こころの病気を知る

認知症

認知症とは、正常に働いていた脳の機能が低下し、記憶や思考への影響がみられる病気です。
認知症の中でいちばん多いアルツハイマー型認知症は、男性より女性に多くみられ、脳の機能の一部が萎縮していきます。血管性認知症は比較的男性に多くみられ、全体的な記憶障害ではなく、一部の記憶は保たれている「まだら認知症」が特徴です。症状は段階的に、アルツハイマー型よりも早く進むことがあります。
初期は、加齢による単なる物忘れに見えることが多いでしょう。しかし、憂うつ、外出をいやがる、気力がなくなった、被害妄想がある、話が通じなくなった、外出すると迷子になる、お金の勘定ができなくなったなどのサインが出てきたときには、専門機関に相談してみましょう。


「認知症」とは

認知症は、正常であった記憶や思考などの能力が脳の病気や障害の為に低下していく障害です。認知症にはいくつかの種類があります。いちばん多いのがアルツハイマー型認知症で、脳神経が変性して脳の一部が萎縮していく過程でおきる認知症です。

次いで多いのが脳梗塞や脳出血などの脳血管障害による血管性認知症です。かつて日本では、血管性認知症が多かったのですが、このタイプは減ってきています。また、アルツハイマー型に血管性認知症が合併している患者さんも多くみられます。

85歳以上は4人に1人が認知症に

年をとるほど、認知症になりやすくなります。
65歳以上70歳未満の有病率は1.5%、85歳では27%に達します。日本における65歳以上の認知症患者はすでに240万を超えているという推計もあります。さらに団塊世代が65歳以上になる2015年には250万人、2020年には300万人を超すと推定されています。高齢社会の日本では認知症が今後ますます重要な問題になることは明らかです。

若年性認知症もある

若くても、脳血管障害や若年性アルツハイマー病の為に認知症を発症することがあります。65歳未満で発症した認知症を若年性認知症といいます。若年性認知症の患者数は、「若年性認知症の実態と対応の基盤整備に関する研究」(主任研究者 筑波大学大学院人間総合科学研究科 朝田隆教授)によると、3.78万人と推計されています。

正常でもない、認知症でもない、軽度認知障害で早期発見・早期治療を

認知症ほどではないけれど、正常な「もの忘れ」よりも記憶などの能力が低下している「軽度認知障害」が最近注目されています。軽度認知障害のすべてが認知症になるわけではありませんが、この段階から治療を開始することで、認知症の進行を遅らせるなどの効果が期待されています。
認知症ではなさそうだと思っても、もの忘れの程度がほかの同年齢の人に比べてやや強いと感じたら、念のために専門医を受診することが早期発見・早期治療につながることになります。


認知症のサイン・症状

正常な「もの忘れ」とそうでない「もの忘れ」の違い

もの忘れには、正常なものと認知症をうたがえるものがあります。正常なもの忘れと認知症によるもの忘れの違いの区別ができればよいのですが、現実にはなかなか難しいものです。
これが全てではありませんが、認知症に気づくためには、次のような目安が役立ちます。

  • もの忘れの為に日常生活に支障をきたしているか
    日常生活で重要ではないこと(タレントの名前や昔読んだ本の題名など)を思い出せないのは正常の範囲内ですが、仕事の約束や毎日通っている道で迷うなどの場合は認知症のサインかもしれません。
  • 本人が忘れっぽくなったことを自覚しているか
    自分でもの忘れの自覚がある場合は正常の範囲内ですが、もの忘れをしていることに気づかず、話の中でつじつまを合わせようとするようになるのは認知症のサインかもしれません。
  • もの忘れの範囲は全体か
    経験の一部を忘れるのは正常の範囲内ですが、経験全体を忘れるのは認知症のサインかもしれません。

記憶・学習能力などにみられるサイン

  正常なもの忘れ 認知症によるもの忘れ
もの忘れの範囲 出来事などの一部を忘れる
(例:何を食べたか思い出せない)
出来事などのすべてを忘れる
(例:食べたことそのものを忘れる)
自覚 もの忘れに気づき、思い出そうとする もの忘れに気づかない
学習能力 新しいことを覚えることができる 新しいことを覚えられない
日常生活 あまり支障がない 支障をきたす
幻想・妄想 ない 起こることがある
人格 変化はない 変化する(暴言や暴力をふるうようになる、怒りやすい、何事にも無関心になるなど)

朝田隆著:「家族が認知症と診断されたら読む本」日東書院p.33より改変

軽度認知障害のサイン・症状

認知症のサインまではいかなくても、少しだけ正常のもの忘れが強いと感じたら、軽度認知障害の可能性も考えられます。
軽度認知障害の特徴としては、下記の4つが挙げられます。

  • ほかの同年代の人に比べて、もの忘れの程度が強い
  • もの忘れが多いという自覚がある
  • 日常生活にはそれほど大きな支障はきたしていない
  • もの忘れがなくても、認知機能の障害が1つある

この場合の認知機能とは、失語・失認・失行・実行機能のことです。

  • 失語:言葉の障害(言葉が理解できない、言おうとした言葉を言うことができない、など)
  • 失認:対象を正しく認識できない:知り合いの顔、色、大小などを認識できない、など
  • 失行:くわえたタバコにライターの火をつけられない、服を着ることができない、茶葉とお湯と急須を使ってお茶を入れることができない、など
  • 実行機能の障害:計画をたててその計画通りに実行していくなどができない

同世代と比べてもの忘れの程度が強く、こうした認知機能にも障害があると感じられたら、軽度認知障害のサインかもしれません。


認知症の治療法

根治療法はまだ

認知症を完全に治す治療法はまだありません。そこでできるだけ症状を軽くして、進行の速度を遅らせることが現在の治療目的となります。

治療法には薬物療法と非薬物療法があります。このうち薬物療法は、アルツハイマー病の中核症状の進行をある程度抑える効果が期待される薬が若干あるだけで、脳血管性認知症に効果がある薬剤は今のところ存在しません。そのため、非薬物療法によって症状を抑えることが主な治療法となります。

症状を軽くする

認知症の症状は障害の中核となる記憶などの認知機能障害と、かつて辺縁症状(周辺症状)と呼ばれた行動異常・精神症状に大別できます。行動異常や精神症状には、不安・焦り・睡眠障害・徘徊・家族への依存・暴力および、せん妄などがあてはまります。

中核症状への治療

アルツハイマー病では、塩酸ドネペジルなどの抗コリンエステラーゼ阻害薬に中核症状の一時的な改善効果が認められています。この効果は一時的で、進行を完全に抑えるものではありません。進行を遅らせるだけですので、できるだけ早くから治療を開始して、少しでも軽症の段階にとどめるようにすることが大切です。

周辺症状へはまず非薬物療法を中心に

周辺症状は中核症状よりも介護者の強い苦痛になることが多く、効果的な薬をつかって症状をおさえたくなるのですが、かつて周辺症状に使われていた薬の中には、認知症の症状をかえって悪化させるものがあるので、薬物療法には慎重を要します。
まずは薬に頼らず、患者さんを刺激しない(例:つじつまの合わない話を患者さんがしても否定したり、叱ったりしないで耳を傾ける態度をとる)、規則正しい生活をおくるようにこころがける、環境を急激に変えないようにする、などを基本とします。
また、認知能力を高めるためのリアリティ・オリエンテーション(常に問いかけを行い、場所・時間・状況・人物などの見当識を高める)、簡単な楽器演奏や運動などで刺激を与える、過去を回想するなどの療法を行う場合もあります。
症状が進んでくると周辺症状も徘徊や便こねなど激しくなってきます。この段階になっても薬を使わないことにこだわって、介護者が疲れ果ててしまうようなことがあってはなりません。こうした激しい周辺症状に対しては薬物治療を試すこともあります。
薬物治療は専門家の指導のもとに、患者さん本人の反応を注意深く観察しながら進めてください。

将来への期待

アルツハイマー病は脳内にアミロイドβという物質が蓄積して、それが神経細胞の変性に関係すると考えられています。そこで、アミロイドβを蓄積させない治療法を開発しようと、世界中の研究者がしのぎを削っています。
アミロイドβの蓄積を阻害する安全な薬が開発されれば、アルツハイマー病はそれ以上の神経変性を起こさなくなると考えられています。そうなれば、認知症の進行が完全にストップする可能性もあります。ただし、一度変性し、消滅した神経細胞は再生しないので、進行した認知症では失われた機能を回復することは難しいという問題が残ります。その意味でも早期発見・早期治療は今後ますます重要になってくると考えられます。

早期発見・早期治療で認知症を回避

アミロイドβの蓄積を阻害する薬が現実になりつつある今、認知症の早期発見・早期治療が今まで以上に重要になってきています。軽度認知障害の多くはアルツハイマー病になる前の段階であると考えられていることから、この段階で治療を開始すれば、認知症になることを防ぐことも将来的に可能になると考えられます。
現在の軽度認知障害の治療は、認知症の予防に効果がある生活環境をとりいれ、高血圧や糖尿病、高脂血症などを治療し、必要に応じて抗コリンエステラーゼ薬を服用するという内容で行います。



 

このページの先頭へ