家族や友人が双極性障害になったとき

ボランティア仲間の女性が双極性障害になった経験 (S子さん45歳主婦)

S子さんが地域のボランティア活動に参加してきたのは春のことだった。明るく話し上手なだけでなく、人の嫌がる家への持ち帰り作業も率先して引き受けてくれるなど活動にも積極的で、はじめは派手な化粧と奇抜な服装に引いていたメンバーも、だんだんS子さんに好意を感じるようになった。

グループのメーリングリストをみると彼女の書き込みは深夜だったり明け方だったりする。聞くと、家事を終わらせ、家人が寝静まった後にお稽古ごとの練習やボランティア活動の準備をしていると言う。お稽古ごとは、昔から続けているお茶に加え、この春から習字とピアノと水泳と英会話をはじめたと言う。ちょうどボランティアグループに参加した頃のことだ。そのために睡眠時間がほとんどないけれどちっとも眠くなく、かえって元気で充実しているわ、と自信に満ちた笑顔でいっていた。

そのうち、活動のことで相談があるといって、ときどきS子さんから夜中に電話がかかってくるようになった。私だけでなくほかのメンバーにも電話があるらしく、時間が非常識なだけでなく、一度電話に出るといつまでも切らなくて困る、という声が聞かれるようになった。電話だけでなく直接会ったときも、S子さんは饒舌で、人の話を遮ってまで自分の話したいことをしゃべり続けるようになってきた。

やがて、S子さんが特定の人に高価なプレゼントをしているという話が耳に入るようになった。もともとS子さんは気前のいい人で、グループの会合などで飲食代を一人で払おうとする人だったが、どうやらその気前のよさにつけこんで、活動関係の人が高価な買い物をねだっているらしい。

そこでグループの幹部仲間数人でそれとなく注意したところ、S子さんは突然怒りだし、私たちの活動姿勢だけでなく服装のセンスや容姿のことまでを批判し、最後には言っている意味がわからないほどの興奮状態になった。収拾がつかないのでご主人に来てもらってその日はようやくおさまった。

S子さんの浪費や趣味・ボランティアへののめり込み方がおかしいと感じていたご主人は翌日、S子さんが信頼しているお茶の先生に相談し、ご両親と4 人で嫌がるS子さんを無理やり病院に連れて行った。そこで双極性障害と診断され、治療をはじめたとご主人から連絡があった。

数ヶ月して会合に現れたS子さんは、化粧や服装も落ち着いて、私たちへの暴言をあやまり、お稽古ごとは整理したがボランティア活動は無理のない範囲で続けたいといってきた。興奮したS子さんの表情と私たちにむけた言葉はなかなか記憶から消しにくいけれど、私たちもS子さんの病気を理解して、わだかまりをなくしていきたいと思う。

「いつもと違う」「やり過ぎ」のサインをみのがさないで

もともと明るく社交的で自信にあふれている人もいるので、病的な躁状態なのか本来の性格なのかの判断が難しいことがあります。周りが「いつもと違う」「人格が変わったみたい」「いくらなんでもやり過ぎでは」と感じることは、病的であることを示す重要なサインになります。

家族で規則正しい生活をこころがける

一日の生活リズムの乱れは双極性障害を悪化させます。朝起きる時間、食事の時間、就寝する時間をほぼ決めて、同じリズムで生活を続けるようにします。また、眠る前にはコーヒーなどの刺激物は摂らないようにして、入浴などでリラックスした気分になるようこころがけます。

躁状態の時・暴言を根に持たない

躁状態の人は、怒りやすく暴言をはくこともしばしばです。病気とわかっていても、近くにいる人は傷つきます。傷ついた気持ちを抱え込まないで、なるべく、病気がいわせているのだから、と受け流し、それでもこころにわだかまりが残るようなら、たまには家族会など同じ痛みをもつ人や親しい友人などを相手に愚痴をこぼしてガス抜きをするよう心がけてください。それが、患者さんを支え治療を長続きさせる秘訣です。
その傷ついた気持ちを、症状がおさまった本人に向けて責めたりすると、病状が悪化し、結局それが自分にはね返ってくることにもなってしまうので、避けるようにしたいものです。

うつ状態の時・自殺をほのめかす言葉を無視しない

自殺を話題にすると、かえってその気にしてしまうのではと心配になって話をそらせてしまいたくなります。でも本人は話を聞いてもらえないと、「やはり誰もわかってくれないのだ」と孤独感がつのり、一人で自殺願望を抱え込んでしまうことになります。
本人が自殺をほのめかしたら、批判したり励ますのではなく、まずは聞き役につとめてその思いをきちんと受け止めている態度を示します。自殺したいという思いを口にするだけでも、本人のこころの緊張が多少は解消されるのです。
「あなたに死なれたら家族や友人はとてもつらいから死なないで」という思いを本人に伝えることも大切です。口約束でいいので、死なない約束をするというのも自殺の危険を減らす役に立ちます。もし本人が、約束できないくらいに思いつめているようなら、すぐに治療をうけている医師に相談してください。

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