こころの病気を知る

性同一性障害

女性なのに、自分は「本当は男なんだ、男として生きるのがふさわしい」と考えたり、男性なのに「本当は女として生きるべきだ」と確信する現象を「性同一性障害(gender identity disorder, GID)」と呼びます。このような性別の不一致感から悩んだり、落ち込んだり、気持ちが不安定になることもあります。
性同一性障害については、まだ理解が進んでいるとはいえず、診断や治療ができる病院も多くはありません。そこで、性同一性障害とはどのような病気であるのか、その症状や治療法、法的側面等について解説します。


性同一性障害とは

性別を考える2つの側面

性別といえば、男性か女性の2種類に分かれると多くの人たちは単純に考えます。しかし、性別には生物学的な性別(sex)と、自分の性別をどのように意識するのかという2つの側面があります。性別の自己意識あるいは自己認知をジェンダー・アイデンティティ(gender identity)といいます。
多くの場合は生物学的性別と自らの性別に対する認知であるジェンダー・アイデンティティは一致しているため、性別にこのような2つの側面があることには気づきません。しかし、一部の人ではこの両者が一致しない場合があるのです。そのような場合を「性同一性障害」といいます。
つまり、性同一性障害とは、「生物学的性別(sex)と性別に対する自己意識あるいは自己認知(gender identity)が一致しない状態である」と、定義することができます。

ジェンダーとは何か

ここまで「ジェンダー(gender)」という言葉を使ってきましたが、この言葉はいろいろな使われ方をしています。大きく分けて以下の3つがあります。

  1. 生物学的性別を意味する使い方
    形態や機能の上から区別できる雌雄(female, male)のこと(性的二型)を生物学ではジェンダーと呼びます。
  2. 社会的・文化的に形成された性差を意味する使い方
    「人為的・社会的に作られた性差」、「男性が優位であるかのように作られた性差」という立場でジェンダーを把え、社会的・文化的性差の意味で用います。
  3. 性別に対する自己意識、自己認知を意味する使い方
    「自分は男(女)である」、「男(女)として生活することがふさわしい」と感じる性別に関する自己意識(認知)の意味で用います。心理・社会的性別と呼ばれることもあります。

このように「ジェンダー」という言葉は、使われる状況や背景によって意味が大きく異なってきます。性同一性障害について述べている場合には、3番目の「性別に対する自己意識、自己認知」を意味していると考えてください。


性同一性障害でみられる症状

主な3つの症状

性同一性障害を有する人にみられる症状は、「自らの生物学的性別とジェンダー・アイデンティティが一致しない状態」から生じるものです。しかも、生物学的性別をジェンダーに近づけたいという願望からくる症状として、理解することができます。

  1. 自らの性別を嫌悪あるいは忌避する
    自分の性器が間違っている、成人になれば反対の性器を持つようになるであろうなどと主張したり、自分の性器はなかったらよかったのにと考えることもあります。
    また、2次性徴期には、男性では声変わりがしたり、喉仏が目立ったり、肩幅が広く、筋肉が張ってくる、陰茎が大きくなるなど、女性では体つきが丸みを帯び、月経が発来したり、乳房が膨らむなどの変化が起こります。こうした男らしい、あるいは女らしい体つきになることに対する嫌悪感や忌避の気持ちが強くなります。
    そのために、すね毛をそったり、乳房を晒しで巻き、ふくらみを隠そうとしたりします。これらの症状は、自らのジェンダーにふさわしくない身体症状を嫌悪し、忌避することからくるものです。
  2. 反対の性別に対する強く、持続的な同一感を抱く
    自分の存在そのものを、自らのジェンダーと同一化したいと願い、反対の性別になりたいと強く望みます。そのために、反対の性別の服装(異性装)をしたり、反対の性別としての遊びを好みます。
    男の子の場合、女の子の遊びを好んだり、女の子の服装をしたいと望みます。また、女の子の場合には、男の子のような活発な遊びを好みます。これは、自らのジェンダーにあった生活や遊びをすることが自分の気持ちにしっくりするためです。
  3. 反対の性別としての性別役割を果たそうとする
    日常生活の中でも反対の性別として行動したり、義務を果たしたり、家庭や職場、社会的人間関係でも、反対の性別として役割を果たそうとします。また、言葉遣いや身のこなしなど、様々な点で、反対の性別として役割を演じることを希望し、実際そのように実行します。

性同一性障害と同性愛、服装倒錯症の違い

性同一性障害は、同性愛と混同して考えられることが少なくありませんが、両者はまったく別のことです。すでに述べたように、性同一性障害は、自らの性別に関するジェンダー・アイデンティティの問題です。一方、同性愛は性対象として同性の相手を選ぶことを意味しています。したがって、性同一性障害を有する人の中には、異性愛の人もいれば同性愛、あるいは両性愛の人もいます。
また、性同一性障害では反対の性別の服装をしたり、装飾品を身につける「異性装(服装倒錯症)」がみられます。しかし、異性装をするからといって、性同一性障害とは言えません。
自分の性別とは反対の服装をする人たちは昔から知られており、一般に異性装と呼ばれていました。20世紀の初め頃、異性装をする人達を学術的に服装倒錯症(transvestism)と呼ぶようになりましたが、その後、異性装によって性的快楽を得る人の他に、自らの生物学的性別とは異なるジェンダーを有する人が、反対の性別の服装を身にまとおうとすることが明らかになりました。
このように、異性装をする人たちの中には、性的快感を得るための場合と、反対の性別に帰属することを求める場合があります。性同一性障害では、性的快感を求めるためではなく、自らのジェンダーに合った服装をすることを願うために異性装をします。

性同一性障害の診断について

性同一性障害の診断は次の1から4のステップで行います。

  1. 生物学的性(SEX)の決定
    染色体検査、ホルモン検査、内性器、外性器の検査を行って、生物学的性別は、正常な男女のいずれかの性別であることを証明します。
  2. ジェンダー・アイデンティティの決定
    生育歴、生活史、服装、これまでの言動、人間関係、職業などに基づいて性別役割の状況を調べ、ジェンダーの決定をします。
  3. その上で、生物学的性別とジェンダー・アイデンティティが不一致であることを明らかにします。
  4. その際、次のような除外診断に該当しないことを確認します。
    • 性分化疾患などの異常はない
    • 精神的障害はない
    • 社会的理由による性別変更の希望ではない

なお、染色体の異常などによる性分化の障害(かつての半陰陽など)においてはジェンダーの決定が重要です。それは、性分化疾患では多くの場合、gender dysphoria syndrome(性別違和症候群)といわれるようにジェンダーの問題を有していることが少なくないからです。したがって、性分化疾患は中核的な性同一性障害とは異なりますが、広くジェンダーの障害として対応を必要とします。
これら、性同一性障害の診断は十分な経験を持つ精神科医2名の診断によって確定しますが、もし両者の診断が不一致の場合には3人目の精神科医の診断を求めることになっています。


性同一性障害の治療

おもな治療法

性同一性障害の治療は、一般に、精神療法、内分泌療法(ホルモン療法)、外科的治療の3段階を順に進めます。
外科手術に進んだ場合でも精神療法や内分泌療法を継続します。

  1. 精神療法
    これまでの生活の中で、性同一性障害のために受けてきた精神的、社会的、身体的苦痛について十分な時間をかけて聞き、いずれの性別で生活するのが本人にとってふさわしいかの決定・選択を援助します。また、選択した性別で生活することを支援することも精神療法の段階で必要なことです。
    精神神経学会ガイドライン第3版では、「精神的サポート」「カミングアウトの検討」「実生活経験」「精神的安定の確認」を精神療法として行うべきことをうたっています。
  2. 内分泌療法(ホルモン療法)
    十分な精神療法を行っても自分の性別とジェンダーの不一致に悩み、身体的特徴を少しでもジェンダーに合わせようと希望するとき、ホルモン療法を行います。その際、以下のような点について確認します。
    • 選択した性別に対する持続的で、安定した適合感があり、第2段階に移行するための条件を満たしていること。
    • 十分な身体診察、必要な検査を行い、ホルモン療法に支障がないこと。
    • ホルモン療法の手技、効果と限界、起こりうる副作用について十分な説明を行い、文書で同意を得ること。
    • 家族、パートナーにもホルモン療法の効果と限界、起こりうる副作用について十分な説明を行い、納得を得る努力をすること。
    • 年齢は満18歳以上であること。(注)
    • ホルモン療法中の乳房切除術も容認する。

    注)2012年(平成24)1月に日本精神神経学会「性同一性障害に関する委員会」は第4版ガイドラインを発表し、その中で、「第2次性徴」を抑えるホルモン療法について言及し、容認した。すなわち、男性、あるいは女性としての体の特徴が顕著になる前に、生物学的性別と反対の性ホルモンを投与し、少しでもジェンダーと身体的特徴の隔たりを少なくしようとするねらいで、投与を開始する年齢も15歳に引き下げることを提言している。

  3. 外科的療法
    外性器等に外科的に手を加え、主として反対の性別に近づける治療法を「性別適合手術」(sex reassignment surgery, SRS)と呼びます。
    男性が女性への(Male to Female, MTF)性別適合手術を求めるときには精巣摘出術、陰茎切除術、造膣術ならびに外陰部形成術をします。一方、女性が男性への(Female to Male, FTM)手術を求めるとき、第一段階として卵巣摘出術、子宮摘出術、尿道延長術、ならびに膣閉鎖術を行い、ついで、第二段階として、陰茎形成術を行います。
    外科的療法を行うにあたっては、次のような条件を満たす必要があります。
    • 十分な第1段階(精神療法)ならびに第2段階(ホルモン療法)の治療が行われていること。
    • 十分な第1段階(精神療法)ならびに第2段階(ホルモン療法)の治療にもかかわらず、依然として生物学的性別と性別の自己意識との不一致に悩み、手術療法を強く望んでいること。
    • 精神療法ならびにホルモン療法を通して、選択した反対の性別に対し、持続的で安定した適合感があること。
    • 選択した性別で生活することにともなう身体的な困難、現在の社会的立 場や家庭内で起こる可能性のある問題などに対処できる条件が整っていること。
    • 手術を望むものの性格、薬物依存の有無などの観点から、手術とその結果に対する事態に十分対処できる人格を有していること。
    • 手術を望むものが、手術によって生ずる身体的変化、随伴症状、社会生  活上の変化、家庭や友人との関係、性的問題などを十分理解し、判断していること。
    • 家族や親しい人が手術療法に理解を示していること、とくに両親や配偶者、 時には子供の同意が得られていることが望ましい。
    • あらゆる可能性を考慮して医療チームが手術療法に移ることが適切であると判断したこと。
    • 年齢は満20歳以上であること。

性同一性障害を有する人のQOL

性同一性障害を有する人を取り巻く医療的環境や社会的・心理的状況は、現時点では必ずしも整っているわけではありません。たとえば次のような問題があります。

  1. 医療環境の問題
    性同一性障害をはじめとする性別違和を持つ人たちに対する医療的対応は、現時点では必ずしも十分とはいえません。
    その一つは専門とする医療施設が少ないこと、専門医が少ないことが挙げられます。とくに性同一性障害の診断と治療は複数の診療科の連携を必要とするために、一層対応できる施設に限りがあるのが現状です。また、内分泌療法、外科的治療に対する保険適応がまだなく、今後の課題となっています。
    このような医療環境の整備には「Gid(性同一性障害) 学会」「日本精神神経学会」「性同一性障害に関する委員会」などが積極的に活動し、努力しています。
  2. 法的整備
    反対の性別で生活しようとするとき、障害になるのが、名前の問題や戸籍上の性別表記の問題です。
    • 名前の変更(改名)
      性同一性障害による改名を行うためには家庭裁判所の審判を経て、許可される必要があります(戸籍法第107条の2)。後に述べる「特例法」が施行されてからは、性同一性障害による改名は比較的認められやすくなりました。(浅野杏子:戸籍の名および性別の変更に関する法的手続き.山内俊雄、松原三郎編集「精神科医のためのケースレポート・医療文書の書き方」p321―330、2011 中山書店)
    • 性別の変更
      性同一性障害を有する人が、外科的治療を行い、外見的には反対の性別に限りなく近づいたとしても、自らの所属する「戸籍上の性別」が変更されないと、手術を受けた人のQOLは高まらないことになります。そこで、国は「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」(※)を制定しました(平成15年7月10日)。

※)「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」
家庭裁判所は、性同一性障害者であって次の各号のいずれにも該当する者について、その者の請求により、性別の取扱いの変更の審判をすることができる。

  • 20歳以上であること
  • 現に婚姻をしていないこと
  • 現に子がいないこと
  • 生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること
  • その身体について他の性別に係る身体の性器に係る部分に近似する外観を備えていること

この法律は、2004年(平成16)7月から施行されました。その後、2008(平成20)年に、これらの条項のうち、「現に子がいないこと」を「現に未成年の子がいないこと」と変更され、平成20年12月18日に施行されました。
性別に関する特例法が施行された平成16年7月から平成23年度までに、申し立て受け付けは総計2936件でしたが、そのうち、裁判所で認められた性別変更(更正)は2847件でした(「日本性同一性障害と共に生きる人々の会」調査)。
以上のように、わが国では性同一性障害の外科療法が先行する中で、医療や社会制度の環境整備が遅れておりましたが、日本精神神経学会、GID学会、「日本性同一性障害と共に生きる人々の会」などの努力により、少しずつ環境が整ってきています。


 

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