平成14年4月12日
○ 臓器提供先に係る生前意思の取扱いに関しては、臓器提供者が、生前、臓器の提供先を指定していた場合、提供先として指定された者に対する臓器提供が認められるか、認められるとすればどの範囲で認められるか等について、厚生科学審議会疾病対策部会臓器移植委員会において、これまで5回にわたり検討が行われており、また本年3月18日から4月1日にかけて、厚生労働省ホームページ上でご意見の募集を行い、計9通のご意見をいただいたところです。
[経過]
平成13年 | 9月10日 | 第3回臓器移植委員会 ・ 議論(1回目) |
10月11日 | 第4回臓器移植委員会 ・ 議論(2回目) |
|
12月12日 | 第5回臓器移植委員会 ・ 参考人(外部有識者)からの意見聴取、議論(3回目) |
|
平成14年 | 3月13日 | 第6回臓器移植委員会 ・ それまでの同委員会における議論を踏まえ、同委員会事務局(健康局臓器移植対策室)より、同委員会における議論のたたき台案として「提供先指定に係る生前意思の取扱い」を提出、議論(4回目) |
3月18日 〜 4月1日 | 厚生労働省ホームページ上で、「提供先指定に係る生前意思の取扱い」について、1回目のご意見募集を実施 | |
4月9日 | 第7回臓器移植委員会 ・ 事務局より、議論のたたき台案として、「臓器提供先に係る本人の生前意思の取扱い」について、A案・B案を提出、議論(5回目)。資料としてご意見募集に寄せられたご意見を提出。 |
○ 4月9日に行われた第7回臓器移植委員会においては、事務局より「本人の生前の意思表示による臓器提供先の指定は認めるべきではない」とするA案と、「本人の生前の意思表示による臓器提供先の指定を限定的に認めてよい」とするB案(3月13日第6回委員会提出案)を提出し、これを基に議論が行われました。
その結果、これまでの審議会における議論及びA案・B案の両方のたたき台案を示した上で、より広く国民からのご意見を募集して、同委員会における議論の参考とすることとされたところです。
○ つきましては、同委員会における検討の参考とするため、【臓器提供先に係る本人の生前意思の取扱いについて(A案)・(B案)】について、広くご意見を募集いたします。
○ ご意見の受付期間は、平成14年4月12日(金)から5月12日(日)までとし、ご意見の提出については、電子メール、FAX又は郵送にて受け付けることとします。ご意見の提出、記載方法等は、下記【ご意見の提出要領】のとおりです。
○ いただいたご意見を有効に活用させていただく観点から、ご意見の提出に当たっては、できうる限り、ご意見を提出する事項やその理由を具体的に記載してください。
○ お寄せいただいたご意見は、原則としてそのすべてについて、資料として次回の厚生科学審議会疾病対策部会臓器移植委員会において配布し、公開することとなります。
(1) ご意見の提出方法
下記のご意見提出様式にしたがってご意見をまとめ、電子メール、FAX又は郵送にて提出してください(電話によるご意見の提出はご遠慮ください)。
(2) ご意見の受付期間及び提出先
(3) ご意見の提出様式
臓器提供先に係る生前意思の取扱いに関する意見
|
(4) 問い合わせ先
厚生労働省 健康局 疾病対策課 臓器移植対策室 佐藤
(TEL:03-5253-1111 内線2366)
臓器提供先に係る本人の生前意思の取扱いについて(A案)
○ 基本的考え方
1 臓器の移植に関する法律の解釈とその運用に当たっての基本姿勢
臓器移植法においては、基本的理念の一つとして、「移植術を必要とする者に係る移植術を受ける機会は、公平に与えられるよう配慮されなければならない」とされており(第2条第4項)、原則として、臓器移植を受ける者は、あっせん機関に登録している者の中から、医学的理由により、公平に選択されるべきであることは当然である。
また、厚生労働大臣は、移植術を受ける者の選択を公平かつ適正に行わないおそれがあると認められる者には、業として行う臓器のあっせんの許可をしてはならないとされている(第12条第2項第2号)。
さらに、臓器移植法の成立の過程でも、公平な移植医療が行われることが前提として議論が進められ、形作られた経緯があるといえる。
このため、こうした臓器移植法を支える考え方に照らせば、親族等に提供者がいる場合には移植を待つレシピエントの列を飛び越えて移植を受けられるということは例え例外的にも認められるものではなく、提供先を指定する提供者本人の意思は尊重されるものではない。
2 提供先を指定した臓器提供を認めることにより予想される弊害
(1)移植待機患者を指定して提供をなし得る者に与える影響について
(1) 親族等の一定の範囲での提供先指定を認めた場合、移植待機患者の親族等に、当該待機患者のために自らの臓器を提供しなければならないのではないかとの精神的な重圧を与えるおそれがあるのではないか。
(2) 提供者が自殺した場合にも、提供者の指定による提供を認めうるとすると、自殺を誘発するおそれがあり不適当ではないか。
(2)臓器移植医療全体に与える影響について
(1) あっせん機関に登録して移植を待っている待機患者に対して不公平となるのではないか。
(2) 提供先を指定する場合、臓器提供意思表示カードに記載するなど、書面によりその意思を表示する必要があるが、そうした処理が定着することは公平な移植医療に反することになるのではないか。
(3)運用上の不都合について
(1) 医学的理由により指定された者への提供ができなかった場合に、当該提供者からの臓器提供ができなくなるのか、それともあっせん機関に登録されている待機患者に配分されることになるのかなど、取扱いが複雑になるのではないか。
(2) 提供先の指定が認められるための要件を定めて運用するとしても、その要件に該当しないために提供先の指定が認められない事例が多発し、現場での混乱が起きるのではないか。
(4)普及啓発の問題について
○ 新たなルール(案)
レシピエントの選択は、あっせん機関により、公平かつ適正に行われることが原則であり、何人も自らの臓器の提供先を指定して臓器提供を行うことはできない。
また、臓器の提供先を指定する意思が書面により表示されていた場合は、医師は、移植術を必要とする者に対する移植を行うために、当該提供先を指定する意思表示を行った者に対する法に基づく脳死判定及びその者からの臓器(心停止後の眼球又は腎臓を含む)の摘出を行わないものとする。
(参考)
臓器の提供先を指定する意思が書面により表示されていた場合には、そうした余事記載がなされていれば、その意思表示は全体として無効として取り扱うことが運用上適当と考えられる。
また、臓器の別により扱いを変える必要はなく、脳死・心臓死とも同様の扱いとする。
(案) | (論点) | ||
(1) 法律との関係について | |||
(1) 臓器移植法は提供先の指定を禁止しているか |
|
|
|
(2) 認めるとした場合の弊害について | |||
(1) 移植待機患者を指定して提供をなし得る者に与える影響について |
|
|
|
(2) 臓器移植医療全体に与える影響について |
|
|
|
(3) 運用上の不都合について |
|
|
|
(4) 普及啓発の問題について |
|
|
|
(3) 臓器提供先を指定する意思表示があった場合の本人の生前意思の取扱いについて | |||
|
|
|
提供先指定に係る生前意思の取扱いについて(B案)
○ 基本的考え方
1 臓器の移植に関する法律の解釈とその運用に当たっての基本姿勢
臓器移植法の基本的理念の一つとして「移植術を受ける機会の公平性」があり、原則として、臓器移植を受ける者は、あっせん機関に登録している者の中から、医学的理由により、公平かつ適正に選択されるべきであることは当然である。
しかし一方で、我が国の臓器移植法は、脳死判定及び臓器提供に当たって、本人の承諾があることを必要としており(心停止下における眼球及び腎臓の提供を除く)、諸外国における臓器移植に関する法律に比べて、本人意思を重視するものとなっている。
我が国において、国民の理解を得ながら臓器移植を推進していくためには、こうした我が国の臓器移植法を出発点とし、これを適切に運用していくことが重要である。
2 提供先を指定する生前意思の取扱い
まず前提として、臓器移植法においては、明示の規定により、「臓器提供者が、自らの臓器の提供を受ける者を指定することは、いかなる場合であっても認められない」とはされていないところであり、提供を受ける者の指定を認めることが直ちに法に抵触し許されないとまではいえない。
しかし、あっせん機関にレシピエント登録を行い移植を待ち続ける者の数に比べてドナーの数が圧倒的に少ない中で、指定された者が、医学的理由による優先度の順番を飛び越えて移植を受けられるとすると、公平性の観点から疑問であるとの指摘がある。
以上から、レシピエントの選択は公平に行われることが原則であるが、なお自己決定が認められる範囲を否定することはできないため、どこまで自己決定を認めるかという範囲を明らかにした上で、その範囲内に限って提供先を指定する本人の意思表示を認めることとする。
範囲を明らかにするに当たっては、
(1)提供先として指定される者については、
(1) 臓器売買や、臓器の提供に係る一切の利益供与のおそれが低い者でなければならない
(2) 移植を待つ他の者との関係からみても、真に移植を必要としていると認められる者でなければならない
(2)提供先を指定する意思については、
(1) 本人の自発的意思による提供であることが客観的に確認される必要がある。
(2) 有効な意思表示をなし得る者の解釈については、臓器移植法の運用上示されている指針を参考とすることが適当である。
ことに留意しなければならない。
なお、提供先の指定が認められるための要件については、ルールとして明確化した上で国民の間に周知徹底を図ることが必要である。その際、原則として、臓器移植を受ける者の選択は医学的理由に基づき公平に行われるべきものであることや、臓器提供はあくまで本人の自発的意思に基づいて行われるべきものであることについても併せて周知・啓発を図ることとし、移植適応の血族を持つ者に精神的な負担を与えることがないよう、配慮しなければならない。
○ 新たなルール(案)
レシピエントの選択は、あっせん機関を介して、公平かつ適正に行われることが原則であるが、臓器提供者本人が、生前、既にあっせん機関に登録されている血族を提供先として指定する意思を書面により表示しており、かつ遺族が拒まない場合には、例外的に、提供先として指定された者に対する臓器の提供を認めること。
(参考)
(1) 臓器提供者本人の指定による臓器の提供を受けられる者について
(1) 臓器提供者の血族であること
(2) 社団法人日本臓器移植ネットワークへのレシピエント登録を行っている者であること
(3) 医学的に移植適応であること
(2) 指定が認められる臓器提供者本人の生前意思について
(1) 提供先を指定する本人の意思が書面により表示されていること
書面性を満たすものとしては、
@)本人の自署による署名
A)署名年月日
B)提供先として指定する者の氏名と臓器の種別
が記載されている文書であること
脳死下での移植の場合には当然脳死判定に従う意思が示されていること。
(2) 15歳以上の者の意思表示を有効なものとして取り扱うこと
(3) その他
(案) | 意見 | ||
(1) 臓器提供者本人の指定による臓器の提供を受けられる者について | |||
(1) 親族に限定するか |
|
|
|
(1)’親族の範囲 |
|
|
|
(2) レシピエント登録の必要性 |
|
|
|
(3) 移植適応 |
|
− | − |
(2) 指定が認められる臓器提供者本人の生前意思について | |||
(1) 提供先指定は本人の自発的意思によるものである必要があるか |
|
|
|
(1)’書面による意思表示である必要があるか (家族の忖度について) |
|
|
|
(3) 有効に意思表示をなし得る主体について |
|
|
|
(3) その他 | |||
○ 臓器の別により扱いを変えるか ○ 脳死下・心停止下での提供により扱いを変えるか |
|
|
|
○ 指定による提供が可能な臓器の数 |
|
|
|
○ 取扱いの周知について |
|
|
|
臓器移植委員会におけるこれまでの「臓器提供先に係る生前意思」に関する主な意見(未定稿:事務局まとめ)
提供先の指定を(限定的に)認めてよい | 提供先の指定を認めるべきではない | |
公平性について |
|
|
本人・家族の意思について |
|
|
家族による忖度について |
|
|
遺体(臓器)の所有権 |
|
|
本人の生前意思の表示について |
|
|
レシピエントとして指定しうる者について |
|
|
指定しうる臓器の種別について |
|
|
その他 |
|
|
共通事項 |
|
未定稿:事務局まとめ 議事録は厚生労働省HPに掲載 |
○ 臓器提供先と本人の意思に関わる問題
(参考)
○ 本人と遺族の意思表示をどう取り扱うか
○ 日本においては、遺体は火葬が終わり遺骨が収集され、骨壺に入れられるまでは、ある程度人格を残しているという取扱いをされており、ある一定の段階までは、遺体に死者の意思が残っていると周りの人がみなして遺体を扱う。
脳死移植はしっかり人格を喪失しないうちに、人格の一部分が切り取られて他の人格に移動するという、伝統的な考えとはかなり異なるもの。
○ 生前に自分の親族に対して臓器を提供したいという意思表示を認めないということは、現段階では、臓器提供に関する日本人の動機づけをある一定期間(日本の家族制度、あるいはその家族制度に支えられた死者儀礼が守られ続ける限り)抑止することになりかねない。
なぜならば、日本でもアノニマス(匿名性をもった)ドネーションが次第に社会に広がりつつあるが、提供を受ける者(ドニー)を指定したドネーションというのが一方で非常に根強いため。
関係性を明確にした上でドネーションをしたいというのは、日本社会の中に残る人間関係、その上の社会的な関係というものが、極めて具体性を帯びているということであり、(お歳暮や年賀の交換のような)具体的な行為をもって人間関係が確認され、さらに新たな関係を再生産していくものであるということ。
○ ただし、提供を受ける者が、ネットワークに登録できるとなると、権利を二重に持つことになるという問題は残る。
I 臓器提供先に関する本人の生前意思の取扱いについての視点
II その上で、個別の論点を見ると、
結論としては、親族に提供したいという本人の希望は容認されていいと考える。
意思表示カードへの記載は必要か。記載なしで、遺族が判断してよいとするのか。 |
○ 基本的には提供先指定は、エンカレッジされるべきではなく、本人の書面による表示が必要。さらに本人の指定を家族が拒むという問題も出てくるが、その際は2条1項の本人意思の優先をなるべく進める。
○ 家族について、ネットワークに委ねるか、あるいは移植全体を拒否するかどちらかの意思表示しか認めずに、誰に移植せよということは言えないとまでいうためには、適正手続の観点から、明示的な法の定めが必要と考えるが、現在はその定めがない。
○ 臓器移植法については、2度にわたる修正を経て「臓器移植否定法」とコメントされるような法律にせざるを得なかった。これには、この法律を社会的な常識・慣行を無視しては作り得なかったという背景があり、運用する上ではそうした法律ができるプロセスを考えざるを得ない。本人の書面による意思表示がついていれば、法律上の「公平かつ適正に配分」を変えることなく、運用のレベルで認めてよい。
臓器移植について国民一般は、臓器がクーラーに入れられてヘリで運ばれてという映像をテレビで見たことにより初めて現実としてわかったのだが、それにより死体腎の提供がむしろ減ったという現象がある。提供数の多かった県で提供が減ったのは、以前は、自分がお世話になった病院の先生、あるいは一緒に病んだ人たちに提供するというところにドナーとドニーの関係が成立していたが、臓器の提供先を指定されないとするとそういうことが否定されたという理解があったのではないか。
所有権あるいは財産的な取戻権についての議論は、臓器提供の問題には当てはまるものではないのではないか。 また、提供先の指定を認めることは、公平性を害さないか。現在のシステムによる公平を飛び越える公平というのは存在するのか。提供先指定を認めないことにより提供数が減るということがあるとしても公平という理念にはこだわるべき。 |
○ 家族の意思について、イエスかノーかしか認めないというのであれば、そういうルールの確立あるいは法律の制定が必要ではないか。法律がブランクになっている部分については、なお家族の権利が何らかの形で残されていると見ざるを得ない。家族の遺体への思いというものを、臓器移植の公平性ということのみで断ち切るには抵抗が強いのでは。親族の内側についてはできる限り忖度をし、親族の外側については秩序を乱してはいけないと考える。
○ 現行法の由来を踏まえ、現行法は本人の意思を重視し、最終的な拒否権を遺族に与えるという本人・遺族の意思を重視するという性格は、所与として受け入れなければならない。死体標本の判例は、アナロジーを引き出すべき事例の一つとして挙げたものであり、ここから演繹的に導かれる直接的な根拠として挙げているわけではない。
今までの議論を見ても、レシピエント選択の公平・公正さという観念の中に、親族間は別で、その場合には優先されても仕方ないという認識が含められていると把握することも可能。
第15例目の脳死下での臓器提供及び移植に当たってのネットワーク
からの照会に対する厚生労働省としての対応について
平成13年7月31日
厚生労働省臓器移植対策室
1.臓器提供者の親族への臓器提供意思について
臓器提供者の生前意思を尊重し、提供者の親族2名への臓器(腎臓)提供が可能かとの照会があり、これに対し、臓器提供者の生前の意思について客観的証言が得られる場合は、可能である旨回答。 |
・ 臓器移植の基本的理念はあくまで公平性であり、原則的には臓器の提供先を指定する本人の意思表示は認められるべきではない。
・ しかし、臓器提供者が、近親者といった極めて限られた者を臓器提供先として希望し、実際その者に臓器提供を行うことができるような場合には、臓器提供者の意思は臓器の移植に関する法律(平成9年法律第104号。以下「法」という。)第2条第1項にいう「自己の臓器の移植術に使用されるための提供に関する意思」の一つのあり方として、尊重されるべきである。
・ 今回の事例については、(1)本人の生前意思(親族に腎臓を提供したい)が移植を受ける者以外の複数の親族から確認されたこと、(2)臓器提供先として指定された親族が移植を受ける医学的適応があったこと等の理由から、移植を実施することが法に抵触し許されないとまでは言えないと判断(臓器提供者の「脳死判定に従う意思」及び「臓器を移植術に使用されるために提供する意思」はドナーカードで確認)。
・ なお、臓器提供者が生前特定の者に対する臓器提供の意思を表示している場合にどのようなルール化が可能か、今後、厚生科学審議会疾病対策部会臓器移植委員会において検討いただくことが必要と認識。
2.あっせんに当たって
臓器提供者が臓器提供先として希望した親族が、ネットワークのレシピエント候補者として登録されていないが、コンピューターに登録する必要があるかとの照会があり、これに対し、
|
(基本的理念)
第2条 死亡した者が生存中に有していた自己の臓器の移植術に使用されるための提供に関する意思は、尊重されなければならない。
2 移植術に使用されるための臓器の提供は、任意にされたものでなければならない。
3 臓器の移植は、移植術に使用されるための臓器が人道的精神に基づいて提供されるものであることにかんがみ、移植術を必要とする者に対して適切に行われなければならない。
4 移植術を必要とする者に係る移植術を受ける機会は、公平に与えられるよう配慮されなければならない。
(臓器の摘出)
第6条 医師は、死亡した者が生存中に臓器を移植術に使用されるために提供する意思を書面により表示している場合であって、その旨の告知を受けた遺族が当該臓器の摘出を拒まないとき又は遺族がないときは、この法律に基づき、移植術に使用されるための臓器を、死体(脳死した者の身体を含む。以下同じ。)から摘出することができる。
2 前項に規定する「脳死した者の身体」とは、その身体から移植術に使用されるための臓器が摘出されることとなる者であって脳幹を含む全脳の機能が不可逆的に停止するに至ったと判定されたものの身体をいう。
3 臓器の摘出に係る前項の判定は、当該者が第一項に規定する意思の表示に併せて前項による判定に従う意思を書面により表示している場合であって、その旨の告知を受けたその者の家族が当該判定を拒まないとき又は家族がないときに限り、行うことができる。
(以下略)
(業として行う臓器のあっせんの許可)
第12条 業として移植術に使用されるための臓器(死体から摘出されるもの又は摘出されたものに限る。)を提供すること又はその提供を受けることのあっせん(以下「業として行う臓器のあっせん」という。)をしようとする者は、厚生労働省令で定めるところにより、臓器の別ごとに、厚生労働大臣の許可を受けなければならない。
2 厚生労働大臣は、前項の許可の申請をした者が次の各号のいずれかに該当する場合には、同項の許可をしてはならない。
脳死を人の死とするか | 臓器提供の承諾に関する基準 | 死後の臓器提供先に係る本人の生前意思の取扱い | |
アメリカ | 脳死を人の死とする。 死の定義については、脳死を人の死とする「人の死の判定に関する統一法案(大統領委員会(1981))」がモデル法案として示されており、現在、これにならって、50州全てにおいて脳死に関する法が存在している。 |
Opt-in 本人の承諾がある場合は摘出可。 本人の承諾がない場合でも、本人の拒否の意思表示がなく、遺族の承諾がある場合は、摘出可。 |
尊重される場合もある。 ・ 臓器の分配について、全国的には、UNOS(United Network for OrganSharing:全米臓器分配ネットワーク)のルールがあるが、生前意思の取扱いについての明文の規定は確認されていない。 ・ しかし、分配に当たっては、各OPO(Organ Procurement Organization:現在全米で51設置されている臓器調達の組織)の自由度が高く、OPOによっては提供先の指定に係る意思を尊重しているものもある。 |
カナダ | 脳死を人の死とする。 各州ごとに臓器移植等に関する法律(州法)が制定されており、それらによれば、脳死は個体の死と定義されている。 |
各州の州法による。 <オンタリオ州> 本人の承諾があれば摘出可。 本人の承諾がない場合でも、本人の拒否の意思表示がなく、遺族の承諾がある場合には摘出可。 |
各州の州法によるが、尊重される場合もある。 <オンタリオ州> ・ 生前意思の取扱いに係る明文の規定は確認されていないが、原則としては尊重されていない模様。 ・ しかし例外として、ごくまれに、ドナーの親族が人工透析を受けているため(腎臓移植の適応)、一腎をその親族に提供するというように提供先を指示するケースがある(なお、このような事例は、オンタリオ州においてこの10年間で5例もなかったとのこと)。 |
イギリス | 脳死を人の死とする。 脳死を人の死として定義した法令はないが、慣習法上脳死を人の死とする王立医学会の見解を認めている。 |
Opt-in 本人の承諾がある場合には摘出可。 本人の承諾がない場合でも、本人の拒否の意思表示がなく、遺族の承諾がある場合には摘出可。 |
尊重されない。 ・ 臓器提供者が生きている間に特定の者に臓器(片方の腎臓、肝臓や骨髄の一部)を提供することは、法律に根拠があり可能。 ・ しかし、死後の臓器提供先を指定する意思表示については尊重されず、もっぱら医学的必要性及び適合性を判断しレシピエントが決定される。 |
スウェーデン | 脳死を人の死とする。 死の定義については、「人の死の決定のための基準に関する法律」により、脳の全機能が完全かつ元には戻らない状態で停止することとされている。 |
Opt-out 本人の承諾がある場合には摘出可。 本人の承諾がない場合でも、本人の拒否 の意思表示がない場合には摘出可。 |
尊重されない。 ・ 死後の臓器提供先を指定する意思表示については、根拠は不明だが、運用上認められていない模様。 ・ また、臓器を提供する意思若しくは提供しない意思について、保健福祉庁に登録することができるが、様式にない事項(例:自分の家族に優先的に移植したい旨の意思表示)を記入した場合は、保健福祉庁で受理しない仕組みとなっている。 |
オーストリア | 脳死を人の死とする。 脳死を人の死として定義した法令はないが、医師の脳死基準があり、脳死を持って人の死と認めている。 |
Opt-out 生前に本人又は法的代理人の拒否の意思表示がなければ摘出可。 |
尊重されない。 ・ 臓器提供者が生きている間に特定の者に臓器(片方の腎臓、肝臓や骨髄の一部)を提供することは、法律に根拠があり可能。 ・ しかし、死後の臓器提供先を指定することについては、法律上の根拠がなく、現時点ではそのような意思表示は尊重されない。 |
イタリア | 脳死を人の死とする。 法令により、脳死を人の死として定義している。 |
Opt-out 本人の承諾がある場合は摘出可。 本人の承諾がない場合でも、本人及び遺族の拒否の意思表示がなければ摘出可。 |
尊重されない。 ・ 死後の臓器提供先を指定する意思表示については尊重されない。 ・ 臓器移植並びに血液、骨髄及びさい帯細胞の提供に関する法令とも、このような連帯を示す行為は、社会の利益のみのために促進・組織されており、また公的部門が運営しているものであるため、いかなる「個人的な」提供も禁じている。 |
大韓民国 | 脳死を人の死としない。 脳死を人の死とは定義していないが、「臓器等の移植に関する法律」により脳死者からの移植は可能である。 |
Opt-in 本人の承諾があり、遺族が拒否しない場合には摘出可。 本人の承諾がない場合でも、本人の拒否の意思表示がなく、遺族の承諾がある場合には摘出可。 |
尊重されない。 ・ 臓器提供者が生きている間に特定の者に臓器(片方の腎臓、肝臓や骨髄の一部)を提供することは、法律に根拠があり可能。 ・ しかし、死後の臓器提供先を指定する意思表示については、法律上の根拠が無く、現時点では例え生前に特定の者に提供する意思を表示していたとしても、その意思表示は尊重されない。 |
フィリピン | 脳死を人の死とする。 法令により、脳死を人の死として定義している。 |
Opt-in 本人の承諾がある場合には摘出可。 本人の承諾がない場合でも、本人の拒否の意思表示がなく、遺族の承諾がある場合には摘出可。 |
尊重されない。 ・ 死後の臓器提供先を指定する意思表示については、根拠は不明だが、運用上認められていない模様。 |
オーストラリア | 脳死を人の死とする。 各州ごとに臓器移植に関する法律(州法)が制定されており、それらによれば、脳死は個体の死と定義されている。 |
各州の州法による。 <ニューサウスウェールズ州> 本人の承諾がある場合には摘出可。 本人の承諾がない場合でも、本人及び遺族の拒否の意思表示がなければ摘出可。 <ヴィクトリア、クイーンズランド州> 本人の承諾がある場合には摘出可。 本人の承諾がない場合でも、本人の拒否の意思表示がなく、遺族の承諾がある場合には摘出可。 |
各州の州法によるが、主な州においては尊重されていない。 <ニューサウスウェールズ州、ヴィクトリア州、クイーンズランド州> ・ 死後の臓器提供先を指定することについては、明文の規定は存在しないが、運用上そのような意思表示は尊重されない。 ・ なお、ニューサウスウェールズ州では、臓器の配分については、オーストラリア赤十字がコーディネイトしており、待機者リストの中から必要性と組織適合性を確認し、平等原則に基づいて行われているため特定の者に提供することを予め定めた臓器移植については否定的とのこと。 ・ また、クイーンズランド州においては、ドナーの親族が臓器提供の待機中というケースは、これまで報告されていないとのこと。 |
○ レシピエント選択において「公平性」の原則は極めて重要である。一方、親族への提供については、法が希有な事例として明確なルールを整備していない。
本事例において臓器提供者の親族2名に腎臓が提供されたことについては、ルールが整備されていない状況で、かつ緊急性を要する限られた時間の中で、提供者本人や親族を始めとする関係者の意思を優先した例外的な対応として、結果的にやむを得なかったものと評価する。
○ しかしながら、本事例に際しての厚生労働省の判断については、
○ 今後、このような事例の対応について、一定のルール化を早急に図るべきである。
(参考)
(親族への提供を認めることについて)
○ これからの医療は自己決定権を重視しなければならないという流れがあるが、レシピエント登録者が登録料を支払って移植を待っている中で、提供先を指定したドナーが現れたら指定された者がその列の前に入り込み得るというのは、公平性という観点からいえば納得されない可能性がある。
○ 法的には、
|
○ 民法(民法第4編第5編)(明治31年法律第9号)(抄)
第974条 次に掲げる者は、遺言の証人又は立会人となることができない。
(費用負担について)
○ 第3者間の移植で、ネットワークという公共的資源を使い、3万円の登録料を支払っているその他のレシピエント登録者をおいて、本人の指定があれば費用負担を求めずにあっせんするという扱いは一般性を欠き、待っているレシピエントが納得しない。公共性を持つ事柄の場合、関係者が納得することが必要であり、受益者負担を求めるべき。
○ 第15例目に限れば、イレギュラーな対応なので、無理に現行制度の仕組みに合わせる必要はなかったのではないかと考えられるが、第3者間の移植と同じシステムを使ってやる以上、費用は徴収するべきである。