私が認知症になったとき

私の経験  68歳男性

20年間経営してきたデザイン事務所を65歳で後輩に譲り、実質隠居の身になったのは2年前のことだった。あっさり現場から退く気になったのは、その少し前からなかなか仕事に集中できない、クライアントとの会合予定を忘れていて遅刻する、などのミスが多くなり、「歳だな」と実感していたからだ。

引退してしばらくは事務所に顔を出したりしていたのだが、後継者の面子を立てなくてはと気づいてそれもやめ、家でのんびりテレビを見たり妻の買い物につきあったりしていた。その頃、携帯電話を話題のスマートフォンに替えたが、使い方がどうしても理解できなかった。機械は得意なのに、そんな自分に違和感を持った。外出したとき、どこに行くつもりだったか忘れて帰ってくることも増えてきた。これはおかしいとぼんやりと感じていたが、妻も同様に思っていたらしい。

妻とも相談してテレビで見た「もの忘れ外来」を受診したのが昨年の秋。検査の結果、アルツハイマー病の初期とのことだった。

それ以来、いつか記憶がなくなり、自分がわからなくなることへの恐怖におびえる毎日だが、とにかく少しでも進行を遅らせるといわれていることは何でもしようと思う。進行を遅らせる薬を飲み、ボランティアで近所の子供に絵の指導をしたり、毎日散歩をし、がんばっているのだが、少し疲れてきた気もする。どうしても将来のことを考えると暗い気持ちになり、妻にこれからかける迷惑を考えるとぞっとする。ある程度症状が進んだら施設へ入れてくれと口では言うものの、実際にどの施設がいいかなど話をつめていく勇気も気力もない。

アルツハイマー病を治す薬ができるかもしれないという話もあって、今はそれに期待をつないでいる。

早期診断・早期治療がいちばん

最近は認知症の知識が広がり、「もの忘れ外来」といった認知症の専門外来を設ける病院も増えてきて、比較的早期に認知症の診断がつく方も増えています。一日でも早く治療を開始すれば、それだけ軽度の段階で進行を遅らせることができます。

予防にいい生活習慣もほどほどに

認知症の進行を遅らせたり予防にいいといわれる生活習慣でも、そのために疲れやストレスを感じるようではかえって逆効果です。社会的交流も趣味を生かした活動を選び、運動も毎日が困難なら週に2、3回にするなど、無理のない範囲で継続をこころがけましょう。