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資料I-1 国民年金・厚生年金保険制度改正に関する意見(抄)


平成10年10月9日
年金審議会


 本審議会は、平成11年の財政再計算に際する改正について、平成9年5月以降31回にわたり審議を重ね、その結果を以下のとおり取りまとめた。
 政府においては、これまでの審議の経過も十分参酌しつつ、改正案の立案に当たられたい。

(中略)

〈第3号被保険者等女性の年金〉

○ 女性の社会進出や人生設計の多様化、家族や就業形態の変化を踏まえ、女性の年金という観点から制度全体にわたる検討が必要となってきており、具体的には、次に掲げるような課題がある。この場合、年金制度は、結婚、離婚、就労などの人生の選択を行う場合に影響を与えない中立的な制度とすべきであるとの考え方がある。


・個人単位化

○ 現在の年金制度は、被扶養配偶者に関する第3号被保険者制度が設けられていること、厚生年金の水準も世帯を単位に設計されていることなど伝統的な女性の役割を反映した世帯単位の考え方を基本としている。しかし、経済の担い手として自立して働く女性という視点で年金制度の在り方を考え、年金制度も世帯単位中心から、個人単位に組み替えることが望ましいとの考え方がある。一方、女性は賃金が低い場合が多く、生活様式(ライフスタイル)の変化が大きいといった女性の置かれた実態に対する配慮が必要であり、早急な個人単位化は多くの女性が不利益を被るおそれがあるとの考え方があり、年金制度を個人単位の考え方に改めていくことについては、今後、更に議論を深めることが必要である。


・第3号被保険者制度

○ 第3号被保険者制度は、昭和60年の改正により女性の年金権の確立という観点から導入されたものであるが、片働き世帯と共働き世帯・単身世帯との間の不公平などがあり、また、年金制度の個人単位化の観点からも、第3号被保険者又はその配偶者から保険料を徴収すべきであるとの考え方がある。その際、育児・介護のために就労できなかった期間については拠出期間等として認めるべきであるとの考え方がある。
 この点については、現在は世帯の収入が同じであれば負担も給付も同じ水準となっていること、専業主婦には所得がないことや生活様式(ライフスタイル)の変化が大きい女性の年金権を確保する上で意義があることなどから第3号被保険者制度は合理的であるという考え方や、第3号被保険者制度の見直しの必要は認めつつ1200万人もの第3号被保険者の存在を考えると、急激な制度変更は困難といった現実論がある。このため、次期制度改正において何らかの見直しを行うことは困難であるが、医療保険や税制上の取扱いとの関係や女性の就業状況等の進展も踏まえ、検討を続けることが必要である。
 なお、第3号被保険者については、次期制度改正においてその範囲を見直す(配偶者に限定せず、無収入の被扶養者等に拡大し、一方、収入の認定基準(注)を引き下げる。)べきであるとの意見があった。

(注)現在は、年収が130万円を超えると第3号被保険者の資格を失い、第1号被保険者として国民年金保険料を納付しなければならない。


・遺族年金や離婚の場合の取扱い

○ 遺族年金については、個人単位化という観点から縮小・廃止すべきであるとの主張が行われている。一方、女性が置かれている社会的実態からみて必要であるとの主張や共働きの女性について自分の年金が掛け捨てにならないようにすべきであるとの主張がある。したがって、男女の平等の視点から、女性の就業状況等の進展も踏まえながら検討を続ける必要がある。

○ 離婚時の年金の取扱いについては、一律に夫婦それぞれの老齢年金を合算して分割すべきではないかとの意見や、一律に分割することは困難であり個別に対応すべきではあるが現在は年金受給権が一身専属的な権利とされており、このような対応ができないことが問題であるとの指摘がある。この問題についても、社会的合意が可能な方策や夫婦別産制との関係、年金受給権の一身専属性の取扱い、税制との関係等について、検討する必要がある。


・検討会の設置

○ 以上に述べたとおり、女性をめぐる年金については、多くの課題があり、これらの課題は年金に限らず、民法、税制等幅広い分野にわたることから、女性の年金に関しては、民事法制、税制、社会保障、年金数理などの専門家からなる検討の場を設け、早急に検討に着手すべきである。


〈パートタイム労働者に対する厚生年金の適用〉

○ 就業形態が多様化している中で、パートタイム労働者に対してもできるだけ厚生年金を適用すべきであるとの意見がある。パートタイム労働者に対して厚生年金の適用を拡大することは、国民年金保険料よりも低い保険料負担で基礎年金に加えて報酬比例部分の年金を受けることとなり、第1号被保険者との均衡を損なうという問題があるほか、医療保険の被扶養者の取扱いや税制等との整合性の問題があり、更に慎重に検討する必要がある。

(注)現行では、常用雇用者の4分の3以上の勤務時間、日数の者について厚生年金の被保険者とされている。


〈少子化への対応〉

○ 年金制度において、子育て家庭に対する負担の軽減や現金給付などの少子化対策を実施することについては、老齢、死亡、障害といった所得喪失事故に対する社会保障制度である年金制度にそぐわない、また、少子化対策をわずかな現金給付として行ったとしても出生率の向上には結び付かないとする意見がある一方、年金制度は次世代が育たないと成り立たないことや、実際の子育てに伴う負担を考え子どものいる世帯と子どものいない世帯との公平を考慮して年金制度としても何らかの対策を検討すべきであるとの意見があった。なお、育児休業中の厚生年金保険料の本人負担の免除制度は、事業主負担にも適用すべきである、との意見があった。




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