ご意見募集  厚生労働省ホームページ

「建築物衛生管理検討会」に関する御意見募集

平成14年4月19日
厚生労働省健康局生活衛生課

1 趣旨

 建築物における衛生的環境の確保に関する法律に基づく建築物環境衛生管理基準の在り方等について検討することを目的として、「建築物衛生管理検討会」(座長:吉澤晋愛知淑徳大学現代社会学部教授)が平成13年10月より開催されてまいりました。
 今般、この検討作業の中間的考え方の整理として、別添「建築物環境衛生管理基準等の見直しについての考え方」について、下記のとおり広く御意見を募集することとしました。
 いただいた御意見については、今後の検討会における検討の参考とさせていただきます。
 なお、いただいた御意見についての個別の回答はいたしかねますので、その旨御了承願います。

2 意見の提出期限、提出方法及び宛先

 平成14年5月2日(木)(必着)までに、下記様式により、電子メール、郵便又はファックスにてお寄せください。
 なお、提出していただく電子メール、郵便及びファックスには、必ず「建築物衛生管理検討会についての意見」と明記してください。

〈電子メールの場合〉
seikatsu@mhlw.go.jp (テキスト形式)

〈郵便又はファックスの場合〉
〒100-8916
東京都千代田区霞が関1-2-2
厚生労働省健康局生活衛生課
ファックス:03-3501-9554

〈記入項目〉
[宛先] 厚生労働省健康局生活衛生課
[氏名] (貴方の所属(会社名・部署名)を併記してください。)
[住所]
[電話番号]
[FAX番号]
[意見] 意見内容
     理由(可能であれば、根拠となる出典を添付又は併記してください。)


(別添)

建築物環境衛生管理基準等の見直しについての考え方
(中間的考え方の整理)

 建築物環境衛生管理基準は、建築物における衛生的環境の確保に関する法律(以下、「建築物衛生法」という。)に基づき、建築物の衛生的環境を確保するための基本的な措置等を定めているものであるが、この基準の内容については、建築物衛生を取り巻く状況の変化に対応し、適時、見直していくことが重要である。
 近年、より衛生的で快適な生活環境への社会的ニーズの高まり、省エネルギー化に対応した環境配慮型の建築物への関心の高まり等、建築物衛生を取り巻く状況が大きく変化しており、こうした新たな課題に対応するため、次の事項を考慮して、建築物環境衛生管理基準の見直しを検討する必要がある。

(1)「区域別管理」の必要性について

 現行の建築物環境衛生管理基準は、
 (1)統一的管理性(建築物を統一の基準で管理できること)
 (2)全体性(基準が建築物の全体に適用されること)
 (3)制御可能性(人為的に制御することにより基準を遵守することができること)
 という3つの性格に着目して定められている。
 しかしながら、建築物の大型化・複雑化に伴い、現在では、1つの建築物が多様な用途に用いられることも少なくなく、1つの建築物が複合用途に用いられる場合、用途に応じて、必要とされる維持管理の手法や水準が異なることがある。
 例えば、空気環境については、建築物内の区域ごとに人の活動密度等により、温湿度や換気量等の設定を調整する必要がある。また、用途等に応じて至適な温度や湿度などの条件が異なる場合もある。ねずみ、昆虫等の防除についても、例えば厨房や食品販売の区域と事務室の区域とを比べて明らかなように、区域によって生息する動物の種類や生息密度が大きく異なっている。
 このように、基準が建築物の全体に適用されるという「全体性」の考え方が、建築物利用の多様化に伴い、建築物の維持管理の実態に必ずしも合致しているとは言えなくなっている。
 したがって、「統一的管理性」や「全体性」を考慮しつつも、建築物の用途に応じ、区域ごとに適切な維持管理を実施するという「区域別管理」の考え方を導入するべきである。

(2)地域性や季節性の考慮について

 地域や季節によって気候が異なることから、建築物における温度や湿度の管理、給排水の管理、ねずみ、昆虫等の防除の在り方には、大きな地域格差が存在しており、全国一律に画一的な対応を取ることは必ずしも合理的ではない場合がある。
 現行の建築物環境衛生管理基準は、全国一律に適用する考え方に立って定められており、地域性や季節性を考慮した建築物の維持管理の在り方については、今後、調査研究により得られる知見に基づき、地域性や季節性を考慮した望ましい値(指針値)を定めることが適当である。

(3)対象建築物について

 現行の建築物環境衛生管理基準は、特定建築物の所有者、占有者その他の者で当該特定建築物の維持管理について権原を有するものに対して、遵守義務を課したものである。
 一方、法第4条第3項において、「特定建築物以外の建築物で多数の者が使用し、又は利用するものの所有者、占有者その他の者で当該建築物の維持管理について権原を有するものは、建築物環境衛生管理基準に従つて当該建築物の維持管理をするように努めなければならない」とされており、特定建築物以外の建築物についても努力義務が課せられている。
 したがって、建築物環境衛生管理基準の見直しに当たっては、この基準が、特定建築物のみならず、特定建築物以外の建築物であって多数の者が使用・利用するものにも適用されうるものであることを考慮する必要がある。また、特定建築物以外の建築物に関わる行政対応をより明確にする必要がある。

(4)省エネルギー対策への対応

 建築物におけるエネルギー消費は、建築資材の生産、建築工事、竣工後の使用、除却等といった各段階で生じるものであり、建築物のライフサイクル全体を通じたエネルギー消費の削減が必要となっている。
 建築物のライフサイクル全体のエネルギー消費の中でも大きな比率を占めるのが、建築物の使用段階におけるエネルギー消費であり、これを削減するために、現在、建築物の断熱性の向上、空調・照明・給湯等の設備のエネルギー効率の向上が図られている。
 建築物環境衛生管理基準の見直しに当たっても、室内環境の健康への影響を考慮した上で、省エネルギー化や循環型社会の構築への配慮が必要である。


空気環境の調整について

(1)現行の基準値の見直しについて

 空気環境の良好な状態を維持するため、中央管理方式の空気調和設備を設けている場合には、(1)浮遊粉じんの量、(2)一酸化炭素の含有率、(3)炭酸ガスの含有率、(4)温度、(5)相対湿度、(6)気流の6項目が、建築物環境衛生管理基準として定められている。また、中央管理方式の機械換気設備を設けている場合には、浮遊粉じんの量、一酸化炭素の含有率、炭酸ガスの含有率、気流の4項目について、基準に適合するように維持管理を行うこととされている。

(1)浮遊粉じんの量
 室内の浮遊粉じんの発生源としては、室内に堆積又は付着している粉じんが人の行動によって飛散したもの、室内での喫煙など物質の燃焼に起因するもの、大気中の浮遊粉じんが室内へ流入したものなどが考えられる。
 特定建築物における浮遊粉じん量の不適合率は、昭和52年度には21.9%であったのが、その後漸次低下し、平成12年度には2.2%となっている。このように、室内環境における浮遊粉じん量が低下している理由としては、空気浄化技術が高度化していること、室内の禁煙や分煙化が進んでいること等が考えられる。
 現行では、呼吸器等への影響を考慮して、「空気1立方メートルにつき、0.15mg以下」と定められているが、現在の空気浄化技術にかんがみれば、浮遊粉じんの量を0.10mg以下に制御することが可能であることから、基準値を「0.10mg以下」に見直すべきとの意見がある。
 測定回数については、他の項目と同様、2月以内ごとに一回、定期に測定することとされているが、例えば、

(2)一酸化炭素の含有率
 一酸化炭素は室内では、石油、ガス等の燃料の不完全燃焼等により発生する。
 現行では、一酸化炭素中毒を防止する観点から、含有率は「百万分の十以下」と定められているが、この基準値は、一酸化炭素の人体に対する影響にかんがみれば適当であると考えられる。
 一酸化炭素の含有率は、他の項目と同様、2月以内ごとに一回、定期に測定することとされているが、例えば、

(3)二酸化炭素(炭酸ガス)の含有率
 二酸化炭素は、少量であれば人体に有害ではないが、1000ppmを超えると、倦怠感、頭痛、耳鳴り等の症状を訴える者が多くなることから、二酸化炭素の含有率は「百万分の千以下」と定められており、人体への影響を考えると適当な水準と考えられる。
 室内の二酸化炭素濃度は、全般的な室内空気汚染を評価する1つの指標としても用いられている。良好な室内空気環境を維持するためには、1人当たり概ね30m3/h以上の換気量を確保することが必要であるが、二酸化炭素濃度が1000ppm以下であれば、この必要換気量を確保できていると見なすことが可能である。
 エネルギー消費節約の観点から、過度の換気は不要であると考えられるが、衛生的な空気環境を維持するためには、二酸化炭素濃度を現行の基準値以下になるように、廃熱回収装置の利用を含め、適正に管理することが必要である。

(4)温度
 温度は、健康で快適な室内環境条件を維持する上で、最も代表的な指標の1つである。温熱環境の快適性は温度だけでなく湿度、気流及び放射熱によっても影響を受けること、着衣量や活動強度等によって温冷感は大きく変化することから、建築物の利用者全員に生理的・心理的に満足が得られる温度管理を行うことは困難である。
 しかし、室内温度と外気温度の差を無視した過度の冷房により、感冒などの呼吸器の障害、下痢や腹痛などの消化器の障害、神経痛、腰痛、月経不順などの内分泌系の障害など、いわゆる「冷房病」などが生じることがある。また、冬の寒冷は、脳卒中や循環器疾患、呼吸器感染症などの罹患率の上昇を招き、過度の暖房は、体力の消耗をもたらすことから、室内環境における適切な温度管理は必要不可欠である。
 このようなことから、現行では「17度以上28度以下」とう基準値を設けているが、これには、次のような問題点がある。

(5)相対湿度
 夏季の高湿度状態は、暑さに対する不快感を高めるだけでなく、アレルギー疾患等の健康障害の原因となる好湿性カビやダニの繁殖を招きやすい。
 一方、冬季の低湿度状態は、気道粘膜の乾燥を生じ、気道の細菌感染予防作用を弱めるとともに、絶対湿度が7g/m3(室温20度で相対湿度が40%)以下になるとインフルエンザウィルスの生存時間が延長し、インフルエンザに罹患しやすい状況になることから、適切な湿度管理が必要である。
 相対湿度の基準は、現行では、「40%以上70%以下」と定められているが、特定建築物における相対湿度の不適合率は、過去25年にわたって30%程度でほぼ一定(平成12年度は30.8%)であり、建築物環境衛生管理基準のなかで最も不適合率の高い項目である。
 建築物における湿度管理の実態として、特に、冬季における湿度の確保が困難であることが、空調設備の設計者や維持管理の従事者等により指摘されている。しかし、建築物利用者の呼吸器症状を予防するためには、適切な湿度管理が必要である。
 一方、省エネルギーの観点から実用化しつつある、低温送風(大温度差送風)等の新しい空調方式では、夏季冷房時に低湿な空気環境が実現され、運転条件によっては相対湿度が40%以下になることがある。相対湿度が同じ値を示しても、温度によって空気中の水蒸気の量(絶対湿度)は異なり、夏季には相対湿度が40%を下回っても、生理的・心理的に満足をえる水蒸気量を確保できるものと考えられる。
 また、カビ、ダニ等の増殖を抑制する観点からは、相対湿度を60%以下に維持することが望ましいといわれている。
 このようなことから、相対湿度の基準に関する更なる検討が必要であるが、例えば、夏季と冬季を区分し、「夏季は35%以上60%以下」「冬季は40%以上60%以下」と基準を改めるべきであるとの意見がある。

(6)気流
 適度な気流は、温熱環境の快適性を維持するため、また、室内空気の混合・攪拌による均質化の点から有効である。気流が1メートル/秒増すと体感温度が3度程度下がることから、適度の気流を維持することで比較的高い温度設定での冷房運転で涼しさを維持できるので、省エネルギーの観点からも有効である。
 しかし、気流が大きくなると、体温調整機能に変調をきたすおそれがあることから、現行では、「0.5メートル毎秒以下」と定められている。
 この基準値は、冷房の吹き出し気流が直接影響しないような全般的気流の人体に対する影響にかんがみれば適当であると考えられる。
 なお、気流の影響は、首や足首部分が強いという報告があり、測定位置を考慮すべきであるとの意見がある。

(2)中央管理方式以外の空気調和設備又は機械換気設備の基準について

 現行では、中央管理方式の空気調和設備又は機械換気設備を設けている場合において、建築物環境衛生管理基準が適用される。「中央管理方式」とは、各居室に供給する空気を中央管理室等で一元的に制御することができる方式をいう。

 空気環境の調整に関する空気調和設備及び機械換気設備の方式が、「中央管理方式」に限定されている理由は、建築物衛生法が制定された昭和45年当時においては、建築物の空調方式は、中央管理方式が一般的であったこと、また、建築物環境衛生管理基準を定めるに当たり「統一的管理性」や「全体性」という考え方が前提としてあったことが挙げられる。

 個別方式の空調方式は、法制定当時には、もっぱら家庭用ルームクーラーとして利用されていたが、技術改良等により、比較的規模の大きな建築物においても導入されるようになっている。最近では、一台の室外機により複数室の室内機に冷媒を供給するビルマルチタイプの空調方式も普及している。

 ビルマルチタイプの空気調和設備は、建築物環境衛生管理基準の適用外とされているが、通常、中央管理室等で一元的に制御されており、居室利用者が維持管理状況を把握できる状況にないことから、適切な維持管理が必要である。

 また、居室利用者による調整が可能な個別分散型の空気調和設備では、外気量や相対湿度の確保等維持管理に問題のあるケースが少なからず存在することが指摘されている。

 したがって、中央管理方式以外の空気調和設備であっても、中央管理方式と同様の維持管理を行うべきであり、中央管理方式か個別方式かに関わらず、現行の6項目の基準を適用すべきであると考えられる。

 なお、個別方式の空調設備では、管理する空調設備の数が多いことなどから、中央管理方式で求めている維持管理方法のすべてを個別方式の設備に適用することは困難であり、合理的な維持管理方法を定める必要がある。

(3)化学物質による室内空気汚染問題への対応について

 近年、新築・改築後の住宅等において、建築材料等から発散する化学物質による室内空気汚染等により、皮膚粘膜症状、頭痛、めまい等、居住者に様々な健康影響が生じている状態が数多く報告されており、いわゆる「シックハウス症候群」と呼ばれている。住宅等において化学物質による室内空気汚染問題が顕在化した主な原因は、住宅等の気密性の向上や、冷房の普及等ライフスタイルの変化に伴い換気量が減少する一方で、化学物質を放散する多様な建築材料や家庭用品等が普及したことにあると考えられている。

 最近、住宅等において化学物質の室内濃度に関する各種の実態調査が実施されているが、これらの調査結果によれば、室内空気中のホルムアルデヒド濃度が室内濃度指針値の0.08ppm(平成9年に「快適で健康的な住宅に関する検討会議」の小委員会で策定)を超過する住宅が3割近く認められること、また、ホルムアルデヒドやある種の揮発性有機化合物が比較的高いレベルで認められる住宅が存在することが明らかになっている。

 一方、建築物衛生法の対象になる特定建築物においては、化学物質による室内空気汚染が原因と考えられる健康影響はほとんど報告されていない。その理由の1つには、特定建築物では、上記(1)Bのとおり建築物環境衛生管理基準に適合するように換気量が確保され、結果的に建築物内の空気環境における化学物質の濃度が比較的低い水準に抑えられてきたことがあげられよう。

 実際、地方公共団体等でこれまでに実施された特定建築物等における化学物質の室内濃度に関する実態調査の結果によれば、十分な換気量が確保されている条件下では、ホルムアルデヒド等の化学物質の室内濃度は比較的低い状況にあること、また、建築物の竣工後、時間の経過とともに化学物質の濃度は低減する傾向にあることが示されている。

 ただし、建築物の構造等の条件によっては、建築物の竣工及び使用開始後の一時的な期間、化学物質濃度が高くなり、健康影響が生じる可能性を示唆する報告もある。これについては、例えば、特定建築物の使用開始時や大規模な内装変更時には、ホルムアルデヒド等の化学物質の濃度測定を実施し、濃度測定の結果、比較的高い水準の化学物質濃度が認められた場合には、状況に応じて改善策を講じるといった対応が考えられる。

(4)微生物による室内空気汚染問題への対応について

 冷却塔等で繁殖したレジオネラ属菌による集団感染、空気調和設備の不備に起因する結核の集団感染、冬季に乾性条件で好発するインフルエンザの集団感染、加湿器で繁殖した細菌による肺炎や、居住環境に存在する真菌による過敏性肺炎の発症など、建築物の維持管理の状況等が、病原微生物の繁殖やそれに起因する感染症をはじめとする種々の疾患に大きく関与している可能性がある。

 実際、空気清浄装置、加湿器、冷却塔、ダクト等の空調システムの構成機器が、種々の細菌や真菌の汚染源となりうることが報告されている。

 このため、空調設備の日常的な維持管理を確実に実施するとともに、空調システム全体の点検及び清掃を定期的に実施することが必要である。

 なお、一般環境中や空調システム内における微生物の存在状況と疾病との関係は、必ずしも明確ではなく、一般環境や空気調和設備内の細菌数や真菌数を測定することの意義について、微生物学的見地から合意が得られているわけではない。

 したがって、現時点における科学的知見にかんがみれば、細菌数や真菌数の測定を法令上義務付ける必要はないが、微生物による室内空気汚染問題に対しては、今後、重点的に調査研究を実施するべきである。


給湯水の維持管理について

 建築物内に設置されている給湯設備は、快適性の追求や技術の向上により需要が拡大し、現在では様々な方式が活用され、その利用形態も多岐にわたっている。

 給湯方式には、湯を使用する箇所ごとに加熱装置を設置して給湯する局所式と、機械室などに加熱装置を設置し、建築物内の必要とする箇所に配管で湯を供給する中央式とに大別される。

 加熱と貯留を繰り返す中央式の給湯設備では、細菌類の繁殖や金属類の溶出などによる水質劣化が見られることが報告されており、衛生確保のための適切な維持管理が必要である。

 欧米においては給湯水におけるレジオネラ汚染の問題が注目されており、わが国でも給湯水が原因と疑われるレジオネラ感染の事例が報告されていることから、レジオネラ症の発生を予防する観点からも給湯水の適切な維持管理が必要である。

 しかし、給湯水に関しては、衛生確保のための維持管理方法や水質についての明確な規定や基準がないのが現状である。

 衛生上適切に維持管理された給湯水の利用の普及・拡大を図るために、以下の点に留意して、法令上の維持管理の基準を設けることが必要である。

(1)規制の対象となる使用用途

 給湯水は飲料水と隣接した場所に水栓が設けられ、飲用される機会も多いことから、基本的には飲料水と同等の管理が必要であると考えられる。
 しかし、給湯設備の全てに飲用を前提とした維持管理と水質検査を義務付けることは、相当な経済的負担等を強いることにもなる。
 したがって、給湯水が人の飲用その他これに類する用途に利用される場合又は飛沫発生の可能性のある用途での使用が想定される場合に、維持管理の基準を適用することが妥当である。

(2)水質検査等

 給湯水において衛生学的に良好な水質を維持するためには、定期的な水質検査によって水質の状況を把握することが必要である。
 具体的な測定項目としては、鉄、銅等の重金属や一般細菌等の細菌が考えられる。

(3)給湯水の温度管理について

 給湯温度が低温になれば、レジオネラ属菌を含む細菌汚染を招く要因になる。
 一方、給湯温度を高温に維持することは、エネルギー消費量が増大すること、設備の損傷や劣化を招きやすくなること、熱傷の危険性が増大する等の問題がある。
 したがって、適切な温度管理が重要であり、給湯水を利用する時間帯において、給湯設備内のどの給湯栓類においても、初流水の排水後の湯温が、55℃から60℃の範囲で保持されていることが望ましい。
 このため、配管系統の末端の給湯栓類及び循環状況が悪く湯待ち時間の長い給湯栓において、1週間に一回程度、定期的に温度測定を行い、給湯温度を管理するべきである。

(4)給湯設備の維持管理について

 給湯設備の維持管理については、以下の点に留意することが必要である。


雑用水の維持管理について

 雑用水とは、人の飲用その他これに類する用途以外の用途に供される水の総称であり、建築物内で発生した排水の再処理水、雨水処理水、下水道事業者の供給する再処理水、工業用水道等が含まれれる。

 雑用水は昭和50年頃から、便所洗浄水を主な用途として利用されるようになり、その後、使用用途は拡大し、散水、冷却塔補給水、修景用水、消火用水、栽培用水、清掃用水等多様な用途で使用されている。

 雑用水の原水としては、「建築物内の排水等(洗面排水、厨房排水、雨水、便所系統の排水、湧水、冷却塔のブロー水等)」「広域循環水」「地区循環水」「工業用水」などが利用されている。

 雑用水は人の飲用に供される水ではないものの、配管等に不備がありクロスコネクションや逆流等が生じれば飲料水が汚染されるおそれがあること、腸管系病原性微生物に汚染されれば建築物利用者の健康を害するおそれがあること、エアロゾルを発生する水景施設で使用されればレジオネラ属菌の繁殖を招くおそれがあること、などの衛生上の問題が指摘されていることから、雑用水の利用に当たっては適切な維持管理が必要である。

 昭和56年の厚生省局長通知(再利用水を原水とする雑用水道の水洗便所用水の暫定水質基準等の設定について)では雑用水の維持管理の方法が提示されている。この通知は、再利用水を原水とした水洗便所用水の利用を前提としたものであり、多様な原水が利用され、また利用用途が拡大している現在の雑用水利用の実態に必ずしも合致していない。

 衛生上適切に維持管理された雑用水を図るために、以下の点に留意して、法令上の維持管理の基準を設けることが必要である。

(1)用途の制限について

 最近では、高度な水処理技術が導入されつつあり、高いレベルの水質の確保が可能になっていることから、原水の種類によって使用用途を制限する必要はない。  ただし、原水にし尿を含む場合には、安全確保の観点から、適切に水処理をした後であっても、当分の間、人が直接触れる可能性が高い用途への使用を禁止するべきとの意見がある。

(2)使用用途に応じた水質基準の設定

 使用用途に応じて、要求される水質のレベルは異なることから、使用用途に応じた基準を設けることが適当である。
 例えば、

(3)雑用水設備の維持管理について

 雑用水設備の維持管理については、以下の点に留意することが必要である。


清掃について

 建築物の清掃は、建築物内で営まれる人間の生命活動等により生じる「ごみ」、「よごれ」、「ほこり」などを除去して、衛生的で快適な環境を保持する上で重要である。

 清掃については、以下の点について検討する必要がある。

(1)「汚物」の名称について

 施行令では、「適切な方法により掃除を行ない、衛生的な方法により汚物を処理すること」と規定され、清掃作業により収集した「汚物」の処理について明記されている。
 法令上、「汚物」の用語については、旧清掃法の定義において、ごみ、ふん尿等を制限列挙してこれを「汚物」という概念で包括していたが、廃棄物量の増大にとどまらず質的な多様性が顕著となってきたため、汚物という概念ではこのような事態への対応が困難となったことから、廃棄物の処理及び清掃に関する法律においては、ごみ、ふん尿等を例示的に規定し、「汚物」に加え「不要物」という概念を包括したものとして「廃棄物」が定義されている。
 建築物の清掃により収集するごみ等についても、現在ではその種類が多様化していることから、「汚物」のかわりに「廃棄物」の用語を用いて、その適正な処理について規定すべきであると考えられる。

(2)廃棄物保管設備等の維持管理について

 近年、資源循環型社会の構築に向けた法制度の整備が進められており、ごみを資源物としてリサイクルするために分別回収を排出者に義務付けるなどの措置が講じられつつある。
 廃棄物の分別収集や分別保管は、廃棄物保管設備等における衛生害虫や悪臭の発生を防止するという観点からも重要である。
 また、廃棄物の再資源化を促進するため、建築物内で廃棄物の再分別や圧縮、脱水等の中間処理が行われることがあり、それらの作業に支障をきたさないように、廃棄物を適切に保管できるような廃棄物保管設備を設けるとともに、建築物における衛生的環境を確保する観点から、当該設備における適切な維持管理が必要である。


ねずみ、昆虫等の防除について

 ねずみ、昆虫等は、病原微生物を媒介し、人に感染症をもたらすおそれがあることから、建築物における衛生的環境を確保する上で、その防除が重要視されてきた。
 現在わが国では、媒介動物が関与した感染症の発生は極めて少なくなっているものの、世界的には発展途上国だけではなく先進諸国においても、しばしば媒介動物が重大な疾病問題の原因となっている現状がある。
 また、近年、建築物の大型化や室内の温熱環境の向上に伴い、都市部においてねずみやゴキブリが増加傾向にあることが指摘されている。
 したがって、今後も、疾病予防の観点から、建築物におけるねずみ、昆虫等の対策に注意を払うことが重要である。

(1)IPM(総合防除)の考え方について

 IPM(総合防除)は、「害虫等による損害が許容できないレベルになることを避けるため、最も経済的な手段によって、人や財産、環境に対する影響が最も少なくなるような方法で、害虫等と環境の情報をうまく調和させて行うこと」と定義されている。
 IPMの概念は、主として農業分野における害虫防除の体系として発展してきたが、近年、建築物における害虫防除においてもこの考え方が注目されている。
 IPMについては、手法や効果が明確でない対象種があるなどの問題点があるものの、ねずみ、昆虫等の防除は、IPMの考え方を取り入れた防除体系に基づき実施することが適当と考えられる。

(2)防除の対象について

 従来は、もっぱら、病原微生物の媒介による感染症の発生を防止するという観点から、ねずみ、昆虫等の防除が位置づけられてきた。
 一方、アレルギー性疾患との関連においては、ダニ以外にもゴキブリなどの昆虫がアレルギーの原因となることが指摘されている。また、チカイエカやツメダニなどは、刺咬により皮膚炎を起こすことがある。したがって、「媒介動物」以外の「有害動物」に対する防除の在り方を検討する必要がある。
 また、人に不快感を与えて嫌われる「不快動物」については、被害の受け止め方に個人差があり主観的要素が強いものの、建築物利用者の多くに心理的不快感をもたらすものであることから、これを建築物衛生法上の防除の対象に含めるべきとの意見がある。

(3)生息状況調査について

 施行令第2条第3号ロにおいては、「ねずみ、こん虫等については、適切な方法により発生及び侵入の防止並びに駆除を行うこと」とされている。この規定は、ねずみ、昆虫等の生息、活動状況、建築物の構造、建築物の使用者又は利用者への影響等を総合的に検討した上で、適切な方法による防除の実施を求めたものである。
 しかし、時として、ねずみ、昆虫等の防除は殺そ殺虫剤を散布することであると誤解され、一部では、ねずみ、昆虫等の生息及び活動状況を十分調査することなく、殺そ殺虫剤が使用されている実態がある。
 このような誤解や実態を招いている要因として、

 などが指摘されている。
 ねずみ、昆虫等は、環境によって繁殖要件が違い、また防除の必要度も異なることから、建築物全体を統一的に防除を行う必要はない。むしろ、ねずみ、昆虫等の生息状況を定期的・統一的に調査するのが重要であり、調査結果に基づき、必要に応じ適切な防除を行うこととするのが適当である。
 すなわち、法令上、防除作業の頻度を規定するのではなく、生息状況の調査の実施頻度を、昆虫等の生活史等を考慮した上で具体的に定めることが望ましい。例えば、25℃で孵卵したチャバネゴキブリの幼虫は約50日で成虫となり、ほぼ1月後には成虫が次の卵を産卵し、2か月もあればチャバネゴキブリが増加することから、1〜2か月以内ごとに一回の頻度での調査の実施を義務付けることが考えられる。
 また、防除が必要かどうか、また、防除が有効であったかどうかを確認するための指標としての防除基準を、防除の対象となる動物種ごとに設定することが必要である。

(4)薬剤の使用上の注意

 近年、薬剤を害虫防除に使用することへの批判が強まっているが、全く薬剤を使用することなく、十分な防除を行うことは困難である。したがって、薬剤の乱用や不適切な使用実態を是正し、安全性に十分配慮した上での適正な薬剤利用を推進すべきである。
 建築物におけるねずみ、昆虫等の防除作業において殺そ殺虫剤を使用する場合には、通常、薬事法上の承認を受けた医薬品又は医薬部外品が用いられている。しかしながら、極めて例外的ではあるが、毒物劇物取締法に基づく毒物・劇物に該当する農薬を購入し、これを適当に希釈して殺そ、殺虫目的に使用している業者があることが指摘されている。このような使用法は、建築物利用者に対する安全が確保できないことから、不適当である。
 このようなことから、害虫防除のために薬剤を使用する場合には、調査により生息状況等を確認した上で、必要な場合にのみ、建築物内の必要とされる区域に対し、適切な薬剤を適量使用するよう、関係者に対する普及啓発が必要である。


空気調和設備、給排水設備等の性能検証について

 建築物における衛生的環境を確保する上で、空気調和設備、給排水設備等の設備システムの維持管理を適確に実施することが重要であるが、設備システムの性能の向上を図るための手法として、近年、コミッショニングという考え方が注目されている。

 コミッショニングは、そのシステムが設計趣旨に合致した性能を確実に発揮するように、また、室内環境や都市・地球環境、エネルギーおよび使い易さの観点から最適な状態に維持されるように、設計・施工ならびに機能試験が行われ、運転保守が可能な状態であることを確かなものとする一連のプロセスをいう。コミッショニングは企画段階から始まり、それから設計・施工・受け渡し・運用・訓練の各段階を含む建物の全使用期間(ライフ)にわたって適用され得るものである。

 コミッショニングの具体的な方法論については、現時点では研究段階であるが、建築物衛生法の体系において、建築物における衛生的環境を確保するという観点から、コミッショニングの考え方の取り入れを検討するべきである。

 特に、竣工時の設備性能検証により、設備の初期性能の把握が行われれば、日常の維持管理に当たって有用な情報が得られるとともに、経年使用による性能劣化の診断が容易となり、建築物の衛生的環境の向上に大きく寄与すると考えられる。

 ただし、検証を実施する項目が多くなれば、経済的負担も大きくなることから、建築物衛生法の体系上これを導入する場合には、建築物における衛生的環境の確保のために必要な最小限の項目に限定すべきである。


特定建築物の要件について

 「特定建築物」は、建築物衛生法第2条において、「興行場、百貨店、店舗、事務所、学校、共同住宅等の用に供される相当程度の規模を有する建築物で、多数の者が使用し、又は利用し、かつ、その維持管理について環境衛生上特に配慮が必要なものとして政令で定めるものをいう」と定義されており、施行令第1条において、建築物の用途、延べ面積等により特定建築物の範囲が定められている。
 建築物衛生法の対象となる特定建築物の範囲については、以下の点について見直しを検討する必要がある。

(1)特定建築物の10%除外規定について

 建築物衛生法では、興行場、百貨店、集会場、旅館など特定の用途に用いられる建築物を特定建築物と定義しているが、これら特定の用途以外に用いられる部分が特定の用途に用いられる部分の面積の10%を超える建築物(以下、「10%除外規定適用建築物」という。)については、特定建築物の対象範囲から除外している。これは、建築物衛生法の制定時には、建築物全体を同一の基準で維持管理することが前提とされていたため、特定の用途以外に用いられる部分が一定以上の建築物は、対象から除外することが合理的であると考えられていたことによるものである。
 しかしながら、

ことから、従来、特定建築物から除外されていた10%除外規定適用建築物も、特定建築物の対象とすべきであると考えられる。

(2)もっぱら事務所の用途に供される特定建築物について

 建築物衛生法第5条第4項の規定に基づき、都道府県知事は、もっぱら事務所の用途に供される特定建築物の使用、変更等の届出を受けたときは、その旨を都道府県労働局長に通知するものとされている。
 これは、建築物全体がもっぱら事務所の用に供されている建築物については、不特定多数の者が出入りするおそれがなく、当該事務所に勤務する労働者の健康の保持のみが問題となることから、労働安全衛生行政の面から指導監督が行われるのが適当であるとの考え方に基づいている。
 この考え方に立って、現行の建築物衛生法の法体系においても、もっぱら事務所の用途に供される特定建築物については、都道府県労働局長から要請があった場合のみ、保健所等による立入検査が行われることとされている。
 しかし、もっぱら事務所の用途に供される特定建築物についても、多くの建築物においては、一の管理者の下に複数の事業所が入居している場合が少なくないことから、建築物衛生の実効を挙げるためには、個々の事業主に対する監督に留まらず、建築物全体の維持管理権原者に対して保健所等による指導を行うことが適当ではないかと考えられる。
 したがって、都道府県労働局長から要請があった場合でなくても、建築物衛生行政の面から必要があると認めるときは、もっぱら事務所の用途に供される特定建築物に対して、保健所等が立入検査等を行えるように見直すべきではないか。

(3)延べ面積要件について

 特定建築物の延べ面積要件は、建築物衛生法制定時(昭和45年)には、8千平方メートル以上の建築物では空気調和設備を設けている場合が多く、また、維持管理が複雑であると考えられたことから、「8千平方メートル以上」であった。
 その後、大規模な建築物の数の増加、空気調和設備等の普及、建築物衛生に対する関心と認識の高まり等の諸般の事情の推移に応じて、昭和48年には「5千平方メートル以上」と改正され、さらに、昭和50年には「3千平方メートル以上」と改正され、現在に至っている。
 特定建築物に該当しない3千平方メートル未満の比較的小規模の建築物については、建築物衛生法の規制対象外であるため、保健所等による指導監督が行われておらず、維持管理の実態は充分に把握されていない。しかし、これまでに実施された調査結果によれば、建築物環境衛生管理技術者の免状の交付を受けた者を維持管理の責任者として選任し、建築物環境衛生管理基準を遵守した良好な維持管理が行われている建築物がある一方で、維持管理に必要な知識のある者が確保されていない、充分な換気量が確保されていないなどの問題のある建築物が存在することが明らかになっている。このため、3千平方メートル未満の比較的小規模の建築物に対しても、特定建築物の対象とするべきであるとの意見がある。
 延べ面積要件を引き下げ、規制の対象となる建築物を拡大することは、建築物の衛生的環境の確保の点で望ましいことは疑いないが、小規模の建築物にまで建築物環境衛生管理技術者の選任を義務付ける等現行の特定建築物と同じ義務を課すことについては、当該建築物の維持管理権原者の負担にも十分配慮する必要がある。
 したがって、まずは、比較的小規模の建築物における維持管理の実態を把握するための調査研究を実施して衛生上問題ある事態を個々具体的に明らかにし、また、他の法令における規制の状況等も考慮し、例えば、2千平方メートルの延べ床面積の建築物までを特定建築物の対象とすることを検討するべきではないか。


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