01/06/07 女性の年金の在り方に関する検討会第7回議事録 女性のライフスタイルの変化等に対応した年金の在り方に関する検討会(第7回) 議 事 録 厚生労働省年金局年金課 「女性のライフスタイルの変化等に対応した年金の在り方に関する検討会」(第7回) 平成13年6月7日(木)10:00〜12:00 於 東海大学校友会館 望星の間 1.開 会 2.委員出席状況報告 3.議 事 委員以外の有識者からのヒアリングとそれに基づく協議 ・東京大学社会科学研究所     大澤 眞理教授   ・慶応義塾大学商学部       樋口 美雄教授 ○袖井座長 おはようございます。 それでは、定刻になりましたので、ただいまから「女性のライフスタイルの変化等に 対応した年金の在り方に関する検討会」を開催いたします。  本日は、大変お忙しい中をお集まりいただきまして誠にありがとうございます。この 検討会は毎回場所が変わりまして、流浪の民というか、あっちへ行ったりこっちへ行っ たりで、皆様も大変戸惑われたのではないかと思いますが、できれば同じところに固定 していただきたいなとお願いしたいのでございますが、そういうわけでございます。  それでは、事務局より委員の出席状況を報告していただきます。よろしくお願いいた します。 ○中原企画官  おはようございます。本日の委員の出欠状況について御報告を申し上げます。本日 は、翁委員、中田委員、永瀬委員が所用のため欠席されておられます。その他の委員は 全員出席しておられます。  それから、年金局長、審議官、総務課長につきましては国会の関係で呼ばれておりま すので、出席できない可能性が高うございます。御了承いただきますようよろしくお願 い申し上げます。 ○袖井座長  それでは、早速議事に入りたいと思いますが、本日は委員以外の有識者からのヒアリ ングと、それに基づく検討を行うということでございますが、その前に前回レポートし ていただきました駒村委員から、前回のレポートに関する補足説明の御希望がありまし たので、5分以内でお願いしたいと思います。よろしくお願いします。 ○駒村委員  お時間をいただきましてありがとうございます。  配っております資料で修正報告がございます。  お手元の方のグラフが2つありまして、前回のところで御指摘があった、国庫負担の 部分が混ざっているのではないかという部分です。特別会計間でのネットでどれだけ負 担しているかという計算をしたので国庫部分が入っていましたので再計算をし修正しま した。それが一番上です。  表の見方は前回と同様で、横に世帯の累計別の平均の標準報酬です。それから、保険 料率を2種類に分けた場合、要するに共働きの2号と、戦後、3号被保険者を持つ2号 の保険料を2つに分けた場合どうなるかというので、その結果、増減というのが出てき ます。これは前回は8,000 円ぐらいになっていたんですけれども、修正しますと4,280 円ぐらい。さらに書いてありますけれども、3号を配偶者にする者は、厚生年金の17.35 %のうちの4.5 %相当が基礎年金に相当するという計算になっています。これは私の計 算なので厚生省の計算の4.3 と少しずれがありますけれども、2つに分けると5.57%、 それから、2号を配偶者とする者の保険料の中に占める基礎年金の部分というのが3.89 %という二通りに分けた場合、共働きの2号の負担の減少分というのが出てきたわけで す。全部万円の単位です。  下にあるのは、前回同様に専業主婦世帯の分布と共働き世帯の分布をそれぞれ2号の 分布をとっております。  一番最後の図は今みたいに二通りの保険料を分けた場合にどうなるか。一番下の2号 と書いてあるのが、共働き2号が標準報酬別にどういうふうな形になるのかという負担 の減少が示されています。  上の点線と薄い線は、点線の方は定額で全員からとった場合、3号からとった場合は 点線のようになります。夫の保険料の料率が下がりますので、横に真っ直ぐならずに、 やや下がっていくということになります。  薄い方の線は保険料率を2段階、2種類にしている場合の専業主婦世帯の負担の動き です。前回報告した保険料率を配偶者の状況によって2種類に分けるという方ですと薄 い線でなっておりまして、標準報酬が上がれば上がるほど、基礎年金の保険料は負担を 多くしてもらうという形になります。  点線と薄い線、どっちをとっても2号の負担の減少はこのままで変わりません。3号 から取る場合にどういう取り方をするのかという違いが出てくるだけの問題です。 以 上です。 ○袖井座長  どうもありがとうございました。  今の駒村委員の御報告に何か質問とか御意見がありますでしょうか。  住田委員、よろしいですか。 ○住田委員  とっても納得がいきます。すごくよくわかりました。 ○袖井座長  ありがとうございます。  それでは、先ほど言い忘れましたけれども、本日、高島委員から皆様への参考として 第89回国際労働総会の資料をお配りしてあります。後ろの方にありますので、これは参 考資料でございますので、後ほどお読みいただければと思います。  それでは、これから本日のイベントといいますか、有識者の方からのヒアリングとい うことでございます。  本日は御案内のとおり、東京大学の大澤眞理先生と慶応義塾大学の樋口美雄先生に御 報告をお願いいたします。このお2人は、あらかじめ皆様方に御要望をお聞きした方の 中からベストの方ということで今回お願いしております。  お2人ですが、1人大体20〜25分程度お話しいただいて、その後で皆様から御質問を お受けするということで、お1人について合計50分程度でお願いしたいと思います。  まず最初は、大澤先生からよろしくお願いします。 ○大澤教授  御紹介にあずかりました大澤眞理です。  本日の資料、大分分厚くなってしまったのですが、最初の固まりがパワーポイントの 画面をそのまま白黒でコピーしていただいたものです。  それに続きまして、「提言」と書いてあるかなりページ数の多いものの、26ページ 「拠出税方式の所得比例年金を」、ここから1ページ半が今日申し上げることの原型で ございます。  ちなみに、「女性と労働21」というのはこういう雑誌でございますけれども、パート タイム労働者や非正規労働者の均等待遇問題と絡めて社会保障改革を考えなければいけ ないという全体の提言でございますので、年金のところだけを抜き出すのではなく、全 部をコピーしていただきました。どうもありがとうございます。  皆様御承知のことではございますが、女性と年金をめぐる諸問題から簡単に整理をさ せていただきたいと存じます。  まず、御承知のように第3号被保険者の保険料は2号被保険者が全員で分担をしてい るわけでございます。ここに含まれる問題というのが、まず共稼ぎ、あるいは単身の世 帯から、専業主婦世帯に逆補助金が払われている趣を持つ。逆補助金と申しますのは、 専業主婦世帯の方がおおむね高所得でございますので、余り高給取りではない世帯から 高給取りの世帯に補助金というので「逆補助金」などと書かせていただきました。  もちろん問題はこれだけではございませんで、有配偶女性が年収100 万円前後以下の 短時間低賃金就労に誘導されるという副作用もしばしば指摘されているところでござい ます。この点に関しては、多分樋口先生の方から後で詳しいお話があろうかと存じま す。  もちろん有配偶女性だけの問題ではなく、女性全体の労働条件を下方に引き下げる効 果も指摘されてきたところでございます。  これが第3号問題ですけれども、遺族年金に関してもさまざま問題が指摘されてまい りました。つまり、共働きの2号の女性ですけれども、夫が亡くなった後、遺族年金な のか、それとも自分が掛けてきた保険料での年金なのかという選択を迫られるわけで、 これについて、しばしば夫の遺族年金を受ける方が高いということから、自分が掛け続 けてきた保険料は掛け捨てになる。掛け捨てというのは実は誤解ではございますけれど も、そのような感情が持たれているということです。  これだけではなく、2号の共働きで働いてきた女性が受ける遺族年金というのは、拠 出歴のない専業主婦よりもしばしば低い額になってしまう。こういうことに不公平感が 持たれているわけでございます。  ところが、専業主婦の側にももちろんいろいろなリスクがございまして、離婚をする と、そのときから今度は第1号であれ、あるいは就職して第2号になったのであれ、保 険料を負担しなければならない。1号なら基礎年金だけになってしまうということでご ざいます。しかし、遺族年金がもらえるといいかといいますと、再婚したら給付が停止 になるということで、結婚の自由がないというようなことも指摘をされているわけでご ざいます。  これらが簡単に言って、女性と年金をめぐる諸問題であろうかと存じますが、同時 に、この問題は年金制度、公的年金全体の問題の中に位置づけて考える必要があろうか と思います。  公的年金全体の問題、これも御承知のように、高齢化し人口減少していく社会の中で 給付水準を維持しようとすれば、大変高い保険料率になってしまうという問題。  それから、保険料負担には逆進性がある。これは総報酬制が徹底すれば解消されてい くわけですけれども、なかなか不徹底です。被保険者だけでなく、事業主でも大企業ほ ど労働総費用に占める社会保険料負担の比率は低いということで、全体として社会保険 料の負担は、比例というよりはむしろ逆進的な性質を持っているという問題でございま す。  それから、これも御承知の1号被保険者のところで空洞化が進行している。自営業、 あるいは無業、学生などの未加入や、保険料の未納やあるいは免除といったこと、それ から、他方で失業リスクが高まってまいりますと、自分にはあえて保険料の納付を回避 しようというような意図はなくても保険料が納められない、あるいは届け出漏れになっ ているというようなことで、将来、無年金や低年金の人が出てくるという問題があるわ けで、このようなことから、女性と年金問題だけを切り離して検討することは適当では ないと考えます。  そこで、いきなり提言の方に入るわけなんですけれども、私は全国民が加入する一元 的な年金制度というものを構築することが、女性と年金をめぐる問題、それから、公的 年金制度全体の問題の解決策ではないかと考えております。  一元的年金というのは、基礎年金だけではなくて、所得比例部分も含めて、職種や職 域、就労時間や年収によって異なる年金制度に入るというようなことではなくて、全国 民が加入する一元的な年金制度として再構築をしてはどうか。この場合、拠出は総所得 に比例をする。とにかく極端に言えば、1円でも1,000 円でも働いて稼いだら、その中 から保険料を拠出をするという考え方でございます。  雇用者、雇われて働く人については、現在、事業主は保険料を折半で負担しているわ けでございますけれども、これについては、総売上高などの外形を標準とする拠出を事 業主に求めてはどうかと考えております。  では、給付の方はどうかと申しますと、簡単に言って、拠出に等しい年金給付にして はどうかと考えております。つまり、具体的には各人・各年の年金給付額というものを 「拠出総額の現在価値÷予想受給年数」としてはどうか。  ここに所得スライドを付け加えます。つまり、受給各年度ごとに現役世代の所得、こ れは給与所得と事業所得でございますけれども、その平均上昇率によって年金給付額を スライドをさせる。それから、新制度に移行するまでの経過期間、30年、40年とかかる わけですけれども、年金積立金も取り崩しながら、高齢者人口比率が安定していくのに 伴い、マクロの拠出総額と年金給付総額が等しいような拠出率として安定化させていく という考え方でございます。  これだけですと、低所得者や無収入期間が長かった人には大変低年金になってしま う。完全比例制ですと低い年金が出てきてしまうというので、ここについては最低所得 を保障するミニマム年金を支給をする。そこに物価スライドを適用するという考え方で ございます。この考え方につきましては、先ほどの資料の25ページにイメージ図が掲げ てございます。  このミニマム年金の給付額は、各人の拠出総額に緩やかに比例をさせる。全体の拠出 率に対して緩やかな傾きで、そこに斜線の塗ってある部分が緩やかに比例させることを あらわしております。このことによって、低所得者にも拠出インセンティブを保ってい く。他方で、この線が引いてあるところについては、ミニマム年金の財源としては資産 所得の総合課税も含めた税制改革の上で、国税の累進的所得税から補填をするという考 え方でございます。  さらに給付ですけれども、夫婦については2分2乗としてはいかがか。つまり、年々 の、あるいは月々の両者の拠出を合算して2分した額を各人の拠出とみなすという意味 でございます。これは、個人単位とどういう関係があるのかということをしばしば質問 されますが、男女には貨幣経済力の格差がある。それから夫婦ともなりますと、妻から 夫に対して潜在的な稼得力、お金を稼いでくる能力が移転をされていくという現実がご ざいますので、それを配慮した経過措置とするという意味でございます。  即時の個人単位化というのは、現実に男女の賃金格差が大きく、また、雇用機会にも 男女格差があるというこの現実の中では、即時の個人単位化はなじまないと考えるから でございます。ただし、夫婦の合意の上での適用除外。自分たちは一人一人で完全個人 単位にするというような適用除外を認めてはいかがかと考える次第です。  このようにいたしますと遺族年金は不要となってまいります。つまり、離死別にかか らわらず婚姻期間について拠出、すなわち将来の年金給付額の基礎が2分されることに なるわけですから、遺族年金は不要となると考えております。  このような一元的な年金制度のメリットでございますけれども、1つを「応能原則と 社会連帯のベストミックス」というような言葉で表せていただきました。応能原則とい うのは、各人への年金給付総額が当該人の拠出総額に等しいということを指しておりま す。このことで拠出インセンティブを確保していく。同時に世代間連帯というものは、 年金給付額が現役世代所得にスライドをするという措置を通して社会化されていく。同 時に、高齢者の就労継続、拠出継続を促進する仕組みを組み込んでおります。つまり、 退職とともに年金受給開始を遅らせると、分母である予想受給年数が小さくなるので、 各年の年金給付額を高くできるという仕組みでございます。  さらにメリットとしては、この年金制度は完全なポータビリティを持つ。同時に拠出 インセンティブを有効に組み込んでいるという点でございます。  一元的な年金制度では職種や勤め先の変更にかかわらず、同一の年金に同一条件で加 入し続けますから、このポータビリティは完全であると。職業やライフスタイルの選択 に対して完全に中立でございますので、自己決定権がその限りで最大限に保障されてい く。ですから、ポータビリティということのために確定拠出型の年金の推奨がなされて いるわけですけれども、ポータビリティのことだけを考えるのでしたら、そういったほ かの制度を積み重ねて、ただでさえ複雑怪奇な現行制度をよけいわかりにくくさせる必 要はないのではないかと考えております。  このような提案を申しますと、すぐに9・6・4(クロヨン)問題の悪影響が年金に もかぶるではないかという御意見をちょうだいするわけですが、この場合、自営業者が 所得隠しに励み、拠出をしないでミニマム年金を受け取るではないかという御心配があ るわけですけれども、その分、老後の年金給付総額は減るので拠出インセンティブは引 き上げられる。  現在、経済財政諮問会議等の骨太の方針で議論をされている社会保険の総背番号制と か税制改革ができれば、これはさらに有効になると考えております。この方法によって 基礎年金の空洞化問題と言われることは同時に解決をされるわけでございます。  さらに幾つのかポイント、これは印刷資料の「提言」という中には含まれておりませ ん。今回抜き出してみた幾つかのポイントでございますけれども、まず、消費税を財源 とすることがしばしば提案されますので、それには反対だという立場を申し上げたいと 思います。  その第一の理由は、軽いところから取るべきだという点でございます。主要先進国の 中で、日本の租税・社会保険料負担(対GDP比)で見ますと、個人所得税が最も軽 く、GDPの5%から6%、これはアメリカの半分の水準でございます。社会保険料と いうのは10%いっていますから中位で、アメリカよりは高く、ヨーロッパの幾つかの国 と並ぶような社会保険の負担率です。消費税はアメリカ並みでございますから、やっぱ り最も軽いところから取るべきではないか。  同時に消費税の逆進性と言われることでございますけれども、収入に占める消費税負 担というのは低所得層ほど高い。特に、母子世帯、高齢・無職世帯の消費性向というの は100 %を超えるだけでなく200 %を超えるケースもございますから、現役勤労世帯に 比べると、こういったところの消費税負担は法外なまでに高くなるということで、これ を財源として社会保障に当てていくというのは、どう考えても賛成できないわけでござ います。  それから、これも経済財政諮問会議の検討の中で出てきている論点として、所得比例 部分を完全積立方式に転換し、将来的には民営化するというプランが語られています。 これは99年2月に提出された経済戦略会議の答申の中にも入っておりましたが、それに も反対だという立場を述べておきたいと思います。  その理由は、非常に近い改革が現実に行われた例として、イギリスでサッチャー政権 のときに行われた年金改革がございます。どういう結果をもたらしたかと申しますと、 改革から5年経ったところで見てみたら、公的年金からの適用除外は450 万人、つまり 86年加入者の2割が公的年金から適用除外をしていた。その間、認可個人年金の加入が 増えているわけですね。つまり、公的年金から逃げだしてというか抜け出して、認可個 人年金に行った。400 万人もの人が5年間で加入しましたけれども、その75%は男性だ ったわけです。つまり、給付の点で不利にされた公的年金に取り残された人は、と言う と語弊がございますが、恵まれないブルーカラーの労働者やとりわけ女性であったと。  そして、私的年金なんだから任意でいいではないかと思われる方には、私的年金には 大変な税制上の優遇が与えられるということに御留意いただきたいわけです。90年代初 頭のイギリスで見ますと、主として男性向けである私的年金への租税支出、税制上の優 遇というのは95億ポンドに上りました。他方で、主として女性向けである高齢者への扶 助、所得や資産制限つきの諸給付の総額は75億ポンドにすぎなかったというので、恵ま れている人への租税支出が恵まれない人への扶助の総額をはるかに上回るというような 事態を招いたわけでございます。  最後にポイントの3番目として、児童の生活保障についてですけれども、これは年金 制度で何かをというよりも児童手当を拡充すべきである。次世代を育成する負担の緩和 を公的年金制度で図ることは適当ではないと考えております。児童手当を拡充して、児 童への遺族年金というのも選択制にしていくことが適当ではないか。  遺族年金が必要なライフスタイルを選択する人も、これは完全にライフスタイルの選 択の問題になっておりますから、任意で遺族年金を付加をする、付け加えるというふう にしていただいてはどうか。  それから、最後に大変大事な問題なんですけれども、遺族厚生年金の受給開始年齢に 非常にあからさまな男女差別があるわけで、男性ですと55歳を過ぎないと遺族厚生年金 がもらえないのに、女性については年齢制限がないということです。これはやはり男女 共同参画社会基本法などの趣旨に照らしても、こういった明文の男女差別というのはで きるだけ速やかに解消していくべきで、年金ですから経過期間は必要ですけれども、毎 年1歳ずつでも解消していくべきだと考えております。  以上でございます。ありがとうございました。 ○袖井座長  どうもありがとうございました。  大変明快、大胆な御提案ということでございますが、ただいまの御報告につきまして 御質問とか御意見がありましたらどうぞ。どなたからでも結構です。 ○駒村委員  5ページ目の年金の根本的というか中心的な仕組みについて教えていただきたいんで すが、ここのイメージは、スウェーデンでやられているような形と似たような形なのか なと思っていたんですが、その辺を確認させていただきたいんです。  あと、完全賦課方式の財政でこのシステムが動いているのかということですね。  そして、一番最後の「・」で、私が一番気になるのは、高齢者人口比率の安定に伴い ということなんですけれども、日本はここ50年は急激な高齢化が続きますので、この期 間中は、この制度というのはかなり世代間での移転が伴うことになってしまうのではな いかと思うんですね。となってくると、この制度に参加しない方が有利になるというこ とで、自営業者は確かにこちらの話で、この制度が完成してしまえば、入らなければ勝 手に損をするみたいな話になりますけれども、その途中には入らない方がいいんじゃな いかというインセンティブを持つことになるのではないかと思うんですけれども、この 仕組みについて少し教えてもらいたいんですが。 ○大澤教授  御指摘のように、スウェーデンのシステムを念頭に置いておりますけれども、同時 に、この一元的年金制度というのは、財政学者の神野直彦先生と金子勝先生が共同で御 提案になっているものに対して、私がジェンダー視点からの補強を加えたというような ものでございます。  経過期間については、2010年代に一旦高齢者人口比率の伸びが緩むといいますか、傾 きが低くなる時期がございますけれども、御指摘のように2050年代までは高齢者人口比 率は上がって、こぶが2個ぐらいあるというようなカーブになっております。ですか ら、最終的に安定するというのは2050年代で40年かかるので、40年間の経過期間を考え ております。  その間について入らない方が有利なのではないか。入らないという選択はない強制加 入の制度を考えておりますので、これを補完するのは、社会保険の背番号制であると か、それをまた税制改革と連携させるという面での補強が必要だと考えております。 ○袖井座長  駒村委員、よろしいですか。 ○駒村委員  少なく申告するインセンティブはある。入らない人はゼロというわけにはいかないで すけれども、少なく申告するというインセンティブはやはり自営業には残るのかなとい う感じは持ちました。 ○堀委員  たくさん質問、意見があるのですが、時間も限られていますから、大きな点2つに絞 ります。1つは今の駒村委員の質問と同じです。今日の御提案は基本的には確定拠出年 金だと思うんですね。確定拠出年金であって、賦課方式では高齢化が急激に進むと、私 は余りうまく動かないのではないかと思います。例えば今、高齢化率が16%ぐらいです ね。厚生年金の保険料率が約17%ですけれども、17%の率で払った保険料の総額を将来 年金として受け取ると。ところが2025年に高齢化率が27%、2050年では32%になるんで すが、そのときの保険料率は賦課方式の下では17%ではとても足りないわけですね。そ うすると、そのときの保険料率が例えば25%であるとすると、その25%の保険料率 で拠出した保険料総額で計算した年金を支給するのはとても財政的には難しい。 スウェーデンでこれができるのは、高齢化率がそんなに急速には進まないという前提が あったからだと思います。確定拠出年金の案自体は大変興味深いのですけれども、確定 拠出で賦課方式というのは、日本ではちょっと難しいのではないかと感じます。  2点目ですが、この案は完全所得比例なわけですね。現在の日本のサラリーマンの制 度は定額プラス所得比例ですね。これは従前所得が低かった者にも基礎年金で一定程度 の年金を支給するという仕組みです。この仕組みによって高所得者から低所得者に所得 再配分がなされているわけですね。特にこの仕組みの恩恵を受けるのは女性だと思いま す。今の女性の賃金は平均すると男性の6割です。したがって、所得の低い女性が今の 基礎年金で保険料に見合う以上の年金を受けている。今日の提案は、それをやめて完全 所得比例にする。これも1つの案だとは思うんですが、この提案は将来の話なのか、そ れとも現在すぐに実施するのか。男女の賃金格差がある中でこういう仕組みをすぐやる のでしょうか。以上2点だけとりあえずお伺いしたい。 ○袖井座長  よろしくお願いします。 ○大澤教授  ありがとうございます。  確かに、人口の急速な高齢化は悩ましいことなんですけれども、また、現行の制度が 本当にこのままでもつのかということを考えたときに、やはり大胆なブレークスルーを 模索すべきではないかというところから、このような提案に踏み切っております。  給付のレベルというのを現行どおりとは考えておりません。生活保障のさまざまな側 面で現物給付でもって対処できるところというのは、なるべく現物給付、サービス給付 で対処した上で、年金のレベルというのは世代間連帯でございますから、現役の人の所 得に対するスライドで、場合によっては、経済成長がマイナスならば減額もあるという ような給付を考えております。率直に言いまして、給付のレベルというのは今より低く なると考えているわけでございます。  2番目の御指摘というのは、制度内垂直再分配が今まではあって、それが女性にとっ て有利になっていた点があるんだけれども、それをなくしてしまうのかということだと 思います。お答えは「そのとおりです」ということになろうかと存じます。40年くらい の経過期間をへた頃にはもう少し男女賃金格差が小さくなり、就業機会についても男女 格差が小さくなることを期待しております。 1年1年ずつ制度が入れかわっていきますから、今現役で働いている、あるいはまして や今年金をもらっていらっしゃる方の状況が変わるということではございません。 ○袖井座長  住田委員、どうぞ。 ○住田委員  今の2つ目の点に関連しまして、私も大澤先生を補強するというか、支持する立場か ら1つ言わせていただきたいと思います。  7ページですけれども、恐らくそこの部分になるかと思います。経過措置をお聞きし たかったのですが、今40年とおっしゃいましたですね。そのくらいかなというのは、個 人的によくわからないんですけれども、今、御意見として拝聴いたしました。この点に つきまして、私自身は民法の考え方から、妻から夫への潜在稼得力の移転というふうに おっしゃったんですが、私としては、女性がほとんど負担している家事労働について有 償評価したいというふうに考えています。ですから専業主婦の場合でしたら、夫の収入 の2分の1を妻の収入として考えるという形で、この考え方を補強したいというふうに 考えているわけです。  これは民法的に言いますと、法定相続分で2分の1、または財産分与についても2分 1ルールを適用しようということは法律学者の中ではほぼ異論がないし、この間も「議 論しておきます」と申し上げたので、その後の報告としましては、いろいろな法制審議 会の先生数名とお話をしたり、法務省の民事局とも話をした結果、婚姻費用分担の関係 で2分の1というのは十分あり得るだろうと。その部分において夫婦別産制ではなく、 夫婦の財産のその部分における共有性だという考え方がほぼ一致したところでございま す。ですから、そういう意味でも民法的にこの部分を補強できると思っております。  ですから、家事労働に共に男女が参画し、かつ女性が育児、介護、結婚等で退職する ような形で就業機会を分断して所得が下がり、ないしは非正規労働にしか参入できない という現状が打破できた段階で、そういう意味ではジェンダーバイアスがなくなった段 階で、私はこういう個人単位化というのはいいかと思うんですけれども、今現在は、言 葉としてはともかくとして、こういう考え方をしている大澤先生に大いに賛成したいと 思っております。  もう一つよろしいでしょうか。13ページで「児童の生活保障は児童手当で」というの が女性と年金を考えるときにどうするかというときに大きな問題になるかと思います。 育児や介護のときに、今の現実としては女性がかなり中心的な部分を担わなくてはいけ ないときに、年金の負担についてどういうふうに考えるかということで、その部分は負 担をしてもいいのではないかという制度も一つあるかと思うんですけれども、いや、そ こは年金ではなくて別のところで考えるべきだという考え方も十分理屈があると思うん ですけれども、そのあたり、大澤先生はどういうふうにお考えなのか、制度論的な立場 からお考えを聞かせていただきたいと存じます。 ○大澤教授  ありがとうございます。  では、後者について簡単にお答えをしますと、年金の保険料を減額するとか、あるい は保険料率を引き下げるとかという形で次世代育成負担の緩和を年金制度に組み込んで はどうかというような提案は、70年代の後半から80年代、当時の西ドイツで盛んに熱心 に議論をされたことでございまして、大変過激な、つまり、子どもを生んだ人だけが加 入する年金と、子どもを生んでない人の年金とを分けろというような過激な提案すら行 われたという事実がございます。  理屈好きのドイツ人が議論をし尽くして、やはりそういったことは適当ではないとい うふうに着地をしたという経緯もございまして、私もその辺にならっております。  例えば離婚をするとか、再婚をするとかということが今までよりもこれからは頻繁に なっていく事態を考えますと、一体誰が育てた子どもなのかという問題も起こってまい りますので、次世代育成の負担というのは、1つは児童手当で経済的な金銭的な面は見 る。それから、保育サービスや学童保育あるいは奨学金制度の充実といったことで、そ の他の部分も見ていくということで、子どもは社会の子どもであって、社会全体として 育つことを保障するという考えで、その結果として納税者になり、社会保険料負担者に なっていただければありがたいけれども、そのことを生まれたときから直ちに、あるい は妊娠した途端から年金制度に組み込むのはいかがなものかと考えております。 ○袖井座長  ほかにどなたかありますでしょうか。  では、私が2点ばかりお聞きしたいんですが、1つは完全所得比例ということです ね。そうすると控除というようなものは一切考えないのかということと、今、日本の制 度というのは、やたら控除が複雑になっていますね。その辺のところをお聞きしたいの と、もう一つ、これは質問というよりも意見なんですけれども、5ページ目の「拠出に 等しい年金給付」のところで、予想受給年数というので、受給開始年齢〜平均寿命とな っているんですが、これは受給開始年齢の平均余命にした方がいいのではないかと思う んですね。平均寿命というのは0歳の平均余命なのですごく長くなっちゃって、これで やると損しちゃうというか、大変になるのでということでございます。 ○大澤教授  御指摘ありがとうございます。  第1点目は失礼ですが、何でございましょうか。 ○袖井座長  控除のことをどういうふうに考えていらっしゃるか。 ○大澤教授  これは事業主についても、最初は「提言」には支払賃金総額に比例した拠出と書いた んですけれども、しかし、現在、雇用の非正規化と同時に、業務請負契約みたいな形で 人を使う、賃金としてではなく人を使うということがますます広がっていることから考 えると、もっと外形的な標準で取った方がよいのではないか。そうでないと、人を雇う 企業ほど社会保険の負担も大きいということがグロテスクに広がってしまいますので、 外形的なというふうにさせていただいたわけですから、当然被保険者の方も外形でもっ て押さえるということで言えば控除とかは考えない。まず、粗収入といいますか、そこ のところで考えさせていただくということだと思います。 ○袖井座長  わかりました。  ほかにどなたか質問、御意見がありますでしょうか。 ○宮武委員  今、座長が御指摘になりました5ページの平均余命でございますね。これはスウェー デンでは、ある1つのコーホートで平均余命が伸びれば、それだけ年金の受給額も減る というような形で設計していますけれども、大澤先生のは個別の平均余命という意味な んですか。 ○大澤教授  平均ですから平均でございます。 ○宮武委員  それは世代ごとにとるということですか。 ○大澤教授  その時点でのですね。 ○宮武委員  わかりました。 ○大澤教授  付け加えますと、御承知のように平均余命には男女差があからさまにございまして、 これをどうするのか、女性については、そうすると年々の受け取りが減るのか、ここは 私は男女込みの平均余命にしていただこうかなと思っております。つまり、自分で健康 に気をつかった結果として長生きをしているということはパニッシュされるべきではな いかというふうに思うからです。 ○堀委員  幾つかありますが、1つは賃金分割方式の提案についてです。相続とか離婚の際の財 産の分与、あるいは婚姻費用の分担よりさらに進んで賃金自体を分割する、そこまで進 むわけですね。年金のために夫婦の賃金を合計して分割することが国民の意識とか、あ るいは民法上、どこまで可能か。そうすると、賃金というのはそもそも誰のものかとい う問題も生ずる。結婚していれば夫婦のものだということになるのかもわかりませんけ れども、そういうところまで行き着くのかもわかりません。  それから、スライドもするというのですが、年金額は、例えば65歳のときに拠出保険 料の総額を平均余命で割って算出するので、スライド財源ではないはずですよね。それ をどうするのか。  それから現在の積立金140 兆円を取り崩すということについてですが、今の我々の保 険料率は、本来負担すべきものよりも低いんですね。積立金を取り崩すと保険料率が更 に低くなる。積立金をいま取り崩すと将来高齢化が進んだときは保険料率はものすごく 高くなる。このようなやり方は保険料負担に関する世代間格差を広げる。提案されたの は賦課方式だから、どうしてもそうなるんですね。  それから、遺族年金廃止についてですが、老齢年金を受けていた人の遺族年金の廃止 はまあまあ考え得るかもわかりません。しかし、若いときに死亡した場合、例えば子ど もを2人抱えていて夫が亡くなったというような場合も廃止するのか。この場合の年金 額はどうするのか。例えば、払った保険料に見合う年金額にしたら、例えば25歳で亡く なった場合は年金額は非常に低くなる。 これは障害年金についても同じです。若いときに障害者になった者の障害年金の年金額 について払った保険料の総額を平均余命で割って算出すると物すごく低くなるわけです ね。現在の障害年金や遺族年金は、1階部分の基礎年金はフルペンションだし、2階部 分の厚生年金は25年保障で高くしてある。  それから、払った保険料というのはどう計算するのか、過去の保険料と利子をつける のかどうか、あるいは保険料額を何らかの指標でスライドするのかどうか。私は昭和40 年代初めに社会に出たのですが、そのときの初任給は2万円でした。今の初任給は20万 円で、20万円分の保険料を積み上げる人はいいけれども、私らの2万円のときの保険料 は低いわけです。物価上昇とか賃金上昇のためです。これはどうするのか、その辺を聞 かせていただきたい。  それから事業主負担ですけれども、売上に比例して徴収するということはどういうこ となのか。労使折半ということと矛盾しないのか。労働者が払った保険料と同じ額を事 業主が負担するということと、売上に比例して徴収することが両立するのか。また、売 上は、利益とは関係ないわけですから、売上が高くても利益は赤字ということはあるわ けですが、それについての考えも教えていただきたい。  それから、国庫負担について触れられていないのですが、その辺も教えていただきた いと思います。 ○大澤教授  たくさんあってすぐには全部はお答えできないと思うんですけれども、2分2乗につ いて、国民意識の現状から見てどうかということ。日本ではまだ民法は改正されており ませんけれども、事実上、裁判の判例でもって離婚が破綻主義になってきている。年金 についても完全に2分2乗するというのは、西ドイツが家族法の改正を1976年にして、 離婚を有責主義から破綻主義に変更したときに、年金についても婚姻期間に比例をした 形で2分をするという原則を導入いたしました。と同時に、西ドイツは特定の事情では 別れた配偶者が扶養も請求できるというようなことを導入いたしました。日本でも余り 議論はされていないとはいえ、事実上、裁判離婚では破綻主義になっている中で、年金 の方の手当が遅れているというのが現実でございます。国民意識については種々調査が ございまして、私はそれなりの賛成は得られるものというふうに考えております。 ○堀委員  離婚しない場合も配偶者は半分もらえるということですね。 ○大澤教授  そうです。自分の名義でもらえるということですね。つまり、今のままですと、基礎 年金は自分の名義で妻に来る。しかし、報酬比例部分は全部夫の名義で来る。これがモ デル的には6万円と十何万円というようなモデル的に言うと分割になるわけですけれど も、報酬比例部分も半分が自分の名義で来るということを考えているわけです。離婚を すれば、もちろん自分の名義でどこに持っていってもいいし、再婚しようと何をしよう と自由、こういうことでございます。  それから払った保険料で、昔天引きされたものの貨幣価値は小さいんだけどというこ とですが、これは受給開始時点でもって現在価値に計算をし直すということですから、 昔払ったものが積み立てられていて、そこに利子がついて、今現在幾らになっているか ということではございません。そこのところは御理解いただきたいと思います。  それから事業主負担ですが、これは労働組合の方にはしかられそうな提案を私たちは しているわけでして、つまり、個々のサラリーマンに対して事業主が折半ではなくて、 全体としての大きなお財布に事業主は払い込んでいただく。  こういう高失業時代、転職時代ですと、自営業、サラリーマンというふうに区分けを すること自体が適当かと考えるからです。  それから遺族年金なんですけれども、若いときについての遺族年金も廃止をするとい う考えですね。子どもの生活費というのは児童手当で賄う。それから、母親本人の生活 費というのは就業機会がきちんと保障されて、保育サービスがきちんと保障されていれ ば、御本人に病気や障害がない限り働いて稼ぐことができるわけですから、そうしてい ただくと。  激変緩和といいますか、それは5年くらいの期間決めというのを考えてもいいわけで すけれども、しかしながら、自分で選んだライフスタイルであるということに関して は、自分の責任でオプションとして遺族年金をかけていただくというのがよろしいので はないか。こうしますと、遺族年金分の年金財政の負担がなくなるわけですので、その ことも将来の財源の補強になると考えている次第です。 ○袖井座長  国庫負担はどういうふうにお考えになっていますか。 ○大澤教授  これは経過的には考えなければいけないのかなと思っています。 ○袖井座長  経過的というのは、結局どのぐらいとか、そういうことは計算していらっしゃいます か。 ○大澤教授  ミニマム年金のところの一般財源からの補填がどうなるかというので、それ以外のと ころは、年金制度としてのセルフサポーティングなシステムを考えているわけでござい ます。 ○袖井座長  そうすると、全部保険だけでやるという。 ○大澤教授  ミニマム年金以外はですね。 ○袖井座長  足らないところは、今までの積立を崩していくということですね。 ○大澤教授  そうです。 ○袖井座長  わかりました。 ○大澤教授  ミニマム年金なんですけれども、緩やかに比例しているところのY軸にくっついてい るレベルというのが、これは生活扶助基準レベルを考えております。 ○堀岡委員  少しお聞きしたいんですけれども、ポータビリティのためだけの確定拠出年金だと か、個人年金を積み重ねる必要はないとか、民営化について否定的な形になっていると 思います。また、公的年金というか、社会保障的な年金と企業が行っている私的年金の 中の企業年金とありますが、企業年金においても相当な負担を企業は負っています。年 金というのは老後のためであり、基本的に社会保障的な国の年金があって、それに企業 が組合と協定をする中で企業年金があり、さらに個人が自助努力で将来の私的年金を積 み重ねると、こういう3つの流れになっています。企業としても企業年金に対する負担 をしょっていると考えております。  そういう中で、先ほど冒頭にあったんですが、大企業ほど負担が少ないとか、それは どういうところで企業は少ないとおっしゃるのかをお聞きしたいのと、個人も自助努力 で積立すべきであるし、確定拠出年金そのものも、ポータビリティを高めることもある が、確定給付型の年金だと財政上いろんな問題が起きるということがあって、実態に合 った確定拠出型の年金制度が、選択肢の一つとしては必要だと考えます。あるいは個人 年金そのものも自らの自助努力ということで、選択肢の一つとしては私は必要と考えま す。公的年金、企業年金、私的年金を組み合わせて、自らのライフスタイルに合った設 計をするのではないか。公的年金において、応能負担ということから企業がどこまで社 会保障の中で負担すべきか。それが今のところ、本人の掛金と同額という形で一応納得 する形になっていますが、先ほど堀先生がおっしゃったように、正直言って、当社は売 上は非常に高いですが利益が少ない現状にあります。グローバルで競争する企業にとっ て、公的年金の企業負担が、果たして世界の企業と同じ条件なのかと、こういうところ も少し考えていただきたい。企業の負担そのもののあるべき姿というのを少し考えてい ただきたいなという感じがします。 ○大澤教授  御指摘どうもありがとうございます。  私は、日本版401kについてやや否定的な発言をいたしましたのは、ポータビリティが ないから確保する必要があるということがかなり前面に打ち出されておりまして、しか し、考えてみれば、制度を分立させておいて、それで高失業時代になったからポータビ リティがないと困るといってその上に何か積み重ねるというのは、いたずらに制度を複 雑にするだけではないのかという趣旨で申し上げたわけです。個人個人が自己責任と選 択でもっていろいろな老後保障を積み重ねていくということに関しては歓迎をしている 方でございますので、この点御理解いただきたいというのと。 ○堀岡委員 ただ、ポータビリティのためだけに確定拠出というイメージは企業の中にはないんで す。むしろ財政的な問題で、やはり拠出した金額をそのまま年金としてもらうという、 いわゆる確定拠出型でないと給付と拠出との差という財政の問題が出てくるので、選択 肢の1つとして確定拠出型が必要と考えています。 ○堀委員 公的年金と企業年金を混同されているんじゃないかと思います。公的年金は、今でも 全面的にポータブルできるんですね。私的年金がポータブルでないから問題になってい る。大澤さんの案は公的年金についてですから、その点は現行と変わりないと思いま す。 ○大澤教授  通算されているという意味ではポータブルなんですけれども、基礎年金のところで、 その2階の部分もそうですけれども、制度が分立しているがためにすき間に落ちる事例 というのがないわけではないという意味で申し上げております。  それから、大企業ほど労働総費用に占める社会保険料負担の比率が低いというふうに 申し上げましたので、大企業は当然、高い労働総費用に伴う高い拠出をなさっていると いうことは事実でございます。しかしながら、あくまでも労働総費用に占める社会保険 料負担の比率というのは低いですし、その伸びというのも、80年代、90年代、趨勢を追 ってみますと、零細、中小のところの社会保険料負担の比率が高い勾配で伸びているの に比べると、大企業はこれを抑えることに成功している。その裏にはさまざまな労務管 理的な努力をなさっていることがあらわれていると存じます。  総売上高比例というときに、現在の保険料率がそのままかかるというようなことは当 然ございませんので、そのときの事業主の拠出率というのは、全体を勘案してというふ うなことになろうかと存じます。 ○樋口教授  呼ばれて質問を受ける側なんですが、質問させていただきたいと思います。1点確認 しておきたいのは、これは所得税における目的税化を考えているというような形で理解 してよろしいかということです。 ○大澤教授  そのとおりです。 ○樋口教授  もう一つは総売上高といった場合、御存じのとおり、川上の企業と川下の企業では、 もちろん売上高で考えれば、川上の方が安くて済む。そういった産業の特性をいろいろ と考えてみるというような問題と、もう一つは、企業が合併して部品から最終加工まで 1つの企業がやれば節約になるんですね。 それを分社化しまして、部品は部品で別の企業、そして、それが親会社にあるいはアセ ンブルメーカーにそれを販売するというようなことになったときに、そこで総売上とい うことになりますと、当然それはかかってきますから、分社化よりも、むしろ統合して いく方向を生み出すべきだというような結果としてそうなりやすい。これは額が多けれ ば多いほど。そういうインセンティブをもたらすということでは中立的ではないのでは ないかというふうに思いますが、いかがでしょうか。 ○大澤教授  総売上高という点には必ずしもこだわっておりませんけれども、支払賃金総額にかけ ると、先ほど述べましたようなまた別のバイアスがかかるということで、何とかいい外 形標準を見つけて着地点を探っていくということではなかろうかと思います。御指摘ど うもありがとうございます。 ○袖井座長  先ほどの産業構造との関連はいかがですか。 ○大澤教授  川上、川下ということでしょうか。 ○袖井座長  はい。 ○大澤教授  これについては、今、全体的に法人税等について外形標準という議論がされておりま すから、その辺を見計らってということになろうかと思います。 ○袖井座長  樋口先生、よろしいですか。ほかによろしいですか。 ○堀委員  今、樋口先生がおっしゃられた税か保険料かということについてです。アメリカの社 会保障税は、税といっているんですが、本質は保険料ですね。 保険料は税と違って、拠出したものが給付として返ってくる。要するに、1年加入すれ ば1年分年金額が高くなる。更に納めた額が年金額に反映するというのが保険料です。 大澤さんの案は私は保険料だと思います。税とは名付けても。 ○袖井座長  大澤先生、どうですか。 ○大澤教授  税と呼ぶか、保険料と呼ぶかということに私は余りこだわっておりませんので、いろ いろ御指導いただきたいと思います。 ○袖井座長  よろしいですか。大分時間も経ちましたので。  どうもいろいろありがとうございました。ほかに質問がなければ、次にいきたいと思 います。  では、樋口先生、よろしくお願いします。 ○樋口教授  慶応大学の樋口と申します。どうぞよろしくお願いいたします。 私はパワーポイントは使いませんで、原始的な方法でお話をさせていただきたいという ふうに思っております。  私も経済財政諮問会議の専門委員をやっておりますが、今日お話しする内容は全く個 人的な意見であるというような立場から発言をさせていただきたいというふうに思って おります。  一体何をここで話したらいいんだろうかということで、グランドデザインまで逆上っ て、30年後、40年後、どうしようかというような話をした方がいいのか、それとも焦点 を絞って、現行の制度のもとにおいてどこに問題があるというふうに考えているのか、 どちらで話そうかなというふうに考えましたが、私は後者の方のスタイルをとってみた いというふうに思っております。  現在の年金制度においてどこが問題であり、早急にどこを改善するべきだというふう に考えているかというような話を中心にさせていただきたいと思います。その点、私が 一番問題視していますのは、パートタイマーの年収調整というような問題点があるわけ でありまして、この点をどう考えていくかという1点に絞って話をさせていただきたい というふうに思います。  皆様御存じのとおり、労働市場では雇用形態の多様化といったものが急速に進展して おりまして、パートタイマー、あるいは派遣労働者、嘱託、あるいは業務請負というよ うな形での多様化の動きが見られます。これをどういうふうに見るのかというふうに考 えたときに、1つは価値観が多様化して、そのもとにおいて選択肢が増えているんだ と、必ずしも否定するべき現象ではないというような見方があるかと思います。  どのような形でそれが広がっているのかということで資料を見ていただきますと、37 ページから図表の1というのが出ております。短時間雇用者数の推移ということであり まして、日本の場合にパートタイマーというふうに言った場合に、大きく分けて3つの 意味を持っているのだろうというふうに思います。1つは、国際基準でよく用いられま す労働時間週当たり35時間以下であるというような規定。そして2番目は、一般労働者 あるいは正社員に比べて労働時間が短いものということでありまして、35時間を超えて も一般の労働者に比べれば短い人たち、これをパートタイマーと呼ぶ。そして3番目 は、企業における呼称、呼び名としまして、例えばしばしば身分を示すものだというこ とで、正社員に対立する言葉としてパートタイマーという言葉が使われるわけでありま す。  これは日本の統計ですと、それぞれ統計によりまして、どの定義をとるのかというこ とが違っておりまして、図表の1は、労働力調査で週35時間以下というようなものに基 づいたらどうなっているんだろうかというようなことであります。これを見ましても、 明らかにこういった短時間雇用者といったものの数が増えている、また比率も増えてい るというようなことは確認できるのでございます。  2番目の図表の2というのを見ていただきますと、これは労働力特別調査というもの でありまして、企業における呼称をもとに定義されているものでありますが、これを見 ましても、呼称でもパート・アルバイトの労働者といったものが増えているということ は間違いない。ただ、その数においては、1番目の図表1と2の間にかなりの違いがあ るというようなことは間違いないのではないかと思います。  もう1枚めくっていただきますと図表の3というのがございまして、これはU−1か らU−6というのが書いてありますが、U−1からU−6というのは何かといいます と、失業率に関するものであります。その定義の内容におきまして6つの定義をとって いるということでありまして、これは国際比較をするときによく用いられるものであり ます。日本では、失業率が4.8 になったとか、4.9 になったということだけがマスコミ で報じられていますが、その定義によって大分その中身が、数字が変わってくるという ことでありまして、ここでは国際基準に基づきまして労調特別の中から見ております。 日本で発表しています失業率というのはU−3といったものであります。これは公表失 業率ということでありまして、これが先日4.8 %に上がった、困ったなというようなこ とになっているものであります。  ところがパートとの関連で言いますと、一番上の太い実線のU−6と×印のついてい るU−5、この間が本人はパートタイマーというよりもフルタイマーとして働きたい、 しかし、そちらに雇用機会がないために非自発的にパートタイマーを選んでいるんだ、 自発的に選んだわけではないというような人たちがこの差であらわれてくるわけであり まして、言うならば「部分失業」というふうに呼ぶべきものだろうというふうに思いま す。  近年、この部分が急速に上がっています。全体の公表されています失業率も上がって いるんですが、それよりもU−5とU−6の間、非自発的にパートタイマーになってい るというような人たちの比率というのが急速に上がっているということでありまして、 このところにつきましては、企業における雇用慣行というようなものに大分大きく左右 される動きがあるのではないかと思います。  なぜこれだけ雇用形態の多様化が進んできているのだろうか。特に企業サイドから見 てみますと、やはり正社員あるいはフルタイマーを雇った場合、人件費は硬直化してし まうというような問題と同時に、もう一つ大きな問題は、時間単価で考えたときにパー ト労働者の時間給が安いというようなことから、パートに切りかえた方が総人件費を抑 制することができるといったものが相当強く入っているのではないかというふうに思い ます。  私どもの研究室でも、パートタイマーとフルタイマーの間の代替性、経済学で言うと ころの「代替弾力性」といったものをはかっています。賃金がもし仮にパートタイマー が1%安くなったときに、正社員からパートタイマーにどれだけシフトが起こるんだろ うかというようなものを見てみますと、この比率が非常に大きいというような結果が出 ておりまして、やはりパートタイマーが増えていく企業側の理由としては、人件費が安 いといったものが挙げられるのではないだろうかというふうに思います。  このときに重要になってきますのは、年金との関連で言いますと企業の年金負担ある いは社会保険負担、こういったものが掛けられているのか、掛けられていないのかとい うようなことにおいて、単に労働者が受け取る賃金だけではなく、総人件費というよう な視点から考えますと、どうしても掛けられない方向に流れていくというような動きが あることは間違いないらしいというようなことになります。  それと同時に、今回の不況の中で失業率が大きく上昇している理由、あるいは先ほど のU−6のところもそうですが、これが急速に上がってきている理由というのは、企業 側の行動の変化だけではなく、働く側あるいはその世帯における変化がどうも大きくな ってきているのではないかというふうに私は思っています。  例えば、夫の所得が減ってしまった、あるいは夫が失業してしまったというようなと ころで、パート就業を望むというような人たちが多くなるわけでありまして、従来は景 気が悪化しますと、経済学でよく使う言葉で「就業意欲喪失効果」という言葉がありま す。雇用機会がいい機会がないというようなことであれば、職探し自身をあきらめてし まう。そのためにその人たちは失業者としてもカウントされずに、むしろ非労働力とい うふうになりますということであります。この人たちが日本の場合非常に多かったとい うようなことによって、景気が悪化しても失業率を抑制するバッファーの機能を果たし てきたということがあったと思います。  ところが、今回の不況の中でも多少そういった動きも見られるんですが、同時に、そ の数が従来に比べれば小さくなってきている。どうしても労働市場に残りたいというよ うな人たちが女性を中心に増えてきているということが言えると思います。なぜだろう かということを考えれば、やはり意識の変化というものも起こっている。それと同時 に、世帯の稼得に対する責任としまして、従来は夫が外で働いて所得を稼ぐ、そしてそ の一方、妻の方は家事分担をする、家事の責任を持つというようなことがあったわけで ありますが、もはやそういった働き方というものが非常にリスクの高い働き方であると いうような、そういう暮らしといったものがリスクの高い暮らしであるというふうに映 ってきているのではないかと思います。夫だけがというようなことになった場合に、ど うしてもその人の収入が減ったり、あるいは失業するというのが身の回りで起こってく るわけでありまして、いろんな統計を見ましても、例えば家族の中で失業した人がいる かとか、あるいは知り合いの中で、親類の中でそういう人がいるかというようなことま で含めますと、ニューヨークタイムスが調査している数字と匹敵するような数字がもは や出てきているというのが日本でも出てきているわけでありまして、失業というものは 他人事ではないというようなことから共働きをしていこう。そして、その中で生活、家 庭責任につきましても、共に分担していかなければいけないというような、これは好む と好まざるとにかかわらず、現実に起こってきているというようなことが言えるのでは ないだろうかと思います。  そういったもとでこういう年金制度であるとか、あるいは社会保険、ほかの雇用保険 でありますとか、あるいは税制、これをどう考えていくのかということでありますが、 もう一つ、ほかの国と比べて日本の場合に、一般労働者とパートタイム労働者の間での 賃金格差が非常に大きいというようなことも言えるのではないかと思います。  その資料は図表の4といったところからでございまして、図表の4は男女間の平均賃 金の国際比較を、私どもとアメリカの研究者の間で行ったものでありますが、スウェー デンを見ますと、男性100 の時間給に対しまして女性90ということですから格差は10% 程度。日本はどこにあるのかということで見てみますと、一番下の方にありました。こ れは日本に注目していただきたいということで一番下に書いたわけではなくて、順番に 書いていったらこうなりましたということでありますので、これをよく認識していただ いた上で、なぜこういうことが起こっているのか。これはあくまでも平均賃金でありま すから、もちろん仕事の内容、これは男女によって違うというようなこともあります。 ですから、男女同一労働、同一賃金、これがたとえ守られたとしても、男女で労働市場 において役割分担の違い、仕事の違いといったものが起これば、これはこういう結果に なっていくんだ、この点どうするのかということで、今回の均等法改正、ポジティブア クションというものが入ったというふうに私は理解しております。  一方、女性の中でもパートタイマーと一般労働者の間でやはり格差の拡大というもの が起こっている。図表の7は、ほかの国と比較したときにパートタイマーと一般労働 者、フルタイマーとの間での賃金格差を見たものでありますが、これを見ましても、下 の方に日本は3つ並んでいますが、平均値で賞与を除いた場合、女子は一般労働者100 に対して66.9%ですということですから格差が33%ほどある。あるいは、さらに下に行 きまして、賞与を含みますと56.6ということですから44%ほどある。そうしますと、正 規の一般労働者としての男性とパートタイマーの女性、これを比較したときに、男女間 の格差が大体6割程度、さらにここでパートタイマーとフルタイマーの間で6割程度と いうことですから、0.6 ×0.6 、すなわち36%程度しか一般男性の時間給に対して払わ れていないというのが現状だということになるかと思います。  しかも図表8を見ますと、これの格差が拡大してきているというようなことでありま して、76年のときには70.1%であったものが、99年になりますと56%ということで、14 %ポイントほどこの格差が拡大する傾向が見られるということが起こっているかと思い ます。この辺の要因につきましては、今、本を書いていますので、それを御参照してい ただくとありがたいと思います。時間の制約ではしょります。  こういう現状のもとにおいて、どういうような問題が起こってこういう格差の拡大に なっているのだろうか。これは申し上げるまでもなく需要と供給といったようなところ で、企業におけるパート需要というものも拡大しているわけでありますが、それ以上に 供給側がパートタイマーとして働きたいというような人たちが増えている。正社員とし て働くのは、逆に余りにもオブリゲーションが多いというようなこと、あるいはコンス メイト、制約が強いといったようなところからパートの方として働きたいという人が増 えているということは間違いないわけでありますが、それだけではなく、いろんな国あ るいは企業における制度といったものが、こういう賃金格差をもたらすようなところに 受給バランスプラス何か加わっていることはないのかというようなことが私の問題点 であります。  それを考えてみますと、1つはやはり税制の問題、そして2番目として企業における 手当の問題、そして3番目として社会保険の問題というようなことになるわけでありま すが、まず配偶者控除と配偶者特別控除、これにつきましては1986年だったでしょう か、配偶者控除における所得の逆転現象ということを問題としました当時大蔵省が、こ れについて配偶者特別控除といった制度を設けるということをやりました。これは非常 に不思議なものでありまして、同じころ男女雇用機会均等法がつくられたということで ありまして、どうも労働省の方は均等に扱うようにということなんですが、逆に大蔵省 の方は、結果として配偶者控除と配偶者控除の2つもらえるというようなことで、従来 の制度のもとにおきましては、専業主婦は今の金額で言えば38万円だけ控除を受けられ るというものであったのが2倍になりました。76万円もらえるというようなことになり ました。でありますから、どちらかといいますと女性の就業を抑制するということがあ ったんじゃないでしょうか。同じようなことは、社会保険の年金でも第3号被保険者が 創設されるといったことがこの当時起こったわけでありまして、どうもそれぞれの省庁 で向かっていることが違うなというようなことを印象として持ったわけであります。  その上で、今の配偶者控除と配偶者特別控除の2階建ての部分につきましては、今、 財政諮問会議でもいかにあるべきかというような議論をしておりますし、あるいは配偶 者控除自身をどうするべきかというようなことについてもいろいろ議論が起こっている ところであります。少なくとも税制上は逆転現象というのはなくなった、これが現状で あるわけでありますが、その一方で配偶者手当、配偶者が自分で納税をするというふう になったときにもはや扶養者じゃない。独立した納税者である以上、企業としては夫に 対して配偶者手当を出さない、給付しないというような制度を持っている企業が非常に 多いということが現状だろうと思います。このために、結果としてはまだ逆転現象があ る。  仮に配偶者手当が月2万円、12か月払われますということになりますと、年間24万円 の配偶者手当が払われます。パートタイマーとして仮に時給800 円で働いているという ようなことであれば、24万円を800 円で割りました300 時間分、これは夫の企業の方が 専業主婦でありますとか、あるいは103 万円以下の世帯に対して助成を行っているのと 同じなんだというようなことになります。また、逆にこの103 万円を超えてしまう独立 した納税者になるというふうになって配偶者手当がストップされた途端に、今度は300 時間の所得補填が受けられなくなるということになりますから、これは103 万円を超え て働いたぐらいではペイしないということになりまして、依然としてここにおいては逆 転現象が起こっているということだろうと思います。  さらに雇用保険につきましても、これも失業がこれだけ多くなっている情勢下におい て、短時間雇用者についての失業保険、雇用保険についてどうするのかというようなこ とが大きな問題となってきました。私も雇用保険の部会長をしておりますが、そこで昨 年、この適用の範囲を広げるというようなことを決定しまして、今年の4月1日からそ れが施行されているわけであります。従来は3つの条件ということでありまして、年収 が90万円以上であること、あるいは労働時間が一般労働者の2分の1以上であること、 あるいは1年を超えて雇用の見通しがある者ということになっていたわけであります が、適用を拡大するために年収90万円の上限というのを撤廃しました。したがいまし て、年収にかかわらず労働時間だけでこの基準が決められるということになりまして、 制度の変更によって約70万人から90万人ほどのパートタイマーの人の中から、この保険 制度に加入する人たちが増えてくるのではないか。実際に増えるかどうかわかりません が、統計上の数字ではそうなっていますということになります。  一方、雇用保険でもまたいろいろ問題があります。パートタイマーについて、1年を 超えないで起こっている場合はどうなのか。あるいは副業、兼業している場合にはどう なのかというような問題、パートで複数の仕事を持っているというような問題もこの雇 用保険の対象とするのかどうかというようなことについて議論が起こっております。  その一方、社会保険についてどうかということでありますが、ここは、制度の複雑化 といいますか、非常に錯綜しているところがあるのではないだろうかというふうに思い ます。これも少し資料を見ていただきたいんですが、図表の9から10につきましては、 いかに就業調整、雇用保険に限らず配偶者手当であるとか、あるいは配偶者控除、特別 控除、さらには社会保険といったものを気にすることによって、労働時間が短縮されて いるかといったものを示しているものであります。私どもの分析でも、年収調整を行っ ているというようなパート労働者というのは、年間労働時間がパートよりも24.8%短 い。ですから、大体2か月分、11月、12月分の労働時間が気にしていない人に比べて短 いというような結果になっておりますし、それだけではなく、時間給を抑えるといった ことによっても年収が調整されるわけですが、それによりましても5.1 %ほど短いとい うような結果が出ております。  あるいは、カンタニさんが私どもがやりました分析を新しいデータに基づいてなさっ ていますが、そこにおきしても年間労働時間が30%短い。あるいは時間当たり賃金率9 %低いということで、平成2年のときの調査、私どもがやったものよりも、平成7年の 調査でやったものの方が年収調整の影響が強くあらわれるようになってきているという ようなことがあるのでございます。  年収調整、誰が調整しているんだろうかということを見ますと、まず地域で見ます と、時間給の高い地域、言うならば東京を中心とした大都市でこれは多い。一律の103 万円の適用でございますから、地方に行きますと、どんなにパートで働いても103 万円 になりませんというような人もいるわけでありまして、賃金率の高いところで調整とい うものが起こりやすいということがあります。  さらには、学歴で見ますと大卒のところで特に起こりやすい。制度をよく知っていら っしゃるというようなこともありまして、そのもとにおきまして、損得というのが強く 意識されているということから調整している人たちが多いというような結果が出ていま す。  その一方、税制とか社会保険の現行の制度のもとにおいてどういうことが起こってい るのかというのを図に表したものが図表の12といったところにあります。「妻の年収と 可処分所得の関係」ということで、これが増えていくに従って可処分所得がどういうふ うに推移するんでしょうかということであります。今申し上げましたように、103 万円 まではそれほど段差がない、スムーズに上がっていくというようなことで逆転現象は起 こっていないわけですが、103 万円の壁で、今申し上げました配偶者手当がカットされ るということによって急速に階段状に落ちるというようなことがあります。そしてその 後、今度は130 万円、ここで年金問題と関連するわけでありますが、ここでは130 万円 を超えて1号に加入するというふうに想定した場合にどうなるんでしょうかというよう なことで、ここでまた急速に階段的に落ちるというようなことがあり、その後で130 万 円を超えて働いたならば、元の学に戻すのには幾ら必要なのかというのを下の表を見て いきますと、相当な金額が求められていくというようなことになると思います。  例えば130 万円のところで見ますと、可処分所得、一番右側が105 万1,516 円になり ます。国年保険、これが年間で15万9,600 円ほど払わなくてはいけない、1万3,300 円 が月当たりの負担になるというようなことになります。  その後を見ますと、125 万円まで戻るには今度は155 万円ぐらい稼がないと元へ戻ら ないというようなことになってきますので、かなりの損をする時期があるというような ことになっているのが現状だろうというふうに思います。  提案としまして、何をすればいいのかということでありますが、次のページに図表の 13というものがあります。この13に現行制度と私の提案といったものが合わせて出てお りますが、太い線で示されていますのが現行制度のもとにおけるものです。ここでは、 まずどういう人がこの対象になるかということでありますが、雇用保険では一般労働者 の2分の1ということであったわけですが、年金につきましては4分の3以上というよ うなことで、かなり長い時間を想定しています。  その一方、年収の方の制約としましては、雇用保険では今撤廃されたわけであります が、年金制度におきましては130 万円を基準とするというふうになっています。しかも 複雑なのは、時間の4分の3を超えた場合と130 万円を超えた場合で加入をする保険が 違ってくる。4分の3以上の場合には国民年金の第2号被保険者となるというものであ るのに対して、130 万円、年収の方の壁を超えた場合には第1号被保険者になるという ようなことになります。第2号の場合には、その稼いだ所得に応じて、負担、保険料が 決まってくるということですから、急に上昇するということはない。それに対して1号 の場合には、1万3,300 円月に払わなくてはいけないというようなことで、ここはまさ に先ほど見ましたように階段を生み出しているというようなことになります。これをど うするのかということであります。これは、年収の壁というものを設けることによっ て、特にパート労働者の年収調整といったものに走らせているのではないだろうか。  そこで提案としましては、まず時間について雇用保険と同じ程度にしたらどうかとい うことでありまして、4分の3を2分の1にする。2分の1を超えた場合には、第2号 被保険者として扱うということであります。さらには年収につきましても、例えば130 万円を半分の65万円にするというようなことで、国民年金の1号被保険者であるものを 2号にしてはどうかというようなことで、どちらを超えても同じように2号にして、そ うすることによって、先ほどの1万3,300 円の壁というのをなくしたらどうかというよ うなことが提案であります。それ以下の労働時間2分の1以下の人、あるいは65万円以 下の人については、第3号被保険者として扱うのか、この制度についてこちらでこれま でも議論されているということでありますが、ここについて見直しをするのかというこ とは、これは別途考えていかなければいけないことではないかと思います。  問題になりますのはもう一つありまして、現状としてどういうことが起こっているか ということでありますが、パートタイム労働者の年金問題を考えた場合に、先ほど申し ました年収の壁と労働時間の壁といった両方があるわけですが、現状としてどちらの壁 に突き当たる人たちが多いのだろうかということで、本当であれば、統計がそういうふ うになっていれば統計資料に基づいて、どちらの壁で年金に加入している人は多いんだ ろうかというようなことを見ることができるわけでありますが、残念ながらそれがな い。そのために推測によって考えてみますと、例えば労働時間が一般労働者の4分の3 である、なおかつ年収が130 万円である労働者というのは、時給を換算してみますと、 大体時給920 円の人だということになります。その内訳はそこに書いてありますよう に、130万円を突き当たり157 時間、これが一般労働者の平均労働時間ですから、それに 12か月をかけまして、それの4分の3ということで出しますと約920 円になるというこ とになります。920 円を実際のパートタイマーの時間給分布に照らし合わせてみます と、65%程度の人が時給900 万円未満というようなことで、これはどうも65%のパート 労働者が労働時間の方の要件にぶつかっているらしいというようなことになります。そ の分だけ先ほどの問題、2号の被保険者になる可能性が強いというのが現状だろうとい うことで、先ほどのような提案をさせていただいたということであります。  もう一つ重要なのは年金と雇用保険、どこが違うんだろうかということを考えてみま すと、パートタイマー労働者の意識調査を行いますと、雇用保険には加入したいという 人たちが多くいらっしゃるわけであります。自分たちもいつ失業するかわからないから 雇用保険には入りたいんだ。しかし年金には入りたくないというような人たちが現状と して多いわけであります。なぜなんだろうかということを考えますと、1つは、人々の 考えている時間割引率が非常に高い。年金であれば、これが実際にもらえるのは年取っ てからということで相当先です。ところが雇用保険の場合には、すぐ失業になるかもし れないので、すぐ給付を受けられるかもしれない。だとすれば、今のうちから入った方 が得だというふうに考えている、その時間割引率に対する人々の考え方が非常に高いと いったようなことで、こういう影響が出ている可能性は1つあると思います。  それと同時に、どうも掛け捨て保険になっているのではないかというふうに年金保険 を考えている人たちが多いのではないかと思います。これは先ほど大澤さんから話のあ りました遺族年金のところでありまして、これについては詳しく述べませんが、それも ある。  もう一つは、障害厚生年金であれば、障害者になればすぐに年齢にかかわりなく支給 されるわけでありまして、すぐにもらえるわけでありますが、年金といいますと、どう しても高齢者年金のところだけに目がいって、これに対する行政当局のPRが足りない というようなことも、私は掛け捨て保険になってしまっているというようなことを意識 させる原因になっているのではないかと思います。  以上のことを考えまして、当面する問題として、この点について年金の加入要件、こ れについての見直しを進める必要があり、なおかつ掛け捨て保険にならないというよう な制度をどういうふうにつくっていくのかというようなことが当面の課題ではないかと いうように認識しております。  以上でございます。 ○袖井座長  どうもありがとうございました。  それでは、今の御報告に対して何か質問とか御意見がありますでしょうか。 ○駒村委員  最後の改正の提案のところに関して3点ほど御質問させていただきたいと思います。  ここは確認なんですけれども、先生の御意見ですと一番最後の図表の13の白地の部 分、65万円以下と2分の1以下、この部分に関しては、これだけ3号のままですので、 この方たちは負担しないということは、このままでは変わらないというところですね。 ○樋口教授  はい。 ○駒村委員  それから、被用者保険は、医療保険、介護保険も同じ扱いになるので、これは同時 に、健康保険の方も被扶養配偶者から本人に切り替わるという点がもう1点。  それから最後に、2号に直接なることによって基礎年金はもちろんもらえることにな り、なおかつ報酬比例部分ももらえることになると。基礎年金は65万円を標準報酬で計 算して、そのうち5%は基礎年金の保険料というふうに考えると、月々2,000 円から 3,000円ぐらい基礎年金を払ったことになる。さらに、その上に報酬比例がもらえる。 これはかなり有利になる。それだけ財政的に見ると厳しい話になってくるのではないか なと思うんですけれども、その辺はいかがでしょう。 ○樋口教授  1番目の第3号被保険者問題については、これは今のままでいいというふうに私は思 っておりません。これに関しては、やはり相応の負担をしてもらうという方向を打ち出 すべきだろうというふうに思っています。ただ、それを第3号というふうに呼び名を変 えてどういうふうにするのかということについては、具体的にはまだ考えていないとい うことです。  2番目の健康保険との連動の問題ですが、これはまさに連動するというようなことで ありまして、意識調査でも健康保険の場合に本人が負担していれば、その場合に医療費 の方において特典があるわけですね。扶養家族の場合には一部分負担しなくてはいけな いというようなことで、特典を重視する人もかなりいるということで、健康保険だけ だったら入りたいというような人たちもいるというようなアンケート調査が出ておりま す。  もう一つの2号の基礎年金、これは財政的にもつのかということですが、これは制度 の設計をどうするのかというようなことにかかわってくることでありまして、財政がも つかどうかというところまで計算をしていません。シミュレーションをぜひ駒村さんの 方でやってもらうといいなというふうに思います。 ○下村委員  今のお話によりますと、大前提としてパート労働も一応そういう年金に加入した方が いいというふうな前提でのお話だと私は受けとめたんですけれども、私のところに来る 個人、団体を含めていろんな方々の御意見の中で、この図の中では65万円程度というふ うに設定されていますけれども、これを思い切って30万円程度というふうに下の数字に 設定して提案なさっている方もいるんですけれども、この図で65万円の設定というのは 何か意図がございますでしょうか。 ○樋口教授  図表の10を見ていただきますと、年収調整をしている人たちがそれぞれの年収におい てどう違っているのかというようなものが出ています。これが分布を示しているわけで ありますが、パート労働者の場合に、90万円から99万円の人たちが人数として圧倒的に 多いということがあります。しかもその中で斜線といいますか、ドットの打っていると ころがこの調整を行っているというような人たちでありまして、この層については約7 割強の人たちが調整をしている。30万円というようなことになりますと、これは左から 3本の柱になりますが、このところについて、人数的にそう多くはない。もちろん徴税 コストといいますか、そういうコストとのバランスを考えたときに、コストがかからな いのでしたらゼロからみんな入ってもらった方がいいというようなことになると思うん ですが、収支バランスを考えたときにどうかなというようなことで一応こんな提案をさ せていただいています。  もう1点、これは女性だけではなく最近フリーターが急速に増えてきているわけであ りまして、フリーターについても、これは民間のシンクタンクが調査したものでありま すが、一体フリーターというのは年収幾らぐらいとっているのかということであります が、128 万円というきれいに130 万円のちょっと下のところになっているということが ありまして、これを見ますとフリーターというものの生涯所得を考えたときに、一般労 働者として就職している場合に比べて一体幾らぐらい給与が、あるいは生涯給与が低く なっているのかというのを私どもで計算してみました。高卒の初任給というのが228 万 円です。これは平成11年の数字ですが、フリーターは128 万円ということで年収で考え ときに100 万円ほどフリーターの方が安いということになっています。  シミュレーションとしまして、18歳から35歳まではフリーターとして働き、その後35 歳から45歳までになったときに正規社員に移る。そういった18歳から45歳までの収入を 足し上げますと大体7,812 万円になります。その一方、18歳から45歳まで最初に就職し た企業にずっと勤め続けるといった場合に1億3,963 万円ほどになります。すなわちそ の差としまして、6,151 万円ほどこの期間の所得格差が出ているわけでありまして、私 はそれを「自由の代償」という言葉で呼んでいます。自由である、あるいは労働時間は 短いというようなその代償を6,151 万円ほど払っているんだ。この多くの人たちという のは、今のところ雇用保険も、あるいは年金も入っていない人たちが多いというような ことがありまして、この数の拡大というものが現実に非常に大きな比率になってきてい ます。そういうもとにおいて、制度改革というものも考えていく必要があるのではない かというようなことから先ほどのような提案をさせていただいた。これは女性だけでは なく、そういったフリーターの人たちもあります。  もう一つは、片方で最近の流れとしまして、日経連が提案しています短時間正社員化 というのが起こってきています。これは高齢者のところでも同じようなことが起こって くるわけでありまして、こういったところをどう考えていくのか、年金はその人たちは いいですよという話になると、これまた企業のスタンスから見れば経費が節約できると いうようなことなんですが、果たして社会的にそれでいいのかという問題を抱えてくる のではないかというふうに思います。  オランダモデルがうまくいったというような前提には、社会保険についての改革があ ったというようなことが前提になっているわけでありまして、そういう社会的ワークシ ェアリングという問題を考えていく上でも、こういった制約はなるべく取っ払った方が いいということになるのではないかという提案です。 ○袖井座長  どうもありがとうございました。  住田委員、どうぞ。 ○住田委員  どうもありがとうございました。  今日の先生のお話は、このタイトル「パートタイマーの年収調整問題に対する改正の 提案」と限定してお聞きしたということでよろしゅうございますね。といいますのは、 先生の前段のお話すなわち、今の女性は所得が非常に低いこと、もちろんGEMが世界 的に低いこととの一要素、大きな要素になっているわけなんですけれども、そういう観 点からしますと、パートタイム労働者それ自体の問題も非常に大きな問題ですね。女性 はパートタイム労働であり、専業主婦であり、場合によっては2号になったりという形 で、相互乗り入れが自由なところに今あるわけですので、パートタイム労働だけのこの 部分だけを改正するということでとりあえず限定したところでの年収調整問題はクリア できると思いますけれども、広い意味で女性にとっての生き方にとってこれがいいのか どうかということについては若干危惧しております。  そういう意味では、今回、先生が最後におっしゃった3号問題については見直しをす るべきである、相応の負担を打ち出すべきという御提言に対しては、私としてはようや く納得ができたんですけれども、そこのあたり、相応の負担を打ち出すべきだというお 考えについては、どういうふうな根拠とか、理由とか、お考えがございますでしょう か。よろしくお願いいたします。 ○樋口教授  これは既に私は本にして出しているものがありまして、弱者、弱者というのは二重か ぎ括弧のついた『弱者』というふうになっています。本当の弱者というものを対象にし た社会保険制度はいかにあるべきかとか、税制はいかにあるべきかというような項目 で、「専業主婦は弱者か」というような論理展開をしているものであります。この中で 経済学者が考えなければいけないのは効率の問題、もう一つは公平性の問題、この両方 から考えて、やはり第3号被保険者問題というものは、今の制度においては問題点があ るんじゃないか。  大澤さんも先ほど御指摘なさった、どういうような世帯で専業主婦があらわれている のだろうか、あるいは労働時間の短い人たちがあらわれているのだろうかというような ことになりますと、これは個々のケースによって違うと思いますが、全体的に構成比を 見ますと夫の所得の高いところで起こっている。我々は「ダグラス・有沢の法則」とい うふうに呼んでいますが、夫の所得の高いところで女性の労働供給を抑制するというよ うなことが現実に起こっているというようなことがありまして、これは公平性の視点か ら見てもおかしいのではないかというようなことであります。  もう一つは効率性の視点から見ても、やはり年収が抑えられる、あるいは時間給が抑 えられることによって、本来そういう制度がなければもっと働きたいという人たちがい るにもかかわらず、その制度が働くことを邪魔してしまうというようなことがあるわけ でありまして、少子高齢化の社会を考えていくというような中で、個人、これが自分の 意欲と能力に応じて力を発揮できるような、そういう社会を形成していくべきではない かというような、これは効率性の視点ですが、そちらから見てもやはり再検討する必要 があるというふうに思っているということであります。 ○高島委員  65万円という線引きを見ますと、税制のときの勤労控除と一緒になりますね。そうす ると基礎控除だとか、そういうふうな話と連動してくるんですけれども、税制との関係 はこういうことをした場合にどういうふうに考えたらいいんでしょう。 ○樋口教授  税制との一元化の問題をですか。 ○高島委員  一元化するというわけではありませんけれども、そういう話が当然出てくるのではな いかと思うんですが。 ○樋口教授  配偶者控除を配偶者特別控除とどういうふうにリンクさせるかという話だろうと思い ますが、私は働いていなければ一律の額を控除しますというのはやはりおかしいのじゃ ないかなというふうに思っておりまして、それであれば、むしろ就業に対して中立的な 制度にもっていく。そのためには、基礎控除のところをいじっていくというような、例 えば配偶者控除は撤廃します、それによって増税しますというような結果になれば、こ れは反対する人たちが相当多いということでありまして、この結果として増税になると ころをどこで逆に今度は控除していくのかというようなことを考えなければいけないだ ろう。これは大胆な意見として、やはり日本の場合に、企業が税金を納める上でも事務 的に代行してくれるというようなところがあるわけです。天引き制度がこれになってい るわけですが、そのために、結果として国民が一体自分が幾ら税金を払っているのか、 これをほとんど知らないというような納税意識の低さといったところにつながってくる ところがありまして、本人の申告制度というものをもっと広げていく必要があるんでは ないかというふうに思っています。  こうなってきますと非常に大きな話になってきまして、税制の抜本問題からどうする のかというようなことがありまして、厚生労働省ですから、ぜひ医療についても同じよ うな、一部分だけ病院で患者さんが負担するということではなく、全額まず負担しても らって、そして本人に対して給付を制度から行うというような、そうしないとコスト意 識というのがまさに出てこないというようなことから、そこまで話を広げれば、そうい うような話に広がっていくというようなことがあるんじゃないかというふうに思ってい ます。 ○袖井座長  でも、全部確定申告にしたら65万円という壁も要らないんじゃないんですか。 ○樋口教授  税金としてこれをやるということになりますか。 ○袖井座長  ええ。こういうものを残すと、また3号ということが出てきてしまいますよね。 ○樋口教授  ただ、一定の所得以下の人は現状として確定申告しないわけですね。 ○袖井座長  現状ではね。でも、もっと樋口先生のそういうふうに拡大すべきだという御意見だっ たら、その問題については第3号をなくしても。 ○樋口教授  ただ、それはそうすぐにできないだろうと。ですから、当面する問題として何をやる かというような改革の手順を考えていった方がいいんじゃないかというようなことか ら、そう申し上げました。 ○袖井座長  そうすると、これは一応過渡的な御提案ですか。それともこれで最終案ということで すか。 ○樋口教授  この点に関してですか。パートタイマーの年収調整についてですか。 ○袖井座長  はい。 ○樋口教授  年収調整については、第3号をどうするのかという問題を含めて考えなくちゃいけな いわけでありまして、そこまで含めれば過渡的かもしれないということですね。 ○袖井座長  ありがとうございました。  ほかに。堀委員、どうぞ。 ○堀委員  この提案を実行した場合の経済的な帰結というのか、結果はどういうことになるので しょうか。例えば、女性の労働の供給が増えると、供給圧力が強い中でパートの待遇が 悪くならないか。それから、基準額は65万円に引き下げると65万円のところでまた就労 調整が起きないかとか、そういったことについてお伺いしたい。 ○樋口教授  後者の方につきましては、先ほど見ていただきました図表の10で、現状として年収が 60万円以下の人というのはいらっしゃいますが、数的にはそう多くないですね。今130 万円とか、あるいは配偶者控除の適用になる103 万円、こういったところに非常に多く の人たちがそこに位置しているというような現状がありまして、そのピークのところで 103 万円という壁が片方であるんですね。たまたまそうなったのかどうなったのか、結 果として103 万円を意識してこういうふうになっているのかわかりませんが、65万円に 引き下げられたときに、これによってそれ以下の人たちの人数というのは、それほど大 きくないんじゃないか。中にはそこで年収調整をするというようなことがあるかもしれ ませんが、65万円といいますと、例えば時給800 円としまして、年間労働時間800 時間 になるんですね。年間労働時間800 時間というのはかなり短い。月々50時間ということ ですから、週十何時間の人というようなことになるわけでありまして、ここのところは 年収調整はなされるかもしれませんけれども、今のような労働市場全体に与えるような インパクトというのは薄れるんじゃないかというふうに思っているというのが1つで す。  もう一つは、パートタイマーの賃金が相対的に低い。供給圧力というのは、1つは家 計の所得が伸び悩んでいるというようなことと同時に、もう一つは正社員についての働 き方において、拘束性が非常に強い働き方を日本の企業はこれまでやってきたという問 題があって、例えば転勤でも世界どこでも、また時間につきましても、残業時間もいつ でもというような、そういったような人たちを活用の対象としてきた。職種によっては そういうような拘束性というものがどうしても必要だというような働き方が求められる ものもあると思いますが、場合によっては不要な拘束性まで課している面があるのでは ないだろうかというふうに思っています。どの国を見ましても拘束性を持っているよう な人たち、ノンイグゼンプトな人たちというのはいらっしゃるわけでありますが、その 比率は日本では非常に大きいというようなことがあるわけでありまして、それを緩和す る。それが緩和しない限り、片方ではパートタイマーというような、先ほどの自由の代 償じゃありませんが、そういったところに多くの人たちが集中していくというような結 果が生まれているのは間違いないんじゃないか。ですから、パート問題というのは、 パートの働き方だけを問題にするのではなく、まさに日本全体の働き方、あるいは暮ら し、こういった問題を提示している問題だというふうに私は受けとめています。 ○宮武委員  基本的にこういう思い切った策をとらなければ、今の硬直状況を打破できないという ことで全く同感なんですけれども、例えば、高島さんがおられるところで私が代弁する のは変ですが、連合も同じように、やはり時間においては2分の1、ただし、連合は90 万円でしたね。そこを境にして引き下げろということを提案なさったことがございまし た。  悩ましいのは、そうしますと企業側はどういう反応を示してくるのか。これはかなり 猛烈な抵抗が予想されますね。それが悩ましいこと。しかし、それは当然ながら乗り越 えなければいけないんでしょうけれども。  もう一つは、駒村さんがおっしゃったように、わずかなパートの賃金でもって報酬比 例部分も含めてもらえるということになると、それは制度として本当に整合性があるの かどうか、財政がもつのかどうかということになります。そうしますと逆に言うと、 パートの低い賃金の場合には保険料率も少なくし、報酬比例の部分もはね返りが少なく するような、そういう方策があるのかなと考えて、そこら辺のところの先生の御意見を お聞きしたかったんですけれども。 ○高島委員  今、宮武さんのおっしゃられた90万円というのは、今年の要求では、樋口先生のおっ しゃられた65万円と同じです。 ○宮武委員  当時は労働保険の徴収基準でしたね。 ○高島委員  雇用保険です。 ○樋口教授  すみません。雇用保険の90万円の壁を撤廃してしまったので、そのよりどころがなく なったというのが連合のあれじゃないかと思いますが、幾らにするかというのを連合が やっているを初めて今日伺いました。幾らにするのがいいのかという議論がもう一つ残 っていると思います。例えば、短時間雇用者については別制度を設ける。従来の年金制 度に組み込むだけではなくて、別にしたらどうかという案もあるかと思います。例え ば、雇用保険の場合にはそれをしているわけでありまして、短時間雇用者雇用保険とい うのが一般労働者の雇用保険制度とは別のものというような形であるわけでありまし て、そういうのも1つは考え得るかなというふうに思います。財政的に収支バランスが どうなるのかというようなことは計算していませんので、その点については何とも言え ないかと思います。  ただ、もう一つ申し上げたいのは、これによって加入する人たちが増えてきて、そし て負担額といいますか、保険料収入が増えてくれば、全体としてはほかのところで正社 員についても軽減することというのは論理的には可能であるというようなことがあるわ けでありまして、その再設計といったものはどうしても必要になってくるだろうという ふうに思います。 ○宮武委員  ちょっと付言して言うと、国民年金の場合も、今度の改正からは半額を払えばいいと いう半額割引制度ができたわけですから、そういう意味では、こっちも半額割引制度が あってもおかしくはないと言えますね。 ○樋口教授  給付に関して。 ○宮武委員  はい。 ○堀岡委員  今日のお話は企業側にいる本当の前提条件も含めて、私どもが実感しているところは 全く同じなんですが、今回のテーマでパートタイマーの就労という部分で、先ほど130 万円の部分と税控除の103 万円のところで、企業が扶養加給といいますか、配偶者手 当、この部分のところで現実問題として、私どもの従業員からしても、年金の制度とい うのはなかなか難しいものですから、年金が掛け捨てになっているかどうかということ がわかられているというのはなかなか少なくて、むしろ扶養手当がもらえるかもらえな いかというのがかなり調整の原因じゃないかなと思っているものですから、先ほど堀先 生からありましたように、65万円になっても年金だと思えば、そこに動かない、それと 逆に動かないというか、ここの百何万円という扶養加給のところはそんなに減らないん じゃないかと。そうすると、私どもが今いろんな処遇制度を考えていますけれども、配 偶者手当そのものは必要なのかどうなのかということについて、先生はどういうふうに 考えるのか。 ○樋口教授  いろいろ話の広がりがあるようですが、配偶者手当については、私は基本的にやめた 方がいいというように思っています。そのかわり、月給が減るじゃないかというような ことですが、配偶者手当というのは、要するに扶養者であるということを理由にして出 ている手当なわけですね。妻が家にいれば、その分だけ夫の生産性が上がるというよう な内助の功があるんだというようなことであれば、それは業績給としてちゃんと払えと いうようなことになるわけでありまして、女性が家にいれば夫の生産性が上がるかどう かなんていうのはまさに疑問であるというようなところがありまして、それはどういう 前提でなっているのかというのがよくわからない。  その一方で、多分生活給がかかるじゃないかというようなことだろうと思いますが、 これは全部残ってしまうんですか。いろいろ調査してみますと、確かに共働き世帯と単 独稼得世帯、これを比較してみますと、支出は共働き世帯ではかなり多いんですね。逆 に、今度はどこが単独で働いている世帯では多いかというと光熱費が非常に多いという ような結果が出ておりまして、推測しますのに、テレビを見る方も家にいればいるかな と思いますし、あるいは光熱、クーラーも必要かなというようなこともあるわけであり ますが、そこをなぜ夫の会社が面倒を見なければいけないのかということに関してはよ く理解できないというのが現状であります。  では、企業としては、配偶者手当を減らした分だけ給与カットできるね。そこは、私 はちょっと考え方が違っておりまして、これは扶養を前提にその制度を設けるのではな く、例えば配偶者ということは、その所得を超えたって配偶者であることには間違いな いわけでありますから、例えば家族手当とかいうような形での給付、手当というものは 考えられるのかなというふうに思います。それはぜひ組合と使用者の間で議論していた だきたいというふうに思います。 ○堀岡委員  ありがとうございました。 ○下村委員  さっき話にも出ていたので確認なんですけれども、パートタイマーからも保険料を取 って徴収していくということは、かなり前の段階の話し合いでは、少ない掛け金で、少 ない保険料でかなり大きな受給を得るというふうなところで不公平が生まれるというふ うな話が出ていたんですけれども、それはさっきおっしゃったような、かなりの数が増 えるだろうということでクリアできるというふうなおっしゃり方をされたというふうに 受けとめていますが、それでよろしいですか。 ○樋口教授  そこについては、まさに詰めたシミュレーションをやっていませんので、やった後お 答えしたいというふうに思いますが、と言うとやらなくちゃいけなくなるので、駒村先 生にお願いしてやってもらうとどういう姿になるのかということについては、まさに設 計の仕方ではないかなというふうに思います。現在の制度を前提にすると、今お話が出 たようなことだと思いますが、そこは設計し直すというようなことは必要になるんじゃ ないかというふうに思います。 ○堀委員  低い賃金の場合は、低い保険料ですが、給付には定額の基礎年金があるから、財政的 には悪くなると思います。それを解決する提案が1つあります。現在は、賃金額は全額 厚生年金額に反映しています。それを改めて基礎年金に充当する保険料に相当する賃金 分はカットして、それを除いた賃金で2階分の厚生年金の額を計算する、こういう方法 が提案されています。 ○樋口教授  先ほど大澤さんが出されたミニマム年金の考え方、最低限のところは保障して、それ にオンさせるのではなくて、一定のところ以上のところについて報酬比例部分を支払い 出すというような方法だという考え方でよろしいですか。 ○堀委員  いや、それと違います。  今日のお話はパートタイマーについてでしたが、サラリーマンの奥さんが自営業をし ている場合もあるんですね。その場合の基準はやはり65万円にするのか。雇用保険と違 って、年金制度には自営業者も加入するのです。  それから、これはコメントですけれども、フリーターの話のときに、平均年収が128 万円云々の話があったんですが、第3号というのは基本的にサラリーマンの奥さんです から、フリーターは直接は関係はない。  それから、高島委員からの給与所得控除等の話があったんですが、税と違って社会保 険料には控除がないんですね。低い所得でも保険料を課すとすると控除がないために、 極めて厳しい状況になるんですね。この案で65万円までは保険料を課さないというの は、1つの案としてはあり得ると思います。 ○樋口教授  自営業世帯の問題ですが、自営業の場合に家族従業者であって、これの所得の捕捉と いうのは非常に難しいというのが現状の問題じゃないかと思います。定義的には統計で はアンペイドファミリーワーカーというふうになっているわけですね。ファミリーワー カーではなくアンペイドであると。給与が支払われない、無償であるというようなこと が統計で言う家族従業者になっているわけですが、そうじゃなくて、実際にもらってい る場合には雇用者になるわけです。勤労者になるという扱いですから、そういう人たち については同じような基準で適用すればいいというふうに思うわけですが、実際にもら っていない人たち、夫婦でやっているようなパパママショップといいますか。 ○堀委員  そういう場合じゃなくて、夫がサラリーマンで妻が自営の場合に130 万円、65万円の 基準をどうするかということです。 ○樋口教授  その場合は、夫が自営であっても同じ問題ですね。 ○堀委員  夫が自営の場合には両方1号ということで、130 万円の基準はないわけです。夫がサ ラリーマンの場合だけ130 万円という基準が必要となるのです。 ○樋口教授  その問題はありますね。 ○袖井座長  そうすると、やっぱり3号になっちゃうんじゃないですか。どうなんでしょう。  樋口先生、何かありますか。 ○樋口教授  3号の扱いをどうするのかという問題と連動していることですね。 ○袖井座長  そろそろ時間になりますけれども、大澤先生、パートの問題で御意見とか何かありま すか。 ○大澤教授  樋口さんには大変重要な分析をしていただきまして、私も勉強をさせていただきまし たが、やはり65万円という金額の必然性というのはちょっとわかりにくかったなという 感じはいたします。どうせだったら取っ払っちゃったらというのが私の見解になりま す。 ○袖井座長  そろそろ時間もまいりましたけれども、何か御意見とかありますか。 ○駒村委員  さっきの補足資料に関してちょっと付け加えることがありますので、ちょっとだけく ださい。  まず、真ん中の図なんですけれども、標準報酬のところで1から28というのはもちろ ん間違いで、9.2 万円から56万円です。  それから、表のところは、1人当たり基礎年金保険料の計算というところで、上から 4行目、横から3列目の1.161 とか、1.548 とか、0.946 、これは全部関係ない数字な ので削っておいてください。これは必要ない数字です。 ○袖井座長  それでは、そろそろ時間もまいりまして、今日はたくさん駒村委員の宿題が出てまい りましたので、また宿題をやってください。お願いいたします。  それでは、本日の意見交換はこれで終わらせていただきますが、次回の開催について 事務局からお願いいたします。 ○中原企画官  ありがとうございました。次期検討会につきましては、既に御案内のとおり7月13日 の金曜日を予定しております。後日正式な開催の御案内をお送り申し上げますのでよろ しくお願いいたします。  次回の検討会では、引き続き委員からのレポートによる議論を深めていきたいと考え ておりますが、次回は中田委員と堀委員にお願いしてございます。どうぞよろしくお願 いをいたします。 ○袖井座長  では、堀委員、よろしくお願いいたします。  それでは、本日の検討会はこれで終了いたします。本日はお忙しいところをどうもあ りがとうございました。 (照会先)  厚生労働省年金局年金課   課長補佐     度山   企画法令第3係長 三浦 電話03-5253-1111(内3338)   03-3591-1013(夜間)