日時: | 平成13年5月15日(火) 10:00〜12:00 |
場所: | 厚生労働省専用第24会議室(中央合同庁舎第5号館19階) |
出席者: | 【研究会参集者・50音順】 柴田 和史(法政大学法学部教授) 内藤 恵(慶應義塾大学法学部助教授) 長岡 貞男 (一橋大学イノベーション研究センター教授) 中窪 裕也(千葉大学法経学部教授) 西村 健一郎(京都大学大学院法学研究科教授、座長) 【厚生労働省側】 坂本政策統括官(労働担当) 鈴木審議官 岡崎労政担当参事官 荒牧室長補佐 |
【議事概要】
○ 日本労働組合総連合会 熊谷謙一労働法制対策局長より、資料に基づき企業の組織再編をめぐる状況、企業組織再編に関する労働対策等の問題点、労働者保護の制度課題等について、説明が行われた。その内容は以下の通り。
1.企業組織再編をめぐる状況
労働組合としても、営業譲渡等企業組織再編に伴う問題は、事業所閉鎖、会社更生法、民事再生法等を用いた企業再建への対応と並んで大きな対策課題と認識している。
同一グループ内における営業譲渡の場合、労働条件の変更の問題等に関しては、労使協議における慣行、労働協約の規定内容等において、グループ内企業間での類似性も多いことから、グループ労連としても交渉により解決をとりやすかったが、グループ外、特に他産業への譲渡が行われる場合、その労使慣行の違い、交渉の難しさから労働者(労働組合)が不利益を被るなど対応に苦慮している。
経済の構造改革に伴う人員削減、労働条件の引下げは多く見られる所だが、この動きは昨今、地方に広がってきている。神奈川県下のある信用金庫では、営業譲渡に伴う従業員の全員解雇を行っており、また、愛知県の紡績会社、北関東の鉄鋼会社が行ったような民事再生法を悪用した全従業員の解雇事案等も出てきている。これらは氷山の一角に過ぎない。
2.企業組織再編に関する労働対策等の問題点
一般論として、日本は会社整理や譲渡、特に企業組織再編に伴う労働者の権利保護が不十分であり、労働組合としては現行制度下では会社占拠等強硬措置に打って出ざるを得ない状況にあると考えている。欧州では'60、'70年代からECの場で議論されてきている問題であり、EU既得権指令の規定と対比すると、日本の労働者保護措置は弱い。
社会経済生産性本部の調査によると、従業員500人以上の大企業においては、9割以上の企業で、企業組織再編を行う際の労使協議が定着してはいるが、その内容をみると、組合に対する事前説明にとどまるものがほとんどで、合意にまで至るケースは少ない。中小企業やサービス業(特に派遣業)に至っては、労使協議そのものが制度として十分に定着していない。
営業譲渡による労働協約の在り方については、下記のような組織再編の形式によって、取扱いに差が生じている。このうちb、cのケースについては、問題が大きい。
a 企業グループ内で営業譲渡が行われる場合
譲渡企業と譲受企業は、お互いの労働協約の内容を認知しているケースが多いことから、協約の継続自体が問題になることは比較的少なく、現実の状況と比べて有利な内容の方に協約内容を揃えられるかどうか、という点が議論になる。
b 企業グループ外で同一産業内他企業との間の営業譲渡
グループごとの労働協約の内容が大きく異なる場合、また、相手企業の労働組合が未組織である場合などは調整が困難になる。これは、銀行業においてよくみられる。
c 全くの他産業の企業との間の営業譲渡
譲渡先企業の使用者の態度次第では、ゼロからの組合闘争を余儀なくされることも考えられる。
再生計画とは別に営業譲渡を可能とする民事再生法では、制度を悪用した解雇問題が発生している。同法では種々の組合関与の規定が設けられているが、必ずしも万全ではないことから、労働法制によって補う必要がある。会社更生法の見直しの議論においても、更生計画とは別に営業譲渡を可能とするような改正の動きがあることからも、その必要性は高い。
企業組織再編に際して労働者に生じる様々な問題について、法的に対策をしようとする動きが政府から感じられず、極めて不満である。
3.労働者保護の制度課題
企業組織再編全般に係る労働者保護については、基本部分を上回る部分は労使自治で解決するべきと考えており、何から何まで法律とは言わないが、現状下ではその基本部分の規定がなく不十分であり、制度確立が急がれるべきである。
企業組織再編時において、労使協議が行われることこそ必要であり、制度として確立することが必要である。労働契約承継法における事前協議の規定についても、努力義務にとどまるものであり、不十分である。努力義務ではなく、義務付けるべきであり、そうすることが特段問題になるとは思えない。
営業譲渡に際して、他企業へ譲渡される部門及び元企業に残存する部門のいずれか若しくは双方が「泥船」となるのでは、という不安を解消すべきであり、そのために、解雇禁止や解雇制限を行うことが重要である。
労働条件の確保に関しては、平時における法解釈とは別の制度的担保が不可欠である。現行では、恣意的に労働者の労働条件が切り下げられ、生活が逼迫するおそれがある。
労働協約の効力継続に関しては、営業譲渡等が同じ企業グループ内で行われる場合は問題ないが、そうでない場合労働者側に不利な点が多い。効力継続を制度化する必要がある。
4.労働契約承継法について
1980年代にEEC既得権指令が改正された頃に、労働契約の承継については、当初労働基準法の中で措置されるよう要求をしてきたが、90年代以降の企業組織再編制度の整備、リストラに政府が助成金を出す産業活力再生特別措置法の制定等を踏まえて、会社分割時の労働契約の承継について先行して立法化された。
5.これからの課題
企業組織再編時においては、再編後の労働者の労働条件等が使用者側の思うままに切り下げられる事例が頻発するなど、いわば無法地帯化しており、労働者にとって厳しい状況となっている。このような状況を鑑み、労働者の保護を制度化する必要がある。当研究会におかれても、労働者が置かれている現状等を十分に御理解、御検討の上、労働者保護の立法化に向けて御活動いただきたい。
○ これを受けて、意見交換が行われた。その内容は以下の通り。
Q: 資料として出された、連合「第4次緊急雇用実態調査」中間集約の「5.企業組織再編の動向 (1)年度別」を見ると、再編を行う企業は数字としては少ない印象を受けるが、連合としては、その割合は大きくなってきているとの認識か。
A(熊谷氏:以下同じ) :
「なし」の回答が1/2以上を占めているので少ないと思われるのであろうが、我々はむしろ、1/4以上の組合が「わからない」と回答していることを重視している。残りの1/4では企業組織再編が行われるということである。
Q: 組合としてうまく再編手続きが進んだと言える例はどのようなものか。
A: グループ内の営業譲渡なら、組合の想定通りにことが進むことが多い。交渉事項としては、第一に雇用確保、第二に配置の問題となるが、パートタイム労働者も含めた全労働者について、配置が守られたケースもある。
Q: 業績が悪い企業が企業組織再編を行う場合の組合の対応如何。
A: 例えばスーパーについては、個別の単組で交渉するよりも、産別組合がスーパー業界全てをカバーすることで労働条件等を横断的に交渉できるであろう。
Q: 企業が企業組織再編を行う根拠ないし理由については、企業が従来どおりでは立ち行かなくなる場合、企業自体には資産があり、すぐには立ち行かなくなるわけではないが実行する場合、又は経済構造改革に対応するための場合等が考えられるが、労働組合はその点をどのように認識しているのか。
A: 再編を行う理由はさまざまだろう。労組として重視するのは、企業組織再編に伴い、泥船に乗せられるか否かの点である。すなわち、分ける側、分けられる側のいずれかが泥船化することの回避を主眼としている。赤字部門の切捨て、人減らしの側面があるか否か、この側面を持たないものは想定しにくいのではないか。もちろん、リストラでない経営上の問題への対応という場合もあるだろう。一概には言いにくい。
Q: 産業別での労使協議は行われるのか。
A: 日本の場合、企業ごとの労使協議会は多く見られるが、産業別の労使協議会は未発達である。産業別の労使協議会をどのように形成していくのか、そこで雇用問題をどのように取り扱っていくのかについて課題が多い。
Q: 社会経済生産性本部の調査で、労使協議について事前説明、協議、合意の3段階のどのレベルにあるかについての説明があったが、企業組織再編に当たって、労使協議の結果としての合意の有無と、当該企業における企業パフォーマンスには関連があるのか。
A: この調査は企業の業績とはクロスしていないため確かなことは申し上げられない。
(参事官):
この、社会経済生産性本部の行った調査については、入手してお示ししたい。
Q: 説明に用いられた「企業グループ」の定義は何か。
A: 組合運動上の企業グループを指す。当該企業に関連のある労働組合は連携するケースが多いので、このような分類をしている。個々の企業別組合と産業別組合の中間に位置付けられるものである。
Q: 営業譲渡に伴う全員解雇事例の場合、組合として訴訟するなどの組合闘争は行うのか。
A: 営業譲渡の場合に、組合として重視するのは、雇用をどうやって確保するかであり、1人でも多く再就職先を見つけるよう交渉するが、経営側がそれを拒む場合は訴訟も辞さない。
Q: 営業譲渡に際して、労働者を全員解雇し、低い条件で再雇用するという手法があるが。
A: 受け入れ先の恣意的判断で、労働条件が変わるのは認められない。先ほど説明した、神奈川県下の信用金庫の事例において、出向委員会において誰が受入れ先に行くべきか深夜まで議論していたにもかかわらず、全員解雇ということになった。7割の労働者の雇用は確保されると従前使用者側は言っていたのだが。
Q: 使用者と労働組合が紛争状態に陥ったとき労働委員会を利用することもあるのか。
A: 使用者側の態度や、労組の弁護士の助言によるだろう。いずれにせよ、ギリギリまで労使間で話を重ねた後のことではあるが。
Q: 営業譲渡に際して、譲渡会社の方はそれなりに譲渡部門の労働者のことを考えていても、譲受会社の意向に左右されるのか。労働組合が譲受会社と協議をする余地があるのか。
A: 譲受会社が、同一企業グループ内に属しているかどうかによる。同一企業グループ内であれば、企業間同士でも事実上交渉が可能となる。企業グループ外となると交渉能力は低下する。さらに、譲受会社が他産業に属している場合には、先方にイニシアチブをとられる場合が多い。
Q: 営業譲渡のケースで、譲渡会社の経営者が譲受会社の経営者に対して、営業譲渡に伴い契約が移転する労働条件面について注文を付けるのは難しいであろう。
A: おっしゃるとおりである。
Q: 営業譲渡等に対する労働組合としての対応において、重要な点は何か。
A: 営業譲渡等の組織再編が、労働組合にとって不意打ち的に行われることが多いことから、こうした情報を如何に早くキャッチするかがポイントである。また、日頃の労使交渉の過程で情報をキャッチした場合に、労働組合側から先手を打つことができるかどうかも重要である。会計基準の変更により、企業のキャッシュフローの把握が容易になってきており、組合が企業の状況を把握する上で有効である。いずれにせよ、初動体制と続く対応の迅速性が大切である。
Q: 情報のリークを避ける観点からか、昨日まで雇用継続とされていたのに、今日になって突然解雇という事案もある。が、こういった事態を避けるために労使協議にいたるまでのプロセスを法制化すべきと考えるか。
A: 労使協議で情報が外部に漏れてしまうギリギリの接点でやるしかないのだが、その朝になってはじめて自分が解雇されることを知るのは許されることではない。労使協議事項についても、企業の本格的な機密事項か否かということもあるだろう。
Q: 労働協約の中で、営業譲渡等を行う際における協議を盛り込むといった取り組みは行っているのか。
A: その方向である。本年4月1日より会社分割制度が実施されたことも踏まえて、労働協約のガイドラインを作成し、発出する予定だ。
○ 事務局より、資料No.1海外調査の実施について(案)が説明され、了承された。
以上
担当:政策統括官付労政担当参事官室法規第3係(内線7753)