審議会議事録  厚生労働省ホームページ

薬食審第0220001号
平成14年 2月 20日
薬事・食品衛生審議会
 会長 内 山  充  殿
薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会
会長 寺 田 雅 昭

薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会報告

 平成13年6月19日付け厚生労働省発食第146号による諮問に係る食品の安全性並びに平成13年2月20日付け厚生労働省発食第21号及び平成13年4月26日付け厚生労働省発食第103号による諮問に係る添加物の安全性について、「組換えDNA技術応用食品及び添加物の安全性審査基準」(平成12年5月1日付け 生衛発第825号−1 厚生省生活衛生局長通知。以下「審査基準」という。)に基づき審議した結果、別記のとおり決議したので報告する。


(別記)

1. 審議経過

 次の(1)から(3)に掲げる食品及び添加物の安全性について、審査基準に基づき審査した結果について、平成13年12月17日に開催された薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会食品衛生バイオテクノロジー部会(以下「部会」という。)において審議され、部会報告が取りまとめられた。

(1)平成13年6月19日付け厚生労働省発食第146号をもって諮問された食品のうち、1品種について

(2)平成13年2月20日付け厚生労働省発食第21号をもって諮問された添加物1品目について

(3)平成13年4月26日付け厚生労働省発食第103号をもって諮問された食品及び添加物のうち、添加物1品目について

2.審議結果

(1)平成13年6月19日付け厚生労働省発食第146号をもって諮問された、とうもろこし(しょうしもく鞘翅目害虫抵抗性トウモロコシMON863系統)については、審査基準に基づき、人の健康を損なうおそれがあると認められないと判断された。(別紙1参照)

(2)平成13年2月20日付け厚生労働省発食第21号をもって諮問された、プルラナーゼ(SP962)については、審査基準に基づき、人の健康を損なうおそれがあると認められないと判断された。(別紙2参照)

(3)平成13年4月26日付け厚生労働省発食第103号をもって諮問された、α−アミラーゼ(SP961)については、審査基準に基づき、人の健康を損なうおそれがあると認められないと判断された。(別紙3参照)

照会先:医薬局食品保健部監視安全課
担当者:三木、田中(内2447、2455)
電話番号:03-5253-1111(代表)
       03-3595-2337(直通)


別紙1
分科会報告書

品種: とうもろこし(商品名:「鞘翅目害虫抵抗性トウモロコシMON863系統」)
性質: 害虫抵抗性
申請者: 日本モンサント株式会社
開発者: Monsanto Company (米国)

 日本モンサント株式会社から申請されたとうもろこし(商品名:「鞘翅目害虫抵抗性トウモロコシMON863系統」、以下「MON863系統」という。)について開発者が行った安全性評価が、「組換えDNA技術応用食品及び添加物の安全性審査基準」(以下「審査基準」という。)に適合しているか否かについて審査した。その結果は次のとおりである。

I 申請された食品の概要

 MON863系統には、コーンルートワーム等の鞘翅目害虫に抵抗性をもつBacillus thuringiensisが産生する蛋白質(以下「Cry3Bb1蛋白質」という。)を産生させる遺伝子(以下「cry3Bb1遺伝子」という。)の塩基配列を改変した遺伝子(以下「改変cry3Bb1遺伝子」という。)が導入されている。
 Cry3Bb1蛋白質は、鞘翅目害虫に対して殺虫活性を持つ。B.thuringiensisの多数の株は、特定の害虫の防除に特に有効である結晶蛋白質又は封入体を産生することが明らかにされている。B.t.蛋白質は殺虫活性に基づいて分類されており、Cry3類の一つであるCry3Bb1蛋白質は、米国のトウモロコシ栽培の鞘翅目害虫に対する殺虫活性を有する。B.t.蛋白質は鞘翅目昆虫の消化管において、中腸上皮細胞の特異的受容体と結合して陽イオン選択的小孔を形成する。その結果、消化プロセスが阻害され死に至る。
また、選択マーカー遺伝子として、NPTII蛋白質を発現させるカナマイシン等耐性遺伝子(以下「nptII遺伝子」という。)が導入されている。

II 審査結果

1 生産物の既存のものとの同等性に関する事項

 審査基準の第2章第1の各項に規定される資料(1.遺伝的素材に関する資料、2.広範囲な人の安全な食経験に関する資料、3.食品の構成成分等に関する資料、4.既存種と新品種との使用方法の相違に関する資料)について検討した結果、当該食品と既存のものが全体として食品としての同等性を失っていないと客観的に判断し、当該MON863系統の食品としての安全性を評価するために、既存の食品を比較対象として用いる方法が適用できると判断した。そこで、既存のとうもろこしとの比較において、審査基準の第2章第2以下の各事項に掲げられた審査基準に沿って審査を行った。

1)遺伝的素材に関する資料

 宿主は、デント種のとうもろこしである。遺伝子供与体としては、cry3Bb1遺伝子はBacillus thuringiensis subsp. Kumamotoensis由来の変異株に、また、nptII遺伝子はE.coliに由来する。

2)広範囲なヒトの安全な食経験に関する資料

 デント種の主要利用目的は飼料用であるが、食品としてもコーン油や澱粉等に広く利用されている。Cry3Bb1蛋白質は、1995年から鞘翅目害虫用の微生物農薬として米国において販売されているB.t.蛋白質とアミノ酸レベルで99%以上の相同性を示している。また、nptII遺伝子の供与体であるE.coliはヒトの腸管内に存在する一般的な細菌である。

3)食品の構成成分等に関する資料

 MON863系統は、構成成分等(アミノ酸組成、脂肪酸組成、ミネラル等)に関し、既存のとうもろこしと同等であった。

4)既存種と新品種との使用方法の相違に関する資料

 MON863系統は、食品としての利用方法は既存のとうもろこしと同等である。なお、既存のとうもろこしとの栽培上の相違は、鞘翅目害虫に対する殺虫剤の使用量を削減できる点のみである。

2 組換え体の利用目的及び利用方法に関する事項

 MON863系統は、Cry3Bb1蛋白質の発現により鞘翅目害虫の食害を受けないため、それらの防除のための殺虫剤散布を軽減することができる。この点以外、栽培方法、利用目的及び利用方法は従来のとうもろこしと変わらない。

3 宿主に関する事項

 とうもろこしZea mays L.は、イネ科トウモロコシ属に属し、子実の形状と粒質からデントコーン、スイートコーン、ポップコーン及びポッドコーン等に分類される。MON863系統の遺伝子導入親品種であるデントコーンの主な用途は飼料用であるが、食用としても広く利用されており、広範なヒトの安全な食経験がある。また、とうもろこしのアレルギー誘発性の報告は少なく、有害生理活性物質の産生等は知られていない。

4 ベクターに関する事項

 MON863系統の作出には、プラスミドPV-ZMIR13を制限酵素MluIで処理して得られたDNA断片PV-ZMIR13Lが用いられた。
 PV-ZMIR13Lは、それぞれ1コピーのCry3Bb1蛋白質産生に関与する遺伝子(4-AS1/wtCAB/ract1/cry3Bb1/tahsp 17 3')及びNPTII蛋白質産生に関与する遺伝子(35S/nptII/ NOS 3')を含む。
 また、プラスミドPV-ZMIR13には、PV-ZMIR13L の他に、ori-pUC及び細菌プロモータにより制御されるnptII遺伝子が含まれ、そのサイズは7,292bpである。
 PV-ZMIR13L に存在する全ての遺伝子は、その特性が明らかとなっており、既知の有害塩基配列を含まない。また、伝達を可能とする配列を含まないので、伝達性はなく、植物細胞中では自立増殖しない。

5 挿入遺伝子及びその遺伝子産物に関する事項

1)供与体に関する事項

 MON863系統に導入されているcry3Bb1遺伝子はBacillus thuringiensis subsp.Kumamotoensisに、また、nptII遺伝子はE.coliに由来する。
 導入に用いたcry3Bb1遺伝子はB.t.k.由来の変異株よりクローニングし、植物での発現を高めるために塩基配列を改変したものである。

2)遺伝子の挿入方法に関する事項

 PV-ZMIR13Lの宿主への導入には、パーティクルガン法が用いられている。

3)構造に関する事項

 MON863系統にはcry3Bb1遺伝子及びnptII遺伝子が存在している。既知の有害塩基配列は含まれていない。

4)性質に関する事項

 Cry3Bb1蛋白質は、特定の鞘翅目昆虫の消化管において、中腸上皮細胞の特異的受容体と結合し陽イオン選択的小孔を形成する。その結果、消化プロセスが阻害され昆虫は死に至る。
 また、NPTII蛋白質は、ATPの存在下でアミノ配糖体系抗生物質をリン酸化し不活化する。

5)純度に関する事項

 遺伝子導入に用いたPV-ZMIR13Lの各構成要素はクローン化されており、その特性も明らかにされている。

6)安定性に関する事項

 MON863系統の5系列について、サザンブロット分析及びPCR分析を行った結果、挿入遺伝子の安定性及び同一性が示されている。また、5世代についてCry3Bb1蛋白質の発現を指標とした分離比調査を行った結果、統計的に有意の差は見られなかった。さらに、9世代について全長nptII遺伝子を用いてサザンブロット分析を行った結果、同一のバンドパターンを確認した。以上のことから、MON863系統における挿入遺伝子は、メンデルの法則に従って単一の遺伝子として後代に安定的に遺伝していることが示された。

7)コピー数に関する事項

 サザンブロット分析の結果より、MON863系統には、1コピーのPV-ZMIR13L(それぞれ1コピーの完全なcry3Bb1遺伝子カセット及びnptII遺伝子カセット)が導入されており、また、プラスミドPV-ZMIR13の外骨格領域は導入されていないことが示された。

8)発現部位、発現時期及び発現量に関する事項

 米国にて4ヶ所の圃場から採取したMON863系統の各種組織について、ELISA法を用いて分析を行った結果、Cry3Bb1蛋白質の発現量は、生組織重1g 当たり穀粒で平均70μg であった。また、NPTII蛋白質の発現量は、穀粒で検出限界値(0.076μg/g生組織重)以下であった。

9)抗生物質耐性マーカー遺伝子の安全性に関する事項

 NPTII蛋白質は、ATPの存在下でアミノ配糖体系抗生物質をリン酸化し不活化する。NPTII蛋白質については、加熱、人工胃液・腸液により急速に免疫反応性が消失することが確認されている。

10)オープンリーディングフレームの有無並びにその転写及び発現の可能性に関する事項

 外来のオープンリーディングフレームは、cry3Bb1遺伝子及びnptII遺伝子の発現に係るもののみである。

6 組換え体に関する事項

1)組換えDNA 操作により新たに獲得された性質に関する事項

 MON863系統に新たに導入された性質は、Cry3Bb1蛋白質の発現により鞘翅目害虫に対し抵抗性を持つ点のみである。

2)遺伝子産物のアレルギー誘発性に関する事項

a 供与体の生物の食経験に関する事項
 cry3Bb1遺伝子の供与体であるBacillus thuringiensis subsp. Kumamotoensisは、ヒトの直接の食経験はないが、これを基材とする微生物農薬としてこれまで米国やヨーロッパを中心に安全に使用されてきた。
 nptII遺伝子の供与体であるE.coliは、ヒトの腸管内に存在する一般的な細菌である。

b 遺伝子産物がアレルゲンとして知られているか否かに関する事項
 Cry3Bb1蛋白質及びNPTII蛋白質が、アレルゲンとしてアレルギー誘発性を有するということは報告されていない。

c 遺伝子産物の物理化学的処理に対する感受性に関する事項

ア 人工胃液・人工腸液に対する感受性
 多くの既知アレルゲンは、ペプシン及びトリプシン消化に対して安定であることを踏まえ、Cry3Bb1蛋白質を人工胃腸消化液に反応させ、ウェスタンブロット分析した結果、人工胃液中でCry3Bb1蛋白質の免疫反応性は、30〜60秒後に消失することが確認された。人工腸液中では、59kDのトリプシン耐性コア蛋白質は、24時間後も完全には分解されなかった。
 NPTII蛋白質については、人工胃液及び人工腸液中で免疫反応性が速やかに消失することが、ニューリーフ・ジャガイモ等における厚生労働省の審査において確認されている。

イ 加熱処理に対する感受性
 Cry3Bb1蛋白質は、加熱により免疫反応性の99%以上が失われることが、ELISA分析等により確認されている。

d 遺伝子産物の摂取量を有意に変えるか否かに関する事項
 MON863系統の穀粒中での発現蛋白質の平均発現量は、生組織重1g当たり、Cry3Bb1蛋白質で70μg、NPTII蛋白質では検出限界値(0.076μg/g)以下であった。
 MON863系統はデント種であるが、日本人の一日一人あたりの「その他の穀類」の平均摂取量2.0g(国民栄養の現状、1999)を全てMON863系統に置き換えて計算すると、加工損失等がないとして、Cry3Bb1蛋白質の一日一人あたりの予想摂取量は、140μgとなる。
 また、NPTII蛋白質の産生量を、仮に検出限界値の生組織重1g当たり0.076μgとすると、加工損失がないとして、NPTII蛋白質の一日一人あたりの予想摂取量は0.152μgとなる。
 ある蛋白質に対してヒトが抗体を産生するには、ある程度の量を摂取することが必要であり、また、これら蛋白質が速やかに消化されること等を考慮すると、これらの蛋白質がアレルゲンとなるとは考えにくい。

e 遺伝子産物と既知の食物アレルゲンとの構造相同性に関する事項
 Cry3Bb1蛋白質及びNPTII蛋白質について、既知のアレルゲンとの構造相同性を検索するため、659のアレルゲン及びグリアジンとの配列の比較をデータベースより抽出して解析した結果、Cry3Bb1蛋白質及びNPTII蛋白質と8個以上隣接したアミノ酸配列が一致するような配列はなく、既知アレルゲンとの間に相同性は認められなかった。

f 遺伝子産物が一日蛋白摂取量の有意な量を占めるか否かに関する事項
 日本人の一日一人あたりの蛋白質の平均摂取量80.5g(国民栄養の現状、1999)に基づいて計算すると、Cry3Bb1蛋白質及びNPTII蛋白質の一日平均予想摂取量の一日蛋白摂取量に対する割合は、それぞれ0.000174%、0.0000002%と極めて少ない。

3) 遺伝子産物の毒性に関する事項

 Cry3Bb1蛋白質及びNPTII蛋白質について、マウスを用いた強制経口投与試験を行った結果、それぞれ最大投与量2,980 mg/kg、5,000 mg/kgまで投与してもマウスに有害な影響は認められなかった。この投与量は、加工損失がないと仮定して、日本人(体重50kg)がとうもろこしから摂取するCry3Bb1蛋白質及びNPTII蛋白質の一日最大予想摂取量140μg、0.152μgの、それぞれ106万倍、16億倍に相当する。
 また、毒素配列データベースを用いて検索を行った結果、Cry3Bb1蛋白質及びNPTII蛋白質と既知の毒性蛋白質との間に相同性は認められなかった。

4)遺伝子産物の代謝経路への影響に関する事項

 Cry3Bb1蛋白質は酵素活性をもたないため、代謝経路に影響を及ぼす可能性は低いと考えられる。また、NPTII蛋白質は基質特異性が高く、その基質となり得る化合物又は分子はとうもろこし中には存在しない。

5)宿主との差異に関する事項

 主要構成成分(アミノ酸組成、脂肪酸組成、ミネラル他)について、既存のとうもろこしとの間で比較したところ、いくつかの項目で統計学的に有意な差が認められたものの、圃場間での一致もなく、いずれも文献値の範囲内であったことから、生物学的に意味のある差異はないと考えられた。

6)外界における生存及び増殖能力に関する事項

 1998年から1999年にかけて米国で野外試験が行われているが、MON863系統の生存・増殖能力は非組換えとうもろこしと同等であった。

7)組換え体の生存及び増殖能力の制限に関する事項

 MON863系統の生存・増殖能力は非組換え品種と同等であることから、生存・増殖能力の制限要因についても両者の間に変化はないと考えられた。

8)組換え体の不活化法に関する事項

 MON863系統は、物理的防除(耕耘)や化学的防除(感受性を示す除草剤の散布)など、とうもろこしを枯死させる従来の方法によって不活化される。

9)諸外国における認可、食用等に関する事項

 MON863系統については、米国において、2000年9月に食品及び飼料としての安全性評価の申請がなされ、2001年12月31日に認可された。また、2001年5月に無規制栽培の申請を行っており、2002年の春には認可される予定である。

10)作出、育種及び栽培方法に関する事項

 MON863系統と既存のとうもろこしとの栽培方法の相違は、鞘翅目害虫の防除に薬剤散布を必要とするか否かの点のみであり、他の点では同等である。

11)種子の製法及び管理方法に関する事項

 MON863系統の製法及び管理方法については、既存のとうもろこしと同様である。

III 基準適合性に関する結論

 以上のことから、日本モンサント株式会社から申請された鞘翅目害虫抵抗性トウモロコシMON863系統については、申請に際して提出された資料を審査基準に基づき審査した結果、人の健康をそこなうおそれがあると認められないと判断される。


別紙2
分科会報告書

添加物名: プルラナーゼ(SP962)
性質: 生産性向上
申請者: ノボザイムズ ジャパン株式会社
開発者: ノボザイムズA/S

 ノボザイムズ ジャパン株式会社から申請されたプルラナーゼ(商品名「SP962」、以下「SP962」という。)について、「組換えDNA技術応用食品及び添加物の安全性審査基準」(以下、「審査基準」という。)に適合した安全性評価がなされているか否かについて検討し、以下のような結果を得た。

申請された食品添加物の概要

 SP962は既存添加物の酵素の一つであり、アミロペクチンのα-1,6-D-グルコシド結合を加水分解するため、澱粉糖製造工程で主にブドウ糖や異性化糖の製造に、また、蒸留アルコール製造工程で、原料の発酵性糖を増加させる目的で、加工助剤として使用される。
 Bacillus subtilis A164△5を宿主とし、プラスミドpC194、pUB110、pBR322をもとにして作成されたプラスミドpDGpullulanaseを発現ベクターとして、Bacillus deramificans SEETT18-INT13のプルラナーゼ遺伝子を染色体上に導入した組換え体を培養し、効率的にプルラナーゼを生産するものである。

1 生産物の既存のものとの同等性に関する事項

 SP962については、プルラナーゼとしての特性(分子量、酵素活性、N−末端アミノ酸配列)に関する資料の検討を行い、既存の食品添加物であるプルラナーゼと同等であると考えられた。また、SP962については、製造方法、製品の規格及び使用方法についても既存のプルラナーゼと同一である。さらに、SP962については、組換え体自身を食さないものであり、食品中に含有されない使用方法が想定されている。以上の点から、SP962については、既存のプルラナーゼと同等とみなし得ると考えられ、したがって審査基準に沿って以下の審査が可能であると判断できる。

2 組換え体等に関する事項

(1)GILSP(Good Industrial Large-Scale Practice)又はカテゴリー1による製造に用い得る非病原性の組換え体であることに関する事項

 宿主(Bacillus subtilis)は非病原性の微生物であり、挿入遺伝子及びベクターについても機能や構造が明らかにされており、既知の有害物質を発現することはなく、生産菌はGILSP基準をみたすと考えられる。

(2)組換え体の利用目的及び利用方法に関する事項

 Bacillus deramificans由来のプルラナーゼ遺伝子をBacillus subtilisに導入することにより、プルラナーゼの生産性が高い組換え体を得た。得られたプルラナーゼは、澱粉糖製造工程で主にブドウ糖や異性化糖の製造に、また、蒸留アルコール製造工程で、原料の発酵性糖を増加させる目的で使用される。

(3)宿主

 Bacillus subtilis A164株より、胞子形成能、プロテアーゼ産生能、アミラーゼ産生能、サーファクチン産生能を欠失させたBacillus subtilis A164△5株を使用している。
 宿主は分類学上、Firmibacteria Bacillaceae Bacillus subtilisに属し、自然界に広く分布し、食品中にも通常的に存在する微生物であり、長期に渡り食品の製造工程に使用されてきたものである。また、宿主は、OECDのGILSPに該当する微生物である。申請資料からも寄生性、定着性等において問題は認められていない。Bacillus subtilisは食品の製造において長期にわたり用いられており、安全性上問題はないものと考えられる。

(4)ベクターに関する事項

 プルラナーゼ合成遺伝子は、pDGpullulanaseを発現ベクターとして宿主に導入されている。
 pDGpullulanaseは、プラスミドpC194、pUB110、pBR322にBacillus amyloliquefaciensに由来するα−アミラーゼBANのプロモーター配列、Bacillus deramificansに由来するプルラナーゼ遺伝子(2.9kb)を組込んで構築されたものであり、制限酵素による切断地図は明らかにされている。
 pC194はcat遺伝子(クロラムフェニコール耐性)、pUB110はneo遺伝子(ネオマイシン耐性)、pBR322はcolE1 ori及びamp遺伝子(アンピシリン耐性)をそれぞれ含んでいる。
 pUC19及びpBR322の由来であるEscherichia coli K-12株は、国立感染症研究所の「病原体等安全管理規程」(平成11年)においてバイオセーフティレベル1に該当する微生物である。また、米国NIHガイドラインにおいてもRisk Group 1に該当する微生物とされている。

(5)挿入遺伝子に関する事項

 プルラナーゼ遺伝子を発現するために挿入される遺伝子は、Bacillus amyloliquefaciens に由来するα−アミラーゼBANのプロモーター、Bacillus thuringiensis由来のcryIIIa mRNA stabilization sequenceを含む断片、Bacillus deramificansに由来するプルラナーゼ遺伝子(2.9kb)、pC194由来cat遺伝子(クロラムフェニコール耐性遺伝子)であり、宿主の染色体上に導入されている。ネオマイシン耐性遺伝子断片ならびにアンピシリン耐性遺伝子は、宿主染色体遺伝子への導入時に除去される。クロラムフェニコール耐性遺伝子については、導入後に宿主染色体から欠失させている。
 挿入される遺伝子の構造、塩基配列、性質は明らかにされており、有害塩基配列は含まれておらず、安全性上問題はないものと考えられる。

(6)組換え体に関する事項

 組換え体は、プルラナーゼ産生性を獲得している。
 組換え体は、宿主との比較で生存・増殖性等において問題は認められない。また、組換え体は90℃、 pH11以上に1時間保つことにより滅菌処理される。

3 組換え体以外の製造原料及び製造器材

 SP962は、通常の非組換え微生物から酵素を製造する場合に用いられる製造原料及び製造器材と同様のものを使用しGMPに基づき製造される。発酵原料についても全て食品グレードのものが用いられていることが示されている。従ってSP962の製造において安全性上問題はないものと考えられる。
 また、SP962の製造に用いるマスターセルバンクは、グリセロール培地にて−80℃に保存され、培養にあたり、微生物汚染の無いこと、生菌数が適切であること、酵素生産性が適切であることの確認を行っていることが示されている。

4 生産物に関する事項

(1)組換え体の混入を否定する事項

 製品の規格項目として「生産菌の混入のないこと」を定め、製品中に生産菌の混入がないことを確認している。

(2)製造に由来する不純物の安全性に関する事項

 SP962は、精製される酵素タンパク質であり、培養等に用いられるものも食品グレードであることから、生産物に有害物質が混入する可能性はないものと考えられる。

(3)生産物の精製方法及びその効果に関する事項

 SP962は、適正な条件下で組換え体を培養後、pH、温度調整等の前処理に始まり、固液分離、濃縮、除菌濾過等により精製した後、保存剤(安息香酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム)を加え、規格化、製剤化する。製造過程は明らかにされており、最終製品であるSP962は、JECFA並びにFCC(米国食品添加物規格)の食品用酵素剤の純度規格に適合していることが示されている。

(4)含有量の変動により有害性が示唆される常成分の変動に関する事項

 生産物はJECFA及びFCCの食品用酵素剤の純度規格を満たしており、生産物の含有量は既存のものと同等であると判断できる。

(5)組換え体によって製造された生産物の諸外国における認可及び使用等の状況に関する事項

 生産物SP962は、デンマークとフランスに許可申請書を提出している。米国においては合法的に使用されている。

5 安全性試験に関する事項

 SP962については、in vitroでのSalmonella typhimurium及びE.coliを用いた復帰突然変異試験、及びラットを用いた13週間の反復投与試験が行われている。ラットを用いた経口投与試験(1.0、3.0、10.0 ml/kg/dayの3段階の用量 )においては、毒性学的に意義のある所見は認められていない。また、復帰突然変異試験の結果は陰性であり、ヒト培養リンパ球での染色体異常試験の結果では統計学的に有意な染色体異常の増加は認められなかったことが示されている。

6 基準適合性に関する結論

 ノボザイムズ ジャパン株式会社から申請されたプルラナーゼ(SP962)について、申請に際して提出された資料を、組換えDNA技術応用食品及び添加物の安全性審査基準(平成12年5月1日付生衛発第825号―1)に基づき審査した結果、人の健康を損なうおそれがあると認められないと判断される。


別紙3
分科会報告書

添加物名: α−アミラーゼ(SP961)
性質: 生産性向上
申請者: ノボザイムズ ジャパン株式会社
開発者: ノボザイムズA/S

 ノボザイムズ ジャパン株式会社から申請されたα−アミラーゼ(商品名「SP961」、以下「SP961」という。)について、「組換えDNA技術応用食品及び添加物の安全性審査基準」(以下、「審査基準」という。)に適合した安全性評価がなされているか否かについて検討し、以下のような結果を得た。

申請された食品添加物の概要

 SP961はα−アミラーゼ酵素剤の一種であり、アミロースやアミロペクチン等のα-1,4-D-グルコシド結合を任意の位置で加水分解し、デキストリンやオリゴ糖の生成反応を触媒するため、食品分野では加工助剤として澱粉の液化に使用される。
 Bacillus licheniformis DN2717改良株SJ1707を宿主とし、プラスミドpUB110をもとにして作成されたプラスミドpLiH1346を発現ベクターとして、Bacillus stearothermophilus DN1792のα−アミラーゼ遺伝子を染色体上に導入した組換え体を培養し、効率的にα−アミラーゼを生産するものである。

1 生産物の既存のものとの同等性に関する事項

 SP961については、α−アミラーゼとしての特性(分子量、酵素活性、アミノ酸配列)に関する資料の検討を行い、既存の食品添加物であるα−アミラーゼと同等であると考えられた。また、SP961については、製造方法、製品の規格及び使用方法についても既存のα−アミラーゼと同一である。さらに、SP961については、組換え体自身を食さないものであり、食品中に含有されない使用方法が想定されている。以上の点から、SP961については、既存のα−アミラーゼと同等とみなし得ると考えられ、したがって審査基準に沿って以下の審査が可能であると判断できる。

2 組換え体等に関する事項

(1)GILSP(Good Industrial Large-Scale Practice)又はカテゴリー1による製造に用い得る非病原性の組換え体であることに関する事項

 宿主(Bacillus licheniformis)は非病原性の微生物であり、挿入遺伝子及びベクターについても機能や構造が明らかにされており、既知の有害物質を発現することはなく、生産菌はGILSP基準をみたすと考えられる。

(2)組換え体の利用目的及び利用方法に関する事項

 Bacillus stearothermophilus由来のα−アミラーゼ遺伝子をBacillus licheniformisに導入することにより、α−アミラーゼの生産性が高い組換え体を得た。得られたα−アミラーゼは、従来のα−アミラーゼよりも低pH及び低カルシウムイオン濃度領域において作用し、食品分野では澱粉の液化に使用される。

(3)宿主

 Bacillus licheniformis ATCC9789系統株B. licheniformis DN2717より、プロテアーゼ産生能、アミラーゼ産生能を欠失させたB. licheniformis SJ1707株を使用している。
 宿主は分類学上、Firmibacteria Bacillaceae Bacillus licheniformisに属し、自然界に広く分布し、食品中にも通常的に存在する微生物であり、長期に渡り食品の製造工程に使用されてきたものである。また、宿主は、OECDのGILSPに該当する微生物である。申請資料からも寄生性、定着性等において問題は認められていない。Bacillus licheniformisは食品の製造において長期にわたり用いられており、安全性上問題はないものと考えられる。

(4)ベクターに関する事項

 α−アミラーゼ合成遺伝子は、pLiH1346を発現ベクターとして宿主の染色体上に導入されている。pLiH1346は、pUB110由来のカナマイシン耐性遺伝子と複製開始点oriT及びpE194由来の複製開始点を持つプラスミドに、PamyL-SP961-TamyS遺伝子発現ユニットを含む断片をサブクローニングして得られたものである。pLiH1346の制限酵素による切断地図は明らかにされている。

(5)挿入遺伝子に関する事項

 α−アミラーゼを発現するために挿入される遺伝子は、Bacillus licheniformis DN52 (ATCC9789) に由来するプロモーター (PamyL)、Bacillus stearothermophilus DN1792に由来するα−アミラーゼ遺伝子 (amyS)、ターミネーター (TamyS)であり、宿主の染色体上に導入されている。また、組換え体を選択するため、pUB110由来kan遺伝子(カナマイシン耐性遺伝子)が、宿主の染色体上に導入されている。
 導入される遺伝子の構造、塩基配列、性質は明らかにされており、有害塩基配列は含まれておらず、カナマイシン耐性遺伝子及び遺伝子産物についても、胃液や消化酵素、加熱により容易に分解することが知られていることから、安全性上問題はないものと考えられる。

(6)組換え体に関する事項

 組換え体は、α−アミラーゼ産生性及びカナマイシン耐性を獲得している。
 組換え体は、宿主との比較で生存・増殖性等において問題は認められない。また、組換え体は90℃、 pH11以上に1時間保つことにより滅菌処理される。

3 組換え体以外の製造原料及び製造器材

 SP961は、通常の非組換え微生物から酵素を製造する場合に用いられる製造原料及び製造器材と同様のものを使用しGMPに基づき製造される。発酵原料についても全て食品グレードのものが用いられていることが示されている。従ってSP961の製造において安全性上問題はないものと考えられる。
 また、SP961の製造に用いるマスターセルバンクは、グリセロール培地にて−80℃に保存され、培養にあたり、微生物汚染の無いこと、生菌数が適切であること、酵素生産性が適切であることの確認を行っていることが示されている。

4 生産物に関する事項

(1)組換え体の混入を否定する事項

 製品の規格項目として「生産菌の混入のないこと」を定め、製品中に生産菌の混入がないことを確認している。

(2)製造に由来する不純物の安全性に関する事項

 SP961は、精製される酵素タンパク質であり、培養等に用いられるものも食品グレードであることから、生産物に有害物質が混入する可能性はないものと考えられる。

(3)生産物の精製方法及びその効果に関する事項

 SP961は、適正な条件下で組換え体を培養後、pH、温度調整等の前処理に始まり、固液分離、濃縮、除菌濾過等により精製した後、塩化ナトリウムとブドウ糖もしくはショ糖を加えることにより安定化する。製造過程は明らかにされており、最終製品であるSP961は、JECFA並びにFCC(米国食品添加物規格)の食品用酵素剤の純度規格に適合していることが示されている。

(4)含有量の変動により有害性が示唆される常成分の変動に関する事項

 生産物はJECFA及びFCCの食品用酵素剤の純度規格を満たしており、生産物の含有量は既存のものと同等であると判断できる。

(5)組換え体によって製造された生産物の諸外国における認可及び使用等の状況に関する事項

 生産物SP961は、米国、デンマーク、フランス、オーストラリア等で食品用途への使用が認可されている。

5 安全性試験に関する事項

 SP961については、ラットを用いた13週間の反復投与試験、及びin vitroでのS.typhimurium及びE.coliを用いた復帰突然変異試験が行われている。ラットを用いた経口投与試験(10、30、100 %のSP961水溶液を5ml/kg(体重)/day投与)においては、毒性学的に意義のある所見は認められていない。また、復帰突然変異試験の結果は陰性であり、ヒト培養リンパ球での染色体異常試験の結果では統計学的に有意な染色体異常の増加は認められなかったことが示されている。

6 基準適合性に関する結論

 ノボザイムズ ジャパン株式会社から申請されたα−アミラーゼ(SP961)について、申請に際して提出された資料を、組換えDNA技術応用食品及び添加物の安全性審査基準(平成12年5月1日付生衛発第825号―1)に基づき審査した結果、人の健康を損なうおそれがあると認められないと判断される。


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審議会議事録  厚生労働省ホームページ