つの柱があります。2−1「医療機関における安全対策」で、(1)「基本的な考え方 」を記しました。次に「医療機関における適正な安全管理体制」ということで、どのよ うなものでなければならないかを記載しました。特に、「管理者の指導力の発揮」がい ちばん大切であろうという考え方を出させていただきました。その指導力の下に、「安 全管理体制の整備」あるいは「安全管理担当者の配置と活用」を書かせていただきまし た。  14頁では、そういう体制の下で「内部評価活動を推進」し、かつ「医療安全に関す る情報の管理」を行う。そして最後に、「他機関との連携」を行うというような順番で 記載させていただきました。  15頁の(3)「安全対策のための人員の活用」では、まず第一に「リスクを考慮し た人員の配置」を行わなければならないということを強調させていただきました。16 頁では「職員に対する教育・研修」、そして「職員の健康管理」という順番で書かせて いただきました。  (4)「標準化等の推進と継続的な改善」については、17頁で「標準化等の推進」 とあります。「標準化」と申しますのは、さまざまな手順、あるいはプラン、配置等々 いろいろなものについての標準化が必要だろうということを書かせていただいておりま す。この部分が19頁まであります。  19頁の(5)「医薬品・医療用具等の安全管理」の部分は、後に別の柱として「医 薬品・医療用具等にかかわる安全性の向上」ということを書かせていただいております が、19頁から22頁までは、医療機関内部における医薬品・医療用具の安全管理です 。後のほうに医療機関以外の機関における、安全管理というふうに分けて記載させてい ただいております。  23頁は「作業環境・療養環境の整備」です。医療機関の最後として「医療機関にお ける信頼の確保のための取組み」も3項目あります。「インフォームドコンセントのよ り一層の徹底等」、24頁で「患者からの相談窓口の設置」、「患者への情報提供と医 療安全」ということを書かせていただきました。  2−2「医薬品・医療用具等にかかわる安全性の向上」は、(1)「基本的な考え方 」に続いて、「医薬品」と「医療用具」に分けて書かせていただきました。「基本的な 考え方」は、冒頭に「人・環境・物」の取組みを書かせていただいた後に、「使用の安 全」、26頁に「使用の安全に留意した製品の開発と改良」、27頁に「医療機関等への 情報提供」があります。  このような全体的な記載に続き、28頁に「医薬品における取組み」ということで、 かなり具体的な部分もありますが、「販売名・外見の類似性」についていろいろな対応 が必要であろうということがあります。29頁に「製品に関する情報の記載方法の標準 化・統一化」、「医薬品情報の提供・活用」というものを書かせていただきました。  30頁以降は「医療用具における取組み」です。ここの部分では、「人の行動特性、 限界を考慮した設計」「適切な保守管理」「使用方法等に関する医療機関内の研修への 支援」「医療用具情報の提供・活用」などが必要と書いてあります。  33頁、2−3「教育研修」です。「基本的な考え方」として、「医療従事者に必要 な資質」、34頁「教育研修の充実」を掲げさせていただきました。続いて、「卒業前 ・卒業後の教育研修の役割分担と連携」が必要であろうということを36頁まで記させ ていただきました。  36頁の(3)「教育研修内容の明確化と国家試験出題基準等での位置付け」につい て提言させていただいております。(4)「医療機関の管理者及び安全管理担当者に対 する研修」の部分が、従来まだ十分整備されているとは言い難いという認識で、ここの 部分が重要だということを書かせていただきました。  37頁「効果的な教育研修を進めるための方策」というのは、今後さらに有益な方法 が開発されることを期待しているわけですが、現時点ではこのようなものがあるだろう ということです。38頁は「指導者の養成」です。  39頁からは、2−4「医療安全を推進するための環境整備等」です。まず「ヒヤリ ・ハット事例(従来のインシデント事例)の収集・分析・結果の還元」が必要でありま す。40頁の「根拠に基づく医療安全対策」というのは、普通申します「Evidence-base d Medicine」に基づいた医療安全対策の推進です。そして、「第三者評価の推進」が必 要だろうということです。  41頁の「苦情処理体制の整備」というのは、医療機関のみならず、都道府県その他 地域における相談体制も含めて書かせていただきました。(5)「関係者を挙げての医 療の安全性向上のための取組み」ということを、最後に結論として書かせていただきま した。  42頁、第3章「国として当面取り組むべき課題」というのはさまざまありますが、 まずなんといっても「医療機関内の安全管理体制の整備の義務化等」ということを提言 として書かせていただいております。「すべての病院及び病床を有する診療所」、従来 、特定機能病院に安全管理体制の整備がされていますが、本質的にすべての医療機関に これが広がるべきだろうという考え方です。「特定機能病院、あるいは臨床研修指定病 院には、従来よりもさらに高度な取組みが求められるであろう」と書いてあります。  「医療機関における安全対策に有用な情報の提供等」というのは、現在制度が整備さ れつつありますが、「ヒヤリ・ハット事例の収集範囲の拡大」、「医療安全情報の提供 」、44頁で「EBMデータベースの整備等」があります。  3番目として、「医薬品・医療用具等に関する安全確保」です。具体的には(1)「 医薬品の販売名・外観の類似性に関する客観的評価のための基盤整備」、45頁で「医 薬品の製品情報の記載方法標準化の推進」「医薬品情報の提供」「お薬手帳の一層の普 及」以下省略いたしますが、さまざま書いてあります。  46頁は、「医療安全に関する教育研修の充実」です。これも、具体的な項目が(1 )から(5)まで書いてあります。  47頁は「苦情処理体制の整備」です。都道府県・医療関係団体、あるいは各医療機 関についての提言を書いてあります。  「関係者を挙げての医療の安全性向上のための取組み」ということでは、毎年11月末 に「医療安全推進週間」を中心として、医療関係者が共同で行動していこう、それをさ らに拡充していこうという考え方です。「医療の安全性向上のための研究の推進」に国 としても取り組むべきということです。  最後に48頁は全体の結論です。当検討会議としては、厚生労働省においてこれらの 対策を確実に実施するために必要な予算等の確保、税制改正要望、規制等の見直し、教 育啓発活動などに取り組まれたい、という要望を掲げてあります。付属資料は、事務局 で作成させていただきます。以上です。 ○森座長  ありがとうございました。どのような点についてでも結構ですので、ご質問、ご意見 を頂戴したいと思います。その内容を、再び起草委員会でお考えいただき、次回の最終 案に反映させてお見せしたいと思います。  仮称ですが、「戦略」という題名はいいのでしょうか。いまはアメリカの影響か、日 本でも戦略という言葉を簡単に使ってしまいますが、何と闘うのか。「戦略」という言 葉そのものにも考慮する余地があるかもしれませんね。 ○飯塚委員  どのようにしたら安全確保できるか、ということに関する方法論がここに盛りだくさ んに入っています。よく書けていると思うのですが、そういう方法そのものをきちんと 実施していけるような体制をつくっていくという視点が少し弱いのではないかと思いま す。さまざまな利害関係者がいますが、安全にかかわる実施者が安全を守ることが重要 であるという価値観を持つという状況をつくっていかなければいけないわけです。別の 言い方をすれば、レギュレーションを設ける。あるいはインセンティブとかドライビン グフォースといったことを考慮する必要があるわけです。そのことに関する記述が少し 足りないのではないかという気がいたします。  20年ぐらい前に中国で品質関係の会議があって、そのときのパネル討論会の中で、 「なぜ日本の工業製品の品質は良いのですか」と聞かれたときに答えに詰まってしまい ました。「それは、買う側の品質意識が高いからだ」と言ったのですが、市場原理が働 いて良い物でなければ売れないという状況があるから、得するように動いていく。そう いう状況によって製品の品質が上がっていくわけです。  医療機関、さまざまな関係者、医薬品メーカー、器具メーカーが安全を確保するとい うことに取り組むこと自体が得になる、という構造をつくらない限り、どんなきれい事 を言ってもなかなか進まない。その1つの方法として、「規制」というのがあると思い ますし、1つの方法として「インセンティブ」つまり何らかの優遇策を付けていくとい うことをして誘導していくことが必要だと思うのです。  そういうことを考えない限り、こういう方策は絵に描いた餅になる可能性がある。も ちろん人を動かすためには脅かすということと、ご褒美を与えるということと、あと頼 るのは使命感・正義感です。3番目の使命感・正義感だけでは人は動かないです。最初 の2つのことを十分に考慮した策を講じない限り、実質的な改善案にならない可能性が あると思います。 ○森座長  この報告書は「戦略」あるいは「方針」を考える、という立場でまとめられたものと 思いますが、何かお答えになられますか。 ○堺委員  「おわりに」のところに、圧縮した形で提言を書かせていただきました。一起草委員 としては、ここは非常に大事だと考えております。しかし、起草委員会は、あくまでこ の検討会議でこれまでにご議論頂いただいたものをまとめるという方向で作業を行って まいりました。このような踏み込んだご検討、あるいは提言というものがいままでやや 乏しかったのではないかと考えて、このような形にさせていただきました。 ○大谷課長  今回、安全を規制によって実現する、ということは必ずしも正しくないというベース はあると思います。しかしながら、やるべきことはきっちりと書き込む必要があります 。例えば42頁には、「医療機関内の安全管理体制の整備の義務化」というように、「 義務化」という言葉を使って、「国として当面取り組むべき課題」を整理しております 。ここで、「診療報酬改定において減算」という形も書いています。さらに「法的にそ の旨を明らかにすべき時期が来ている」ということで、ある程度指導ベースで医療安全 を強化しよう、という辺りも書いております。別に、新立法で医療安全を絞め上げるみ たいな発想はありませんが、医療機関が行うべきルールは明確にして、それを法規上実 施していくということは書いているところがありますので、参考までにご覧いただきた いと思います。 ○森座長  今度の法律の中には、「安全」という言葉がやや強く盛り込まれるのですか。 ○大谷課長  いまの医療法の中にも、病院の管理者に対する義務というのがありますが、その義務 の中に安全というものが、現在の指導基準では明記されておりません。今後は省令や通 知の中で、今回のこれを活かして、「安全」ということを明確に位置付け、行うべきも のを明らかにして、その遵守を規範としても明らかにしたいということで考えておりま す。 ○飯塚委員  いまのご発言の中に、「安全を規制によって達成することは間違いである」かのよう な発言がありましたが、世界各国どこへ行っても、安全義務を確保するために、さまざ まな法律を作って規制しているわけです。安全であるということが、経済的に有利な状 況になかなかなりにくいものですから、短期的に、あるいは狭い視野で見ると、不安全 なものを市場に提供する可能性があります。  そういう意味で、現在も製品安全法という法律がありますし、電気用品にもさまざま な規制があるわけです。もちろん不必要な規制はだめですが、規制を恐れてはいけない と思います。二律背反の危ない所で安全を取るということをしない限りは、安全文化は 広まらない。これは勇気を持ってやるべきだと思っています。 ○大谷課長  言葉が不足していましたが、新法で罰則などをやれば、医療安全が達成できるという シンプルな考えがあったので、そういう考え方では医療安全は達成できないという意味 で申し上げたのです。 ○小泉委員  今回のタイトルは副題も含めてわかりやすく結構と思います。  細かいことですけれども、1頁の「はじめに」のところの末尾、「先進国」という言 葉をここに持ってくるのは、いささか唐突のような気がします。  もう1点は、42頁の「義務化」の問題です。これまでこの会議の全体のトーンとし て医療安全というのは、「医療機関が自主性を持って、より良き医療安全のためにあら ゆる方策を考えて」というように、「自主性を尊重」してきました。それが最終段階で 「義務化」とか、「法制」という言葉が出てきました。先ほどから、それは必要だとい う強いご主張がありますけれども、私は医療機関の自主性といいましょうか、医療機関 が本当にその気になってやらなければ成果が上がらない、という点は見失ってはならな いと思っております。  関連で細かいことですけれども、42頁の中ほどの、「法的にもこの旨」というとこ ろは、あたかも医療保険の関連で法的にというふうに読み取れます。やはり、医療安全 は医療安全として、医療法であるとか、そのこと自体の法律の中で明記するというのが 筋ではないかと思います。 ○三宅委員  いまのこととも関連があるのですけれども、43頁のところです。特定機能病院とか 、臨床研修指定病院が、さらに強い安全対策をする必要がある、ということでの義務付 けということが書かれているわけです。これについては、それ相応の支援をしていただ きたいと思います。前文のところでも15頁辺りで、「安全対策のために必要な人員の 配置をしなさい」ということを書いています。その配置をするためには、それだけの経 済的な裏付けがないとできないことなのです。ですから、ただそういうことを言うだけ ではなく、それに対してはきちんとした資源の配分をする、ということが明確にされな いと、具体的に進んでいかないのではないかという気がいたします。 ○中村委員  42頁のところですが、次回の診療報酬の改正で「医療安全管理体制」が取り入れら れたわけです。本格的にこれに取り組む動機付けになりましたし、いま関心が集まって いるところであります。  具体的にはどのような内容から充実していくべきかとか、医療安全管理体制と言って も、その質がいろいろあろうかと思います。その質をどのように評価するのか等々も今 後具体的に案が出されてくるのでありましょうか。 ○全田委員  大変よくまとめていただきました。我々に関係する医薬品、あるいは医療器具に関す ることも非常によくまとまっています。  1つ教えていただきたいのですが、例えば「類似の医薬品を客観的」まではわかるの ですが、「定量的に評価する」というのはどういう意味なのでしょうか。例えば28頁 とか、44頁の下から3行目に「類似性を客観的に評価する」ということはわかるので すが、「定量的評価」というのはどういうことでしょうか。 ○堺委員  これは、「開発」というところを見ていただきたいのですが、いま現在はそういう手 法が確立されているとは言えません。ただ、こういう何らかの客観的な手法が将来確立 されませんと、判断の基準ができません。右へ行くべきか左へ行くべきか、イエスかノ ーかということを決める物差しが必要だろう。その物差しを作るべきだろうという提言 だというふうにお取りいただきたいと思います。 ○全田委員  46頁の「教育研修の充実」のところで、前回より非常に簡略化された気がするので すが、何か特別な意味があるのですか。 ○堺委員  いいえ。この部分は簡略ですが、その前の部分にもっと詳しく記載したつもりです。 第2章の16頁、2−3、2−4辺りです。 ○黒田委員  いろいろな点において、細かい項目を検討していただいて大変素晴らしいと思います 。リスクマネジメントの面から見て1つ弱いところは、プラン・ドゥー・チェック・ア クションという流れのうち、チェックのための項目です。  通常は、災害の状態を示す度数率とか、共同率というものがきちっと決まっていて、 あるアクションを取るとそれがどのぐらい良くなったか、ということが表れてきます。 現在の日本の医療安全に関しては、このプランを動かしていくと、いまの状態からどの ぐらい改善するのかという定量的な物差しがありません。いろいろな情報が出ているの ですけれども、その物差しがあって、初めてどういうアクションを取っていくかという ことが出てきて、それがだんだんスパイラルアップしていくわけです。第3章の2の「 情報」の中で、我々はそれをどういうふうに読み取っていったらいいのでしょうか。ご 説明をお願いいたします。 ○堺委員  黒田先生のご指摘のとおりです。いまは、まだ我が国には医療安全を定量的に効果を 判定する仕組みはありません。おそらく世界中にまだないだろうと考えております。現 在1つ開発されつつあるのは、国全体としての「ヒヤリ・ハット事例」の収集です。こ れは、まだ始まったばかりですが、既にかなりの医療機関から、かなりの数が集まって きております。これを経時的に追跡することによって、その内容がどのように変化する か、あるいは数量的にどのように変化するかということが、1つの指標にはなり得るか と考えております。このほかにも、医療安全の定量的な指標ということについて、むし ろ先生方の積極的なご意見を頂戴したいと考えております。 ○森座長  医療の安全を期する諸施策によってもたらされる効果を数字で示すためには、現在の 医療過誤によって起こっている悪い事例のデータがないと比較できませんね。本当はこ のぐらいという、数的なデータはないのでしょうか。 ○堺委員  唯一ありますのは、医療訴訟の訴訟件数ということかと思います。これが現実に起こ っていることを正確に反映しているかとなると、これは社会的な背景の変化ということ もありますので、法律の専門の委員にお伺いすべきかと思います。現在の段階では。森 座長のおっしゃった悪い事例の定量的な指標は我が国には存在しないと考えております 。 ○黒田委員  いまの話に関連するのですが、原子力もそうなのですけれども、この中でも一部触れ ておりますが、医療というのは100%安全ではないと考えております。そうだとすると 安全を論ずるときに、許容できる、あるいはセーフティ・ターゲットということが、最 後には必ず出てくると思うのです。医療というものに対して無限に金をかけ、無限のマ ンパワーをかけてやれる部分と、そうでない部分があると思うのです。そのときに、ど こにターゲットを置くかというデータというものは積み上げていかなければ出てこない だろうという気がします。最終的な安全というものをどういうふうに表すか、というこ とを研究のテーマか何かに是非とも挙げていただきたいと思います。 ○長谷川委員  いまの議論に関係あるのですけれども、一体日本でどういうふうな事故が起こってい るのか、それをどういうふうに解決するのか。実際にイギリスへ行っていろいろ話をし たところ、行政官はすごく大変なのだと。毎年43万件ぐらい発生しているようである 。3万4,000人死んでいて、そのうち半分がミスによるものである。つまり1万7,000人 が毎年死んでいる。だから、我々はこうして頑張らなければいけないのだ。イギリスで は医療安全にかなりの金を注ぎ込んでいて、医療安全に関しては大変活気がありました 。  諸外国の研究等から平均を取ると、大体入院の10%に事故が起こっているようです。 それで試算すると、日本では1年間に約120万件になります。したがって、我々が思っ ているよりも、かなりマグニチュードの大きな問題です。  死亡率も比較的安定しておりまして0.3%から0.8%です。それを日本に置き換えます と、大体0.4%としても5万2,000人で、その半分がミスによると言われています。大体 日本の医療事故による死亡者のマグニチュードを入院だけ見ましても2万6,000人ぐら いになってまいります。  WHOでもいろいろな知恵を出し合って医療事故に取り組んでいこうという提言があ るようです。まずは、日本国内の各施設での取組み。それだけでは足りない、施設を超 えた日本国全体の取組みが必要だと。イギリスとアメリカは言葉が一緒だということも あるのでしょうけれども、共同研究、情報の交換、人材の研修などを共同してやってい るようです。さらに国を超えていろいろな国でお互いに学び合ってやっていく必要があ るのではないかという提言がこの中には入っていないので、少し足らないかなと思って おります。  細かい点では、「苦情処理」という言葉がありましたが、これはあまり良い言葉では ないと思います。「苦情」というのは「処理」するものではないのだ。ありがたく聞い て、それに対応していく。その中に安全性の改善へのヒントがあるのではないか。処理 するというのは、まさしく提供した側の論理だと思うので、「苦情に対する対応体制」 とか、「検討体制」という形で言葉を換えたほうがいいのではないかと思いました。 ○辻本委員  患者の立場として、今回のまとめを読んで、ようやく国がこういう体制をとろうとし ている姿が見えたことで、少しは「安全」ということ、「信頼」ということの確保に近 寄ったかなと思いながら読ませていただきました。  もちろん、患者の安全が確保されるということはとても大事なことなのですが、これ までの個々の医療事故などの事例を見ても、一方の当事者になる医療者自身も非常に心 を砕いている。その部分への視点が少し薄いように思いました。働く場で本当に医療者 の人権が守られている、ということが患者の安全にもつながるわけですし、逆に患者の 安全は医療者自身の身の安全でもあるわけです。そういう視点から見ると、13頁と1 4頁の「管理者の指導力」と「安全管理担当者の配置」など、まだまだトップダウンと いうものしか見えてまいりません。(4)の「内部評価活動の推進」と挙げられていると ころで、現場が、変だということを「変だ」とオープンに言える、そうしたボトムアッ プが望まれるのだということを膨ませていただけたらいいなと思いました。「おわりに 」の末尾で「図られたい」と非常に遠慮がちにまとめておられるのですが、患者の立場 としては「強く望みたい」という言葉であってほしいと思います。  4点ほど、感じたことを申し上げますのでご検討ください。まず「はじめに」の部分 で、いちばん最後の行の「患者が求める医療が実現されることを切に願う」というよう に、「患者が求める医療」というふうに、非常に総体的な表現をしていただいておりま すが、ここは具体的に「患者が求める安全・安心・納得の医療」としていただくか、あ るいは「患者の信頼に応える医療が実現されることを」と、もう少し明確にお示しいた だきたいと思います。  2点目は、4頁の2番目の段落の3行目で、「説明や情報を得て、よく納得した上で 医療を受けることを期待している」とあります。インフォームドコンセントにおいてい ちばん重要なことは、患者が自由意思によって、自分自身の治療方法を選択するという 、その自己決定という意味合いがここに欠落しております。そういう意味で、「よく納 得した上で、自由意思によって選択した治療あるいは医療を受けること」ということを 提案させていただきます。  3点目は、9頁の(5)の3行目に「患者に対して情報を提供し、患者は自ら治療方 法などを選択して」とありますが、この間に「医療者との十分なやり取り」といういち ばん大切なことが欠けていると思います。情報が提供されて、「はい、あなたが決めな さい」ということにならないためにも、ここで十分にやり取りをする、ということを加 えていただきたいと思います。  それからもう1つ加えていただきたいのですが、12頁のいちばん最後に「医療内容 等に関する十分な説明や情報提供を行うとともに、患者自らが相談できる体制」とあり ますが、その前に「自己決定を支援するための、患者自らが相談できる体制」というこ と。患者もさまざまでして、いろいろなスタンスで相談ということがあろうかと思いま す。新しく設置されようとする「相談体制」ということは、あくまでも「自己決定を支 援する」という意味合いを明確にしていただきたいと思い、この提案をさせていただき ます。 ○堺委員  大変貴重なご意見をありがとうございました。訂正点については、できる限りそのよ うにさせていただきます。ただ、医療機関の管理者、あるいは体制の部分は、辻本委員 もよくおわかりいただけていると思っておりますが、これまでとかく医療者個人の責務 に帰せられがちであったところを、そうではなくて、医療機関の体制、システム、医療 機関の管理者、あるいは安全管理者の育成強化というものが、現時点では必要だろうと いうことで、そちらのほうをより強く書かせていただきました。9頁の「医療従事者個 人の責務」という部分は、いまのご意見を伺いまして、もう少し書き込まさせていただ こうと考えております。 ○山崎委員  医薬品の安全確保について意見を申し上げます。2つ重要なことがあります。1つは この報告書に既に盛り込まれております「販売名・外観の類似性による取り違えの事件 」です。これは完全に防がなければいけないことだと思いますし、「客観的な評価が行 われるようなシステムの構築」によって防げるのではないかと思います。  一方、間違いなくある医薬品が患者の治療のためにその手元に届いたとして、その後 の問題があります。その医薬品が間違いなく、その患者に対する処方によって届けられ たとしても、まずはその患者に適合しているか。その患者がリスポンダーであったか、 ノンリスポンダーであったか。あるいは副作用が出現しやすいような体質をもった方な のか。これは遺伝子解析が行われるようになれば防げると思うのですが、現時点におい てこれを防ぐ最高の手立てとして、特に医薬品を適用し始めた初期の段階での副作用発 現の初期症状の把握というのがあります。現在生体の機能そのものに関わっていくよう な医薬品が開発されてきています。血中濃度のモニタリングとか、初期症状の観察とい ったようなことによって使ってください、という条件付きでの承認が増えてきておりま す。これは専門家以外にはなかなか把握できない状況ですので、この点のミスというの は把握できないということにもなります。  44頁、第3章の「国の当面取り組むべき課題」の3に「医薬品・医療用具」という のがあります。これまでにも、医薬品については販売名・外観の類似性ということにつ いては、非常に的確にご指摘をいただいてきておりますが、ここの安全確保のところで も、その視点のことだけが強調されていて、副作用の初期症状の把握であるとか、その 医薬品の持っている特性をどういうふうにして観察していくか、チェックしていくかと いう項目が抜けています。  次の頁の(3)に「医薬品情報の提供」というのがあります。ここでも情報の提供と いうのは、販売名・外観の類似性に関する情報が適切に提供されるように、ということ だけが強調されているように思います。私は、これと同時に、そのような副作用、重篤 な症状に至る副作用の初期症状を把握するための情報の提供が、医薬品の安全を守るた めには大変重要なことではないかと思っております。  そのような専門的な部分については、見逃がしたとしても、なかなかマスコミで報道 されるというような状況にはならないために無視されがちではあると思うのですが、私 の立場から考えると、このような情報が医薬品による安全を確保する意味で非常に大切 ではないかと思っておりますので、一言申し上げました。 ○堺委員  貴重なご意見をありがとうございました。40頁と44頁にEBMのことを記載して おりますが、EBMは山崎委員がおっしゃいましたようなことも包括すると考えており ます。 ○梅田委員  大変詳細にわたって、総合戦略をお書きいただきました。私どもは会員の生涯研修を やっておりますが、その中にこれを全部講演することは難しいと思います。概要という ようなものをお出しいただければありがたいと思います。その概要で説明し、後にこれ をゆっくり全部読んでほしい、ということで会員の指導にしたいと思うのですが、いか がでしょうか。大変欲張りなおねだりですけれども、よろしくご勘案いただきたいと思 います。 ○堺委員  それは当初から計画しておりまして、この報告書が出来上がりましたら、それの概要 も作成したいと考えております。事務局のほうで追加することがありましたらお願いし ます。 ○新木室長  概要を作り、わかりやすい形でお配りしたいと思います。そこには、当面報告書に書 かれている各関係者が取り組むべき事項をまとめ、これをアクション・プランとして関 係者の方にお集まりいただき、お配りするような機会も設けたいと思っております。 ○三宅委員  9頁の「医療従事者個人の責務」というところで、「基本的な倫理感や知識・技能を 身に付けるとともに、常に学び続けることが必要である」ということは結構なのですけ れども、非常に問題のある医療従事者に対する何らかの規制を強化することをもっと表 に出したほうがいいのではないかと思っています。 ○黒田委員  この報告書を受ける厚生労働省の方にお聞きしたいと思います。私は、長い間安全の いろいろな研究をやってまいりましたが、何か肩を張って安全のためにこうしなければ ならない、ということをいつも考えている組織は駄目だということが分かりました。特 殊概念として安全があるのではなくて、普段の姿の中に、安全が浸み込んでいくという のが安全文化であって、安全というのを特殊概念として考えている限り、その組織は安 全ではない。  我々は、こういう報告書を作って、大変理想的な「あるべきだ」とか、「ねばならぬ 」ということをいっぱい並べるのですけれども、これを受けて、各病院の先生方や、医 療機関の方々は大変なことになるのではないかという気がするのです。ワークロードの 点、いろいろな予算の面でです。実施の段になって、うまくいかない点がいっぱい出て くると思うのです。そういうときにはどういう指導をするのか。現に大変大きな病院で 安全管理委員会もつくりながら、なおかつトラブルが起こっているケースが出てきてい るわけです。私も委員としてたくさん書いたけれども、うまくいかないのではないか、 ということで心配しているのですが、いかがでしょうか。 ○新木室長  黒田先生のご指摘は、大変重要な点だと思います。我々といたしましては、実際に医 療機関に行っていただくために、いくつかの方策があろうかと思っております。ここで 書いてあるように内容を義務付ける。これは、法律もしくは政省令等で行う部分です。 また、それに基づいて実際にどういうふうに行うのか、ということをガイドライン的に お示しするようなことが1つあると思います。  それが日常の医療行為の中で実際に機能するように、そのための体制をどう整備する か。それが安全管理の部門だと思います。安全管理体制が日常の業務として日々のこと に根付いていくことが重要だと思いますので、そのための体制も整備していただきます 。  今後、実際に医療機関がこれを実施していく上でいろいろ困難な点、問題点等が出て くるかと思いますが、そういうものに答えられるような情報の提供の仕方を考えていか なければいけないかと考えております。いろいろご指摘いただきますので、それらを実 際に実施していけるような義務化の問題、情報提供の問題、相談体制の問題等々を含め て検討していく必要があろうかと思っております。 ○森座長  この報告は一里塚のようなもので、次のステップがあるわけですね。 ○櫻井委員  2−2で「医薬品と医療用具」についてお書きいただいています。大変よく問題を把 握してお書きいただいていると感心しております。1つ行政にお伺いしたいのは、32 頁の中ごろに、「医療機関においては情報を入手するための窓口を設置し云々」と書い てあります。その下には、「企業が医療従事者に対して効率的に情報提供をするために は、医薬情報担当者(MR)と同様な医療用具の情報に関する専門家を育成する必要が ある」ということが書かれています。  大変理想的で全く賛成なのですけれども、先ほどからいろいろご議論が出ていますよ うに、安全の問題というのは、ひとえに実行性にかかっておりまして、お題目を並べる だけでは絵に描いた餅にすぎないことになります。そうなると、医薬品の業界と医療用 具の業界というのは非常に違っております。医療用具の業界は多品種少量でスケールメ リットが働きにくいですし、それだけの力のある企業がどのぐらいあるかという点も問 題です。  現状から考えると、薬局のない病院というのはないと思いますが、医療用具に関する 窓口のない病院はたくさんあるというか、そのほうが多いわけです。そういう所で「窓 口を設置し」ということを書きますと、これは、ひとえに行政的な手法といいますか、 やり方に関する問題ではないかと思いますので、そこのところを質問させていただきま す。 ○新木室長  「医療機関」のところで、22頁の上から7行目に「医療機関のほうに窓口を設けて いただく」と。これが「安全管理部門と連携をとって」ということですが、医療機関の 実情に合わせてで結構だと思いますが、「安全管理部門等が、そういう窓口に当たるべ きである」と考えております。 ○櫻井委員  そうしますと、病院におけるクリニカルエンジニアの配置ということも、非常に明確 に決めていただかないと、窓口があってもそこに適当な人材がいなければ、これは窓口 だけで済む問題ではないということなのです。そのような人材の配置・整備ということ はどのようにお考えですか。 ○新木室長  医療用具の情報にどういう方が対応するのが最もふさわしいかということについては 、起草委員会でもかなり議論していただきましたし、事務局でもいたしました。櫻井先 生ご指摘のクリニカルエンジニアは非常に重要な方だと思いますが、その担当する人、 職種については必ずしもここで特定の方を指示するというのはあまりにも狭くなるのか なと思います。ただし、その知識を有するふさわしい方が当たることが必要というのは 当然のことだと思っています。 ○櫻井委員  MRに相当するような医療用具の専門家の問題ですが、これは企業という立場で考え ると、非常に難しい問題もあると思うのです。平たく言うと非常に小企業が多いし、医 療用具は3分の1が輸入なのです。そうすると輸入業者がそういうことをちゃんとでき るのかどうか。そこは、行政的に相当力を拝借しないと、きちんとした形ではいかない のではないかという危惧があるのでお答えいただきたいと思います。 ○伏見室長  櫻井先生のご指摘の点に関して申し上げますと、「MR」というのは医薬品の世界で 使われる言葉です。いま、いくつかの医療機器のメーカーにおいては、それに相当する ような製品の専門家を配置しております。今後、薬事法に関していろいろな制度改正を 考えておりまして、市販後の製品に対する説明責任が企業に対して強化されていく方向 になろうかと考えております。  そういう中で「MR」という名前を付けるかどうかは別として、医療用具のメーカー においても、製品の情報を十分に提供できる人材の養成が課題だと思っております。こ れに関しては、医薬局としてもきちっと取り組んでいきたいと考えております。 ○矢崎委員  いま、特定機能病院や国公立を中心とした大規模病院でいろいろ医療に問題が起こる ということが、医療の安全と信頼に対する大きな問題になっていると思います。その対 策として「ヒヤリ・ハット事例の収集」というのが、ほぼ多くの病院では確立されてい るかと思います。その対応をどのように組み立てるかというのが大きな課題です。  それについて1つは「内部評価」、もう1つは「外部評価」があると思います。「内 部評価」については、病院の中でそれぞれ検討するということで誠意やっておりますが 、「外部評価」についてどうするかということです。これに関しては14頁の(4)で「 内部評価活動の推進」と、できれば「外部評価の活用」というタイトルを入れていただ ければということです。  それから、「外部評価」については40頁、41頁にありますが、これは事故が起こ ってからそこを調査するということではなくて、どういう体制で事故防止に当たってい るかということを、1つ「病院の評価」という観点から、どこか医療機能評価機構でも いいのですが、そういう予防体制がきっちりできているかどうかということを、評価す るというようなことがあってもいいかと思います。あそこの病院に行けば安全な医療が 受けられるということについて、大体の目安ができるようなことができればと思います 。  先日、厚生労働省が「医療過誤に対する情報の公開」ということがありましたけれど も、それについては内部の評価だけではなくて、十分外部の評価が入った、何かそうい うものがあったほうがいいというご意見が多かったのではないかと思います。できれば 、そういう情報の公開が今後に役立つように、病院全体の評価としてシステムを作って いただければ大変ありがたいと思います。 ○全田委員  矢崎先生のおっしゃるとおりです。私は、厚生労働省でほかの委員をやっているので すが、大きくなればなるほど、なかなか人と人とのコミュニケーションがうまくいかな いので、そこにいろいろな問題が出ているということを感じております。先ほどからい ろいろな先生がおっしゃっているように、これをどう実施していくかということだと思 うので付け加えさせていただきます。 ○岸委員  42頁以降ですが、「国として当面取り組むべき課題」ということで、医療安全をど うやって確保していくかということが、案としては非常に具体的になったと思うのです 。  1の場合の「義務化」とか「整備する」という表現でこれは明確になっているのです が、問題は2以降でして、読んでみると「すべきである」のオンパレードなのです。私 どもの言語学でいくと、「すべきである」というのは、「本質的にはやるべきだが、し かし当面しなくてもいいよ」というのが大体役人用語だと理解しております。ですから 、「すべきである」のオンパレードというのは、言ってみれば思いが足りないと思うの です。テーマによっては、もう少しメリハリが付くはずです。  いくつかのテーマに「すべきである」が列挙されていますが、業界団体とのすり合わ せが必要なものも多々あるのでなかなか難しいのでしょうけれども、厚生労働省独自で 明示できるものがいくつかあるはずだと思うのです。例えば「国家試験の出題基準の位 置付け」などは、「2年後を目途に」とか、一定程度の明示できるものがあるはずだと 考えます。その点はもう少し明示して、「すべきである」というよりは、我々が物を申 すのですから「すべきだ」でもいいのですが、一定程度のメリハリを付けていただきた いということです。 ○大谷課長  いまの「べきである」という表現のことですが、42頁の法律の義務化のところは「 する。」と書いてありますが、その頭のところは「以下のことについてするべきである 」という感じになっています。これは検討会議のご意見をいただきまして、我々として は「する」というものを遠からず出そうと思っております。いただくものは「べきであ る」でいただいて、我々は「する」という関係でいかがでしょうか。 ○岡谷委員  1点お願いしたいのですけれども、「研修の必要性」のところで、安全を確保してい く資質を向上させていくのに、卒前・卒後の研修が必要だということはそうだと思うの です。特に卒後の研修で、看護職の場合新人研修をどこの病院でも非常に努力をしてや っております。いまの現状だと、大きな特定機能病院や大学病院等では、入職してから 3週間ぐらい経つと夜勤は1人でやらなければいけないという現状があります。  アメリカなどでは、6カ月間ぐらいはプリセプターがきちんと付いて新人の教育に当 たる、というようなことが行われています。安全の実行性ということで言うと、そうい う体制を整備していくような形で今後検討していく機会が持たれないと、絵に描いた餅 で、いまの現状を一病院の看護スタッフ、あるいは病院の責任だけでそういうことを実 行していくというのはなかなか難しい状況にあるのではないかということで、の点を強 調させていただきます。 ○井上委員  全体的には大変よくまとまっていると思います。皆さんそれぞれご意見があると思う のですが、国として医療安全対策をやる、という決意を持って私どもに付託をされ、1 年間にわたって検討してきました。全く取組みがなかった現状が医療の中にあったわけ ですが、その方向性は示せたかなと思います。起文に関しては起草委員の先生方の大変 なご努力であったと思います。  特に42頁以降、第3章の「国としての当面取り組むべき課題」からが非常に大事な 部分と思っております。これを受けて、国としてこれから先、具体的な政策なり、委員 会の発足なり、それぞれの解決に向けて実施されていくのだと思うのです。本日ご発言 をいただいた長谷川先生や飯塚先生がご指摘をされた、例えば「定量的な部分がない」 とか、「情報をフィードバックして、いかに国民に還元していくのか」という部分につ いては、まさに42頁以降の「国として当面取り組むべき課題」で、これから先具体的 に政策を打ち出してくるのでしょうし、他の省庁間と関連するものについては、調整を 図りながら進めていただける、その医療安全対策の第一歩になったということはできた という気持があります。 ○川村委員  先ほどから何度も話が出ております、「安全のコスト」という問題があります。実現 ということを考えれば、どの項目をするにも労力と時間がかかります。私も長く医療現 場で働きましたが、本当に疲労困憊する現場です。これを医療機関が読んだときに、無 力感にかられるのではないかと思います。  そうは思いながらも、こういう厳しい時代にどの組織体も大変努力していますので、 私たちの品質である医療の安全に、そのような甘えを言ってはおれないと思います。あ えてそういうことを書きにくかったということを、起草委員の1人として申し上げたい と思います。 ○児玉委員  起草委員ですので、議論の中でいろいろお話をさせていただいた結果、こういう形に なっているということです。「規制と市場の関係」というのはかなり根本的な問題では ないかという気がいたします。規制緩和、規制改革といろいろな言葉がありますが、と りわけ医療や福祉介護の世界というのは、市場が機能しにくい分野だと言われておりま す。いわゆる市場の失敗、マーケットフェイリュアが起こりやすい分野です。  仮に最終的に市場を機能させることを目指すとしても、その機能する市場を創り出す ために、国が、あるいは公的団体が、業界の団体が、あるいは一人ひとりの医療従事者 が何をやっていくべきか、という問いかけをいくつかこの報告書の起草に当たって行間 ににじませたかった部分があります。その辺について、どういう理念を持って規制と市 場の問題に取り組んでいくかというのは、今後具体的な論点ごとによく検討していかな くてはいけない問題だと感じております。 ○望月委員  私も起草委員をやらせていただきましたが、最後に全体を通じて読ませていただいた 際に1つ気づきましたのは、安全対策は、従来個人の責任において行われてきたものを 、システムとして取り組むということが重要ですが、最終的に出来上がった戦略の中で は、個人あるいはチームの中で相互にお互いの安全確保のために協力し合うという視点 が不足してしまったような気がします。  教育研修のところには、お互いに指摘をし合って、それを真摯に受け止めて、次の対 策につなげていくということが書かれています。それは、教育研修のところにだけ書か れるべきことでなく、もっと前の段階で書いておくべきことではないかと思います。 ○森座長  本日ご出席いただいた委員の方々を一通り伺いましたので、参考にしていただいて、 さらに議論をお詰めいただければと思います。 ○堺委員  これまでもそうですが、ここでご発言いただきましたものをできるだけ盛り込んで、 最後のまとめにしたいと考えております。 ○飯塚委員  もしかしたら誤解を与えたかもしれませんが、私は品質分野を専門としていますから 、自由な市場競争によって良い物が勝っていくということを尊重しています。そのとき 、個々人が局所最適を図るという行動をしたときに、良い方向に行くようなルールを作 っておく必要があります。安全のときにどういうルールを作っておけば、個々人が、あ るいはグループが最適と思ったことをしたときに、全体としてうまくいくかということ を是非考えていただきたいということです。ガンガン規制しろ、ということだけを主張 しているわけではありませんので、誤解のないようにお願いいたします。 ○森座長  はい、よくわかりました。 ○三宅委員  最後に堺先生がおっしゃったことと関係があるのですが、大部分の日本の病院がそう なのですけれども、独立採算の病院がこういうものをやっていくためには、単にここで の提言だけではできないわけです。診療報酬とかなりリンクしているわけです。今回減 点をするということは、こういうことを日本中の医療機関に知らしめる、促進していく という意味では非常に有効かと思いますけれども、実行していくためにかかるコストと いうものを、診療報酬の中で十分配慮していただかないと実現できないのではないか。  森座長もおっしゃっていましたように、大きい病院ほど重症な患者を受け入れて、し かも現在の診療報酬体系の中では、短期間で治療を進めなければいけないという、非常 に過酷な労働状況があるということも十分知っていただきたいということです。そうい うものの中で、安全な医療が行われるための方向付けをしていただきたいということを お願いしたいと思います。 ○森座長  大変いい締め括りをしていただいたと思います。では次回の予定について事務局から お願いします。 ○新木室長  次回は4月17日(水)の、10時30分から11時30分まで、経済産業省別館9 44会議室にて開催させていただきます。森座長からお話がありましたとおり、報告書 案につきましては、皆様の本日のご意見を踏まえ、さらに内容の修正等が行われること になります。本日傍聴に来られている皆様におかれましては、本案は検討中の文章であ り、調整過程にあることにご留意いただきまして、報道等に当たっては取扱いに注意し ていただきたいと思います。 ○森座長  委員の皆様はご多忙とは思いますが、時間を都合してご出席いただきたいと思います 。本日はこれで終わらせていただきます。長時間ありがとうございました。 (照会先) 医政局総務課医療安全推進室企画指導係 電話 03-5253-1111(内線2579)