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II 女性と年金問題とは?

1 女性のライフスタイルの多様化

資料1:女性のライフスタイルの変化・多様化と年金制度)
(1) 女性の就労の多様化

 就労に対する積極的な意識の高まりが見られる一方で、就労の実態は必ずしも希望どおりにはなっていない。
 女性の就労、特に短時間労働者は増加してきているが、必ずしも被用者年金の適用につながっておらず、女性にとって、被用者としての年金保障という観点から、このことをどのように考えるかが課題である。また、子育て期である20歳代後半から30歳代にかけて、被用者年金の被保険者比率が低下する傾向にも、変化はみられていない。
 なお、10歳代後半や20歳代前半といった若齢層において、女性に限らず被用者年金の適用を受けない働き方が増加している。このことは、女性と年金という問題を超えて、年金制度全般に関わる問題として受け止める必要がある。

(2) 家族形態の変化

 晩婚化が進んでおり、各年齢層において未婚率の上昇がみられる。
 離婚件数が大きく増加しており、年齢別に見ると、若い世代に加えて、40歳代、50歳代という中高齢者で比較的同居期間の長い夫婦間の離婚も増加している。
 核家族化と高齢化の進展の結果、高齢者のみの世帯や単身高齢女性が増加しており、老後の期間の長い女性に対する年金保障の重要性が一段と高まっていると考えられる。

2 女性のライフスタイルの多様化に対応した近年の年金制度の動き

(1) 基礎年金制度の導入等(昭和60年改正)

 昭和60年改正では、自営業者等を対象としていた国民年金を全被用者世帯に適用拡大した基礎年金制度を導入し、生活の基礎的な部分に対応する年金給付については、基礎年金として個人を単位として給付するとともに、以下のような形で第3号被保険者制度を創設した。(資料2:昭和60年改正による基礎年金制度(及び第3号被保険者制度)の導入)

(1) 自営業者等、従来の国民年金の適用対象を第1号被保険者、被用者年金の被保険者を第2号被保険者とするとともに、被用者(第2号被保険者)の被扶養配偶者も、第3号被保険者として国民年金の強制適用対象とする。

(2) 片働き世帯の老齢年金は従来の水準を維持しつつ、「夫と妻それぞれの基礎年金+被用者の報酬比例年金」とする。

(3) 通常は所得のない第3号被保険者に係る費用負担については、独自の負担を求めることとせず、被用者年金の被保険者全体の保険料拠出により賄う。

 基礎年金制度や第3号被保険者制度の導入は、基礎年金部分について専業主婦も含めた女性の年金権を確立するとともに、共働き世帯の増加等に対応し世帯類型に応じた給付水準の分化を図り、ライフスタイルの多様化に制度的にも一部対応したものである。

(2) 遺族年金の改善(昭和60年改正、平成6年改正)

 昭和60年改正では、従来の厚生年金制度において老齢年金の1/2とされていた遺族年金の給付水準について、生計維持者が死亡した場合に生計費が単純に1/2になるとはいえないことを考慮して、子を有する妻や中高齢の妻に対する給付の重点化を図り、その水準の改善を行った。

(1) 基礎年金制度の導入に伴う2階建て年金への再編成により、子を有する妻に老齢基礎年金と同額の遺族基礎年金(及び子の加算額)を保障する。

(2) 遺族厚生年金については、死亡した配偶者の報酬比例の老齢厚生年金の3/4相当額とした。(なお、高齢期の報酬比例年金は、自らの老齢厚生年金か遺族厚生年金のどちらかを選択する。)

 平成6年改正では、共働き世帯の増加等を受け、自らの保険料納付実績が年金額に反映される方向で、遺族厚生年金と老齢厚生年金の併給調整の仕組みを改善した。(高齢期の報酬比例年金について、自らの老齢厚生年金の1/2と遺族厚生年金の2/3(=死亡した配偶者の老齢厚生年金の1/2相当)を併給するという選択肢を創設。)

(3) 育児期間に係る配慮措置(平成6年改正、平成12年改正)

 平成6年及び平成12年改正において、育児に対する支援策として、育児・介護休業法に規定する育児休業制度を利用する者を対象として、

(1) 育児休業を取得した期間について、厚生年金保険料(被保険者本人負担分及び事業主負担分)を免除、

(2) 当該保険料免除期間について、育児休業直前の標準報酬に基づいて年金額を算定、

という配慮措置が講じられた。

3 年金制度において対応が必要と考えられる課題

 しかしながら、ライフスタイルが多様化している女性と、現役期の生活の履歴が反映する年金制度との間には、まだ次のような問題が存在している。

(1) 多様化する女性のライフスタイルと標準的な年金(モデル年金)の考え方との乖離

 現在の年金制度の被用者に対する給付設計は、40年間平均的な賃金で働いた夫及び全期間専業主婦だった妻からなる夫婦世帯を標準に、夫と妻二人の基礎年金を含めた世帯全体の年金額が、平均的な現役男子労働者の手取り年収の6割相当の水準となるように設定されている。したがって、現在のモデル年金では、ライフスタイルの変化の大きい女性にとって、自分が働いて保険料を納付することによってどのような年金を受給できるのかが判りにくく、また、期間の長短はあるにせよ、多くの女性が就労期間を有するようになっている実態からも乖離している。
 女性の就業が増加し、そのライフスタイルが多様化する中で、女性の一定の厚生年金加入期間を前提としたモデル年金を想定し、給付と負担のあり方を考えていくことが課題となっている。

(2) 被用者年金の加入期間の短さ、低賃金に伴い相対的に低い水準にとどまる女性の年金

(1) 短時間労働者等に対する厚生年金の適用

 現在の厚生年金制度では、常用的使用関係のある雇用労働者に対する年金保障を目的としており、具体的な厚生年金の適用基準は、「通常の就労者の所定労働時間及び所定労働日数のおおむね4分の3以上である就労者」とされている。このような基準の下で、短時間労働者の多くが厚生年金の適用を受けない扱いとなっていることから、女性の厚生年金の加入期間が短くなっている。
 また、こうした厚生年金の適用基準が、被扶養者認定基準(年間収入が130万円未満であること)とも相まって、女性の間の就業調整や短時間労働者の賃金抑制の要因の一つとなっているとも指摘されている。
 多様な就業形態の下で働く人々が必要な年金保障を受けられるよう、就業に中立的な仕組みとし、男性に比べて働き方が多様な女性の年金保障を充実したものとするとともに、制度の支え手を増やすとの観点から、常用的使用関係に係る基準を見直し、短時間労働者等に対して厚生年金の適用を拡大することが課題となっている。

(2) 育児期間等に係る年金制度上の配慮措置

 現在、女性が育児等の家族的責任を主に担っているという実態があるため、休業、離職したり、短時間労働者となることを選択するという事態が生じており、その結果として、女性の被用者年金の加入期間が短くなったり、賃金が低くなっていると指摘されている。
 現行の年金制度では、育児・介護休業法に規定する育児休業制度を利用する者を対象として、育児期間に係る配慮措置がとられている。一方で、30歳代〜40歳代前半の有配偶の女性の労働力率にはほとんど変化がみられない。結婚や出産、育児を機に仕事を辞めるというパターンは依然として多く、子供を産み育てる女性の被用者年金への加入期間が短いという実態にも変化は見られない。
 今後、少子高齢化の進展が見込まれる中で、安心して子供を産み、育てるための社会環境の整備が重要な政策課題となっており、世代間扶養の仕組みを基本として成り立っている公的年金制度においても、女性に対する年金保障の充実という観点から、また、将来の年金制度を担う次世代の育成を図る観点から、育児を理由とする休業や離職、短時間労働の選択等に対して年金制度上の配慮措置をさらに講じるかどうかという点が課題となっている。
 介護休業期間についても、育児休業期間と同様の措置を求める意見も出ている。

(3) 様々なライフスタイルを選択する女性の間での不公平感

(1) 第3号被保険者制度

 昭和60年改正による制度創設後における女性の就労の進展等、経済社会情勢の多様な変化の中で、第3号被保険者制度について、

(@) 片働き世帯を優遇する制度であり、共働き世帯や単身世帯(ひとり親世帯を含む。)と比べて、老齢年金や遺族年金について給付と負担の関係が不公平となっているほか、短時間労働者が第3号被保険者に留まろうとして就業調整を行う原因となっている、

(A) 第3号被保険者の中には、短時間労働により賃金を得ている者もおり、また、所得のない者であっても、夫婦は婚姻費用を分担して負担する義務があること等を考えると、第3号被保険者にも保険料負担能力はある。また、家事労働による帰属所得を考慮することによっても、保険料負担能力があると考えることはできる、

(B) 第3号被保険者は減少傾向にあり、また、夫の賃金が高くなると専業主婦世帯の割合が高まるという実態がある中で、第3号被保険者を第2号被保険者全体で支えることは社会的に受容されない、

(C) 第1号被保険者である自営業者の妻や母子家庭の母は、個別に保険料を納めなければ給付が受けられず、保険料免除を受けても給付は減額されるのに対し、第3号被保険者のみ保険料を払わなくてよいのは不公平である、

(D) 育児・介護等を行っていない者は、自ら働かないことを選択している者であるにもかかわらず、保険料を納付する者と同じ基礎年金給付が保障されるのは不公平である、

(E) 第3号被保険者が自ら保険料を納めないことで、年金制度への関心が薄れがちとなり、夫の転職や退職等により年金制度上の地位が変更された場合の手続漏れ等も生じている、

といった意見があり、第3号被保険者制度の廃止又は見直しを求める意見が、近年強くなってきている。

(2) 遺族年金制度

 遺族年金制度について、

(@) 年金制度において個人単位化の考え方を貫き、将来的には、遺族年金制度は廃止する、又は希望する者だけが加入する別建ての制度とするべきである、

(A) 高齢の遺族配偶者に対する遺族厚生年金については、夫婦世帯で現役期の賃金の合計額が同じ場合、片働き世帯の遺族の方が共働き世帯の遺族よりも受給できる遺族年金額が大きくなり、給付と負担の関係が同一とならない。また、働いて払った保険料が、配偶者の死後は何の給付にもつながらない場合があるのはおかしい、

(B) 男性と女性で遺族年金の支給要件に違いがあるのは適切ではない、

(C) 夫婦が高齢になって離婚し、その後元の夫が別の女性と再婚した場合に、元の夫が働いている間生計をともにしていた元の妻には遺族年金が支給されず、高齢になってから結婚して妻となった者には支給されるのはおかしい、

といった意見があり、遺族年金制度の廃止又は見直しを求める声が出ている。

(4) 女性の長い老後期間に対する保障

(1) 離婚時の年金分割

 近年、離婚件数、特に中高齢者等の比較的同居期間の長い夫婦における離婚件数が増加している。このような状況の中で、男女の間の年金受給額には大きな差があり、十分な就労所得を得ることも難しい中高齢期に離婚した女性は、老後も低い所得に甘んじなければならないことが多いと指摘されている。
 現行制度では、生活の基礎的な費用に対応する基礎年金部分は夫と妻それぞれに支給されるが、報酬比例年金部分については、被保険者本人のみに支給され、離婚した配偶者には、報酬比例部分について直接的には何の権利もない仕組みとなっている。また、離婚の際の財産分与時の年金の取扱いについても、判例において確立された取扱いはみられない。
 こうした中で、現役期と大きく変わらない老後の生活を保障するという年金制度の趣旨に鑑み、離婚時に夫婦の間で年金の分割が可能となるような制度整備をすべきではないかという点が課題となっている。

(2) 遺族年金の役割

 夫の死亡後に老後の相当期間を単身で過ごす可能性の高い中で、被用者の妻にとって、その高齢期の所得保障を充実させる上で、遺族年金は重要な役割を果たしている。
 前述のように、高齢期の遺族厚生年金は、夫の保険料納付に基づく老齢厚生年金が夫亡き後遺族厚生年金に転ずる仕組みであり、これまで充実が図られてきたところであるが、女性の就業の増加、多様化が進展する中で、自ら働いて保険料を納付したことができる限り給付額に反映される仕組みを構築することが課題となっている。

(5) 6つの課題

 女性のライフスタイルの多様化に対して、これまでも年金制度は対応を講じてきているが、以上見てきたように、なお以下のような6つの分野において、年金制度設計上検討していくべき具体的な課題がある。

(1) 標準的な年金(モデル年金)の考え方
(2) 短時間労働者等に対する厚生年金の適用
(3) 第3号被保険者制度
(4) 育児期間等に係る配慮措置
(5) 離婚時の年金分割
(6) 遺族年金制度


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