戻る 

5 平成11年財政再計算に基づく被用者年金制度の
財政検証 概要

(平成12年7月 総理府社会保障制度審議会年金数理部会)


平成8年3月8日閣議決定「公的年金制度の再編成の推進について」

 「被用者年金制度の再編成を進めるに当たっては、制度運営に関する適切な情報の公開を行うとともに、社会保障制度審議会年金数理部会に要請し、制度の安定性、公平性の確保に関し、財政再計算時ごとに検証を行うものとする。」

【基本的考え方】

年金制度の安定性

 年金制度の安定性とは、各制度の保険料率が急激に引き上げられたり、負担可能な水準を超えることなく保険料収入が確保され、各制度の年金給付が将来にわたり確実に支払われることである。年金給付は、保険料、国庫負担、積立金(運用収入を含む)により賄われるが、特に保険料率の引上げを確実に実現できるかどうかが重要な点であり、保険料率の引上げ幅や最終保険料率を検証の対象とする。

年金制度間の公平性

 年金制度間の公平性とは、基本的には、制度間で同じ年金給付に対する保険料水準に差がないことである。したがって、共済制度の職域部分を除いた場合の各制度の保険料水準と厚生年金の保険料水準とが将来にわたりどの程度の差となっているかが重要な点であり、最終保険料率及びそれに到る途中段階の保険料率を検証の対象とする。

【要旨】

○ 被保険者数・組合員数の見込み

 共済各制度は組合員数の将来見通しについて複数のケースを設定しているが、厚生年金との比較を行う必要などから、「厚生年金の被保険者と同様の傾向で減少する」場合を中心に財政検証を行う。

○ 各制度の財政状況の評価

・厚生年金
 平成11(1999)年の制度改正により、これまで34.5%と見込まれていた最終保険料率が2025年度以降27.6%(国庫負担割合2分の1の場合は2020年度以降25.2%)と見込まれ、制度の安定化が図られた。
 将来の被保険者数は将来推計人口や就業構造の変化により異なってくるため、 今後とも幅をもった複数のケースを想定して財政見通しを示していく必要がある。

・国共済
 国共済の最終保険料率は、職域部分を除くと厚生年金とほぼ同程度の水準と見込まれているが、組合員数はここ数年微減しており、また、定員の削減方針が示されていることから、今後の組合員数の動向に十分な注意を払う必要がある。
 2000年度の総合費用率は農林年金に次いで高く、組合員数の動向や積立金の運用状況によって受ける影響が大きい財政状況といえる。
・地共済
 地共済の最終保険料率は職域部分を除くと厚生年金より1割程度低くなると見込まれているが、総合費用率は、今後20年間くらいはその増加が各制度の中で最も大きい。また、組合員数はここ数年微減しており、現時点の財政状況が比較的良いとはいえ、今後は楽観できない。
・私学共済
 私学共済の最終保険料率は職域部分を除くと厚生年金より1割程度低くなると見込まれており、総合費用率は、2000年度では他の共済制度と比べて最も低いが、2050年度には最も高くなると見込まれている。また、現在の保険料率は平準保険料率の6割未満であり、他制度と比較して低くなっている。学齢人口の減少に伴い組合員数が減少傾向になることが予測されており、現時点の財政状況が各制度の中で良いとはいえ、将来は楽観できない。
・農林年金
 農林年金の最終保険料率は職域部分を除くと厚生年金とほぼ同程度の水準と見込まれているが、この保険料率は、組合員数が直近3年間では減少しているにもかかわらず、今後10年間くらいは組合員数一定という見通しを基に算出されたものであり、組合員数の直近の傾向を反映していない。
 総合費用率は最も高くなっており、2020年度までの約半数の年度で積立金の取崩しという状況が見込まれている。また、保有積立金は、これまでの組合員期間に係る年金の給付に必要な財源の2割を下回っており、将来の保険料に依存する割合が高い。
 こうしたことから、農林年金の財政状況は各制度を通じて最も厳しいといえる。今後組合員数が見通しより減少すれば、保険料率をさらに高くしなければならない。

○ 総合評価

・将来予測の重要性
 制度改正により厚生年金の最終保険料率は、年収の20%に近い水準と見込まれている。共済制度の職域部分の給付費は厚生年金の1割程度となっており、共済各制度の最終保険料率は、厚生年金の1割増程度の範囲内にあると見込まれている。
 保険料率を見込む前提となる被保険者数・組合員数について、その動向等に基づくできる限り正確な将来見通しをもつことは極めて重要である。

・制度間の公平性
 現在の保険料率は、私学共済についてはまだ13.3%と著しく低いが、その他の制度は、職域部分を含めて概ね17%から19%の間にあり、大きな差はない。職域部分を除いた最終保険料率は、国共済及び農林年金は厚生年金とほぼ同程度の水準、地共済及び私学共済は厚生年金より1割程度低い水準と見込まれている。
 このような現在の保険料率及び最終保険料率の差は、各制度の成熟化の度合や積立比率、基礎年金拠出金に相当する保険料率の差などが原因であり、制度が分立したままではこの差を完全になくすことは難しい。

・保険料率の計画的な引上げ
 今回の保険料率の引上げの見送りが年金財政に与える影響は大きく、年金財政の長期的安定性及び世代間の負担の公平性の観点からは保険料率の凍結や計画的引上げの先送りはすべきでない。

・詳細な情報開示の必要性
 各制度から提出されないデータがあり、今回の検証は提出資料の範囲内に留まらざるをえなかった。
 各制度ができるだけ詳細なデータや情報を公開し、それに基づいて精度の高い財政検証を行うことは重要であり、各制度の真剣な取組みを要請したい。

・おわりに
 我が国の年金制度は、今回改正により各制度を通じて制度の安定化が図られたが、残された課題も多い。
 政府及び各保険者においては、年金制度の一元化などを含む制度のあり方について幅広く検討し、制度のより一層の安定性、公平性の確保と信頼性の向上に努力することを望みたい。


公的年金各制度の平成11年財政再計算の前提について


区分 厚生年金・国民年金
基礎数 初期値となる被保険者の性、年齢、被保険者期間別のデータ、年金受給権者の性、年齢別データ等は、平成8年度末の被保険者統計及び受給権者統計を基礎としている。
基礎率 人口学的要素
 
基本的に平成6年度から8年度にかけての被保険者統計及び受給権者統計に基づいて性、年齢別に作成している。
老齢年金失権率については、「日本の将来推計人口(平成9年1月)」における将来死亡率の改善と整合性をとって改善していくものとしている。
経済的要素 賃金上昇率
 実質賃金上昇率が過去10年間の平均が1%程度であること、将来の実質GDP成長率の見通しが概ね1%程度であることを踏まえ1%と考え、これに物価上昇率1.5%を加えた2.5%と設定。
物価上昇率
 実績平均が過去10年間で1.5%であることから1.5%と設定。
運用利回り
 今後の自主運用下における年金積立金の運用は、国内債券が中心的な役割を果たすであろうことから、運用利回りは国内債券を軸に設定することとしている。
ここで、資金運用部への新規預託金利が過去の実績で賃金上昇率を1.5%程度上回っていることや、国内債券収益率が過去の実績で短期金利を1.5%程度上回っていること(短期金利を賃金上昇率と同程度とみる)から、4%と設定。
 なお、過去7年間に資金運用部に預託した分の利回りについては確定していることから別途織り込むこととしている。
年金改定率(新規裁定者分)年当たり2.5%(ただし平成36年財政再計算期までは2.3%)
被保険者数 ・日本の将来推計人口(平成9年1月 中位推計)(国立社会保障・人口問題研究所)
・労働力率見通し(平成10年10月)(労働省職業安定局)を使用して推計。
注 総理府社会保障制度審議会年金数理部会に提出された資料に基づき作成。


区分 国共済 地共済
基礎数 組合員及び年金受給権者の性別(遺族共済年金については死亡した組合員の性別)、年齢別に作成 平成10年3月末における動態統計調査及び年金受給権者統計を基に作成 組合員及び年金受給権者の性別(遺族共済年金については死亡した組合員の性別)、年齢別に作成
原則として平成7年度、平成8年度及び平成9年度のすべての地方公務員共済組合の実績によるものを用いる。
基礎率 人口学的要素 原則として平成7年度から9年度までの3ヶ年の動態統計調査及び年金受給権者統計を基に作成
経済的要素 賃金上昇率2.5%
物価上昇率1.5%
運用利回り4.0%
年金改定率2.5%(ただし平成36年財政再計算期までは2.3%)
賃金上昇率2.5%
物価上昇率1.5%
運用利回り4.0%
年金改定率2.5%(ただし平成36年財政再計算期までは2.3%)
組合員数 3ケースで計算
I組合員数一定
II対人口比率一定
III対厚生年金被保険者数比率一定
3ケースで計算
I組合員数一定
II対人口比率一定
III対厚生年金被保険者数比率一定

注 総理府社会保障制度審議会年金数理部会に提出された資料に基づき作成。


区分 私学共済 農林年金
基礎数 加入者数・年金者数等の基礎数については、平成10年度末における実績を基に作成 組合員及び年金受給権者の年齢別(脱退率及び給与指数は年齢別・期間別)に作成
 
平成9年度末における農林年金実績統計を基に作成
基礎率 人口学的要素 給与指数、総脱退力は平成8年度から10年度の実績等を基に作成(基礎率の種類により異なる。) 原則として平成7年度から9年度までの3ヵ年の農林年金実績統計を基に作成
経済的要素 賃金上昇率2.5%
物価上昇率1.5%
運用利回り4.0%
年金改定率2.5%(ただし平成36年財政再計算期までは2.3%)
賃金上昇率2.5%
物価上昇率1.5%
運用利回り4.0%
年金改定率2.5%(ただし平成36年財政再計算期までは2.3%)
組合員数 3ケースで計算
I組合員数一定
II対学齢人口比率一定
III対厚生年金被保険者数比率一定
5ケースで計算
I組合員数を12年度まで直近の傾向により減少させ12年度以降一定
II12年度までに5万人減少させ12年度以降一定
III将来推計人口に連動して減少
IV厚生年金被保険者数に連動して減少
V12年度までに5万人減少、以後厚生年金被保険者数に連動して減少注2)
1) 総理府社会保障制度審議会年金数理部会に提出された資料に基づき作成。
2) 公的年金制度の一元化に関する懇談会では、13年度までに5万人減少、以後厚生年金被保険者数に連動して減少する場合の将来見通しが示された。


平成11年財政再計算の将来見通しにおける保険料率等の比較


  財政再計算における
組合員数の見込み方
  国庫負担割合1/3 (参考)
国庫負担割合1/2
厚生年金  将来推計人口(平成9年推計)の中位推計や労働力率の見通しを用いて推計
2000年度 3,430万人
2020年度 3,170万人
2040年度 2,710万人
2060年度 2,280万人
保険料率
(2000年4月現在)
17.35%
最終保険料率 27.6% 25.2%
到達年度 2025年度 2020年度
引上げ幅
(5年ごと)
2.5% 2.3%
(2004年度のみ1.3%)
2060年度の
積立比率
3.4 3.8
国共済III  2011年度まで 112.2万人で一定、以後厚生年金の被保険者数と同様の傾向で組合員数が減少
2020年度 106.4万人
2040年度 90.9万人
2060年度 76.5万人
保険料率
(2000年4月現在)
18.39%
最終保険料率 29.8% 27.8%
到達年度 2025年度 2025年度
引上げ幅
(5年ごと)
2.8% 2.5%
(2004年度のみ1.5%)
2060年度の
積立比率
5.7 6.1
地共済III  2007年度まで 332.6万人で一定、以後厚生年金の被保険者数と同様の傾向で組合員数が減少
2020年度 307.4万人
2040年度 262.7万人
2060年度 220.9万人
保険料率
(2000年4月現在)
16.56%
最終保険料率 26.64% 25.12%
到達年度 2025年度 2025年度
引上げ幅
(5年ごと)
2.2% 2.0%
(2004年度のみ1.2%)
2060年度の
積立比率
6.2 6.5
私学共済III  2000,2001年度は 40.4万人
 2002,2003年度は 42.3万人
 以後厚生年金の被保険者数と同様の傾向で組合員数が減少
2005年度 42.0万人
2020年度 38.3万人
2040年度 32.7万人
2060年度 27.5万人
保険料率
(2000年4月現在)
13.3%
最終保険料率 27.8% 25.4%
到達年度 2045年度 2045年度
引上げ幅
(5年ごと)
1.7% 1.4%
2060年度の
積立比率
6.1 6.9
農林年金IV  2007年度まで 48.2万人で一定、以後厚生年金の被保険者数と同様の傾向で組合員数が減少
2020年度 44.5万人
2040年度 38.1万人
2060年度 32.0万人
保険料率
(2000年4月現在)
19.49%
最終保険料率 29.69% 27.19%
到達年度 2020年度 2020年度
引上げ幅
(5年ごと)
2.9% 2.5%
(2004年度のみ1.5%)
2060年度の
積立比率
2.3 2.6
注1: 標準報酬ベースの値である。
注2: 経済前提は、賃金上昇率年2.5%、物価上昇率年1.5%、運用利回り年4.0%となっている。
注3: 地共済IIIの国庫負担割合1/2の場合の2004年度の引上げ幅1.2%は、公務負担分を含む保険料率16.66%と17.86%との差である。


年金扶養比率の見通し

年度
(西暦)
厚生年金 国共済III 地共済III 私学共済III 農林年金IV
2000 4.0 2.0 2.4 6.9 3.2
2005 3.2 1.9 2.2 5.9 2.9
2010 2.5 1.8 1.8 4.4 2.3
2020 2.1 2.0 1.6 3.2 2.1
2030 2.2 2.2 1.6 2.8 2.3
2040 1.9 1.9 1.6 2.4 2.3
2050 1.8 1.7 1.5 2.2 2.3
2060 2.0 1.7 1.5 2.2 2.2

グラフ
 年金扶養比率とは、一人の老齢・退職年金受給者を何人の被保険者・組合員が支えているかを示す指標である。
 この場合、老齢・退職年金受給者としては、その制度の被保険者・組合員期間が老齢基礎年金の資格期間を満たしている者及び旧法の老齢・退職年金受給者のみを対象とする。


総合費用率の見通し
年度
(西暦)
厚生年金 国共済III 地共済III 私学共済III 農林年金IV
2000 18% 22% 16% 13% 23%
2005 21% 24% 19% 14% 25%
2010 25% 27% 23% 16% 29%
2020 28% 29% 29% 20% 32%
2030 28% 29% 29% 24% 31%
2040 32% 33% 31% 32% 32%
2050 33% 36% 33% 37% 32%
2060 31% 36% 34% 36% 32%

グラフ
 総合費用率とは、ある年度の実質的な支出のうち、保険料拠出によって賄う部分(国庫・公経済負担を除いたもの)が、その年度の標準報酬総額に占める割合を示す指標である。
 すなわち、積立金の運用収入がないとして、賦課方式の財政運営を行なった場合の保険料率に相当する。


独自給付費用率の見通し
年度
(西暦)
厚生年金 国共済III 地共済III 私学共済III 農林年金IV
2000 14% 18% 13% 10% 19%
2005 16% 19% 16% 10% 20%
2010 19% 21% 19% 12% 22%
2020 21% 22% 24% 15% 24%
2030 21% 22% 24% 19% 22%
2040 23% 25% 25% 25% 22%
2050 24% 27% 27% 30% 21%
2060 22% 28% 28% 30% 22%

グラフ
 独自給付費用率とは、ある年度の実質的な支出のうち、保険料拠出によって賄う部分(国庫・公経済負担を除いたもの)から基礎年金拠出金を控除したものである制度の独自給付費が、その年度の標準報酬総額に占める割合を示す指標である。


収支比率の見通し
年度
(西暦)
厚生年金 国共済III 地共済III 私学共済III 農林年金IV
2000 82% 88% 66% 67% 97%
2005 87% 88% 72% 65% 96%
2010 92% 91% 80% 69% 99%
2020 88% 83% 87% 73% 99%
2030 86% 79% 84% 74% 95%
2040 97% 87% 87% 86% 99%
2050 102% 94% 93% 98% 98%
2060 97% 95% 98% 99% 98%

グラフ
 収支比率とは、ある年度の実質的な支出のうち、保険料拠出によって賄う部分(国庫・公経済負担を除いたもの)が、実質的な収入から国庫・公経済負担を除いた額に対してどのくらいの割合であるかを示す指標である。


積立比率の見通し
年度
(西暦)
厚生年金 国共済III 地共済III 私学共済III 農林年金IV
2000 7.2 7.1 11.6 11.8 4.9
2005 6.0 6.1 10.1 11.3 4.1
2010 5.0 5.2 8.7 10.6 3.4
2020 4.1 4.7 7.1 9.9 2.4
2030 4.8 6.0 7.1 9.7 2.4
2040 4.6 6.5 7.3 8.3 2.4
2050 3.8 6.2 7.0 7.0 2.4
2060 3.4 5.7 6.2 6.1 2.3

グラフ
 積立比率とは、ある年度の実質的な支出のうち、保険料拠出によって賄う部分(国庫・公経済負担を除いたもの)に対して、前年度末に保有する積立金がその何年分に相当しているかを示す指標である。


基礎年金拠出金に相当する保険料率

年度 厚生年金 国共済 地共済 私学共済 農林年金
実績   (%) (%) (%) (%) (%)
1986 2.6 2.2 1.9 2.0 2.7
1990 2.9 2.7 2.3 2.7 3.4
1995 3.8 3.5 2.9 3.3 4.3
推計値 2000 4.9 4.4 3.3 3.9 5.1
2005 5.7 5.1 3.7 4.2 5.9
2010 6.6 6.0 4.3 4.8 7.1
2015 7.5 6.9 5.0 5.5 8.4
2020 7.9 7.3 5.3 5.8 8.9
2025 7.9 7.4 5.4 5.9 9.0
2030 8.1 7.6 5.5 6.1 9.2

注1:保険料率は標準報酬月額ベースである。
注2:経済前提は、賃金上昇率 年2.5%、物価上昇率 年1.5%、運用利回り 年4.0%である。


トップへ
戻る