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労働政策審議会(会長 西川 俊作 慶應義塾大学名誉教授)は、本日、別添のとおり、厚生労働大臣に対し、今後の障害者雇用施策の充実強化について意見書の提出を行った。
厚生労働省としては、この意見書の趣旨に沿い、次期通常国会への法案提出に向け、法案要綱を作成し、労働政策審議会に諮問する予定である。
当審議会は、今後の障害者雇用施策の充実強化について、昨年11月から障害者雇用分科会において鋭意検討を行ってきたが、今般、別添のとおり分科会意見書が取りまとめられた。
今後、この分科会意見書の趣旨に沿って、障害者雇用施策の充実強化を図ることが必要であると考えるので、この意見書を提出する。
当分科会は、今後の障害者雇用施策の充実強化について検討を重ねた結果、別紙の通りその結論を得たので報告する。
平成14年1月9日
我が国の障害者雇用の状況は、厳しさを増している雇用失業情勢の下、有効求職者数は過去最高、障害者の解雇届出数も高水準である等厳しい状況にある。こうした中、障害者雇用施策は、経済・就業構造等の変化に的確に対応することが求められている。
一方、平成9年の「障害者の雇用の促進等に関する法律」(以下、「障害者雇用促進法」という。)の改正により知的障害者の雇用義務化等が図られるともに、雇用率制度の対象となっていない精神障害者についても施策の強化が図られるなど、新たな取組が進められている。
また、平成14年度までを期間とする「障害者対策に関する新長期計画」、「障害者プラン〜ノーマライゼーション7か年戦略〜」等により、障害のある人もない人も同様に活動できる社会をめざすノーマライゼーションの理念が浸透してきており、政府の施策全般に反映されてきている。
さらに、昨年1月の厚生労働省の発足は、雇用施策と保健福祉施策との一層の連携を可能とし、障害者の雇用施策の充実強化につながることが期待されている。
このような状況を踏まえ、以下のとおり、今後の障害者雇用施策の充実強化を図る必要がある。
1.障害者の職域等雇用の場の拡大
我が国の障害者雇用施策においては、障害者雇用率制度が最も重要な柱の一つであって障害者の雇用の場の確保、職域の拡大に大きく寄与している。企業、国、地方公共団体等においては、雇用率達成を目標として障害者雇用への更なる積極的取組が望まれるとともに、雇用率達成指導や納付金制度の活用、障害種別の特性に配慮した雇用管理のノウハウの提供や職域の開拓等により、一層の障害者雇用の促進が図られることが必要である。
こうした中で、特に以下の点についての施策の強化が図られることが必要である。
(1) 特例子会社制度の活用について
特例子会社制度については、障害者雇用の実績などから、障害者本人にとってメリットの大きい制度であるのみならず、企業にとっても障害者雇用に積極的に取り組む契機となる制度として評価されるようになっている。
しかしながら、昨今の経済経営環境の変化により、特例子会社制度については、分社化による事業のスリム化の進展、持株会社制度の発展、国際会計基準の導入等に対応することが必要となっている。
こうした状況において、特例子会社制度を活用した障害者の雇用の場の拡大を目指すためには、次のような制度の見直しを図るべきである。
(2) 特例子会社と親会社の関係においては、現在、持株基準をもとに保有する議決権が1/2を超えていることを要件としているが、支配力基準に拡大する。
国、地方公共団体においても、障害者雇用の促進が期待できる場合には、権限、人的関係等において密接な関係のある機関が連携して障害者雇用に取り組むことを促すため、雇用率を合算して算定する方法がとれるようにすることが必要である。
なお、特例子会社を持たないが、企業グループ全体で障害者雇用を進めようとする企業への対応が必要との意見もあり、今後の検討課題である。
(2) 除外率制度の縮小について
技術革新、職場環境の整備等が進む中、障害者にとって困難と考えられていた職種においても就業可能性が高まっており、特例子会社制度、助成金の充実等の条件整備が図られ、さらに、障害者の資格欠格条項の見直しが進められており、除外率制度に関する状況が変化してきている。
こうした中で、企業の除外率、国及び地方公共団体の除外職員の制度は、ノーマライゼーションの理念から見て問題があること、職場環境の整備等が進んでいる実態と合わなくなっていること、障害者の雇用機会を少なくし、障害者の職域を狭めるおそれがあること等から、不合理となっている。
このため、企業の除外率については、職場環境の整備等を更に進めつつ、今後、周知・啓発を行いながら、準備期間を置いて、一定の期間をかけて、段階的に除外率を引き下げ、縮小を進め、廃止を目指すべきである。この場合、準備期間としては2年程度とし、除外率の引下げ幅としては各業種ともまず10ポイント下げることとし、一定の期間としては次の障害者基本計画の計画期間を目安の期間とすることが適当である。
国及び地方公共団体の除外職員についても、企業との均衡を考慮して、同様の方向で進めることとし、実態もふまえて機関ごとの除外率に転換を図り、縮小を進め、廃止を目指すべきである。この場合、国、地方公共団体のあらゆる職種で障害者雇用が進むことが必要であるが、国民の生命の保護とともに、公共の安全と秩序の維持を職務としており、その遂行のためには職員個人による強制力の行使等が必要であるような職員については別途の取扱いが必要である。
なお、除外率縮小により障害者雇用の拡大が図られるよう、周知・啓発を進めるとともに、次回の法定雇用率見直しの際には、除外率縮小による障害者雇用の進捗状況、障害者の就業を容易にする技術革新等の状況、関係者の理解の進展状況等についての評価を行い、所要の措置がとられるべきである。
(3) 多様な雇用・就業形態への対応について
障害者の雇用・就業については、段階的に雇用に向かう方法が活用されるとともに、多様な形態が生じており、障害者の特性を踏まえた適切な対応が必要となっている。
こうした中で、3か月のトライアル雇用を通じて、事業主による障害者雇用への理解を深めるきっかけ作りを行い、段階的に雇用につなげる「障害者雇用機会創出事業」は、成果を上げていることから、今後さらなる事業の拡大が図られることが必要である。
多様な雇用・就業形態の一つとしては、IT技術の進展等による在宅雇用・就労の形態が増加しつつあり、通勤が困難な重度障害者について、企業における在宅勤務の活用や、仕事の受発注や技能の向上に係る援助を行う支援機関の育成を行うことが必要である。
また、直ちにフルタイムで働くことが困難な障害者にとって短時間勤務は必要な選択肢であり、可能な範囲で支援の対象を拡大することが必要である。
さらに、視覚障害者等の重度障害者が、自営形態を含め就業を実現できるようにするための相談窓口の開設や、ノウハウを広く普及させるためのセミナーの開催、ITを活用した職業講習等の支援を進めていく必要がある。
さらにまた、障害者を多数雇用する中小企業等において障害者雇用の安定及び促進が図られるようにするため、こうした企業等への官公需等の発注が促されるようにすることが必要である。
なお、事業所の常用雇用以外に、短時間雇用等の多様な雇用形態が増加しており、また、在宅就労を含む自営業、障害者を多数雇用する企業等への発注により障害者の雇用・就業に貢献する場合も考えられる。これらに対して雇用率制度上何らかの対応を図ることについては、障害者雇用促進法が企業での常用雇用を進めることを目的としていることとの関係、企業での障害者雇用に与える影響等の整理が必要であることから、障害者雇用促進施策の在り方を今後さらに検討する中で取り上げるべき課題である。
2. 障害者への総合的支援の充実
障害者の職業リハビリテーションについては、公共職業安定所、地域障害者職業センター、障害者職業能力開発校等において各種の事業が展開されているが、保健福祉との連携の強化を図り、障害者の特性に合わせたきめ細かな支援の充実が求められている。
こうした中で、特に以下の点について施策の充実が必要である。
(1) 就業・生活面からの支援について
障害者の雇用を進める上で、就業面及び生活面での一体的かつ総合的な支援が重要であり、障害者が職業生活を送る身近な地域でこうした支援が受けられるよう、雇用、保健福祉、教育等の関係機関の支援ネットワークの拠点として、「障害者就業・生活支援センター」(仮称)による支援事業を全国で展開すべきである。
この場合、「障害者就業・生活支援センター」の実施主体については社会福祉法人をはじめとして、できるだけ幅広い主体が実施できるようにすることが適当である。事業の実施に当たっては、保健福祉施策における障害者生活支援事業等と合わせた事業の展開を図ることが必要である。
また、業務の内容としては、障害者に対する就業に関する相談及びこれに伴う日常生活上の相談、障害者の求職活動についての助言・相談、職業準備訓練及び職場実習のあっせん、就職後の雇用管理に関する助言・相談、養護学校卒業生のフォローアップ等が考えられる。
さらに、都道府県、市町村においても、地域の障害者への援助事業であることを踏まえ、地域の社会資源を有効に活用して連携を強める等必要な支援を行うことが重要である。
なお、障害者就業・生活支援センターの事業が適切に推進されるよう、事業内容の評価を十分に行っていくことが必要である。
(2) 職場適応のための人的支援について
知的障害者、精神障害者等について、事業所内で、就職前後を通じて、障害者の職場適応を援助する外部の専門家による障害特性を踏まえた直接的、かつ専門的なきめ細かな人的支援を図ることが有効であり、「職場適応援助者(ジョブコーチ)」(仮称)による支援を行うようにすべきである。
このため、地域障害者職業センターで就職前の支援に限定して実施してきた「職域開発援助事業」を就職前後の支援に改組発展させて、全国で展開を行うべきである。
また、地域障害者職業センターにおいては、社会福祉法人などの障害者の就労支援の経験のある機関を活用し、保健福祉機関との連携を図るようにすることが必要である。
さらに、ジョブコーチには、企業での障害者の雇用管理の経験を積んだ者を活用することが期待される。
3.精神障害者の雇用の促進
(1) 雇用支援の対象とすべき精神障害者の範囲及び支援施策について
雇用支援の対象となる精神障害者については、精神障害者保健福祉手帳の交付該当者に相当する者(手帳所持者及び申請すれば交付される者)とすることが適当である。この場合、手帳取得の促進を図るとともに、手帳を所持しない精神障害者については、プライバシーに十分配慮した把握・確認方法を構築することが必要である。
また、精神障害者に対する雇用支援を進めることを明確にするため、障害者雇用促進法上、精神障害者の定義規定を置くべきである。
精神障害者の特性に合った支援を行うため、障害者就業・生活支援センター、職場適応援助者(ジョブコーチ)の活用を図るとともに、特定求職者雇用開発助成金の支給期間の延長等の助成措置の拡充、短時間勤務の場合でも支援が行われる仕組みの導入、特例子会社をはじめとする企業での障害者雇用のノウハウの活用等が進められる必要がある。特に、障害者就業・生活支援センターを精神障害者社会復帰施設等で実施する取組を進めるとともに、他の障害者施設で実施する場合でも、近隣の精神障害者社会復帰施設等を地域の支援ネットワークの中に組み入れていくことが必要である。
また、採用後精神障害者への支援のため、実態把握を早急に行うとともに、保健、医療、福祉等の関係機関の連携を図り、相談体制の確立や円滑な職場復帰のためのウォームアップの場の確保等が必要である。あわせて、就職後の中途障害者の雇用継続を図るための事業主に対する雇用継続助成金の対象に精神障害者を加えることが必要である。
さらに、精神障害者の雇用について社会の理解を進めるため、精神障害者の雇用事例や雇用管理ノウハウ等を広めていけるよう、障害者団体等とも連携したきめ細かな啓発・広報が必要である。
(2) 雇用義務制度について
精神障害者についても、今後雇用義務制度の対象とする方向で取り組むことが適当と考えられる。そのためには、雇用支援施策の積極的展開と拡充を図りつつ、その実績を周知させることにより、当事者を含む関係者の十分な理解を得るとともに、対象とする精神障害者の把握・確認方法の確立、採用後精神障害者を含む精神障害者の実態把握等制度適用に必要な準備を的確に講じるべきであり、関係機関・組織の十分な連携の下に、こうした課題を解決するための取組を図ることがまず必要である。
このためにも、今後、こうした実態把握等の取組を行うため、関係者の参画する調査研究の場を早期に設け、精神障害者の特性を踏まえた施策の在り方も含め、鋭意検討を進めていくことが必要である。
〔労働者代表〕
いけだ よしえ 池田 芳江 | 日本教職員組合副委員長 |
いそべ ゆきお 磯部 行雄 | 日本労働組合総連合会雇用労働局次長 |
こだま ようじ 児玉 洋二 | 日本鉄鋼産業労働組合連合会中央執行副委員長 |
わかづき かずよし 若月 一義 | 全日本自動車産業労働組合総連合会副会長 |
〔使用者代表〕
あらかわ しゅん 荒川 春 | 日本経営者団体連盟常務理事 |
つじい あきお 辻井 昭雄 | 近畿日本鉄道株式会社代表取締役社長 |
にしじま みなこ 西嶋 美那子 | 日本アイ・ビー・エム株式会社 人事 AP ワークフォース ダイバーシティ 副部長 |
はたけやま ちかげ 畠山 千蔭 | 興銀ビジネス・チャレンジド株式会社代表取締役社長 |
〔障害者代表〕
いけすえ とおる 池末 亨 | 財団法人全国精神障害者家族会連合会理事 |
こだま あきら 兒玉 明 | 社会福祉法人日本身体障害者団体連合会会長 |
ささがわ よしひこ 笹川 吉彦 | 社会福祉法人日本身体障害者団体連合会副会長 |
ふじわら おさむ 藤原 治 | 社会福祉法人全日本手をつなぐ育成会副理事長 |
〔公益代表〕
さとう ひろき 佐藤 博樹 | 東京大学社会科学研究所日本社会研究情報センター教授 |
ちの けいこ 千野 境子 | 産経新聞論説委員 |
つむら あつこ 都村 敦子 | 中京大学経済学部教授 |
てらやま くみこ 寺山 久美子 | 東京都立保健科学大学教授 |
はつやま やすひろ 初山 泰弘 | 国際医療福祉大学大学院長 |
ほばら きしお 保原 喜志夫 | 天使大学教授 |
まつや かつひろ 松矢 勝宏 | 東京学芸大学教育学部教授 |
わたなべ みえこ 渡辺 三枝子 | 筑波大学心理学系(カウンセリング専攻)教授 |
・ 厳しい雇用失業情勢の下、障害者雇用をめぐる情勢も非常に厳しい。
・ 厚生労働省の発足を契機に保健福祉施策等との一層の連携強化を図るとともに、障害者の雇用の安定、促進に向けて関係者の理解と協力の下、雇用支援施策の一層の充実強化が必要。 |
1. 障害者の職域等雇用の場の拡大 |
(1)特例子会社制度の活用について
○ 親会社の責任の下、企業グループでの障害者雇用の取組が行える場合には、親会社が中心となって、特例子会社と他の関係する子会社を合わせてグループで雇用率の算定が行えるようにすべき。
○ 国、地方公共団体も、権限、人的関係等において密接な関係のある機関が雇用率を合算して算定する方法がとれるようにすることが必要。
(2)除外率制度の縮小について
○ 企業の除外率については、職場環境の整備、周知・啓発等を進めつつ、準備期間を置き、一定の期間をかけて、段階的な引下げにより、縮小を進め、廃止を目指すべき。
○ 国及び地方公共団体の除外職員についても、実態も踏まえた機関ごとの除外率に転換を図った上で、縮小を進め、廃止を目指すべき。 国民の生命の保護、公共の安全と秩序の維持を職務としており、強制力の行使等が必要である職員は別途の取扱いが必要。
○ 次回の法定雇用率見直しの際には、除外率縮小による障害者雇用の進捗状況等の評価を行い、所要の措置がとられるべき。
(3)多様な雇用・就業形態への対応について
○ 重度障害者について、IT技術を活用した在宅雇用・就労に係る援助を行う支援機関の育成、自営業を含め就業のための相談等の支援を行うことが必要。
2. 障害者への総合的支援の充実 |
(1)就業・生活面からの支援について
○ 障害者の就業面及び生活面での総合的な支援が重要であり、職業生活を送る身近な地域で、こうした支援が受けられるよう、「障害者就業・生活支援センター」(仮称)による支援事業を全国で展開すべき。
(2)職場適応のための人的支援について
○ 知的障害者、精神障害者等の職場適応を支援するため、外部の専門家が事務所におもむき、直接的な人的支援を行う「職場適応援助者(ジョブコーチ)」(仮称)による支援事業を全国で展開すべき。
3. 精神障害者の雇用の促進 |
○ 精神障害者に対する雇用支援を進めることを明確にするため、障害者雇用促進法上、精神障害者の定義規定を置くべき。
○ 精神障害者の雇用について社会の理解を進めるため、障害者団体等とも連携したきめ細かな啓発・広報が必要。
○ 精神障害者についても、今後雇用義務制度の対象とする方向で取り組むことが適当。そのためには、対象とする精神障害者の把握・確認方法の確立、採用後精神障害者を含む精神障害者の実態把握等制度適用に必要な準備、課題解決のための取組を図ることが必要。
このため、関係者の参画する調査研究の場を早期に設け、精神障害者の特性を踏まえた施策の在り方も含め、鋭意検討を進めていくことが必要。