02/01/11 第8回 医道審議会医師分科会医師臨床研修検討部会       第8回 医道審議会医師分科会医師臨床研修検討部会                        日時:平成14年1月11日(金)                           14:00〜                         場所:経済産業省別館第1020会議室 ○医事課長  ただいまから、「医道審議会医師分科会医師臨床研修検討部会」を開会いたします。 部会委員の皆様方におかれましては、大変お忙しい中をご出席をいただきまして、誠に ありがとうございます。本日の委員の出席状況についてですが、高梨委員、高橋委員、 宮城委員から欠席のご連絡を受けております。また、本日も、文部科学省から、高等教 育局医学教育課の村田課長が出席いたします。それでは、矢崎部会長、よろしくお願い いたします。 ○矢崎部会長  議事に入ります。これまで、要望等をいただいたさまざまな医療関係者団体の方々か らお話を伺ってまいりました。本日は、大学関係者の方々から、必修化に当たっての取 組状況、またご意見をお伺いいたします。 ○矢崎部会長  大学関係の先生方からご意見を頂戴いたします。国立大学、公立大学、私立大学それ ぞれ20分ずつでおまとめいただきたいと思います。最初に、東京医科歯科大学附属病院 長、国立大学医学部附属病院長会議常置委員会委員、委員長代理でおられます西岡清先 生と、京都大学附属病院長、常置委員会の委員で教育研修問題小委員会委員長でおられ ます田中絋一先生にご出席いただいております。よろしくお願いいたします。 ○西岡氏  このような発表の機会を与えていただきまして、誠にありがとうございます。ご紹介 いただきました西岡です。国立大学医学部附属病院長会議では、卒後臨床研修を非常に 重要な課題として、これまでも精力的に取り組んできております。その成果に関しまし ては、平成10年12月に「国立大学附属病院卒後臨床研修共通カリキュラム」、また平成1 1年9月に「国立大学附属病院卒後臨床研修共通カリキュラムの運用に関する報告書」 という形で公表させていただきました。  この度、平成16年度から医師の卒後臨床研修が必修化されることを受け、本会議では 卒後臨床研修の必修化に伴う諸問題について、教育研修問題小委員会において検討する こととしておりました。同小委員会は、平成12年10月以来検討を重ね、特に同小委員会 の下に設置されておりますワーキンググループ、卒後臨床研修必修化に関する検討部会 において精力的に検討を行い、この度先生方のお手元にございます、本指針の完成に至 りました。  本指針は、「共通カリキュラムの改訂、研修体制、指導体制、研修の質の保証」の4 項目からなっております。各大学において、幅広い臨床能力を持つ医師を養成するため の臨床研修体制を構築し、卒後臨床研修を充実するための、今後種々取り組んでいきた い事項をすべて提示しております。指針の詳細については、教育研修問題小委員会の委 員長であります、京都大学医学部附属病院長の田中絋一先生からご説明いただきます。 ○田中氏  指針の内容についてご説明させていただきます。この指針は、「カリキュラム、研修 体制、指導体制、質の保証」といった大項目で成り立っております。カリキュラムにつ いては4頁からですが、「臨床研修の一般目標と行動目標」を設定しています。医師と して、将来どのような分野に進むにしても、医学・医療の社会的ニーズを認識し、日常 診療で頻繁に遭遇する病気や病態に適切に対応できるよう、幅広い基本的な臨床能力( 態度、技能、知識)を身につけるということから、一般目標を設定しています。  実際の行動については4頁から9頁までに記載してあります。内容としては、患者と 医師の関係ということで、これは全人的に理解し、患者・家族と良好な人間関係を確立 するという態度です。チーム医療には、非常に臨床研修の初期臨床に当たってこのこと を徹底しなければいけないということで、いくつかの項目について記載してあります。 医師というのは、問題が生じたときに、それを把握し、それに対応して考え、生涯にわ たる自己学習の習慣を身につけることが非常に重要ですので、こういう問題対応能力に ついての行動目標を示しています。  近年、安全管理が非常に重要ですので、5頁で「安全管理」についても、医療現場で 確実に身につけるように、こういった行動目標を記載しております。近年の学生は、イ ンタビューに慣れていませんので、こういうインタビューをどのようにするか、といっ たスキルについて記載しています。実際に診察するときに、基本的なバイタルサイン、 あるいは理学的所見をきちんと取れるようにするという行動です。  6頁の「臨床検査」というのは、臨床検査項目を一覧にしています。実際の手技とい うことになると、臨床研修医のときに、きちんと把握しなければいけない、現在の進歩 した医学の中で、このぐらいのことをきちんとできるようにということです。  7頁は「基本的治療法」、それから「医療記録」についてもProblem Oriented Syste mをベースに、きちんと記載できる。  8頁は、「症例呈示」や「診療計画」、さらに生命や機能的予後に係わる、緊急を要 する病態や疾病、外傷に対して適切に対応する。そのほか、広く求められている社会の 「予防医療」や「緩和・終末期医療」、あるいは「医療の社会性」についても臨床研修 のときに身につけるという行動目標です。  10頁から15頁までは、実際に「経験すべき症状、病態、疾患」を3項目に区分し、「 頻度の高い症状」「緊急を要する症状、病態」「経験が求められる疾患・病態」を少な くとも90%は経験することが望ましいという行動目標です。これは、医学の卒前教育と も深くリンクすることですので、後にもありますいろいろな評価の方向のシステムの中 で、こういうものは見直されるべきと考えています。  疾患についても、12頁からは多くの疾患、ある1つの特定科が担当する領域のみなら ず、全人的に臨床的な疾患についても、深く携わらなければならないということで、こ れは最低限70%を経験することが望ましいということで記載しています。これも、卒前 教育と深くリンクする項目です。以上が「カリキュラム」です。  16頁は「研修ローテーション」です。この研修ローテーションは、従来内科だけ、外 科だけといった研修の仕方でありましたが、今後2年間は、以上の行動目標を設定し、 経験すべき病態や症状を全部経験するために、基本的なコアのローテーションが必要で あろうという考え方です。  以上のカリキュラムに沿って申せば、最低限内科、外科、救急部、小児科、産婦人科 の4つの科をローテーションすることを「コア・ローテーション」として、2年間のう ちに一定期間共通的に研修を行うための場として設定する必要があろうということです 。一般的に研修医が入ると、2〜4週間はオリエンテーション期間とし、この中で保健 医療や、医師としての基本的な態度をオリエンテーションする期間に当てるという指針 です。  そういう行動目標があって、「到達評価」という項目はどうしても必要になります。 先ほどの、それぞれの行動目標に対応するように自己評価、客観定期評価ができるよう に、到達度の評価を自分でできるということでaからdとして、aはとりわけ優れてい る、dは不十分なレベルに留まっているということを自己評価する、あるいは客観的評 価をするということで17頁から25頁まで記載しています。  「研修体制」は重要ですので、詳しく述べます。小委員会としても、大変重要視して いるのは、研修医の身分、給与、保険などが、国全体の制度という形で保障されるべき だと考えています。これは、研修医がアルバイトをする必要なく、研修目標を社会から 十分評価できるような臨床初期研修として施行するためには、この研修体制が重要であ るからです。研修体制の1つは、研修医の身分・給与・保険の保障の確立と指導医の処 遇改善です。  「大学病院における一元的管理体制」も重要な体制です。2(1)「研修医は特定の 診療科・部門に所属せず、大学病院の卒後臨床研修センターに所属して、定められた研 修プログラムに則って研修を行う」という目標の達成の観点からは、大学病院のみなら ず、研修協力病院を十分つくり、そういう中であくまでも研修という目的のために、こ ういう病院と協力して初期臨床研修を行う体制です。併せて指導医の数と質が充実しな ければならない。研修協力病院と、研修体制の確立については、後で組織図として提示 いたします。  さらに重要な点は、「マッチングプログラム」です。27頁の4は、「研修医の公募選 択方式」です。研修医を受け入れる病院は、その研修システムを広く公開し、それに研 修医が応募し、研修医の間でインタビューや試験を行い、あるいは研修医も自分の望む 、その情報公開されたデータに基づいて応募し、そういう中でそれぞれマッチングプロ グラムを作る。これは、これまで日本にはなかったシステムです。将来、研修医を大事 に育てるためには良い研修システムを、それぞれの大学が努力しなければいけないし、 また逆に研修を受ける人たちも、十分競争原理に従うものでなければならないという考 え方です。小項目として1から5まで提示いたしました。  5は「マネジメントシステム」です。研修医がこういう研修を取り巻く諸問題を円滑 に運ぶためには、各大学で卒後臨床研修センターを設けて、総括的に管理する必要があ ります。これには専門の教官、専門の事務官が必要です。  また、全国的に卒後研修センターのクオリティ、研修制度そのもののクオリティ、研 修医の到達度の評価については、全国的な組織である卒後臨床研修委員会を設けて評価 するということであるものを企画し、実行し、それを再度評価して新たなものを模索す るという考え方です。  29頁から33頁に記載してあるのは「指導体制」です。この臨床研修を行うには、指導 体制も一方の柱です。大学附属病院は大変忙しい状況の中で、少ないマンパワーで行わ れています。しかしながら、教育をするということは非常に重要でありますので、指導 医については、少なくとも研修指導責任者を設け、その責任者の下に指導医や指導助手 を設けて、研修医の指導に当たり、責任を持つというシステムが大事だということです 。  こういう指導医は、指導をするための能力も常に向上する必要がありますので、そう いう指導医については一定の条件を設け、教育ワークショップ・プログラムの作成や実 施、あるいはこういう教育について受講したという評価も必要ではないか、ということ を記載しております。  30頁には「指導医の要件」が記載されています。「指導方法のあり方」についても、 この指針の30頁に記載しています。現在、大学では臨床教授制度を活用していますが、 これも有効に活用する必要があるだろう。  32頁は「卒後臨床研修組織図」です。大学を中心にして、研修協力病院をつくり、大 学の中に卒後臨床研修センターに所属し、各科の研修指導責任者の指導の下に研修を行 うというシステムで、大学で臨床研修を受けられない項目、例えば救急部、産婦人科、 小児科、その他内科、外科でもそうでしょうが、そういう所は研修協力病院と群をつく り、全体として研修医の2年間のプログラムに当てるということです。ある場合には、 大学病院そのものが全部をできるということもあるでしょうし、一般的にナショナルセ ンター的な施設では、これをすべてできるという組織もあるかと思いますので、広くこ ういう選択肢を書いています。  32頁のいちばん下のカッコを見ますと、この研修行動すべてを評価するために、大学 附属病院卒後臨床研修委員会、将来的には全国卒後臨床研修委員会というふうになるか と思われますが、このことについてプログラムの見直しや、臨床研修センターそのもの の評価、あるいは今後のカリキュラムの改定等を見直す必要があろうかというシステム です。  34頁は「質の保証」です。こういう研修プログラムについて、結果に基づいて研修プ ログラムや指導体制を改善するというプロセスの繰り返しということが非常に重要とい うことで、これには先ほどの卒後臨床研修、あるいは全国的な委員会を当て、指導体制 、病院群の構築を見直していくシステムが必要です。  36頁ではプログラム、あるいは研修プログラムや指導体制、およびそれらの評価結果 をすべて公開し、マッチングプログラムに役立てる。情報を公開するということも、こ の指針の中で重要な項目として取り上げさせていただきました。  実際に公表が望まれる項目として、38頁から40頁まで3項目を挙げています。研修施 設についてはどういう施設なのか、研修体制はどのように行われているか、指導体制は どうかというようなことを公表し、マッチングシステム、あるいは社会に十分わかる形 で情報公開をするというシステムです。以上が、国立大学附属病院卒後臨床研修必修化 に向けての指針です。以上です。 ○矢崎部会長  ありがとうございました。ただいまの発表に対し、ご意見、ご質問はございますか。 ○櫻井委員  大学病院は、卒前・卒後教育の面で非常に大きな期待をかけられています。そういっ た意味で先般ファクスでこの内容について情報をいただきました。いくつかご質問させ ていただきます。  第1に、16頁に「研修ローテーション」というのがあります。ここで「コア・ローテ ーション」ということを述べていて、その中段に「一般内科・総合診療部、一般外科で の研修が最も効率的と思われるが、不可能な場合はサブスペシャリティの診療科で研修 する」という文言があります。これは、考え方によって、例えば一般外科での研修がで きない場合、しない場合には、例えば耳鼻科とか形成外科といった科を回ればいいとい うふうな読み方もできると思います。しかし、これはちょっとおかしいのではないかと いう感じがいたします。  第2に、私もマッチングプログラムが必要とされるような事情ができることを望んで いるのですが、現状ではこの必要性や必然性がないのではないかと思います。大学病院 での研修に関する情報開示がほとんどされていない。現在は臨床研修推進財団というの があり、そこではかなり権威のある臨床研修のガイドブックを発行しています。病院に は原稿依頼が行かないのか、行っても投稿しないのかわかりませんが、半分以上は情報 開示していません。情報開示をしてなくて、どのような患者がいて、何人ぐらい採用し ているのか、患者と研修医のレシオなど全然わからないような状態で、マッチングプロ グラムの意義はありません。  研修医として他大学から応募があればいいのですが、それがなくて上から下まで全部 同大学卒業生というのも異様な風景です。そういった意味で「マッチングプログラム」 というのは文言としてはいいのですけれども、現状ではその必然性がないのではないで しょうか。その2点についてお伺いいたします。 ○田中氏  第1点の外科、内科という考え方ですが、これはあくまでも行動目標達成ということ が大前提でありますので、卒後臨床研修センターでは、この行動目標に達成するための ローテーションという考え方であります。したがって、耳鼻科でローテーションするこ とが、果たしてこの行動目標に達成するというふうには考えられません。  そういう意味では、胸部外科や心臓血管外科がこういうところに当たるかどうかです 。内科も非常に多岐にわたった内科がありますが、大前提は行動目標を達成するための コア・ローテーションという考え方でありますのでご理解いただきたいと思います。 ○櫻井委員  「不可能な場合」というのは、あまり妥当な表現ではないのではないでしょうか。 ○田中氏  わかりました、それは十分検討させていただきます。「マッチングシステム」につい ては大変重要なご指摘です。現在、いろいろな大学でホームページを作り、できるだけ 自分の所の教室はこういうことでやっているぞということを載せています。これは、研 修医に是非来ていただきたいという目的でやっています。  一方、研修医から見ると、いろいろな所にアプライしたいというニーズが最近はます ます高まっている。そういう意味で、このマッチングシステムを作り、各大学はより良 い研修医を求める、逆に研修医そのものも、それに基づいて自分を磨いていくというシ ステムでありますので、マッチングシステムを導入するということは、これからの医療 については極めて重要ではないかと考えるのは、全国国立大学病院長の考え方です。  研修医については、他大学の研修医をということですが、これも現状の認識では、マ ッチングシステムや卒後研修のシステムができれば、おそらく1つの大学のみならず複 数の大学、あるいは大学そのものの卒業生の人数を制限するという方向性も考えられる のではないかと考えております。 ○櫻井委員  是非、このマッチングプログラムが必要とされるような時代が来るように、大学病院 も変わっていただきたいと思います。 ○星委員  本日、「行動目標」を見せていただきました。医者になる前に当然身に付けておかな ければならないものと、卒業して、いよいよ医者の免許を持ってやれるものとが非常に 混在しているイメージを持ちました。特に、医師として持たなければいけない基本的な 態度を養成する仕組みが、大学の教育の中にないのが原因なのかどうなのかその辺りで す。つまり、基本的な診療態度のうち、もっと早くに学ばせることができるものが混じ っているということについて、どのようにお考えなのでしょうか。  2点目は、国立大学病院の先生方のご意見としてはごもっともなのかもしれませんが 、大学病院によっては、卒業生のごく一部しか残ってくれない大学と、日本中から集ま ってくる所とあるわけです。その辺りのずれについてどのようにお考えなのでしょうか 。  3点目は、私ども日本医師会としては、卒後2年間の臨床研修というのは、基本的に は大学病院という場所では、十分にやりきれないのではないか。むしろ、地域の病院を 主に考え、それを大学などが支えるという仕組みのほうがいいのではないかという主張 をしているわけです。現実に行おうとしている内容と、皆さん方が持っているいろいろ な症例や院内の環境が、いまここにあるようなものを十分に実現できるような状況にあ るのかどうかのご認識をお伺いいたします。 ○田中氏  その点についても、卒後の検討部会を何度も立ち上げて、過去11回ぐらいの部会を開 き、それぞれの問題点を出し合いながら検討してまいりました。星委員ご指摘の点もそ の中にありました。医学教育は、現在卒前教育という問題が改めて問い直されています し、京都大学でも自由がいいのか、それともきちんとしたカリキュラムがいいのかとい う問題まで踏み込んで検討しているところです。  したがって、ご指摘のようにこのプログラムそのものは卒前教育と深くリンクするも のですから、卒前教育がここまで、例えば臨床能力をここまでできるという状況であれ ば、また変わってくると思うのです。常にそれを見直すというシステムを作り上げると いうことです。  2点目は地域のずれという問題があります。これについては、今後日本全体の国のデ ザインとしても、いろいろなことを検討していく必要があろうかと思います。しかし、 この委員会では、できるだけ臨床研修をする人が、これぐらいのベースをつくらなけれ ばいけないぞという、そういう基盤整備にすべて当てましたものですから、そういう点 はまた別の視点から捉えていただきたいということです。検討部会でもそのようなこと です。  3点目の、大学病院が全部はできないのではないかということについてはご指摘のと おりです。やはり病院群をきちんとつくる。しかしながら、卒後臨床研修センターが責 任を持って、個々の人を評価し、それから個々の研修医からの希望を聞きながら進める という構築は、いずれ極めてキーになるであろうという指針です。 ○西岡氏  少し付け加えさせていただきます。最初のご質問で、いま卒前教育の部分ではコアカ リキュラムということで先生方もご存じだと思いますが、それをつくりまして、全国的 な共用試験をやります。それから、オスキー(OSCE)の試験も導入する、といった ような形で進んでおります。  ですから、卒前教育と卒後教育が一体化させる形で検討しております。現時点では、 まだそれが十分達成できておりませんので、星委員ご指摘のように、少し混在している ところがあるのですが、それは順番にこれから整理されていって、卒前と卒後がきっち り分かれていく形になろうと考えております。 ○内村委員  私は、精神科のほうです。このコア・ローテーションの中に精神科が入っていなかっ た、というのは非常に残念に思います。「全人的」という言葉は非常に響きはいいかも しれませんが、その中身は何かということです。身体的なレベル、精神的なレベル、社 会的なレベル、倫理的なレベル、最近WHOではスピリチャルということも加えていま す。これを日本語にすると非常に難しいのですが霊的とか、魂性という問題ですが、こ れを加えて、健康というものを定義しようとしています。  あらゆる多次元的なものが、すべて医療の中でかかわってくるというのは、精神医学 がいちばんかかわってくるわけです。倫理ひとつ取っても、患者の人権をどうするかと いう問題がかかわってきます。社会自身レベルでは、どのようにして偏見や生活の困難 さを取り除いていくかといった問題も常に毎日の臨床の中で考えていく、という視点が 一方に必要だろうと思うのです。  多次元的に常にアプローチしなければいけないというのが全人的であって、これは臨 床そのものがそうであるということです。そういう一方の極があると思うのです。プラ イマリケア(在宅医療)は、身体的レベルから入っていく全人的医療に近いと思うので す。そういう次元で、人間を把握しようとしているわけです。  一方では、ここの「コア・ローテーション」にあるように臓器別に人間を見ようとい う考え方です。これは、人間を機械的に見ていくということです。この人間機械論の極 にあるのは救急だと思うのです。人間の顔を見ていてもしようがないですから、生きる か死ぬかの問題なので、これは血圧が低下したらどうするかとか、一つひとつの臓器に 対してバランスをとっていかなければいけない。これは、人間機械論の典型だと思うの です。臓器別にやっていくというのは、どうしても人間機械論的な立場に立たざるを得 ないということです。一方では、全人的にやらざるを得ない。この2つの極が人間を見 る見方としてあると思います。  医療というのは普通の職業訓練と違って、相手が人間ですから、人間機械的な見方も 重要だけれども、多次元的に見る見方も重要です。この両方の認識をしっかりと持つと いうことが、基本的な臨床研修の理念だと思っています。その上に立って、臓器別の、 あるいは専門性が確立されていくということだと思います。  もう1点は、精神科に対する一般科の医師の偏見です。これは、日常感じています。 診療拒否されることがあります。平成8年には精神障害者の診療拒否の腎透析事件の裁 判で医療の側が負けました。一般科の医師が、精神障害者に対して偏見を少なくしてい くために、最低限の経験をしておく必要があります。その辺のところをどう捉えて、こ れは議論されていったのかということをお聞きします。研修の基本的な考え方とか、理 念性の問題のことも踏まえてお願いいたします。 ○田中氏  いまのお話全部に答えることはできませんが、私も医師になって何十年かになります が、いまのお話を聞いていて大変生き生きしたお話でした。それは、この2年間の中で どういうことをやるかという中には、そのこともあろうかと思います。9頁でその点に ついても少し触れています。そのことも議論されましたが、2年間の中で、それは今後 医師として積み重ねていく問題であるというふうに捉えてこういうことになりました。 ○仲村委員  臨床の場で、いま私が身内に患者を抱えたケースで考えますと、いまおっしゃったよ うな患者のメンタルサイドの問題点の解決や、うつ状態に陥ったときにどうカウセリン グするかといった点に関し、まずほとんどが患者の期待に応えていないような診療が実 際に行われているのは事実です。そういう意味では、内村委員の意見に賛成です。  私の意見ですが、この中身は専門の先生が何遍もお集まりいただいてお決めになった ことなので、たぶんいいのだろうと思うのです。こういうのを、体験的に研修生に教え るには、研修の密度の問題とか、人数でどうやるかとか、もうちょっと外側の話で言う と、自分の大学の卒業生と、ほかの大学の卒業生をどういう割合で混ぜるかといった定 員化の問題を、もう少しお考えいただいたほうがいいのではないかという気がいたしま す。 ○田中氏  これを実施するに当たっては、これから制度設計という点が非常に重要になると思い ます。実際の制度設計についても、国立大学では検討部会を立ち上げて、これから取り 組もうというところです。 ○福井委員  このカリキュラムの作成にかかわった者として、1つだけ補足させていただきます。 症状、頻度の高い症状、緊急を要する症状・病態、疾患などについて卒後3年目以降の 医員に経験したかどうかチェックしてもらったところ、頻度の高い症状34項目あります が、6名の医員が91%から100%の幅で経験しておりました。  緊急を要する症状・病態については82%から100%疾患・病態については、72%から9 0%の範囲で、経験していて、無理な項目ではないと考えております。 ○山口委員  2点教えていただきたいのですが、「研修協力病院」と書いてありますが、これは大 学の関連病院と理解すべきなのか、それとも全然それとは関係なしに、指定基準はまだ 決まっていませんが、それをクリアした研修指定施設というふうに理解すべきなのか、 その点はいかがなのでしょうか。  2点目は、8頁と9頁に診療計画云々といろいろ書いてあります。ここでやる社会復 帰、在宅医療、介護の問題、あるいは社会福祉施設、地域保健といろいろ書いてありま す。これは、現在の大学病院では不可能な分野ではないかと思うのです。それは、研修 協力病院でやってもらおう、ということなのでしょうか。 ○田中氏  1点目は、35頁の「質の保証」のところに書いてあります。病院群の構築の中に、研 修協力病院というのは大学の関連病院ということでは規定していません。中には複数の 診療科・部門に、研修医をローテーションをさせる病院もあれば、いろいろな診療所と か、ある特定の領域をメインにやっている所に協力をお願いする。そういうのは、卒後 研修センターが主体的に、いろいろな所をお願いするという仕組みです。厚生労働省の 臨床研修指定病院でない病院についても、ガイドラインがきちんとあればそういう所も 協力しましょうということです。 ○山口委員  いまから厚生労働省が考えて指定基準を作るときに、8頁と9頁に書いてある社会復 帰、在宅医療、介護云々と書いてありますが、こういうところをクリアできない研修協 力病院を大学が関連病院として持っていた場合にはどのようになさるのですか。 ○田中氏  私たちがつくる卒後臨床研修センターでは、こういう所もアーリーエクスポージャー も非常に重要ですので、そういう所に短期間行って、実際にタッチさせるというような プログラム作り、また、それを全国の卒後臨床研修委員会できちんと評価していこうと いう、質の保証が重要な項目になります。 ○山口委員  関連病院という感覚はあるけれども、それは質を担保していないと、この研修協力病 院として大学は認めないというのが基本的な考え方だ、というふうに理解してよろしい のですか。 ○田中氏  はい、そのとおりです。 ○山口委員  社会福祉施設と書いてあるのは、いまは保健施設、介護療養型医療施設といろいろな 介護保健施設があるのですけれども、そういうもの全般を指すというふうに理解してよ ろしいのですか。 ○田中氏  はい、そのとおりです。 ○山口委員  ヘルスケアの分野についても、大学病院は公衆衛生の教室をお持ちですから、そこで いろいろおやりになると思います。実際の現場は、保健所や市町村保健センターがあり ますが、そういう所との連携プレーというのもお考えなのでしょうか。 ○田中氏  当然入ってくると思います。研修医側から、こういうことをやりたい、ということも 必ず出てくると思います。そういう場合に、卒後臨床研修センターが、こういう行動目 標を持って評価しながら、そこに行きましょうという仕組みだと思いますので、これは 十分可能だと思います。 ○矢崎部会長  西岡先生、田中先生お忙しいところをありがとうございました。次に、私立大学の立 場からご意見をお伺いいたします。本日は、北里大学病院長、並びに日本私立医科大学 協会病院担当理事であられます柿田章先生、及び川崎学園理事長、そして副会長であり 兼業務担当理事でおられます川崎明徳先生のお2人からお話を伺います。 ○柿田氏  本日はお招きいただきましてありがとうございました。北里大学の柿田です。年末に ご指命を受けたのですが、私立医科大学協会には29の参加大学があります。その中に教 育担当副会長として黒川先生、卒後教育委員長に堀江先生がなっておられます。この2 人は本部会のメンバーでありますし、メンバーが話をするのもということで、北里大学 の私に会長からご指命がございました。私は病院担当ですが、現在の前に卒後教育委員 長をやっておりましたので多少はわかりますので、医科大学協会の意向ということも含 めて申し上げますけれども、かなり自分の所の状況をご報告する格好になるかと存じま すのでよろしくお願いいたします。  いま、国立大学の研修の指針が発表されたわけですが、かねがね私立医科大学でも、 議論をしておりましたが、歴史的にもいろいろな位置付けの29私立医科大学ですので 、それぞれが特徴ある方法を採っているのであるから、しばらくはそれでやる、という ことでやっておりました。しかし近々、黒川副会長を中心に基本的な指針を作ろうとい う動きがあります。  私の資料は資料2−3からです。研修医の必修化の論点は考えると3つぐらいだろう と思います。要は身分とそれなりの給与の保障、それから研修のカリキュラムをどうす るか、施設基準をどうするかなどであります。その基本のところを押さえなければ、い つまで経っても同じ議論が続いてしまいますし、医師の偏在等の議論が解決しないので はないかと思っています。その点を資料に沿って申し上げます。  資料1は平成10年度ですが、現状の私立医科大学協会参加大学の2年分の研修医数で す。当然、各大学のプログラムに従って、大学病院並びにその従たる病院で研修してい る数も含まれています。岩手医大は、2年分で37名の研修医がおりました。いちばん多 い所では慶應大学に289名ということで、相当大学間の偏在があるといった実態があり ます。北里大学では、102と分院が35と書いてあります。この中で20%が外部の大学を 卒業された方が希望してきています。  2番目の資料で、平成11年の時点で伊藤局長宛に、私立医科大学協会から、研修医必 修化に当たっては、こういうことを私学としてお願いしたいという要望書を提出いたし ました。その内容は、研修医の待遇の問題が主軸になっています。  2の最後の頁は表になっていますので、ここについて申し述べます。私立医科大学協 会29のおよそ半分弱が、昭和45年以前の古くからある私立医科大学です。もう1つの群 は昭和45年以降、つまりインターン制度がなくなってから発足した新設の医大です。  一覧表を見ると、それぞれの研修をやっておりますが、真ん中辺りにある手当てにつ いては新聞紙上等にも出ておりますように、大変開きがあるのが事実です。その手当て の名称ですが、これは身分にもかかわります。研修費・奨学金というところと、給与と いう形になっている所があります。健康保険はどうなっているかということでは、共済 等の健康保険に入っている所、個人で国保に入る所ということで、身分、給与も私立医 科大学29の中でも現状でバラつきがあります。  これは、国立大学では研修医にかかわる人件費という形で、既に何がしかが出されて いるわけです。私立医科大学は、地域の病院を含めて厚生労働省から頂戴するお金は、 施設拡充費です。実績に応じて、ストレート、ローテート、スーパーローテートの場合 に何がしかということで、人件費ではありません。この施設拡充費に負担を乗せて研修 費にお支払いするということが実態として動いています。  同じ卒業生が研修を行うにしても、私立医科大学で行う現状は、こういうのが現状で す。北里大学では、15万円の給与という形で、身分は雇用という形になっています。身 分は、先般の関西のほうの大学の過労にかかわる問題のときに問題になっておりました が、身分的な問題として我々の所では雇用という形になっておりますし、そうではない 研修生という位置付けの所もあります。この辺を、研修医を必修化するに当たっては、 是非とも全国的に公平な状況で機会が得られるように、ということを是非ともお願いし たいというのが最初の話題です。  次にプログラムを説明させていただきます。各大学とも、この種のプログラムを作っ ております。北里大学の研修医の実情については、23と24をご覧ください。  北里大学は昭和45年に出来、病院は昭和46年から開設しました。その開設当初から、 この研修システムでは2年を研修医と位置付けました。その当時から、全員が有給でア ルバイトなしです。その後3ないし科によって4年ですが、ここのところは「病棟医」 という名前で、助手のランクになります。5年ないし6年が終わりますと「研究員」と いう名前を付けていますが、このランクの方々が最大7年在籍可能です。それより上が 、講師以上の「スタッフ」です。したがって、研修医を含めて病棟医まで、5年ないし 6年は全部学部ではなくて病院長の管轄で、病院で教育システムを組み、病院が責任を 持って教育をするという方式をとりました。  5年生ないし6年生になると、アメリカでいうチーフレジデントという立場を持たせ 、患者の入退院から、研修医を含めて自分の医療チームのそれぞれの心配事等を含めて 全部管理することをやらせます。現在も、看護婦のほうに患者の入退院の権限はありま せんで、登録してあるものを全部チーフがコントロールをして、その病棟で指導医と一 緒に組む形にしております。これが、北里大学の方法です。  こういったことを含めて、いちばん最初の研修レベルが、平成14年度の募集要綱です 。2枚目に研修医制度の概要ということで内容がいろいろ書いてあります。これは裏表 になってパンフレットにして、各大学、あるいはあちこちに配って研修医に案内すると いうものです。  1つは「公募でやっている」ということを明記してあります。24頁の右の上から書い てありますように、「組織上は病院長直属である」ということです。3番として、「研 修期間は原則として2年とする」ということは、落第もあるという意味です。4番は、 「研修医の初期研修プログラム、研修カリキュラムに従ってローテートもしくはスーパ ーローテートにより行うということです。5番目は、「研修医として研修を修了し、引 き続き研修を希望する者は、選考手続を経て、病棟医として3年間云々」と書いてあり ますが、これが先ほど申し上げた、次のランクの所への準備です。継続を希望しない研 修医は、そこで他に移る人もあります。  診療科については全科ですが、応募人員はプログラムに明記と書いてありますように 、全員有給で定員制を敷かざるを得ない事情にあります。2年分でおおよそ200近く用 意しておりますが、基本的には例年2年分で140前後で、年間70前後となっております 。資格ですが、これは当然書いてあるとおりです。処遇は給与プラス諸手当をお出しし ますが、ボーナスは、残念ながらお出しできません。11月ごろに応募書類いただきまし て、試験をします。試験といっても大方面接ですが、試験をしたうえで入れるという形 をとっております。  ここで、現時点でローテートを明記したのは、ここ2、3年の研修必修化問題が出て からで、基本的に従来はストレートだったところが問題点として現在も残っております 。この件については、後ほど黒川先生からもご説明があると思いますが、先年来黒川先 生のご提案で、神奈川県の三大学、私どもと東海大と聖マリアンナ医大はお互いにプロ グラム交換をしようということになりまして、内科はスタートいたしました。希望があ れば行くという形で、残念ながら昨年は出ませんでしたが、それをオープンマーケット にしたりしています。  研修システムは、ご承知のように私立医科大学というのは、1,000ベッドレベルで、 私どもも東病院を合わせても1,650です。慢性難治疾患を含めて相当数の患者さんがお られますので、特定機能病院の本院のみならず、その種の病院を含めて地域の病院、も しくは近隣の相模原国立病院等にお願いをして、研修医が行くこともありますが、おお よそ1,650の中をローテートすることで動いているのが現在の状況です。今後改変の必 要があると思います。  前に戻ります。プログラムの前の4の、卒後教育カリキュラム平成13年度の1頁から 説明いたします。現時点でローテートが導入できました。ローテートの方法は、基本的 にまずそれぞれの科に所属します。内科には9つの専門内科がありますが、どこどこに という形で所属はしません。全部内科を回ったうえで、3年生になってそれぞれの専門 科をチョイスするという形をとっております。6頁をご覧いただきますと、研修方式が 書いてあります。これは外に出しているものですから、実際に1つの例として、総合診 療方式もここに書いてありますが、ここへはまだなかなか応募者がないのが現状です。  11頁をご覧ください。11頁は研修医が見て、自分はどこまでやれるかということが明 記してあります。つまり我々の大学の研修方式は、アメリカのレジデント方式と同じで すので、研修医が入りますと、たとえよその科の方が外科にお越しになっても、外科の 研修医としてはいちばん下の位置付けになります。したがって、診療チームの一員とし て受持医という立場ですが、実際の診療範囲は全て指導医の指導の下でやるということ になります。したがって、当然自分の患者さんに対しても、各科との調整その他も含め て、癌のように大変な患者さんに対しても受持医としてやります。医療事故の問題もあ りますので、かねがね主治医、受持医ということは就業規則にきちんと明記してありま す。研究員以上、すなわち、7年以上のスタッフになった人が主治医です。必ず1患者 について1人が付いて、病床には主治医プラス受持医の名前が明記してあります。  後ほどお読みいただきたいと思いますが、どんな業務をそれぞれがするかということ ですが、いちばん下の最初の業務を各チームごとに、言ってみれば屋根瓦方式で、1年 上の人が下を指導しながら、最終的には主治医である指導医の指示に従って医療医チー ムを決めるという形を、30年間とってきたのが実情です。  概ねこんなところですが、病院長に人事権がきちんと決まっておりますので、病院の 中に事務部門として教育研修係がいることが1つと、各科の代表による卒後教育委員会 がありまして、カリキュラム等は7、8人のメンバーで組み上げて、来年のプログラム と募集人員を決めます。病棟医までの6年間は、修練の具体的な報告書を毎年教育研修 係に、それぞれの主任教授、あるいは科長の認印をいただいたものを提出させます。17 頁に書いてありますが、報告書という形で出させます。いちばん右側に科長の認めがあ ります。どういう症例を実際にどのぐらい経験したかということを、全例報告させます 。それは、何月何日からどういう研修をしたかも含めて、全部報告させるようにして、 それを全部病院の中にファイリングしております。それを見て卒後教育委員会が進級を 可とするか否とするかは、これは従来やっていることで、場合によっては研修医を3年 もやる人もいます。そういう形での評価を続けております。  それがいまの北里の事情で、これはおそらくこれからお話いただく川崎先生の場合も 同じだと思います。今回ここでご議論をいただく研修必修化にかかわる将来像について ですが、問題はいかに2年間の指導研修カリキュラムを作成するかにかかっていると考 えます2年間実地に経験しても、彼らが2年分でどこまで教育を受けられるか。そして 、将来それぞれの領域に進んだとしても、どれだけの基礎的知識・裁量をつくり得るか ということです。2年間であれもこれもさせたいわけですが、実際に現場に入って経験 をしながらということになりますと、どうしてもいまの私どものコア方式の、内科の人 は外科へ、外科の人は内科のどれかをという形でチョイスするのが限界のようで、ぐる ぐる回られると見学者になるという問題がありまして、その辺がこれからのステップに なっています。  私どもの大学ではここまでが現状です。これから研修医がそれぞれオープンに動き出 しますと、我々として補正をかけながら近隣大学、あるいは全国的なシェアで一緒のネ ットで動く形に移行することは、いつでも対応できる状況にありますが、私は2年間で どこまで要求するかというところが、多分ご議論いただくポイントだろうと思います。 詳しく言えばきりがありませんが、プライマリーケアといいましても、余り目標を高く すると2年分の教育ではなかなかそこまで、自信を持って彼らがやれる時期まで指導す る時間があるかどうかも問題です。されば緊急の事態に至ったときに対応できるか。少 なくとも医師免許証を持った人としてふさわしく対応できるところの2年間の初期目標 点を決めたうえで、プラスアルファーの後期の何年かのトレーニングが必要であろうこ とは間違いないことだと思います。その辺を是非とも議論していただいて、何らかの結 論をと思います。  我々の大学ならびに私立医科大学協会も、これから全国的な意味でのいろいろな目標 点をもう一度再検討するわけですが、私が申し上げたこととそう違わない形で、私学は おやりになっていると理解しております。以上です。 ○川崎氏  川崎医科大学の理事長をしております、川崎明徳です。こういう機会を与えていただ きまして、ありがとうございます。いま柿田先生がお話になったことと、ほとんど私ど もも違いません。この分厚い資料ですが、これは臨床研修と後期の臨床とを一緒にして あります。8頁目をご覧いただきたいと思いますが、これが私どもの最初の2年の臨床 研修とそれに続くシニアレジデント制度ですか、最初は3年制でしたが、途中から4年 制になりました。2プラス4の6年間で臨床研修をやっています。臨床系の大学には2 年間の臨床研修が済まないと入れないことにしておりますが、逆に大学院で研究が済め ば、シニアアレジデントに戻り、兼務ができるという制度にしております。  9頁はローテーションの計画ですが、先ほど柿田先生がおっしゃったように、内科系 、外科系を中心にして、総合方式ではない、いわゆるスーパーローテート、もしくはロ ーテートでやっております。2頁目に戻りますが、20年程前から正式にこのプログラム をつくりまして、2年に一度改定しております。約20年間で1,000人ぐらいの方が課程 を終えて研修医の認定証を発行しております。  石井会長から、地方の私立医科大学の事情を話すようにということですが、やはり都 会と地方とでは卒業生が学校に残る率が非常に低くて、100人卒業しても少ない年は30 名ぐらいしか残りません。多い年でも50名ちょっとぐらいです。ローテーションがうま く続かないケースもありますが、かなり密度の高い研修をやっております。大学病院で はいい研修が行われていないのではないかと言われておりますが、私どもはこの20年間 、かなり質の高い卒後臨床研修をやってきたと思っています。  そのためには、やはり身分の問題、給与の問題があります。資料2−4で私どもの大 学では非常に安い給料ですが、1年目は年収が200万円ぐらいで、2年目は240万円ぐら いを出しております。それには健康保険、雇用保険、労災保険も全部入っていますし、 所定福利費も負担しております。非常に少ない額ですが、年間5万円の学会出張費も出 しております。先ほど柿田先生が言われたように、非常に低い奨学金なみのところと、 まあまあ出しているところと、2つに分かれておりますので、私学の中でもいろいろ立 場があります。  私は卒後研修制度が義務化されることは、非常にいいことだと思っています。亡くな られた寺松先生が局長をしておられたころ、多分今田さんが医事課長だったと思います が、私立大学協会の幹部と話し合いを持ちたいということで、身分、特に給与について は責任を持つから、この制度は絶対反対しないでくれと。私はちゃんと覚えています。 その寺松さんも亡くなってしまわれたし、代々局長さんも代わり、医事課長さんも代わ りました。前の課長さんからも、今度義務化の法律が通るときには、お金のことについ ては絶対責任を持って処理するから、賛成してくれと言われておりますし、このことは 今回が最後のチャンスだと思います。というのは、身分とかお金の裏付けがないまま、 法律ができているわけですから、16年にスタートしても、形だけが走ることになります 。実体はアルバイトの禁止をすることができません。  先ほど国立大学の先生から大変いいマニュアルを見せていただきましたが、私は国立 大学、公立大学、私立大学がこんなものをつくるというのでは駄目で、やはり国公私立 を合わせて厚生労働省の指導で初めから一本化して、全部同じことをするのではなくて 、2年間にこれだけはやりなさい。例えば6カ月間は自由な時間があって、あとの1年 半でこれだけはきちんとやりなさいというような、標準化を是非やっていただきたい。 それでないと、みんなが好きなことを言っていたのでは始まらないのではないかという 気がいたします。  先ほども話がありましたように、日本の卒後研修は大変いびつだと思います。母校で8 0%以上の方が残って研修を受けたり、医科大学附属病院で卒業生の80%近くの人が研 修を受ける。いい臨床指定病院でもたくさん研修をしておられますが、これをもう少し 定数をきちんとしなければいけないのではないかと。アルバイトをしないでフルタイム で、ある期間きちんと研修をして、研修をした病院の院長さんの責任で研修証明書を出 していただくと。というのは、医籍に登録されるわけですから、非常に責任があると思 うのです。大学を卒業して国家試験に通ることと同じことですから、これを是非おやり いただきたいと思います。  医科大学附属病院が諸悪の根元のように言われておりますが、必ずしもそうではあり ませんで、真面目に研修をしている大学病院が多いのです。一部の大学では非常にたく さんの方を、研修不可能な人数で取っておられて、人材派遣業のようなことになってい るところもあるように聞いておりますが、なかなかそういうことはこの場では申し上げ にくいことですが、医科大学附属病院には指導をされる先生がたくさんおられますので 、いい教育が行われていることを強調したいと思います。  それから、国と公立と私立では経営者が違います。国立の場合には臨時の非常勤公務 員という形で、日当が出ております。公立も同じです。私立の場合には職員として雇っ ているケースと、全く勉強に来ていて、給与も2万5,000円ぐらい出しているところも あります。ですから身分の問題で、この間関西医大でいろいろ苦労なさいましたが、現 実に病院では研修医も第一線で働いておりまして、医科大学附属病院でも研修生がいな かったら成り立たない状態です。ですから、そういうことも認識していただいて、義務 化が始まったら研修医の身分の問題をはっきりしていただきたい。例えば最低賃金が適 用されるかされないか。実際にはされるようです。それから、義務化に伴うアルバイト を禁止する場合には、国の責任で処遇をお願いしたいと思います。  臨床指定病院の基準の見直しとか、病床数、大体私学の本院だけで3万床ぐらいで、 国立も同じぐらいではないでしょうか。実際の可動病床に対して研修医がどのくらい受 け入れ可能か、本当は少ないほうがいいのでしょうけれども、とてもじゃないですが外 国、特にアメリカのように症例をたくさん持つことは日本では困難だと思います。急に 大学から研修医の受け入れをうんと減らせと言われると、大学は大変困る。ですから、 やはり5年計画とか年次計画でだんだんにやっていただきたいと思います。以上です。 ○矢崎部会長  ありがとうございました。だいぶ具体的なお話がありました。 ○杉本委員  いま川崎先生の話の中にありましたが、研修医の数についてのお考えを伺いたいので すが、質の高い研修を保証するためには、研修医の数というのはどのぐらいがよろしい のか。あるいは数を決める基準についてのお考えを聞かせていただけませんか。 ○川崎氏  これは非常に難しい問題だと思います。指導医がどのぐらいいるかという問題もあり ますし、ベッド数だけで決めるということは難しいと思います。2年間で症例数をたく さんこなしたりしますと、最低でも1人20床、あるいは40床ぐらいではないかと思いま す。あまりこれを厳しく大学附属病院の本院に適用されますと、少ない人数しか本院で は研修ができません。  先ほど国立大学の話がありましたが、関連病院とか何とか群とか、ぼけた形になって しまいます。私はそれよりは臨床研修指定病院をたくさん厚生労働省がご指定になって 、たしかにいまは規制緩和の時代ですし、市場原理ですから、いい研修をする場所、い い地理的な場所、給与の高い所、あるいは研修が済んだあとの面倒見のいい所に学生が 集まっていくのは当たり前だと思います。それを無制限に取れるというのは私はまずい と思いますので、然るべき定数を設けるべきだと。ただ、一遍にやられると大学も困り ますので、それを理解していただきたいと思います。 ○櫻井委員  同じような質問ですが、柿田先生がお示しになった平成10年度の研修医の数ですが、 これを拝見しますと少ない所は38名、多い所は293名もいます。これに関しては、研修 の質的観点から私立医科大学協会で問題にしたこと、またはなったことはありますか。 ○柿田氏  これはいままでは、少なくとも議論はあまり表ではされていないと思います。差があ るのは各先生方もご存じだと思います。先ほど川崎先生のご発言のように、川崎先生の 所は少ないですが、あなたの所はなぜ多いのかという話が個別にあることは承知してお ります。 ○相川委員  いまの話に関連して、平成10年度の研修医数の表だけを見ますと、たしかに慶應義塾 がいちばん多くて、私はたまたまそこに所属しております。私は慶應の立場を代表して いるわけではなくて、この委員として出ておりますが、数字の読み方がありまして、例 えば、外科に所属する人は2年目は関連病院に全部回ります。外科に入局する者が1年 に30人いますと、2年目は本院にいなくて関連病院に回っていて、それもこの数に入っ ています。関連病院で研修をやっている数がそのまま大学病院の中に入っているだけで はありません。例えば伊勢慶應病院とか、月が瀬リハビリテーションセンターとか、そ ういう所にも研修医を回している数も、こちらに入っています。ですから、この数もそ の辺のところも読んでいただきたいと思います。決して慶應が少ないとは言いませんが 、関連病院での研修はかなり充実しているということもご理解いただきたいと思います 。 ○柿田氏  言葉が足りなかったかもしれませんが、先ほど私が申し上げたのは所属在籍者がこれ ですと申し上げました。研修は2年間フルにやっている私立医科大学と、いまのように 2年目は地域の病院と連携してやっておられるところがあります。我々の大学は各科の 定員を出しまして、この範囲内でやっておりますので、いま百いくつになります。です から、必ずしもこの表は全部ここだけにいるという表ではありませんので、予め申し上 げておきます。 ○三上委員  お尋ねしますが、私立病院協会としては今後臨床研修の義務化に当たって、ストレー ト研修に対してはどのように考えていらっしゃいますか。 ○柿田氏  これは黒川先生がお答えになったほうがいいと思いますが、私はストレートというの は極力排除する形で動いておりますので、まずなくなると思います。ローテート、もし くはかつて言うスーパーローテートの方式になるだろうと思います。 ○三上委員  私立大学病院協会で統一したものができているというわけではないのですか。 ○柿田氏  現時点では、統一化した方法はとっておりません。 ○黒川委員  ストレートの話はたしかにそうだと思いますが、私立医科大学は国立と違って授業料 が高いです。学生さんの現状を申し上げますと、医師の免許を持っているので、うちは クラークシップがかなり充実しているから、卒業したときに実務ができるようになって いますが、そうではない所だと、例えば眼科や耳鼻科指定の人がいて、それをやるんだ と決めている人が結構います。なるべく早く腕を上げて跡を継ぎたいという方がいます 。それはやむを得ないと思いますが、そういう人たちはストレート研修でないと、早く 終わらないと損だというか、早く帰ってきてほしいというのがあります。  うちはストレート研修を許していませんので、非常に困ります。というのは、何でも オールランドに、エマージェンシーでも何でもできるようにしようと思っていますが、 そうなると何が起こるかというと、うちの耳鼻科には来ないで、よそのストレート研修 をやらせてくれる所に行って、さっさとうちの跡を継ぐことになります。医師の免許を 持っている人はそれでいいのかと、国民が納得するかの問題だと思います。 ○星委員  確認しますが、それぞれの大学で状況は違っていて、1つの見解に達していないとい う印象を受けました。2度同じことをおっしゃいましたが、いま研修医が来なくなると 困ると川崎先生がはっきりおっしゃっていましたので、何が困るのか、どういうふうに 困るのか。将来はこうすべきだけれども、いまやられて困ることは一体何なのか、はっ きりさせていただきたいと思います。 ○川崎氏  何が困るのかというよりも、現実に卒前研修の5年、6年のベットサイド・セティー チングの場にも、臨床研修医が大学の中にいるということも非常に大事です。それから 、その上にシニアがおります。そういう積み重ねで研修が行われておりますので、卒前 の教育にとっても非常に臨床研修医は大事な存在だと思います。  それから、私どもの病院では臨床研修をやる人は医師の免許も持っておりますし、第 一線で外来、特に入院患者を中心に戦力として頑張っております。これは事実です。大 学から2年間研修は全部よそで行って、それから大学に帰ってくる制度になると、大学 は大変困ると思います。 ○星委員  実務者がいなくなるからということですか。 ○川崎氏  それも含めてです。 ○黒川委員  もう1つは、イギリスやアメリカの教育のすごくいいところは、学生のクラークシッ プもそうですが、上級生が1つ下の人を教えるというチームをつくって、マルチレイヤ のティーチングをするというのは、すごく大事なのです。だけど、日本の病院だとどう しても助手から学生、助手が研修医という、非常にハイライキアルな構造があるので、 そういう意味では大学といろいろな病院とのネットワークも大事ですが、学生と一緒に やれるというレイヤをどんどん形成していくほうが、普段の実力を上げるのには非常に 大事だと思います。労働力として必要なのではなくて、医者を育てるのにそういうレイ ヤが非常に大事だという意味です。 ○福井委員  その事に関連して、研修医が受け持つことで、患者さんのケアの質もよくなることも 報告されておりますので、決してマンパワーという理由だけではないと思います。 ○辻本委員  北里の場合ということで資料を拝見してのご質問ですが、11頁の研修医、助手勤務の 指標の中に、受持医、主治医という言葉が出てきております。2年間は受持医というこ となのでしょうか。この辺りを患者さんにはどのように説明をしていらっしゃるのかと いうことを、一言ご説明いただきたいと思います。 ○柿田氏  先ほども説明しましたが、主治医というのはいわゆる病院長管轄の病棟医で、6年生 なり5年生よりも1つ上のスタッフのレベルを主治医といたします。これは必ずマンツ ーマンで患者さんに付くようになっています。先ほど申し上げたつもりでしたが、ベッ ドサイド、カルテ、あらゆる所に受持医と主治医を明記しております。ベッドに主治医 なにがし、受持医なにがしと書いてあります。 ○辻本委員  その違いを患者さんが理解できるような説明はしていただいているのでしょうか。 ○柿田氏  何年生ということはあえて申し上げていませんが、患者さんはもちろんご存じです。 多くの場合、患者さんは苦情を受持医に非常に親しく慣れていきます。先ほど黒川先生 がおっしゃったレイアトウレイアで上が1年下を教えながら一チームでいくという訓練 というのは、私は外から北里大学にいきましたが、非常にうまく、これがいちばんいい 感じではないかと思います。  ただ、1年生か2年生が大学に絶対いなければならないとは私は思っておりません。 それは3年生からでもかまいませんが、医師のスタートの所に、指導性を持った人たち のコントロール下で、しかも1年上の人がどうやって直に教えられるか、こういう環境 が我々のような所は持てます。したがって、いなくなっては困るのではなくて、非常に いい環境で教育できる可能性は自負しております。 ○内村委員  説明の中に、スーパーローテートをやると見学者になってしまうというご意見があり ましたが、具体的にどういうことなのでしょうか。 ○柿田氏  ご承知のように、外科というのは、心臓、呼吸器消化器、外科学一般などがあります が、たとえば糖尿病を理解できない外科医が手術をするわけにはいかないので、糖尿病 の勉強をしますが、眼科もあれば耳鼻科もあればということになりますと、従来の形で 全科を回ると2、3カ月ずつ動きます。私どものインターン時代は、すべての科を勉強 した経験があります。私はいま矢崎先生の東京第一病院でやりまして、大変いい経験を したと思いますが、いまの北里で見てみますと、あまり短期ですと。どうしてもお客さ んになります。患者さんとの接点もなかなか難しくなります。  したがって、ある程度科を絞り込んで外科系、内科系プラス小児科、救急というとこ ろかと考えます。救急は私どもは3次ですから、2次の患者は各科が見に来ます。そこ で外科にいる人が見るという形になります。目標点と期間という点で、ローテーション があまり短か過ぎるというのは、いささか工夫がいるかと思います。 ○内村委員  研修の先生が多過ぎるということでもないのですか。 ○柿田氏  幸い私どもの病院は、私が前におりました大学病院の手術数に比較して、外科でも手 術数は、倍あります。患者数はものすごく多いので、70人前後ですと、各科に研修生が もう少しいてもやれると思います。先ほど申し上げたように、施設の質と到達点を満足 できるプログラムの工夫について、どうしたらいいかというところがあると思いますが 、、施設認定はベッド数だけでも駄目ですし、指導医の内容と指導性、システム等を評 価したうえで研修施設をお決めいただくのがいいかなと思っています。 ○矢崎部会長  柿田先生、川崎先生、貴重なご説明をいただきましてありがとうございました。時間 が参いりましたので、次の関係者の方にお願いしたいと思います。  次に、公立大学の先生からということで、奈良県立医科大学学長でおられます吉田修 先生からご説明をしていただきます。 ○吉田氏  私は平成5年から4年間、京大で病院長をやっておりまして、その関係で国立大学医 学部附属病院長会議の研修問題の委員長を務めてました。  それから、昨年の10月まで、日本赤十字社和歌山医療センターの院長を務めておりま した。つまり、臨床研修制度の実際を第一線の病院という立場で経験しております。そ して、昨年の10月から奈良県立医科大学という、公立大学の学長を務めているという変 遷を経ておりますので、そういう経験から総論的なことを初めに申し上げて、最初にご 説明のあった国立大学附属病院長会議の指針について、少し公立大学のほうからのコメ ントを加えて、最後に公立大学の立場から意見、あるいは現状を説明いたします。ただ 、この3つの経験の中で公立大学の学長という経験はまだ3カ月で、いちばん経験があ りません。少し調べてきましたが、十分とは言えません。それから、さっき某先生が私 に、京大あるいは日赤、公立と環境が変わるたびにいろいろ発言も変わるのではないか と言われましたが、環境が変わって変化するのは進化するということだと、そのときに そう切り返したらよかったなと考えております。  今回の改革は、オーバーに言いますと戦後の医療制度の改革の中では、私は最も重要 なものであるととらえております。ご存じのように、昭和42年に42青医連が中心になっ て、インターンをボイコットしました。彼らも還暦に近い年になっています。そのとき にインターン制度をやめてしまおうということが、全国医学部長、病院長会議で1回決 まりました。しかし、厚生省のインターン制度協議会で非常に激しい議論があって、日 野原先生、沖永先生、武見太郎先生方の主張によって、インターンというのはもともと 制度が悪いのではなくてやり方が悪いのであるという考え方から、現在の研修医制度が 出されました。しかし、義務化されていなかったということが大きな問題で、それがず っと今日まで続いています。  何がいちばん大きな問題かといいますと、今の多くの若い医師は「すべての医師に求 められる基本的な臨床能力が身に付いていない」ことでありこれを実感することがよく あります。例えばインド地震のときの医療救援活動、あるいは現在のアフガンの難民救 済等で、国際医療救援を行う場合に、日本の医師を派遣する場合に、オールラウンドブ レイヤーが非常に少ない。アメリカの場合にはほとんどが、例えば脳神経外科の10年ぐ らいの中堅医でも、産科婦人科のプライマリーケアは、きちんとできますが、日本で外 科系の医師を求める場合に、脳神経外科は外科系だからどうかというと、開腹手術を1 回もやったことがないというのが現状です。そういうことを変えようというのは、これ は当たり前な話ではないかと私は前から思っております。  今回の必修化はあちこちに大きな影響を及ぼすと思います。1つは、あの激しい学園 紛争をもってしても崩すことができなかった医局制度が、これを動機にして何年か先に 崩れる可能性があります。それはやり方にもよります。それにはマッチングプログラム をやることが必要で、これは先ほど櫻井委員から発言がありましたが、これをやらなけ れば今回の改革の意味は半減すると思います。これが黒川先生がよく言われる、混ざる ことと交じることの効果がこういうことによって出てくる。  もう1つは、ハード、ソフト両面において卒後臨床研修に出てくる。非常に熱心な医 療機関は、優秀な研修医が集まります。ソフト、ハード両面においてきちんとしたこと をしていない医療機関との間に差がつきます。優秀な研修医が集まるところは、その病 院の評価が高くなることと同時に、病院の医療のさらなるレベルアップにつながるとい う意味で、大きな影響を及ぼすものであるというふうにとらえております。  先ほどの国立大学附属病院長会議の必修化に向けての指針ですが、これは私は非常に よくできていると思います。ただ、率直に言わせていただくと、大変よくできた答案と いう感じがします。もう少し注文をつけたいところがいくつかあります。1つは、研修 内容ですが、症状、病態、疾病をリストアップしているのは結構ですが、90%、70%を 経験することが望ましいなんて、これは「すべて経験すべし」と書くのが当然ではない かと思います。  もう1つのネックは、コア・ローテーションです。これも櫻井先生からご発言があり ましたが、私もそのとおりだと思います。サブスペシャリティのところで、プライマリ ケアのところで、一般内科、一般外科の研修ができるはずがない。だから、病院群をつ くって、そこの病院群でそれを補ったらいいというふうな話があるわけであって、大学 病院で無理してサブスペシャリティで一般内科、一般外科をやることは、せっかくの必 修化がおかしな方向に行ってしまうということを、大変危惧します。  それから、救急部のことですが、救急部のローテーションは少なくとも週単位と書い てありますが、週単位で救急に行って一体何をするのか。これは月単位のミスプリント と解釈したいぐらいです。もう1つは、救急でブロックローテーションをやるというの は、これも当たり前だと思います。  研修体制の問題ですが、「研修医は特定の診療部門に所属しないで、センターに所属 する」ということで、これをやらなければ駄目だと思いますし、その中に書いてあるこ とで、これも先ほど議論がありましたが「大学病院と研修協力病院との関係はどちらが 主であり、どちらが従であるか一概に言えない」とあります。主とか従ということでは なくて、両方がきちんとやらなければならないのであって、この中であまり大学のエゴ を出さないことが必要ではないかと思います。  ただ、先ほどどなたかがおっしゃっていましたように、いきなりドラスティックにバ ッと変えるということは、いろいろな所に大変混乱を生じます。しかししっかりした目 標を持ってやらなければいけないことは当然ですし、大学病院がしっかりしなければ、 この必修化は成功しないということも、これも間違いない事実だと私は思っております 。  指導体制について1つだけ申し上げておきたいことは、卒後臨床研修センター長の権 限をもっと権威あるものにして、指示経統がきちんと行き渡るようにする、そういう構 造が必要ではないでしょうか。例えば、イギリスはディーンが2人おります。1人のデ ィーンは研修、教育のディーンで、むしろそちらのディーンのほうが一般のディーンよ り上ぐらいの権威を持っておりまして、指示系統がいきわたりやすいようになっており ます。  次は評価についてです、卒後臨床研修の質の保証のために、第三者評価機関を構築す ることが提案されております。これは大変必要なことでありまして、できればこういう ものは地域別にいくつかつくって、そこで単に卒後臨床研修の質の保証だけではなくて 、その他いろいろ、研修指定病院をもっと拡げるように審査すべきだと思います。質の 高い研修を提供できるようなところは、ベッド数に関係なく認めるべきだと。そういう ことを認可する第三者評価機関もつくるべきではないかと思います。最初にこの指針は 大変よくできたと申しましたのに、少し厳しく言い過ぎたかと思っておりますが、いず れにしてもこれを叩き台にして詰めていっていただきたいと希望いたします。  最後に、公立医科大学の現状を申し上げますが、一言で言うならば国立大学とあまり 変わりません。ほとんど同じです。ただ、先ほど川崎先生から財政の問題についての話 がありましたが、聞くところによると年間600億円必要で、それを出す所がないという ことも聞いておりますが、ちょっと考え方を変えますと、現在でも年間600億ぐらいの お金を研修医に使っているのではないでしょうか。  例えば公立大の1つの例として、奈良県立医科大学の例を試算してみました。1人当 たりの臨床研修医に支払っている支給額は、年間約200万円です。これに当直が含まれ ます。これが約150万円です。したがって350万円は、アルバイトをしなくてもちゃんと 支払っています。私は日赤のような半公的な病院との協力も、もっともっと強く取り付 けるべきだと思います。そこでは日赤和歌山医療センターの場合1年目の研修医に対し て年間400万円、2年目は450万円で、アルバイトなしでやっております。  私立大学について、言及することはできませんが、いろいろな面から見て、それぐら いの金額は既に払っていることを考えれば、必修化は財政的にもやり方で可能だと思い ます。アルバイトについて考えますと、研修医がやっているアルバイトには二通りあり ます。1つは、研修のためにもなるし収入にもなるというアルバイトと、もう1つは研 修のためにはならないけれども、収入にはなるというアルバイトです。研修のためにも 収入のためにもなるというアルバイトは、プライマリーケアの研修に非常に役立つ場合 もあります。これをオーソライズするような工夫はできないものか。先ほど私が申し上 げた第三者による評価機関のような所で、公平に財政をサポートするという意味におい ても、研修に非常に役に立ち、しかも財政面での支援にもなるということは、オーソラ イズすることによって、打開策を見い出すことができるのではないかと考えております 。  私も随分古い医師で、私も悪評高いインターンをやったほうですが、いま考えてみま すと京都大学附属病院でインターンをやったということがそもそも間違いでありました 。午前中に行ったって何もやることはないし、午後は全部アルバイトに行ってた。とこ ろが、私は臨床研修が最も効果的で能率が上がったのは、アルバイトに行っていた病院 に大変素晴らしい先輩が2人おりまして、1人は外科の先生で、1人は内科の先生で、 外科の先生に全部教えてもらいました。内科の先生は4、5年先輩でしたが、ケースレ ポートの書き方まで教えてもらいました。1年間で大学附属病院では何も得るところは なかったけれども、午後アルバイトの病院で非常にいい研修ができて、しかも収入にも つながったという経験もあります。そういう経験のある方はおられると思います。そう いう面も考えて打開策を見い出して、必修化を適正に実行する方向に持っていっていた だきたいと考えております。  公立大学の立場ではあまり申し上げられませんでしたが、資料として8つの公立大学 の現在の現状を付けております。ご参考までにご覧いただいたらわかると思います。こ れは国立大学病院の場合とあまり大差はないのではないかと思います。時間が参いりま したので、以上で終わります。 ○横田委員  どうもありがとうございました。田中先生、西岡先生のお話は、国立大学附属病院の 立場でのまとめをしていただきました。ところが、先ほどの私立の柿田先生は、1つの 病院で研修を完結しようというお考えだったと思います。そういう意味では公立大学の 流れとしては、この国立大学の指針に沿って、あるいは両方で協議をしながら、また新 しいものを作っていくというお立場でよろしいですか。 ○吉田氏  私は個人的にそのような立場です。これを1つの大学病院でやるということは、最初 から不可能だと思っています。これは、もう10年前から使われ出した病院群という言葉 が適しているかどうか、これももう少しきちんとした整理をする必要があるのではない かと思います。主、従という言葉が出てくるのはそういうことからでして、誰が責任を 持ってやるのか、誰が主体性を持ってやるのか。「主」というのは何なんだろうと、そ の辺の協議はもっときちんとやらねば具合が悪いのではないかと思います。 ○櫻井委員  私も吉田先生のご意見に賛成なのです。それは、この際必修化の質を上げるためにも 是非、大学附属病院がこの際変わっていただきたいと思います。局長さんはいらっしゃ いませんが、私のお願いは、いま現在、大学附属病院は審査なしに研修指定を取ってい ます。これは少しおかしいと思います。  昔、医師国家試験が始まった時にこのような意見がありました。それは、旧文部省が 認めた医学校なので卒業試験合格していれば医師国家試験は必要ないという意見があり ました。それに似たところがあっておかしいのではないかと感じます。医学教育と、卒 後臨床教育というのは、かなり質的に違います。そのような意味でも厚生労働省が大学 附属病院といえども審査をした上で、研修指定をしていただきたいと思います。 ○山口委員  吉田先生、本当にありがとうございました。今日は国立大学病院また私学の大学病院 、最後に公立という立場で、吉田先生からいろいろご意見をいただきありがとうござい ました。  先ほど、横田先生が、お尋ねになった件に関連するのですが、私も従来の基準の中で 主たる病院、従たる病院というのをいかがなものかと考えています。極端に言うと主・ 従はあり得ないという認識をしています。いま先生のお話を聞いて、同じことをお考え になっていらっしゃいます。国立大学医学部の附属病院の先生方も、同じではないかと 思いながら、主たる病院は大学病院とお考えなのかという感じがしないでもありません 。その点について、くどいようですがもう一度、先生のお考えをお伺いしたいのが1つ 。 ○吉田氏  それは先生、私がお答えするより、その辺におる人が答えたほうがいいんじゃないで すか。どうぞ続けて下さい。 ○山口委員  もう1つは、この臨床研修必修化が、一応平成16年から動き出して大学の医局制度と いうのは、やはり変わりだすでしょうか。その点についての先生のご見解をお教えいた だければありがたいです。 ○吉田氏  時間がかかるかもしれませんけれど、変わると思います。なぜかと言いますと、いま マッチングプログラムをこの通りやるならば、黒川理論ですが、混ざります。混ざって 、しかもそのローテートしている時に、いいところ、非常にすばらしい、ここで自分は こういう仕事を将来やりたい、こういう医師になりたいというところが、いい病院には たくさんあります。優秀な研修医は希望してそちらへ行くと思います。従って、医局の ヒモつきでなければ将来が不安だ、ということがなくなってくると思います。少し楽観 的すぎる見方かもしれませんが。  将来は、そこの臨床指定病院なりそこの病院で、さらにいい医師を育てるためにはあ る程度、研究期間、研究することが必要だとそこの部長なりが考えたならば、逆に大学 に頼んで1年なり2年なり、研究させて欲しいと、ベーシックな実験的な研究をするの も必要かもしれないと、そういう時代がくるべきではないかと思います。ただ、いちば ん最初に国立大学の先生方が、皆そのように考えているかどうか、かつて、そこにいた 人間として、自信を持って考えていますと、言えないのが非常に辛いのですが。  ただし、あまり進歩していないという気はします。こういうことが書いてあります。 要するに、研修医で、研修協力病院での研修は、医師派遣ではなく、あくまでも研修の ためであるという文章が書いてあります。このようなことは当り前のことで、それを書 かねば通用しないレベルでは10年は進歩していないと思いました。 ○三上委員  先ほどの吉田先生の国大協の指針に対する意見に私もほとんど賛成です。ところが先 生の資料の中にある奈良県立医科大学の卒後臨床研修の必修化について、1頁の下の(2 )平成14年度の臨床研修医の受け入れについてというところで見ますと、平成14年度の 臨床研修医の受け入れについては、次に掲げる3つのパターンから選択させること、と してア、イ、ウとあるわけですが、これは何も改善に向かっていない、従来通りのやり 方にすぎないと思うのですがそれについてはどうなのですか。 ○吉田氏  私が奈良医大に行ったわけであって、私が奈良医大に行ったのは3か月前です。これ が決まったのは1年前です。だから、この辺をこれから変えていかなくてはいけないと いうことです。 ○井部委員  いまの吉田先生の話の中に、臨床研修はあくまでも研修であるということに、私は大 変こだわっているのですが、研修医が実務をするという点からすると、いろいろな指示 を出されて、それを受けて実践するという関係にある看護婦からしますと、これは1人 の医師として指示を出して、それに責任を持っていただかなければならない。それに基 づいて、実際に患者に薬を投与したり処置したりするのは看護部門であります。  研修であると言い切られてしまうと、医師としての実務家としての責任とか力量は、 どこに担保されるのかが大変不安になりました。あくまでも研修なのか、実務家として 医療を行う医師としての責任はどう関係してくるのかということです。 ○吉田氏  そうですか、分かりました。両方の要素があるという答えが一番簡単なんですが、ど ちらか1つ取れと言われたら、2年間は研修だと思っています。医師免許があるのだか ら、実務で指示をだすのは当たり前のことです。ただし、指示を出すにしても、研修の 期間中はちゃんとした指導医の元に指示を出すということを、少なくとも始めのうちは やらなくてはいけない。 ○井部委員  そこがうまくできていないんですね。ですから患者の立場からすると、未熟な看護婦 と未熟な研修医が最前線にいて、あたふたしている。優れた、熟達した医師は後方に下 がりますので、患者のその恩恵を受けることが少なくなってくる。患者さんにとっては 、患者は毎日接するのは研修医であり、看護婦であるわけです。医学は発達しても、毎 日の診療の中で恩恵を受けることは少なくなってしまうのです。 ○吉田氏  よく分かりますが、研修指定病院というのは、研修を行うべき医療機関であります。 また、一般に立派な教育が行われてないような医療機関というのは、ろくな医療機関は ないと思います。 ○井部委員  それは建て前としてよく分かります。 ○吉田氏  建て前ではなく、看護教育でもそうです。 ○井部委員  当然そうなのですが。研修や教育と、患者がうける医療の質は平行ではない場合があ るということです。 ○吉田氏  研修医が、いい指導医のもとに、きちんとした研修を受けているような病院は、医療 レベルが非常に高いと思います。だから、いま委員がご指摘の点は、きちんと解決でき る問題だと思います。 ○矢崎部会長  どうもありがとうございました。時間がきましたので、吉田先生、大変いい意見をい ただきましてありがとうございました。医療の研修で屋根瓦方式といっても、患者さん 側からはっきり見えない点がありますので、そういうことをはっきりさせるような制度 設計ができればと思います。大変、今日はありがとうございました。  今日、大学関係の先生方からのご意見と、大変に有益な説明をいただきました。時間 がきましたが、どなたか特にご発言はありますか。 ○中野委員  ということもあろうかと、今日は書き物を持ってきました。まさに、制度設計を頭の 隅に置きながらのお話が展開したように感じます。お許しをいただき、中野の制度設計 に関する基本的な考え方をぶつけて、ご批判いただくなり将来の進む方向に参考にして いただければというつもりでしたが、時間がないとのことで、お持ち帰りいただき、ご 覧いただくということをお願いしながら、議事録に載せていただけませんか。そうであ れば、私は読み上げることや説明を省かせていただきますが、いかがですか。 ○矢崎部会長  これが、いただいた資料ですので、もし事務局と検討し、次回、時間がありましたら 、議論させていただきたいと思います。とりあえずは、お預かりしておくということで ご了承いただきたいと思います。 ○磯野委員  この問題について制度設計ということで、きちんとした形の意見が出ていますので、 是非、次回お時間をいただきご議論を願います。 ○矢崎部会長  ありがとうございました。 ○中野委員  よろしいですか。次回、残念ながら私は参加できませんので、どなたかにいまからお 願いをして、中野の意見として修正、議論していただくことを合わせてお願いしておき たい、どうぞよろしくお願いします。 ○矢崎部会長  わかりました。次回は以前に横田委員から要望があった小児科関係のご意見などを伺 う予定になっています。この中野委員からの提案をどなたが、磯野委員ですか。 ○中野委員  乗りかかった舟でお願いしたいと思います。 ○磯野委員  国立大学のほうで、まとめられた意見を集約されている感じがしますので、中野先生 のご意見をよくご存じだと思われる、国立大学からお願いしたいと思います。皆さん方 の意見、今日も国立、私立、公立といろいろな意見を伺っていますが、やはり制度設計 に関する問題点というものを、今後やっていかなければ、ただ意見ばかりを伺っていて も、それぞれの意見の似た点とそうではない点もありますし、重複している点もありま す。この制度設計というものに時間をかけてやっていただかないと、時間がないと思い ます。これをきっかけに、制度設計の方向に進んでいただきたいと思います。 ○矢崎部会長  次回の予定では時間がありますか。 ○医事課長  次回は2月8日ということで、この関係で、ご意見をいただきたい団体がいくつかあ ります。せっかくご提案をいただいたので、次回でなくても次々回ということもいかが かと思います。 ○中野委員  これは部会長の職責ですので、議事の回しはお任せですが、承って質問を展開すると いうやり方に、そろそろ限界もあろうかと思います。我々も学習課程を半年強やってき ましたので、それぞれの頭の中にあるものをしかるべき表現する機会を是非いただきた いと思います。ですから、ヒアリングを続けることも大いに結構ですが、プラスの我々 だけで相談し合うという場も是非お作りいただきたいと思います。 ○矢崎部会長  どうもありがとうございました。次回の予定をお願いします。 ○医事課長  次回につきましては、日程調整の結果、2月8日の午前中ということで、お願いいた します。 ○ 矢崎部会長  それでは、本日はこれで閉会したいと思います。大変、お忙しいところをありがとう ございました。                           照会先                            厚生労働省医政局医事課                            03−5253−1111                            内線 2563,2568