02/01/30 第9回 医療安全対策検討会議議事録            第9回 医療安全対策検討会議          日時 平成14年1月30日14:00〜          場所 経済産業省別館944会議室 ○森座長  ただいまから、第9回の「医療安全対策検討会議」を開催いたします。本日はお忙し い中を遠方からもお出かけいただきましてありがとうございます。どうぞ、よろしくお 願いいたします。本日は、飯塚委員がご欠席です。あとは多少遅れて来られる方、早く 帰られる方はおられますが、全部で20名ご出席です。本日の議題は、「医療安全対策検 討会議報告書作成に当たり、さらに議論を要する事項について」です。  この検討会議は、昨年5月に設置以来、皆様には大変良いご意見をいただきました。 また、それぞれに優れた参考人をお招きしてお話を伺いましたが、これも非常に有益だ ったと思います。いよいよ報告書をまとめる段階になってまいりました。  前回のこの会議で、川村委員、児玉委員、堺委員、長谷川委員、望月委員の5名の方 々に私から起草委員をお願いいたしました。起草委員の方々には大変なご努力をいただ き、ある程度の結果を既にお出しいただいているようです。本日は、その結果を基にし て論議を進めてまいりたいと思います。最初に資料の確認を事務局からお願いいたしま す。 ○新木室長  資料1、資料2は起草委員会提出資料です。資料1は「医療安全対策検討会議報告書 の構成イメージ(案)」です。資料2は「医療安全対策検討会議報告書作成に当たって 、さらに議論を要する事項(案)」です。資料3は、長谷川委員から提出されたもので 、「世界各国の医療事故関連報告情報システムに関する報告」です。資料4は「医療安 全対策ネットワーク整備事業及びその初回分析結果について」事務局より提出しており ます。  参考資料が3つあります。参考資料1は「医療安全対策検討会議における当面の検討 事項(改定版)」です。第2回の本検討会議において提出いたしました10項目について の1枚紙です。参考資料2は、これまでの検討会での議論の概要をまとめましたが、そ れに第8回分を付け加えたものです。参考資料3は、本年1月に開催された、世界保健 機関(WHO)の執行理事会において、来たる世界保健総会へ勧告する内容が決定され ましたのでその内容です。世界保健機関において、医療安全対策について議論するのは おそらく初めてだと思いますが、4点ほどについて総会へ勧告するということです。  内容を簡単にご紹介いたします。(1)事故の定義や測定、報告のための標準やガイ ドラインの作成などを行っている国へ支援等について(2)根拠に基づく政策の必要性 。さらに世界共通の基準、医療と用具の安全性の確保、また安全文化(Culture of Safe ty)の確立等(3)認定(第三者評価)の必要性(4)患者安全のための研究を進めて いく必要がある、という4つの項目が、来たる世界保健総会に勧告される予定です。以 上です。 ○森座長  参考資料3は、先日大阪で開いていただいたシンポジウムの趣旨ともピッタリ合うも のですね。  それでは、「医療安全対策検討会議報告書作成に当たり、さらに議論を要する事項に ついて」に入ります。この検討会では、いろいろな方のお話を伺ったり、委員の方々相 互の間でご議論いただきました。その内容については、事務局の努力で参考資料2、「 医療安全対策検討会議におけるこれまでの意見等について(概要)」に大体、全体がま とめられています。起草委員の方々には、お忙しい中を、いままでの議論なり意見に基 づき、その上でさらなるご議論をいただき、中間的な意味での結論をまとめてください ました。  伺っているところでは、堺委員に座長役をお務めいただいているようですので、起草 委員会の状況とか、現在までのお考えをまず堺先生からご披露いただきたいと思います 。全体の概観とか総括のようなことをお話いただくと同時に、本日さらに議論すべき事 項についてご指摘いただければと思います。 ○堺委員  起草委員会の座長を務めております堺です。これまで起草委員会を2回ほど開催し、 安全対策検討会議で検討されてまいりました結果をもとに、まず、報告書をどのように まとめていくのかということについて検討いたしました。私どもが考えましたのは、報 告書は日本の国の内外の医療事故の現状あるいは対策状況を踏まえ、我が国の医療安全 対策の今後の方向性を示すものであると同時に、直ちに取り組むべき事項についても具 体的に行動内容を示すものとしたいということです。  また、医療安全を高めるためには、医療機関における取組みが最も重要ですが、それ とともに行政の責務、さらには関係団体や国民全体が取り組むべきものであって、全体 的な視野に立って検討を加えたいと考えております。  こういう考え方の下に、この度報告書の構成イメージ案を作成いたしました。以下資 料1及び資料2についてご説明いたします。資料1ですが、「1.はじめに」というと ころがあります。ここでは、医療安全対策に関する背景、あるいはそれを取り巻く状況 、行政をはじめ関係団体のこれまでの取組み、及び本検討会議の設置経緯や検討経過な どについて触れる予定でいます。  「2.医療安全対策の基本的考え方」の(1)「検討に当たって(用語の整理等)」 では、報告書で用いられる用語、例えば「インシデント」とか「アクシデント」といっ たものについて整理を行いたいと考えております。  (2)「国内・国外の医療安全の現状」については、国内及び米国をはじめとする海 外の医療安全、あるいは安全対策の現況、状況などについて触れたいと思います。  (3)「医療安全対策の基本的な考え方」という項目は、ある意味でこの検討会議が 目指しておりますものが、最も強く表れるところではないかと思います。医療の安全を 確立することが、国民の強い期待であるところから、我が国の医療安全対策の現状や問 題点に対して、どのような姿勢で取り組んでいくべきか、ということを明らかにして、 安全という視点から、医療の新しい姿を描いて実現していく、という理念も明確にした いと考えております。  「3.医療機関における医療安全対策」の(1)「基本的考え方」では、「2.医療 安全対策の基本的考え方」をさらに敷衍するものになるわけです。組織における安全対 策のあり方として、まず安全文化という考え方を根付かせて、必要な対策を実施するこ とが肝要だということです。このために、例えば医療機関の組織理念の明確化とか、病 院管理者等のリーダーシップの確立とか、組織を挙げての全従事者の参加等々が必要と 思います。  また、安全のための活動の方向として、医療機関の安全、質を継続的に改善していく 管理手法とか、院内における報告改善を実施する際の基本的な方策、さらには医療従事 者の質的向上の必要性などについてまとめたいと考えております。  (2)「医療機関の体制整備等」の「(1)安全管理の理念及び方針」では、医療安全 に関する組織理念を明示し、院内の安全管理指針の作成、リーダーシップの重要性など 、院内の安全管理の要となる事項についてまとめたいと考えております。  「(2)安全管理体制の整備等」では、組織体制として安全管理を専門的に担う分野、 あるいは部門及び実務担当者、患者さんの相談窓口などについて触れたいと思います。 また、時間帯などに応じた職員の適正配置の必要性とか、新人や部署異動者などを配置 する場合の工夫などについても、ある程度具体的なことを掲げたいと思います。  「(3)医療機関内における教育・研修」ですが、「教育・研修」は非常に重要ですの で、ここにも掲げますが、後にも独立した項目を設けてあります。若干重複いたします が、重複するに値するだけ重要だろうと考えております。特定な環境、あるいは職種の 環境にも配慮した院内の教育や研修、あるいは新人や部署異動者などに対する研修の必 要性などについてここでは触れたいと思います。  「(4)質の向上のための取組」では、安全対策のために、計画・実施・評価・対応と いう品質の管理方策を継続する必要がある、ということを示したいと思います。 「(5 )他機関等との連携」というのは、医療機関のほか、例えば薬局等との連携も重要であ る、ということを掲げたいと思います。  (3)「活動方策」の「(1)評価化・計画化」では、作業手順の標準化、クリティカ ルパス活用の促進、院内ルールの明文化などについて記したいと思います。  「(2)医療機関におけるコミュニケーションの推進」というのは、例えばインフォー ムド・コンセントとか、診療情報の適切な管理、あるいは情報技術の活用等が必要かと 思います。  「(3)院内報告システム」は、各種の報告と、その内容の分析・改善策の実施、ある いは評価の重要性を記したいと思います。  「(4)医薬品・医療用具の院内における管理体制」というのも、「4.医薬品・医療 用具」を1つの項目として掲げてありますが、医療機関側から見た「医薬品・医療用具 の管理体制」ということで、医薬品について、例えば処方に対する疑義照会を充実する とか、あるいは医療用具について保守管理、使用者教育などを行うといった面に触れた いと思います。  「(5)その他作業環境・療養環境の整備等」というのは字句のとおりです。  (4)「医療従事者個々の取組」というのも、医療従事者各々の取組みの方向性や内 容についてまとめたいと思っております。  「4.医薬品・医療用具等の安全性向上」というのは、医薬品・医療用具等による安 全性の確保というのは、医療機関の取組みだけではなかなか難しいものがあります。し たがって、この項目では、医薬品あるいは医療用具のメーカー、あるいは流通業者など の取組みについても触れたいと思います。  (2)に(1)から(4)まで掲げてありますが、このとおり名称、外観の類似性、安全性 向上のための企業間における標準化・統一化、医療現場の意見を製品開発等に反映する 仕組み及び医薬品情報の伝達、活用などに触れたいと思います。  (3)「医療用具」も(1)から(6)のとおりですが、保守管理の重要性、医療機関内に おける使用方法に関する教育・研修への支援、安全性向上のための企業間における標準 化・統一化、ユーザビリティ、フールプルーフやフェイルセーフを考慮した設計、医療 現場の意見を製品開発等に反映する仕組み、及び医療用具情報の伝達、活用などに触れ たいと思っております。  「5.教育・研修」ですが、ある意味ではここが最も重要な部分かと思います。ここ では基本的な考え方として、医療にかかわる従事者そのものに焦点を当てて、卒業前あ るいは卒業後を通じて、生涯にわたる安全教育、研修のあり方についてまとめる予定で おります。  (2)「修得内容の明確化」も(1)から(3)に記したとおりです。医療安全のため、優 先的に修得すべき事項、卒前教育のカリキュラム、国家試験のガイドラインです。  (3)「卒業前・卒業後の役割分担と連携」、(4)「教育の効果を確立するための 方策」の辺りは、今後まだまだ大いに検討しなければいけないところだと思います。教 育・評価に関する方法論の確立、指導者等の養成、教育内容、教材・教育ツールの開発 などの必要性についてまとめる予定でおります。(5)「その他」として医療機関の現 場で、医療安全の責任者となる管理者に対する教育、あるいは医療安全対策を実践する 安全管理担当者に対する教育などの必要性に触れたいと思います。  「6.医療の安全のための方策」では、国が担うべき責務と、関係機関・団体に期待 される役割を明らかにして、具体的に必要とされる活動についてまとめたいと考えてお ります。  (1)「国の責務と関係者に期待する役割」では、国として医療の安全向上のために 必要な対策を講じて、また、現状を常に把握して対策を見直していく責務を有するとい うこと。さらに、職能団体や関係団体などに期待される役割について触れたいと思いま す。  (2)「必要な方策」として「(1)関係者を挙げての安全向上に向けた取組の推進」 では、医療に関係する者が各々の役割を分担してそれを果たしていくこと、そのための 全体の調整や進行管理などが必要、ということを述べたいと思います。  「(2)第三者評価」は、院内の業務改善のほかに、患者さんへの情報提供などのため にも重要と考えております。  「(3)医療の安全性向上のための情報の収集・分析・還元」ですが、医療の安全確保 のためには、個々の医療機関が収集・分析いたします情報を、他の医療機関とも共有す ることが重要と考えたいと思います。  「(4)医療技術向上に必要な情報の提供」というのは、最新の医学情報に基づく、最 適な医療の実践等に必要な情報を提供するために、EBM等の情報を提供する必要があ る、ということを述べたいと思います。  「(5)国民への情報提供」というのは、医療について各種の情報提供を常に行うとい うことです。  「(6)患者さんの疑問・不満への対応」ということですが、これは患者さんと医療機 関にある情報の格差を埋めて、患者さんあるいはご家族の疑問や不満に対応していくた めの相談窓口が必要であるということに触れたいと思います。  「(7)医療安全に資する調査研究」というのは、医療安全に資するための調査研究を 今後も推進して、その結果や得られた知見を広く国民、医療機関、関係団体に情報提供 することが必要である、ということを記したいと思います。  「7.当面取り組むべき課題」ですが、これは上の2から6までの事項を踏まえ、行 政、医療関係団体、医療機関、あるいは企業も含めた国全体として、当面取り組むべき 課題についてまとめる予定としております。「8.おわりに」のところは、通常の終わ りの事項になるかと思います。 ○森座長  以上ご説明いただきましたのが、全体像です。全体のイメージと申しますか、目次あ るいはキーワードを並べたと考えていいかもしれません。おそらく、落ちがないように ということで、できるだけ広く拾われたもののように拝見いたします。これまでのとこ ろでご質問等はございませんか。 ○山崎委員  重要な事項が網羅されていて、大変ご努力されたと思います。1つ伺いたいのは、「 医療機関における医療安全対策」という項目の中に「院内」という言葉がだいぶ出てき ます。「医療機関」「院内」がここでは主眼に置かれているようですが、開業している 医師や、開局している薬剤師というのは、ここではどういうふうに考えたらいいのでし ょうか。 ○堺委員  ここに記しました「院内」というのは、「医療機関内」という意味です。いちいち長 いので、「院内」という言い方を使いました。これは、私が臨床医のせいで、誤った使 い方をしたかもしれませんが、普通医師同士が連絡をするときに、「病院」と「クリニ ック」の区別はつけておりません。クリニックの開設者あるいは管理者に対しても、「 院長」という名称を用いておりますので、そういう意識で使いましたが、意味としては 、「医療機関の長」あるいは「管理者」という意味です。いまご指摘の、「薬局」等の 医療機関も含まれると考えております。 ○山崎委員  関連してですが、「生活者」の方は、「患者さん」になられる立場ですが、生活者の 方との関連というのは、「教育研修」というような中に組み込まれるのでしょうか、あ るいは別の形でその辺は考えることになるのでしょうか。 ○堺委員  随所に出てまいります。いろいろ情報を提供するということもありますし、逆に情報 やご意見を頂戴するというものもあります。意見・情報を頂戴するものの中には、いま ご指摘の「教育」とかかわる部分もあろうかと考えております。 ○岸委員  先般、国立大阪病院で井上院長からもご指摘がありましたが、背景にある「大学の医 局制」の問題というのも大きな課題であろうかと思うのです。「大学の医局制」の問題 等は、「教育研修」の中に盛り込まれていくのでしょうか。 ○堺委員  「医局制度」と「医療安全」というものは、当然関係がないわけではありません。た だ、医局制度というのは医療安全だけではなくて、医学教育、卒後教育あるいは医療全 体の体制とかかわっております。この報告書は「医療安全推進」に関するものですので 、その範囲でということになろうかと思います。 ○三宅委員  これも「教育」の中に入るのだと思うのですが、今回の検討会の中で、「医の倫理」 といったテーマがなかったように思うのです。「倫理」に関して、かなりきちんと教育 するということはかなり重要だと思いますので、何らかの形で入れていただいたほうが いいと思います。 ○堺委員  わかりました。 ○森座長  私から1つ質問させていただきます。「はじめに」の次が2として「医療安全対策の 基本的考え方」になっています。「医療安全対策の基本的考え方」というのと、「医療 安全の基本的考え方」というのでは、結果としては似てくるかもしれませんけれども、 その姿勢は書くほうにも読むほうにも、かなり違いがあると思うのです。この場合には 「安全対策の基本的考え方」でしょうか。 ○堺委員  例えば2の(2)の辺りは対策以外の包括的なものも含まれるかと思います。読まれ る方々の読みやすさを考えますと、ここはもう少し工夫して「医療安全」の部分と、「 対策」の部分を少し切り分けたほうがいいかなと思いました。 ○森座長  それでは、「医療安全」そのものはすでに分かっていることとして、実際にそれを築 くといいますか、それをより確かなものにするためにはどうすればいいか、ということ でいいわけですね。 ○堺委員  この会議自体が、「医療安全対策検討会議」ですので、「医療安全対策」について主 に触れたいと考えております。あくまでも、この会議での議論をもとに書いてまいりま すので、これまでの議論の流れに沿ってまとめたいと考えております。 ○森座長  その辺はおそらく、三宅委員がご指摘になったような点が、どのぐらい入ってくるか という分かれ目になるかもしれませんね。 ○堺委員  はい、ここで議論されなかったことを入れるわけにはまいりませんので、これまでの いろいろなものをここにまとめてあります。これまでにお出しいただいた意見の中から 、三宅委員のご指摘のものを汲み上げさせていただければと思います。 ○望月委員  山崎委員が発言されたことに関連するのですが、医療消費者が、医療安全の仕組のサ イクル中の一員なのである、という書き方が必要ではないかと思います。例えば、医薬 品で既に副作用とか相互作用がわかっていて、それを避けるために、患者に5つの質問 を医療従事者にしなさい、ということを私どもはよくやっております。薬の名前は何で あるか、その薬を使っていくときに注意しなければいけない薬の組み合わせは何である か、そういったことを医療従事者に対して質問をして情報を得る。こういうことを患者 さんに訴えかける部分を、「医療安全対策」の項目に設ける必要はありませんか。  「国民への情報提供」という言い方で、主体が医療従事者のほうにあるような形にな っておりますが、国民が医療従事者に対して、それを求めるというような書き方の部分 を入れていただけるとよいと思います。 ○堺委員  起草委員でいらっしゃいますので、その辺は一緒に考えていきたいと思います。 ○森座長  いつでも全体像に戻っていただいて結構ですので、ここでは堺委員に先をご説明して いただきましょう。 ○堺委員  資料2についてご説明いたします。資料1でご報告いたしましたような「構成イメー ジ(案)」を作成いたしました。今後、さらにこの検討会議の場で議論を深めていただ きたいと思われる点が3つ浮かび上がってまいりましたので、ここでご報告いたします 。  1番目は、「医療安全に有用な情報の収集・分析と共有について」ということです。 論点としては、「厚生労働省によるインシデント収集等(医療安全対策ネットワーク整 備事業)の今後のあり方について」です。厚生労働省では、資料4にありますように、 昨年10月から、特定機能病院及び国立療養所を対象としたインシデント事例の自発的な 報告制度を創設しております。現在のところ、対象病院がこれらのものに限られている ということや、収集の分析について、かなり事務的な負担が多いということも判明して まいりました。これらについて、どのように実施していくべきかということについて、 ご議論していただければと思います。  論点の2番目は、「全国的なアクシデント事例の収集等について」です。これまでの ところ、アクシデント事例については、全国的な収集システムは存在しておりません。 これを収集する必要性、あるいは収集する場合にはどのような収集方法が必要となるか ということについては、かなり慎重に論議しなければいけないと思います。この辺につ いてご検討をいただければと思います。  2番目の、「医療安全に関する教育研修について」というのはいちばん大事な部分に なりますが、この部分での論点の最初の部分で、「卒業前・卒業後の医療安全に関する 教育・研修の内容と分担について」ということ。それから一連のものですが、「医療安 全に関する卒業後の教育・研修の方策について」ということです。これは、それぞれの 段階で、誰がどのような内容を、どういうツールを用いて実施していくべきか。ここが 非常に難しいのですが、その効果をいかに判定するか、ということについてある程度の ご検討をいただければと思います。  3番目の、「医薬品・医療用具等の安全性向上について」、1番目の論点として、「 ユーザーからの改善意見を、製品開発等に反映する方法について」ですが、これは使用 者である医療従事者の改善意見を、どのような手段で収集して、どのようにその意見を 調整して、製品に反映していくべきなのかということのご意見をいただければと思いま す。  最後に、「安全性にかかわる情報の医療機関における利用について」ということです が、これはメーカーや流通業者の方々から提供される安全情報を、医療機関内にどのよ うに伝達し、また医療機関においてどのように活用していくべきなのか、この辺もまだ まだ明確でない部分があろうかと思いますのでご検討いただければと思います。以上で す。 ○森座長  いまご説明いただきました資料2の内容こそが、本日の議題であります。「さらに議 論を要する事項」ということで、ここに3点挙げていただきました。まだ、ほかにもあ ればご議論いただいて結構ですが、差し当たってはこの3点について順次ご議論をいた だき、内容を深めたいと思います。  最初は、「医療安全に有用な情報の収集・分析と共有について」です。この件に関し ては、児玉委員からご意見をいただくのがふさわしいと思いますが遅れて見えますので 、ちょっと順序を替えさせていだきます。川村委員がおられますので、「教育研修」の 問題を先に取り上げることとさせていただきましょう。川村先生から口火を切っていた だけますか。 ○川村委員  事例を分析した立場で申し上げます。注射に限定すると、約3,000事例の中で、卒後 2年以内に絞りますと全体の約4分の1になります。その事例の内容を見ると、いくつ か限られた要因が出てきます。これらの事例からは、新卒者の問題以上に、特に春から 夏にかけて、その新卒者を迎えるベテランに負荷がかかっている状況が読み取れますの で、教育の問題は急務だと考えております。  具体的には、例えば、注射の手技自体の危険性については教えられているようですけ れども、業務にまつわる危険性が教えられていない。口頭伝達の危険性とか、転記によ る危険性というものに対して理解をしていないために生じるエラーがあります。  それから、全体的に危険な医薬品に関する知識が非常に乏しいです。例を挙げますと KCL(塩化カリウム)という大変危険な薬がありますが、静脈注射してはいけないと いうことを知らない新卒2年以内の方が結構おられます。  3つ目は、してはならないことをいろいろ教えられるわけですが、なぜしてはならな いのか、ということが理解されないまま、応用力が利かない中で仕事をしているという こと。  これらの点を踏まえて、昨年300床以上の全国の130施設にご協力をいただき、新卒者 の11カ月目の看護婦さん約2,000人を対象にして、知っておくべき知識、技術100項目に 関する調査を行いました。  その内容は、注射、与薬、輸血や、輸液ポンプとか人工呼吸器など医療機器操作に関 するものです。11カ月目の現在でそういったことをどれだけ知っているか、あるいは「 知っている」と答えた方には卒直後、入職時にどれだけ知っていたか、ということを見 ましたら、かなり厳しい結果が出ております。  一例を申しますと、塩化カリウムという薬についても、11カ月目で4割弱の方しか、 静脈注射したら危険だということを知りませんでしたし、就職時には1割弱でした。胃 管と静脈ラインを間違えた事故が起こりましたが、新聞を賑わせましたので、この危険 性についても11カ月目で8割の人しか知りませんでした。間違ったら危険である、とい うこと自体をわかっていない。ルート間違いをしてはいけない、という概念で捉えてい るということです。  例えば、高カロリー輸液に入れるインスリンは速効型でなければならない、というの は1、2年も経てば知っていることですが、「なぜ」ということが教えられていないの ではないかと思います。医療実習の事故防止教育というのは、各論と総論があるかと思 いますし、時間をかけて議論しなければならない問題ですが、短期的に、最低限これだ けの知識と、その理由。技術と知識の間で、どうしてしなければならないかという、「 なぜ」という部分を卒前・卒後できちんと具体的に分担を決めていくことで、卒後の現 場での負荷がかなり減るのではないかと感じています。  両者が同じテーブルに付いて、具体的に役割分担を明確にしていくことで、短期的な 改善効果は得られるのではないかと考えました。事例からわかる範囲で発言をさせてい ただきました。以上です。 ○森座長  ありがとうございました。取り様によれば大変寂しい話であります。「なぜ」という わけを教えられなければ理解しないということは、世の中に定理というものはあっても 、公理はないのだというような考えにつながるかもしれません。良い話題を提供してい ただいたと感謝します。では「医療安全に関する教育研修について」に関して、これか らご議論いただきたいと思います。 ○岡谷委員  看護婦の立場から、卒後研修のことで意見を言わせていただきます。川村委員が指摘 したように、看護の場合には卒後研修という形で、きちんと体系づけて実施している病 院と、そうではない所があります。実際には入職してから、新人でも1カ月経つと夜勤 を一人前にこなしていかなければならないという人員配置になっておりますので、新人 よりも、それを指導する2年目、3年目辺りの看護職員の負担が非常に大きい、という のは現場の中で問題視されているところです。  そういう意味では、新人の研修を義務化しようとか、必修化しようというような意見 も出ています。看護婦が最終実施者になって、事故を起こしていくということは結構あ ります。この報告書で、研修の必修化とか、あるいは研修にかかる病院の負担といった ようなものを、もう少し軽減していくような方策も、具体的には盛り込む可能性はある のでしょうか。  もしそうであれば、そういうことの具体的な案といったものを提示させていただいて 、報告書の中に少し盛り込んでいくというようなこともやりたいと思います。 ○全田委員  薬剤師は病院の中での薬の専門家としての役割を担っていかなければなりません。直 接具体的な対策になるかどうかわからないのですが、私自身の経験から述べさせていた だきます。  いま薬学の基礎教育はおかげさまで大体1カ月の実務実習をようやくスタートしまし た。ところが、川村先生の話にもありましたように、「なぜか」というのは、臨床の経 験のある先生が教育しなければ、学生には身に付かないわけです。医療現場に行って、 そこで慣れた医療現場の先輩たちが教えてくれたとしても、医療安全に必要な、どうい うことに気をつけなければいけないか、その理由、といったことはすぐには身につかな いわけです。これは、薬学のいままでの歴史があります。  ですから、そういうことも、もし盛り込まれるのならば、教育の過程において実習と いいますか、卒後研修以前の教育の過程において実地経験者が、学生時代に教育してく ださる、というようなシステムを確立することが、基本的には大事なのではないかとい う気がいたします。 ○三宅委員  川村委員・全田委員がおっしゃったことと同じことが、医学部の学生でも言えると思 うのです。看護婦さんでも、医学部の学生でも、いまの教育全体が頭でっかちといいま しょうか、非常に知識偏重型になってしまって、実務から少し離れているように思うの です。もっと教育の中身で実務に携わる、あるいは臨床の現場からのいろいろな情報が 伝えられるような仕組みが必要なのだろうと思います。  これは、厚生労働省の問題ではなくて文部科学省の問題になるかもしれませんが、職 業教育という側面については、省庁の枠を超えて医療従事者を育てるということで、も っと現場の知識が伝わるような仕組みが必要なのではないかという気がします。 ○岡谷委員  具体的に言わせていただきますと、臨床がよくわかっている、経験のある人が教育を するということは、確かに大事だと思います。しかし医師の場合でも、薬剤師の場合で も、現場にいるスタッフが、日常の業務をこなしながら、新人の教育にも当たっていく ということで、非常に仕事が過重になっているのは確かだと思います。  看護の場合だと、学生がかなり長い実習を行う。その実習を現場が引き受けていく。 実習場に来て、具体的な技術を修得していくために、病院の中には、臨床実習指導者が 配置されています。その臨床実習指導者というのは、ある一定の研修を受けています。 その人たちは一スタッフですので、日常の三交替の勤務をやりながら、さらに学生の実 習も引き受け、新人の教育も引き受けています。明確な役割と、責任や権限を持ってや れるような体制にしないと、1人の人がスタッフ、臨床指導者といろいろなことをやる 中で、バーンアウトしていくという状況があるのではないかと思います。専念できるよ うな体制を整えていくことが必要ではないかと思います。 ○辻本委員  臨床の場ではむしろ患者がかかわらなければいけないという現実があります。これだ け医療が危険だというミス・事故が報じられる中で、無資格者に処置をされるのはいや だ。そのことをどういうふうに看護婦さんに言えばいいでしょうか、あるいはモルモッ トになるのはいやだ、という相談があります。そうした患者の側の不安を理解して、臨 床実習、教育の場で、患者さんにどう情報開示していくか、説明していくか、協力を願 っていくか、そういったことも含めて検討していただきたいと思います。 ○黒田委員  私は医学部を出て、医者の教育を受けたのですけれども、他の産業に比べて「教育訓 練」という言葉を大変簡単に使っているなという感じがします。1つは、川村先生がお っしゃったように、みんなうまくない、初めからうまい人はいないわけです。そうする と、1年間、2年間経っているところに事故が多いということは、対策は時間が経なけ れば、この事故は減らないということになってしまうのです。ほかの産業においては許 されないことです。  それならば、初心者の教育のあり方というものを、基本的に洗い直してみる必要はな いのかという気がするのです。1つは、教育の中にデジタルで教えられるものと、アナ ログでしか教えられないものがあります。定量的に体温で測ったり、検査をしてデジタ ルで出てくるものと、感覚で教えていかなければならないものの教え方は全く違うので す。それの区別があまりないなということが1つです。  2番目は、大変たくさんのことを覚えなければいけない。マニュアルを作るときに3 段階あります。mustあるいはmust not(ねばならない、してはならない)ということで す。それは、マニュアル辺りのところに大きな字で書いてあったり、あるいは赤字で書 いてあったりします。それから、must、better、niceというのがあります。これはして はならない、決してやらなければならないということですが、これらのグレードがしっ かりと決められていない。  もう1つ言いますと、一般の産業においてはOJTというのがあります。On the Job Trainingというのをやります。OJTというのは、初めからうまくない人を、だんだん と積み上げていくためのシラバスがきちっと揃っております。これは知らなければなら ない、これはできればいい程度、知識で知っていてもいい程度というふうに、きちっと シラバスを組んで、それをだんだんと積み上げていくような、教育訓練のシステムの体 系があります。医学の場合においては、教育訓練という言葉を大変簡単に使っているの ですが、その中身をもう一度見直してみる必要はないのだろうかという気がいたします 。  特にコミュニケーションという言葉も、ほとんどその内容を吟味されないで使ってい ます。航空機整備のほうの話ですけれども、コミュニケーションというのは文章でやっ た場合には7%しか通用しない、言語でやって38%、それからジェスチャー、対面でや ってやっと55%のカバーができるというような、コミュニケーションという言葉の持つ 指数も大変差があります。基本的な内容を言葉に惑わされないで、もう一度いま起こっ ているトラブルを振り返りながら、体系的に考えてみる必要はないのだろうかという気 がいたします。 ○森座長  とんでもないことを申し上げるようですが、ホルモンが体の中で働くためには、その ホルモンを感じるといいますか、受け取って実際に作用するような装置が必要です。教 育も同じで、講義とか実習を雨あられのように注いでも、いわば感ずるものがなければ 仕様がないと思います。いわばそのような「レセプター」を欠く、本当に駄目な者は排 除する、といった必要性は医療安全の中にないのでしょうか。それとも、そこまで言う のは大変酷なことであり、混ぜっかえしにもなるのでしょうか。 ○桜井委員  厚生労働省で、医療とかリスクという話をやると、どうしてもジメジメと暗い話にな ってしまうような雰囲気があります。もうちょっと前向きに物事を考えていったほうが いいのではないか。いま、非常に医療の安全とか、リスク回避ということが話題になっ てきたのは、1つの幸いと言うと変なのですが、それを盾に取って、新しい安全産業と いう見方で物を開拓していくというやり方もあると思うのです。  もう20年ぐらい前になりますが、私は患者ロボットを開発しました。これは救急蘇生 用のロボットで、マイコンを付けまして、蘇生がうまくいったか駄目だったかというこ とを、ペイシャント・シミュレータという形で、非常にリアルなものを作ってやったの です。  黒田委員の航空のほうもそうだと思います。医療教育の中ではフライト・シミュレー タに当たるようなものは、あまり使われていないのではないかと思います。「成功的教 育観」と言う言い方があるらしいのですが、「教育」と言うと、どうしても理念先行型 というか、覚えなければいけないということで、果たしてうまく覚えさせられるかどう か、結果が成功に繋がっているかどうかという行き方が、どうも日本の場合は少し足り ないような気がするのです。教育の問題とすれば、教育工学的な手段ですね。例えば注 射のやり方などです。  これは医薬品のときにも最初に申し上げましたが、1つには安全はタダではない、金 がかかるということです。もう1つには、安全を本当にやるのなら、ハイテクを使わな ければいけないのではないかということです。注射器に色を塗ったぐらいで、少しでも 安全が確保できるなどと思ったら大間違いです。バーコードにしろ、最近のナノテクを 使えば、量子ドットが何億種類も区別できるような手段もあるわけです。やはり本当に やるのなら、そういうことをやらなければいけない。翻って言えば、一種の安全産業と いうか、新しい産業のジャンルをつくることにもなります。いまは景気が低迷していま すから、日本の景気振興にも繋がるような、何か前向きに明るくやるというものの考え 方もあるのではないかと思い、発言させていただきました。 ○堺委員  話は1つ戻りまして、医療従事者の評価と処遇、医療安全は経営の一環だというのが 、私の持論です。良いものは良いと認めることが必要ではないかと思います。その裏返 しとして、悪いものというのもあろうかと思いますが、まずは良いものを良いと認める ことに、かなりの効果があるのではないかと考えております。それは個々の医療機関で 考えるべきことだと思いますが、まずはその辺が入口ではないかと、私は考えておりま す。 ○梅田委員  いま大変高度な話が出ましたが、教育ということになりますと、私ども歯科医師とし ては、平成18年から卒直後の研修が義務化されます。こういった短い期間の中でも私は 、やはりカリキュラムの中に「安全」ということを入れていただきたいと思います。こ れは文部科学省の管轄になるのかもしれませんが、卒業する前は、国家試験に受かった 者は、今度は義務化されている研修を、どうしても1年間受けなければならないという ことになりますと、実技や倫理は当然ですので、そのカリキュラムの中に「安全」とい うものを、是非入れていただきたい。 ○岸委員  カリキュラムの面では、文部科学省との垣根があるというご指摘が、先ほどどなたか からありましたね。もちろんカリキュラムについては、文部科学省との調整が必要でし ょうけれど、例えば高等学校の教育を変えようと思ったら、大学の入試問題を変えれば 、高校の教育も変わってしまうという現実と同じで、看護婦であろうが、医者であろう が、薬剤師であろうが、とにかく少なくとも資格を与える前提は、「医の安全」という 1つの大きな項目をクリアしなければ駄目だと、国家試験について厚生労働省が声を上 げれば、私は自ずと流れはできてくるのではないかという気がしています。 ○森座長  それでは最後にもうお一方だけ、どうぞ。 ○長谷川委員  先日の起草委員会でも申し上げたことですが、私の個人的な経験を踏まえて、ご提案 したいと思います。実は、私はアメリカで外科のトレーニングを受けて、外科の専門医 の試験を受けました。実技の試験と口頭試問がありましたが、そのときに先輩から言わ れたことは、「口頭試問の際に、もしお前が知らなければ、I don't knowと言え」と。 つまりアメリカ外科学会が専門医を認定するに際して、「安全である」ということが外 科にとってはいちばん重要である、知らないことを「知っている」と言ってしまうのが 、いちばん危ない外科医だ、「知らない」と言って誰かに聞く、誰かに紹介するのが正 解なのだと。私は試験で、I don't knowを多発して通りました。事実、本当に知らなか ったのです。  あるべき医師、理想的な医師というのは、どちらかというと高度な技術があるとか、 よく知っているということに重点が置かれますが、医学教育、卒後教育、専門家教育の 目標、あるべき医師の姿の中に、安全な医師がいい医師なのだという理念を掲げること が、非常に重要だと感じております。 ○森座長  まだ決して十分とは思いませんが、とりあえず次の項目に移らせていただきます。こ の項目、教育研修と無関係ではありませんから、どうぞ今までの論議も続けていただき たいと思います。差し当たっては3番目に掲げられている「医薬品・医療用具等の安全 性向上について」に移りましょう。ここでは桜井委員に、まず何か一言、おっしゃって いただきましょうか。 ○桜井委員  いま日本には承認の問題、あるいは市販後の安全性調査の問題など、いろいろありま す。特に医薬品では、承認されて市販された時点で、すべてのことが分かっているとい うことは、ギャランティできないのです。承認までの短期間に限られたやり方で、治験 や臨床試験などのいろいろなテストをやって、まぁ、いいでしょうということで承認を 受けます。それから後、それまでに分からなかったような事柄が出てくるというケース はたくさんあるわけです。したがって「市販後の安全性調査の拡充」というのが、ひと つ非常に大事です。医薬品のICHなどでも、これから大事なこととして取り上げてい こうという流れにあるようです。  アメリカなどでは、医療機関や企業からの副作用報告は当然ですが、患者からのレポ ーティングというのも、ひとつループの中に入っています。わが国でも、医療の中にコ ンシューマーの声が入るような仕組みをつくったほうがいいのではないかと思います。 例えば医者と患者とか、医者と企業という立場でものを考えると、どうしてもいわく言 い難いポジションの差が必然的にできてしまいます。やはり要望や不満など、いろいろ なことが持ち出せるような場を設定すること、そしてそれが継続的な場であるというこ とが必要だと思います。何か1つのそういう土俵をつくって、そこでいろいろなものが 持ち上がるという仕組みが大事ではないかという気が、個人的にはしております。 ○森座長  この項目については、おそらく堺委員も、起草委員のお一人ということではなく、一 委員として何かコメントなり、ご発言があろうかと思いますが、いかがでしょうか。 ○堺委員  医薬品と医療用具の2つに分かれておりますが、あまり画然と分けていただきたくな いなと、私は思っております。実際は医療用具を介して薬を使っているわけですから、 両方に跨る問題が常に発生いたします。それが1つです。  もう1つは、最近、この種の調査が多くなりました。多くなったのは良いことですが 、あっちにもご報告し、こっちにもご報告しという事態が生じております。これは行政 のほうで是非、どこかへご報告すればそれで受けた、というように整理していただけれ ばと考えております。 ○森座長  それでは、この「医薬品・医療用具」について、どなたでもご自由にどうぞ。 ○望月委員  先ほどの桜井委員のお話に関連しますが、今日は資料を作らせていただきました。先 ほど堺委員から、医薬品と医療用具は切っても切れない関係にあるというお話がありま したが、医薬品と医療用具全体として、安全対策のための情報に必要な視点というのを まとめてあります。  ここで先生方に1点だけご検討いただきたいのは、医療事故の定義の中に、「医薬品 ・医療用具による予測・予見可能な重要な有害反応」というのが含まれるべきではない かということです。例えば、過敏症のある患者に、再び重大なショックなどが起こるよ うなことを防ぐということも、安全対策になるのではないかと考えております。まずは 定義の中に、それが含まれているべきではないかというのが1つです。  薬品の安全対策情報というのは、作る段階と、作ったものが集まってきて評価をする 段階と、提供・利用する段階という、大きく3つぐらいに分かれると思います。開発段 階では安全性試験や臨床試験など、さまざまな試験が行われますが、その中に例えば説 明文書の理解度の調査とか、試験的な使用をした場合の問題点の解明とか、国際標準に あった形での検討といったことも含まれます。おそらく医療用具などは、資料にイタリ ックで記述した部分が、いま現在あまり出来ていないところではないかと思います。  「市販後のビジランス」の所ですが、医薬品に関して、市販後調査の制度というのは 、かなりきちんとしたものが用意されておりますが、医療用具に関してはどうか、患者 からの情報の収集の仕組みはどうかというところを、イタリックで書かせていただいて おります。  「情報を評価する」の所ですが、こうした形で集まってきたときに、緊急度と重要度 に応じた整理の仕方が必要です。何でも出していけばいいというものでもないだろうと いうのが、必要な課題ではないかと思います。なぜそれが起こるのかを理解しておくこ とが出来ていないというお話が、先ほどありましたが、その原因を解明する段階で、環 境なのか、人なのか、物そのものなのか、知識の不足なのかといったところが、明確に できるような収集の仕組みが必要ではないかと思います。  「情報を提供・利用する」の所は、緊急度、重要度別の仕組みが必要でしょうし、医 薬品に関しての緊急安全性情報などの仕組みはありますが、私が知らないのかもしれな いけれど、医療用具の場合にどの程度できているのか。情報の背景と理由に関しては、 そういう情報を提供する際、十分な説明ができているかどうか。活用できる形態で、配 慮された形で提供されているか。例えばオーダリングシステムの中でブロックをかける ためには、情報がデジタル化されていたり、企業間で標準化されていなければいけない という問題が、まだ未解決ではないかと思います。  情報の受皿の問題については、次のスキーマを見ていただきたいと思います。医薬品 ・医療用具の安全対策情報に関しては、厚生労働省から出ていくもの、製薬企業から出 ていくもの、医療用具の企業から出ていくものというように、さまざまな流れがありま す。それが医療機関に伝えられていくわけですが、企業が誰に伝えたら良いかがわから ないのです。知った人には伝えやすいけれど、使っている方の中でも自分で把握できて いない方の場合は、どう提供したら良いかわからないというのが、1つの問題点です。  「受皿の機能」として、円の下のほうにまとめましたが、誰が情報を必要なのか、ど の程度緊急性があるのか、重要なのか、あるいはどういう形で提供するのか、紙媒体が いいのか、解説が必要なのか、コンピューターでブロックをかけるような形での提供が いいのか、そういった整理をできる受皿があって、それぞれ必要な所に情報が流れてい って、最終的には患者に反映されるという形が必要でしょう。今はこの受皿があまり明 確になっていないために、医薬品・医療用具の安全対策情報がうまく機能できていない ということが、あるのではないかと思います。  実はこの流れの矢印が、医師とか看護婦とか、それぞれ一方通行で流れていっていま すが、これを逆方向の矢印に変えると、市販後のビジランスに使えるのではないかと思 います。市販後のビジランスの段階でも、それぞれの医療機関の中で情報を取りまとめ て、厚労省なり、製薬企業なり、医療用具の会社なり、必要な所にどう伝えていくべき かという仕組みがきちんと機能すると、もう少し効果的な安全対策が講じられるのでは ないかと考えます。  もう1つの問題点は、「情報の共有化」という部分です。医療機関の中でもいろいろ な病棟の看護婦が、いろいろな問題を抱えていますが、それが共通事項なのか別々なの か、そういったことをこの受皿が把握すると同時に、いろいろな医療機関から上がって きたものを、それぞれの製薬企業や医療用具の会社が、それぞれ別々に受けとめて、そ の結果、それぞれが別々に改善を講じたために、また同じような製品になってしまうと いうことを整理するために、製薬企業間の調整機構とか、医療用具企業間の調整機構と いったものも必要になってきます。情報を共有化して、本当に必要な対策を講じるとい う仕組みも、もう1つ必要ではないかと思います。  ビジランスがうまく機能するためには、情報の収集への協力という意識を、患者も含 めた医療にかかわる全員が、もっと持つ必要があります。協力するためには、各医療機 関内でそれを取りまとめる組織も必要ではないか、ということも申し上げておきたいと 思います。 ○川村委員  モノがかかわった医療事故の事例を見たときに、人の要因なのか、あるいはモノの要 因なのかという分け方で考えるのではなく、常にかかわったモノの視点から改善が必要 かというように、もう1つ踏み込んでやっていかなければならないのではないかと思い ます。人よりモノのデザインのほうが、はるかにコントロール可能です。モノから見て どう改善できるかと。事故を起こした医療従事者というのは、大体誤った操作をしたわ けですから、いままでは自分たちが正しい操作をしなかったから、こうなったと思って きたわけです。しかし、過ちを犯しやすくしたデザイン、インターフェイスという問題 はないのか。これから先は開発段階で、そういった改善をどうしても取り入れていただ きたいと思います。そういった情報を上げる立場が、これは自分の問題だから上げるべ きではない、決定的な不具合だったら上げてもいいけれど、というように思いがちなの です。しかし専門的な視点でモノを見る方がその事例を一緒に見て、設計・開発にかか わる方々へアドバイスをしていくという、もう少し踏み込んだモノの改善が必要ではな いかと思います。 ○三宅委員  明らかに事故が起きている、非常に間違いやすい薬品名について、私は行政として改 善命令を出したほうがいいと思います。いつまでもそれを放置しているということは、 私は行政側の責任を問われるのではないかと思います。  それと、いま川村委員がおっしゃったことと同じですが、麻酔の機械の操作方法が、 メーカーによっていろいろ違います。明らかに間違いやすいことがわかっているわけで すから、基本的なパターンはこうですということを、きちんと決めるべきだと思います 。そういうことを規制するのが、私は行政側の大きな働きであり、安全を守る基本的な ことだと思います。ですから基本的に改善すべき問題を放置しておくこと自体、私は問 題であると思います。 ○矢崎委員  いまの川村委員と三宅委員と、全く同じ意見です。モノを使った事故でいちばん多い のは、人工呼吸器の事故だと思います。その際に私たちがいただく文書は、確認とか、 チェック事項というご案内なのですが、マシーン、あるいはメカニックスからの解析は 、十分行われていないのではないかと思います。ヒューマンエラーはあるとしても、マ シーンのところからの安全性というのは、できるだけ確保していきたい。事故情報の収 集システムの視点がどうもヒューマンエラーのほうに重きを置きがちで、機械の情報を 正確に収集して、どこに問題があるか、どこが改善できるかということをクリアにする 仕組みになっていない。メーカーなり我々使うほうにそういう情報を伝えていただくと 、大変ありがたい。基本的には三宅委員が言われたように、私どもは生命に直接かかわ るものは、統一規格にしてほしいのです。あまりメーカーが工夫したソフィスティケー トされたものは、なるべく特殊な治療用のみにしていただき、一般に使う機材は安全で 安いものという指向を、是非メーカーにはやっていただきたいと思います。 ○井上委員  医薬品メーカーは多大な広告料、商品パテント料を払って、医薬品の名前などを登録 します。製造メーカーは自分の所の商品名として、医師が覚えてくれやすい名前を薬価 基準や登録商標に選んで登録していくわけですから、当然類似した医薬品名が増えてく るわけです。発売後に類似品があることがわかって商品名を変えようとしても、さらに 医療事故が起こっても宣伝広告費やパテント料がかかりすぎて変えられない、という非 常に不可思議な現象が起こります。できれば医療事故を起こした類似名の医薬品の名称 を、速やかに変えていただきたいという希望をうちの団体でも出すわけですが、費用の 問題や法的な問題も含めて、なかなか難しいのが現状です。  医療器具も含めて、外観にしろ、名前にしろ、操作性にしろ、すでに医療現場では間 違いやすいことはわかっているわけです。これから登録されるものについては、医療事 故防止へ向けた話し合いの現場づくり、販売後に不都合や事故が起これば、それをどう 解決するかといった事後の話し合いの場づくりという2つの点が、重要ではないかと思 います。 ○岸委員  お伺いしていて、非常に難しい問題だと思います。先ほどまで専ら議論されていたの は、言ってみればこの種の情報の一元化です。私は医薬品であろうが器具であろうが、 さまざまなリスク等の情報を集積し、交通整理をし、メーカーなり何なりとの話し合い をするというような場所をつくればいいのかと思って聞いていたのですが、例えば行政 が「規格を統一しろ」と言っても、機能そのものにかかわる部分ですと、それにはパテ ントの問題も絡んでくるでしょう。いまの経済システムの中では、それぞれがそれぞれ の事業の中で競争しているわけです。JISとはちょっと趣旨が違うと思います。  シンプル・イズ・ベストなのだ、というユーザー側の意向を、メーカーのほうに明確 に伝えていくしかありません。規制を行政に要求すれば、いまの規制緩和の流れに逆行 していくだろうと思います。だから、そうしたユーザーたちの声を吸い上げる。1つ1 つの医療機関では、メーカーのほうへはなかなか伝わっていかないけれど、そういう声 を吸い上げて討議する統一的な場を設けるという方向性が、やはりいちばん良いのでは ないかと私は考えます。 ○中村委員  私は、医療現場でどのような取組みをしているかというのが、極めて大事ではないか と思います。インシデントとアクシデントのレポートを出すのは当然ですが、それと同 時に、どのような創意工夫をしているか、安全対策を立てているかということもレポー トしていただくと、大変役に立つのではないかと思います。例えば塩化カリウムなどは 、私どもの病院では静脈注射厳禁、あるいは幹部職員にしか取扱いさせない等々として おりますので、各病院でもいろいろな工夫がなされているのではないかと思います。  駄目なものは駄目として排除できるようなマンパワーの状況でしたら良いのですが、 現実にはなかなかそうはいきませんので、オーダーする側の人がそれを見分けると。そ れでも不安であれば、何らかの方策を立てる等々のことは、各医療機関で、ある程度は やっていると思うのです。そういうこともデータを集積してみますと医薬品業界も、そ の中でなるほどなというものを、逐一取り上げてくれるのではないか、あるいは少なく とも取り上げられやすいのではないかという思います。 ○森座長  それでは次に移りましょう。最後になりましたが、1の「医療安全に有用な情報の収 集・分析と共有について」に関連して、ご議論いただきたいと思います。ここではお2 人のお名前を挙げさせていただきます。お一方は児玉委員です。いろいろなご経験がお ありと思いますので、口火を切っていただきたい。もうお一方は長谷川委員です。主と してアクシデント事例の収集ということで、諸外国の事例もご勉強のようですから、議 論の中でご発言いただいてもいいですし、最初に一言ちょうだいしてもいいですね。ま ず児玉委員からお願いできますか。 ○児玉委員  まずアクシデント事例の収集の前提として、どういうことを考えているのか。病院内 で何らかの医療事故が発生したときに、3つのポイントがあろうかと思います。第1に 、患者、家族、場合によっては遺族に適切な説明がなされることです。第2に、カルテ に正確な事実関係の記載がなされることです。第3に、病院の管理部門に適切な報告が 上げられることです。これは何も医療機関だけではなく、経済活動も含めて、何らかの 社会的な活動を行っている中で事故が起こったときに基本となる事柄です。つまり被害 者に対する説明、記録、経営者がその事故を把握するということは、基本中の基本であ ろうと思います。こういうことがきちんと行われなくてはならないし、現にこういうこ とが全国の医療機関で行われる方向へ動きが起こっています。いわゆるアクシデント事 例の収集は、そういう中で新たに行政サイドが何を考えるべきかということではないか と、私自身はこのテーマ自体を理解しております。  ちょっと前提を広げまして、まず目的は何だろうかと。大きく分けて3つあろうかと 思います。1つ目は、いかに刑事処罰するかという目的です。2つ目は、いかに民事紛 争を解決するか。これは先般ADRということも含めて、ご説明させていただきました 。3つ目は、いかにアクシデント事例を集めて医療安全対策を立てるかという、いわゆ る行政目的、あるいは全体としての医療界の取組みとしての目的です。  この3つの目的のうち、1つ目は刑事処罰の問題ですから、本来この席で議論すべき かどうかということ自体、さまざまなご意見があろうかと思います。また、そもそもレ ポートを出せ、このレポートは何に使うのですか、あなたを刑事処罰するために使いま すというのは、立派な憲法違反です。ですから、そういうアクシデントレポート事例の 収集は、おそらく法律的にも不可能だろうと思います。  2番目の民事紛争解決の要は、やはり裁判所ではないでしょうか。現在、森座長は訴 訟関係で、医療サイドからの提言をされるお立場におられると伺っております。裁判所 を軸にしたADRのシステムをどうつくっていくかは、必ずしも容易な課題ではなく、 またファンドをどう運営するか、さまざまな部分が出てこようかと思います。例えば特 定の目的、範囲に限定した医薬品機構のようなシステムを構築するのであれば、まとま った機能をするシステムがつくれるかもしれません。先般、その議論の入口のところは ご紹介させていただいたところですが、それにも非常に困難な部分があるかもしれませ ん。  メインとなるのは、3番目の医療安全対策を構築するための行政としての取組み、あ るいは医療界としての取組みをどうしていくかです。やはり目的は、医療安全対策をど う構築するかということになるのではなかろうかと思います。  次にその対象です。非常に雑駁な言い方ですが、これも3つに分けられると思います 。真っ黒の事例、灰色の事例、白の事例です。ただし白の事例を「アクシデント」と呼 ぶべきかどうかについては、議論はあろうかと思います。実際に医療というのは、常に 死亡や障害のリスクをはらむ営みですから、患者が亡くなったこと、即事故ととらえて おりますと、全国で1年間に72万人の方が医療機関で亡くなりますので、72万件の処理 が必要になってまいります。  では黒の事例と灰色の事例をどうするかということで、外国の事例ですが、参考まで に申し上げたいと思います。アメリカの黒の事例で、何もかも黒と判断して報告しろと 言うと、どこまでが黒ですか、何が黒ですかということで、報告制度自体がうまく機能 しないということが起こります。例えばマサチューセッツ州などでは、どういうパター ンの報告を上げてほしいかを明示いたします。異型輸血の場合、臓器を間違えた手術を した場合、体のサイドを間違えた手術をした場合など、いくつか具体的な事例をはっき りと上げて、これを報告してくれという制度を、マサチューセッツ州などでは取ってお ります。  灰色事例の報告制度の一例としては、CCS(クローズド・クレイムズ・スタディ) というのがあります。灰色というのは、医療機関側にも言い分があり、患者、家族、遺 族側にも言い分があって、争いになるような事例です。これについて係争中の案件を、 報告しろと言っても、係争中ですし、昨今のように場合によっては刑事事件として、告 訴・告発がなされているような事例では、そういうことを行政に報告すること自体、非 常に困難であります。CCR(クローズド・クレイムズ・スタディ)と申しますのは、 紛争が終わってファイル・クローズド、つまりその件についての紛争記録を閉じてもい い段階になったら、その情報を集めて、発生原因、背景になった要因を検討しようとい うものです。  このリソースになるものには、さまざまあろうかと思います。例えば紛争になった、 事故になった事例を、学会を挙げて調査されるシステムをつくるとか、例えば裁判で終 わってしまった、少なくとも何らかの形で判決が出た事案について、踏み込んだ調査を 行うということが検討されます。このクローズド・クライムズ・スタディの弱点は、紛 争そのものの渦中にあるものの情報を集めるというリスクは回避できますが、紛争が終 わるまでのタイムラグが生じますので、最先端の医療にかかわる紛争は、なかなか把握 しにくいということです。ただ、それらのメリットやデメリットの中で、例えばアメリ カ麻酔医科学会のように非常に大きな成功を収めた例もあります。 ○森座長  ありがとうございました。それでは主として、情報の収集・分析ならびに共有という ことで、ご議論いただければと思います。いかがでしょうか。どうぞご自由に。あるい は前のテーマに戻っていただいても結構です。 ○岸委員  医療過誤問題が起きたときに、私どもの所で読者からいちばん多いのは、やはりリピ ーターを排除したいということです。私たちの職業でもそうですが、新聞記者として採 用してみたものの、明らかに適性のない人間というのはいるのです。これは医者だけで はなく、どの業種にもあると思います。民間企業の場合ですと、適性が合わないと思え ば、配置転換すればいいわけですが、医師などは排除が困難という点に関して、患者は 非常に不信感が強いわけです。その場合に、もしアクシデント事例を収集することが可 能であるなら、その中で同一人物が複数回繰り返し、同じようなアクシデントを起こし ていることが確認できるならば、排除するのに最も合理的な検証が可能なものとして使 えると、私は思うのです。  ただ、どの時点をもってアクシデントだと認定するのか、どういう形で収集するのか というのは、私も何度も考えてみて、非常に難しいのです。我が国が三審制の裁判制度 である以上、その当否はなかなか確定しませんが、やはり基本的には民事裁判の一審判 決が出たら、1つの客観的事実として、判決文というものがある、裁判所が認定した事 実というものがあると。そのことに基づいて、当該被告人となっている医者をどうこう というようには、なかなか使いづらいものではありますが、ケーススタディとするなら ば、ある程度の客観性を伴ったデータとして、見てもいいのではなかろうかと思います 。  刑事裁判も同様です。刑事裁判も三審制ですから、一審判決が出た時点で確定判決と は言い難いわけですが、少なくとも一審判決というものを使って、ケーススタディとす ることは出来るだろうと考えます。リピーター排除の問題は、私はいますぐには難しい 問題であろうかと思います。少なくとも今回の議論の中では、アクシデント事例を収集 し、ケーススタディとして耐え得るものとするならば、民事・刑事を問わず、各地方裁 判所等々の一審判決を、1つのケーススタディとして何らかの形で全国の医者たち、あ るいは患者団体等々に配付するなり、検討に値するものになるのではないかと考えてお ります。 ○森座長  ほかの方、どなたでもご遠慮なくどうぞ。あるいは全般的に、前の項目も含めてでも 結構です。小泉委員、前の項目も含めて、何かご発言はありませんか。 ○小泉委員  前の項目の教育研修についてですが、1つは医療安全という入口から教育を行う、訓 練を行うということと、もう1つは、例えば診断治療の実際の場面で、具体的に言えば エックス線の検査について教育するときに、安全性に触れる。投薬治療の場合にも、こ ういう薬にはこういう効果があるから使うのだという説明をするときに、併せてこの薬 を使うときにはという注意を教える。この両面が必要ではないかと思います。 ○岩村委員  いま、裁判の記録なり判決を使うというお話が出ましたが、少しご注意いただきたい と思うのは、やはり一審判決というのは、場合によってはひっくり返る可能性があると いうことです。もちろん、これは訴訟における当事者の、いろいろな訴訟戦術等によっ て変わってくることです。例えば一審判決では思ってもみなかった理由で敗けたので、 その点については二審でさらに主張を展開し、その結果として裁判がひっくり返るとい うことも、時としてあり得るわけです。ですから安全性という点で一審判決というのは 、必ずしも万全ではないというのが、まず第1点です。  やはり裁判の場合、民事の場合であれば、医療機関側に損害賠償責任があるか、過失 があるかという観点からの事実認定と評価になりますし、刑事裁判の場合も当然のこと ながら、業務上過失致死の刑事責任を問うことができるのかどうかという観点からの、 裁判所の事実認定であり、評価ということになります。ただ、その中で裁判所が一定の 注意義務、過失の前提として何らかの義務があるという形で述べていくことによって、 それが集積すれば医療機関あるいは医師その他の医療従事者が、治療の際に果たすべき 義務が、ある程度確立することは確かですが、それは直接、医療安全の対策というもの と必ずしもリンクするわけではないという気がいたします。  したがって医療安全対策という観点から、何らかの事故の情報を集める、あるいはイ ンシデントの情報を集めるというと、その目的に即した形で、どういう情報を集めるか ということを考える必要があるのではないかという気がいたします。確かに刑事・民事 の裁判というのは1つの素材ですし、分析対象としても非常に興味深いことは確かです が、もっと広い医療安全対策という観点からすると、やや目的が違うのではないでしょ うか。むしろ医療安全対策という目的に即した形で、情報収集を組み立てていったほう が、私はより筋が通るのではないかという気がいたします。 ○三宅委員  いまの話題で、インシデントの収集については、国立病院でやられているようですが 、私はこのインシデントというのは、定点観測のような所で、いくつかの病院でやれば 、大部分の情報は集まるのではないかという気がするのです。  もう1つは、裁判例もたくさんの情報があるとは思いますが、裁判の例ではなくて和 解をした例とか、和解までは至らないけれど、アクシデントがあって、そこにいろいろ 教訓的なことが含まれることがかなりあると、私は思うのです。そういうものはやたら に集めてもキリがありませんから、ある程度の基準を設けて集めて検討して、そこから 何らかのシステムとしての改善が生まれてくるのであれば、いろいろな医療機関に情報 を発信するということが、安全の上では必要ではないかという気がするのです。 ○黒田委員  いままで我々がヒューマンエラーの研究をやってきて、大変役に立ったことの1つに 、負の遺産と同時に正の遺産というものがあります。同じことをやっていながら、事故 を全然起こさない所があるのです。これは後の研究開発のほうにかかわるのかもしれま せんが、是非ともそういう研究をやっていただけるとありがたいと思います。 ○山崎委員  資料1の「教育・研修」の「その他」に、「安全管理担当者に対する教育」というの がありますね。先ほど「教育研修」のところでは、医療従事者の卒前卒後の教育に、議 論が集中しましたが、やはり今すぐしなければならないことは、いろいろな職種の方を 含めて、現場で実際に医療を担当していらっしゃる方が、そこでの安全を確保していく ことです。そのために安全対策のシステムというのができていくと思うのです。特に医 薬品・医療用具に関しては、ますます多種多様になりますし、内容が先鋭的になる、あ るいは使い方が難しくなるというのは、これからは避けられないと思うのです。先ほど 望月委員からスキームを出していただきましたが、これからはその情報を安全対策のシ ステムの中にどう取り入れて、医療従事者がそれを有効に利用していくかというところ に、かかってくるのではないでしょうか。  先ほどは行政の怠慢だというお話がありましたが、それはそれとして、そういうシス テム、全体として行政の対策を変えていく前に、やはり今すぐやることとしては、医療 現場での安全対策のシステムをつくり、それをどう担当していくかです。例えば医療用 具の使い方が非常に難しくなってくるときに、医師や看護婦の中で掌握していくことが だんだん難しくなってくれば、臨床工学士という方が関与して、責任を持って情報をわ かりやすく院内に伝えていく、あるいはそこでヒヤリハットのようなことがあったら、 それをすぐ掌握して、安全対策の対策のほうに使っていくという形が必要なのではない でしょうか。そういう意味では、従事者の卒前卒後教育というのも非常に大事なことで すが、これからは現場での管理責任をどう取るか、責任者がどういう意識で、どういう 能力でやっていくか、それぞれの職種についての責任を取っていく方というのが、これ からは必要になるので、やはりそういう方の教育を、急がなければいけないのではない かと思います。特に医薬品・医療用具については、そういう必要性が強くあるのではな いかと感じましたので、発言させていただきました。 ○児玉委員  患者との間で不幸にして医療事故が起こり、医事紛争になった際、例えば自分が障害 を負った、あるいは自分の家族が生命を失ったという場面で、患者は本当に金がほしい と思っているのか。もちろん生活保障という側面はありますが、私が取り扱ってきた紛 争では多くの場合、そうではないように思うのです。患者の遺族が常におっしゃること は、事実が知りたいということです。こういう事実を調査することは、大きな事件であ ればあるほど、非常に困難です。第三者的な立場にある機関を立ち上げて、調査を行っ て実験を繰り返して、これが原因だったのかということが、やっと分かるということも 、事実としてあるわけです。事実調査として病院を糾問し、処罰するためというのであ れば、動きもなかなか起こりにくいと思いますが、例えば患者の権利擁護室のようなO PAのようなところから依頼があったときに調査をする仕組みが、行政のほうが支援し てくださる1つの受皿としてあれば、どれほど事件の対応がしやすいかと思います。  2点目ですが、これも常に患者側がおっしゃることです。賠償金云々はいい、二度と こういう悲しいことが起こらないようにしてほしい、自分の肉親の死が闇から闇に葬ら れては、もうやっていられないと。それを医療の改善にどう活かすか。私は、実際に病 院側の代理人として示談書を結ばせていただくときに、「この事件を糧として、医療安 全のためにさらに全力を傾注することを確約する」という条項を、多くの場合に入れさ せていただいております。この願いは、やはり患者も医療機関も同じだと思います。  実際にクローズド・クレイムになった、つまり紛争が終結したものについて、こうい う事故が起こり、こういう経緯で紛争なりがあって、こういう経緯で収束したという情 報を、患者のほうがどこへ持っていってくれるのかというと、受皿がないわけです。公 表と言いましても、記者会見などをやりますと、その後で大変なことになって、なかな か厳しいことが起こります。学術的な観点とはまた違った興味で、さまざまな評価をさ れる場合もままあります。もちろんそういう透明性は大事であるとしても、少なくとも 医療安全の観点から、クローズド・クレイムズの情報の受皿をつくっていただくことが 、必要になるのではないかと思います。 ○長谷川委員  ちょうど児玉委員から、そういうケースの受皿が必要だというお話が出ましたが、諸 外国ではどういうシステムをつくっているのかを、ご紹介いたします。簡単に世界の状 況を資料3を使いながらご説明します。  アメリカ、ヨーロッパ、太平洋州、アジアの13カ国に、同一の調査表で調べました。 現在までに10カ国集まってまいりましたが、まず最初に気が付いたのは、医療安全の問 題が世界的な課題になっているということです。本当に同時進行で、世界各国が考え始 めているということに驚きました。2つ目に驚きましたのは、実は意外と日本は早いと いうことです。言葉のせいだけではないと思いますが、米、英、豪というのは、わりと しっかりした作戦を立てております。日本はどうも4番目のようです。今ちょうど政府 で議論し始めたところだというのは書いておりますが、このような委員会でまとめてや っているのは、実は意外と4番目なのだなという感じがいたします。  同様に情報についても、同じような傾向があります。残りの国々では、あまりちゃん としたことは始まっていませんが、米、英、豪はしっかりしております。それに共通す る原則は、失敗から学ぶということは、当然施設の中ではするのですが、それを国全体 でやっていこうという精神です。したがってニアミスなどの事例情報を集めて分析する ということが、やはり予防対策の要になっております。集めるのは、別に事例だけでな く、いわゆる臨床医に聞いたりします。状況を把握して、分析するという手法もありま すが、ここでは事例を集めるという点に特化してご報告しました。下に書いてあるよう に、問題を把握して分析して解決していくということです。それは2頁目の下の図に書 いてあります。  ところがこのシステムを動かすためには、いくつかの条件が必要です。まず目的がは っきりしていること、どういうフォーマットで誰がどのように情報を送るか、守秘義務 が守られていて、情報が外部に流れないように工夫してくれ、場合によっては訴訟から の免責があること、ちゃんと分析をしてフィードバックしてください、そういうものが なければ、このシステムは動かないと言われております。実は数日前、アメリカのリー ダーの何人かと電話で話をしました。彼らが共通して言っていたことは、一応強制制度 というのも考えてはいるけれど、結局報告というのは自主的なのだ、ボランタリーでや るのだと。ご本人にインセンティブがあって、その内容が本当に自分にとって意味がな ければ、なかなか報告しないよという話でした。  英、米、豪の3カ国以外は、お話があってもまだ進んでいないようですが、オースト ラリアもPatient Safely Foundationという一般のNPOで、ボランタリーでケースを 集めているということがあります。またはある州で、政府が積極的にアクシデントを集 めようという話があるという程度です。  イギリスについては、一元的な情報の集中を図っております。これまでも病院ごとの データの分析、特に医薬品の機関を通して集めているということはありましたが、これ からはNational Patient Safely Agencyというものを作り、NHS(国営医療システム )の中に、そういった情報を全部集めて分析して、現場にフィードバックするそうです 。去年の秋ぐらいに出来たはずですが、ウェブサイトを見てもアクティビティが見えま せんので、まだうまく立ち上がっていないのかもしれません。  最後にアメリカの3種類の事例を、ここでは挙げさせていただいております。1つは 、1999年11月にIOM(米国医学院)が提案した、医療事故の防ぎ方に関連した報告制 度の提案の話です。2つ目が、JCAHO(第三者評価機構)の報告制度の話です。3 つ目が、アメリカ最大の病院チェーンストアである国立病院、ベテランズ病院の報告で す。実はアメリカの国立病院は大変評判が悪かったのですが、1994年からのたった6年 間で、評判の悪い病院からモデル病院に生まれ変わりました。その生まれ変わった理由 が、患者安全と医療の質を中心に、病院の中を改革したからだと言われております。し たがって患者安全の報告制度というのは、病院制度改革の中心を成すものでした。  それには、ちゃんとしたフォーマットが決まっております。資料5を見ていただけれ ば、分類などが書いてあります。報告されたものを分類して、Root Cause Analysis( 根本原因分析法)や影響モードの分析法などで、仔細に分析して、現場に返しているよ うです。これはVAの中だけで、外部にその情報は出さず、自分たちが自分たちで学ぶ ために使っている情報のようです。  次に、JCAHO(第三者評価機構)ですが、目的は、病院が事故事例からちゃんと 学んでいることを確認し、その病院が良い病院だということを認証するためにやってい るのが1つです。もう1つはその事例を集めて、その中のパターンを読み取って、こう したら危ないよということで、『センチネルアラート』というニューズレターを作り、 各病院に送り返しています。トップはKClの投与、輸血やカリウムの静脈注射の話だっ たようですが、もうすでに21項目について分析が進んで返しております。それらは自主 的な報告です。1994年に始めてからこの5、6年間で、約1,500例が集まっているよう ですが、それらは訴訟の免責がありませんので、全部IDを落としてデータプールをし てから分析します。当然ニューズレターを施設に返すときには、個別の施設名は挙げず に返しているそうです。  JCAHOとしては、まずは各施設で事例を報告する制度をつくり、分析をして、そ こから学んでほしい、改善計画を立ててほしいし、そのことについてはmust、各施設で やってくれということです。その中で特にセンティネル・イベント(警鐘事例)という ものがあります。先ほど児玉委員からお話があったものと、よく似ておりますが、9頁 目にJCAHOの定義の警鐘事例があります。重篤な障害に至る状態、あるいは5つの 事例、例えば自殺、誘拐、暴行、血液型不適合、誤った患者の部位への手術といったこ とを報告せよとなっております。これについて各病院で改善計画が出るわけです。  最後にIOM(米国医学院)の報告ですが、IOMというシンクタンクが、米国政府 に提言した対策のうち、4つの柱の2つ目が、情報を集めて分析するというものでした 。それを受けて省庁間の連絡会議が考えたこととして、2つの報告制度を提言して、そ れについて実行してまいるということでした。1つは強制です。訴訟からの免責はない 、各州に各医療施設から報告をして分析し匿名にして、中央政府にデータを集めて分析 すると。この議論の中で明確になってきたのは、どんなものを報告すべきかを明確に定 義しなければならないということです。ということについては、8頁の資料3に具体的 にあります。  これまでも21州で、医務報告制度はありましたが、実はあまりうまくいっていません 。これまでもほとんど報告はなかったそうです。その理由は、何のために使うのか、あ るいは何を報告するのか、訴えからの恐怖といったことです。しかし今回はそれを乗り 越えてつくろうということです。ただ、アメリカでも刑事責任については免責がありま せんので、特にアクシデントについては、いろいろな議論があるところだと伺っており ます。  ニアミスについては、もう制度を作って学んでいこうというように、話が進んでいる ようです。こちらのほうは裁判からの免責が必須になってきますので、去年5月に法案 が出ました。議会で議論をしたそうですが、訴訟担当の弁護士からは強い反対があって 流れて、今年もう一度法案が出るという話になっているようです。 ○森座長  どうもありがとうございました。それでは予定の時間になりました。事務局から次の 予定などについて、何かアナウンスメントはありますか。 ○新木室長  次回の日程は、2月21日の10時半から12時半の間で、厚生労働省の9階、厚生 労働省省議室で開催させていただければと思っております。テーマは報告書の骨子案に ついて、ご検討いただければと思っております。詳細については、後日ご連絡いたしま す。 ○森座長  それでは起草委員の方々、またよろしくお願いいたします。本日はこれで終わりにい たします。どうもありがとうございました。 (照会先) 医政局総務課医療安全推進室企画指導係 電話 03-5253-1111(内線2579)