01/12/07 第2回「不当労働行為審査制度の在り方に関する研究会」議事録      第2回「不当労働行為審査制度の在り方に関する研究会」議事録 1 日時   平成13年12月7日(金)15時から17時30分 2 場所   厚生労働省専用第17会議室 3 出席者  (1) 委員(五十音順)    伊藤 眞(東京大学大学院法学政治学研究科教授)    加藤和夫(帝京大学法学部教授・弁護士)    毛塚勝利(専修大学法学部教授)    諏訪康雄(法政大学社会学部教授)    村中孝史(京都大学大学院法学研究科教授)    山川隆一(筑波大学社会科学系教授)  (2) 行政    坂本政策統括官、岡崎参事官、清川調査官、荒牧補佐、山嵜中労委第一課長    他 4 議事概要  (1) 意見交換  ○ 初めに各委員からの意見が述べられた。  ○ ・ 地労委では、和解取り下げでも1年半、命令による場合は、2年半の処理期      間を要している。本来の不当労働行為制度の趣旨からすると長すぎるのでは      ないか。その原因としては、(1)争点整理が不十分であること、(2)争点と直      接関係のない陳述に時間を取られること、(3)十分な見込みはないままに和      解作業が継続されること等が考えられ、これらについて再検討する機会が欠      けているのではないか。    ・ 例えば、結論が明らかな事案については、場合によっては、書面審査のみで      の申立について判断するなど、書面審理の活用について検討すべきではない      か。    ・ 当事者が自らの責任において和解の意思を明らかにしない場合には、早期に      審理を実施し終結させるやり方が望ましい。    ・ 不当労働行為事件について中心的争点についての証人は、通常1,2名程度      と考えられることから、陳述書などを活用し、証人の数を合理的範囲に限定      し、実質的に充実した尋問とすべきではないか。また、特に弁護士の代理人      がついていない事件では、必ずしも交互尋問の方式にとらわれず審査委員に      よる職権尋問を積極的に行うべきではないか。    ・ 労働委員会は準司法的役割を果たすことが予定されているが、基本的には、      行政委員会であることを前提とすべきであり、民事訴訟の基本原則を過度に      意識するのはいかがなものかと考える。また命令書の内容は簡略化を前提と      して、当事者の主張を逐一整理して書くのではなく、紛争の概要と争点、争      点についての判断で良いのではないか。    ・ 最終的な判断は、公益委員会議によって決められることとなるため、審理の      途中で、担当審査委員は、具体的な心証を示すことがためらわれる。そこで      合議の時間の節約の意味でも、簡易な事件については、審査委員単独体、ま      たは少人数の合議体でも良いのではないか。  ○ ・ まず審査の遅延の原因を究明した上で、その対策を練るということが通常の      検討の方法ではないか。遅延の原因としては、昭和57年の労使関係法研究会      の研究結果並びに平成10年の同研究会の報告書において次の検討が行われて      いる。      (1) 遅延の原因としては、争点・証拠の整理等の審問準備の不十分さ等審      査手続きの運用面の諸要因、命令書作成の遅延、非常勤公益委員や補助体制      の弱さなど担い手側の諸要因が考えられる。      (2) これに対しては、調査での積極的な審問準備、審問での適切な指揮、      主・反対尋問の同一期日実施など審査手続きにおける労働委員会の主導性の      確立、事務局の強化による委員補助体制の確保などが提言されている。      しかしながら、こうした提言にそった事態の改善はほとんど進んでいないば      かりでなく、むしろ悪化さえしている。    ・ 一方で民事訴訟についても、審理促進のための種々の提言もされてきたもの      の、労働委員会の審査同様、事態の改善は遅々として進まない状況が長く続      いていたが、東京地裁・大阪地裁を中心として、具体的で実行可能な審理の      促進・充実化の方策の研究を行い、当該研究結果について、徐々に充実方策      を普及させて、審理の促進等の成果を上げていった。これらの経過の法的手      当という形で民事訴訟法の改正へとつながった。    ・ そこで、昭和57年報告など提言された対応策が、なぜ実施されていないのか      、今後こうした対応策を更に発展させた形で実行していく上で必要な具体的      な方策は何かを調査検討する必要があるのではないか。    ・ その指導理念は、審理計画の下に、争点の早期確定、委員会主導による集中      証拠調べ、見通しを立てた上での和解勧告、必要に応じた手続き面での法制      化が必要ではないか。       そうした方策をできることから実験的に実施して成果を上げていくべきで      あり、審級省略、実質的証拠の原則、新証拠の制限の導入の可否など、審査      手続面での手直の点は、このような実質的な審理の促進・充実化がある程度      達成でき或いはその目処が立った段階でそのような審理方法を前提にして更      に検討すべきではないか。    ・ 他方、一部公益委員の常勤化、研修の充実・将来処遇の改善による人材確保      、アメリカのような法曹資格のある補佐官制度の導入等を含む事務局職員の      質的量的充実化などは、なるべく早い段階で実現性も視野に入れつつ検討を      進めるべきではないか。  ○ ・ 労働委員会は、和解、調整的機能を重視して審理を進めてきたという現状に      あると考えるが、そのことが結果的には不当労働行為審査手続の遅延をもた      らしてきたのではないか。それは労働委員会の目的が労使関係の安定を目指      すということに寄与する。結局は調整的な解決にタイムリミットを置くのか      どうかについて、整理すべきではないか。    ・ もう一つの側面として、これが不当労働行為か否かについて判断を求めたい      、すなわち「シロ」か「クロ」かどうかを認定してほしいという要求がある      。      両者の要求を見極めて、当事者が和解を望むよりは判定的な判断を求めてい      る場合は、それを前提とした審理を進めた方が良いのではないか。和解はい      つでもできるが、やる場合は一定のタイムリミットを設け集中的にやる、と      いう考え方になるのではないか。    ・ さらに、もう一つは、当事者主義に立った「待ちの姿勢」ではなく、職権で      積極的に審理を進める努力が必要なのではないか。労働委員会に対する労働      側の期待、経営者側の期待が希薄になっているのではないか。      例えばフランスでは、行政(監督官)が積極的に労使間に介入して不当労働      行為的なものを排除することを行っている。我が国の労働委員会において、      例えば事務局の中に専門官的な立場の職員を置き、一定の審問等に関与する      場面で、調査権限を広めた形で指導できる権限を付与することも考えるべき      でないか。    ・ 当面の課題は、具体的な運用の問題や手続きについては、多くの議論がなさ      れており、これらをいかに実行するかということであるが、今後の将来構想      については、例えば審級省略であるが、どのように地労委の役割を位置づけ      るのかを踏まえた上で、審級省略ができるようなこととすべきである。    ・ 参与委員について言えば、参審制の話と関連するが、はたして労使参与は不      当労働行為の認定に関して積極的に関与しなくて良いのか、最終的に関わる      必要があるのではないかという意見もあるのではないか。  ○ ・ まず労働委員会側において、迅速化したところでメリットがあると考えてい      るのか。メリットがあると考えているのであれば、迅速に処理できるのでは      ないか。    ・ もう一つの問題として審査委員の問題がある。他の委員から指摘があったが      、公益委員が非常勤であるがゆえの限界が大きいのではないか。    ・ 公益委員は労働法の専門家ではあるが、裁判官と違い事実認定の能力に優れ      ているわけではなく、また最近は事件数が減少しているので、経験を積める      わけではないと考える。      こういう状況の中で、行政訴訟となった場合、命令書の信憑性の問題が生じ      、もう一度詳しく事実認定を行うこととなるのではないか。    ・ 当事者の間でも労働委員会は長くかかるという意識があり、それならば最初      から急いでも仕方がないのではないかという意識を持つという悪循環に陥っ      ているのではないか。また民事訴訟では弁護士の協力の下、期日設定が改善      されている現状をみれば、労働委員会における審問でも対応可能と思う。    ・ 審査委員の格上げをしないと具体的な手続きの面でも、信頼性の面でも労働      委員会の改善は難しいのではないか。例えば他の委員の指摘にもあるよう裁      判官の任用と人事交流についても考えるべきではないか。    ・ それから労働委員会の都道府県をまたいだブロック化はできないのだろうか      。新規申立件数が少ない地労委は、ますます経験者がいなくなってしまう。    ・ さらに早期解決のインセンティブの付与が必要である。例えばの話、迅速に      処理する委員の待遇アップ等も考えてみても良いのではないか。アメリカの      労働委員会制度を取り入れることも考えた方が良いのではないか。  ○ ・ 論点は2つあり、1つ目は行政救済の意味と存在理由、2つ目は行政救済の      構造についてである。    ・ 第1に行政救済の意味と存在理由に関しては、労働委員会の専門知識を生か      した簡易迅速・柔軟な救済を目指すものと言われる。しかしながら、他の行      政処分と比べると、準司法的手続きを取ることにより、労働委員会の処分が      簡易・迅速ではなくなることは明らかである。なぜ準司法的手続きをとるの      かという点は、実質的には当事者間の紛争だからとか、いろいろな見解が出      ているが、確固とした理由がない。    ・ いずれにしても裁判所とは別な機関を作るということであれば、コストの二      重化を防ぐ意味で、労働委員会の役割分担を明確化する必要がある。もちろ      ん現時点で採用できるかどうかは別であるが、実質的証拠法則、審級省略を      通じて裁判所との役割分担を図る方向は、コストの配分という意味では合理      的な発想であると考える。    ・ 第二に行政救済の構造という点であるが、行政救済においては、まず救済す      べきかを考え、その後、要件の妥当性を考えるという点で通常の民事訴訟と      は相違があるといわれ、また権利義務関係におけるルールは妥当しないので      はないかといわれることがある。このような発想、特に前者のような考え方      によると、行政救済の要件はつきつめると「労使関係の安定を必要とするこ      と」となるが、それは現行法の建前とは異なっている。      行政救済においても、要件と効果を考える必要があるが、それは、司法救済      の場合とは異なり、要件が満たされた場合の効果は、行政委員会の救済命令      の発布権限の取得であり、しかもその効果としての行政救済命令の中身は、      裁量で決まるということである。    ・ このため朝日放送事件(最三小判平成7年2月8日)においては、使用者性      について派遣先についても認めたが、これは派遣先を労組法第7条にいう使      用者と認めても雇用関係の成立を認めるわけではなく、派遣先についても雇      用主と同様に団体交渉を行わせていくことが妥当であるという考えに基づき      新たな「使用者」という概念を構築したものである。    ・ 以上の説明は、審査の在り方と直接関係はないことではあるが、命令書の書      き方や行政訴訟への対応にかかわることであると考える。      行政救済の構造から言えば、労使関係的なアプローチ、権利義務関係とは別      個のアプローチということを考えて、労働委員会として不当労働行為認定に      係るルールあるいは要件を明確化していくことが必要であるのではないか。      要件が明確化されていないと争点整理がぼやけてしまうのではないか。  ○ ・ 問題のポイントは、司法改革の流れの中でADR、そして労働委員会がいかな      る存在であり、いかなる特色があるかについてであろう。その中で「簡易」      、「廉価」、「迅速」、「適切」さが問われる。      「簡易か」という点は、簡易裁判所と比べて数も少なく、しかも手続も口頭      での申立もできるが実際には書類を作り、代理人を選任するという手続きが      求められるなど、必ずしもアクセスが簡易ではない。      「廉価か」という点は、申立は無料で行えるが、個人ができるかというと実      際には組合組織として代理人を立てることが一般的である。      「迅速か」という点は、申立人に対しては、簡易な事件、複雑な事件にかか      わらず、どれもこれも然るべき慎重にというスタンスで、相当に時間を要す      るのが通例ではないか。      「適切か」という点は、労使関係の将来を見据えた柔軟で適切な解決策を出      せているかということである。労側からみた評価、使側から見た評価、裁判      所から見た評価、あるいは社会全体から見た評価の中で、いろいろと評価が      分かれるよう。その結果、社会的に支持を得られているかについてであるが      、この点、もし得られていないこととなった場合、今後、政策評価として厳      しく問われることとなるのではないか。    ・ 次に審査遅延の原因と対応策を考えると、2点が大きく影響しているのでは      ないか。      一つ目は、判定機関と調整機関の二面性が混在しているとともに、さらには      教育機関としての側面も持っているということである。こうした3つの側面      の中で何が強いかというと、後二者の側面が強く、そのことが審査遅延にか      なりの影響を与えていよう。       二つ目は、駆け込み寺的機能、カウンセリング機能などの側面があるとい      うことである。すなわち、労働委員会に行けば何とかなるのではと思われた      り、とにかく話を聞いてもらえるのではと期待される面があり、単なる判定      的機能に終始できない。       また事件処理などで関係者のコンセンサス形成に尽力する労働委員会にお      いては、合意形成に関与する当事者として、公労使の委員で3者、両当事者      で2者、それに事務局を足して6者存在しており、誰が一人が「ノー」とい      うと、各種の手続き進行がなかなか前に進まない面もある。    ・ 労働委員会命令は、確かに労働訴訟よりはずっと長い処理期間を要している      が、比較すべき対象は労働訴訟一般ではなく(1)「集団事件の処理における      労働裁判」とか(2)「労働委員会命令の取消訴訟」の処理日数であろう。こ      うした観点でデータの比較を行うと、初審の処理日数と取消訴訟の第1審の      処理日数は、基本的は大きな差異はなく、再審査でより見劣りする。いずれ      せよ、迅速化の必要性は大きな課題である。    ・ なぜ時間がかかるのかというと、一つは和解指向の強さにあるのではないか      。とりわけ労使の参与委員と事務局にこれが現れている感じがする。命令を      出しても労使関係が安定しなければ、手続きのリピーターとなる可能性があ      るので何とか和解で解決したい気持ちを持っているのではないか。    ・ 事務局体制は、職員が2年から3年で異動してしまい、ローテーション人事      による専門家の欠如が迅速な処理を困難にしている。    ・ また公益委員の体制であるが、非常勤である限界がある。非法律家の場合は      判定手続きを処理するのが容易でないこともある。また法律家であっても実      務経験がないと審理の運営が困難なこともあり、実務経験者がある程度いる      ことは望ましいのではないか。加えて、せめて会長と会長代理は常勤化すべ      きではないか。    ・ 取消訴訟に関しては、中労委が中心となるが、訴訟に対応する体制を整備す      べきだと痛感する。訟務担当検事を置くとか都労委で行われているような弁      護士のサポートを付けるなどの対応を行うべきである。    ・ もっともこれらは、都市部と地方との労働委員会間では相当な違いがあり、      一元的に議論できるかどうかは整理する必要があると考える。 【意見交換】  ○ これで本日出席した委員から、ひととおり意見を伺った。残りの時間をフリート   ーキングとしたいが、その前に事務局から質問等があるか。  ○ 不当労働行為の審査手続きの在り方の議論も必要ではあるが、それのみではなく   、不当労働行為制度そのものを含め議論をして頂ければと思う。単に手続だけであ   るならば、労委規則上の問題で処理できることとなり、ここでの検討はむしろ、例   えば中労委と地労委の在り方等、手続きの事ではなく、もう少し幅広い議論ができ   ないか。  ○ 制度そのものという大所高所的な議論からいくか、それとも日常的に目の前にあ   る問題から行くか。  ○ 目の前に有る問題を議論しながら、その中で大所高所を議論するのが良いのでは   ないか。その方がやりやすいのではないか。  ○ 目の前にある実情を無視して、議論すると机上の空論になるのではないか。  ○ 例えば地労委にまで不当労働行為の審査を行わせる必要があるのかどうか。判定   は地労委で行わず、中労委において審理することも考えられる。そういう議論も必   要という趣旨であります。  ○ 労働委員会制度を見て一番最初に疑問に思ったことは、準司法的機能なのになぜ   都道府県の機関として地労委があるのかということである。    その土地固有の特色を生かすという側面がないわけではないが、救済となると、   一つの統一的な法理や基準に則り公正な立場で行うことが求められるはずだ。    スタッフも全国レベルでプールし、それぞれ適正な業務量を割り振り、研修も全   国規模で行う、そういうことが可能であるならばかなりの問題が解決するのではな   いか。    アメリカの不当労働行為制度と比較してみると、日本は基本的にアメリカの不当   労働行為審査制度を導入したのに、この点に関してはアメリカと相違がある。    公益委員の常勤の問題にしても、理想論はそうであるが、大学の先生方に頼らな   いことには質的に高い委員を確保できないのではないか。  ○ 地方分権に流れに反するような改革は難しいと考える。しかしながら地方の自治   事務を前提として、一方では、地労委の命令を中労委で再審査するのはおかしいと   いう議論もある。地労委についてなぜ判定的なものまで判断させるのかという議論   もあり、地労委は調整的機能に徹し、判定的な部分は中労委で集中的に行うという   議論もある。    ただそれが簡単にできるかというと、色々な問題がありそう簡単にはいかないと   考えるが、いずれにしても司法制度改革という大きな波の中で、労働委員会の在り   方について考えないと、その存在意義が危うくなる。  ○ 簡易裁判所の中にも事件数の少ないところがあり、地域間格差がある。全国的に   事件数に応じて適正な人員配置を行っているが、それでもなお事件数が極めて少な   いところが存在し、その場合は、繁忙地域に週のうち毎週何日か出張し、そこで業   務を行うこととしている。国である裁判所の場合はそれができる。研修にしても全   国レベルで行っている。  ○ 議論の進め方は基本的には、一つ一つ労働委員会の抱えている問題を片づけつつ   、労働委員会そのものの在り方の議論に戻る。    ただ事務局と同様の問題意識は私も持っており、労働委員会の過去からの申立件   数を見てみると、ここ数年1件もない地労委もある。そういう地労委に関しては、   忙しいという議論をしても現実性が乏しく、そうした地労委ではほとんどの職員に   審査に関した経験がない等の理由から、もし事件が係属すると長期間の処理日数を   要してしまう。  ○ 不当労働行為の救済申立て件数が少ない地域は、集団的労使紛争や個別労使紛争   がそもそもないのか。東京都など都市部に見られる話だと思うが、本来は個別労使   紛争であるものが集団労使紛争の形をとって申立てが行われる。申立てが少ない地   域では、合同労組的な団体がないため、申立もなされないのか。そのあたりを知り   たい。  ○ 両方の面があると思うが、そもそも労使紛争が少ないのではないか。今年の10月   から個別労使紛争解決援助制度が始まり、まだ施行して間もないので十分なデータ   は得られていないが、あっせんについては、東京都など大都市では数十件あるが、   0件のところもあるようである。    またもう一つの側面として、ご指摘のように地域によっては合同労組がなく、駆   け込み先がないという面もあるのではないか。  ○ 昭和57年報告では、本日、委員の方が指摘した事項の大部分が提言されている。   にもかかわらず、なぜ実行できなかったのか。原因の何であるのか。そこから議論   していきたいと考える。  ○ 先ほどの委員の指摘の中に、皮肉の意味であると思うが「迅速化してもメリット   がない。」との指摘があったが、これは当事者が労働委員会に期待していないとい   う意味なのか。単純に考えれば、本来は不当労働行為、特に団体交渉拒否について   は、迅速に判断しなくてはならないと思うが。  ○ 当事者、特に申立人は早く命令書を出してもらいたいと思っている。労働委員会   側、特に審査委員は、同様に迅速に処理しなければならない意識は当然に持ってい   ると思う。    しかしながら外的な環境として、早く解決しなければならない理由は何が働いて   いるのか、そういう問題です。    要するに公益委員は、非常勤であることから、1か月の間にどれくらい時間を割   けるのか、ということです。その期間に何件処理するかは本人にとって関係ない。   そうすると事件をこなすというインセンティブは働かないのではないか。  ○ 週2回ないし3回、労働委員会の仕事をしたが、非常勤であるがゆえの時間的制   約がある。常勤の場合は、そのような問題は起きないだろう。  ○ 参与についても同様である。例えば労側委員については第一線を離れた顧問など   であるならば問題は少ないが、現役の委員長などが兼務すると非常に多忙である。   時間的制約を受けるのは公益委員だけではない。    それからもう一つの問題点であるが、裁判所の処理が早くなってきている現状が   ある。労働組合にしてみれば紛争解決のための選択肢が広がっていることとなる。    組合側はコストを考えながら、紛争解決のための最適の選択肢を考えてきている   。判定を求める場合は、裁判を提訴し、労働委員会には和解を期待して申立を行う   ような使われ方もし始めてきている。    本当にこれで良いのかは疑問がある。  ○ 裁判でもなかなか期日が入らない、このままでいけば1年近くかかってしまうと   いうケースがある。そこで何回期日をやって、いつ頃判断がなされるのか、スケ   ジュールを出してほしいと裁判官に求めることがある。その場合、弁論や証拠調べ   の期日がいつで、その後和解をやり、それがだめなら判決を書くというスケジュー   ルがある程度確定することとなる。    非常勤の審査委員が、そこまでできるかどうかわからないが、やはり意識改革は   必要ではないか。  ○ 労働委員会では、審理計画を立てられるのか。それと裁判所での運用であるが、   多数の代理人が選任されている場合、日程調整はどのように行っているのか。  ○ 例えば3か月先まで日程が詰まっていることはないので、予め先の先まで日程を   入れることとしている。    もう一つは、裁判官の訴訟指揮にも関連するが、代理人を絞るとか、どうしても   日程が合わない場合は、代表のみの日程を聞くこととしている。  ○ 審理計画についてであるが、地労委は別として、再審査の場合は、争点が初審で   整理されているので、審問は平均すると2回から4回であり、審理計画は立てるこ   とは可能であると考える。審問処理日数は50日程度である。にもかかわらず、全体   の処理期間がこうまで長い理由は、一つは和解志向の高さだと考える。和解不成立   だと思われていても、公労使三者のうちから誰かが「もう少し」という意見が出た   りすると、なおも和解を続けてしまうところがある。  ○ もちろん継続的な労使関係を前提するならば和解を意味もつが、解雇事案の場合   は、単に当事者が合意するかしないかの問題であり、ここまで和解にこだわる必要   があるのかといった事件もある。  ○ 和解をもう1回やることの意味があるかどうかの見極めが必要である。  ○ 現状では、当事者の側から参与委員などを通じて、「もう少し和解の試みを続け   てほしい。」という意向が出されることが多い。  ○ 裁判所における和解の場合は、1回毎に求釈明したり、解決の具体案を考えさせ   たりして宿題を出している。材料がなくなった段階で双方に具体的な和解案を出さ   せた上で裁判所がその考えに基づいて双方に譲歩させ、双方の差異がもう縮まらな   いと見たときは、和解を打ち切ることとしている。  ○ 労働委員会と裁判所との違いであるが、3点ほどあると考える。    一つは、公益委員全員で合議することとなっており、審査委員の出した結論とは   違う結論になることがある。ですから心証を出しづらいことであるのではないか。    二つ目は、三者構成ということで労使参与の意見も関わる。和解について誰か一   人のイニシアチィブが取りずらく、両参与を通じて公平性に欠くことのないよう慎   重に審理を進めていくところがある。    三つ目は、和解の際に宿題を出すのだけれども、そう多くは出せないという現状   があるのではないかという気もする。    また、労働委員会の場合は50年の経験があって、こんな時はこんな風にするとか   、なかなか自由奔放に和解ができないということがあるのではないか。    それに団交を促進しなければならないという立場もある。和解を進める一方で、   団体交渉による自主的な解決も一方で促進させる必要もあるのではないか。和解と   和解の間に自主交渉を2,3回行わせるが、それだけで数ヶ月経過してしまうこと   もある。  ○ 裁判では、審理の途中での和解は、その場で出されている証拠を基にした心証で   和解することとなる。審理が終盤になり判決を書く材料がそろった場合は、判決書   の内容と近い和解が行われることとなる。どの場面で和解を行うかによって、内容   が違ってくる。この点は労働委員会と差異はないと考える。    それから、当事者に対する公平な対応であるが、当事者は対応する時間までも見   ており、「一方にあれだけ時間をかけたのだから、こちらにも同じ時間をかけてほ   しい。」旨を言われるので、ある程度は、公正に扱わなければない。この点につい   ても労働委員会と同じではないか。    それから裁判所でも相場もあるが、この事件について判決を書いたらどうなるか   を念頭において和解を進めている。    団交の問題であるが、自主的にできることは当事者間でやってもらうのが望まし   いことはいうまでもない。自主的な交渉をやった上で、最後の詰めを裁判所でやる   ということを心がけている。その点でも、労働委員会とは差異はないのではないか。  ○ 当事者は本当に和解を望んでいるのだろうか。労働委員会が無理に和解を進めて   いることはないのだろうか。  ○ 一部では、確かに和解が成立しても再度、不当労働行為を申し立てるリピーター   もいないわけではない。ただ、和解の8割から9割は、手術後の経過は良いのでは   ないか。  ○ 地労委では不当労働行為が申立られた場合、最初に和解を前提とした審理を行う   部分があるかもしれない。中労委では、最初に当事者に十分に意志確認をしている。  ○ かならずしも和解したからリピーターにならないというわけではないと考える。  ○ 裁判では和解と判決を前提として審理を同時並行的に進めている。和解が不成立   であるならば、すぐにでも判決を出すというスタンスで行うと、当事者は緊張して   和解に臨むこととなる。和解だけで審理を進むと長くなるのではないか。  ○ ADRを充実する中で、個別労使紛争の解決の場合は、判定的解決ではなく調整的   解決を行うこととなっている。一方、不当労働行為については、判定的解決と調整   的解決の2つある。窓口を2つ作るということも考えられるのではないか。  ○ 調整的解決を目指すものであっても、何らかの最終的な判定がないと代理人や当   事者に対してイニシアチブを発揮できないのではないか。    当事者には、長くかかっても和解で解決したいとい思いがはたしてあるのだろう   か。  ○ 裁判所の場合は、第三者が見た場合どうなのか、という観点に立って案を示すの   ではないか。一方労働委員会の場合は、第三者から見てどうかもあるけれども、何   よりも当事者一人一人が納得するまで続けることが多いような感じがする。つまり   和解に関しては、なかなか多数決の原理が働いていない。  ○ 裁判では、複数の中で一部の人が「ノー」という場合、その人だけを切り離して   進めることもある。しかしながら目指すところは第三者の視点ではなく、あくまで   も当事者の納得である。その点は、労働委員会と差異はないと考える。  ○ 参与委員は和解のために尽力しているが、そもそも和解のために必要なのか。    ドイツの参審制のように、むしろ和解は公益委員が行い、参与は合議の際に意見   を述べる役割に期待すべきではないのか。  ○ 組合がなぜ、この和解案を受け入れないか疑問に思うことがある。組合もリピー   ターで、代理人もリピーターの場合があり、そのような場合、組合や会社は受け入   れ賛成でも、むしろ代理人の方が過去の事件と比較して相違点がある等の理由で反   対するケースもある。    常勤化できない理由はなんであろうか。法律上はできるのかもしれないが、財政   的な問題があるかもしれない。65歳以上で現役を引退した人で、適正のある人はた   くさんいると思う。若い人は難しいにしても引退した人ならば可能なのではないか。  ○ 委員手当の水準は地労委の委員も悪くはない。また常勤化については中労委は行   うことができるが、地労委は法律を改正しないとおこなうことができない。  ○ 都労委の場合は、会長、会長代理の方は現役を引退しているので、法的な問題は   あるにしても、常勤化は可能ではないか。    裁判所の書記官の権限を拡充した。督促命令などを書記官に書かせることが可能   となった。事件概要、争点、判断の3つを書くだけでよい。争点を明確にし、集中   審理を行えば、比較的早く命令が書けることとなる。    中労委では、長期未処理事件を専門に扱う班を設けたと聞いている。長期未処理   事件が片づけば、一時的に処理期間が延びることはあるが、その後の事件処理は相   当楽になるのではないか。  (2) 次回の予定  ○ 次回は、本日欠席した委員の意見を伺い、その意見と合わせて、フリーディスカ   ッションの行うことを予定している。    なお、次回は2月6日(水)午前10時からを予定している。    照会先 政策統括官付労政担当参事官室 法規第二係 村瀬又は岩間         TEL 03(5253)1111(内線7752)、03(3502)6734(直通)