戻る
資料2

各委員からのお寄せいただいた御意見


(高久委員(PDF 400KB)、 矢崎委員(PDF 37KB)、 松尾委員(PDF 9KB)、 鈴木委員(PDF 34KB)、 相良委員(PDF 47KB)、 平山委員(PDF 22KB)、 岸本委員(PDF 81KB)、 石井委員(PDF 31KB)、 古山委員(PDF 129KB)、 渡辺委員(PDF 49KB)、 安藤委員(PDF 46KB)、 才村委員(PDF 12KB))

 PDFファイルを見るためには、アクロバットリーダーというソフトが必要です。
アクロバットリーダーは無料で配布されています。
 (次のアイコンをクリックしてください。) getacro.gif


生殖補助医療部会検討事項に対する個人的見解

1) 加齢により妊娠できない夫婦は対象とならない。

上限年齢を閉経期とするという高久委員の見解に賛成です。なお、premature ovarian failureの患者と生理的閉経者の境界が必ずしも明瞭でないことを考慮して、上限年齢を数値で示すことに賛成します。その場合の年齢は、平均閉経年齢もしくは平均閉経年齢+2倍標準偏差が妥当かもしれません。

2) 生殖補助医療における具体的な判定基準はどのようにするか?

具体的な医学的事項について、判定基準を細かく定めることは困難と思います。大枠を決めることでよいと考えます。個々の事例については、医師の裁量とする高久委員の見解に基本的に賛成です。しかし、生殖補助医療は、a)日本産婦人科学会などがその診療担当能力を認定した医師にかぎり、b) 診療内容の透明性を保つ仕組みを前提とします。

3) 精子・卵子の提供を受けることができる者について優先順位を設けるか?

当面設けないでよいと思います。

4)"卵子の提供を受けなければ妊娠できない"ことの具体的判定基準はどのように設定するか?

具体的判定基準より、当該夫婦の父性、母性の担保が重要と考えます。当該夫婦は協力して児を成人期まで養育する義務を負うことを文書で誓約すること、第3者が当該夫婦の結婚生活が経済的、心理的に安定していることを確認すること、が必要条件です。ここでも診断、治療内容の透明性は極めて重要と考えます。また、カウンセラーの関与について、議論が必要と考えます。卵子提供の優先順位は当面設けないでよいと思います。

5)提供胚の移植

前項に準じます。当該夫婦の父性、母性の担保はより厳格に行う必要があると思います。

6)兄弟姉妹等からの精子・卵子・胚の提供

荒木委員の見解に全面的に賛成です。前回の会議で、荒木委員は日本産婦人科学会として譲れないという発言をされましたが、私も兄弟姉妹等からの精子・卵子・胚の提供には強く反対いたします。これは、近親相姦の一形式であり、家族における身分関係を混乱させ、児の自我の形成に深刻な影響を与えるおそれがあります。自我は"母親の息子"、"母親の娘"を基盤として形成されるのであり、"母親"を混乱させることは、許されないと考えます。

7)精子、卵子、胚の提供における匿名性

いうまでもなく、匿名性と生まれてくる子の出自を知る権利は相互に矛盾します。この矛盾はどのような方策によっても解決できませんが、生まれてくる子の出自を知る権利は精子、卵子、胚の提供者の匿名性に優先されるべきであると考えます。いわば、この原則は生殖補助医療の前提条件です。生殖細胞の提供者と被提供者は、この原則を承認し、両者の追跡モニターを承諾しなければなりません。生殖細胞の提供者と被提供者の属性をなるべく合致させることは、末梢的な問題にすぎないと思います。

平成13年8月27日 国立小児病院小児科 松尾宣武


2001年8月29日

生殖補助医療部会「検討事項」について

フリーライター・編集者/フィンレージの会
鈴木良子

1) 「医師の裁量」について

⇒むろん、個々の事例についての「医学的適応」の判断は医師の領分であろう。しかし、医師によって判断が異なることも十分予測される。ある施設では適応になったのに、こちらの施設では適応にならないという事態が生じたら、振り回されるのは患者である。提供に積極的な医師のもとで、どんどん適応が拡大されていく心配もある。やはりある程度の基準(各論は後述)は必要と思う。

⇒また、提供を実施するかどうかは医学的適応の判定とは別問題。後述するように、特に胚提供の実施を「医師の裁量」で決定してしまうのは大きな問題ではないか。現在の案では兄弟姉妹等からの提供に限って「公的管理運営機関への申請・審査が必要」となっているが、次項「生まれてくる子の福祉」との関連、また情報の一元管理という点から考えると、匿名の第三者からの提供であっても、今後はすべて(AIDも含めて)運営機関に申請し、審査のうえ実施するほうが望ましいと考える。

⇒実施の可否を「医師の裁量にまかせる」のと、「申請・審査で決定する」では大きく違い、今後の議論も異なってくる。

そのためにも、まず「監督機関」と「実施機関(指定病院)」のあり方を決める必要があるのではないか(自分なりのイメージについては後述)。

2)「生まれてくる子の福祉」について

⇒複数の委員から再三、指摘されているように「生まれてくる子の福祉」をどのように担保するのか? これについてあいまいなまま"提供者の条件"や"判定基準"について議論するのは問題があると思う。委員内で最低限の原則を確認、ある程度の合意をもって議論をスタートすべきではないか。

⇒特に問題になるのは胚提供である。これを「受精卵養子」と表現する人もいるが、育てる両親と遺伝的なつながりがないという意味ではその通りであろう。産むという以外には養子と変わりない。通常の養子縁組(この場合は血縁のない未成年養子)であれば児童相談所が面接や訪問したり、委託期間を設けて親子関係の様子を見たり、最終的には家庭裁判所の許可で養子縁組が成立する。また、特別養子は家裁の「審判」が必要だ。これだけ煩雑な手続きと時間をかけ、家裁が関与するのも、子どもの福祉を可能な限り保障するためであるはずだ。提供を受けなければ妊娠できないかどうかの「医学的適応」の判断はもちろん医師の領分だが、実施するかどうかは、やはり児童福祉の専門家などを交えた審査で決定するほうが望ましい。そうでないと、養子制度との整合性もとれない。精子提供や卵子提供も、同様の側面がある。「生まれてくる子の福祉を優先する」という理念を遵守するなら、なぜ養子制度がこれだけの手続きを必要とするのか、いま一度考えてみるべきではないのか。
*前回の委員会で私が「何を最優先にするのか」と伺ったのも、こうした気持ちからである。

3) 実施機関のイメージ

⇒実施施設をどのように選定するのか? 立候補してもらい、条件を満たしている病院であればすべて許可?(その場合、地域的なばらつきが出るのでは? また精子提供のみ行いたい、などの施設も当然出てくると思うが?) それとも法律を根拠に国が一定程度、「指定」するのか?

●私なりに考える「実施機関の条件」

◎ ART(高度生殖補助技術=体外受精、顕微授精など)の実績がある
◎ 経験を積んだ不妊専門医がいる
◎ 精子凍結、胚凍結(と解凍)の設備・技術がある
◎ドナーについて必要な検査ができる
◎ 不妊や提供の問題について訓練された心理カウンセラー、バックアップの精神科医がいる
◎ 採卵、胚移植等の部屋が2つ以上ある(卵提供の際、ドナーと顔を会わせるのを避けるため)
◎ 入院手術等、緊急時(採卵時の出血、卵巣過剰刺激症候群など)に対応できる設備と技術がある
○ 分娩施設がある(妊娠させたら終わりでは困る。多胎の問題もあるので分娩まで責任持ってケアしてほしい。仮に分娩は他施設でもよいなら、どのように連携をするか示しておく必要がある)
○ NICUがある(同上)
☆ サポートグループを組織し、支援できる(できれば地元でも長期にわたるメンタルケアが欲しい)

* ○印を指定の『絶対条件』にすると、年間胚移植数1000以上の不妊専門病院のほとんどは「指定機関」になれなくなってしまう。要検討。しかし、卵提供を行う場合、緊急時の入院設備は、やはり不可欠ではないか。

* 精子提供の適応かどうかの判断は泌尿器科医による精密検査が必要であり、精巣生検なども行うのであれば、やはり設備の整った施設ということになるが…? 「検査施設」と「実施施設」は違ってよいのか? ⇒実施の可否を審査のうえで決定するのなら、それも可。

4)統括センター=監督機関のイメージ

(1) ケース申請(そのカップルが医学的適応を満たしているかどうか、検査結果や医師の意見書等の提出)。センターでは希望に添う精子等があるかどうかも確認する。
(2) センターがケース確認。そこで初めて、実施施設において準備(詳細な説明、カウンセリング等)を開始する。この時点で"ドナー確保"(予約)もできる。
(3) センターに対してIC、カウンセリングの終了報告、同意書の提出
(4) センターは同意等、ガイドラインに沿った手続きが踏まれているかチェック。OKならセンターから「実施許可」が出る
(5) 許可が下りてから、排卵誘発等の処置を始める
(6) センターに対して1回ごとに結果(妊娠の有無)の報告。
(7) 妊娠の帰結も報告(多胎、流産〜生児獲得率、中絶、減数手術なども含む)

* 1回の施術ごとに同意書を取るかどうか、要検討。

* 最初に「ケース申請」を設けているのは、ICやカウンセリングなどくわしい説明がすべて終了し、希望をふくらませている夫婦に対し、「希望に沿う精子がない」「ドナーがいない」「ドナー精子を他の人に先に使ってしまった」「医学的適応を満たしていない」などと審査でひっくり返すことになっては残酷だからだ。まず基本的な事項を説明し、ドナーの有無などを確認してから、詳細なカウンセリング等のステップに入ったほうがよいと思う。

* 妊娠の帰結は患者が病院に来なくなれば追いかけることができないが……。どこまで報告を義務づけるかは、要検討。

* 提供された精子、胚の凍結保存は指定病院(実施機関)でよいと思われる。しかし、この場合、実施病院は公の「精子(胚)バンク」的な存在になる。特に精子は採取から移植まで、安全確認のためにタイムラグが生じるわけだが、採取費用や検査費用、凍結保存の費用は誰が負担するのか? ⇒「対価」と合わせて要検討。

5)未解決の問題(検討していただきたいこと)

★当委員会の目指すところは「精子・卵子・胚の提供等に関する法律」(およびガイドライン)のの作成のようだが、本来なら「精子・卵子・胚の取り扱いに関する法律」のように、提供されたものだけでなく、通常の不妊カップルの配偶子、胚の保護も含めた包括的な法律とすべきではないのか。提供など、「使い道」を先に法律で決めようというのは問題がある。これでは不妊カップルの胚が守られない。

*総合科学技術会議{生命倫理審査会}での「ヒト胚の取り扱いに」についての検討状況はどうなっているのか? 教えてください。

6)検討課題(1)について

*会としても、そもそも反対している事項がいくつかあります。また、提供される側・する側になる当事者団体として、やはり「具体的にどう実施されるのか」が非常に気になります。そのため、かなり細部にまで踏み込んだ意見(質問)になっています。医学面での間違い、また思慮不足の点があればご教示ください。なお、提供の実施の可否は「実施施設の医師の裁量」ではなく、これまで述べてきたようなシステムの中で「審査会が決定する」という前提で考えています。

●提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療全般に関わる条件

子を欲しながら不妊症(*)のために子を持つことができない法律上の夫婦に限る

生殖年齢の男女が挙児を希望しているにもかかわらず、妊娠が成立しない状態であって、医学的措置を必要とする場合をいう

加齢により妊娠できない夫婦は対象とならない

⇒ 体外受精の場合、30代半ばに入ると採れる卵の数も少なくなるし、妊娠率も下がる。40歳を過ぎればなお下がるし、流産率も上がる。これも「加齢による影響」と言われる。閉経(平均で50歳前後)の10年以上前から、「加齢により妊娠しにくい状態」は始まっているのだろう。現実に、「加齢による妊孕力の低下」(現象面では卵が採れない、良好胚ができない、着床しないなど)で、卵提供を望む人もけっこういる。仮に年齢制限を「閉経」とした場合、40歳なら加齢による妊孕力の低下と思われるケースでも、卵提供が受けられるのだろうか? 「45歳」と制限したら「44歳までなら卵提供が受けられる」ということになるのか?

この項は (1)加齢によるケースをすべて除外する(=医学的適応に「加齢」を含めない)のが目的なのか? (2)閉経後の妊娠・出産を除外するのが目的か? (1)と(2)ではずいぶん意味が違うし、「受けられる人の条件」にも影響するので、もう1度しっかり確認したい。

⇒ (1)なら、具体的な時期や年齢は設定せず、それこそ医師が「この夫婦が妊娠しないのは加齢によるものではない」と判断したケースのみ、申請すればよいのでは。また、拡大解釈を防ぐためには、「加齢による妊孕力・受精能等の低下で妊娠できない夫婦は対象とならない」としておくほうがよいと思われる(この場合、がっかりする不妊当事者は多いだろうが……)。

⇒ (2)だけを除外したいなら、「加齢による」ではなく、はっきりと「閉経」もしくは年齢を表記したほうがよいのでは。しかし、この場合、45歳での「かけこみ卵提供出産」も起こりうるが?

自己の精子・卵子を得ることができる場合には、それぞれ精子・卵子の提供を受けることはできない(p22)

この項目は、そもそも不要ではないか? 後段の「○ 精子の提供を受けなければ妊娠できない夫婦のみが、提供精子による人工授精を受けることができる」という項のみで十分ではないか?また、その際の適応は、現在のAIDの適応とほぼ同じ(無精子症、無精液症、または極度の乏精子症、精子死滅症などでさまざまな精子増強策や顕微授精などを行っても妊娠しない場合)でよいのではないか? 理由は以下の通り。

(1)「受精能力を持った生殖細胞」の例として精子細胞・精母細胞が挙げられているが、これらを用いた顕微授精の安全性は確立されていると言えるのだろうか? 私にはそうは思えない。 精子細胞等が存在することを「自己の精子を得ることができる」とみなし、適応から除外するのは、安全性がはっきりしていない実験的な技術を用いて夫婦間で妊娠をめざせ、と言うのと同じではないのか? *未成熟卵(卵母細胞、卵子細胞と書かれているが、いわゆる未成熟卵の意と思う)についても、同様である。

(2)また、仮に精巣などに成熟した正常精子があったとしても、その有無を確認するために(提供の適応から除外するために)、精巣生検など負担のある検査を「受けなければならない」とするのも問題。むろん、「可能性に賭けたい」と精巣上体回収(MESA)、精巣回収(TESE)などにチャレンジする夫婦もいるが、それよりは最初から「提供」を選びたいという夫婦がいても不思議ではない。

(3)精子・卵子の提供を受ける要件として、「○○を何回受けてからでないと提供は受けられない」とするのも問題。この項および示されている検討課題は、不妊夫婦をリスクのある検査・治療に追い込むだけではないか。

《優先順位について》

 臓器移植と違い、不妊は命にかかわる問題ではない。その意味で優先順位はつけにくい。仮につけるとしたら、そこには文化的・社会的な価値観が入り込んでしまうだろう(ターナー女性と早発閉経の女性、無精子症と極度の乏精子症、どちらに優先権があるかなどという議論は不毛である)。「申し込み順」としたほうが公平で、よけいな価値観も入り込まないと思われる。

(2)提供精子による体外受精

女性に体外受精を受ける医学上の理由があり、かつ精子の提供を受けなければ妊娠できない夫婦に限って、提供精子による体外受精を受けることができる

⇒精子についてはAIDと同じ。

⇒問題となるのは女性の側の適応である。厳密に言えば、体外受精の適応は卵管性不妊だが、現実には子宮内膜症のほか、抗精子抗体のある人、また機能性不妊(原因不明の不妊)で人工授精を何度かくり返しても妊娠しない場合も体外受精の適応となっている。多嚢胞性卵巣(PCO)も適応とされているし、遅く結婚した女性に、高齢だからというだけで、体外受精を勧める施設もある。要するに排卵誘発や人工授精で妊娠しなければ、最終的にはすべて体外受精になっているのが現状だ。これらと同様の適応にするのか? AIDを何度もくり返したのに妊娠しない場合も、提供精子による体外受精を実施するのか? →以上についてはドクターの意見をお伺いしたい。

できた胚をどう扱うかも要検討。仮に妻から20個卵がとれて提供精子と受精させ、10個胚ができたとする。3個を移植して残りは凍結、運良く1回目で妊娠したら、残りの胚の"行く末"は誰に決める権利があるのか? ドナーか、妻か? 依頼者夫婦の合意か? 実施するのであれば、そこも決めておく必要があるのでは。私は、妊娠確認と同時に自動的に廃棄すべきと考える。そうでないと後々大混乱(2人目に使いたいので保存してほしいなど)になる。また提供によってできた胚を他のカップルの提供用に用いるのにも反対。
*質問……『検討事項』p14【参考】の「配偶子の処分」「胚の処分」の項は、提供された配偶子・胚に関する案ですか?

(3)提供卵子による体外受精

卵子の提供を受けなければ妊娠できない夫婦に限って、提供卵子による体外受精を受けることができる

⇒現時点での卵提供は医学的なリスクの面から反対。卵凍結の技術の進展を待って、実施したほうがよい。

会としても『排卵誘発の副作用(卵巣過剰刺激症候群による呼吸困難や脳血栓:事例あり)、採卵での出血などが生じた場合、あるいは提供者が高度障害などを残した場合、誰がどう補償するのか。もし実施されるなら骨髄移植などと同様の、公的補償措置が準備されるべきでは』というコメントを提出している。これについて、委員会はどう答えるのか? クリアにしてほしい。子どもが欲しいという思いは強くても、同時に「あんな大変なこと(排卵誘発)を人にお願いできない」「人を傷つけたくない」と考える不妊当事者は少なくない。排卵誘発の大変さ、怖さを知っている当事者だからこそ、むしろ卵提供にためらいもあるのだ。十分なICやカウンセリングがあったとしても、結果として第三者の女性のからだを傷つけることになっては、申し訳ない。

★仮に実施するのであれば……
⇒未成熟卵の存在をもって適応から外すのは、前述と同様の理由で反対。

⇒卵子提供を受ける要件として、「○○を何回受けてからでないと提供は受けられない」とするのも反対。

⇒「受精を困難にする形態的・質的な明らかな異常」は言葉のうえでは「提供を受けなければ妊娠できない」ということになるがと思うが、現実にはどうなのか? 加齢とは無関係に、毎回「異常卵」しか採れないというケースは、どのくらいあるのか?

⇒現実には、卵の段階での形態異常や「受精しない」というケースより、受精以後の異常(細胞分裂が進まないなど)という悩みのほうが多いように思う。こうした「良好胚のできない」女性の少なからずが卵提供を希望しているが、このケースは除外?

⇒具体的な適応としては、やはり日本不妊学会が試案として出している、早期卵巣不全、性線形成異常、両側卵巣摘出のケースなどになる?

⇒化学療法、放射線療法による卵巣機能喪失のケースはどうするのか? 以上、ドクターの意見をお伺いしたい。

⇒現在、若い女性の卵を用いた「卵の若返り」が試されている。先般「遺伝子改変ベビー」と表現され、問題になった。これはドナーの細胞質を希望者の卵子内に少量を注入したものと思われるが、卵の核そのものを取り替える「核置換」さえ検討されている(クローン法ではこの方法も臨床応用がイメージされているらしく、この方法でできた胚を子宮内に戻すことは禁止されていない)。いずれも卵提供が前提になる方法である。「加齢による妊孕力の低下」を適応から除外するのであれば「卵の若返り」は実質的に"禁止"になるが、そのように解釈してよいのか(不妊当事者中にはがっかり人もいるだろうが……)。

⇒できた胚をどう扱うかも要検討(精子提供による体外受精と同様)。

(4)提供胚の移植

胚の提供を受けなければ妊娠できない夫婦が、提供された余剰胚の移植を受けることができる

会としても「実質的には養子と変わらず、このようにしてまで生殖技術を実施する意味について、再度検討する必要がある」というコメントを提出している。私個人も、胚提供には反対。養子制度との整合性の問題と、障害を持った赤ちゃんが生まれた場合、血がつながってないことを理由に依頼者が子どもの引き取りを拒否する恐れもぬぐえない←法律でここまで担保できるか疑問。

⇒また、養子の場合、いまはできるだけ「真実告知」をする方向で指導されていると思う。胚提供による出産はまず告知されないと思われ、生まれている子をもらうなら真実告知、胚段階ならナイショという、「子ども」に対する2つの方針が同居しているのも(言ってみればダブルスタンダード)何かおかしい(特別養子に準じるならまた話は変わってくるが、その場合も障害の問題をどうクリアできるのかが不明)。「自分のおなかで産みたい」という欲求は十分に理解できるが、その欲求と子どもの福祉とどちらが優先されるのか、もう一度よく検討すべきである。養子の成立要件をゆるやかにし(現在は共働きだともらいにくいなどがある)、養子をオープンに歓迎できる社会を築く努力をするほうが重要と考える。

⇒「子どもの出自を知る権利」との関係もある。少なくとも自分が提供で生まれたのか否かを知ることができるという点については、この委員会でも合意の範疇だと思う。その場合、精子・卵子など配偶子の提供であれば、事実を知ったときにもまだ受け入れる余地はあると思うが、胚の場合、「実の両親から胚の段階で『いらない』と捨てられた、人に譲られた」という感情を持ちはしないか? 仮に胚提供の条件に子どもを成していることを加えた場合、「兄弟姉妹は実の両親のもとで育っている、じゃあ自分は何なのか」ということになり、よけい「見捨てられ感」が強まるのでは? 子どもが知ったときの衝撃の大きさ、混乱、嘆きや怒りを考えると、賛成できない。

⇒また、提供者が心理的・物理的に生まれた子どもを捜し求める(場合によっては引渡し要求など)こともあり得る(子どもが死亡したなど。自分たち夫婦に子がなければ、なおさら)。提供した夫婦のその後の心や人生を考えても、問題が大きすぎる。

⇒仮に実施するのであれば、男性はAIDと同様、女性は卵提供と同様の適応ではないか。 ⇒また、実施する場合、「良好胚がほとんどできない」というケースの扱いがやはり問題になる。なぜそうなるのか、原因がはっきりしないことも多いのではないだろうか? 卵提供、精子提供を受けてもやはり良好胚が得られないケースもあるかもしれない。これも広い意味では「胚の提供を受けなければ妊娠が難しい」と言えるわけだが……。ドクターの意見を伺いたい。

何をもって「余剰胚」とするのか確認が必要である。「当該夫婦が使用しないことを決定したもの」というのは不十分。使えるのは「使用しないことを決定し、かつ夫婦双方が提供に同意した胚」である。意見不一致の場合は用いることはできない。「使用しないと決定したこと」イコール「提供用に用いていい」ということではない。「廃棄」を望む夫婦もいる。夫婦の胚の扱いについて、まず検討してほしい。

⇒また、実施するのであれば、法律であれガイドラインであれ「余剰胚」「使用しない」という表現は避けてほしい。子どもが見たとき「余った子」「使わない子」というイメージを持つ。

ただし、卵子の提供を受けなければ妊娠できない夫婦も、卵子の提供を受けることが困難な場合には、提供された余剰胚の移植を受けることができる。

⇒前述のような理由で胚提供にはそもそも反対。しかし委員会としてあえて胚提供も「OK」という結論を出すのなら、「胚をもらいたい(双方とも血がつながってなくてよい)」という夫婦の希望は尊重してもよいと思う。ただし、その場合は養子制度との整合性を十分に検討してほしい。

* 卵のシェアリング、兄弟姉妹等からの提供については、また改めたい。

また、胚の提供を受けなければ妊娠できない夫婦は、余剰胚の提供を受けることが困難な場合には、精子・卵子両方の提供によって得られた胚の移植を受けることができる

これを認めるのは、会としても反対。個人的にも絶対に反対。胚提供以上に、子どもが事実を知ったときの衝撃、混乱が大きすぎる。まったく無関係の、顔を合わせたこともない男女の間にできた子という事実は、人の心が受け入れられる範囲を超えているのではないか。「子どもの福祉を優先する」というのであれば、知ったときにどうなるかも考えるべき。どうせ親は告知しないのだから……という前提で考えるべきではない。パブリックコメントでもこの件に対する反対意見は多く、もう一度よく検討すべき。

以上です。続きはまた改めて提出します。


資料4に関する見解

平山史朗

 以下に記す私の見解の中で、「医師の裁量(判断)」といった場合の「医師」には、次のような条件がつきます。

【理由】

 現在の生殖医療は非常に高度化されているため、不妊専門医でない一般の産婦人科医が実施できるものではないことは明らかである。ましてや中絶、出産、更年期診療などを日常臨床として行っている医師が同時に生殖補助医療を行えるとは時間的、技術的に到底考えられない。また施設も受精、培養、凍結などに関して最新の技術水準を維持するためには相当のものを用意する必要があり、とても一般の産婦人科では不可能である。これは不妊症治療専門施設に勤務する者として外せない条件である。

 また、あくまで第三者提供による生殖補助医療はひとつの選択肢であって、それが「受ける必要がある」という性質のものではないこと、またchild-freeも含めた他の選択肢を選ぶ権利が対象夫婦に存することが、よく対象夫婦に理解されていることが前提である。

検討課題1 提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療の実施、精子・卵子・胚の提供の条件

(1)提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療を受けることができる者の条件 等

○「加齢により妊娠できない」ことの具体的な判定基準はどのように設定するか?

 子宮の状態には非常に個人差が大きいので、「○○歳」と数値化してしまうのは難しいと思いますので、医師の裁量で判断するのが適当と考えます。ただし、その際、レシピエントに対して心理学的スクリーニングを実施し、高齢で出産、養育していくことの困難に耐えられるだけの方に限る必要があります。高齢で生んだからといってその親子が幸せになれないとは限りませんし、良い母子関係が築ける可能性もあるでしょう。また(第三者生殖全てに当てはまりますが)出産後の医学的、心理学的フォローも必要であると考えます。

○「自己の精子・卵子を得ることができる」ことの具体的な判定基準はどのように設定するか?

 文章としてはこれで良いと思います。また、その判定にしても医師の裁量で行うのが適当であると考えます。ただ、「得ることができる」という事の判断に関しての実際的な運用は慎重にしなくてはいけないと考えます。この「報告書」では「受精可能」な配偶子という考え方で検討されていますが、最先端の生殖補助医療に日常接している立場からすると、実は受精しても妊娠に至らない胚が多く、「受精卵の質」ということが最も大きな問題である、という事実をどのように考えるかが問題ではないでしょうか。すなわち、「得ることができる」を、「卵や精子の質を問わず採取できること」に限定してしまうと、卵や精子が採取できるけれども妊娠可能な受精卵ができない人(夫婦)はいつまでも提供を受けることができず、卵や精子が取れない人は提供が受けられるというある種の不平等ともいえる状態になることが多く予想されます。私は医師という「専門家」ではありませんので、このような事を言うべき立場ではないのかもしれませんが、現実的な運用として、以下のような基準で考えることが必要となるのではないかと考えます。

● 基本的には「妊娠可能な受精卵」ができない夫婦は、「自己の精子・卵子を得ることができない」状態と考え、提供を受けられるものとする

【精子】

【卵子】

【胚】

 以上のような判断を、「医師の裁量」で行うのが適当でしょう。一見「何でもOK」と見えるかもしれませんが、これを判断するには本当に世界的水準の知識と技術が必要であるため、それを満たす医師は実際それほどはおられず、またそのような医師であれば、やたらに範囲の拡大解釈をすることはないと信じています。

○ 各々の提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療を受けなければ妊娠できないことの具体的な判定基準はどのように設定するか?

 上記参照のこと。

○ 精子・卵子・胚の提供(提供を受けることができる者)について優先順位を設けるか?

 優先順位を設けるというのは、その基準をどうするかということを考えると難しいのではないかと思います。たとえば同じ無精子症の人であれば、妻の年齢が高い方からにするのか、不妊症治療経験の長い方からするのか、結局個々のケースに照らして決められるのが自然だと考えます。
 また、「優先順位」を国が規定するのもおかしい話で、まず当事者の希望が考慮されるべきであると考えます。(以下、全ての「優先順位」に関する項目で同様)

○ 「卵子の提供」を受けなければ妊娠できない夫婦も例外として「余剰胚の提供」を受けることができる「卵子の提供が困難な場合」の具体的な判定基準をどのように設定するか?

 実施医療施設の判断に委ねるのが妥当ではないでしょうか。卵の提供と胚の提供の医学的、心理学的相違について該当患者が理解し納得すれば卵子提供対象の患者が胚提供を受ける事も可能にしたほうが良いと思います。

○ 「卵子の提供」が困難な場合に、「卵子のシェアリング」と「兄弟姉妹等からの卵子の提供」と「余剰胚の提供」をどのような優先順位で適用するか?

 前述の通り、「優先順位」という考え方を運用しようとすると、実際的な「管理運用機関」の業務、権限が大きくなりすぎ、結局「提供」が実際には非常に困難になってしまう可能性があるのではないでしょうか。実施医療機関の判断に委ねるのが適当であると考えます。

○ 「余剰胚の提供」の例外として「精子・卵子両方の提供によって得られた胚の移植」が認められる「余剰胚の提供が困難な場合」の具体的な判定基準をどのように設定するか?

 この方式の提供が行われる為には、まず精子、卵子ドナーの同意が非常に重要となると思われます。ドナー希望者が、自分の配偶子がレシピエントでない全く他人の配偶子と受精され提供されるということの意味を理解し、同意されることが前提です。また産まれてくる子のことを考えると、事実を知ったときにアイデンティティの混乱が他のケースよりも生じる可能性があるのではないかと危惧します。ただ、それを覚悟の上でレシピエントが希望し、長期的な医学、心理学的フォローが保証されるのであれば可能としてよいと考えます。

○ 「余剰胚の提供」が困難な場合に、「兄弟姉妹等からの余剰胚の提供」と「精子・卵子両方の提供によって得られた胚の移植」のどちらを優先するか?

 前述の「優先順位」についての考えと同様、優先順位を設けることは実際的でないと考えます。優先順位で「兄弟姉妹」を優先する事(あるいはその逆)としてしまうと、かえって「圧力」が生じ家族関係に影響を与えうると思われるからです。

○ 「移植する胚や子宮」がどのような状況にあれば、胚を3個まで移植することを認めるか?

 胚の形態学的判断は日々進歩しており、基準を作った時点ですでに古くなる事が予想されますので、医師の裁量とすることが妥当と考えます。例えば、最近の世界的な常識として、胚盤胞(Blastocyst)まで培養して移植する事により有意に多胎妊娠を減らし、妊娠率を向上させる事が知られてきております。

2 精子・卵子・胚の提供の条件

(1)精子・卵子・胚を提供できる者の条件 等

○ どのような感染症について提供者の検査を行うか?

 現在可能な検査についてフォローした事を証明できるようなシステム作りが必要であると思われます。

○ 卵子提供者の感染者検査を行う場合、卵子凍結が技術的に確立していないため、検査により感染が判明しない期間(ウィンドウ・ピリオド)を考慮した感染症の検査が困難であるが、これについては、提供を受ける者のインフォームド・コンセントを得ればよいこととするか?

 この問題に関しては慎重にならざるを得ないのかもしれませんが、やはり未知のリスクに対してはレシピエントへのインフォームド・コンセントをしっかりとする事により対応するしかないのではないでしょうか。つまり、自己責任の重要性です(ここで問題となるのが周囲からの『圧力』であり、この未知のリスクを負わなければ第三者利用による生殖医療は実施できないということが、「圧力」が排除されなければならない理由のひとつと考えます)。

○ 感染症のほかに提供者について検査すべき項目はないか?

 心理学的スクリーニングを必要とするべきであると思います。内容については提供者本人に対する各種心理検査と構造化された面接、家族歴聴取による精神科疾患歴の調査などが含まれるべきでしょう。

○ 上記の検査の結果を提供者に知らせるか?

 ドナー不適格となった時点で、提供者には医学的説明とインフォームド・コンセントが与えられるべきであり、また感染症などの場合にはその心理学的フォローが必要な場合にはカウンセリングの実施なども考えられます。また心理学的にドナー不適格となった場合にもカウンセリングは必須となるべきでしょう。

○ 提供者における無償原則の例外として提供者に支弁することが認められる「実費相当分」の具体的な範囲はどのように設定するか?

 夫婦間の生殖医療に関しての規定もない状態で、金額の設定は不適当であると考えます。
 将来的に夫婦間の生殖医療が保健適用になれば、提供に関する金額の基準も決まってくるかもしれません。

○ 「実費相当分」の金銭等のやりとりの方法はどのようにするか?

 本来医療において金銭のやり取りが生じる際には医療ソーシャルワーカー立会いのもとが望ましいと考えますが、実際的なシステムとしては、ソーシャルワーク的な役割は不妊専門コーディネーターが担うのが自然であると考えますので、コーディネーター立会いのもとで書面によるやり取りが望ましいと考えます。また、領収書の取り扱いや税金のかけ方なども議論が必要と考えます。

○ 他の夫婦が自己の体外受精のために採取した卵子の一部の提供を受けて提供卵子による体外受精を行う(卵子のシェアリング)場合に、卵子の提供を受けた人が当該卵子を提供した人に対して負担する「当該卵子の採卵の周期に要した医療費等の経費」の具体的な内容はどのように設定するか?

 前述の通り金額を設定するのは医療機関で違いすぎるため適当ではないと思います。「当該ドナーが負担した排卵誘発、採卵に関わる費用の○割以内」という規定であとは実施医療機関が定めるのが適当であると考えます。

○ 卵子のシェアリングの場合に提供する卵子の数(又は割合)はどうするか?

 採卵できる卵の数は同じ人であっても毎回変動するため、数を決める事はできないと思われます。卵子のシェアリングをする周期が始まる際に提供者の希望を聞き、それに基づく契約をレシピエントと結ぶことになるのではないでしょうか。もし契約どおり卵子が採取できなかった場合の事も事前に契約しておくべきであると思います。

○ 卵子のシェアリングの場合に提供する卵子の選別を認めるか?

 「余剰胚」と同様にやはり「余剰卵」という考え方が妥当ではないかと思います。提供者が自分の胚移植に必要十分な卵子の数が保障されなければ提供はできないと思われますので。

○ 兄弟姉妹等からの精子・卵子・胚の提供における公的管理運営機関の審査基準を具体的にどのように設定するか?

 規定としては「報告書」の文面で充分であると思います。Known donor、Unknown donorそれぞれの心理学的なスクリーニング基準についてはアメリカ生殖医学界のガイドラインが一番充実した内容であると思いますので、それに沿った考え方で検討していくべきであると思います。医学的な問題としてはどのような審査が考えられるのでしょうか?

○ 精子・卵子・胚の提供者と提供を受ける者との属性を合わせるか?また、合わせる場合、どこまで合わせるか?

 「属性」の問題に関しては、これからの世の中を考えると、DNA鑑定などがより一般的になってくる事などが予想される為、合わせることの意味がなくなるのではないでしょうか。すなわち、初めから遺伝的なつながりがないことが子どもに知られるものとして議論していかなければ実際的ではないように思います。この点は産科婦人科学会が兄弟姉妹からの提供を将来的な家族関係の複雑化のために認めないとしている事とも関連します。

○ 属性以外の提供を受ける者の希望に応えるか?また、応える場合、どこまで応えるか?

 基本的には応えないこととするのが妥当であると考えます。

○ 提供者が死亡した場合の精子・卵子・胚の使用について取り扱いを決めなくてよいか?

 提供者が死亡した場合の精子・卵子・胚は廃棄されるのが適当であると考えます。
○ 提供された精子・卵子・胚の保存期間についても具体的に取り決めなくてもよいか?
 ワーキンググループの考え方で問題ないと考えます。

以上、現時点での考えを述べさせていただきました。

広島HARTクリニック
平山史朗


生殖補助医療部会「検討課題1」に対する個人的見解(H13.8.30)

帝塚山大学 才村眞理

(児童福祉の立場から)


トップへ
戻る