審議会議事録  厚生労働省ホームページ

第3回社会保障審議会資料


社会保障をめぐる現状・課題 (PDF:919KB)
今後の経済財政運営及び経済社会の構造改革に関する基本方針(平成13年6月26日閣議決定)
最近の人口動向(平成9年1月推計と実績の比較) (PDF:207KB)
日本の将来推計人口(平成9年1月推計)の概要
社会保障審議会分科会について(報告)
今後の社会保障審議会の審議の進め方について(案)


照会先
政策統括官付社会保障担当参事官室 政策第1係
代)03−5253−1111(内線7691・7692)
ダ)03−3595−2159


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資料1−2

今後の経済財政運営及び経済社会
の構造改革に関する基本方針

(目次)

<新世紀維新が目指すもの − 日本経済の再生シナリオ>

1.経済再生の第一歩としての不良債権問題の抜本的解決

2.構造改革のための7つの改革プログラム

(経済社会の活性化のために)
(1) 民営化・規制改革プログラム
(2) チャレンジャー支援プログラム − 個人、企業の潜在力の発揮

(豊かな生活とセ−フティ−ネットを充実するために)
(3) 保険機能強化プログラム
(4) 知的資産倍増プログラム
(5) 生活維新プログラム

(政府機能を強化し、役割分担を抜本的に見直すために)
(6) 地方自立・活性化プログラム
(7) 財政改革プログラム

3.政策プロセスの改革

4.中長期の経済財政運営と平成14年度予算編成


第1章 構造改革と経済の活性化

1. 構造改革と真の景気回復
2. 不良債権問題の抜本的解決 − 日本経済再生の第一歩
3. 経済の再生
4. 財政構造改革

第2章 新世紀型の社会資本整備 − 効果と効率の追求

1. 新世紀型の社会資本整備に向けて
2. 硬直性の打破
3. 事業主体としての国と地方
4. 重点的に推進すべき分野
5. 効率性?透明性の追求
6. 経済・財政との整合性

第3章 社会保障制度の改革 − 国民の安心と生活の安定を支える

1.国民の「安心」と生活の「安定」を支える社会保障制度の確立
2.社会保障制度全体に共通する課題
3.医療制度の改革
4.年金制度の改革
5.介護
6.子育て支援

第4章 個性ある地方の競争 − 自立した国・地方関係の確立

1.地方の潜在力の発揮
2.個性と自律
3.自立し得る自治体
4.地方の自律的判断の確立
5.地方財政にかかる制度の抜本改革
6.地方財政の健全化への取組み

第5章 経済財政の中期見通しと政策プロセスの改革

1.中期的な経済財政の展望
2.中期的な経済財政計画の策定と予算編成プロセスの刷新
3.改革を通じる中期目標(プライマリーバランス等)の達成
4.政策プロセスの改革
第6章 平成14年度経済財政運営の基本的考え方

1.景気の現状と経済の先行き
2.平成14年度予算


今後の経済財政運営及び経済社会
の構造改革に関する基本方針

<新世紀維新が目指すもの − 日本経済の再生シナリオ>

 20世紀、とりわけ戦後の日本は、世界に類を見ない経済発展を実現した。しかし、バブル経済が崩壊し、90年代に入って以降、日本経済は停滞を続け、国民の経済社会の先行きに対する閉塞感が深まっている。確かに、過去10年の日本経済のパフォーマンスは、日本の経済社会が本来持っている実力を下回るものだった。さらに、高齢化が進展し、労働力人口が減少するなかで、ともすれば我々は悲観論に陥りがちである。
 今、日本の潜在力の発揮を妨げる規制・慣行や制度を根本から改革するとともに、司法制度改革を実現し、明確なルールと自己責任原則を確立し、同時に自らの潜在力を高める新しい仕組みが求められている。
 グローバル化した時代における経済成長の源泉は、労働力人口ではなく、「知識/知恵」である。「知識/知恵」は、技術革新と「創造的破壊」を通して、効率性の低い部門から効率性や社会的ニーズの高い成長部門へヒトと資本を移動することにより、経済成長を生み出す。資源の移動は、「市場」と「競争」を通じて進んでいく。市場の障害物や成長を抑制するものを取り除く。そして知恵を出し、努力をした者が報われる社会を作る。「構造改革」は、こうした観点から、日本経済が本来持っている実力をさらに高め、その実力にふさわしい発展を遂げるためにとるべき道を示すものである。
 まず、不良債権問題を2〜3年内に解決することを目指すとともに、後述するような前向きの構造改革をパッケージで進める。今後2〜3年を日本経済の集中調整期間と位置付け、短期的には低い経済成長を甘受しなければならないが、その後は経済の脆弱性を克服し民需主導の経済成長が実現することを目指す。そうした経済動向のなかで、次世代のためにプライマリーバランスの黒字に向けた財政改革を、マクロ経済の動向に十分注意を払いつつ着実に進めていく。

 21世紀の日本では、実力に見合った経済成長が実現する。そこでは、国民が自信と誇りに満ち、努力するものが夢と希望をもって活躍し、市場のルールと社会正義が重視される。また、それは誰もが豊かな自然と共生し、安全で安心に暮らせるとともに、世界に開かれ、外国人にとっても魅力がある社会でなければならない。新世紀維新が目指すのは、このような社会である。

1.経済再生の第一歩としての不良債権問題の抜本的解決

 経済再生の第一歩として、不良債権の処理を急ぐべきである。不良債権については、「緊急経済対策」(平成13年4月6日)で最終処理に向けたスケジュールが明示され、民間を中心とした私的整理の指針づくりも進展している。さらに、米国のRTC(整理信託公社)の例も参考に、RCC(整理回収機構)による不良債権処理、企業再生等を進める。
 第1に、新規不良債権の発生メカニズムと担保となる土地の価格動向を正確に把握することが重要である。不良債権の債務者企業による財務状況の適正な情報開示と、不良債権の最終処理を目指してそれに適合した銀行による適正な債務者区分、引当て及び適切なリスク管理を促進する。要注意先債権等についても、銀行が、借り手先企業の状況把握に努め、適正なリスク管理を行う一方、借り手の経営改善に向けた努力を行うよう促す。
 第2に、主要行の不良債権について、「緊急経済対策」に沿ったオフバランスシート化の進捗状況を定期的に点検するとともに、不良債権比率、与信費用比率(貸出に占める不良債権処理損の比率)といった新たな指標等も参考に、不良債権の新規発生の状況を含む不良債権問題全体の改善状況について的確な把握に努める。
 第3に、RCCの機能を抜本的に拡充し、RCC を積極的に活用した不良債権処理、企業再生等を進め、銀行の不良債権のオフバランスシート化の確実な実現を図る。
 第4に、オフバランスシート化によって、転職することが求められる雇用者については、新規分野における雇用機会の創出(試算によれば、新規分野を含むサービス分野においては、5年間で530万人が期待)や労働移動の増加に対応する制度改革によって就業機会を拡大する。具体的な制度改革としては、自己啓発の支援、大学・専修学校等が社会人の再教育・再訓練に柔軟に応える機能(いわゆるコミュニティ・カレッジ)の強化、職業能力評価システムの整備や派遣制度の規制改革等を推進する。また、離職者、転職者に対する支援の強化などセーフティーネットの拡充、総合化を図る。
 第5に、21世紀にふさわしい安定した金融システムを構築する。直接金融を重視したシステムに円滑に移行するために個人の株式投資にかかる環境整備を行うなど証券市場を活性化する。金融システムの構造改革という観点から銀行の株式保有のリスクを適切に規制する。

2.構造改革のための7つの改革プログラム

(経済社会の活性化のために)

(1)民営化・規制改革プログラム

 「民間でできることは、できるだけ民間に委ねる」という原則の下に、国民の利益の観点に立って、特殊法人等の見直し、民営化を強力に推進し、特殊法人等向け補助金等を削減する。郵政事業の民営化問題を含めた具体的な検討、公的金融機能の抜本見直しなどにより、民間金融機関をはじめとする民間部門の活動の場と収益機会を拡大する。
 医療、介護、福祉、教育など従来主として公的ないしは非営利の主体によって供給されてきた分野に競争原理を導入する。国際競争力のある大学づくりを目指し、民営化を含め、国立大学に民間的発想の経営手法を導入する。また、規制を極力撤廃し、自由な経済活動の範囲をできる限り広げるとともに、消費者・生活者本位の経済社会システムを実現する。

(2)チャレンジャー支援プログラム − 個人、企業の潜在力の発揮

 個人の潜在力を十分に発揮させるために、個人の意欲を阻害しない「頑張りがいのある社会システム」を構築する。このため、従来の預貯金中心の貯蓄優遇から株式投資などの投資優遇へという金融のあり方の切り替えや起業・創業の重要性を踏まえ、税制を含めた諸制度のあり方を検討する。
 さらに、公正取引委員会の体制を強化し、その機能を充実させるなど、競争環境の積極的な創造や市場監視の機能・体制を充実させ、競争政策を強力に実施する。市場支配力を有する通信事業者への非対称規制の前倒し実施、放送、通信の融合を推進する。なお、周波数などの公共資源は、公開入札など市場原理を活用することも含め、最適な配分方式について検討する。
 また、ITモデルエリア、IT教育支援等によってIT革命を推進する。


(豊かな生活とセーフティーネットを充実するために)

(3)保険機能強化プログラム

 国民一人一人にとってライフステージの各段階にわたる自分の生活と社会保障制度との関わりが分かるようにする。こうしたことを通じて、「分かりやすくて信頼される社会保障制度」を実現する。このため、ITの活用により、社会保障番号制導入とあわせ、個人レベルで社会保障の給付と負担が分かるように情報提供を行う仕組みとして「社会保障個人会計(仮称)」の構築に向けて検討を進める。
 公的年金については、「人口減少社会」の下で「持続可能で安心できる」制度を構築するとともに、公的年金及び私的年金の役割分担により、高齢者の生活を総合的に保障する。
 医療については、医療サービスの標準化、ITを活用した医療情報の開示、医療機関経営の近代化・効率化などからなる「医療サービス効率化プログラム(仮称)」を推進することなどにより、医療の質を落とさずにコストを下げ、維持可能な制度とする。

(4)知的資産倍増プログラム

 人材大国と科学技術創造立国を実現するために、知的資産を倍増するとの観点から、教育改革を進めるとともに、ライフサイエンス、IT、環境、ナノテクノロジー・材料の4分野への戦略的重点化を図る。
 大学教育に対する公的支援については、機関補助に世界最高水準の大学を作るための競争という観点を反映させる。また、個人支援を重視する方向で、公的支援全体を見直す中で、教育を受ける意欲と能力がある人が確実にこれを受けられるよう、奨学金の充実や教育を受ける個人の自助努力を支援する施策を検討する。民間からの教育研究資金の流入を活発化するため、大学が受ける寄附金・大学が行う受託研究の充実のための環境整備について、税制面での対応を含め検討する。また、社会人に対する自己啓発の支援を充実する。

(5)生活維新プログラム

 人々が自らのライフスタイルに合わせ、男女が共同して社会に参画し、将来にわたってのびのびと働き生活できる基盤を整備する。

(@)多機能高層都市プログラムの推進により職住近接を可能とする。

(A)「働く女性にやさしい社会」を構築するため、税や社会保障制度の見直しに当たっては、個人単位化を進めるとともに、雇用に関する「性による差別」を撤廃する。

(B)保育所待機児童をゼロとするプログラムを推進するとともに、放課後児童の受入体制の整備を図る。

(C)バリアフリー化の推進等により、高齢者などが年齢等にかかわりなく働きやすく暮らしやすい環境を整備する。

(D)ごみゼロと脱温暖化の社会づくり、自然との共生などを通じ、地球と共生する「環の国」づくりを推進する。

(E)国民に安全(人の生命、健康に関わる良質な環境や水と食料などの確保を図るヒューマン・セキュリティ、安全な国土)と治安を確保し、安心して暮らせる社会を保障する。


(政府機能を強化し、役割分担を抜本的に見直すために)

(6)地方自立・活性化プログラム

(地方の潜在力の発揮)
 「個性ある地方」の自立した発展と活性化を促進することが重要な課題である。このため、すみやかな市町村の再編を促進する。歳出の効率化を図り、受益と負担の関係を明確化するとの観点に立ち、地方財政の立て直しを行う。
 「行政サービスの権限を住民に近い場に」を基本原則として、国庫補助負担金を整理合理化するとともに、国の地方に対する関与の縮小に応じて、地方交付税制度を見直す。特定の事業について、地方の負担意識を薄める仕組みを縮小するなど、制度の簡素化を行う。また、地方行財政の効率化などを前提に、地方税の充実確保により、社会資本整備・社会保障サービス等を担う主体として地方行政の基本的な財源を地方が自ら賄える形にすることが必要である。
 水道など地方公営企業への民間的経営手法の導入を促進し、介護福祉、まちづくり、リサイクルなど社会事業を担うNPOの支援強化など地方の活性化を図る。

(地域に密着した産業の活性化等)
 意欲と能力のある経営体に施策を集中することなどにより、食料自給率の向上等に向け、農林水産業の構造改革を推進する。また、地方の活性化のために、都市と農山漁村の共生と対流、観光交流、おいしい水、きれいな空気に囲まれた豊かな生活空間の確保を通じ「美しい日本」の維持、創造を図ることが重要である。

(7)財政改革プログラム

 巨額の財政赤字を抱えている我が国財政の状況を改善し、21世紀にふさわしい、簡素で効率的な政府を作るため、財政の改革に取り組む。
 特に、資源配分の硬直性を打破するため、例えば公共事業に関しては、特定財源を見直すとともに、「公共事業」と「非公共事業」の区分にとらわれない配分、弾力的な地域間配分を行う。さらに、政策目標に照らし、公共事業以外のより適切な政策手段がないか十分に審査する。
 また、経済社会の状況変化やこれまでの整備状況などを踏まえ、公共事業関係の長期計画については、各計画の必要性も含め見直しを行う。

3.政策プロセスの改革

 首相公選制は民主主義の下で民意を直接反映させる仕組みであり、今後検討されるべきである。オープン・ソース方式の採用やタウン・ミーティングなどによる国民対話も、政策意思決定プロセスにおける透明性を高める上で重要である。
 政策形成プロセスにおける透明性を高め、短期・中期の経済財政運営の整合性を確保するために、財政システムと予算編成プロセスを刷新する。
 予算配分の硬直性を是正するため、経済財政諮問会議を中心に、先ずは政策のあり方を横断的に審議し、その結果を反映してメリハリの効いた予算編成を行う。
 省庁横断的で優先度の高いプロジェクトについては、内閣として予算の要求から執行に至るプロセスに関与を深め、その一体的、整合的な推進を図る。
 国・地方の一般会計(普通会計)、特別会計、財政投融資、国・地方間の財政移転、特殊法人等との間の資金移転のそれぞれの関係について説明責任を果たし、透明性を高めていく。
 重点分野の特定化と優先順位付けを行い、実施事業を客観的に評価し、決算や評価結果を予算・計画などに反映させるための体制を整備する。特殊法人について、透明性と説明責任を確保するために関連子会社を含め企業会計原則、連結財務制度に基づいた「行政コスト計算書」を導入するとともに、特別会計についても導入を検討する。

4.中長期の経済財政運営と平成14年度予算編成

 民間経済、金融、財政の構造改革を強力に実施することによって、日本経済は、不良債権処理等に伴うデフレ圧力が発生する調整期間を経て、「停滞の10年」を抜け出し、「躍動の10年」を展望することが可能となる。
 アメリカの景気動向や不良債権処理等に伴うデフレ圧力の影響などの不確実性が存在し、経済を的確に見通すことは困難であるが、このところ景気は悪化しつつあり、平成13年度の経済成長は、当初の政府経済見通しをかなり下回るとみられる。アメリカ経済の回復傾向が明らかになっていけば、適切な経済運営のもとで構造改革の進展の成果もあり、平成14年度の景気は徐々に回復への動きをたどることとなる。
 中期的にみて日本経済は、民間経済、金融、財政の構造改革を通じた経済活性化や国民や企業の将来に対する不安感の軽減などにより、民需主導の経済成長を実現し、潜在力を十分発揮していくものと予想される。
 平成14年度において、財政健全化の第一歩として、国債発行を30兆円以下に抑制することを目標とする。その後、プライマリーバランスを黒字にすることを目標として政策運営を行う。ただし、そのペースについては、マクロ経済の動向に十分注意を払いつつ進める。
 金融政策については、調整期間におけるデフレ圧力の状況も踏まえ、機動的な量的緩和政策をとることが期待される。また、景気の状態によっては、セーフティーネットに万全を期するなど、柔軟かつ大胆な政策運営を行う。
 平成14年度予算については、この基本方針で示した構造改革、重点分野などを反映し、メリハリの利いた予算編成を行うなど、予算編成プロセスを刷新する。        


第1章 構造改革と経済の活性化

1.構造改革と真の景気回復

 いかなる経済においても生産性・需要の伸びが高い成長産業・商品と、逆に生産性・需要の停滞する産業・商品とが存在する。停滞する産業・商品に代わり新しい成長産業・商品が不断に登場する経済のダイナミズムを「創造的破壊」と呼ぶ。これが経済成長の源泉である。
 創造的破壊を通して労働や資本など経済資源は成長分野へ流れていく。こうした資源の移動は基本的には市場を通して行われる。市場の障害物や成長を抑制するものを取り除く。市場が失敗する場合にはそれを補完する。そして知恵を出し努力した者が報われる社会を作る。こうしたことを通して経済資源が速やかに成長分野へ流れていくようにすることが経済の「構造改革」にほかならない。
 創造的破壊としての構造改革はその過程で痛みを伴うが、それは経済の潜在的供給能力を高めるだけではなく、成長分野における潜在的需要を開花させ、新しい民間の消費や投資を生み出す。構造改革はイノベーションと需要の好循環を生み出す。構造改革なくして真の景気回復、すなわち持続的成長はない。

2.不良債権問題の抜本的解決 − 日本経済再生の第一歩

 不良債権問題は日本経済が抱える「負の遺産」である。過去の遺産が現在そして将来の日本経済にとって解決しなければならない問題である理由は2つある。第1に銀行の収益性の低下や追加処理リスクが生ずることであり、第2に不良債権を生んだ産業の多くが非効率であり低収益の構造にあることである。不良債権の最終処理を行うことにより、資源が成長分野に流れていくことが期待される。
 なお、不良債権の最近の発生状況、特に、製造業等いわゆるバブルの影響が比較的小さいとされる分野における不良債権の新規発生の伸びが大きいことなどを考えても、不良債権は経済の停滞に伴って新規に発生するものであり、また、不良債権処理により資源が向かうべき成長分野が存在するためにも、第3節で述べる実体経済の再生が重要である。

(1)不良債権の確実な最終処理と情報開示

 「緊急経済対策」は、バランスシートからはずすことこそが不良債権の最終処理になるとの認識の下、明確なスケジュールを設定した。主要行には、新規不良債権の発生メカニズムを把握の上でそのスケジュールを前提に、迅速に処理が行われることが期待される。
 このような取組みは、パブリック・プレッシャーの下で、金融機関の自主的な判断で進められることになる。それが実効性を持つためには、(1)不良債権の厳格な把握とその情報開示、(2)不良債権処理の進捗に関する情報開示等が必要である。

(2)処理状況の厳格な点検

 不良債権の処理状況について、2〜3年以内にオフバランスシート化するという目標の進捗状況を定期的に厳しく点検するとともに、さらに、不良債権比率、与信費用比率といった新たな指標等も参考に、不良債権の新規発生の状況を含む不良債権問題全体の改善状況について的確な把握に努める。

(3)産業の再生なくして不良債権の最終的解決なし

 不良債権問題の背景には、借り手である企業/産業側の過剰債務や非効率性といった構造問題がある。不良債権問題は、借り手が抱えるこうした構造問題と一体的に解決されることが必要である。法的整理のためには、会社更生法、民事再生法があるが、より使い易くするために必要な見直しを行うべきである。また、私的整理については、その公正、円滑化に資するためのガイドラインを関係者間で早急にとりまとめることが期待される。

(4)RCCによる不良債権処理と企業再生

 緊急経済対策に沿って不良債権の最終処理を確実に実現するため、RCCの機能を抜本的に拡充することとする。その上で、目標期間である2〜3年以内に主要行が最終処理を行うことが困難な不良債権については、RCCに譲渡等するよう要請する。
 具体的には、まず、今国会で金融再生法が改正され、RCCによる資産買取りが3年間延長されたが、さらに、RCCに信託兼営を認め、信託方式による不良債権の引受けも可能とする等、RCCが幅広く金融機関の不良債権の引受けを行い得るよう、所要の措置を講ずる。また、
 RCCは、受け入れた債権について、債務者企業の再建可能性に応じ、厳正な回収に努める一方、再建すべき企業と認められる企業については、法的・私的再建手続等を活用し、その再生を図る。このため、例えば、企業再構築を図る組織の新設等、RCCの機能・組織の拡充を図る。
 さらに、米国のRTCの例も参考に、不良債権や担保不動産の証券化を積極的に進める。なお、これにより、債権流動化市場の育成を図り、銀行による不良債権処理や土地の流動化等が促進されることを期待する。

(5)不良債権処理の影響に備えたセーフティーネットの充実

 不良債権処理は、将来の経済成長のための必要条件ではあるが、十分条件ではない。不良債権処理という「後向きの構造改革」に加え、以下に述べるような「前向きの構造改革」を実行することが重要である。実体経済が再生することは、失業を新規成長分野で吸収するということを可能にするし、不良債権の新規発生を抑制するということにも寄与するからである。
 不良債権処理が雇用に与える影響を正確に予測することは困難であるが、ある程度の影響があることは否定できない。このような雇用への影響に対しては、財政のビルト・イン・スタビライザー機能があるが、雇用への影響を最小限に抑えるため、雇用対策法、雇用保険法、離転職者向け教育訓練、緊急雇用創出特別奨励金等の制度・施策を活用する。また、離職後失業期間中の住宅ローン負担・教育費負担に対する支援、起業者に対する支援など、制度横断的な施策の拡充を行う。さらに、雇用情勢によっては、モラルハザードに留意しつつセーフティーネットの一層の充実を図る。
 中小企業の連鎖倒産等の防止のため、信用保証協会の保証や政府系金融機関の貸付を活用するなど、金融面で適切に対応するとともに、経営の健全化に向け中小企業が自ら行う経営革新を積極的に支援する。
 上記に加え、新たな市場と雇用を創出する構造改革と雇用対策の一体的な施策の具体化について、産業構造改革・雇用対策本部での検討が期待される。

3.経済の再生

 経済成長は社会的ニーズに新しい技術が出合うことにより生まれる。21世紀初頭の我が国は、IT革命が進展するなかで、自然との共生、高齢化社会の到来など、出来合いの答えが用意されていない課題に直面している。これは日本経済にとって大きなチャレンジであるが、同時にこうした高齢化社会への対応等の社会的ニーズは成長の源泉でもある。社会的ニーズに新しい技術を結びつけるために、市場の整備など社会的なイノベーションが必要である。

(1)科学技術創造立国・世界最先端のIT国家への足固め

 20世紀の最後の20年間で、機械や工場などの物的な資本は、最も重要な生産要素の座を、特許やノウハウ、経営企画力など無形資産に譲った。付加価値や経済成長を生み出す最も重要な要素は「知識/知恵」である。21世紀の日本は、科学技術創造立国及び世界最先端のIT国家を目指さなければならない。
 新しいテクノロジーとして、(1)ライフサイエンス、(2)情報通信(IT)、(3)環境、(4)ナノテクノロジー・材料の4分野への重点的な研究開発を進める。これら4分野を含め「科学技術基本計画」(平成13年3月30日閣議決定)の着実な実行が必要である。また、こうしたテクノロジーが潜在的能力を最大限に活かし、(1)循環型社会の構築/環境の保全、(2)高齢化社会への対応、(3)都市の再生など、21世紀の日本が真に必要としている社会的ニーズに応えられるよう、重点的な資源配分が行われなければならない。
 こうした目的のために、民間企業の研究開発や国・大学から民間企業への技術移転を促進するとともに、新しい技術を活かして事業を起こそうとするベンチャー・ビジネス等の支援に資する環境整備について検討する。
 5年以内に世界最先端のIT国家になるとの目標達成に向け、「e-Japan重点計画」(平成13年3月29日)及び「e-Japan2002プログラム」に基づき、重点的かつ戦略的にIT施策を積極的に推進する。

(2)人材大国の確立

 経済社会が大きく変貌し、ITを始め、技術革新も急速な進展を見せるなか、労働力には、柔軟で質の高い技術、能力が備わっている必要がある。このため、教育全般について、そのあり方を検討する必要がある。特に国立大学については、法人化して、自主性を高めるとともに、大学運営に外部専門家の参加を得、民営化を含め民間的発想の経営手法を導入し国際競争力のある大学を目指す。他方、学生・社会人に対しては、奨学金の充実や教育を受ける個人の自助努力を支援する施策について検討する。
 職業能力開発については、IT教育訓練などの充実を図るとともに、それが十分に活用されるよう、自己啓発支援等の仕組みを強化する。

(3)民間活力が発揮されるための環境整備

(@)規制改革

 国際的な交流が盛んになるにつれ、我が国の価格が概して割高であることが大きく浮き彫りにされている。このような高コスト構造を解決するためには、経済活動が極力民間に委ねられ、自由な活動と創意工夫によって効率化が進められることが不可欠である。
 経済的規制の改革は、電気通信、エネルギー等の分野でまだ課題を残している。特にNTTのあり方については、公正有効な競争が実現するよう、競争の進展状況等を踏まえ速やかに抜本的な見直しを行うべきである。また、周波数などについては、公開入札など市場原理を活用することも含め、最適な配分方式について検討する。他方、社会的規制の改革はさらに遅れている。特に、医療、労働、教育、環境等の分野での規制改革は、サービス部門における今後の雇用創出のためにも重要である。本年発足した総合規制改革会議における、これら重点検討分野の検討が期待される。

(A)競争政策

 メガコンペティションの下で、金融、産業の分野における外資の参入や産業再編の進展に対応するとともに、談合・横並び体質からの脱却と市場の活性化を図るため、競争政策の積極的な展開が求められている。これとあわせ、公正取引委員会における審査の透明性の向上及び審査の迅速化が図られる必要がある。
 また、規制緩和が進む公益事業分野において、自由かつ公正な競争が確保されるよう十分な監視をするとともに、特に電気通信分野においては、市場支配力を有する通信事業者への非対称規制を前倒し実施する。さらに、新たな省庁体制の中で、公正取引委員会の位置付けについて、規制当局からの独立性、中立性等の観点からよりふさわしい体制に移行することを検討する。

(4)規制改革のみならず制度改革に踏み込む

 司法制度は、社会の複雑化、多様化、国際化、事前規制型から事後チェック型行政への移行といった変化に対応し、見直されなければならない。司法制度改革は社会的インフラとして重要であり、「司法制度改革審議会意見書」(平成13年6月12日)を最大限尊重して着実に改革が進められるべきである。
 経済法制については、現在商法の抜本改正が検討されているが、我が国の競争力の向上に結びつくように、民間事業者の意見も十分に踏まえた改正が行われることが期待される。また、社会経済構造の変革と事後監視型社会への転換に対応し、国民や企業の経済活動にかかわる民事・刑事の基本法について、抜本的に見直す。
 「民間でできることは、できるだけ民間に委ねる」ことを原則に、国民の利益の観点に立って、徹底した行政改革を行い、特殊法人等や国営施設の見直し、民営化を進めることが必要である。郵政三事業については、予定どおり平成15年の公社化を実現し、その後のあり方については、総理の懇談会において、民営化問題を含めた具体的な検討を進める。
 それでも残る公的部門については、徹底した効率化を進めるために、企業会計制度を踏まえて公会計制度の見直しを行うとともに、その適切な情報公開を行うことが必要である。また、早急に電子政府化を実現することが重要である。

(5)資産市場の構造改革

(@)証券市場の構造改革

 証券市場の活性化のためには、企業が活性化し、収益力を高めることが基本である。しかし、同時に、市場監視・取締体制の充実、インサイダー取引や株価操縦等不公正取引に対するルールの明確化、会計基準・会計監査を一層厳格化することなど、インフラの整備も必要である。さらに、個人投資家の市場参加が戦略的に重要であるとの観点から、その拡大を図るために、貯蓄優遇から投資優遇への金融のあり方の切り替えなどを踏まえ、税制を含めた関連する諸制度における対応について検討を行う。
 金融システムの構造改革という観点からは、銀行の株式保有のリスクは適切に規制されるべきである。こうした施策は、銀行や企業の株式持合いの縮小を通じて、株式市場の市場メカニズムを一層発揮させることにもつながる。ただし、その場合、保有株式の売却が、短期的には株式市場の需給等を通じ、株価水準によっては金融システムの安定性や経済に好ましくない影響を与える可能性を考慮し、一時的な仕組みとして、銀行保有株式取得機構(仮称)の設立に向け早急に検討を進めなければならない。

(A)不動産市場の構造改革

 バブル崩壊以降、低迷を続ける不動産市場の活性化を図る契機としては、構造改革につながるようなプロジェクトによって需要が創出されることも重要である。その点で、本年5月に発足した都市再生本部が選定し、実施しようとしている21世紀型都市再生プロジェクトは重要であり、積極的に推進すべきである。
 このようなプロジェクトが円滑に推進されるためにも、土地の整形・集約化のための事業の促進、国の施設の建替え等におけるPFIの積極的活用が必要である。
 また、住宅ストックの流通や有効活用を促進するために、中古住宅等の評価システムの確立や取引価格情報の開示など、市場情報の提供体制を整備する必要がある。

(6)労働市場の構造改革

 構造改革に伴う雇用への影響を最小限にするためにも、成長分野の拡大を促進するとともに、そうした分野への円滑な労働移動が促進され、労働力の再配置が円滑に実現するように環境整備を進める必要がある。なかでも重要なのは、(1)自発的な能力開発の支援、(2)派遣、有期雇用、裁量労働、フレックス就業等の多様な就労形態を選択することが可能になるような制度改革、(3)キャリア・カウンセリングの充実と職業訓練の円滑化、(4)性別や年齢にかかわらず働ける環境の整備、である。特に女性の労働参加を支援するために、保育所待機児童ゼロ作戦及び放課後児童の受入体制の整備を進める。
 このような施策の充実によって、今後雇用機会の拡大が見込まれるサービス部門への労働移動が円滑に行われることとなる。試算によれば、新規分野を含むサービス分野においては、5年間で530万人の雇用機会の創出が期待される。

(7)税制改革

 税制は、政府活動のための財源を調達する基本的な仕組みであるが、所得・資産の分配、経済の資源配分、納税・徴収費用に結果として大きな影響を与える。したがって、公平・中立・簡素を税制改革の指針としなければならない。
 経済が大きく変容する状況下においては、その環境条件の変化に合わせて、これらの指針に基づき、不断に税制を改革していくことが必要である。我が国は、数次にわたって税制改革を実施してきたが、21世紀にふさわしい税制を実現するためには、さらなる税制改革が求められる。所得、消費、資産等の適切な課税ベースの選択、できるだけ広い課税ベースの確保、政策目的に対して有効な政策手段であるかの検証等、幅広く税制を不断に見直していくことが不可欠である。
 とりわけ、経済の市場化、グローバル化、少子・高齢化という観点から、貯蓄・消費行動、投資・起業行動、労働供給・就業形態に対する誘因を十分に考慮して、個人、企業の経済行動に対して中立的な税制を構築しなければならない。
 租税特別措置について聖域なく徹底した見直しを行い、効率的な企業経営を促進するための制度整備の一環として連結納税制度の導入に向けた検討を進める。

4.財政構造改革

 財政は社会資本を供給し、所得分配を平準化するなど様々な役割を果たしている。しかし、財政の役割は時代とともに変わる。物的な社会資本(ハード)に対する無形の資本(ソフト)の重要性の高まり、高齢化の急速な進展、国と地方の役割分担の見直し等の時代環境が変化する中で、今日、我が国の財政は大きな転換期を迎えている。にもかかわらず時代の変化にシステムが適応できないまま、財政を通した受益と負担のアンバランスが拡大してきた。もはや持続可能な状態ではない。
 このため、まずは平成14年度予算で、国債発行を30兆円以下に抑えることを目標とし、その後、プライマリーバランスを黒字とすることを次の目標とするなど、本格的財政再建に取り組む必要がある。歳出構造については、聖域を設けることなくこれを抜本的に見直し、無駄な歳出を削減するなど徹底した行財政改革を行う。また、公的部門が提供するサービス水準を賄うに足る国民負担のあり方についても広く議論する必要がある。
 なお、構造改革は単なる量の削減ではなく、仕組みやシステムを変えることでもある。歳出の中身の見直しと制度の改革としての財政の「構造改革」は経済成長を促進するものであり、「景気」と対立するものではない。それどころか効率的な社会資本整備を進め、持続可能な社会保障制度の道筋を明らかにすることにより民間の消費や投資を誘発することになる。したがって景気対策の名の下に、中身の見直しと制度の改革としての財政の「構造改革」の道が曲げられることがあってはならない。ただし、財政赤字を縮小する速度、すなわちプライマリーバランスの黒字に向けた取組みや公債残高の対GDP比の抑制のペースは、マクロ経済の動向に十分注意を払いつつ進める必要がある。


第2章 新世紀型の社会資本整備 − 効果と効率の追求

 我が国の諸制度は、戦後、非常によく機能し、高度成長を支えてきた。しかし、現在ではそれがややもすれば非効率な(すなわち費用に見合う効果を生まない)事業等を生む仕組みになってしまっている。近年、経済の力強さが失われてきた大きな要因は、こうした非効率な部分が拡大してきたことだと考える。社会資本整備、社会保障、国と地方の関係を扱っている第2〜4章は、こうした問題意識を踏まえ、具体的に改革の方向を検討している。

1.新世紀型の社会資本整備に向けて

(1)公共投資の問題点 − 硬直性、依存体質を生む仕組み、投資規模等

 社会資本 は国民生活や経済活動に不可欠のものである。戦後の活発な公共投資により、国民の安全や利便性は飛躍的に向上し、また、経済発展を支える基盤もつくられた。しかし、昨今、我が国の公共投資には、「ムダがある」、「高コストである」、「止める仕組みがない」といった批判が多く寄せられている。
 現在も、国民生活にとって必要不可欠な公共投資は多数ある。しかし、分野別の配分の硬直性や、事業によっては国主導で「全国画一的な施設」などを生む仕組み、受益者による費用の負担が極めて少ない制度の下で、ややもすると、必要性の低い公共投資までが行われがちであるなど今後改善すべき点は多い。
 さらに、現下の厳しい財政状況や、国民経済に占める割合でみて我が国の公共投資の規模が欧米諸国などに比べ非常に高いこと等を考えれば、投資規模についても見直しが必要となっている。

(2)明確なビジョンに基づく抜本的な構造改革

 我が国は、明確なビジョンに基づき、公共投資の硬直性を打破し、豊かな国民生活や力強い経済活動の基盤となる、効果の大きい社会資本を最も効率的に整備する仕組みを確立しなければならない。そのために抜本的な構造改革に着手すべきである。また、公共投資の水準を経済や財政と整合性のとれたものとすることが必要である。
 公共事業を厳選することは、実は全ての日本人にとってプラスになる。真に必要な公共投資へ集中することにより、国民の充足感は高まり、日本経済の生産性も向上する。同時に、そうした公共投資は、生活様式の選択肢を多様化するとともに、新たなビジネス・チャンスを創造することを通じ、従来以上に多くの民間の消費や投資を生みだすことが期待される(クラウディング・イン)。

2.硬直性の打破

(1)分野別の配分などに硬直性をもたらしている特定財源等の仕組の見直し

(@)道路等の「特定財源」について、税収を、対応する特定の公共サービスに要する費用の財源に充てることが、一定の合理性を持ちうるとしても、他方、そのような税収の使途を特定することは、資源の適正な配分を歪め、財政の硬直化を招く傾向があることから、そのあり方を見直す。

(A)「公共事業」、「非公共事業」という区分にとらわれた予算配分を改め、総合的な見地から政策目標に合致した予算編成を行う。

(B)地域間の予算配分が合理的なものとなるよう弾力的な配分を行う。

(2)公共投資基本計画や分野毎に作成される長期計画など公共事業関係の「計画」は、事業の着実な推進を支えている面もあるが、他方、資源配分を硬直的なものとし、経済動向や財政事情を迅速に事業へ反映することを困難にしている面がある。こうした点を踏まえ、「計画」について以下の諸点や必要性そのものを含め見直しを行う。

(@)各計画の目標については、アウトカム目標を重視するとともに、これまでの整備状況や経済社会の変化、費用対効果の観点等を踏まえて見直す。

(A)整備が相当程度に進んだことなどに鑑み、例えば、実質的な着手に至っていない大規模公共事業については、改めて費用対効果や実施可能性を厳しく検証した上で、実施の当否などを判断する。また、代替手段のあるものについては、費用対効果の観点から最も適切なものを選択する。

(B)巨額の赤字を生んでいるプロジェクトの存在に鑑み、特殊法人等が借入金等で実施する公共事業については、経済社会の変化等を踏まえ、採算性を厳しく検証するとともに、情報開示を進め、将来の国民負担につながらないようにする。

(C)地方が主体的に決定すべき地方単独事業は、国の各種公共事業関係計画の目標とは位置付けない。

(D)異なる分野の計画間の整合性を確保する。

(3)ハードからソフトへの政策手段の転換

 政策目的に照らし、公共事業(ハード)以外のより適切な政策対応(ソフト=例えば、民間主導で生産性を向上させるための制度の整備など)がないか事前に十分審査する必要がある。例えば、農業については、食料の安定供給、自然環境の保全等を目指した構造改革が喫緊の課題となっている。こうした農業政策の目的に照らし、費用対効果の観点を踏まえ、公共事業から公共事業以外の政策手段へシフトしていくことが必要である。
 また、雇用確保等のためには、重点を公共事業からより適切かつ効果的な政策(雇用促進策等)へ移していくべきである。

3.事業主体としての国と地方

(1)「国土の均衡ある発展」は、本来、地域の個性を活かした考え方であるが、現実には、これまでややもすれば、全国どこに行っても同じような特色のない地域が形成されがちであった。個性と活力のある「地方」の構築を目指して、国の関与する事業は限定し、地方の主体性を生かした社会資本整備に転換していく。

(2)受益者の負担が少ない構造が公共事業への依存体質を生む一因となり、必要性の低い事業を生んでいる。

(@)特定の事業について、地方債の発行を許可してその償還費を後年度に交付税措置する仕組み等は、地方が自分で効果的な事業を選択し、効率的に行っていこうという意欲を損なっている面がある。地方主導に改めるため、こうした資源配分の仕組みを縮小し、自らの選択と財源で効果的に推進する方向で見直していくべきである。

(A)また、公共事業について受益と負担のバランスを見直し、適正な受益者負担等を求める。

4.重点的に推進すべき分野

 社会資本整備(冒頭で述べた広義の社会資本)の見直しを進め、真に必要とされる社会資本を重点的に整備していくことが重要である。その際、民間の潜在的な消費や投資を顕在化させる環境づくり(クラウディング・イン)、ハードとソフトの適切な組合せといった視点等が重要である。具体的には以下の分野を重点的に推進すべきである。その際、これらの分野に共通する重要課題として、「e-Japan重点計画」に基づき、重点的かつ戦略的にIT施策を推進する。

(1)循環型経済社会の構築など環境問題への対応
(2)バリアフリーなど高齢化への対応
(3)地方の個性ある活性化、まちづくり
(4)都市の再生−都市の魅力と国際競争力
(5)科学技術の振興
(6)人材育成、教育

5.効率性/透明性の追求

 これまで費用対効果分析が不十分であったことなどが、非効率な公共事業を生む一因となってきた。今後は事前事後の事業評価を反映した厳格な事業の選択、PFIの活用、執行段階における競争促進やコスト縮減、電子入札の拡大などを強力に進める。

(1)事業評価

(2)官民の役割分担

(3)関連事業間の総合的調整・実施

(4)事業の発注・実施手続

(5)時間管理

(6)既存ストックの有効活用

6.経済・財政との整合性

 我が国の公共投資が経済に占める比率は国土条件や整備水準が低かったことなどから、主要先進国に比べ極めて高い水準にある。既に述べた計画の整備目標の見直し、公共事業への依存体質を生み易い制度の是正、さらにはコストの削減等を通じて、主要先進国の水準も参考としつつ公共投資の対GDP比を中期的に引き下げていく必要がある。


第3章 社会保障制度の改革 − 国民の安心と生活の安定を支える

1.国民の「安心」と生活の「安定」を支える社会保障制度の確立

(1)国民の安心と生活の安定を支えるセーフティーネット

 社会保障制度は国民にとって最も大切な生活インフラ(基礎)である。年金、医療、介護、雇用、生活扶助等で構成される社会保障制度は、国民の生涯設計における重要なセーフティーネットであり、これに対する信頼なしには国民の「安心」と生活の「安定」はありえない。
 しかし、年金、医療、介護などの社会保障の分野には、「ムダがある」、「負担が不公平」、「将来は大丈夫か」などといった指摘が数多くある。
 社会保障に対する信頼は、まず国民にとって「分かりやすい」制度であることが不可欠であり、改革はこの点に十分に配慮する必要がある。また、制度の「効率性」、「公平性」、「持続性」が十分に担保されたものでなければならない。

(2)「自助と自律」を基本とした持続可能で安心できる制度の再構築

 社会保障が、長期にわたって経済の伸び以上に拡大を続けることは事実上不可能である。今後は、「給付は厚く、負担は軽く」というわけにはいかない。社会保障の3本柱である年金、医療、介護は「自助と自律」の精神を基本として、世代間の給付と負担の均衡を図り、相互に支えあう、将来にわたり持続可能な、安心できる社会保障制度の再構築が求められている。そのためにも、国民の一人一人が社会保障の意義、役割、内容をよく理解し、痛みを分かち合って、制度を支えるという自覚をもって取り組むことが大切である。

(3)時代の要請に応える

 個人のライフスタイル、就労形態、家族形態の多様化が急速に進んでいる。特に、女性が働くことが当たり前になってきている。この変化に現在の社会保障制度は十分に対応しきれておらず、働く意欲のある女性や高齢者の就業、パート労働、派遣労働などに不利な面が残されている。現行制度の持つ「非中立」的な効果を緩和し、国民にとって多様な選択を可能にする制度への転換を進め、国民の能力発揮を支えることが、男女共同参画社会、生涯現役社会への道を拓く。
 また、少子化、すなわち出生率の低下は日本の将来に大きな影響を与える問題である。子どもを産み育てやすい環境を整備し、少子化の流れを変えるため、積極的な対応策を社会全体で進めることが不可欠である。

(4)「価値」ある効率的な仕組みへ

 社会保障制度は国民生活の安定のために極めて重要な基盤であるが、それが公的なものであるが故に制度そのものに非効率を伴いやすい組織上の問題がある。その意味で、民間部門で実現可能な機能はそこに委ね、公的制度と補完性、競合性を合わせもった総合的な保障システムによって国民生活の安定を実現していくことが重要である。
 また、制度の実施面においても、質量両面でのサービスの非効率性も否定できない。例えば、医療や福祉といったサービスに関しては、供給主体に一定の制限があるなど様々な規制がある。また、サービスを需要する個人ではなく、供給者である医師や施設がサービスの量や内容を決定する要素が強いこともあって、利用者が本当に必要としているサービスが提供されない、あるいは、ムダのない効率的なサービスとなりにくいという面がある。
 社会保障の果たす機能を維持しながら、ムダのない「価値」ある仕組みになるよう、これまでの考え方にとらわれない思い切った制度改革・規制改革を進めていく必要がある。

(5)活力ある「共助」の社会の構築

 健康、介護、保育などのサービスは、高齢化の進行や男女共同参画の進展などに伴い、多様な需要が急速に拡大する成長分野である。規制改革やIT、バイオ・ゲノム等の技術革新などによって、新規産業や新規雇用を創出する未来指向型の分野でもある。
 また、高齢者や子どもたちにとって何が幸せかという視点に立って、地域住民やNPO等のボランティアの幅広い参加によって介護や子育て等を社会全体で支え合う「共助」の社会を築き、すべての国民が積極的に社会に参加し、それぞれの役割を果たすことができる活力ある社会がここから生まれる。

2.社会保障制度全体に共通する課題

(1)社会保障制度の総合的な調整

 社会保障は年金、医療、介護が主要な3本柱である。これらの制度の最も効率的な組合せを行い、重複給付の是正や機能分担の見直しを進め、公平で、総合的にみて老後の生活の基本的な保障が確保される制度を構築する。
 また、低所得者に対する措置も、個別の制度においてバラバラに行われているが、(2)の仕組みを実現し、これを総合化することにより、給付と負担の基本原則を明確にしつつ、「真」に支援が必要な人に対して公平な支援を行うことのできる制度を実現する。 さらに、制度の実施・運営の面でも、社会保険と労働保険の徴収事務の一元化など、行政事務運営の一層の効率化を進め、国民へのサービス向上を図る。

(2)国民の合意と納得の形成

 社会保障負担に対する国民の合意と納得を形成するためには、国民一人一人にとってライフステージの各段階にわたる自分の生活と社会保障制度との関わりや、個人と社会との関わりが分かるようにし、分かりやすく信頼される制度としていくことが非常に重要である。このため、ITの活用により、社会保障番号制導入とあわせ、個人レベルで社会保障の給付と負担が分かるように情報提供を行う仕組みとして「社会保障個人会計(仮称)」システムの構築に向けて検討を進める(社会保障分野でのe-governmentの実現)。このことにより、社会保障制度の運営コストの削減や、公的給付と私的給付の効率的な組合せによる老後所得保障の充実、多様化なども可能になる。

(3)女性、高齢者の社会参画の拡大、就労形態の多様化への対応

 働く意欲と能力のある女性や高齢者の就業を抑制しないよう、年金、医療、税制等の制度設計の見直しを進めるとともに、仕事と家庭の両立を図るため、労働法制の見直しを一層進める。特に、世帯単位が中心となっている現行制度を個人単位の制度とする方向で検討を進め、女性の就業が不利にならない制度とする。
 また、労働移動の活発化、就労形態の多様化などに対応して、派遣労働に対する規制改革を推進するとともに、パート労働、派遣労働に対する社会保障制度の適用を拡大するとともに、ポータビリティを容易にするなど中立性を高めセーフティーネットの機能を強化する。
 さらに、高齢者は資産や所得等の経済状況が極めて多様であり、年齢で一律に社会的弱者とみなすのではなく、経済的な負担能力に応じた応分の負担を求めるとともに、高額の所得や資産を有する者に対する社会保障給付のあり方を見直す。

(4)医療、介護、保育等のサービス分野での規制改革

 医療、介護、保育等サービス給付を内容とする分野においては、そのサービスが効率的、かつ、十分に供給されることが重要である。そのためには、規制改革を進めることが極めて重要である。その際、サービスの質の確保に関するルールを設け、十分なチェックを行っていくことが必要である。(いわば、「入口の規制ではなく事後の規制」)
 これにより、営利・非営利を問わず様々な主体による多様なサービスの提供を実現していくとともに、NPOやボランティア活動などを社会保障サービスの中に組み込み、地域住民の「共助」によるサービスの提供を支援していくことが可能になる。
 例えば、男女共同参画社会に向けて、保育所の公設民営化やPFIの導入、保育ママ、幼稚園における預かり保育等多様な保育サービスの拡充などの規制改革を行う。

3.医療制度の改革

(1)持続可能な制度に向けて

 我が国の健康指標は世界最高水準にある。これは戦後の我が国の医療政策・国民皆保険体制の成果であるといってもよいであろう。
 しかしながら、医療費は高齢化の進行、医療コストの上昇などから、近年、国民所得の伸びや経済成長率を大きく上回って急速に増加している。医療保険財政は深刻な状況に陥り、制度の持続可能性が大きく揺らいでいる。また、現在の医療制度は疾病構造の変化や健康に対する国民の意識の向上、多様化に十分対応できておらず、医療に対する国民の期待に十分応えられていない。
 我が国の医療制度はいわば「制度疲労」を来たしており、現状のままでは医療費増大と、その結果としての負担の増大に、国民の合意は得られない。
 医療制度を改革する上で最も重要なことは、医療供給体制を効率化することなどにより、国民皆保険体制と医療機関へのフリーアクセスの下で、サービスの質を維持しつつコストを削減し、増加の著しい老人医療費を中心に医療費全体が経済と「両立可能」なものとなるよう再設計することである。持続可能性を持つ「価値」ある保険制度の確立を通して国民の信頼を取り戻す必要がある。

(2)「医療サービス効率化プログラム(仮称)」の策定

 医療機関、保険者、消費者(国民)のそれぞれが痛みを分かち合い、医療サービスの効率化に取り組み、質が高くムダのない医療を実現するため、次のような事項を考慮して「医療サービス効率化プログラム(仮称)」を策定し、これを推進する。

(@)医療サービスの標準化と診療報酬体系の見直し

 医療の専門性に立脚し、科学的に分析・評価を行って得られた情報を活用して医療を行う「根拠に基づく医療」(EBM)を推進し、国民が理解し納得できる医療サービスの標準化を行う。
 医療サービスの費用対効果(value for money)の向上を図るとともに、それを踏まえた支払い方式の見直し(包括払・定額払(診断群別定額報酬支払い方式等)の拡大等)や薬価制度の見直しを行う。
 また、診療報酬・薬価改定に当たっては、近年の賃金・物価の動向や経済財政とのバランス等を踏まえて行う必要がある。

(A)患者本位の医療サービスの実現

 患者自身が理解し納得して選択できる患者本位の医療サービスを実現する。このため、インフォームドコンセントの制度化、医療・医療機関に関する情報開示、医療情報のデータベース化・ネットワーク化による国民への情報提供の拡充、医療関係者相互の評価・チェック体制の充実による適正な診療の確保、医療機関の広告規制の緩和等を行う。

(B)医療提供体制の見直し

 病床数の削減、病院・診療所の機能分化の促進(慢性期・急性期の機能分化・かかりつけ医機能の充実・在宅医療の推進・包括的地域医療体制の整備等)、公的な医療機関の役割に沿った運営、高齢者医療の介護サービスへの円滑な移行を推進する。

(C)医療機関経営の近代化・効率化

 医療機関の経営に関する情報の開示・外部評価(外部の専門家による経営診断・監査の実施)等を行うことにより、医療機関経営の近代化・効率化を進める。また、設備投資原資の調達の多様化や医療資源の効率的利用(高額医療機器の共同利用・稼働率の向上等)を促進するとともに、株式会社方式による経営などを含めた経営に関する規制の見直しを検討する。
 また、医療サービスのIT化の促進、電子カルテ、電子レセプトの推進により、医療機関運営コストの削減を推進する。

(D)消費者(支払者−患者・保険者)機能の強化

 患者の選択による医療機関相互の競争の促進を進めるとともに、保険者機能の強化を図る。このため、保険者の権限を強化し、保険者と医療機関との契約や保険者と医療機関の連携強化(健診、予防)、レセプト審査、支払事務等の抜本的効率化を進める。

(E)公民ミックスによる医療サービスの提供など公的医療保険の守備範囲の見直し

 公的保険による診療と保険によらない診療(自由診療)との併用に関する規制の緩和など患者の選択による多様な診療の組合せを可能にする等公的医療保険の対象となる医療の範囲を見直す。

(F)負担の適正化

 患者・国民にも、真に必要な医療に対する負担を求める。このため、適正な患者自己負担の実現・保険料負担の設定を行う。
 特に高齢者医療については、医療と介護・施設と在宅を通じた患者負担の均衡を確保し、サービス利用の適正化を実現する。

(3)医療費総額の伸びの抑制

 (2)の「医療サービス効率化プログラム(仮称)」等の改革を推進することにより、医療の質を落とさずに、コストを下げることによって、「価値」ある医療制度を実現し、医療費総額の伸びの抑制を行う。
 また医療費、特に高齢化の進展に伴って増加する老人医療費については、経済の動向と大きく乖離しないよう、目標となる医療費の伸び率を設定し、その伸びを抑制するための新たな枠組みを構築する。
 あわせて高齢者医療制度などについて、費用負担の仕組みをはじめ、そのあり方を見直していく。

4.年金制度の改革

(1)持続可能で安心できる制度に向けて

 年金制度については、平成12年度に改革(給付費総額の約2割削減、成熟時の保険料率を約2割以上抑制等)が行われた。
 しかしながら、少子・高齢化の予想以上の進展などから、これまで制度が累次の改正を余儀なくされ、国民の年金制度に対する不安や不信が強まっている。また、「世代間の不公平」感の高まりにより、国民の年金離れが無視できないものになりつつある。このような反省に鑑み、次の改革においては、年金制度の意義や役割についての国民の理解を十分に得つつ、将来にわたって大きく改正する必要のない、持続可能な制度を確立する。

(2)今後の検討課題
 今後は、次のような課題について検討していくことが必要である。

(@)就労形態の多様化・個人のライフサイクルの多様化等に対応した制度設計の見直し

 パート労働者、派遣労働者については、年金保障が十分でないなどの指摘があり、年金適用のあり方を見直していく。また、女性の労働力率の上昇、就労形態の多様化を踏まえ、夫婦片働きの世帯(いわゆる専業主婦のいる世帯)を標準とした現在の給付設計を見直していく。さらに、勤労収入等のある高齢者に対する年金給付のあり方を検討する。

(A)世代間・世代内の公平を確保するための年金税制の見直し

 公的年金や企業年金等に対しては、一般の給与所得などとは異なり、特別の所得として扱われ、若年世代の給与所得者に比べ優遇した課税が行われている。この点を含めた年金税制のあり方について、世代間の公平や、拠出・運用・給付の各段階を通じた負担の適正化の観点から見直していく。

(B)年金制度の運営面における信頼の確保

 国民年金の未納・未加入者の増大といった、いわゆる「空洞化」に対して、徹底した対策を講じるとともに、若年世代の年金制度に対する理解を深めるため、学校教育などにおける取組みを強化していく。

(C)年金積立金のあり方

 年金積立金について、平成13年度から市場運用への転換が行われたことも踏まえ、少子高齢化の進展した将来において有効に活用し積立金水準を引き下げる。

(D)自助努力の支援

 公的年金の見直しに合わせ私的年金を拡充し、企業年金の改革や確定拠出年金の早期実施・普及等を図る。また、高齢者の有する資産を活用して老後の生活資金を賄う方法(リバースモーゲージなど)について環境整備を推進する。

(E)年金保険料引上げの凍結解除等

 年金保険料引上げの凍結を早期に解除する。年金保険料の凍結を続けると、積立金の取崩しが始まり、現在の現役世代の負担が軽く、将来世代の負担がより重くなってしまう。
 特例的なスライド停止などの影響を踏まえ、物価スライドのあり方を見直す。

(F)平成12年度改正法附則への対応

 基礎年金の国庫負担については、平成12年度改正法附則(「当面平成16年までの間に、安定した財源を確保し、国庫負担の割合の1/2への引上げを図るものとする」と規定。)をどのように具体化していくかについて、安定した財源確保の具体的方策と一体的に鋭意検討する。

5.介護

 高齢者医療から介護サービスへの円滑な移行と連携を促進するとともに、介護サービスの供給体制の整備充実を図る。特に、痴呆性高齢者のグループホームやケアハウスの拡充が急務である。また、地域住民やNPOなど新たな担い手による創意工夫や民間活力、ケアマネジャー等の専門家によるサービス利用の支援、市場原理を活かした効率的で質の高いサービス供給を確保する。

6.子育て支援

 子育て不安の解消や虐待防止、地域交流の活発化など子育て支援策を推進する。また、育児休業を取りやすく職場復帰しやすい環境の整備を図るとともに、保育所の公設民営化、多様な保育サービスの拡充などの規制改革を行いつつ、明確な目標と実現時期を定めて保育所の待機児童ゼロ作戦を推進する。
 あわせて学齢期の児童についても、必要な地域すべてにおける放課後児童受入体制の整備を図る。


第4章 個性ある地方の競争 − 自立した国・地方関係の確立

1.地方の潜在力の発揮

(1)国の過度の関与と地方の個性の喪失

 国・地方の間では、地方自治と言いつつ、ローカルな公共事業にまで国が実態的には関与している。また、教育や社会保障についても、国が仕組みや基準を決めて、地方自治体は苦労しながらその実施にあたっている。国は、こうした関与に応じて、補助金や地方交付税によりその財源を手当てし、全国的に一律の行政サービスが提供されてきた。
 しかし、こうした仕組みは、一方で、地方自治体が独自に地域の発展に取り組む意欲を弱め、地方は中央に陳情することが合理的な行動ということになりがちである。また、国の非効率が地方の非効率につながる仕組みである。その結果、全国で同じような街並みや公民館ができ、個性が失われ、効果の乏しい事業までが実施されるという弊害も見受けられる。

(2)国・地方の財政規模の拡大と財政赤字の膨張

 さらに、こうした仕組みの下では、歳出の抑止力が働きにくく、結果として、国も地方も、政府の規模がふくらみ、財政赤字に苦しむという悩みをかかえている。

(3)地方が潜在力を自由に発揮できる仕組みに

 自立した地方が、それぞれの多様な個性と創造性を十分に発揮し、互いに競争していく中で経済社会の活力を引き出す新たな国と地方の姿を描き、その実現に向けて、国と地方にかかる制度の抜本的な改革が必要である。

2.個性と自律

(1)「個性ある地域の発展」「知恵と工夫の競争による活性化」へ

 これまで「均衡ある発展」が重視されてきた。今後は、「均衡ある発展」の本来の考え方を活かすためにも、「個性ある地域の発展」「知恵と工夫の競争による活性化」を重視する方向へと転換していくことが求められる。国が地方に対して、広範な関与をすると同時に、その財源も手当てし、画一的な行政サービスを確保する時代から、次の時代へと歩を進めていくべきである。

(2)「自助と自律の精神」− 自らの判断と財源による魅力ある地域づくり

 今後は、国と地方が互いに関与・依存しあう仕組みを改め、「自助と自律の精神」のもとで、各自治体が自らの判断と財源で、行政サービスや地域づくりに取り組める仕組みに是正する必要がある。

3.自立し得る自治体

 自助と自律に基づく新たな国・地方の関係の実現には、まず、受け皿となる自治体の行財政基盤の拡充と自立能力の向上を促し、国に依存しなくても「自立し得る自治体」を確立しなければならない。

(1)すみやかな市町村の再編を

 市町村合併や広域行政をより強力に促進し、目途を立てすみやかな市町村の再編を促す。

(2)規模等に応じて市町村の責任を

 人口数千の団体と数十万の団体が同じように行政サービスを担うという仕組みを見直し、団体規模等に応じて仕事や責任を変える仕組みをさらに検討する。(例えば、人口30万以上の自治体には一層の仕事と責任を付与、小規模町村の場合は仕事と責任を小さくし、都道府県などが肩代わり等)

4.地方の自律的判断の確立

(1) 行政サービスの権限を住民に近い場に

(@)国が地方に関与・要請するのは、国が国民に最低限保障すべき行政サービス水準に関するものや、便益が地域に限定されず全国的、広域的に及ぶもの、効率性等の観点から全国統一的に定めることが望ましい国民の諸活動等に関する準則に関するものに限定する。

(A)(@)により設定する基準などについても、地方が独自性をより発揮できるようにするとの観点に立って、その水準の抜本的な見直しを行う。

(2)受益と負担の関係の明確化

 地域に必要なサービスを住民が負担との見合いで自主的に選択し得る仕組みが、地方自治の前提であり、自助と自律の精神がこれから生まれる。こうした観点から、

(@)国庫補助負担金を、全国的、広域的に便益が及ぶものや、国が国民に最低限保障すべき行政サービス水準の維持達成など国の負担が特に必要なものに限定する。

(A)国が地方に要請する仕事の洗い直し・縮小に応じて、補助金や地方交付税、あるいは地方財政計画により財源を手当てする歳出の範囲・水準を縮小する。このことは、地方が自由に独自の行政サービスを選択し提供する範囲が増えるということである。

5.地方財政にかかる制度の抜本改革

(1)自らの選択と財源で効果的に施策を推進する方向に

 事業の採否を検討する場合、地方が自らの財源を充てるのであれば、その事業に要する費用と効果を比べて事業を採択することになる。しかし、現在は、特定の事業の地方負担を交付税で措置する仕組み(地方債の償還費を後年度に交付税措置する仕組み等)と補助金の組合せによって、事業費の大半が賄えることも多い。そのため、地方の実質的負担が少ない事業にインセンティブを与え、地方が自分で効果的な事業を選択し、効率的に行っていこうという意欲を損なっている面がある。こうした地方の負担意識を薄める仕組みを縮小し、自らの選択と財源で効果的に施策を推進する方向に見直していくべきである。
 また、段階補正(団体の規模に応じた交付税の配分の調整)が、合理化や効率化への意欲を弱めることにならないよう、その見直しを図るべきである。

(2)地方交付税を客観的基準で調整する簡素な仕組みに

 地域間には、経済力・財政力に大きな差がある。したがって、上記のような見直しを行う一方、財政力の低い自治体が自主的な歳出が行えるように交付税を交付することが必要である。今後、国の関与の廃止・縮小に対応して、できるだけ客観的かつ単純な基準で交付額を決定するような簡素な仕組みにしていくべきである。

(3)地方税の充実確保

 地方の自律性を高めるためには、地方行財政の効率化を前提に、自らの判断で使える財源を中心とした「自助と自律」にふさわしい歳入基盤を確立することが重要である。そうした観点から、地方税を充実確保することとし、国と地方の役割分担の見直しを踏まえつつ、国庫補助負担金の整理合理化や地方交付税のあり方の見直しとともに、税源移譲を含め国と地方の税源配分について根本から見直しそのあり方を検討する。その際、国・地方それぞれの財政事情や個々の自治体に与える影響等を踏まえる必要がある。 また、地方税収の基盤となる経済力の発展や、サービス水準と負担を考えた税の水準について、各自治体の自主的な判断や努力が望まれる。
 また、法人事業税の外形標準課税については、中小法人の取扱い、雇用への影響の問題等これまでの検討経緯を踏まえつつ、各方面の意見を聴きながら課税の仕組み等についてさらに検討を深め、景気の状況等も勘案して導入を図る。

6.地方財政の健全化への取組み

 以上のような制度改革は、住民各人や各自治体の努力を促し、それが国全体の発展につながるという仕組みを作っていくうえで、避けて通ることの出来ない重要な問題である。地方財政計画の一般歳出は、90年代に、国と地方を通じた景気対策の要請もあって、GDPに対する比率で見ても増大している。今後、経済財政全体のバランスも考慮して、地方の自律性向上や、国や自治体が国民や住民に最低限保障すべき行政サービス水準の見直し、及び効率化の観点などの改革とあわせ、地方の歳出の水準・内容の見直しを、国の財政健全化と歩調を合わせつつ行うべきである。
 この場合、「14年度の国債発行を30兆円以下とすることを目標とし、歳出を徹底的に見直す」としている国の財政健全化への取組みと同様に、地方財政計画の歳出を徹底的に見直したうえで、所要の財源を確保して、地方財政の健全化を図る。
 また、その後も、プライマリーバランスを黒字にすることを次の目標とする国の財政再建への取組みと歩を一にして、地方財政の健全化を進める。


第5章 経済財政の中期見通しと政策プロセスの改革

1.中期的な経済財政の展望

 今後、聖域なき構造改革を進めることによって経済にはどのような影響がもたらされるのか。
 不良債権問題については、今後2〜3年にわたり、不良債権の最終処理が進められることから、関連分野における企業整理や離職者の問題が生じ、少なくとも短期的にはそのデフレ圧力が不良債権処理のプラス効果を上回る可能性が高いと考えられる。
 財政構造改革の影響はどうか。公共事業などの「量」の削減それ自体は当面の景気にマイナスの影響を持つ。しかし、歳出の中身を民間の消費や投資を顕在化させる効果を持つものに転換すること、すなわち「質の改善」を同時に行うことができれば、景気への影響は小さくできる。
 聖域なき構造改革を全体として推進することにより、今後は、多くの分野で新たな成長の種が蒔かれ、それが育ちやすい環境が整えられることとなる。また、不良債権の処理が進むこと、国債残高の抑制にも展望が開けること、社会保障制度の将来像が明確になることなどにより、国民や企業の将来に対する不安感は軽減され、将来不安のために抑えられていた消費や投資が顕在化することが期待される。これらの結果、不良債権処理が進展する今後2〜3年間については、成長率はある程度抑えられるとみられるが、中期的には我が国経済の有する潜在力が開花し、民需主導の経済成長が実現するものと予想される。

2.中期的な経済財政計画の策定と予算編成プロセスの刷新

(1)中期的な経済財政計画の策定

 財政は、各年の経済や財政状況に応じて適切に運営されねばならず、これまでも毎年度そのような努力がなされてきた。その時々の状況の下では必要なものであったが、振り返ってみると近年の経済財政運営はかなり振幅の大きなものとなっている。今後経済財政運営に当たっては経済財政の中長期的なビジョンを示し、それと整合的な形で、毎年の経済運営や予算のあり方を決定していくことが望ましい。このため、中期的な経済財政計画を策定し、毎年の経済財政動向を踏まえて毎年度改定していくこととする。
 なお、中長期的な経済財政のビジョンの策定に当たっては、経済と財政の整合的な姿を描くとの観点から、多様な手段の一つとして財政も含むマクロ経済モデルを活用して検討を行う。

(2)予算編成プロセスの刷新

 毎年の予算編成に際しては、まず経済財政諮問会議において経済財政政策全般についての横断的な検討を行い、重視すべき分野や政策変更の必要性など政策の基本的方向とともに、その時点での景気動向についての判断などを示す。平成14年度については、本「基本方針」が示され、この方針が各省庁の行う概算要求の準備作業等に反映されることとなる。
 また、新規に重要性を増し、かつ各省庁にまたがる分野(例えばIT、バイオ、ナノテクノロジー等の先端的分野、循環型社会、都市再生等)については、有識者の識見等を活用しつつ、内閣が中心になって、分野ごとの重点等について強力に調整を行い、諮問会議は必要に応じ、こうした作業に方向付けを行う。これを踏まえ、財務省は具体的な予算編成を行う。
 さらに、諮問会議は、経済見通し、中期経済財政計画の改定などと並行して、「予算編成の基本方針」を示し、これに基づいて政府予算の最終的なとりまとめが行われることとなる。こうしたプロセスを通じ、予算編成の透明性が高められるとともに、メリハリの効いた予算編成が行われるなど予算編成プロセスを刷新する。
 なお、年度末に事業が集中しているのではないかといった指摘もあり、各年度における予算執行の段階においては、事務事業の優先順位を厳しく選択し、年度を通じて計画的・効率的に行っていく必要がある。

3.改革を通じる中期目標(プライマリーバランス等)の達成

 財政構造改革を進めるに当たっては、国・地方を通じた取組みが重要である。中長期的な経済の見通しの下、国民負担率(財政赤字を含めた国民負担率等)の水準や目標とすべきプライマリーバランス、財政収支などのビジョンを示し、そうした大きな枠組みの中で効率的な資源配分を検討しながら、毎年の予算編成において、適切な歳出・歳入を検討していくべきである。
 とりわけ、本格的な財政再建に取り組む際の中期目標として、まずは「プライマリーバランスを黒字にすること(過去の借金の元利払い以外の歳出は新たな借金に頼らないこと)」を目指すことが適切である。プライマリーバランスの意義として、第1に、これは、現在の行政サービスにかかる費用は、将来の世代に先送りすることなく現在の税収等で賄うということであり、世代間の公平を図る上で重要である。また、第2に、財政の中長期的な持続可能性を回復するためにも、プライマリーバランスを黒字にすることが、その前提となる。国・地方を合わせた政府の長期債務残高は、平成13年度末で対GDP比128.5%にまで達する見込みとなっているが、現状のように金利が成長率を上回っている場合、つまり、元本と利子の合計がGDP以上のスピードで増える状況では、債務残高が対GDP比で増大することを止めるためには、まずは、元利払い以上の借金を新たに行わないことが必要条件となる。

4.政策プロセスの改革

(1)新しい政策プロセス

 経済財政諮問会議は、経済財政運営や経済財政政策に関わる重要な構造改革等について、基本方針を調査審議することを重要な任務としている。必要な場合、諮問会議の答申の内容は、閣議決定を経て、内閣の基本方針となる。各省庁はこれに基づき具体的な制度設計等を進め、諮問会議は各省庁の検討状況等のフォローアップを行う。こうしたプロセスを通じ、構造改革等が強力かつ一体的に推進されることとなる。

(2)新しい行政手法

(@)ニューパブリックマネージメント

 国民は、納税者として公共サービスの費用を負担しており、公共サービスを提供する行政にとってのいわば顧客である。国民は、納税の対価として最も価値のある公共サービスを受ける権利を有し、行政は顧客である国民の満足度の最大化を追求する必要がある。 そのための新たな行政手法として、ニューパブリックマネージメントが世界的に大きな流れとなっている。これは、公共部門においても企業経営的な手法を導入し、より効率的で質の高い行政サービスの提供を目指すという革新的な行政運営の考え方である。その理論は、(1)徹底した競争原理の導入、(2)業績/成果による評価、(3)政策の企画立案と実施執行の分離という概念に基づいている。

(A)改革方策

 海外では、この考え方は、(1)民営化・行政法人化を推進する、(2)業績や成果に関する目標、それに対応する予算、責任の所在等を契約などの形で明確化する、(3)発生主義を活用した公会計を導入する、などの形で具体化されてきている。例えば、イギリスでは、行政の各分野において「市場化テスト」を行い、民間でできることはできるだけ民間に委ねるとともに、民間にできないものについても実施執行部門をできる限り行政法人化するなどの改革を進めている。
 我が国の行財政改革を推進していく上でも、こうした新しい行政手法の考え方を十分に活かし、政策プロセスの改革を図っていくことが重要である。具体的には、

 以上のような基本的な方向性に沿って、具体的な改革を引き続き精力的に進めていく必要がある。
 こうした取組みにより、行財政改革を推進し、納税の対価として公共サービスの提供を受ける国民の満足度の最大化を図っていくことが重要である。


第6章 平成14年度経済財政運営の基本的考え方

1.景気の現状と経済の先行き

(1)景気の現状

 日本経済の最近の動向をみると、景気は悪化しつつある。家計部門では、個人消費はおおむね横ばいの状態が続いているものの、足元で弱い動きがみられる。失業率は高水準で推移している。また、企業部門では、企業収益の伸びは鈍化し、設備投資は頭打ちとなっている。他方、輸出、生産は引き続き減少している。先行きについても、在庫の増加や設備投資の弱含みの兆しなど、懸念すべき点がみられる。

(2)平成13年度、14年度の経済の姿

 景気には、需要面に対する下押し圧力が強まり、短期的には構造改革のデフレ圧力がプラス効果を上回って顕在化してくる可能性が高いと考えられることから、的確に見通すことは困難であるが、平成13年度、14年度は低い経済成長になると見込まれる。
 景気の現状を踏まえると、今後、年末にかけて調整圧力が強まるものと考えられる。このため、平成13年度のGDP成長は、当初の政府経済見通しをかなり下回るとみられる。 しかし、平成13年末以降、アメリカ経済の回復傾向が明らかになっていけば、輸出、生産が次第に回復に転じ、やがて設備投資も改善していくと見込まれる。また、適切な経済運営のもとで構造改革の進展の成果もあり、平成14年度の景気は徐々に回復への動きをたどることとなる。

2.平成14年度予算

(1)基本的考え方

 21世紀の我が国経済の発展に明確に寄与すると見込まれる分野には重点的に資源配分する。同時に、経済の活力・国民の厚生などに寄与していない予算、経済社会情勢の変化に伴い重要性の低下した予算などについては、思い切って縮減する。こうした措置により、本「基本方針」に則ったメリハリのある平成14年度予算を実現する。なお、「7つの改革プログラム」に沿って、税制を含め諸制度のあり方の検討を進める。こうした措置により、財政の「質の改善」を通じて、非効率な資源配分を是正し、個人や企業など民間の潜在力を高めると同時に、潜在的な民間需要を顕在化する。
 また、マクロ的観点から、経済財政全体との整合性・バランスをとった財政健全化を図る必要があり、例えばGDPとの対比でみた各分野の歳出規模の妥当性等を検討する。
 財政健全化は中期にわたり、継続的な努力を必要とする課題であり、平成14年度予算は、中期的な財政構造改革の第一歩として位置付けられる。

(2)国債発行30兆円以下

 平成14年度予算では、財政健全化の第一歩として国債発行額を30兆円以下に抑えることを目標とする。このため、抜本的な制度改革を含め、一般会計、特別会計を通じ歳出全般にわたり、スリム化、効率化を図る観点から聖域なく見直しを行う。また、特殊法人等の事務事業を抜本的に見直し、国の財政支出の整理・縮減を図る。

(3) 重点的に推進すべき分野

 上記の各章及び「7つの改革プログラム」を踏まえ、以下に掲げる分野で、政策効果が顕著なものについて、重点的に推進する。

(1) 循環型経済社会の構築など環境問題への対応
(2) 少子・高齢化への対応
(3) 地方の個性ある活性化、まちづくり
(4) 都市の再生−都市の魅力と国際競争力
(5) 科学技術の振興(ライフサイエンス等の4分野への重点化等)
(6) 人材育成、教育
(7) 世界最先端のIT国家の実現

〔注〕戦略的に重要性があり、かつ各省庁にまたがる分野については、有識者の識見等を活用しつつ、内閣(総合科学技術会議、IT戦略本部、都市再生本部等の活用を含む)が中心になって、それぞれの基本方針に則り、施策の強力な調整を行い、総合的な政策を決定する。

(4) 社会資本整備

 公共投資が経済に占める比率は、第2章で述べたように欧米諸国などに比べ高い水準にあること等を考慮し、国の歳出全体を聖域なく見直す中で公共投資関係の予算を縮減する。
 道路等の特定財源のあり方を見直すとともに、「公共事業」、「非公共事業」の区分にとらわれない配分などを行う。また、公共事業関係の計画の見直しを進める。さらに、政策目的に照らし、公共事業以外のより適切な政策対応がないか、十分に審査し、公共事業から公共事業以外の政策手段へのシフトを図る。また、事業評価を反映し、厳格な事業の選択を行う。さらに、PFIの活用、執行段階における競争の促進やコスト縮減、電子入札の拡大等による効率性、透明性の向上を図る。

(5)社会保障制度

 社会保障制度については、セーフティーネットとしての機能を果たしながら、経済財政と均衡のとれた持続可能なものとなるよう、制度改革を進めていくことが必要である。
 医療制度については、第3章を踏まえ、サービスの質を維持しつつ、高齢者医療制度をはじめとして効率的で持続可能な医療制度を構築する。医療費、特に老人医療費について、経済の動向と大きく乖離しないよう、その伸びを抑制するための新たな枠組みを構築する。年金制度については、第3章で述べた「今後の検討課題」についての検討を進める。また、社会保障制度全般にわたる規制改革、制度の効率化を進めつつ、特に、介護サービスの供給体制の整備、保育所の待機児童ゼロ作戦の推進、放課後児童の受入体制の整備を図る。

(6)地方財政

 平成14年度においては、経済財政全体とのバランスも考慮して、「国債発行を30兆円以下とすることを目標とし、歳出を徹底的に見直す」としている国の財政健全化への取組みと同様に、地方財政計画の歳出を徹底的に見直したうえで、所要の財源を確保して、地方財政の健全化を図る。
 その際、国の関与の縮減や国及び自治体が最低限保障すべき行政サービスの水準の見直しなどに応じて、国庫補助負担金や地方交付税により手当てする地方歳出を見直す。さらに、地方の自律性を高めるため、地方交付税の配分に当たっては、地方の負担意識を薄めることや、効率化への意欲を阻害することのないようその仕組みの見直しを図る。

(7)雇用対策等

 不良債権の処理等が雇用に及ぼす影響に鑑み、サービス分野をはじめとして雇用機会の創出や労働移動の増加に対応する制度改革によって就業機会を拡大する。同時に、離職者、転職者に対する支援の強化などセーフティーネットの拡充等を図る。また、新たな市場と雇用を創出する効果の高い構造改革と雇用対策を一体的に推進する。

 本「基本方針」においては、社会資本整備、社会保障制度、国と地方など財政構造改革の中核となる分野を中心に取り上げたが、こうした分野を含め、歳出全般について聖域無く、厳しく見直すべきことは言うまでも無い。経済財政諮問会議においてもこれらの分野を含め引き続き広範な検討を行う。また、経済財政諮問会議において、プライマリーバランスの黒字に向けた取組みをどのように進め、いつ頃までに達成するかなどを明確にするため、引き続き検討を行い、年内を目途に具体的な姿を示す。


資料1−4

日本の将来推計人口( 平成9年1月推計)の概要

1.平成9年1月推計

 国立社会保障・人口問題研究所(旧厚生省人口問題研究所)は平成4年9月に「日本の将来推計人口
(平成4年9月推計)」を公表した。その後、平成8年11月末に平成7年の国勢調査の基本集計結果が発表されたので、これらを踏まえて新たに全国の男女年齢各歳別人口の将来推計を行った。推計結果の概要ならびに推計の方法は以下の通りである。

2.結果の概要

推計の種類 中位 高位 低位 平成4年9月推計
(中位)
長期の出生率仮定 [TFR = 1.61] [TFR = 1.85] [TFR = 1.38] [TFR = 1.80]
総人口 平成7(1995)年 12,557 万人 12,557 万人 12,557 万人 12,546 万人
 
《 ピ ー ク 》 12,778 万人
[平成19(2007)年]
12,956 万人
[平成23(2011)年]
12,705 万人
[平成16(2004)年]
13,044 万人
[平成23(2011)年]
 
平成37(2025)年 12,091 万人 12,520 万人 11,748 万人 12,581 万人
 
平成62(2050)年 10,050 万人 11,096 万人 9,231 万人 11,151 万人
65歳以上
人口割合
平成7(1995)年 14.6 % 14.6 % 14.6 % 14.5 %
 
平成37(2025)年 27.4 % 26.5 % 28.2 % 25.8 %
 
平成62(2050)年 32.3 % 29.2 % 35.2 % 28.2 %
老年
65歳以上
人口
平成7(1995)年 1,828 万人     1,823 万人
     
平成37(2025)年 3,312 万人 中位推計と同じ 中位推計と同じ 3,244 万人
     
平成62(2050)年 3,245 万人     3,142 万人

3.推計の前提

(1)出生率(合計特殊出生率)の仮定

 1980年出生コーホートの結婚や出生行動に仮定を置き、1980年以前の各出生コーホートの実績値から徐々に1980年出生コーホートの仮定値になるものと想定

仮定の種類 前提 合計特殊出生率 平成4年
9月推計
現在の実績

1995年時点で
出産を終えて
いる世代の実績

  将来見込み

1980年生まれ
以降の世代

平成7年
(1995)
最低の年 平成62年
(2050)
平成37年
(2025)
中位の仮定
  (1)平均初婚年齢 24.2歳
(1945年生)

上昇
27.4歳で一定 1.42 1.38
(平成12年)
1.61 1.80
(2)夫婦の完結出
生児(子ども)数
2.18人
(1943〜47年生)

減少
1.96人で一定
(3)生涯未婚率 4.6%
(1941〜45年生)

上昇
13.8%で一定
高位の仮定
  (1)平均初婚年齢 同上
上昇
25.7歳で一定 1.42 1.42
(平成8年)
1.85 2.09
(2)夫婦の完結出
生児(子ども)数

減少
2.12人で一定
(3)生涯未婚率
上昇
8.3%で一定
低位の仮定
  (1)平均初婚年齢 同上
上昇
28.9歳で一定 1.42 1.28
(平成17年)
1.38 1.45
(2)夫婦の完結出生児(子ども)数
減少
1.76人で一定
(3)生涯未婚率
上昇
17.9%で一定
注:離死別の影響は0.954と仮定

(2)平均寿命の仮定

 平成8年10月までの実績に基づき推計

  平成7(1995)年 平成62(2050)年 平成4年9月推計
平成37(2025)年
男子 76.36年 → 79.43年 78.27 年
女子 82.84年 → 86.47年 85.06 年

(3)出生性比

 1991年〜1995年の出生性比(105.6)を一定とする。

(4)国際人口移動

 1990年10月1日〜1995年9月30日の男女年齢各歳別入国超過率の平均値を一定とする。


資料2−1

社会保障審議会分科会について(報告)

* 社会保障審議会令第5条に基づき6分科会の設置は定められている。
* 各分科会ごとに発足の上、政令に定められた所掌事務について審議を行う。

1. 年金資金運用分科会

○ 2月7日 発足・第1回会議

  • 厚生労働大臣より年金積立金の運用の基本方針(案)について諮問
○ 2月27日 第2回会議
  • 諮問に対する意見集約 → 同日、厚生労働大臣に対して答申

2. 福祉文化分科会

○ 3月23日 発足・第1回会議

  • 分科会の下に3委員会を設置

    7月 2日:第1回出版物委員会
    6月29日:第1回舞台芸術委員会
    6月26日:第1回映像・メディア等委員会

3. 医療分科会

○ 6月15日 発足・第1回会議

○ 6月28日 第2回会議

  • いずれについても、特定機能病院(筑波大学附属病院・三重大学医学部附属病院・名古屋市立大学病院)の安全管理体制の確保状況について審議

4. 統計分科会

○ 7月12日 発足 → 7月30日 第1回開催予定

5. 介護給付費分科会

6. 医療保険保険料率分科会



社会保障審議会年金資金運用分科会委員名簿

内海 孚(財)国際金融情報センター理事長
杉田 亮毅(株)日本経済新聞社代表取締役副社長
梨 昇三日本経営者団体連盟参与・環境社会部長
竹内 佐和子東京大学大学院工学系研究科助教授
福井 俊彦(株)富士通総研理事長
向山 孝史日本労働組合総連合会総合政策局生活福祉局長
吉冨 勝アジア開発銀行研究所長
吉原 健二(財)厚生年金事業振興団理事長
米澤 康博横浜国立大学経営学部教授
若杉 敬明東京大学大学院経済学研究科教授
(◎印は分科会長)
(五十音順・敬称略)



社会保障審議会福祉文化分科会委員名簿

網野 武博上智大学教授
海老澤 敏新国立劇場副理事長
永井 多惠子世田谷文化生活情報センター館長
中多 泰子大正大学助教授
藤久 ミネ目白大学教授
松岡 和子演劇評論家・翻訳家
山崎 美貴子明治学院大学副学長
(◎印は分科会長)
(五十音順・敬称略)



社会保障審議会医療分科会委員名簿

鴨下 重彦賛育会病院院長
木村 靜子成蹊大学名誉教授
黒川 清東海大学医学部長
斎藤 毅日本大学総合科学研究所教授
櫻井 秀也日本医師会常任理事
猿田 享男慶應義塾大学医学部長
全田 浩日本病院薬剤師会会長
福島 龍郎安田健康保険組合理事長
水野 肇医事評論家
三宅 祥三武蔵野赤十字病院副院長
山浦 晶千葉大学医学部教授
(◎印は分科会長)
(五十音順、敬称略)



社会保障審議会統計分科会委員名簿

阿藤 誠国立社会保障・人口問題研究所長
今田 幸子日本労働研究機構統括研究員
大江 和彦東京大学大学院医学系研究科社会医学専攻医療情報経済
学分野教授・東京大学医学部附属病院中央医療情報部長
大竹 文雄大阪大学社会経済学部教授
柏女 霊峰淑徳大学社会学部教授
京極 高宣日本社会事業大学長
津谷 典子慶應義塾大学経済学部教授
西島 英利日本医師会常任理事
廣松 毅東京大学大学院総合文化研究科・教養学部教授
松尾 宣武国立小児病院長
吉村 功東京理科大学工学部教授
(五十音順、敬称略)


今後の社会保障審議会の審議の進め方について(案)

1. 社会保障審議会(総会)は、年3〜4回程度開催し、社会保障全般、個別制度横断的な課題等を取り上げる。

2. 個別分野については「部会」を設置し、審議を行う。

(1) 前回の社会保障審議会において、年金数理部会、福祉部会、障害者部会の設置を決定

(2) 次の個別分野について、部会を新たに設置することとする。

  • ただし、部会の発足、審議開始時期については総会の議論状況をも踏まえたものとする。
  • 審議会委員の部会所属は、委員の意向をも踏まえ調整していく。

(参考)社会保障審議会令(平成12年政令第282号)
 (部会)
 第6条 審議会及び分科会は、その定めるところにより、部会を置くことができる。

(1) 人口部会

<設置趣旨・審議事項>
○ 平成12年国勢調査の結果を踏まえて国立社会保障・人口問題研究所が行う、次期将来人口推計作業の考え方や推計前提の検証

<当面のスケジュール>
○ 平成13年7月発足予定
○ 以降、年度内に4回程度開催し、推計結果を報告。

(2) 医療保険部会

<設置趣旨・審議事項>
○ 平成14年度に向けた医療制度改革の議論

<当面のスケジュール>
○ 夏頃に発足予定
○ 平成14年度の医療制度改革に向けて、高齢者医療制度の見直し等必要な事項を議論。

(3) 医療部会

<設置趣旨・審議事項>
○ 医療を提供する体制の確保に関する重要事項の調査審議

<当面のスケジュール>
○ 今秋早い時期に発足予定
○ 当面、先の医療法改正から検討課題としている患者の選択に資する情報提供の推進、「平成14年度の医療制度改革」に伴う所要の検討等必要な事項を議論。

(4) 児童部会

<設置趣旨・審議事項>
○ 地域の子育て支援施策、保育施策、家庭福祉施策、母子保健施策などの児童や 家庭の福祉等に関わる事項の議論

<当面のスケジュール>
○ 秋頃に発足予定
○ 近年、急速に進行している少子化への対応を推進するため、少子化対策の推進 状況及び在り方等について議論。

(5) 年金部会

<設置趣旨・審議事項>
○ 平成16年までに実施される次期財政再計算に向けた年金制度全般にわたる議 論

<当面のスケジュール>
○ 「女性のライフスタイルの変化等に対応した年金の在り方に関する検討会」が本年中を目途に議論を整理することとしており、その状況を踏まえて発足予定。


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