02/01/11 第8回医療安全対策検討会議議事録            第8回医療安全対策検討会議       日時 平成14年1月11日(金)10:30〜       場所 経済産業省別館944会議室 ○森座長  新年、明けましておめでとうございます。本年も、どうぞよろしくお願いいたします 。定刻になりましたので、医療安全対策検討会議を開きたいと存じます。  医療の世界でも、相変わらずいろいろなことが起こって、悪い意味で新聞の紙面を賑 わせているのは残念なことです。しかし、この検討会議は、それなりにしっかり進めて まいりたいと存じます。皆様、お忙しい中、また、遠方からもお見えくださって、こう して多数ご出席いただき、ありがとうございました。心からお礼を申し上げます。  私が頂戴しております事務局からの連絡では、18名の委員の方々がご出席くださいま す。残念ながら岡谷委員、川村委員、それから桜井委員が、やむを得ないご用でご欠席 です。中村委員はちょっと飛行機の便が遅れているようで、間もなくご到着になると思 います。また、お一方が途中で退席するという予告も頂戴しております。 本日の議事は、お配りしてある資料にございますように第1が「医療安全に資する第三 者的な機関について」、第2が、「医療安全の推進に関連する法律的側面について」で 、この2つが主な議題です。  それから、後ほど申し上げますが、本日のこの議題をもって検討会議発足当初の検討 予定項目が、大体一通り終わると思われますので、今後の進め方などについて本日の会 議の比較的最後のほうでご相談したいと予定しております。以上が今日の議事の概要で す。大体、そんな把握で宜しいですか。  今日ここではお二方に主として話題提供していただくことになっております。お一人 は児玉委員でいらっしゃいます。児玉委員は、弁護士と承っておりますが、実は医師で もいらっしゃる貴重な、法律関係者の一人であります。それから、長谷川委員から若干 の材料を提供していただき、ディスカッションの中でいろいろとご意見を頂戴したいと 考えております。長谷川先生はご承知のように国立医療病院管理研究所の部長でいらっ しゃいますので、法的側面や海外の事情等について造詣の深い方でおられます。どうぞ よろしくお願いいたします。  それから事務局の示唆がございました。行政という箇所でいわゆる第三者的な機関の 役割を果たしている1例として、東京都の患者相談窓口という存在、あるいはその活動 についてお話を伺いたいと考え、東京都衛生局医療計画部医務指導課という、難しい部 署の井元課長にお越しいただいております。  もし何か事前にご注意いただくことでもあればお伺いいたしますが、大体こういう概 略で議事に入ってよろしければ進めたいと思います。  それではまず、事務局から、資料の確認をしていただけますか。 ○新木室長  それでは、お手元の資料の確認をさせていただきます。本日お配りしております資料 は、別綴じになっておりますが議事次第、そのあと資料としまして資料1から8、及び 参考資料1、2がございます。  資料1につきましては、事務局で整理いたしました、医療安全に資する第三者的な機 関に関する各界からの提言です。資料2は、児玉委員からご提出いただいた資料です。 資料3は、参考人の井元さんからご提出いただいた資料であります。また、資料4は、 先ほど座長からお話がございました諸外国の状況につきまして長谷川委員にご提出いた だいた資料です。資料5は、今後の検討会議のスケジュール案、資料6が医療安全対策 検討会議におけるこれまでの検討状況、資料7が医療安全対策検討会議におけるこれま での意見等について、事務局で概要をまとめたものです。資料8は、再び長谷川委員に ご提出いただきました医療安全政策の国際比較です。  参考資料のほうです。参考資料の1が平成14年度の予算案、政府原案が決まりました 。この中で、後ほどご覧いただければと思いますのは予算の大幅な増額等が図られまし たので、参考までにご報告をさせていただきます。参考資料2は、第5回の議事概要で す。以上です。 ○森座長  どうもありがとうございました。そういたしますと、通し番号の付いております資料 は8まで、それから参考資料が2つ、全部で10点の冊子なり印刷物がお手元に届いてお りいますでしょうか。もし欠落があればおっしゃってください。  それでは先ほど申し上げましたような2つの論点について、これから本日の議事を進 めてまいりたいと存じます。まず、医療安全に関する第三者的な機関。この言葉はこの 検討会でも、委員の何名かの方々がご説明の中で、あるいはご意見の中で口にされまし た。おそらく、「第三者的機関」と言われましてもその内容についてはお考えそれぞれ 随分違うのではないかと感じております。今日は、そういう点も含めて、ご遠慮なくご 発言いただきたいと思います。ただ、まずその前に、現在までに各界いろいろな方面か ら提言されたり、すでに実存しているもの、活動しているもの、そういう実例について 事務局で一応の整理をしてくれたようですから、その資料をご説明願いましょう。それ に引き続いて、先ほどご紹介した児玉委員と井元課長のお二方からご説明をいただくこ とにします。 ○新木室長  それでは、事務局より、資料1に基づきましてご説明致します。資料1、「医療安全 に資する第三者的な機関に関する各界からの提言(事務局整理)」をご覧ください。こ れは検討会議における発言や国内文献を基に、本会議の検討課題である医療安全対策の 観点から、それに資する第三者的な機関として提言がなされているものについて、その 有する機能を事務局のほうでまとめたものです。大きく分けまして1と2がございます 。順次、ご説明させていただきます。1は、主として患者・家族への対応する機能です 。これは大きく3つに分かれます。  (1)が医療機関の選択に必要な情報を提供する機能です。「患者の病状に対する適 切な医療機関を選択することは、患者の早期回復と医療事故の予防にもつながるため、 そのために必要な情報を集積し、患者等に提供を行う。また、医療事故防止のための体 性が整備されている医療機関の情報を提供することで、医療機関の医療安全への取組に 対するインセンティブを与える」というものです。参考としまして既に存在している類 似の機能あるいは類似の施策について、参考例として以下にまとめております。これに つきましては、都道府県や、医療関係団体等が設置しています。  (2)としまして、医療内容に関する情報提供及び相談です。「医療機関から患者に 提供される医療内容に関する情報の提供や相談を行うことにより、患者自身による医療 内容の評価が可能となり、医療事故の予防につながる」というものです。これも参考と しまして、自治体、医療関係団体の窓口等を載せております。  (3)としまして、医療内容に関する調査であります。「患者が持つ医療内容への疑 問や不満(医療事故やその疑いも含む)に対し、医療機関等の調査を行い、その原因究 明を行うことにより医療内容の評価が可能となり、医療事故の予防にもつながる」とい うものです。事案により、一部こういうような機能を果たしております。  一方、もう一つは、主として医療機関等へ対応を行う機能です。  (1)は、医療事故防止に必要な情報の提供です。「医療機関等からインシデント/ アクシデントレポートを収集」、その場合、任意と強制がありますが、そういうものを 行い、「その集計・分析を行うとともに、それらの結果を医療機関等へ提供することに より同様の医療事故の予防を図る」というものです。参考例としましては、昨年、私ど もで始めました医療安全対策ネットワーク整備事業、また、関係団体でお始めになって いますいろいろなインシデント収集事業等があろうかと思っております。  (2)は、医療技術向上に必要な情報の提供です。「医療技術の未熟等に起因する事 故を防止するため、医療機関に対して医療技術の安全や質の向上に必要な情報の提供を 行う」というものです。学会、それから、厚生労働省によるEBMのデータ収集等があ ろうかと思っております。  (3)としまして、医療機能の評価に関するもの、「医療機関の安全に関する取組や 医療の質の評価等を行う」ものがあります。医療機能評価機構による病院評価を初めと して、いくつかのものが存在している、と考えております。  (4)は、医療機関、医療従事者への行政処分です。これは「医療事故に関する調査 を行い、事故の再発防止のために必要な場合には処分や勧告を行う」というものでして 、医療監視等が部分的に果たしているものです。  (5)、医薬品・医療用具等の改善のための情報の提供です。「一部の医療機関から の指摘等に基づく対応によって、別の医療機関において新たな問題を生じさせることも あり得るため、第三者機関で客観的な対応を検討する。医薬品の類似性等について客観 的判断を行い、その結果を企業に伝えるなど必要な活動を行うことにより、医薬品等に 起因する事故の予防を図る」というものです。参考例としまして、個別企業におけるチ ェックがあります。企業の類似性のチェックは、商標権抵触の観点等から実施している という状況です。  なお、上記のほかに、本検討会議の検討課題であります「医療安全対策」には直接は 該当しませんが、医療事故が発生したあとの事後処理対策として提言がなされているも のとしまして、医療事故の被害者に対する救済という機能が指摘されております。これ は医療事故が発生した後、簡易かつ迅速に医療機関等の過失の有無を分析・判断し、被 害者に対し補償等を行う機能です。これにつきましては現在、訴訟期間の短縮に向け、 司法において鑑定人の早期選出のための制度や専門部署の設置等、さまざまな取組が行 われているところです。  また、類似の参考事例としましては医薬品の副作用の救済の話、また、民間の会社、 医療関係団体等において医療過誤に伴う補償がなされているという状況です。以上、簡 単ですが整理案です。 ○森座長  ありがとうございました。もし医療安全という事柄をある程度狭く取れば、医療情報 のすべてが医療の安全に繋がるとは思いませんし、また、苦情処理のすべてが医療安全 の一環とも考えられませんが、この資料に関する限りは、比較的広い意味にお取りいた だいてご覧下さればと思います。いま、この種の議論の中に入り込んでいただくと止め どもなく広がる恐れがございますので、質疑応答的なことはお二方のお話を伺ったあと にしたいと思います。しかし、もしこの資料そのものについてどうしてもいま聞いてお きたいというご質問でもあれば承ります。よろしいですか。  それでは、先ほど申し上げましたようにお二方からお話を伺って、そのあとで総合的 な討論に移りましょう。まず、児玉委員からお願いします。 ○児玉委員  それでは、私のほうからお話をさせていただきます。                 (スライド開始) ☆スライド1  「医療安全対策に関連する法律的な側面」ということでお話をさせていただきます。 そもそも時間も限られておりますし、また、医療安全対策に関連する法律的側面は、非 常に多岐にわたります。このすべてをお話するのは限られた時間では到底不可能ですの で、今日は、資料の中では最近トピックになっている論点をサプリメントの形でいくつ か付けさせていただいておりますが、お話いたしますのは、配付いたしました資料の1 頁と2頁、スライド12枚分の所に留めさせていただきます。 ☆スライド2  私は、医療事故と医事紛争の最中で仕事をさせていただいております。その中で第三 者機関が必要だ、あるいは少なくともわが国の現行制度の中で第三者機関として機能を 強化していくべき分野というものが2つあると思っております。それは、ADR、Alter native Dispute Resolutionという概念が1つ。もう1つはOPA、Office of Patient Advocacy、これは「患者相談窓口」と訳していただいても結構だろうかと思いますし、 病院内の院内患者権利擁護機関というような固い言い方もあり得るかと思います。今日 は、紛争解決、あるいは事故予防に関連しても、わが国においていかにADRの機能と OPAの機能を強化していくか、ということを話したいと思います。 ☆スライド3   この第三者機関ということだけに限りましても、先ほど事務局から配付されました資 料1を見ていただいてもわかりますとおり、さまざまなニュアンス、内容のものがござ います。ただ、まず一つは事故予防対策という目的に資する機関というものがあると思 います。主として事故情報をいかに収集し、分析し、その対策を立て、実行していくか 。これをさらに大きく2つに分けていきますと、一つは最終的には対策の段階で国の政 策に収斂していくべきもの、例えば標準化、規格化、また規制、健康保険の制度にどう つなげていくかなどということに関わるものです。もう一つは情報開示と医療サービス 市場での市場基盤に収斂していくもの、この2つの大きな流れがあろうかと思います。  それから、予防以外の部分でこの第三者機関がどういうふうに機能しているか。多く の場合、事故発生後の対応というものはこの第三者機関の中に何らかの形で盛り込まれ た機能ではあります。また昨今、医療事故、医事紛争が多発し、ますます増加している 中で事故発生後の対応に対する医療機関側・患者さん側のニーズも非常に強くなってき ているように思われます。  この事故発生後の対応について私は、大きく分けて2つの制度の関連があると思いま す。  一つは、医療制度そのものが事故発生後どう対応するか。現に、例えば患者さんが1 人亡くなったという事故が生じたときに医療機関の中でどういうシステムが取り出され 、動きだすか、また、その機関はどこに何を報告していくのか、そしてその報告内容に ついてどのような、患者さんのプライバシーと公的な医療事故予防、あるいは事故発生 後の対応の目的に照らしてどのようなシステムが働かなくてはいけないか。それについ て例えば都道府県や国は、どういうふうに対応していくかという医療制度としての流れ がまだ未整備な部分が多々あると思います。  それから司法制度の問題、これは刑事司法、民事司法の双方がございます。最近、例 えばレポートは証拠になるかならないか、あるいは刑事免責をどうするかというような 司法制度に関わる議論に大変医療界の興味が向いているように思います。もちろん司法 界の側も、医事紛争という大変やっかいな紛争を解決していくために、医療界のノウハ ウを何とか吸収したいという問題意識を大変強く持っております。例えば昨今、最高裁 判所も、本検討会議の座長の森先生を初めとした非常に優れた有識者の方を集めた検討 会議を最高裁判所のほうに設置しておりますし、民事局のほうでも、私どものような医 療訴訟を扱っております弁護士を集めて私的な懇談会を行っている、そういったような 取組が行われているところであります。  ただ、こちらでの検討会議の課題として司法制度そのものに関わる部分を取り扱うの が妥当かどうか、ということについては若干、私は、疑義があるのではないかと思いま す。むしろ医療制度として何をしていくべきなのかということが中心の議論になるべき ではないかと考えております。  もう1つ問題点として常に医療事故に関連して出てくることは、法的な責任があるの かないのか、これは事故と言えるのか事故と言えないのか、あるいは単なる紛争なのか 紛争でないのか、そういった判断について常に広大なグレーゾーンが広がっております 。白とも黒ともつけがたいグレーゾーンが非常に広く広がる、というのが医療事故の特 徴であろうかと思います。 ☆スライド4  ADRと言いますのは、何らかの事故が起こって損害賠償請求が行われる場合、最終 的には民事裁判の判決によって解決されるというのが一般的なあり方なのですが、その 途中のプロセスで訴訟外の和解、紛議調停、あるいは調停、仲裁、アメリカなどではmed iatorと申しまして、間を取り持つ人が両方から費用をいただいてその機能をするとい うような場合があります。それからレンタルジャッジと言いますが、訴訟手続きの裁判 官ではなくて、双方が費用を出して裁判官経験者を借りてきて、話合いの媒介者になっ ていただくというようなやり方も、さまざまな裁判で激突する以外の紛争の解決手段と して検討されています。これを総称してADR、Alternative Dispute Resolutionと呼 んでおります。 ☆スライド5  さて、一般的にこういう紛争、損害賠償というのは3つの制度が相互に関連しながら 作動しております。1つは医療サービス市場で、この黄色の線がそのキャッシュフロー を表しております。患者さんから病院に対して医療費が支払われます。そして、もう1 つの制度である、例えば賠償責任保険や日本医師会の医師賠償責任制度のような賠償フ ァンドのほうに、医療費の一部が保険料として支払われます。裁判所で賠償金の支払い が命じられたら、賠償ファンドから、その賠償金の補填が行われる。つまり患者さんか ら病院に支払われた医療費の一部が保険料として賠償保険ファンドに蓄積され、そして 賠償金の補填として病院に支払われ、病院からその原告、患者さんの側に賠償金として 支払われる。このキャッシュフローが維持されている限り、損害賠償制度自体は必ず機 能していきます。  ところが、医療サービス市場にかかっている行政規制と賠償ファンドにかかっている 行政規制、それから裁判所等の判断機関、この左上の裁判所の部分にADRが置き換え られていくわけなのですが、ここにかかっている法的規制、これがバラバラに作動しま して、保険料支払いの医療費に対する価格転換がうまくいかなくなりますと、キャッシ ュフローが途絶して破綻が起こります。現在、日本の状況というのは、この破綻が起こ りつつある、あるいは概ね起こり始めたと言ってもいい、非常に厳しい状況にあるわけ です。  もう1点ご指摘させていただきたいのは、ADRというのは強制執行の機能を持ちま せん。ご存じのとおり、裁判所は損害賠償を命じる場合には、強制執行ができます。と ころが、この裁判所の部分を、裁判所に置き換えたADRで解決しようとしますと、賠 償ファンドをめぐるキャッシュフローがきちんと機能していないかぎり、ADRもまた 経済的な裏付けを失うと言わざるを得ないわけです。 ☆スライド6  賠償ファンドについてのシミュレーションを行ってみます。ハーバードスタディー等 のLook back studyでは大体、カルテ等を検討しまして患者さんが亡くなられた事案を レビューしてみますと、死亡につながるmedical errorが見つかるのは1%ぐらいであ ると言われています。  ところで、昨今の統計を大体ならして申し上げますと、1年間に病院、医療機関とい う所で亡くなられる患者さんの総数は72万人、このうちの1%に何らかのmedical erro rがあったとします。死亡事案のごくごく標準的な損害賠償額5,000万円を皆さんにお支 払いしたとしますと、総額3,600億円の費用が必要になります。  もう1つの例です。脳性麻痺という結果が生じた場合、患者さんもまたご家族も大変 なご苦労を負われる、お気の毒だ、ということで医療機関は常に責任を負うといたしま すと、年間120万人のお子さんが産まれていますが、昨今、大体、脳性麻痺のお子さん が生まれるのは0.17〜0.22%ぐらいと言われております。遺失利益、介護費用、すべて 含みまして2億円程度が昨今の請求額の標準的な額なのですが、これを掛けますと、そ の脳性麻痺の結果に対して医療機関がその責任を全部負うとした場合の費用、コストが 大体4,800億円ぐらいかかります。  ところで、標準的な分娩費用が1人当たり40万円といたしますと、120万人のお子さ んの分娩で産婦人科が売り上げられる総売上げが年間、4,800億円程度と推計できます 。つまり、脳性麻痺の結果に対して医療機関がすべて責任を負うという前提にしますと 、分娩に関する費用はすべて倍に値上げするか、それとも医療機関がすべて破綻してし まうか、どちらかしかないという非常に厳しい状態になるわけです。  シミュレーションの上ではこれほど大きくなる損害賠償ファンドの額に対して、現状 ではどれぐらいの賠償ファンドを医療界は持っているかと申しますと、医師会の特別会 計が64億円、これは年間の総額が64億円です。それから、民間の保険会社の賠償ファン ドをすべて合わせても200億円というのが現状です。例えば交通事故と同じような迅速 処理をやろうとしたときに、3兆円近いファンドが必要になろうかと思いますが、それ に比べると現在、100分の1程度のファンドで処理しているというのが実情です。 ☆スライド7  中立、公正に過失の有無を認定するという制度がすべての制度ではございません。ご 存じのとおり自動車事故のように加害者側の法的責任を大きくする特別法を作りまして 、加害者側の賠償責任ファンドを誘導して大きな支払基金、年間ファンドベースで4兆5 ,000億円、支払いベースで3兆円程度の基金を形成して迅速に処理していくという法制 度もございます。  医療でこれに類似した法制度が、医薬品機構のように過失の有無を問わないで事故が 発生したらただちに、額は限られておりますが何らかの補償をお支払いするというもの です。  逆に、火災保険のように加害者側の法的責任を減少させてめったに損害賠償請求がで きないような特別法を制定した上で、被害者側の賠償責任ファンドを誘導して支払基金 を大きくしていく。こういう法的な技術を用いて紛争を迅速に処理する、というやり方 もあります。  これに類似したシステムに、スウェーデンで行われているスウェーデン型住民ファン ドがあります。例えば内視鏡をやって合併症が生じてしまったら、それはもう一定の確 率で不可避的に生じるものであるから、住民が集めたファンドで一定の補償金は補填す ると、そういうような制度です。 ☆スライド8  いずれにしても、医事紛争というのは損害賠償というお金の話を含みます。紛争処理 機関が純粋な医療事故予防、調査、研究を超えて紛争処理に踏み込もうとするのであれ ば、ここでご紹介するのは4つの"F"のファクターがございませんとなかなかうまく機 能いたしません。  まず、人的、物的に裁判所以上に機能し、強制力を持つということが必要です。  また当然のことながら、裁判の結果がどうなるかということがあらかじめ予見可能で あれば、裁判外の紛争処理機関というのは機能しやすい、ということがあります。つま り、裁判になったときどうなるかわからないというのであれば、裁判外での紛争処理と いうのはなかなか機能しない。そういう意味で、現在行われております医療訴訟の改革 の努力に基づいて、良い判断基準が提携されるシステムを作っていかないかぎり、なか なかADRがうまく機能しないというのが実態であろうかと思います。  それから最後に、第三者紛争処理機関が機能するためにはファンドが必要です。賠償 ファンドを現状よりも飛躍的に増強するとするならば、それが医療機関側のファンド、 つまり医療費の中から賠償のためにお金が割かれるべきであるのか、あるいは患者側の ファンドとして新たに何らかのファンドが設立されるべきなのか、あるいは公的資金を 別途注入すべきなのか、こういうお金の話を抜きにして紛争処理というのは語れなませ ん。  ADRで裁判に至らないで解決していくということが理想ではありますが、そのため にまだまだ検討すべき課題が多々ある、ということをご紹介させていただきました。 ☆スライド9  次に、日米の医療機関を比較した場合に、その機能で差があると思われるのが医療機 関内部の患者権利擁護、Patient Advocacyのシステムです。アメリカの多くの医療機関 では、患者の意思を医療に反映させ、また、患者の側から問題を申し立てる機会を与え 、医療機関内部での自浄作用を促進するという役割を担った、OPA(Patient Advocac y OfficeあるいはOffice of Patient Advocacy)というものが設置されております。  もちろんアクシデントレポート、インシデントレポート等のレポート制度で現場から 医療機関のマネジメントのほうに報告がただちに上がるのが理想ではありますが、必ず しもその報告が上がる場合ばかりではありません。こういう場合に患者さんが申立てを 行い、その申立てを医療機関が真摯に受け止めて調査を行い、自浄作用を行っていく。 これは、次善の策としてきわめて重要な役割を果たすものであると思います。  ところが現状では、このOPAのシステムは事務部門、医事課の方、総務課の方、管 理課の方や、あるいはMSW等のコメディカルの方が細々と続けておられるというのが 実情で、もっと本格的なOPAをさまざまな医療機関に設立していく必要があるのでは ないかと思います。 ☆スライド10  いまお見せしておりますのは、Massachusettes General HospitalのOPA、Office o f Patient Advocacyの設置目的の部分をインターネットからダウンロードしたものです 。患者さんと医療機関の間の掛け橋になるという目的に則って、その医療機関のコンフ ィデンシャリティー(confidentiality)、それから患者さんに対する人間的な尊敬(re spect)、そしてその患者さんの人間の尊厳(dignity)を守っていくという役割を果た すOPAが必要だということを述べております。 ☆スライド11  さらに、ここのOffice of Patient Advocacyというのはいくつかの機能があるのです が、1つは、患者さんの訴えを取り上げて医療機関の中で公式に調査及び捜査を行う機 能を持っている。また、その調査の内容をJCHO等の病院外の評価機関に伝えていく という役割も持っております。 ☆スライド12  医師、医療機関と患者さんの間に立つ第三者機関を、これからますます充実させてい かなくてはいけないのは当然のことではありますが、まず、出発点として、医療機関内 部自体に患者さんの権利擁護を担うOPAを設立し、必要に応じて今後、ADRの充実 をその状況に合わせて、またはその可能な範囲で充実していく、ということが必要なの ではないかということを思います。               (スライド終了)  以上です。 ○森座長  ありがとうございました。大変有益なお話を伺いました。これからあと、いろいろ質 疑応答的な事柄があると思いますので、その場でまた十分にご発言いただきたいと思い ます。  ちょっと先を急ぐようで恐縮でありますが、先ほど申しましたように、まずお二方の お話を伺ってということで、井元さんにお願いします。 ○井元参考人   いまご紹介にあずかりました東京都衛生局医療計画部医務指導課長の井元と申します 。どうぞ、よろしくお願いします。本日は、お招きいただきましてありがとうございま す。  私どもで5月から始めた「患者の声相談窓口」のレポート、実はこれは東京都のホー ムページのほうに公開していますが、それを印刷したものです。  医務指導課という所は病院の許認可、医療法人の認可等、そういうところをやってい る所です。そこで開設を検討した当初は、取締り、あるいは医療Gメン的な、何か患者 さんの声を聞いてすぐに医療監視に結びつける、そういうコンセプトも一部あったので すが、それでは対立を煽るだけだということで、先ほども掛け橋というお話がございま したが、医療機関と患者の相互理解を促進すると、よりよい関係を構築する、そういう ことを目指す窓口にしようということで昨年5月7日からスタートしました。昨日まで に相談者の数は、7,300を超えているところです。  資料3の1枚目、これは昨年10月31日までの集計です。男女比を見ていただきますと 、わりと男性が多い。こういうのだとわりと女性が多いものですが、男性も相談に見え ています。あと、圧倒的に電話が多い。来庁も5%ぐらいいらっしゃいますが、電話の 相談が多いということがございます。  2頁。ここには代表的な相談の区分が書いてございます。具体的には、12頁以降にそ の相談の中身を事例として項目ごとに挙げてございますので、後ほど、ご参考になさっ てください。  やはり健康相談、あるいは病気に関する相談が多く、2番目にはそのいろいろなトラ ブルがございます。3番目が職員の態度や対応に関すること、4番目は医療法というこ とで、無資格者が診療をしているのではないかとか、医療廃棄物がそこら辺に転がって いる等、さまざまな問題がここに寄せられています。  3頁。私どもに相談をして大体72%ぐらいがアドバイス、あるいは私どものコメント で対応を終了しています。ほかの適当な機関を紹介したのが約2割ということです。そ れから、いまのお話を医療機関に伝えていいですかと、相談者のほうに必ず聞いていま す。大抵の場合はやめてくれ、明日から行けなくなるということなのですが、一部、5 %ぐらいの方は、是非伝えてくださいということです。  この337件の中で私どもが医療機関から直接お叱りを受けたのは、2件だけです。あ とは真摯に受け止めていただいて、患者さんとお話合いを持っていただいたというのが ほとんどです。  4頁、相談者の年齢別構成です。わりと高齢者の方に偏るかなと思いましたが、開け てみますと、50歳代を中心にして幅広い年齢層からご相談をいただいております。  5頁、これは相談者の住所別データです。一応、都内ということになっているのです が、東京都以外からも1割程度相談があります。中にはアメリカから国際電話という方 もいらっしゃいますし、北海道から九州までいま、いろいろな所から電話がかかってき ております。  6頁、ここの窓口をどうやって知ったかについてですが、区市町村で何か相談に行っ てそこで解決できないとうちが紹介されることが最も多いです。その他に、開設当時テ レビでも放送されましたし、各誌、新聞にも載りました。いまだにその新聞の切り抜き をお持ちになっていて、それで電話をかけてくる方もいらっしゃいます。あと、保健所 からの紹介が1割ほどあるということです。  7頁、ご相談の中に出てくる相談の舞台です。やはり民間病院がいちばん多いのです が、国公立病院、あるいは都立病院も結構数としては上がっております。  8頁。これは病院の住所地別です。相談を受けるときには、最初に都民ですかとか、 東京の病院ですかとか、そういうことはお聞きしません。最後のほうでお聞きしますの で、ああ、これは大阪の話だったのですか、というようなことも最後にわかるというこ とです。  9頁目、これは診療科別のデータです。例えば内科は循環器内科、消化器内科、とい ろいろありますが内科でまとめてありますので、そこがいちばん多い。精神科につきま しては、これはリピーター外来なものですからなかなか1回では納得しない方が多いの で、件数としては増えてしまうということです。  10頁、私どもの相談で不十分であると、関係機関をご紹介しています。やはり訴訟を 考えているなどという方には、医療問題を扱っている都内のNGO、例えば東京COML等 をご紹介しています。あと、病院の場所や近所の病院を知りたいという内容には、東京 保健医療情報センター「ひまわり」という所を紹介しています。  診療所関係は、保健所が所轄をしておりますので、保健所のほうにお話を回すという ことです。  それから診療費です。どうも過剰診療ではないかなどの相談につきましては社会保険 事務局、あるいは東京都の福祉局のほうにお話をお回しするということです。  従来の私ども行政の対応というのはわりと、「じゃあよろしく」と言ってガチャンと 切ってしまうのですが、それをまず、「どうしますか」と聞きます。「私どもで、そこ の関係機関にお話を聞いて、そのままご報告しましょうか」と。「いや、電話番号を教 えてくれればいいよ」という方にはご紹介する先の電話番号をお教えして、そちらに掛 けてもらう。あるいは、都庁の中であれば内線で回すというような対応を取っておりま す。  11頁、どれぐらいの皆さんが私どもの「窓口」の対応に納得していただいているかと いうことで、当初からこれは、集計を取っていました。  大体、納得していただけた方が8割です。概ね納得した、これは内容は不満だけれど も「窓口」の限界、あるいは立場というのはよくわかった、という方が大体14%ぐらい 。あまり納得していないというのは、これは「窓口」の対応に不満だし、非常に心残り だけれどもしょうがないということです。全く納得していないと、これは非常にすごい です。「馬鹿野郎」「税金泥棒」とそこまで言われます。しかし私どもが当初思ってい たよりは、お話を聞いてさしあげるということで感動される方も、本当にたくさんいら っしゃいます。  対応する職員は、医師、それから保健婦、薬剤師、レントゲン技師、歯科医師と歯科 衛生士、事務官です。専門性を配慮して、場合によっては応対者を交替してそれで対応 しております。  「お医者さんにこんなに長くお話を聞いてもらったことはない」と言って涙を流され て帰る方もいらっしゃいますし、本当にそういう場面に遭うと非常にやっていてよかっ たなと思います。やはり、「馬鹿野郎」とか「税金泥棒」と言われるとガックリきます が、そういう対応です。従来の窓口だとここで大体聞きっ放しで終わってしまう。集計 までやって終わる。  今回の私どもの「窓口」の特徴というのは、これは石原知事が始めている東京発医療 改革にある、患者中心の医療ということの最初の具体的事業です。この「窓口」の実績 を受けまして、昨年11月29日に「医療のよりよい関係を考える会」というものを設置し ました。この先のいろいろな集まったお話の必要なものはどんどん政策化していこうと いうような会です。医療を提供する側、受ける側、それから学識経験者が集まりまして 今後の東京の医療、あるいは東京から見た日本の医療を考えていこうという動きに、こ の「窓口」が繋がったということです。  雑駁ですが十分ということでしたので、以上で終わらせていただきます。どうもあり がとうございました。 ○森座長  ありがとうございました。現実に行われている活動に関して、非常に示唆に富むいろ いろなデータをお示しいただき、ありがとうございました。  それでは、この辺りで、広い意味の質疑応答に入ってよろしいですか。先ほどもちょ っと申し上げましたように、長谷川委員からは同じく貴重な資料をご提出いただいてお ります。一言だけ、どんな資料かということをおっしゃっていただけますか。 ○長谷川委員  現在、約10数カ国を対象に世界の安全対策の研究を行っております。第三者機関に関 連するリストを作るように依頼がございましたので、作りましたのがお手元の資料4で す。  同時に世界の医療安全対策の比較についても、資料8のほうで書いております。資料 8のほうは、アングロサクソン3か国、アメリカ、イギリス、オーストラリアを中心に 書いております。今日のお話は主に苦情処理という問題点が起こってからのことが多い ですが、いずれの国も、起こってからのリスクをマネージメントするというのではなく て、積極的に予防的な安全対策をしていこうという傾向が見られています。  資料4に戻ります。一応1頁は第三者機関につきまして各国の現状、それから2頁に 関しましては、そういう機関がどういう機能や役割を持っているかという位置づけを概 念的に示しました。3頁目には、Patient Safety Foundationに似たような名前の機関 がちょうどアメリカ、イギリス、オーストラリアとございましたので、実は設立主体等 が違うのですが、機能をまとめてみました。  最後に4頁、アメリカでは1997年にアメリカ医師会が作ったNational Patient Founda tionというのがございまして、それについて簡単にまとめております。イギリスの場合 には国営医療を中心にやってきましたし、アメリカですと民間の機関が中心です。オー ストラリアはその中間ぐらいなのですが、やはり制度の特徴によって患者さんに対する 対応とか安全性の対策が違うな、ということを痛感いたしました。  全体的な世界の傾向では、国のほうがはっきり方針を示したりして、いろいろな機関 がお互いに協力をし合って、国民的な安全文化を作っていこうとしています。以上です 。 ○森座長  ありがとうございました。国によってそれぞれ、諸制度も含めた文化が違うから、と いうお考えであろうかと思います。そういう点もわきまえて外国のことを参考にすれば 、と思っております。  それでは、ほぼ1時間の時間を残していただきました。どうか皆様方から何なりと積 極的にご発言いただきたいと思います。 ○小泉委員  ありがとうございます。第三者的機関ということがこの検討項目のテーマに選ばれた ということに関連しましてお話します。  どうもこの第三者的機関という言葉が、言葉だけで一人歩きをしているという印象を 私は強く受けるのです。したがって、当面は第三者機関という言葉は鍵括弧付きで「第 三者的機関」というふうな共通の理解をまず付けてはいかがかということです。  と申しますのは、第三者と言っても、それでは第一者と第二者は何かということにな って、また、はっきりした共通見解は出ていない。先ほどの児玉先生のお話を伺ってい ましても、医療機関の中に提供者側と医療を受ける側があり、その両者の間に立つよう なというご提案がございましたが、医療機関内ということであると、それは果たして第 三者的なのか。  また、2つの医療機関間の調停になると、調停を行う機関はたしかに第三者ですが、 第一者と第二者がまったく異なります。第三者的ということを議論する場合に、第一者 と第二者は医療を提供する側と医療を受ける側ということに限定されるのか、あるいは そうではないのかということです。  それから、機関と言ってもそれは医療機関の外にある、外にある別の機関ということ に限定されるのかどうか。また、患者の安全ということを目的として、医療機関の外に 新しくそのための機関というものを設けるということに意味があるのかどうか。その機 関の性質はどのようなものかというようなことが問題ではないかと思います。  したがってまず、その辺から定義づけた上で議論をなさらないと徒に混乱を引き起こ すということを懸念して発言いたしました。 ○森座長  ありがとうございました。ちょっと、私から発言するのはまずいかもしれませんがお 聞きします。井元先生のご報告を承って、とにかく話を聞いてあげて90%の人が満足し てくれるのであれば、これこそ医師会の出番、お仕事のような気もいたします。現在、 医師会として、そういう窓口的なものはお持ちではないですか。 ○小泉委員  全国の都道府県の医師会は、例外なく、いろいろな形で患者さん方からの、あるいは 医師からの、意見を聞く、希望を聞くという窓口を持っております。苦情処理という表 現を使っている所もあります。ほとんどはその都道府県の医師会のレベルで処理してお ります。また、郡市区医師会と呼ばれるもう一段ローカルな団体が全国で900ほどござ いますが、そこでも独自にそれは扱っております。そして、さらにそこで解決がつかな い場合に、日本医師会に問題が持ってこられるというのが順序です。 ○森座長  ありがとうございました。たしかに第三者機関という言葉はやや難しいし、それの意 味するところ、内容も各人まちまちのようですから、「いわゆる」ぐらいを付けたほう がいいかもしれません。どなたでもどうぞ。 ○堺委員  いわゆる第三者機関の導入を行う、いままさにそういう検討が行われているわけです が、私は、この機会にあるご配慮を頂戴したいという要望を持っておりまして、もしで きましたら児玉先生からもご意見を頂戴したいと思っております。  先ほど児玉先生が、第三者機関について医療制度と司法制度の2つの切り口があるが 、しかしやはり医療制度のほうから導入していくべきであろうと、OPAのようなもの を例に挙げて述べられました。私も、実にそうだろうと思っております。いろいろな機 関でいろいろな国から、民間までいろいろなレベルでいろいろな提言がいま行われてお りまして、いろいろな取決めもいろいろなレベルで行われております。  1つ、直近で例を挙げさせていただきます。新聞報道ですので真疑のほどはわかりま せんが、国立病院でアクシデントレポートを全面的に情報公開するというような報道を 一昨日、拝見したように思っております。  例えばこういう場合ですと、その医療制度でなくて司法制度、証拠保全等という問題 に関わってくるかと思います。やはり良い第三者機関制度がなるべく混乱なく育ってほ しいと願いますので、特に国の行政レベルにおかれましては、これから制度を運用され るときのご調整を是非お願いしたいと考えております。  もし、これについて児玉先生からご意見を伺えましたらと思います。よろしくお願い いたします。 ○森座長  ありがとうございました。もしよろしければ児玉先生にご発言いただくと同時に、事 務局のほうでも何か解説することがあったら追加してください。その必要はありません か。 ○児玉委員  いわゆる第三者機関には、本当に多岐な内容が含まれております。今日お話した中で 、私の率直な本音を言いますと、いわゆる最近増えております医療訴訟、医事紛争の解 決のための第三者機関を作るというような声も民間の中からいろいろ上がってきてはい るわけですが、これを正面から作るということになりますと、これはまず財政が問題に なるだろうというふうに私は思っております。おそらく多くの先生方が想像しておられ る、あるいは民間でそういうことを主張しておられる方が想像もつかないような巨額な 資金がなければ、おそらく機能しないだろうということを率直に申し上げたかったわけ です。  その一方、OPAのような患者さんの声を聞こうという積極的な窓口を作り、それが 医療のあり方につながっていき、第三者的な評価につながっていくという流れであれば 、これは受け入れられる余地、あるいは機能する余地が大きく残っているのではないか 。そのような気持を込めて今日のお話をさせていただいたわけなのです。少し厳しい表 現になりますが、医療機関の中で、正直者は馬鹿を見ているのではないかと、そういう 雰囲気がないではありません。一生懸命レポートを出す。それが開示される。そして、 病院も叩かれ、本人も叩かれ、非常に厳しい状況になる。医療の安全のために何が起こ っているかを語ろうとしない人たちは、叩かれずに済んでいるのではないか。あるいは 、実際に事故が起こって、レポートさえ上がってこない事例があっても、それに対して 積極的に調査委員会を設けて、一生懸命事例を究明する。究明してお話すると、また叩 かれる、何らかの処分を受ける。いまようやく患者さんの視点に立ってより良い医療を 作ろうという動きが起こっているところへ、冷水を浴びせやしないかという危惧があり ます。  ただ、1点だけ、いちばん最後の資料2の6頁の右上ですが、インシデント・レポー トとかアクシデント・レポートとか、事故に関連する事実を報告する制度が、やっとさ まざまな医療機関で機能し始めております。この場合、いわゆるインシデント・レポー トは、事故が起こらなかったときのヒヤリハット報告ですので、民事であれ、刑事であ れ、司法のシステムは作動しないはずです。そういう意味では、法律的な手続には無関 係な資料だということが言えると思います。  今度、逆にアクシデント・レポート、事故が起こったときの事故報告書に関しては、 本来、事故の中身というのはすべてカルテに記載されているはずです。カルテこそが、 実際にその患者さんに何が起こり、いかなる治療をされたかということの基本資料です 。そういう意味では、カルテをきちんと書くというカルチャー、あるいは制度そのもの を強化していくことは重要であろうかと思います。アクシデント・レポートそのものは 、やはりカルテに比べれば従的な存在なのです。正確なカルテそのものが医療の基盤な のだということを再度確認したいように思います。司法制度の側から見れば、証拠にな るか、ならないかということがさまざまに取り沙汰されるわけですが、医療制度の側か ら見れば、まずカルテをきちんと記載するという基本に立ち戻りたいと、そんなことを 考えております。 ○森座長  どうもありがとうございました。途中で申し訳ありませんが、先ほどmediatorのこと を紹介されましたね。風土・文化は違うにしても、日本でも医療関係の調停委員的なも のをボランティアか何かで、というようなことは、お考えとして全くないことですか。 ○児玉委員  そういう若干の願いも込めて、あえてアメリカで行われているmediatorの制度をスラ イドの中でご紹介させていただいたわけです。医事紛争の多くは、医師と患者の診察室 で極めて限られた時間のコミュニケーションの中で、さまざまな誤解から生まれている ことが間々あります。そして、例えば私どもが事件、紛争を受任した際にも、まず対立 的な立場で患者さんに接するのではなくて、自分たちがmediatorであると思って、患者 さんに何がわからなかったのか、何が不満であったのかということをきちんとお聞きす るというようなことが、極めて大事だと思っております。  弁護士が出なくてはいけないという場面以前に、今日ご紹介があった東京都のような システム、さらにいま森先生がご指摘のようなボランティアが登場するようなシステム など、多数のバッファーが間に入って、医師・患者間の誤解がただちに紛争につながっ てしまわないような、相互理解を進める仕組みは極めて重要だと思います。 ○岩村委員  今日、第三者的な機関、あるいはいわゆる第三者的機関ということでお話を伺いまし たが、先ほど第三者とは何かという論点の指摘もありました。私自身も法律家ですが、 児玉先生と違って理論家なので、実務のことはよくわかりませんが、第三者というふう に言った場合には、ある当事者の間の、先ほどおっしゃった第一者と第二者というか、 当事者間とは違う立場の、その関係から離れた立場の人を普通は第三者というふうに我 々は考えるのだと思うのです。誰が第三者か、あるいは第三者的な機関をどのように設 置するかというのは、どの当事者関係との関係で第三者であるかということによって、 ある程度決まってくるのだろうというふうに思います。  ですから、例えば今日整理いただいた資料1のペーパーで言えば、患者との関係、あ るいは家族との関係というと、ここで問題になるのは、どうしても医療機関との間の関 係ですから、第三者というのは患者でも医療機関でもない第三者というふうに考えられ ると思うのです。  それから、医療機関との間の問題、「主として医療機関等への対応」という部分です が、これはインシデント・アクシデント・レポートの収集等を行うということになりま す。もちろん、医療機関集団でやるという考え方もあると思いますが、それとは違うと ころでやってはどうかという意味での第三者ということで考えているのだと思いますの で、当事者が誰かということと、何をやるかという目的等によって、第三者の性格とい うのは、ある程度おのずから分かれてくるのだろうと思います。  医療機関同士のインシデント・アクシデント・レポートの関係ですが、先ほど児玉先 生のご指摘にもありましたが、そういったものを収集したときに、それをどう使うか、 あるいは使われるかという問題が1つあって、それが第三者性というか、どこを第三者 にするかということの判断にある程度影響するのかと思います。例えば第三者の典型例 に行政というのがあるわけです。例えばインシデント・アクシデント・レポートを行政 が持つと、当然、行政に情報公開、文書公開がかかります。そういう意味で、そういう 形で行政がかかわるのがいいのかどうかというのが1つです。  仮に第三者としても、それでいいのかどうかというのはもう一つ問題になりますし、 行政というのはしばしば医療機関との関係では監督権限を持っていますから、そういう 監督権限を持つ所が第三者として立っていいのかどうかということも、当然考えなけれ ばいけないということになるだろうと思います。そういういろいろなファクターを考慮 して、どこが第三者として適当なのかというのを考える必要があると思います。仮に行 政以外の所が第三者になるとして、その費用を誰が面倒を見るのかというのをもう一つ 考えなければいけないところだろうと思います。  今日、児玉先生のほうから非常に興味深いご発表をいただいて、私も大変勉強させて いただきましたが、ADRとの関係で言えば、特にアメリカの場合は、裁判所にいって しまうと陪審がかかる。そうしますと、懲罰的損害賠償とかいうような、およそ予見可 能でないものがどんと来る可能性がある。それを回避するというのが1つアメリカにお けるADRの役割だと思うのです。しかも手続が非常に簡易で、場合によって非公開で も行えるというようなメリットがあるということで、アメリカの場合ADRが発達した という背景がある。  日本の場合ちょっと条件が違いますが、裁判所の民事調停の中に特別な医事調停を作 るとかというようなことは、考え方としてはあると思います。それ以外にも、例えば医 療機関等が患者団体などと合わせてADRを作るというようなことは考えられると思い ます。  もう一つ、Patient Adovocacyも大変面白いお話だと思いましたが、児玉先生が第三 者機関として位置付けられたのはどうかなとお話を伺っていて思いました。病院内部で あるということになりますと、これもどちらかというと、いわば外に紛争が顕在化する 前に、病院内部でもってある程度解決できるものは解決しましょうというものなのかと いう気がします。第三者という位置付けなのかなというのは、やや疑問があったのです 。  それから、もしこれがある程度病院内で独立して機能することを確保しようとすると 、Patient Adovocacyに携わる人の専門職性というのがある程度確立していて、しかも 病院横断的な労働市場が成立していないと難しいのではないかという気がする。日本の ような雇用市場の中で、職員の病院に対する従属性が高い所で、こういうものを成立さ せる、それから、専門職としてはあまり確立していない所でこれを成立させるというの は、一筋縄ではいかないのではないかという気がいたしました。ただ、非常に参考にな るものであって、日本の中でどうやって取り組むかということを、工夫しながら考えて いくという意味では有益なお話だったのだろうと思いました。 ○山崎委員  何をして第三者というかという議論がいま続いていましたが、それとは別に、何のた めにこういうような機関が必要かということを整理してかかる必要があるのではないか 。私は児玉先生がお話になった紛争処理というような問題と、医療の安全を守るために 何が必要かということを冷静に判断する機関とは、質的に違うのではないかという気が するのです。  両方とも大切なのだろうと思うのです。紛争を処理するための第三者機関ということ になると、いま岩村先生が理論的におっしゃったような、第三者とは何かというような 議論が必要になります。例えば、医療機関と患者さんが置かれている立場を理解し、医 療安全のために、サイエンティフィックな視点も入れつつ冷静に施策に活かせるような ことを考えていく機関。そういう機関の場合には、いま児玉先生と岩村先生がお話にな った、紛争処理のための機関とそれにかかわる第三者ということとは、ちょっとまた違 った意味での第三者というものが選択されるべきだろう。何を目的として何をするため の機関かということを、あらかじめ整理していただかないと、この議論が混乱するので はないか。  紛争ということになりますと、例えば東京都の相談窓口でも、90数パーセントの方が そこで納得される。つまり、患者さんの立場になりますと、何かもやもやして、わけの わからない部分がある。その不安と不満が紛争につながっていくということもあるわけ ですから、これが第三者かどうかという議論は別として、OPAは非常に大きく機能す るシステムになるだろう。  ここから先は個人的な興味なのですが、先ほど井元先生がおっしゃった、ほぼ納得と いうものも含めて、90数パーセントが納得されると。ただ、その中で全く納得しない、 税金泥棒という方が117人おられたと。この理由は何なのだろうというのに、非常に強 い興味を持ったのです。全く納得されない方がなぜ納得されないのかという理由がはっ きりしないということは、ちょっと解決につながらないということにもならないかなと いう興味を持ちました。  今申し上げました最初の所の、視点の整理は是非やっていただく必要があるかと思い ます。 ○森座長  ありがとうございました。いまからもう20年も前でしょうか。日本学術会議で平和に 関する委員会が開かれました。そのときに、どちらかというと話題が紛争処理のほうに 傾貴がちであったところ、1人の委員の方が、「平和という問題と国際間の紛争処理と いう問題は基本的に違うのだ」と一言おっしゃって、みんな非常に、ある意味での、感 銘を受けたことがあります。 ○辻本委員  大阪で相談活動を12年やっています。最近、非常に関東からのご相談が増えておりま すが、90%の納得に疑問を感じます。私たちの経験から言えば、決して納得していらっ しゃらないと思います。いまお話を伺っていて思うことは、対応なさる方たちが専門職 であるということ。これが本当の横並びの自立の支援につながっていないということを 、そのあとのご報告を承って、非常に強く感じるのです。平均時間どれぐらいかけてご 相談に当たっていらっしゃるのかわからないのですが、そんなに簡単に納得できる状況 でない中で、相談電話をかけておられると思います。患者が単に聞いてもらって、愚痴 をこぼせただけということでは納得できないという、そういう意識に変わってきていま す。根拠に基づく情報、そういったことをきちっと提示して、その情報の中身を一緒に 考えてくれる、横に並んでくれている自立の支援者、そういうことをいま非常に国民が 求め始めているのだなということを思うのです。  そういう観点から、児玉委員がおっしゃったOPA、これは病院のサービス部門とし て是非設置していただきたい。そこでは患者の声を聞くとおっしゃっていただいたので すが、やはり聴くに加えて、今度は説明能力、サービス精神、そういったものを強化し ていただくということがOPAでは是非必要です。そのことは、かねてより私もずっと 主張し続けてきました。そういう意味で、納得させようというような「上」からの働き を持った第三者機関では、これからの患者さん、国民は決して納得しない。そのことを1 2年間の中で非常に強く感じさせられてまいりました。  堺委員が「良い第三者機関」というふうにおっしゃったのですが、実はこの12年間の 私どもの活動そのものの評価ということも、かつては過激な患者団体だろうと、特にお 医者さんのグループからは嫌われました。ところが、少しずつ時代の変遷の中で、私ど もが主張してきたことが受け入れられるようになってきた。第三者機関の中において、 何がいちばん必要かというと、バランス感覚。そのバランス感覚が、都の専門家がなさ る相談機関の中に私は本当にあるというふうには思えない。ですから、いわゆる第三者 機関ということの定義と、そこでいったい何の役割を果たすのかというあたりを明確に した上で、患者の自立を支援するさまざまな機関を生んでいく、そういう方向性のお話 合いを私は是非していただきたいなと、思っております。 ○森座長  どうもありがとうございました。先ほどのお話で、どうしても納得しない数パーセン トに興味があるとおっしゃいましたが、私は逆に、90%もの人が簡単に納得してしまっ たというほうにも関心がありまして、求めた情報の中にはあるいは、「自分はいま糖尿 病にかかっているけれども、文京区の中で糖尿病の専門医は誰でしょうか」といった、 そういう程度のものもあるわけですか。 ○井元参考人  相談というのは、「手術したら、お礼はいくら包むんでしょうか」とか、そういう相 談から、命がかかっていて、本当に悩んでいるという相談まで、いろいろな相談があり ます。 岸委員  議論を整理させていただきたい。小泉先生がおっしゃった第三者機関の性格という問 いかけ、もともと第三者機関というのは、医療機関と患者・家族との一者、二者は明ら かに明白でありまして、そうでない者を第三者機関というというのはごく当たり前だと 思うのです。それをあえて小泉先生がおっしゃったのは、つまりはどこのための何をす るための第三者機関なのか、それをはっきりさせてくれと、こういうご指摘だと私は思 うのです。山崎先生もおっしゃったように、何のための第三者機関を我々は作ろうとし ているのか。これまでの議論を聞いていますと、苦情処理的な側面を非常に強調される 方と、そうではなくて、もう少しいわゆる事故再発防止のための第三者機関を考える方 もある。そこの性格付けをはっきりさせてくれというご議論だと思うのです。  ですから、皆さんいろいろお気持はあると思うのですが、この第三者機関なるものは 、当然、医療関係や患者・家族ではない第三者の機関であるということは明らかであり まして、その第三者機関を何を目的とした機関とするのか。例えば医師会の方のお気持 は大体伝わってくるわけですが、あくまでも事故の再発防止のためですと言ったところ で、情報そのものは極めて紛争処理的な、あるいは法的な処理を求める情報が当然集ま ってくるであろうと。それをどうやって仕分けしていただけるのですかと、そういう話 ではないのでしょうか。そうしたら、我々はそういう視点も踏まえつつ、もう少し第三 者機関の性格というものを、いまこの場では議論するべきではないかというふうに考え ているのですが、いかがでしょうか。 ○小泉委員  いま、紛争処理のことを言っているのではないかというか、あるいは皆さんのご意見 がという意見ですが、私はそれも当然含まれますけれども、むしろ患者の安全確保とい いましょうか、発生防止ということに主眼を置いた1つの機関というものが必要である と、そういう趣旨で申し上げました。具体的には、例えばインシデント・レポートと言 われているものが、医療機関の外にある機関を設けて、そこへすべて集めるというよう な、そういうものであって果たしてよいのかというのも1つの論点だと思います。  まず一義的に医療機関の中で、先ほどご指摘のように、第一者と第二者の医療の提供 側と受ける側に対して第三者的なものがあって、患者の安全確保のために専門的な知識 ・技術を持っている人たちがそれに当たる、そういうことも必要である。しかし、医療 機関の内部でなく外に置いて、発生防止のための大局的な対策を立てる、そういう第三 者機関も必要だろうと思います。必ずしも紛争処理に限定する必要はなく、むしろそう でないほうがいいのではないかとさえ思っております。 ○梅田委員  いま岸先生のお話、また冒頭に山崎先生のお話がありました。やはり事故が起こって からではなくて、起こる前の予防をどうするかということも、私は非常に必要ではない かと、このように思います。小泉先生が医師会の立場でお話になりましたので、私も歯 科医師会の立場で申し上げたいと思いますが、皆さんご承知のとおり、昔、「歯の一一 〇番」というのがありました。いま井元参考人からお話いただきましたように、歯科で も相当苦情があります。その苦情は、辻本委員がおっしゃいましたけれども、私どもが 誠心誠意を持ってお話することによって、涙は流しませんでしたけれども、喜んで帰ら れたというのを、私は一時現場に立ち会ったこともありますので、記憶しております。  しかし、やはりどうしても納得できないという方もおります。これは都道府県歯科医 師会ではほとんど顧問弁護士さんがおられますので、そういう方には顧問弁護士さんに お願いするより仕方ないと。誠意を持ってお話しても、私どもは医療機関という立場で お話をしてしまいますので、必要に応じて顧問弁護士さんにお入りいただきまして、解 決をしていただく場合もあるということです。  そういうことで、私どもも相談窓口というのは全部持っておりますが、いま辻本先生 のお話を聞きますと東京の苦情が非常に多くなってきているということで、私も東京の 人間ですので、大変恥ずかしく思っているわけなのです。安全文化の中で、先に何とか 予防ができないものかと、そういうことに力を入れていただく、いわゆる第三者機関も 必要ではないか。ですから、起こってしまってからの第三者機関ではなくて、起こる前 の第三者機関、そういうものを作っていただけるならば、それがいわゆる第三者機関に なるのではないかと、このように思っておりますので、よろしくお願いいたします。 ○黒田委員  各先生方がお話されたのを少し整理する必要があるのかと思いますのは、ほかの業界 に比べて、コミュニケーションが非常に悪い業界が医療業界だと思うのです。患者さん とお医者さんの縦軸のコミュニケーション、それから医療関係の横につながるコミュニ ケーション。その2つのコミュニケーションというものが大変遅れている。それが一般 の社会の中における情報の流れとの間の落差がすごく大きすぎるのだと思うのです。  ですから、井元先生のお話を聞いておりますと、患者さんとお医者さんとの間のコミ ュニケーションの中身は、事前のインフォメーション、治療中のインフォメーション、 治療のあとのインフォメーション、それのつながりをどういう所でどういうふうに処理 していくかということが大変問題だと思うのです。どの程度の「納得」かはわかりませ んが、それをいま95%の方が納得された。いままでそれはなかったわけです。紛争のバ ックグラウンドになっていたそういうことを、いかにコミュニケーションを作っていく ことによって改良できるか。それから、縦のコミュニケーションで出てくるいろいろな インフォメーションは、実は横に大変必要なことなのです。  ですから、この組織のプロポーズを見ていると、横は横で別にインシデント・レポー トかアクシデント・レポートでやろうと思っているのかもしれませんが、そうではなく て縦糸は横につながってこなくてはいけないのです。そういう意味において、第三者機 関という組織は、コミュニケーションの質をいかに良くするかというところで出てくる 解決策であって、組織が先にあるのではないのだと思うのです。そのコミュニケーショ ンなりインフォメーションを良くするときに、いろいろな問題が出てくると思うのです 。先ほどのように、お医者さんからインシデント・レポートを出して、行政の方の所に 出てきたインフォメーションは情報公開しなくてはいけない。児玉先生がおっしゃった みたいに、そんなインフォメーションを出す人はいないのだと思うのです。とするなら ば、そこには第三者機関みたいなものが必要であるのかもしれません。  いままで我々が大変困っているのは、日本の法体系の中に、どうしても責任追求とい うものから逃れられないところがあるからです。それをいかに安全のところにフィード バックするかというところで、大変困っているのです。要するに免責制がとれないとい うこと。そのために、秘匿してしまう。そこがいま日本の中で安全の仕事、方策を動か していく、いちばんのネックになっているのです。それをどういう組織でもって解決を していくかというところに、第三者機関が出てくるのだろうと思うのです。まず、流れ 全体のシステムをどうインクルードしていくかということを考えながら、それをやるた めにはどんな手段としての組織があるかというようなアプローチをしていかれると、大 変良いのではないだろうかというような気がいたします。 ○児玉委員  第三者という言葉で、岩村先生のほうからご指摘があった点をちょっと補足させてい ただきたいと思います。岩村先生のご指摘は、法律家の理論的な純粋な立場から全くご もっともなお話で、そもそも医療機関と患者さんが第一、第二だとすると、第三者は医 療機関とも患者さんとも利害関係がない、これが第1番目のポイントだと思います。  2番目は、身分保証があって、どういう発言をしようとも自分の立場は揺るがされな いという、そういう立場であれば自由な発言ができるはずです。つまり、利害関係がな いこと、身分保証があること、これが第三者として伸び伸びと活動するいちばん大事な ポイントである、これは理論的にはおっしゃるとおりなのです。日本の法制度の中で、 利害関係が両者から全くなく、そして身分保証されている人は誰か。裁判所です。裁判 官というのは、まさに第三者であるから、あらゆる紛争の最終的な解決者に当たるわけ です。  ところが、ご存じのとおり、公平な第三者である裁判官というのは専門性を前提にし ておりません。医療の場合、専門知識なく公平な判断ができるかということが常に問題 になるわけです。むしろ理論的な第三者性、公平性ということがいま問題になっている のではなくて、私はポイントは2つだと思っています。1つは、いかに患者さんの声を 聞くか。いかに患者さんの立場を理解するか。いかに患者さんの権利と利益を擁護して いくか、これが1つ目のポイントです。2つ目は、お聞きした患者さんの声を、いかに 医療安全対策の科学に結実させていくか。この2つの目標をはっきり明確にしたうえで 、そのためにどういう機関が必要か。それがたとえ純理論的な意味での第三者であろう が、なかろうが、私は目標ははっきりしているのではないかと、そのように思っており ます。 ○森座長  どうもありがとうございました。第三者というのは難しいことで、例えば医事紛争に 関する限りでも、第一者、第二者なる者を、個々の患者、個々の医師というふうに考え るのか、あるいは医療機関全体、患者さんならびに周辺のグループというふうに考える のかで随分違ってくる可能性がありますね。私が1つ戸惑っていることは、例えば裁判 所にしても、弁護士さんにしても、仮に東大の医学部の人間が全く個人的に何か事件を 起こしたときに、東大の医学部の人間は、鑑定人たり得ないと。そういう人は第三者と して振る舞えないのだということを実際に聞くことはあるのです。世の中はそういうも のかと、不思議に思っておりますが、いや、こんなことは個人的な愚痴です。ほかにご 意見はありますか。 ○三宅委員  児玉先生のOPAというのは非常に参考になるお話で、今後いろいろ考えていきたい と思っております。いま何人かの方がおっしゃったことで、児玉先生が司法制度ではな くて医療制度として考えるべきではないかとおっしゃったのは、私も全くそのとおりだ と思うのです。それぞれの施設が自分の施設の中で起きたいろいろな事故を、それなり にちゃんと検討しましょうということは、だんだんやられてきていると思うのです。と ころが、そこにはある限界があって、それは岩村先生もちょっとおっしゃったようなこ となのですが、やはり自分の施設の中のことですと、私どももいろいろなアクシデント とかインシデントの評価を、一応所属の部長に改善策も書いてもらって出してもらうわ けです。そういう時に、いわゆる不可抗力だということを非常に簡単に言う人がいるわ けです。  だけど、本当に不可抗力なのだろうか。そういうことを考えるときに、やはり当事者 ではない第三者の機関で、それは本当に不可抗力のものなのか、いろいろなシステムと か技術上に問題があったのか、そういうことを検討することが求められているのではな いか。ですから、外部からそういうものをちゃんと評価して、そこから何らかの改善策 を見出してきて、それが1施設の問題ではなくて、全国の医療機関にそれが発信できる ような、そのような機関が何か必要なのではないか。  それぞれの施設が検討はする中で、やはり問題があるとか、あるいはアメリカのセン チネルイベントのように、いくつかの重大なものについては必ず第三者の機関で検討し なさいと。そういうようなことをやらないと、何かこれ以上発展していかないのではな いか。それから、国全体としての対策というのはできないのではないか。私はそういう 印象を持っているのです。 ○長谷川委員  事後処理的な紛争処理ということの対応を、当事者以外の人間が調停する第三者機関 と、もう少しそれを乗り越えて、国全体として安全システム、安全対策に取り組むとい うことなのかについて、参考のために作ってまいりました資料をご覧いただくと、少し は整理になるのかと思います。  第1番は、資料8の1頁です。偶然か自然か、アングロサクソン系の国3カ国は、お そらくお互いに情報交換をしているということもあるのでしょうけれども、ほぼ同じ時 期に、まず質の問題を議論して、安全対策の戦略計画と行動計画を作ってまいりました 。日本とよく似ていて、1955年とか1956年ごろに、重大な事故が発生して、国民世論が 喚起され、政府はそれに対応せざるを得なかったという背景があるようです。特にオー ストラリアは、医療事故の実態を調べましたら、何と入院患者の16%もの人が事故に遭 っている。アメリカですと3〜4%でしたので、オーストラリアの人たちが怒ってどう したらいいのだということを突きつけて、政府が対応したという歴史があります。  ところが、3つ並べてみますと、注5のようにすごく共通した考え方があるようで、 先ほど三宅委員のほうからご指摘がありましたように、各施設を超えて、国全体として この問題に取り組んでいこう。問題を把握して、報告を集めて事故事例から学んでいこ うと。それを把握し分析し標準化して、各施設にフィードバックし、各施設を支援して いって、院内の安全対策をしていこう。それを国全体でやっていこう。それには音頭を とる、国全体のリーダーシップ、英語で言うとフォーカス、そういったものが必要だと いう提案がありました。  そこで、資料4の3頁ですが、さまざまな団体がさまざまな活動をしております。一 応、Patient Safety Foundationという類似の名前を持ったものを並べてみますと、「 活動内容」ですが、世論の喚起、患者・一般国民への情報提供、医療従事者向けの情報 提供、事故事例を収集する、安全対策のための研究を支援していく、苦情の受付、各事 故の原因究明調査」などというようなことをしているようです。  第三者というのはどのように定義するかわかりませんが、施設と患者、あるいは専門 家と患者以外の者というふうに考えますと、もちろん政府も入ってくるのですが、医師 会もある意味では個々の専門家や病院ではありませんので、医師会も入ってくると思い ます。アメリカの場合には、National Patient Safety Foundationというのがアメリカ 医師会によって作られたり、国自身の機構として、National Center for Patient Safet y and Qualityというのを作られていたり、あるいはいわゆるNPO、NGOとしてForu mというのがありまして、そこがいろいろやったりしております。イギリスの場合には すべて身内みたいなところがありますので、去年の暮にNational Patient Agencyとい うのをNHS、イギリスの国営医療の中に設けて、かなりいろいろな権限を集中し、か つ情報も集中してやっていくというような方針をとっているようです。  オーストラリアの場合には歴史がありまして、麻酔学会が随分アクティブです。その 刺激を受けてAustralian Patient Safety FoundationというNPOが作られまして、実 はそこに膨大な数の事故事例を集中して、国際的にも評価されています。ただ、政府も このようなリーダーシップをとるセンターを設けておりまして、審議会を政府のお金で 運営しているが政府とは独立したAustralian Council for Safety and Quality in Heal th Careという団体を作って、上記に書いてあるような安全対策の方向性を指し示すと いうふうになっております。  最後に、資料4の2頁に図を書いています。世界の流れやら日本国内のことを見て、 こんな図を考えてみたのですが、まさしくこのように施設、国民の間で医療サービスが 提供されたりして、それの安全性を目指すといったときに、施設と国民以外の第三者。 極論を言えば、政府も含めて他産業や医療界、法曹界、保険者、それぞれが第三者とし てさまざまな役割を担っていくのではないか。先ほど申し上げた資料8の1頁の下の図 、問題を把握し分析をし標準化して、各施設でそれを執行していくことについて、2頁 に書いてあるさまざまな団体がそれぞれの役割を果たしていくということが必要ではな いかと思われています。どの団体がどういう役割を果たすかというのは、国々の文化と か、歴史とか、伝統によって随分違うのだなと思います。  3頁目には具体的な活動を書きましたが、アメリカの場合は医師会なんかが最初にこ ういう団体を作って、指導をして、そのあと政府の中に機関ができたり、イギリスです とNHSですので政府自身が作ったり、オーストラリアは伝統があってNPOが始まっ たり、その辺りにあるというふうに感じました。 ○井上委員  問題点が錯綜しているようで、これは2つ大きな流れがあるような気がしております 。一つはセンチネルイベントやアクシデント、インシデント事例をどう事故防止に役立 てるのかという純粋に医療技術的な不備等から発生する問題で、もう一つは患者さんや 家族から法的な訴えを起こされたり、疑問点を生じる場合です。  この患者さんを含む感情的な問題では、先ほどちょっとご指摘がありましたが、患者 さんと医療関係者の間のコミュニケーション不足が非常に大きい。いまだに情報公開が 十分なされていないために、何かモヤモヤしたものがあって、私も医療関係者ですから 、先ほどの東京都の事例はよくわかるのですが、大体7割から8割ぐらいの患者さんや その家族と深く話し合うと理解をしていただけるのです。やはり患者さんと医療関係者 の間の情報的な差や理解不足、それから発生してくる法的な問題の流れがあるのだろう 。それをどう解決していくのかということが第三者機関に求められてくるわけです。技 術的な流れのほうから言いますと、センチネルイベントを出すということは、これはか なり重要度の高い問題であり、人の命へのかかわり合いが深い問題ですから、免責がな いとなかなか報告しづらいものがあります。  それから、患者さんと医療関係者の間でコミュニケーション不足が解決されても、納 得しない約1割の患者さんたちなのですが、この人たちには医療の専門知識をかなり噛 み砕いて説明をしないとわからない。グレーゾーンの、医薬品の副作用でも、予見され た副作用と全く予見されなかった、新たに発生してくる副作用等がありますので、新た に発生してくる副作用などというのは、いまの医療の力の限界を超えた外にあるもので す。そういったものを患者さんにどう納得していただけるのかということになると、非 常に難しい問題があります。  そういった様々な要因の絡み合いで問題が発生してくる。その問題を解決する第三者 機関では、その中に法的な問題と技術的な問題を解決する2つのセクションを持つ必要 がいるのかなという感じがいたします。それと、最終的には免責ということが1つの大 きなキーポイントになってくるような感じがするわけです。 ○飯塚委員  私が関心を持ったのは、一般的な商品の品質なのですが、そういう分野でこの手の、 いわゆる第三者機関が何らかの仲立ちをして、消費者が良い商品を選ぶようにしている というときがあるわけです。そういうのが必要になるのがどういうときかと考えると、 それは提供されている商品そのものが非常に専門性が高いものであって、消費者のほう が選択する際に何らかの支援がないと駄目だというような状況のときです。それから、 商品なりサービスそのものに危険が付き纏う。提供されて何か起きてではもう遅いとい うときに何か必要で、それは規制ということを行うわけです。そういうことをやるため に、いわゆる第三者機関なるものが存在しているわけです。各国の対策、いろいろな意 見、こんな試みがあるという結果としてのいろいろなアイディアを、1回全部机の上に 出して、こういう取引において、なぜ一者と二者だけの間で放っておいてはいけないの かという根拠を、ロジカルにきちんと挙げてみるべきだと思うわけです。  通常非常にやさしい商品であるならば、第一者と第二者、すなわち提供側と受取り側 が商品を見て、良いと思ったら金を払って買って、それで駄目だったら諦めるというこ とで済んでしまうわけです。それがいかなくなってしまう状況というのは、先ほど言っ たように危険が付き纏うとか、専門性が高くて商品選択が難しいというときなわけです 。  それを支援するとすれば、結局、提供する側がちゃんとしたものをできるようにする というのは、状況が3つです。1つは利益誘導、良いものを出していけば売れるから、 良いものを出す。安全であるのみならず、それ以上に質の良い医療を提供することによ って、組織体そのものが何らかの意味で報われるという状況になっている。そういうス キームになっていれば、よいわけです。  別のやり方というのは規制です。市場原理のような競争原理を放っておいても、うま くいかないから規制してしまう。これによって、相当いろいろな製品分野の安全が確保 されているわけで、規制というのを馬鹿にしてはいけないし、非常に有効な手であるわ けです。行政として積極的にやるべきだと私は思っています。  3番目にやるのが使命感、正義感というものです。職業倫理と言ってもいいでしょう か。提供する側が何らかのエシックス、ちゃんとした倫理を持って、ミッション・コン シャスネスを持ってやっていくというわけですが、3番目のものはあまり期待できない ところがありますので、普通は2つでいくわけです。  そのときに、規制というのも、利益誘導をするのも、放っておいたら市場原理にいか ないようなものに対して、第三者の機関がかかわることによって、そういう競争なり、 利益誘導になるようなスキームを作ってくるということはできるわけです。1つは、先 ほどずっと議論があったような、何らかの評価を行って、商品選択、病院選択のガイド ラインを示してあげましょうと言った途端に、消費者は良い所に行きますから、それに よって、ちゃんとしたものを作らなければいけないというドライブフォースが医療機関 の中にかかって、良いほうに行くということもあるわけです。  もっと激しくやるならば、何らかの規制を行ってしまうということです。標準化した らいいとか、いろいろな意見が出ていますが、それも良いと思ったら、上からがちっと やってしまえばよろしいわけです。もしくは、もっと緩やかにやるならば、先ほどから 議論が出ていますように、さまざまな情報なり知識なりを医療提供側および医療を選択 する患者側に対して、どんどん提供する。そうすることで、内部で良くしようというこ とが起こったり、患者の側がもっと賢く良い所を選ぶことができるようになってくるわ けです。その辺の役割というのをきちんと整理して、どういう機能を持ったものを作る かということを検討しないと、どういう理由でそれをやるのだろうかということがわか らなくなってしまうような気がします。 ○森座長  ありがとうございました。3番目はあまり期待できないとおっしゃると、ちょっと寂 しいですね。 ○矢崎委員  この案は、おそらく検討会議でいろいろな委員の方のご意見を何とかまとめて形にす るということで、整理案だと思います。最初から委員の先生方は「第三者的な機関」と いう文字にとらわれて、例えば紛争が起こったときにどうするかとか、そういう機関と いうふうに捉えられているような感じがします。  いままで医療安全のために検討すべき10の項目というものを定めました。さらに、医 療危機ではどうしたらいいかということを検討しています。先ほど黒田委員がおっしゃ られたように、横と縦軸のコミュニケーションをいかにプロモートするためにどうすれ ばよいかということで、国やこういう機関でどうこうするという性格のものかなという 感じがいたします。ですから、少なくとも辻本委員の所にクレームが来るようなものを できるだけ未然に、みんなの意識の改革で防いでいけないかという位置付けで考えてい ただきたいと思います。  患者さん自身には、みなさん自分は質の高い医療を受けたいという希望がありますし 、自分は果たして公平なレベルで、少なくとも標準化された医療を受けているかどうか 、さらには何か自分が感じたときの問題点などを、なかなか受持ちのお医者さんに言え ないということがあります。そういうところがありますので、やはり医療サイド側も患 者さん側も、お互いにバリアをなくして、先ほど横並びの説明、あるいは根拠に基づい た説明というお話がありましたが、そういうものを少しでも構築していくという姿勢を 明らかにする必要があります。何か第三者的な機関というと、オーソライズされたもの という感じがしますけれども、これはここに書いてありますように、議論のうちで、あ るいは文献的な検索で安全対策の観点から、こういうコンセプトがあってもいいかとい うことで、すべて解決するという機関を求めるのはちょっと無理ではないかということ です。 ○中村委員  ただいま意識の改革というお話が出ましたが、実は私どもの医師会ではもうそれに取 り組んでおります。会員数は700人弱と小規模医師会でありますが、まず先立って医の 倫理綱領を作りました。この医療安全対策推進という国の方針が出されまして、それに 応ずるべく医師会にも医療安全対策委員会を設置いたしました。大変多くの資料をいた だきましたので、これを基に地元でどういう事故等が起こっているかというようなこと 、そしてそれにどのように対応しているか。まずそのことから始めたのですが、皆さん 大変正直にお話なさいまして、隣近辺に知られるのがいちばんつらいことかと思ってい たら、実はそうでもない。1つには、医師会は医事調停委員会がありまして、ちゃんと 弁護士さんもいてくださっておりますし、まず窓口であるということ。どうしても医師 会抜きに考えられないという状況がありますので、それも1つプラスになったのかなと 思います。  初め医師と看護婦の構成でスタートしたのですが、放射線技師会、栄養士会に呼びか けますと、非常に快く委員を出してくださいました。医事調停の担当理事から、もう既 に医事紛争減少の兆が見えているというような報告がありました。一応、目標としては 1年で半減しようというようなことを言っております。第三者機構というのは本当に現 場から必要だと思っていますが、それにはおそらく時間がかかるだろう。それまで待っ ておれないというのが現場の率直な感想であります。いろいろな場所で事故防止のため の創意工夫がなされておりまして、お互いに参考になるということで、積極的に今後と も推し進めていこうと思って取り組んでいるところです。 ○森座長  ありがとうございました。望月委員、全田委員のご発言がないようですが、もしご遠 慮であれば、一言いかがでしょうか。 ○望月委員  今回の議論をお聞きしていて、1つの目的の中に全部集約することはできないでしょ うし、1つの第三者的な機関で全部をまとめることもできないような気がいたします。 やはり第三者的な機関が必要であるという領域もあるでしょうし、そうでなくても規制 とかそういうところでうまく整理をしていけるような問題もあるように思いました。  今回のお話の中で医療機関と患者さんの関係に関しての問題について、紛争の側面か ら、あるいは患者さんの疑問にお答えしていくという側面、あるいは予防的な側面とい うお話はあったのですが、医療事故の多くが医療用具、医薬品などが原因で起こってい るものが多いということを考えたときに、医療用具、医薬品の製品としての安全性評価 を行うに当たって、当事者が評価するよりも第三者機関が評価を行ったほうがいいかと いう事についてのお話はなかったように思います。  特に多種類の製品が出回っていて、ある会社がよかれと思って工夫した安全対策が、 今度は別の製品と類似のものになる、あるいは別の製品にはうまくマッチしないという というような問題もありますので、そういった多企業間にわたるようなものをうまく整 理して、本当に効果的な安全対策に結び付くような第三者機関というのが必要なのでは ないかと思います。 ○全田委員  ちょっと考えてしまいました。私は大学の教官をやっておりまして、まだ薬剤師にな らないような学生に教育していますと、全然感覚が違うのです。薬というものに対して 、知っている人たちはいいのですが、そうでもないのです。ですから、あえて第三者と して言うならば、専門的な先生方も必要だろうけれども、普通の方々、普通の患者さん のご意見が反映されるような、そういうシステムが何かできればいいのではないか。ど うも我々専門家というのはおごりがあるのではないか、ということをこのごろしみじみ 感じているのです。もちろん、プロとしてはやらなくてはならないと思っているのです が、学生たちと話していますと、非常に単純な疑問がしょっちゅう出てくるのです。  そういうことで、先ほどからだんだん会議が進むにつれて考えてしまうようになって しまったのですが、とにかく第三者機関といっても、もちろん専門な方も必要だろうけ れども、やはり多くの方々は薬のことをあまり知らない患者さんなのですから、そうい うご意見が反映されるような、そういう機関をお考えいただければありがたいと、そう いう感じがいたします。 ○森座長  どうもありがとうございました。まだまだご議論を続けたいところですが、時間にな りました。数分延びることをお許しください。冒頭に申し上げましたように、大体今回 でこの検討委員会を始めたときの検討項目の予定を一応終了することになりますので、 これから先の段取りについて、事務局から手短かにお考えを聞かせていただけますか。 ○新木室長  資料5、資料6、資料7ですが、資料5に今後の検討スケジュールの案を記載してお ります。本日1月11日は第8回ですが、年度内におまとめいただければと思っておりま す。そのためには、今後3回ないし4回程度の会合をお願いできればと思っております 。既にファックス等で連絡しておりますが、1月30日に第9回、2月21日に第10回があ ります。各々、このグランドデザイン、報告書の策定に当たっての論点の整理、骨子の 案、さらに3月に入りましてグランドデザイン等を作成していただいてはいかがかとい う案です。  なお、これまでの状況を資料6に載せております。第1回を5月18日に開催していた だいて以来、今日まで8回、大変精力的に主にこんな議題でご検討いただきました。  さらに、その内容につきましては資料7に、その概要を事務局のほうで記載しており ます。これはいままでの議事録から、先生方のご意見を若干概要にして取っております 。したがいまして、互いに意見が違うようなご意見も、そのまま記載しております。こ のようなものを参考に、今後ご意見を集約していただくのかなと、その資料として作成 しております。 ○森座長  ありがとうございました。この資料5はいかがでしょうか。ここで「グランドデザイ ン」と書いてありますが、これは実質的には報告書ということですね。本年3月末をも って、検討委員会自体がどうなるのか存じませんが、一応、今年度末で1つの節目をつ けたいというお考えだと思います。それはよろしいですね。 ○小泉委員  いま座長がおっしゃった「グランドデザイン」ですが、私はやはり「報告書」という のがメインのタイトルで、サブタイトル的につけられるほうがいいと思います。「グラ ンドデザイン」というと、大がかりといいましょうか。またグランドデザインという以 上何のグランドデザインかということを明示しなければ、ただ「グランドデザイン」で はわかりません。私の提案としては以上です。 ○森座長  おっしゃるとおりだと思います。そのようなことでよろしいですか。               (異議なし) ○森座長  このような全体会議をこれから何度も何度も開いて、報告書の案なり、報告書そのも のを決めていくということはなかなか容易ではないと考えますので、ご迷惑とは思いま すが、いくつかの領域を代表するような方々に起草委員になっていただきたいと考えて おります。こんなことをお願いしてよろしいでしょうか。もしお許しいただければ、例 えば川村委員、児玉委員、堺委員、長谷川委員、望月委員といった5名の方々に差し当 たってお願いできればと存じます。もちろん、この方々にお願いすることは、あくまで も報告書の案作成で、全体の決定は全員が集まったところで、これも1回だけではなし に何回かにわたってご論議いただいて行うつもりです。しかしまず、案を作っていただ く、起草ということで、この5名の方々にお願いしてよろしいでしょうか。               (異議なし) ○森座長  どうもありがとうございます。それでは、5名の方々よろしくお願いいたします。い ま事務局では資料7、資料8を用意され、その中におおよその方針なり考え、あるいは 今日までの論点を示しておられます。こういうものも参考になさりながら、しかし事務 局で何と言おうがそれに全面的に従っていただく必要はないと思いますので、どうか起 草委員の方々の思うままにお考えいただければと存じます。 ○総務課長  こちらの日程で、非常に無理なことをお願いしております。どうぞよろしくお願いい たします。いま「グランドデザイン」ということについて話がありましたが、私どもは 対外的にもこの1年間で医療安全の問題について、総合的かつ中長期的な全体の考え方 をまとめたいと思います。これを「グランドデザイン」と言って、相当触れ回ったこと もありまして、期待も高まっております。一方で、総合的、中長期的というと、当面の 緊張感を欠いているような印象も与えますので、目の前で実効性のあるものも織り込ん でいかなければいけないというふうに考えております。どうぞこの数カ月間、大変お忙 しい中でありますが、よろしくお願いしたいと思います。 ○森座長  よろしゅうございますね。これも「いわゆるグランドデザイン」『グランドデザイン 』ぐらいのところでしょうね。今日はこんなことで閉じてよろしいですか。先ほど事務 局から説明がありましたように、次回は1月30日です。かなりのハードスケジュールで すが、お時間の都合を何とかつけていただき、ご参加下さればと思います。本日はどう もありがとうございました。                     (照会先)                      医政局総務課医療安全推進室企画指導係                      電話 03-5253-1111(内線2580)